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特開2023-69533胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069533
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181444
(22)【出願日】2021-11-05
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】須田 一徳
(72)【発明者】
【氏名】平沢 元希
(72)【発明者】
【氏名】松田 一乗
(72)【発明者】
【氏名】河合 光久
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ89
4B063QR56
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】胃分泌ホルモン分泌促進剤を評価又は選択する方法を提供する。
【解決手段】下記の(1)-(3)の工程を行うことを特徴とする胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法。
(1)被験物質をHs746T細胞又はMKN1細胞に接触させる工程
(2)当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる被験物質を、胃分泌ホルモン分泌促進物質として評価する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)-(3)の工程を行うことを特徴とする胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法。
(1)被験物質をHs746T細胞又はMKN1細胞に接触させる工程
(2)当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる被験物質を、胃分泌ホルモン分泌促進物質として評価する工程
【請求項2】
胃分泌ホルモンがセロトニン、グレリン、ガストリン又はソマトスタチンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験物質が微生物である、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グレリン、セロトニンなど消化管内分泌細胞から放出されるホルモンは、迷走神経にある受容体を介してそれを刺激する(非特許文献1)。したがって、斯かるホルモンの分泌を促進する物質は、迷走神経刺激を促進する物質として有用であると考えられる。
例えば、本出願人は、Lactobacillus casei YIT 9029株(ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029株、以下、「LcS」とも称する)を高密度で摂取すると、睡眠の質の向上、ストレス緩和効果が発揮されること、当該作用はLcSが胃の迷走神経を刺激することによって発揮されることを報告しているが(非特許文献2、3)、当該薬理作用には、消化管から分泌されるホルモンが関与すると考えられている。
【0003】
従来、消化管内分泌ホルモンの分泌に対する影響を調べるためには、人や動物を用いたin vivo試験、動物の胃から採取した器官や細胞を用いるin vitro、ex vivo試験、既に株化されている内分泌細胞(STC-1細胞(小腸細胞)、RIN-14B細胞(膵臓細胞)等)を用いるin vitro試験が行われる。しかしながら、胃については、株化された内分泌細胞が知られておらず、動物を用いた評価系しか存在していなかった(例えば、特許文献1、2)。このため、in vitroで評価するためには、既存の胃由来細胞株から内分泌細胞様性質を有する細胞を探索する、あるいは、多能性幹細胞から胃内分泌細胞様に分化誘導することが必要となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-516637号公報
【特許文献2】特表2020-513825号公報
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】Berthoud HR. (2008) Vagal and hormonal gut-brain communication: from satiation to satisfaction. Neurogastroenterol Motil. 20 Suppl 1:64-72.
【特許文献2】Takada, M. et al. (2016) Probiotic Lactobacillus casei strain Shirota relieves stress-associated symptoms by modulating the gut-brain interaction in human and animal models. Neurogastroenterol Motil. 28:1027-1036.
【特許文献3】Takada, M. et al. (2017) Beneficial effects of Lactobacillus casei strain Shirota on academic stress-induced sleep disturbance in healthy adults: a double-blind, randomised, placebo-controlled trial. Benef Microbes. 26; 8: 153-162.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、胃分泌ホルモン分泌促進剤を評価又は選択する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、胃由来細胞株について検討したところ、胃がん由来の株化細胞であるHs746T細胞及びMKN1細胞が胃内分泌細胞様の性質を有し、当該細胞に胃分泌ホルモン分泌促進物質を作用させると細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することを見出した。したがって、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を指標として、胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価や選択が可能となる。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)-3)に係るものである。
1)下記の(1)-(3)の工程を行うことを特徴とする胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法。
(1)被験物質をHs746T細胞又はMKN1細胞に接触させる工程
(2)当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる被験物質を、胃分泌ホルモン分泌促進物質として評価する工程
2)胃分泌ホルモンがセロトニン、グレリン、ガストリン又はソマトスタチンである、1)の方法。
3)被験物質が微生物である、1)又は2)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グレリン、セロトニン等の胃内分泌細胞に含有される胃分泌ホルモンの分泌促進剤をin vitroで簡易に探索又は評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】胃がん由来細胞6株のホルモン放出誘導処理による細胞内カルシウムイオン濃度の変動。グラフ中矢印の時点において被験物質を処理した。
図2】Hs746T細胞のchromogranin A(CgA)免疫細胞染色。青はDAPI(核)、赤はCgAを表す。scale bar=100μm。
図3】Hs746T細胞におけるカルシウムイオン濃度上昇細胞とCgA陽性細胞の多重染色。(A)LcS処理28秒(s)後の、495nm波長で励起した時の蛍光波長510nmにおける蛍光(F495)画像、(B)同視野のCgA免疫染色画像、(C)安息香酸デナトニウム(denatonium benzoate:DB)処理28s後のF495画像、(D)同視野のCgA免疫染色画像。青はDAPI(核)、赤はCgAを表す。scale bar=50μm。
図4】Hs746T細胞、MKN1細胞における胃内分泌ホルモンの発現。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「胃分泌ホルモン」とは、胃内分泌細胞に含有され、胃内腔を通る食物やその消化物の刺激を受容して、胃粘膜下に放出されるホルモンを指す。具体的には、セロトニン、グレリン、ガストリン、ソマトスタチン、ヒスタミン、パンクレアスタチン等が挙げられ、このうちセロトニン、グレリン、ガストリン、ソマトスタチンが好ましい。
【0012】
後記実施例に示すとおり、胃がん細胞であるHs746T細胞及びMKN1細胞は、内分泌細胞マーカーを発現し、グレリン、セロトニンのような胃分泌ホルモン分泌能を有する(実施例2、3)。そして、当該細胞に胃分泌ホルモン分泌誘導物質であるDB又は迷走神経刺激作用を有するLcS(FERM BP-1366)を作用させると細胞内カルシウムイオン濃度が上昇する(実施例1)。なお、LcSは、2020年のLactobacillus属細菌の再分類(Zheng J et al. Int J Syst Evol Microbiol. 2020 Apr; 70(4): 2782-2858)以前には、Lactobacillus casei YIT 9029(FERM BP-1366)として知られていた菌株であり、昭和56年1月12日、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター)に寄託されているが、現在は、Lacticaseibacillus paracaseiに分類されており、Lacticaseibacillus paracasei YIT 9029である。
これらの結果は、Hs746T細胞又はMKN1細胞を用いて、その細胞内カルシウムイオン濃度を測定することにより、胃分泌ホルモンの分泌を促進する被験物質を評価又は選択できることを示唆している。
【0013】
胃分泌ホルモン分泌促進剤の評価又は選択方法は、下記の(1)-(3)の工程を行うことを特徴とする。
(1)被験物質をHs746T細胞またはMKN1細胞に接触させる工程
(2)当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる被験物質を、胃分泌ホルモン分泌促進剤として評価する工程
【0014】
本発明において、Hs746T細胞はヒト胃がん由来の株化細胞であり、ATCCから購入できる。
Hs746T細胞は、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10% FBS、10U/L ペニシリン、0.1g/L ストレプトマイシン、1mM ピルビン酸ナトリウムを含む培地を用いて、37℃、5% CO条件下で培養することにより、セミコンフルエント状態で継代を行うことができる。DMEMは哺乳類細胞の培養に汎用性のある培地であり、試薬メーカーから購入可能である。
Hs746T細胞は、内分泌細胞マーカーであるCgAを発現する。そして、胃分泌ホルモンであるセロトニン及びグレリンを発現する。
【0015】
本発明において、MKN1細胞はヒト胃腺扁平上皮がん由来の株化細胞であり、ヒューマンサイエンス資源財団から購入できる。
MKN1細胞は、RPMI1640、10% FBS、10U/L ペニシリン、0.1g/L ストレプトマイシン、1mM ピルビン酸ナトリウムを含む培地を用いて、37℃、5% CO条件下で培養することにより、セミコンフルエント状態で継代を行うことができる。RPMI1640は哺乳類細胞の培養に汎用性のある培地であり、試薬メーカーから購入可能である。
MKN1細胞は、内分泌細胞マーカーであるCgA、neural cell adhesion molecule 1(NCAM1)、enolase 2(ENO2)を発現する。そして、胃分泌ホルモンであるセロトニン、グレリン、ガストリン及びソマトスタチンを発現する。
【0016】
上記細胞に接触される被験物質としては、胃分泌ホルモン分泌促進剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;ならびにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
【0017】
上記細胞に被験物質を接触させる手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、当該被験物質の細胞培養培地や緩衝液への添加、または細胞への直接的な添加(例えば、滴下、塗布、散布、噴霧、パッチ等)が挙げられる。被験物質の濃度及び接触量は、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、適当な濃度に希釈した被験物質の所定量を、室温~37℃の条件下で、該細胞に曝露することが挙げられる。なお、接触工程に使用する細胞は、後述するとおり、細胞内カルシウムイオン濃度を測定するために、被験物質と接触する前にカルシウム感受性色素を導入しておくとよい。
【0018】
細胞内カルシウムイオン濃度の測定は、細胞内カルシウム量測定法によって行えばよい。例えば、カルシウム感受性色素等を用いた蛍光強度測定が挙げられる。この方法は、被験物質と、カルシウム感受性色素(例えば、Fura-2、Fluo-3、Fluo-4等)を導入したHs746T細胞又はMKN1細胞とを一定期間接触させたときの蛍光強度の変化により、細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定できる。例えば、室温~37℃で接触させた直後~160秒間の蛍光強度の変化により、細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定できる。
カルシウム感受性色素のHs746T細胞又はMKN1細胞への導入は、カルシウム感受性色素を含んだ緩衝液に接触させ、一定期間、例えば室温~37℃、30~60分間、静置することで行うことができる。緩衝液としては、例えばHanks’ HEPES バッファー、HBSSバッファー、Krebs Ringer HEPESバッファーなどが挙げられる。
また、上述の被験物質と細胞を接触させる工程は、細胞をカルシウム感受性色素を含まない緩衝液で洗浄、置換して行う。洗浄や置換に使用する緩衝液はカルシウム感受性色素を含まない以外は特に限定されないが、Probenecidのようなカルシウム感受性色素が細胞外に出ることを防止する阻害剤を添加してもよい。細胞内カルシウムイオン濃度の測定に関する緩衝液はキットとしても販売されており、例えば同仁化学社製のCalcium Kit-Fura-2のキットを用いてもよい。
【0019】
蛍光強度の測定は、infinite M200 PRO(TECAN)等の蛍光プレートリーダを用いて、例えば、温度:室温~37℃、測定時間:被験物質注入前の25秒間及び同物質注入後の160秒間、励起波長及び検出波長:指示薬の既定波長、にて行うことができる。例えば、カルシウム感受性色素としてFura-2を用いた場合、340nmと380nmの波長で励起した時の蛍光波長510nmにおける蛍光強度の比(F340/F380)の変動が細胞内カルシウムイオン濃度の変動を表すとされている。
【0020】
次いで、上記のとおり測定された細胞内カルシウムイオン濃度の変化に基づいて、被験物質の胃分泌ホルモン分泌促進効果が評価されるが、斯かる評価は、例えば、被験物質添加前後で、又は被験物質添加群と被験物質非添加群若しくは対照物質添加群とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われ得る。
そして、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる被験物質は、胃分泌ホルモン分泌促進剤として同定される。
【0021】
斯くして得られた胃分泌ホルモン分泌促進剤は、胃分泌ホルモンの分泌を促進するための胃分泌ホルモン分泌促進剤として、食品又は医薬品として、或いはこれらに配合することにより使用できる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
実施例1 細胞内カルシウムイオン濃度の上昇
消化管内分泌ホルモン分泌誘導物質として、グレリンやセロトニン分泌を誘導するとされるDB[1)Rozengurt E. (2006) Taste receptors in the gastrointestinal tract. I. Bitter taste receptors and alpha-gustducin in the mammalian gut. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 291: G171-7.、2)Janssen S. et al. (2011) Bitter taste receptors and α-gustducin regulate the secretion of ghrelin with functional effects on food intake and gastric emptying. Proc Natl Acad Sci U S A. 108(5):2094-9、3)日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)124,210~218(2004)]と、迷走神経刺激作用を有し(前記非特許文献2、3)、胃の消化管内分泌細胞からのホルモン分泌を誘導すると解されるLcSを用意した。以下の(1)で示す胃がん由来細胞6株をこれらの消化管内分泌ホルモン分泌誘導物質で処理した場合の表1細胞内カルシウムイオン濃度を(2)で示される蛍光指示薬を用いて測定した。
【0024】
(1)細胞培養
胃由来細胞株として、6種類の胃がん細胞株を用意した。各胃がん細胞株の購入元、培養培地を表1に示す。細胞は、100mmシャーレで各種培地を用いて37℃、5% CO条件下で培養し、セミコンフルエント状態で継代を行って維持した。培地の各種試薬(RPMI1640、DMEM、MEM、FBS、ピルビン酸ナトリウム及びペニシリン/ストレプトマイシン)はすべてGIBCO社より購入した。
【0025】
【表1】
【0026】
(2)Fura-2蛍光指示薬を用いた細胞内カルシウムイオン濃度の測定
各細胞株を適切な細胞数で96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)に播種し、2~3日後にセミコンフルエントで使用した。培地をHanks’ HEPES buffer(20mM HEPES、115mM NaCl、5.4mM KCl、0.8mM MgCl、1.8mM CaCl、13.8mM グルコース、pH7.4、100μL/well)に置換して37℃、1.5時間静置した。5μM Fura-2-acetoxymethyl ester(同仁化学)、2.5mM Probenecid(同仁化学)及び0.02% Pluronic F127(同仁化学)を含むHanks’ HEPES bufferを100μL加えて、37℃、30分静置した。Hanks’ HEPES bufferで1回洗浄した後に、1.25mM Probenecidを含むHanks’ HEPES bufferに置換し、37℃、30分以上静置した後、DB(Sigma aldrich)またはLcS処理を行い、Fura-2の蛍光波長を測定した。
DB処理には、DBを100mMになるようにDulbecco’s Phosphate-Buffered Saline(DPBS)に溶解したものを被験物質として用いた。LcS処理には、LcSをLactose-ILS培地に1%接種して37℃で20時間培養し、DPBSで3回洗浄した後、1×1010cfu/mLになるようにDPBSに懸濁したものを被験物質として使用した。
infinite M200 PROには試薬注入機能があり、蛍光波長を連続測定中にbufferの1/10量の上記被験物質を自動で注入した(100μL/sec)。そのため、DBは終濃度10mM、LcSは1×10cfu/mLの密度となる。対照群はDPBSを同量処理した。測定は、DBまたはLcSの処理約25秒前から開始し、処理後約160秒まで計測した。
蛍光波長測定には、infinite M200 PROを用い、340nm及び380nmの波長で励起した時の蛍光波長510nmの強度をそれぞれ測定した。
【0027】
(3)結果
DB(10mM)、LcS(1×10cfu/mL)を各細胞に処理した時点からのF340/F380を経時的に測定し、処理前25秒間の同値平均値を基点とした時の変化量を算出した結果を図1に示す。図1では、左側に経時的な波形データ(処理0秒時点を矢印で示した)、右側に処理後以降の時点におけるF340/F380変化量最大値のグラフを示した(平均値±標準誤差(n=3)、**P<0.01、P<0.05 vs cont(Dunnet post hoc test))。
【0028】
その結果、MKN1細胞とHs746T細胞では、DB処理及びLcS処理で蛍光強度比が有意に上昇した(図1(A)、(F))。一方、MKN45やKATOIIIではDB処理により蛍光強度比が有意に低下した(図1(B)、(D))。MKN74、NUGC-4では、DB及びLcS処理に伴う蛍光強度比の有意な変化は認められなかった(図1(C)、(E))。
【0029】
実施例2 Hs746T細胞の生理学的性質
(1)免疫細胞染色
1)方法
Hs746T細胞を8ウェルチャンバースライド(IWAKI)に1.0×10cells/wellで播種し、1~2日後にセミコンフルエントで4% パラホルムアルデヒド/0.1M phosphate buffer(PB)にて固定した。DPBSで5分、3回洗浄した後に5% Normal donkey serum(Jackson Immuno Research)/DPBS with 0.3% Triton X100(PBST)にて室温、1時間ブロッキングした。1次抗体としてrabbit anti-CgA antibody(1/300、abcam)で4℃、一晩処理した。PBSTで5分、3回洗浄後に2次抗体として、donkey anti-rabbit IgG Alexa Fluor 546(1/1,000、molecular probes)で室温、1時間処理した。PBSTで5分、3回洗浄した後に、DAPIを0.1%の終濃度で含むDPBSで30分処理し、チャンバーを外してVECTASHIELD(Vector Laboratories)にて封入し、共焦点顕微鏡(TCS SP8,Leica Microsystems)で顕鏡した。陽性細胞の割合は、×400倍率下、2視野におけるDAPI陽性細胞数に対する割合を平均して算出した。
2)結果
図2に示すようにCgA陽性細胞が確認された。DAPI陽性細胞数に対するCgA陽性細胞の割合は85.4±0.8%であった。
【0030】
(2)カルシウムイオン濃度上昇細胞におけるCgA発現比率
1)方法
Hs746T細胞を1.0×10cells/wellで96ウェルガラス底プレート(IWAKI)に播種して使用した。Fura-2の代わりに5μM Fluo-4-acetoxymethyl ester(同仁化学)を用いて、実施例1(2)と同様に処理した。Fluo-4蛍光波長測定には、BZ-X710蛍光顕微鏡(KEYENCE)を用い、495nm励起で510nm蛍光波長を観察した。
本試験では、視野全体の平均輝度を測定することで蛍光強度を定量化した。DBまたはLcSの処理8秒前から開始し、処理後64秒まで計測した。計測後、4% パラホルムアルデヒド/0.1M PBにて固定し、(1)と同様にCgAの免疫細胞染色を行った。なお、DAPI処理後は封入せずに、Hanks’ HEPES bufferでウェルを満たし、BZ-X710蛍光顕微鏡で観察した。Fluo-4測定時と同じ座標の視野を撮影し、Fluo-4顕鏡画像と重ね合わせた。画像中のFluo-4蛍光を示す細胞数、CgA陽性細胞数及びFluo-4蛍光強度が上昇したCgA陽性細胞数を計数した。陽性細胞数は、×200倍率下、3視野における細胞数を平均して算出した。
2)結果
LcS処理群(28秒(s)時点)のFluo-4蛍光画像を図3(A)に、同視野のCgA免疫染色像を図3(B)に示す。28s時点でFluo-4蛍光強度が上昇した細胞数、CgA陽性細胞数及びFluo-4蛍光強度が上昇したCgA陽性細胞数をそれぞれ計数し、割合を算出した。Fluo-4蛍光強度が上昇した細胞のうちCgA陽性細胞の割合は94.17±1.58%(n=3)であり、細胞内カルシウムイオン濃度が上昇した細胞のほとんどがCgA陽性細胞であることを確認した。また、CgA陽性細胞のうちFluo-4蛍光強度が上昇した細胞の割合は、40.41±3.34%(n=3)であった。また、DB処理群(28s時点)において、Fluo-4蛍光強度が上昇した細胞のほとんどがCgA陽性細胞であることが確認された。(図3(C)、(D))
【0031】
実施例3 MKN1細胞の生理学的性質
(1)細胞培養
MKN1細胞は、RPMI1640、10% FBS、10U/L ペニシリン、0.1g/L ストレプトマイシン、1mM ピルビン酸ナトリウムを含む培地を用いて、シャーレで37℃、5% CO条件下で培養し、セミコンフルエント状態で継代を行って維持した。
【0032】
(2)内分泌細胞マーカーの発現
内分泌細胞マーカーの発現をRT-PCRで調べた。主要な内分泌細胞マーカーとしてCgAを、補完的なマーカーとしてNCAM1及びENO2を選択し、それらの発現を調べた。
培養後の細胞をDPBSで洗浄した後に、TRIzol reagent(Invitrogen)に懸濁して回収したものからRNAを抽出した。PrimeScript RT reagent Kit(TaKaRa)を用いて1,250ngのRNAを逆転写してcDNAを作製し、PCRに供した。
PCRでは、0.5μM プライマー、250ng cDNA及びTaKaRa Ex Taq(TaKaRa)を用いた。95℃で5分間変性させた後、「95℃で30秒間変性させ、58℃で30秒間アニーリング、72℃で1分間伸長させる」というサイクルを35回繰返し、最後に72℃で7分間伸長させた。
各プライマー配列を表2に示す。PCR後、2%のアガロース(関東化学)ゲルで電気泳動を行い、GelRed nucleic acid gel stain(Biotium)で染色し、UVトランスイルミネーターで撮影した。
その結果、表3に示すとおり、CgA、NCAM1及びENO2の発現が確認された。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
(3)胃内分泌ホルモンの発現
MKN1細胞株を8ウェルチャンバースライドに播種し、セミコンフルエントで4% パラホルムアルデヒド/0.1M PBにて固定した。DPBSで3回洗浄したのちに、5% Normal donkey serum/PBSTにて室温、30分間ブロッキングし、続いて1次抗体で4℃、一晩処理した。PBSTで3回洗浄後に2次抗体で室温、1時間処理した。PBSTで3回洗浄した後に、DAPIを0.1%の終濃度で含むDPBSで室温、30分間処理し、VECTASHIELDにて封入した。サンプルはすべて共焦点顕微鏡で顕鏡した。
1次抗体の特異的抗原として内分泌ホルモンのセロトニン(5-HT)、グレリン(Ghrl)、ガストリン(Gast)、ソマトスタチン(SST)を標的とした。使用した1次抗体と2次抗体について、表4にまとめた。
【0036】
【表4】
【0037】
図4に示すとおり、セロトニン(5-HT)、グレリン(Ghrl)、ガストリン(Gast)及びソマトスタチン(SST)の発現が確認された。
【0038】
実施例4 Hs746T細胞の生理学的性質2
実施例3のMKN1細胞株をHs746T細胞に変えて、同様の処理を行い、セロトニン(5-HT)及びグレリン(Ghrl)の発現を確認した。
【0039】
図4に示すとおり、セロトニン(5-HT)およびグレリン(Ghrl)の発現が確認された。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023069533000001.app