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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069543
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】キャニスタ
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20230511BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230511BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
F02M25/08 311D
F02M25/08 311F
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/34 H
B01D53/04 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181458
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】関 建司
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 邦寿
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一樹
【テーマコード(参考)】
3G144
4D012
4G066
【Fターム(参考)】
3G144BA16
3G144BA40
3G144DA03
3G144FA10
3G144GA12
3G144GA13
3G144GA15
3G144GA16
4D012BA03
4D012CB05
4D012CB13
4D012CD04
4D012CE03
4D012CF10
4D012CG05
4D012CK02
4G066AA05B
4G066BA09
4G066BA20
4G066CA05
4G066DA04
4G066GA04
(57)【要約】
【課題】経済性を維持しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できるキャニスタを提供する。
【解決手段】筐体10の内部に、一端と他端との間の蒸発燃料Jの通流方向において、他端側の大気ポート10aに接する位置に吸着材Qとしての第1吸着材Q1を含む第1吸着層K1を設けると共に、第1吸着層K1よりも一端側に第1吸着材Q1とは異なる吸着材Qとしての第2吸着材Q2を含む第2吸着層K2を設け、第1吸着材Q1の蒸発燃料Jを吸着する吸着速度が、第2吸着材Q2の吸着速度よりも遅い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に蒸発燃料を吸脱着可能な吸着材を含む吸着層が設けられる筐体を備え、当該筐体の一端に前記蒸発燃料を内部へ流入するタンクポート及び前記蒸発燃料を外部へ流出するパージポートを備えると共に、当該筐体の他端に内部を大気へ連通する大気ポートを備えるキャニスタであって、
前記筐体の内部に、前記一端と前記他端との間の前記蒸発燃料の通流方向において、前記他端側の前記大気ポートに接する位置に前記吸着材としての第1吸着材を含む第1吸着層を設けると共に、前記第1吸着層よりも前記一端側に前記第1吸着材とは異なる前記吸着材としての第2吸着材を含む第2吸着層を設け、
前記第1吸着材の前記蒸発燃料を吸着する吸着速度が、前記第2吸着材の前記吸着速度よりも遅いキャニスタ。
【請求項2】
前記第1吸着材の前記蒸発燃料の平衡吸着量は、前記第2吸着材の前記蒸発燃料の平衡吸着量よりも小さい請求項1に記載のキャニスタ。
【請求項3】
前記第1吸着材の平均粒径は、前記第2吸着材の平均粒径より大きい請求項1又は2に記載のキャニスタ。
【請求項4】
前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を有する蓄熱材を含んで構成されており、
前記蓄熱材は平均粒径が0.9mm以上1.6mm以下であり、前記吸着材は粒度分布で0.71mm以上2.36mm以下の割合が95wt%以上の活性炭である請求項1~3の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項5】
前記蓄熱材の平均粒径は前記吸着材の平均粒径の0.6倍以上1.3倍以下である請求項4に記載のキャニスタ。
【請求項6】
前記第1吸着層の前記蓄熱材の含有率は、前記第2吸着層の前記蓄熱材の含有率より大きい請求項4又は5に記載のキャニスタ。
【請求項7】
前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を有する蓄熱材を含んで構成されており、
前記第2吸着層の前記蓄熱材の融点は、前記第1吸着層の前記蓄熱材の融点より低い請求項4~6の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項8】
前記第1吸着層の前記蓄熱材の融点が36℃以上であり、前記第2吸着層の前記蓄熱材の融点が36℃未満である請求項4~7の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項9】
前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を封入したマイクロカプセルから成型される成型蓄熱材を含んで構成されており、
前記成型蓄熱材は、柱形状の前記成型蓄熱材の柱軸に直交する方向視で、前記柱軸の一端側の一端側端面と他端側の他端側端面とを有すると共に、前記一端側端面の半径方向において、前記一端側端面と前記柱軸周りの側周面とを繋ぐ一端側縁部の曲面の長さをR1とし、前記他端側端面の半径方向において、前記他端側端面と前記側周面とを繋ぐ他端側縁部の曲面の長さをR2とし、前記柱軸に直交する方向での断面半径をrとしたときに、R1/rとR2/rとの平均値が0.57以上である請求項4~8の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項10】
前記蓄熱材の潜熱が150J/g以上200J/g以下である請求項4~9の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項11】
前記蓄熱材の充填密度は0.40g/mL以上0.60g/mL以下である請求項4~10の何れか一項に記載のキャニスタ。
【請求項12】
前記第1吸着層における前記第1吸着材に対する前記蓄熱材の質量比が0.15以上0.80以下であり、前記第2吸着層における前記第2吸着材に対する前記蓄熱材の質量比が0.05以上0.50以下である請求項4~11の何れか一項に記載のキャニスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に蒸発燃料を吸脱着可能な吸着材を含む吸着層が設けられる筐体を備え、当該筐体の一端に前記蒸発燃料を内部へ流入するタンクポート及び前記蒸発燃料を外部へ流出するパージポートを備えると共に、当該筐体の他端に内部を大気へ連通する大気ポートを備えるキャニスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部に蒸発燃料を吸脱着可能な吸着層を有し、当該吸着層が、吸着材としての活性炭と、温度に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を含む蓄熱材とから成るキャニスタが知られている(特許文献1を参照)。
当該相変化物質を利用した蓄熱材として、例えば、特許文献2、3には、相変化に伴って潜熱の吸収および放出を生じる脂肪族炭化水素等の相変化物質をマイクロカプセル中に封入して粉末状の蓄熱材とし、この粉末状の蓄熱材を、吸着材と混合して一体に成型し、あるいは粒状の吸着材(活性炭)の表面に付着させて、潜熱蓄熱型吸着材としたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-233106号公報
【特許文献2】特開2001-145832号公報
【特許文献3】特開2003-311118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたキャニスタでは、活性炭に吸着された蒸発燃料を脱着させる際に、大気から取り込んだ空気をパージガスとして活性炭をパージすることで、活性炭に吸着された蒸発燃料を脱着させる。このとき、活性炭の吸着速度(脱着速度)が遅いと、パージガス中の蒸散ガス濃度(蒸発燃料の濃度)を高くできないという問題がある。一方、吸着速度(脱着速度)の速い活性炭では、パージガス中の蒸散ガス濃度を高くすることが可能だが、価格が高いことと、脱着時の吸熱により温度低下し脱着量が減少するという問題点がある。また、パージが進行するにつれて、パージガス中の蒸散ガス濃度は急激に減少するため、パージを通してエンジンに送り込む蒸散ガス量の管理が難しいという問題点がある。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、経済性を維持しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できるキャニスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのキャニスタは、
内部に蒸発燃料を吸脱着可能な吸着材を含む吸着層が設けられる筐体を備え、当該筐体の一端に前記蒸発燃料を内部へ流入するタンクポート及び前記蒸発燃料を外部へ流出するパージポートを備えると共に、当該筐体の他端に内部を大気へ連通する大気ポートを備えるキャニスタであって、その特徴構成は、
前記筐体の内部に、前記一端と前記他端との間の前記蒸発燃料の通流方向において、前記他端側の前記大気ポートに接する位置に前記吸着材としての第1吸着材を含む第1吸着層を設けると共に、前記第1吸着層よりも前記一端側に前記第1吸着材とは異なる前記吸着材としての第2吸着材を含む第2吸着層を設け、
前記第1吸着材の前記蒸発燃料を吸着する吸着速度が、前記第2吸着材の前記吸着速度よりも遅い点にある。
【0007】
本発明の発明者らは、キャニスタの製造コストの増加を抑制しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度を一定以上に維持するために、吸着層を構成する吸着材の蒸発燃料の吸着速度としての吸着速度に着目して本発明を完成させた。
ここで、図2を参照して、第1吸着層K1及び第2吸着層K2を含む吸着層K(吸着材)の吸着速度(脱着速度)と吸着量との関係について説明する。図2では、脱着時のパージガスPJ(蒸散ガス(蒸発燃料J:図1に図示)を含むガス)の通流方向Xにおいて吸着層Kを4つの領域(X0-X1の領域、X1-X2の領域、X2-X3の領域、X3-X4の領域)に分割し、夫々の領域における吸着材による吸着量を三角印の濃度で表しており、吸着量が多いほど濃い濃度としている。更に、図2では、縦軸に時間tをとっており、脱着開始直前時点t0から脱着開始時点t1を経て脱着終了時点t2となるまでに、吸着層Kによる蒸発燃料Jの脱着が徐々に進行している経過を図示している。
通常、図2に示すように、パージの前期(例えば、脱着開始時点t1の近傍の時点)では、パージガスPJの流れに沿って、吸着層Kの全体から蒸発燃料Jが脱着していく。このため、パージガスPJ中の蒸散ガス濃度が高い。一方、パージの後期(例えば、脱着終了時点T2の直前の時点)では、パージガスPJの通流方向Xで上流側(筐体の他端側)の吸着層Kの蒸発燃料Jの脱着は完了し、下流側(筐体の一端側)の吸着層Kから脱着することになるため、パージガスPJ中の蒸散ガス濃度は低くなる。これにより、パージの全過程を通して、パージガスPJ中の蒸散ガス濃度が大きく変動してしまい、パージ制御性が悪くなる。
【0008】
上記特徴構成によれば、パージガスPJの通流方向Xにおいて、下流側(筐体の一端側)に設けられる第2吸着材の蒸発燃料を吸着する吸着速度(脱着速度)が、上流側(筐体の他端側)に設けられる第1吸着材の吸着速度(脱着速度)よりも速いため、特に、パージの後期において、第2吸着材から蒸発燃料Jの脱着量を増加させ、パージガスPJ中の蒸散ガス濃度を向上でき、パージの全過程を通して、パージガスPJ中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できる。
更に、上記特徴構成によれば、パージの前期において、蒸発燃料Jの脱着が完了しパージガスPJ中の蒸散ガス濃度の変動の抑制に寄与しない第1吸着材としては、比較的低価格の吸着速度(脱着速度)の遅い吸着材を採用するから、経済性を向上できる。
以上より、経済性を維持しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できるキャニスタを実現できる。
【0009】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記第1吸着材の前記蒸発燃料の平衡吸着量は、前記第2吸着材の前記蒸発燃料の平衡吸着量よりも小さい点にある。
【0010】
上記特徴構成の如く、第1吸着材の蒸発燃料の平衡吸着量を第2吸着材の蒸発燃料の平衡吸着量よりも小さくすることで、すべての吸着材を比較的価格の高い平衡吸着量の大きい吸着材とする場合に比べ経済性の向上を図ることができる。また、パージ後期のパージガス中の蒸散ガス濃度の低下を効果的に抑制できる。
【0011】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記第1吸着材の平均粒径は、前記第2吸着材の平均粒径より大きい点にある。
【0012】
上記特徴構成の如く、第2吸着材が小粒径の場合、単位体積当たりの第2吸着材粒子の外部表面積が大きいため、吸着対象の蒸発燃料の粒子が第2吸着材の表面に到達し易くなる。更に、表面に到達した蒸発燃料は第2吸着材の内部を移動するが、第2吸着材が小粒径だと、第2吸着材の内部を移動する距離が短いため、第2吸着材の内部の全域に亘って蒸発燃料が行き渡り易い。これらの理由により、第2吸着材の吸着速度(脱着速度)が速くなるため、パージ後期のパージガス中の蒸散ガス濃度の低下を効果的に抑制できる。さらに、第1吸着剤の平均粒径が比較的大きいため、キャニスタに蒸発燃料や空気を流通させたときの圧力損失を低く抑えることが可能である。
【0013】
キャニスタの更なる特徴構成は、
前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を有する蓄熱材を含んで構成されており、
前記蓄熱材は平均粒径が0.9mm以上1.6mm以下であり、前記吸着材は粒度分布で0.71mm以上2.36mm以下の割合が95wt%以上である活性炭である点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、蓄熱材として平均粒径が0.9mm以上1.6mm以下のものを用い、吸着材として粒度分布で0.71mm以上2.36mm以下の割合が95wt%以上である活性炭を用いることで、小粒径の吸着材によるパージ性能の増加を図ることができる。また、蓄熱材と吸着材との平均粒径を、大凡同程度に合わせることで、分級を抑制することができる。
【0015】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記蓄熱材の平均粒径は前記吸着材の平均粒径の0.6倍以上1.3倍以下である点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、蓄熱材と吸着材との平均粒径を、大凡同程度に合わせることで、分級を良好に抑制できる。
【0017】
キャニスタの更なる特徴構成は、
前記第1吸着層の前記蓄熱材の含有率は、前記第2吸着層の前記蓄熱材の含有率より大きい点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、上流側(筐体の他端側)に配設される第1吸着層の蓄熱材の含有率を大きくしているので、大気ポート近傍である第1吸着層では、パージにより脱着しない燃料の残存量を減らすことができ、長時間駐車時の蒸発燃料の外部への漏洩量を低減でき、DBL(Diurnal Breathing Loss)性能を向上できる。
【0019】
キャニスタの更なる特徴構成は、
前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を有する蓄熱材を含んで構成されており、
前記第2吸着層の前記蓄熱材の融点は、前記第1吸着層の前記蓄熱材の融点より低い点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、パージ時においては、パージガスPJの通流方向で、上流側(筐体の他端側)から下流側(筐体の一端側)へ向けて蒸発燃料Jの脱着に伴う冷熱が伝熱するため、下流側ほど温度低下し易い。
上記特徴構成によれば、特に、下流側に配設される第2吸着層の蓄熱材の融点を低く設定しているため、温度低下し易い第2吸着層で冷却抑制できるから、特に、パージ後期のパージガス中の蒸散ガス濃度の低下を効果的に抑制できる。
【0021】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記第1吸着層の前記蓄熱材の融点が36℃以上であり、前記第2吸着層の前記蓄熱材の融点が36℃未満である点にある。
【0022】
パージ時においては、パージガスPJの通流方向で、上流側(筐体の他端側)から下流側(筐体の一端側)へ向けて蒸発燃料Jの脱着に伴う冷熱が伝熱するため、下流側ほど温度低下し易い。
上記特徴構成によれば、下流側に配設される第2吸着層の蓄熱材の融点を36℃未満と低く設定しているため、温度低下し易い第2吸着層で冷却抑制できるから、特に、パージ後期のパージガス中の蒸散ガス濃度の低下を効果的に抑制できる。
【0023】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記第1吸着層及び前記第2吸着層は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を封入したマイクロカプセルから成型される成型蓄熱材を含んで構成されており、
前記成型蓄熱材は、柱形状の前記成型蓄熱材の柱軸に直交する方向視で、前記柱軸の一端側の一端側端面と他端側の他端側端面とを有すると共に、前記一端側端面の半径方向において、前記一端側端面と前記柱軸周りの側周面とを繋ぐ一端側縁部の曲面の長さをR1とし、前記他端側端面の半径方向において、前記他端側端面と前記側周面とを繋ぐ他端側縁部の曲面の長さをR2とし、前記柱軸に直交する方向での断面半径をrとしたときに、R1/rとR2/rとの平均値が0.57以上である点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、柱形状の成型蓄熱材の形状を、R1/rとR2/rとの平均値が0.57以上とする、即ち、角を落とした丸みを帯びた形状とすることで、吸着材との混合性(吸着材に対する成型蓄熱材の分散性)を向上できる。
【0025】
これまで説明してきたキャニスタは、前記蓄熱材の潜熱が150J/g以上200J/g以下であることが好ましい。また、前記蓄熱材の充填密度は0.40g/mL以上0.60g/mL以下であることがこのましい。
【0026】
上記特徴構成によれば、特に、吸着速度の速い第2吸着層の第2吸着材にて比較的大きい吸着熱が発生する場合であっても、当該吸着熱を蓄熱材にて良好に蓄熱することで、吸着時の吸着量を増加できると共に、吸着材からの蒸発燃料の脱着時に良好に放熱してパージ時のパージ能力も向上できる。
【0027】
キャニスタの更なる特徴構成は、前記第1吸着層における前記第1吸着材に対する前記蓄熱材の質量比が0.15以上0.80以下であり、前記第2吸着層における前記第2吸着材に対する前記蓄熱材の質量比が0.05以上0.50以下である点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、例えば、給油時等の蒸発燃料の通流方向で上流側(筐体の他端側)に配設される第1吸着層における第1吸着材に対する蓄熱材の質量比を0.15以上0.80以下と大きくすることで、第1吸着層では吸着に伴って発生する熱量を、質量比の高い蓄熱材により良好に蓄熱して、第1吸着材の吸着能力を効果的に発揮させることができる。
また、第2吸着層の第2吸着材に対する蓄熱材の質量比を0.05以上0.50以下と小さくして、吸着速度が遅い第2吸着材に対する蓄熱材の質量比を小さくして、経済性の向上を図ることができる。
尚、上述したように、上記特徴構成によれば、上流側(筐体の他端側)に配設される第1吸着層の蓄熱材の含有率を大きくしているので、大気ポート近傍である第1吸着層の第1吸着材の含有量を相対的に減らすことができ、大気ポート近傍での吸着量を低減することで、長時間駐車時の蒸発燃料の外部への漏洩量を低減でき、DBL(Diurnal Breathing Loss)性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係るキャニスタを含む自動車両の概略構成図である。
図2】実施形態に係るキャニスタの作用を説明するための概念図である。
図3】実施形態に係る蓄熱材の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係るキャニスタは、経済性を維持しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できるものに関する。
以下、当該キャニスタに関し、図面に基づいて説明する。
【0031】
図1に示すように、当該実施形態に係るキャニスタ100は、内部に蒸発燃料Jを吸着可能な吸着層Kが設けられる筐体10を備えて成り、一般に知られる自動車両に対して好適に適用できる。当該実施形態に係る自動車両は、ガソリン等の燃料を貯留する燃料タンク12と、特に、燃料供給時(ORVR時)において燃料タンク12にて気化した蒸発燃料Jを吸着すると共に吸着した蒸発燃料Jをエンジン11へ導くキャニスタ100と、キャニスタ100から導かれる蒸発燃料Jを含む燃料と燃焼用空気とを燃焼室(図示せず)にて燃焼させて軸出力を得るエンジン11とを備えて構成されている。
当該キャニスタ100は、図1に示すように、筐体10を有しており、通流方向Xの一端に、燃料タンク12に連通して燃料タンク12からの蒸発燃料Jを受け入れるタンクポート10cと、脱着時にキャニスタ100にて脱着した蒸発燃料Jをエンジン11へ送り出すパージポート10bとを有すると共に、他端に大気と連通する大気ポート10aとを備えて構成されている。ちなみに、パージポート10bは、パージ流路11aを介してエンジン11と連通されている。エンジン11と燃料タンク12との間には、両者を連通接続する接続流路13aが設けられている。
【0032】
さて、吸着層Kには、蒸発燃料Jを吸脱着する吸着材Qと、温度に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質を封入したマイクロカプセルから成型される成型蓄熱材Tとが収納されている。
尚、図1に示すように、当該吸着層Kとして、一端と他端との間のパージガスPJの通流方向Xにおいて、他端側の大気ポート10aに接する位置に吸着材Qとしての第1吸着材Q1を含む第1吸着層K1が設けられると共に、第1吸着層K1よりも一端側に第1吸着材Q1とは異なる吸着材Qとしての第2吸着材Q2を含む第2吸着層K2が設けられる。尚、当該実施形態においては、第2吸着層K2は、一端側のパージポート10b及びタンクポート10cに接する位置に設けられており、第1吸着層K1と第2吸着層K2とは所定の分離膜等により分離されている。
ここで、第1吸着材Q1としては、蒸発燃料Jを吸着する吸着速度が、第2吸着材Q2よりも遅いものが採用されている。
【0033】
成型蓄熱材Tは、例えば、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質をマイクロカプセル中に封入した蓄熱材を、バインダーとともに粒状に成形する。マイクロカプセル化した蓄熱材としては、特許文献2あるいは特許文献3等に開示されている公知のものを用いることができる。
【0034】
上記相変化物質は、例えば、融点が10℃以上80℃以下の有機化合物および無機化合物から成り、例えば、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンイコサン、ドコサンなどの直鎖の脂肪族炭化水素、天然ワックス、石油ワックス、LiNO・3HO、NaSO・10HO、NaHPO・12HOなどの無機化合物の水和物、カプリン酸、ラウリル酸等の脂肪酸、炭素数が12から15の高級アルコール、バルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル等のエステル等が挙げられる。上記相変化物質は、上記から選ばれる2種類以上の化合物を併用してもよい。
【0035】
そして、これらを芯材料として、コアセルベーション法、in-situ法(界面反応法)等の公知の方法により、マイクロカプセルとしたものを用いることができる。マイクロカプセルの外殻としては、メラミン、ゼラチン、ガラス等の公知の材料が使用され得る。このマイクロカプセル化した蓄熱材の粒子径は、数μm~数十μm程度が好ましい。マイクロカプセルが過度に小さいと、カプセルを構成する外殻が占める割合が増え、溶解・凝固を繰り返す相変化物質の割合が相対的に減少するので、粉末状蓄熱材の単位体積当たりの蓄熱量が低下する。逆に、マイクロカプセルが過度に大きくても、カプセルの強度が必要となってくるため、やはりカプセルを構成する外殻が占める割合が増え、粉末状蓄熱材の単位体積当たりの蓄熱量が低下する。
【0036】
更に、粉末状の蓄熱材を、バインダーとともに、大凡、円柱形状に成型し、粒状の成型蓄熱材Tとする。バインダーとしては、種々のものを用いることができるが、キャニスタに用いる際に要求される温度や溶媒に対する安定性ならびに強度の観点から、フェノール樹脂やアクリル樹脂等の熱硬化性樹脂が好適である。そして、この粒状の成型蓄熱材Tを同じく粒状の吸着材Qと混合して用いることで、蓄熱作用を確保する。
因みに、当該成型蓄熱材Tの潜熱は、150J/g以上200J/g以下であることが好ましい。
【0037】
上記吸着材Qとしては、公知の種々のものを利用可能であるが、例えば、活性炭を用いることができる。そして、所定寸法に個々に成型又は破砕したものを用いてもよい。
一方、成型蓄熱材Tは、図3に示すように、例えば、上述の押し出し成型により柱形状に成型されたものにおいて、柱軸P2に直交する方向視で、柱軸P2の一端側の一端側端面M2と他端側の他端側端面M3とを有すると共に、一端側端面M2の半径方向において、一端側端面M2と柱軸P2周りの側周面M1とを繋ぐ一端側縁部M2aの曲面の長さをR1とし、他端側端面M3の半径方向において、他端側端面M3と側周面M1とを繋ぐ他端側縁部M3aの曲面の長さをR2とし、柱軸P2に直交する方向での断面半径をrとしたときに、R1/rとR2/rとの平均値が0.57以上としている。
当該形状のように、角を落とした丸みを帯びた形状とすることで、吸着材Qとの混合性(吸着材Qに対する成型蓄熱材Tの分散性)を向上できる。
尚、成型蓄熱材Tは、柱軸P2に沿う長さと柱軸P2と直交する断面直径とが、大きく異ならない形状としている。
【0038】
成型蓄熱材Tの大きさと粒状の吸着材Qの大きさは、両者の経時的な分離を抑制するとともにガスが流れる流路を適切に確保するために、なるべく同じ大きさもしくは近似した大きさであることが望ましい。
ただし、第1吸着材Q1の平均粒径は第2吸着材Q2の平均粒径より大きいことが好ましい。更に、成型蓄熱材Tは平均粒径(図3で柱形状の柱軸P2に直交する断面の直径2r)が0.9mm以上1.6mm以下であり、吸着材Qの平均粒径は、1.0mm以上1.8mm以下であることが好ましい。更に、吸着材Qは、第1吸着材Q1及び第2吸着材Q2の何れも、粒度分布で0.71mm以上2.36mm以下の割合が95wt%以上である活性炭であることが好ましい。
また、成型蓄熱材Tの平均粒径(図3で2r)は、吸着材Qの平均粒径の0.9mm以上1.6mm以下であることが好ましい。
【0039】
また、第1吸着材Q1の蒸発燃料Jの平衡吸着量は、第2吸着材Q2の蒸発燃料Jの平衡吸着量よりも小さいことが好ましく、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの含有率は、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの含有率より大きいことが好ましい。
【0040】
上記成型蓄熱材Tの充填密度は、0.4g/mL以上0.6g/mL以下であることが好ましい。そして、上記成型蓄熱材Tの充填密度に対し、吸着材Qの充填密度が0.2倍以上1.1倍以下、好ましくは0.3倍以上1.0倍以下、より好ましくは0.4倍以上0.9倍以下であることが望ましい。両者の充填密度が大きく異なると、キャニスタとして車両等に搭載されて加振されたときに、相対的に重い方がケース内で下方に移動しようとし、両者の分離が促進される。
【0041】
更に、第1吸着層K1における第1吸着材Q1に対する成型蓄熱材Tの質量比が0.15以上0.80以下であり、第2吸着層K2における第2吸着材Q2に対する成型蓄熱材Tの質量比が0.05以上0.50以下であることが好ましい。当該構成により、吸着材Qに対する成型蓄熱材Tの質量比を、第2吸着層K2よりも第1吸着層K1で高くすることで、給油時(ORVR時)に温度が上昇し易い大気側での昇温を抑制し、吸着性能の低下を防止できる。
また、上流側(筐体の他端側)に配設される第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの含有率を大きくしているので、大気ポート10a近傍である第1吸着層K1の第1吸着材Q1の含有量を相対的に減らすことができ、大気ポート10a近傍での吸着量を低減することで、長時間駐車時の内外気温度差による蒸発燃料Jの外部への漏洩量を低減でき、DBL(Diurnal Breathing Loss)性能を向上できる。
【0042】
これに加え、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの融点は、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの融点より低いことが好ましく、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの融点が36℃以上であり、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの融点が36℃未満であることが好ましい。当該構成により、特に、パージ時のパージガスPJの通流方向Xの下流側に配設される第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの融点を36℃未満と低く設定しているため、温度低下し易い第2吸着層K2で冷却抑制できるから、特に、パージ後期のパージガス中の蒸散ガス濃度の低下を効果的に抑制できる。
【0043】
キャニスタ100の筐体10の寸法形状は、図1に示すように、筐体10のパージガスPJ(蒸発燃料Jを含む)の流通方向Xと直行する方向の断面を真円と仮定したときの直径Dに対する筐体10のパージガスPJの通流方向Xの吸着層の長さLの比であるL/Dが2.5以下であることが好ましい。これにより、吸着材Qや成型蓄熱材Tの平均粒径を小さくした場合でも、圧力損失を一定以下に抑えることができる。
【0044】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、キャニスタ100の用途は給油時用(ORVR用)としたが、給油時に限らず、駐停車時や、走行時に、使用しても構わない。
【0045】
(2)上記実施形態では、吸着層Kには、第1吸着層K1と第2吸着層K2とが設けられる構成例を示したが、吸着層Kとして、第1吸着層K1及び第2吸着層K2以外の吸着層が設けられていても構わない。
また、第1吸着層K1と第2吸着層K2は、両者の間が分離膜により分離されている構成例を示したが、当該分離膜は設けられていなくても構わない。
更に、第1吸着層K1と第2吸着層K2との間には、吸着速度が、第1吸着層K1に近いほど速くなるよう吸着材Qが配設されていても構わない。
【0046】
(3)上記実施形態では、第1吸着材Q1の平均粒径は第2吸着材Q2の平均粒径より大きいものとした。
しかしながら、第1吸着材Q1としては、蒸発燃料Jを吸着する吸着速度が、第2吸着材Q2よりも遅いものであれば、両者は同程度の平均粒径であっても構わないし、第1吸着材Q1の平均粒径は第2吸着材Q2の平均粒径と等しい、或いは、第1吸着材Q1の平均粒径は第2吸着材Q2の平均粒径より小さくても構わない。
また、第1吸着材Q1の平均粒径は第2吸着材Q2の平均粒径より大きいものとするのに替えて、第1吸着材Q1の比表面積は第2吸着材Q2の比表面積より大きいものとしても構わない。
【0047】
(4)上記実施形態にあっては、吸着層Kには、成型蓄熱材Tが含まれている構成を示したが、当該成型蓄熱材Tは、設けられなくても構わない。また、成型蓄熱材Tは、円柱形以外の角筒形状等の種々形状を採用することができる。
【0048】
(5)上記実施形態では、第1吸着材Q1の蒸発燃料Jの平衡吸着量は、第2吸着材Q2の蒸発燃料Jの平衡吸着量よりも小さいものとした。
しかしながら、第1吸着材Q1としては、蒸発燃料Jを吸着する吸着速度が、第2吸着材Q2よりも遅いものであれば、両者は同程度の平行吸着量であっても構わないし、第1吸着材Q1の蒸発燃料Jの平衡吸着量は、第2吸着材Q2の蒸発燃料Jの平衡吸着量と等しい、或いは、第1吸着材Q1の蒸発燃料Jの平衡吸着量は、第2吸着材Q2の蒸発燃料Jの平衡吸着量より大きくても構わない。
【0049】
(6)上記実施形態では、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの含有率は、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの含有率より大きいものとした。
しかしながら、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの含有率は、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの含有率と等しいか、或いは、第1吸着層K1の成型蓄熱材Tの含有率が、第2吸着層K2の成型蓄熱材Tの含有率より小さくても構わない。
【0050】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のキャニスタは、経済性を維持しつつも、脱着時のパージガス中の蒸散ガス濃度の変動を抑制でき、パージ制御性を向上できるキャニスタとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 :筐体
10a :大気ポート
10b :パージポート
10c :タンクポート
100 :キャニスタ
J :蒸発燃料
K :吸着層
K1 :第1吸着層
K2 :第2吸着層
M1 :側周面
M2 :一端側端面
M3 :他端側端面
M2a :一端側縁部
M3a :他端側縁部
P2 :柱軸
PJ :パージガス
Q :吸着材
Q1 :第1吸着材
Q2 :第2吸着材
T :成型蓄熱材
X :通流方向


図1
図2
図3