(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069501
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】チタン合金造形物
(51)【国際特許分類】
B22F 10/64 20210101AFI20230511BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230511BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20230511BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230511BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20230511BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230511BHJP
C22C 14/00 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
B22F10/64
B32B9/00 A
B32B15/04 Z
B22F10/28
C22F1/18 H
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 691Z
C22F1/00 628
C22F1/00 630C
C22F1/00 630D
C22F1/00 630G
C22F1/00 691A
C22C14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181392
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(71)【出願人】
【識別番号】520322509
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・ザムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】三阪 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】塚原 真宏
(72)【発明者】
【氏名】森田 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】武末 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】酒井 仁史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 官男
【テーマコード(参考)】
4F100
4K018
【Fターム(参考)】
4F100AA21B
4F100AA21C
4F100AA21D
4F100AB12A
4F100AB31A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10B
4F100EJ08B
4F100JA11C
4F100JA11D
4K018AA06
4K018BA03
4K018FA08
4K018KA70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】疲労強度が有効に向上したチタン合金造形物を提供する。
【解決手段】チタン合金の積層構造を有する基材10と、基材10の表面20に設けられた硬化層30とを有し、硬化層30は、基材10の表面20に設けられたチタン酸化物で構成された第1硬化層30aと、第1硬化層30aの内層に設けられたα相で構成された第2硬化層30bと、第2硬化層30bの内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層30cと、を有するチタン合金造形物を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン合金の積層構造を有する基材と、
前記基材の表面に設けられた硬化層とを有し、
前記硬化層は、前記基材の表面に設けられたチタン酸化物で構成された第1硬化層と、前記第1硬化層の内層に設けられたα相で構成された第2硬化層と、前記第2硬化層の内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層と、を有するチタン合金造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、α+β型チタン合金を、1kHz~400kHzの周波数による高周波誘導加熱により、1秒~600秒未満の時間および800℃~1200℃の温度で短時間加熱した後、急冷してα’相を生成させることで、α+β型チタン合金の降伏強度、引張強度および疲労強度を向上させる高周波熱処理方法が記載されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、疲労強度が有効に向上したチタン合金造形物は記載されていない。
そこで、本発明は、疲労強度が有効に向上したチタン合金造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るチタン合金造形物は、チタン合金の積層構造を有する基材と、前記基材の表面に設けられた硬化層とを有し、前記硬化層は、前記基材の表面に設けられたチタン酸化物で構成された第1硬化層と、前記第1硬化層の内層に設けられたα相で構成された第2硬化層と、前記第2硬化層の内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、疲労強度が有効に向上したチタン合金造形物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係るチタン合金造形物を説明するための概念図であり、(a)は、全体形状の一例を示す概念図であり、(b)は、(a)をA-A線で切った時の断面概念図であり、(c)は、(b)のS領域を拡大させた時の断面概念図である。
【
図2】実施例で使用した試験片の概念図であり、(a)は、EBSD分析、X線回析及び断面硬さ分布測定用、(b)は疲労試験用である。
【
図3】実施例及び比較例における表面20近傍のEBSD分析結果である。
【
図4】実施例及び比較例における基材10内のEBSD分析結果である。
【
図5】実施例及び比較例における表面20のX線回析による相同定結果である。
【
図6】実施例及び比較例における表面20から内層方向における断面硬さ分布結果である。
【
図7】実施例及び比較例における表面20の疲労試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るチタン合金造形物を説明するための概念図であり、(a)は、全体形状の一例を示す概念図であり、(b)は、(a)をA-A線で切った時の断面概念図であり、(c)は、(b)のS領域を拡大させた時の断面概念図である。
【0009】
本実施形態に係るチタン合金造形物1は、
図1に示すように、例えば、丸棒形状で構成され、チタン合金の積層構造を有する基材10と、基材10の表面20に設けられた硬化層30とを有する。硬化層30は、前記基材10の表面20に設けられたチタン酸化物で構成された第1硬化層30aと、第1硬化層30aの内層に設けられたα相で構成された第2硬化層30bと、第2硬化層30bの内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層30cと、を有する。
【0010】
本実施形態に係るチタン合金造形物1は、上記のような硬化層30を備えているため、疲労強度が有効に向上する。
【0011】
チタン合金の積層構造を有する基材10は、三次元積層造形技術により積層造形されたものである。ここで、積層造形とは、造形したい対象製品の三次元データをコンピュータに入力して、当該三次元データをコンピュータ上で水平にスライスして2次元データを作成し、これらのデータに基づいて金属粉体、樹脂等の材料を積層して造形することをいう。
【0012】
この積層造形は、様々な方法があるが、本実施形態に係るチタン合金の積層構造を有する基材10を製造するのに行われる方法については、特に限定されない。
例えば、積層造形は、セレクティブレーザメルティング法(SLM法)を用いてもよい。このセレクティブレーザメルティング法では、造形したい対象製品のデータに基づいて、レーザ溶融装置に敷き詰めた対象製品の原料となる金属粉末にレーザを照射することにより、この照射した範囲の金属粉末を溶解する。そして、その後、金属粉末を敷き詰めた台座を下げながら当該金属粉末の溶融と凝固とを繰り返すことで任意の形状を製造することが可能となる。
セレクティブレーザメルティング法等により積層造形することで、当該対象製品が複雑な形状であっても精密な寸法形状で造形することが可能となる。そのため、チタン合金は、セレクティブレーザメルティング法等により積層造形されることによって、切削法等の他の加工法では不可能な複雑な形状に造形することが可能となり、例えば、各ユーザの骨格形状に適合した人工骨等の生体材料製品に好適に用いることが可能となる。
基材10の厚さは、チタン合金造形物を使用する用途によって、適時設定することができる。
【0013】
第1硬化層30aは、
図1に示すように、前記基材10の表面20に設けられたチタン酸化物で構成されている。
第1硬化層30aの厚さは、例えば、1μm程度である。
【0014】
第2硬化層30bは、
図1に示すように、前記基材10の表面20の第1硬化層30aの内層に設けられたα相で構成されている。
第2硬化層30bの厚さは、例えば、10μmから30μm程度である。
【0015】
第3硬化層30cは、
図1に示すように、第1硬化層30aの内層であって、さらに、前記第2硬化層30bの内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成されている。
第3硬化層30cの厚さは、例えば、120μmから140μm程度である。
【0016】
上述したように、本実施形態に係るチタン合金造形物1は、上述した第1硬化層30a、第2硬化層30b及び第3硬化層30cが当該基材10の表面20から内層方向にこの順で積層されている。
この第1硬化層30a、第2硬化層30b及び第3硬化層30cの存在により高い圧縮残留応力が発生すると共に、第3硬化層30c中に含まれる準安定β相の応力誘起変態による亀裂の進展抑制起因により、疲労強度が有効に向上されると考えられる。
また、第1硬化層30aがチタン酸化物で構成されているため、基材10の表面20における耐摩耗性が改善すると考えられる。
【0017】
次に、本実施形態に係るチタン合金造形物の製造方法の一例を説明する。
本実施形態に係るチタン合金造形物を製造するためには、チタン合金の積層構造を有する基材を高周波誘導加熱する。この高周波誘導加熱は、高周波を発生させる高周波発生装置と、誘導磁界を発生させる加熱コイルとを用意する。ただし、本実施形態としては、上記発生装置や加熱コイルの構造が限定されるものではなく、公知の装置を使用することができる。
上記発生装置で発生させる高周波の周波数としては、1kHz以上である。この周波数の高周波電流を加熱コイルに印加して誘導磁界を発生させることにより、当該基材が急速昇温される。
前記周波数は、好ましくは1kHz~400kHzの範囲内である。
【0018】
上記高周波誘導加熱では、最高到達温度が998℃(β変態点)以上であることが好ましい。このような温度とすることで、チタン合金の積層構造を有する基材10の表面からの酸素、窒素の拡散が短時間で達成可能である。また、高周波誘導による加熱では、耐摩耗性と疲労強度を改善するために有効な硬化層を形成させるためには少なくとも1秒の加熱時間があればよい。
上記加熱後は、従来法と同様に、被処理材を水冷等により急冷する。
【0019】
高周波誘導による加熱は、大気雰囲気中で行うものとする。このように、大気雰囲気中で加熱を行うことで、チタン合金の積層構造を有する基材の表面及びその表層に、酸素及び窒素を供給することができる。従って、チタン合金の積層構造を有する基材の表面に、チタン酸化物で構成された第1硬化層と、第1硬化層の内層に設けられたα相で構成された第2硬化層と、前記第2硬化層の内層に設けられたα’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層を形成することができる。
また、大気雰囲気で加熱を行うため、新たな雰囲気供給装置等を設置する必要が無く、既存の高周波誘導加熱装置で行うことができる。従って、製造コストの増加を抑制することができる。
【実施例0020】
図2は、実施例で使用した試験片の概念図であり、(a)は、EBSD分析、X線回析及び断面硬さ分布測定用、(b)は疲労試験用である。
チタン合金の積層構造を有する基材として、セレクティブレーザメルティング法による三次元積層造形技術により円柱形状に積層造形させた
図2(a)、(b)に示すような形状を有するTi-6Al-4V合金(以下、
図2(a)、(b)の両方を含めて「被処理材」という。)を作製した。また、高周波発生装置には200kHzの高周波電圧を出力するものを用意した。
【0021】
次に、被処理材の周囲を加熱コイルで囲み、この加熱コイルに上記高周波発生装置で発生させた高周波電圧を印加して誘導磁界を発生させ、大気雰囲気中で、セレクティブレーザメルティング法による三次元積層造形直後の被処理材を60秒間、高周波誘導加熱した。この加熱の際に、高周波発生装置の出力を制御して、被処理材の加熱温度が1050℃になるように、また、当該加熱温度までの昇温速度が100℃/秒になるように試験を行い、上記加熱時間後、被処理材を降温速度が100℃/秒になるように急冷した(実施例)。得られた処理材について、EBSD分析、X線回析、断面硬さ分布測定及び疲労試験を行った。
なお、比較例として、上述した高周波誘導加熱を行っていない当該積層造形直後の被処理材について、同様に、EBSD分析、X線回析、断面硬さ分布測定及び疲労試験を行った。
【0022】
図3は、実施例及び比較例における表面20近傍のEBSD分析結果である。
図4は、実施例及び比較例における基材10内のEBSD分析結果である。
図5は、実施例及び比較例における表面20のX線回析による相同定結果である。
図6は、実施例及び比較例における表面20から内層方向における断面硬さ分布結果である。
図7は、実施例及び比較例における表面20の疲労試験結果を示すグラフである。
【0023】
図3に示すように、実施例における表面20近傍には、深さ10μmから30μm程度の範囲内に、比較例と比べて、α相で構成された第2硬化層30b(相マップ中のαphase(α相))が形成されていることが確認できる。また、
図3に示すように、実施例及び比較例ともに、第2硬化層30bの内層には、α’マルテンサイト相(相マップ中の線状のαphase(α相))と準安定β相(相マップ中の線状のαphase(α相)以外の部分)で構成された第3硬化層30cが形成されていることが確認できる。
一方、
図4に示すように、実施例における基材10内では、比較例と比べて、特に、相違点がないことが確認できる。
【0024】
また、
図5に示すように、実施例における表面20には、比較例と比べて、TiO
2及びTiOのピークが発現していることが確認できる。以上から、実施例における表面20には、チタン酸化物で構成された第1硬化層30aが形成されていることが確認できる。
【0025】
また、
図6に示すように、実施例における表面20から内層方向には、比較例と比べて、表面20近傍の硬さが1330HT115程度から基材10の硬度(450HT115程度)まで、低下する硬さ傾斜層(上述した硬化層30)を有していることが確認できる。
【0026】
なお、ここで、
図3を見ると、第3硬化層30cには、実施例及び比較例共に、同程度の線状のα相(α型チタン合金)が存在している。その一方で、
図6を見ると、第3硬化層30c(例えば、表面からの距離(μm)が50μmから100μm)は、基材10や比較例よりも硬さが高くなっている。
この硬さが高くなる理由としては、上述した高周波誘導加熱時に、大気雰囲気に含まれる酸素や窒素が被処理材の表面20から内層方向に向かって第3硬化層30cまで拡散すると共に急冷の効果により、α’マルテンサイト相と準安定β相で構成された第3硬化層30cが形成されたためと推察される。
なお、第3硬化層30cの外層である第2硬化層30bは、上記拡散される酸素や窒素の量が多いため、α相が形成されると推測される。
【0027】
更に、
図7に示すように、疲労強度(破断までの繰返し数が10
7である応力振幅(MPa))が、80MPa(比較例)から440MPa(実施例)まで約5倍以上向上していることが確認できる。
従って、疲労強度が有効に向上したチタン合金造形物が得られることが確認された。