(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069567
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】全反射測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20230511BHJP
G01N 21/552 20140101ALI20230511BHJP
G01N 21/35 20140101ALI20230511BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20230511BHJP
G02B 21/18 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/552
G01N21/35
G02B21/06
G02B21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181521
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】薄 正輝
(72)【発明者】
【氏名】久保 佳子
(72)【発明者】
【氏名】堂込 大介
(72)【発明者】
【氏名】▲会▼澤 見斗
(72)【発明者】
【氏名】井上 勉
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA03
2G043CA05
2G043CA06
2G043CA07
2G043DA06
2G043EA03
2G043EA14
2G043FA02
2G043GA03
2G043GB01
2G043GB21
2G043HA01
2G043KA09
2G043LA03
2G043MA01
2G043NA01
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB08
2G059BB09
2G059BB10
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE10
2G059EE12
2G059GG01
2G059HH01
2G059JJ01
2G059JJ11
2G059JJ12
2G059JJ23
2G059KK04
2G059LL01
2G059LL04
2G059MM01
2G059MM13
2G059NN01
2G059PP04
2H052AA00
2H052AB01
2H052AB17
2H052AC04
2H052AC09
2H052AC13
2H052AC14
2H052AC18
2H052AC27
2H052AC34
2H052AD06
2H052AF07
2H052AF14
(57)【要約】
【課題】ラマン分光測定を同時に実行できて、ATRプリズム由来のラマンピークの影響を抑制しつつラマン分光測定を実行可能な全反射測定装置を提供すること。
【解決手段】全反射測定装置100は、赤外光学機器220およびラマンモジュール10を有する。赤外光学機器220は、試料よりもATRプリズム200側にあり、プリズム200へ赤外光を照射し、プリズム200からの赤外光を収集する。ラマンモジュール10は、試料に対してプリズム200とは反対側にあり、励起光源12からの励起光を試料に向けて出射するガイド筒60と、その内部に配置されたレンズ体58とを有する。ガイド筒60の先端は、試料をプリズム200側に押す位置にある。ラマンモジュール10は、レンズ体58を励起光軸に沿って移動させるレンズ体58の位置調整装置40と、レンズ体58で集光されるラマン光を分光検出する分光器12とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料よりも屈折率の高いATR結晶体を試料に接触させて全反射測定をする全反射測定装置であって、
赤外光学機器およびラマン分光機器を備え、
前記赤外光学機器は、試料よりも前記ATR結晶体側に配置されて、前記ATR結晶体へ赤外光を照射するとともに、前記ATR結晶体から赤外光を収集し、
前記ラマン分光機器は、試料に対して前記ATR結晶体とは反対側に配置され、
励起光を発する励起光源と、
先端から前記励起光を試料に向けて出射する筒状のガイド筒と、
前記ガイド筒内に配置され先端に向けて前記励起光を集光するレンズ体と、を有し、
前記ガイド筒の先端が試料をATR結晶体側に押す位置に設けられ、
さらに、
前記レンズ体を励起光軸に沿って移動させる前記レンズ体の位置調整装置と、
前記レンズ体によって集光される試料からのラマン光を分光して検出する分光器と、を備える、ことを特徴とする全反射光学装置。
【請求項2】
請求項1記載の全反射光学装置において、
前記レンズ体は、前記ガイド筒と二重筒構造をなすレンズ筒に固定され、
前記レンズ体の位置調整装置は、
励起光軸に沿って可動する可動部材と、
前記可動部材を支持する固定部材と、を含み、
前記可動部材に前記レンズ筒が保持され、
前記固定部材に前記ガイド筒が保持される、ことを特徴とする全反射光学装置。
【請求項3】
請求項2記載の全反射光学装置において、
前記レンズ筒の先端に固定されたレンズ体、または、前記レンズ筒の先端が、試料をATR結晶体側に押す位置になるように、該レンズ筒は、前記レンズ体の位置調整装置によって位置調整可能に設けられていることを特徴とする全反射光学装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の全反射光学装置において、
前記可動部材に前記レンズ筒が着脱可能に保持され、
前記固定部材に前記ガイド筒が着脱可能に保持される、ことを特徴とする全反射光学装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の全反射光学装置において、
前記レンズ体の集光点の位置の調整範囲に、試料の位置およびATR結晶体の位置が含まれるように、前記レンズ体の位置調整装置が構成されている、ことを特徴とする全反射光学装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の全反射光学装置において、
前記レンズ体の形状が半球または球であり、
該レンズ体が試料をATR結晶体側に押す位置になるように、該レンズ体は、前記レンズ体の位置調整装置によって位置調整可能に設けられている、ことを特徴とする全反射光学装置。
【請求項7】
請求項6記載の全反射光学装置において、
前記ラマン分光機器は、さらに、
前記励起光源の出口のコリメートレンズの位置を光軸方向に調整するレンズ位置調整装置と、
前記分光器前の結像レンズの位置を光軸方向に調整するレンズ位置調整装置と、
を備える、ことを特徴とする全反射光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラマン分光測定を同時に実行できる全反射測定(ATR)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)用のATR付属品は、全反射測定法とラマン分光法を同時に実行できる装置であり、試料ステージ上の加圧棒に、ラマン測定用の光ファイバーを埋め込んで、ファイバー先端から励起光を試料に照射し、試料からのラマン光をファイバーの先端部から集光して、ラマン検出機構で検出するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2019/092772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の全反射測定装置では、光ファイバーから出射する励起光の照射範囲が広範囲になる。そのため、特に、少量の試料や厚さの薄い試料をラマン分光測定する際、ステージに埋め込まれたATRプリズム由来のラマンピークが測定結果に重なってしまうという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、ラマン分光測定を同時に実行できる全反射測定装置であって、ATRプリズム由来のラマンピークの影響を抑制しつつラマン分光測定を実行可能な全反射測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る全反射測定装置は、
試料よりも屈折率の高いATR結晶体を試料に接触させて全反射測定をする全反射測定装置であって、
赤外光学機器およびラマン分光機器を備え、
前記赤外光学機器は、試料よりも前記ATR結晶体側に配置されて、前記ATR結晶体へ赤外光を照射するとともに、前記ATR結晶体から赤外光を収集し、
前記ラマン分光機器は、試料に対して前記ATR結晶体とは反対側に配置され、
励起光を発する励起光源と、
先端から前記励起光を試料に向けて出射する筒状のガイド筒と、
前記ガイド筒内に配置され先端に向けて前記励起光を集光するレンズ体と、を有し、
前記ガイド筒の先端が試料をATR結晶体側に押す位置に設けられ、
さらに、
前記レンズ体を励起光軸に沿って移動させる前記レンズ体の位置調整装置と、
前記レンズ体によって集光される試料からのラマン光を分光して検出する分光器と、を備える、ことを特徴とする。
この構成では、ATR結晶体を含む赤外光学機器と、ラマン分光測定用のラマン光学機器とが、試料を挟む位置に配置されていることに特徴がある。つまり、ラマン光学機器側のガイド筒の先端が試料をATR結晶体の方へ押す位置にあるので、ATR結晶体に試料を密着させた状態でATR測定を実行することができる。また、ガイド筒から励起光が試料に照射され、そのガイド筒を使って試料からのラマン散乱光が収集されることで、ラマン分光測定も実行することができる。よって、ATR測定とラマン分光測定を同時に実行することができる。
しかも、ガイド筒の先端が試料に接触した状態でラマン分光測定が実行されるので、ガイド筒内への外部の光は遮られて、遮光された空間内で外部光の影響を抑制しつつラマン分光測定を実行することができる。
さらに、レンズ体の位置調整装置によってレンズ体を移動させることが可能になり、例えば、励起光の集光位置が試料の表面または内部に合うようにレンズ体の位置を調整することによって、ATR結晶体を由来とするピークがラマン分光測定の結果に重なることを回避しやすくなる。
【0007】
また、前記レンズ体は、前記ガイド筒と二重筒構造をなすレンズ筒に固定され、
前記レンズ体の位置調整装置は、
励起光軸に沿って可動する可動部材と、
前記可動部材を支持する固定部材と、を含み、
前記可動部材に前記レンズ筒が保持され、
前記固定部材に前記ガイド筒が保持されることが好ましい。
この構成では、レンズ体の位置調整装置の稼働部材にレンズ筒が保持され、固定部材にガイド筒が保持されているので、レンズ筒とガイド筒の二重筒の構造体は、位置調整装置よりも試料側に配置される。よって、位置調整装置の位置は、試料から筒の長さ分だけ離れる。そうすると、レンズ筒とガイド筒の二重筒の構造体は、位置調整装置の機構を含まず、可能な限り細くすることができるので、測定者がガイド筒と試料の接触状態を視認し易くなり、ラマン光学機器の位置調整が容易になる。
【0008】
また、前記レンズ筒の先端に固定されたレンズ体、または、前記レンズ筒の先端が、試料をATR結晶体側に押す位置になるように、該レンズ筒は、前記レンズ体の位置調整装置によって位置調整可能に設けられていることが好ましい。
この構成では、2重筒構造をなす2本の筒の両方を試料に接触させることができる。レンズ筒については、レンズ筒自体の先端でも、レンズ筒の先端に固定されたレンズ体でも、いずれかが試料に接触するように、レンズ体の位置調整装置によって位置が調整されるようになっているとよい。これによって、試料とATR結晶体との密着状態をより確実にすることができて、より良好なATR測定結果を得ることができる。
【0009】
また、前記可動部材に前記レンズ筒が着脱可能に保持され、
前記固定部材に前記ガイド筒が着脱可能に保持されることが好ましい。
この構成では、2重筒構造をなす2本の筒がどちらも着脱式であれば、交換が容易になるだけでなく、長さの異なる筒への適宜変更も容易になる。また、レンズ筒については、複数種類のレンズ体からの選択も容易になるし、ガイド筒については、先端の押し付け部分の材質や形状を試料に合わせて変更することも容易になる。
【0010】
また、前記レンズ体の集光点の位置の調整範囲に、試料の位置およびATR結晶体の位置が含まれるように、前記レンズ体の位置調整装置が構成されていることが好ましい。
この構成では、ラマン分光測定の際の励起光の集光点の位置を、試料およびATR結晶体のそれぞれの位置に合わせることができるので、それぞれのスペクトルの差スペクトルを算出できる。よって、ATR結晶体からの蛍光がラマン測定に影響しうる試料の場合、ATR結晶体由来のピークを効率的に除去することができる。
また、集光点の位置を、ガイド筒の先端位置から試料側の位置にも合わせることができるので、試料の内部のラマン分光測定を行える。例えば、ガイド筒の先端にATR結晶体と試料との密着性を高めるためにキャップを取り付けて、キャップを試料に押し付けるようにする場合でも、キャップの厚さの分だけ、集光点の位置を試料側に移動させることで、試料に集光点を合わせることができるので、キャップを付けた状態でもラマン分光測定を実行できる。
【0011】
また、前記レンズ体の形状が半球または球であり、
該レンズ体が試料をATR結晶体側に押す位置になるように、該レンズ体は、前記レンズ体の位置調整装置によって位置調整可能に設けられていることが好ましい。
また、前記ラマン分光機器は、前記励起光源の出口のコリメートレンズの位置を光軸方向に調整するレンズ位置調整装置と、
前記分光器前の結像レンズの位置を光軸方向に調整するレンズ位置調整装置と、
を備えることが好ましい。
この構成では半球または球のレンズ体を用いることで、開口数が大きく、かつ、バックフォーカス(BFL)の短いレンズ体を選択し易くなる。そうすると、微量な試料や厚さの薄い試料にレンズ体を押し付けた状態にしても、コリメートレンズおよび結像レンズのレンズ位置調整装置を操作して、励起光の集光点を試料に合わせることが可能になり、そのような試料のラマン分散光を測定することができる。しかも、レンズ体の開口数が大きければ、共焦点性に優れた測定が可能になるので、ATR結晶体を由来とするピークがラマン分光測定の結果に重なることを更に回避し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一実施形態に係るATR付属品の全体構成を示す図である。
【
図2】前記ATR付属品におけるラマンモジュールの構成を示す図である。
【
図3】前記ラマンモジュールのフォーカス調整装置の構成を示す図である。
【
図4】(A)、(B)は差スペクトルでATRプリズム由来のピークを除去する方法を示す図である。
【
図5】(A)は前記ガイド筒の先端に押えキャップを取り付けた状態を示す図であり、(B)は前記ガイド筒の先端自体に窓板を嵌め込んだ状態を示す図である。
【
図6】前記ラマンモジュールに球レンズを適用した例を示す図である。
【
図7】前記ラマンモジュールに半球レンズを適用した例を示す図である。
【
図8】試料を押さえながら、光軸方向に集光点を移動させる機構の説明図。
【
図9】前記ラマンモジュールからガイド筒およびレンズ筒などを取り外した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図を用いて本発明に係るATR付属品(全反射測定装置に相当する。)の実施形態を具体的に説明する。
【0014】
図1は、第一実施形態に係るATR付属品100の構成を表す模式図である。ATR付属品100は、試料よりも屈折率の高いATRプリズム(ATR結晶体に相当する。)200を試料に接触させて全反射測定をするのに用いられるFTIR300用の付属品であり、FTIR300の試料室310に装着される。
【0015】
図1に示すように、ATR付属品100は、ステージ210の中央部の孔に嵌め込まれたATRプリズム200と、ステージ210の下方に配置された赤外光学機器220と、ステージ210上の昇降装置240と、この昇降装置240の移動部分(リフト部)に着脱自在に取り付けられたラマンモジュール(ラマン分光機器に相当する。)10と、を有する。
【0016】
<赤外光学機器>
赤外光学機器220は、赤外光の入射窓222、複数の反射鏡224a~224f、および赤外光の出射窓226を有し、これらがステージ210を天板とする筐体228の中に配置されている。FTIR300の赤外光源320からの赤外光は、ATR付属品100の入射窓222の前の集光レンズ330で集光されて、入射窓222から筐体228に入る。筐体228内で赤外光は、入射側の複数の反射鏡224a~224cを反射し、ATRプリズム200に入って、ATRプリズム200内部で試料との密着面を全反射する。その全反射光は、ATRプリズム200を出て、出射側の複数の反射鏡224d~224fを反射し、出射窓226から出る。そして、出射窓226の外のコリメートレンズ340によって平行光となって赤外検出器350に送られる。
【0017】
<昇降装置>
次に、昇降装置240は、ステージ210上に立設されたコラム242と、コラム242上端に支持されたアーム部244と、このアーム部244をベースとして上下に移動自在に支持されたリフト部246と、を有する。昇降装置240は市販品を用いることが可能で、例えば、ツマミ部248を測定者が回転させることで、リフト部246が昇降する機構のものを採用してもよい。なお、アーム部244は、コラム242の中心軸周りに旋回自在に支持されるようにしてもよい。コラム242の中心軸は鉛直方向であり、
図1にZ軸として示す。
【0018】
<ラマンモジュール>
ラマンモジュール10は、昇降装置240のリフト部246に着脱自在に支持される。ラマンモジュール10のリフト部246への取り付けには、ネジやマグネット等を用いるとよい。ラマンモジュール10は、
図2で詳しく説明するが、モジュール本体(筐体28)と、モジュール本体の下端に接続されたフォーカス調整装置40と、下端から励起光を出射する筒状のガイド筒60とを有し、ガイド筒60の下端開口がATRプリズム200を向く姿勢でリフト部246に支持される。なお、ラマンモジュール10は、リフト部246から取り外した状態では、片手で掴むことができる大きさであり、単独でのラマン分光測定が可能に構成されている。
【0019】
測定者は、昇降装置240に取り付けられたラマンモジュール10を上昇させて、ステージ210のATRプリズム200上に試料を載置する。例えば、少量の粉体試料や厚さの薄いシート状の試料を載せる。そして、昇降装置240でラマンモジュール10を下降させて、ガイド筒60の下端をゆっくりステージ210上の試料に接触させる。昇降装置240のツマミ部248には、ガイド筒60の先端が試料を過度に押えないようにトルクリミッター(ツマミ部248に設定以上のトルクが作用したらツマミ部248が空回りする機構)を設けてもよい。
【0020】
なお、固体や粉体の試料に限らず、液体試料やこれらの混合物でもよい。また、試料の量については、載置面上に載置される少量の試料から、容器・袋などに入った多量の試料まで、測定できる。
【0021】
図2に示すようにラマンモジュール10の筐体28内には、励起光源12、コリメートレンズ15c、ダイクロイックミラー(DM)14、分光器16、光検出器18、マイクロプロセッサおよびメモリーを有する制御回路20、電源22、アナログ・ディジタル(A/D)変換器24、および通信インタフェース(I/F)26が配置されている。電源22には、バッテリーを設けてもよいが、バッテリーを用いないで直接電源供給部(ACアダプター等)を設けてもよい。
【0022】
励起光源12は、レーザーダイオード等であり、レーザー光を励起光として出力する。筐体28に開閉カバーを設けて、励起光源12を着脱自在に構成することで、試料の種類・形態に応じた波長の励起光源12への交換が容易になる。
【0023】
図2の構成では、励起光源12からの励起光は、コリメートレンズ15cで平行光になって、ダイクロイックミラー(DM)14を透過し、フォーカス調整装置40およびガイド筒60を通って試料を照射する。DM14とフォーカス調整装置40の間にはシャッター30が設けられ、ラマンモジュール10を使用しない時にシャッター30を閉じて、励起光の不要な出射を防止する。
【0024】
また、ガイド筒60からの戻り光(ここではラマン光)は、フォーカス調整装置40を通ってDM14を反射し、結像レンズ15aおよびスリット15bを介して、分光器16で波長毎に分散され、光検出器18を構成するCMOSイメージセンサ等によって光強度のスペクトル分布として検出される。DM14は、特定の波長域の入射光を反射し、それ以外を透過することで、入射光から必要な光(ラマン光)を分離することができる光学素子であり、同様の機能を持つ他の光学素子に置き換えることもできる。
【0025】
本実施形態では、光検出器18に、小型・軽量・省電力化のために冷却機能のない検出器またはセンサを用いているが、冷却機能のついたものでも構わない。SN比が小さい場合は、測定時間を延長し、検出信号の積算を増やすとよい。光検出器18からの検出信号は、A/D変換器24でディジタル信号に変換され、制御回路20に送られる。制御回路20は、検出信号に基づいて、試料のスペクトル情報を算出し、これを保存する。また、制御回路20は、スペクトル情報をUSBなどの通信I/F26を経由して外部コンピュータ(PC)400に出力し、そのモニターに表示させることができる。なお、外部PC400は、スマートフォン等の携帯型コンピュータであってもよい。ラマンモジュール10の測定スペクトルを携帯型コンピュータが暗号化メールにして、さらに外部のデータベースを有するサーバーコンピュータに送信してもよい。サーバーコンピュータが受信した測定スペクトルを詳細に分析して、携帯型コンピュータがその分析結果を受信しモニター等に表示してもよい。
【0026】
図3にラマンモジュール10の筐体28に接続されるフォーカス調整装置40およびガイド筒60の構成例を示す。
【0027】
<フォーカス調整装置>
フォーカス調整装置40は、筐体28に固定される固定部材42と、固定部材42に対してZ方向に移動自在に支持される可動部材44とを有する。固定部材42は、筐体28からの励起光の光軸に沿った貫通孔46を有する。貫通孔46の筐体28寄りの内面には内ネジ48が加工され、また、貫通孔46の中央部には、可動部材42のツマミ部52を操作するための比較的大きい開口部がZ方向と直交する方向に形成されている。
【0028】
可動部材44は、励起光の光路を形成する筒状の部材であり、筐体28寄りの外面には固定部材42の内ネジ48と螺合する外ネジ50が加工されている。また、可動部材44の試料寄りの端部には、外ネジ50の部分よりも大径のツマミ部52が形成されている。可動部材44の貫通孔54には、試料側から筒状のレンズ筒56が着脱自在に取り付けられる。また、レンズ筒56の試料側の先端付近にはレンズ体(凸レンズまたはアクロマティックレンズ)58が支持されている。
【0029】
<ガイド筒>
固定部材42の貫通孔46には、試料側からガイド筒60が着脱自在に取り付けられる。ガイド筒60の貫通孔62の試料側の先端は、内径が小さく形成され、丁度、レンズ筒56の先端が挿入されて、レンズ筒56がZ方向に移動できるように形成されている。
【0030】
ガイド筒60およびレンズ筒56は二重筒構造を形成し、外側のガイド筒60は固定部材42に支持され、内側のレンズ筒56は可動部材44に支持されているので、測定者がツマミ部52を回して可動部材44をZ方向に下降/上昇させると、レンズ筒56の先端が試料に密着/離間する方向に移動する。ガイド筒60およびレンズ筒56の二重筒構造を形成することで、フォーカス調整装置40を試料から離れた位置に設けることができ、二重筒の構造体を極力細くすることができるので、測定者が、ガイド筒60の先端と試料との接触状態を視認し易くなり、ラマンモジュール10の位置調整が容易になる。
【0031】
レンズ筒56内を進む励起光(平行光)は、レンズ体58で集光されて、レンズ筒56の先端よりも試料側に出た位置に集光点Pを形成する。レンズ体58による励起光の集光点の位置と、分光器16前のスリット15bとは共役の位置関係になっている。
図3に示すように、可動部材44が基準位置(ツマミ部52が最も筐体28寄りの位置)にある場合に、この集光点Pの位置は、丁度、ガイド筒60の先端の位置になる。
【0032】
本実施形態では、
図3に示すように、測定者が昇降装置240を操作してラマンモジュール10を下降させて、ガイド筒60の下端で試料をATRプリズム側に押圧することで、試料をATRプリズム200に密着させることができ、ATR測定を良好な条件で実行できる。
同時に、ガイド筒60の下端が試料に接触する位置にあるため、ガイド筒60内が遮光状態となって、外部からの光の影響を受けないラマン分光測定を実行することができる。
さらに、測定者がフォーカス調整装置40を操作してレンズ体58の集光点Pの位置をZ方向に調整することが可能になり、特に、集光点Pを試料の表面または内部に合わせることで、ATRプリズム200を由来とするピークがラマン分光測定の結果に重なることを回避することができる。
従って、それぞれ良好な測定条件下で、ATR測定とラマン分光測定を同時に実行することができる。
【0033】
ラマンモジュール10は、赤外光源12出口のコリメートレンズ15c、試料に近いレンズ体58、および分光器16の入口の結像レンズ15aを有し、これらが共焦点光学系を形成するので、共焦点性の高いラマン測定が実行される。例えば、試料が多層構造の場合、フォーカス調整装置40を操作することで、集光点PをATRプリズム200の測定面に位置合わせすることも可能になり、ATR測定との整合を取れる。
図4に示すように、ラマンモジュール10の共焦点光学系と、レンズ体58のフォーカス調整装置40とを利用して、励起光の集光点Pを光軸方向に移動させる。ATRプリズム200由来のピークが試料のピークと重なる場合に、集光点Pの位置を変えて、
図4(A)の試料のスペクトルと、
図4(B)のダイヤモンドプリズムのスペクトルとをそれぞれ測定して、例えば試料のスペクトルに対して、プリズムのスペクトルに係数を掛けて、両者の差スペクトルを算出すれば、ATRプリズム200由来のピークを計算によって除去することができる。測定点は、プリズムの測定点と試料の測定点の少なくとも2点あればよい。
【0034】
<押しキャップ>
図5(A)に、ガイド筒60の下端に押しキャップ64を取り付けた状態を示す。押しキャップ64は、ガイド筒60の開口を覆うとともに、中央部に小径の孔65を有していて、ここから集光された励起光が出射する。押しキャップ64を取り付けることで、ガイド筒60が試料を押圧する面積が大きくなり、ATRプリズム200と試料の密着状態が良好になる。また、フォーカス調整装置40を操作してレンズ体58の集光点Pの位置を、押しキャップ64の厚さ分だけZ方向に調整することで、試料における集光点Pの位置を押しキャップ64の取付前と同じ状態にすることができる。
【0035】
なお、様々な下端の形状を有する押しキャップ64から適宜選択したものを用いてもよい。例えば、試料との接触面が金属製であるものと樹脂製であるものとを選択できるとよい。また、接触面がフラットであるものと凹形状であるものとを選択できるとよい。また、試料との接触部分の動きに自由度があるフレキシブルタイプのものを選択できるとよい。
【0036】
<窓板付きガイド筒>
図5(B)に、キャップ方式ではなく、ガイド筒60の下端の開口自体を窓板72で塞いだ状態のものを示す。窓板72は、ラマン測定を妨害する光を発生し難い石英などの材質を用いるとよい。窓板72を取り付けることで、励起光は窓板72を透過するが、試料はその形状が液体やゲル状であってもガイド筒60の内部に侵入しない。よって、内部のレンズ58が汚染されず、ATR測定とラマン測定を容易に実行できる。
【0037】
<他のレンズ体>
図3のレンズ体(凸レンズ)58の開口数が大きければ、フォーカス調整装置40を操作して更にレンズ筒56を下降させて、レンズ筒56の先端で試料を押圧させることもできる。しかし、試料が少量である場合や、試料の厚さが薄い場合は、レンズ体58の集光点Pが試料から外れる場合があるので、ラマン測定の結果にATRプリズム200由来のラマンピークが重なってしまうことに注意する必要がある。
【0038】
これに対して、
図6,
図7に示す異なる形状のレンズ体を用いた実施形態を説明する。
図6では、レンズ筒56の先端に球レンズ66が固定され、球レンズ66の一部がレンズ筒56から下方に突出した状態になっている。球レンズ56は開口数が大きく、かつ、バックフォーカス(BFL)も短く、感度・空間分解能が高くなる。つまり、球レンズ56の下端から集光点Pまでの距離が小さいので、フォーカス調整装置40で球レンズ56の位置を下げて、球レンズ56を試料に接触させた状態にしても、集光点Pの位置が試料から外れないようにすることができる。
【0039】
同様に、
図7に示す半球レンズ(例えばソリッドイマージョン(SIL)レンズ)68も、開口数が大きく、かつ、バックフォーカス(BFL)も短いので、球レンズ66と同様に、試料に接触させた状態でのラマン分光測定が可能になる。また、球レンズ66のように点接触ではなく、半球レンズ68では試料と面接触することができる。
【0040】
これらの球レンズ66、半球レンズ68を用いれば、ガイド筒60とレンズ体の両方を試料に接触させることができるので、試料とATRプリズム200との密着状態をより確実にすることができて、より良好なATR測定結果を得ることができる。
【0041】
図8に、コリメートレンズ15cのレンズ位置調整装置80と、結像レンズ15aのレンズ位置調整装置82とを設けたラマンモジュール10の例を示す。球レンズ66や半球レンズ68付きのレンズ筒56を利用する場合、
図8(A)に示すように、レンズ位置調整装置80を操作して、励起光源12の出口のコリメートレンズ15cの位置を光軸に沿って移動させると、フォーカス調整装置40を操作することなく、球レンズ66の集光点Pの位置を変えることができる。この場合、分光器16のスリット15bでの結像位置も移動するので、コリメートレンズ15cの位置と、分光器16のスリット前の結像レンズ15aの位置とを同期させる必要がある。そこで、
図8(B)のように、結像レンズ15aのレンズ位置調整装置82を設ければ、球レンズ66の集光点Pの位置が移動しても、結像位置をスリット15bの位置に合わせることができる。このように、凸レンズ58だけでなく、球レンズ66や半球レンズ68付きのレンズ筒56を利用する場合も、試料を押さえながら、集光点Pの深さ(光軸)方向の位置を変更することができる。
【0042】
<交換性>
図3に示すように、可動部材44の貫通孔54の内面には、ボールプランジャー70が1つ以上埋め込まれている。ボールプランジャー70はバネと球体で構成され、バネ力で球体の一部が貫通孔の内面から突出するように保持される。また、レンズ筒56の上端付近の外周には、ボールプランジャー70の球体に対応する溝が形成されている。レンズ筒56を貫通孔54に押し込むと、球体が溝に嵌って、レンズ筒56が可動部材44に保持された状態になる。また、レンズ筒56を一定以上の力で引くと、球体と溝との篏合が解除されて、レンズ筒56が貫通孔54から取り出される。このようにして、可動部材44にレンズ筒56をクィックジョイント・クィックリリースすることができる。
【0043】
同様に、固定部材42の貫通孔46とガイド筒60の間も、ボールプランジャー70を用いた着脱構造になっており、ガイド筒60のクィックジョイント・クィックリリースが可能になっている。
【0044】
図9に、フォーカス調整装置40からレンズ筒56およびガイド筒60を取り外した状態を示す。また、ガイド筒60から取り外した押しキャップ64も示す。このような着脱式のレンズ筒56、ガイド筒60、および押しキャップ64を適宜選択して用いれば、交換が容易になるだけでなく、長さの異なる筒への適宜変更も容易になる。また、
図9に示すように、レンズ筒56については、複数種類のレンズ体(凸レンズ58、球レンズ66、半球レンズ68)からの選択・交換も容易になる。また、ガイド筒60については、先端の押し付け部分の材質や形状を、押しキャップ64と同様に試料に合わせて変更することも容易になる。
図9には、先端に微小開口74を設けたガイド筒60、および、窓板72を設けたガイド筒60の例も示す。
【0045】
なお、昇降装置240の昇降動作およびフォーカス調整装置40の駆動を手動ではなく、電動にしてもよい。
【0046】
また、
図1に示すようにATRプリズム200を下方から撮像するカメラ230を設けるとよい。カメラ230は、ATRプリズム200越しに試料の可視光像を撮像する。試料の可視光像は、試料の測定部位の位置調整に役立つ。さらに、ラマン用の励起光の集光点Pの光軸方向の位置合わせ、および、励起光の集光点Pに試料の測定部位を調整するのにも役立つ。
【符号の説明】
【0047】
10 ラマンモジュール(ラマン分光機器)
12 励起光源
16 分光器
40 フォーカス調整装置(レンズ体の位置調整装置)
42 固定部材
44 可動部材
56 レンズ筒
58 凸レンズ(レンズ体)
60 ガイド筒
66 球レンズ(レンズ体)
68 半球レンズ(レンズ体)
100 ATR付属品(全反射測定装置)
200 ATRプリズム(ATR結晶体)
220 赤外光学機器
300 フーリエ変換分光光度計(FTIR)