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特開2023-6959ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006959
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/52 20060101AFI20230111BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20230111BHJP
   B01D 9/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C07C67/52
C07C69/82 B
B01D9/02 601J
B01D9/02 602C
B01D9/02 603B
B01D9/02 604
B01D9/02 615A
B01D9/02 617
B01D9/02 625A
B01D9/02 625B
B01D9/02 625E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109859
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】西澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 綾子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健治
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AD15
4H006BC51
4H006BC52
4H006BE60
4H006BN10
(57)【要約】
【課題】ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)の水溶液から、従来の方式より装置容量、建設費用、設置面積等を低減し、スケーリングの溶解操作頻度を低減し、安定的に高純度なBHETの結晶を得ることが可能なBHETの製造方法を提供する。
【解決手段】20~30wt%のBHETを含む水溶液の晶析操作を行う晶析槽10と、晶析槽10の内部を減圧する真空発生装置32とを用いて、前記水溶液に対して溶媒である水の蒸発により、前記水溶液を断熱冷却することで、晶析槽10にBHETの結晶を含むスラリー13を得る工程と、晶析槽10から抜き出したスラリー13を、固液分離機20に供給することにより、BHETの結晶と母液とを得る工程と、を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20~30wt%のビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む水溶液の晶析操作を行う晶析槽と、前記晶析槽の内部を減圧する真空発生装置とを用いて、前記水溶液に対して溶媒である水の蒸発により、前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽にビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶を含むスラリーを得る工程と、
前記晶析槽から抜き出したスラリーを、固液分離機に供給することにより、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶と母液とを得る工程と、
を有することを特徴とするビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法。
【請求項2】
60℃以上の温度でビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートが溶解された前記水溶液を前記晶析槽に連続的に供給し、前記晶析槽の内部が、3.7~8.6kPaAかつ30~45℃の条件下で前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽に前記スラリーを連続的に得ることを特徴とする請求項1に記載のビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法。
【請求項3】
前記固液分離機が遠心分離機またはろ過機であることを特徴とする請求項1または2に記載のビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法。
【請求項4】
固液分離により前記固液分離機内に形成されたビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶のケーキ層に対して、水により洗浄を行うことで、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの純度を高めることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造方法。
【請求項5】
20~30wt%のビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む水溶液の晶析操作を行う晶析槽と、前記晶析槽の内部を減圧する真空発生装置と、を備え、前記水溶液に対して溶媒である水の蒸発により、前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽にビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶を含むスラリーを得る晶析装置と、
前記晶析槽から抜き出したスラリーから、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶と母液とを得る固液分離機と、
を有することを特徴とするビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートの結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(以下「BHET」という。)の結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水溶液から結晶を得る方法としては、例えば晶析開始時と晶析終了時との温度差における溶質の水への溶解度の差を利用した冷却晶析という方法がある。そのうち、間接冷却式晶析では、冷却ジャケット付きの晶析槽が工業的に広く用いられている。しかし、冷却ジャケット付きの間接冷却晶析槽を大規模設備に適用しようとした場合、冷却に必要となる伝熱面積を確保するためには、晶析槽の径または高さあるいはその両方を大型化する必要がある。このため、伝熱面積に対して晶析槽の内部におけるスラリー保有容量が過大となり、装置費用、工事費用、設置面積も過大になる。
【0003】
また、間接冷却式晶析のうち、晶析槽の外部にプロセス液を冷却する冷却器を有する循環系を備えた構成の場合、冷却器内でのスケーリングを抑制するため、冷媒とプロセス液との温度差を低く抑える必要がある。この構成を大規模設備に適用しようとした場合、冷却に必要な交換熱量を得るためには冷却器およびプロセス液を循環させる循環ポンプが過大となり、装置費用、工事費用、設置面積も過大になる。
【0004】
間接冷却式晶析の場合は、冷却ジャケットを用いる構成、冷却器を有する循環系を用いる構成のいずれの場合も、伝熱面への経時的な結晶スケーリングや結晶の堆積が避けられない。結晶スケーリングや結晶の堆積を除去するには、生産停止状態における溶解操作が必要となるため、定期修繕以外の時期における生産停止を回避することが難しい。
【0005】
また、冷却晶析においてはバッチ操作、連続操作のいずれも広く用いられている。例えば、特許文献1には、BHET水溶液を所定の冷却速度条件下にて冷却し、晶析開始時と終了時の操作温度差におけるBHETの水への溶解度の差を利用したバッチ操作にて冷却し、BHET結晶を晶出させる方法が記載されている。
【0006】
一般に工業プロセスにおけるバッチ操作は、連続操作と比較して、(1)単位操作ごとのスタート及びストップが生じるため、オペレーションの人的負荷が高くなること、(2)生産量の増減に対する柔軟性が低いこと、(3)設備が大型化しやすいこと等のデメリットが挙げられる。この点は、晶析プロセスも例外ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-88096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、BHETの水溶液から、従来の方式より装置容量、建設費用、設置面積等を低減し、スケーリングの溶解操作頻度を低減し、安定的に高純度なBHETの結晶を得ることが可能なBHETの結晶の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、以下の態様を提案している。
【0010】
本発明の第1の態様は、20~30wt%のBHETを含む水溶液の晶析操作を行う晶析槽と、前記晶析槽の内部を減圧する真空発生装置とを用いて、前記水溶液に対して溶媒である水の蒸発により、前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽にBHETの結晶を含むスラリーを得る工程と、前記晶析槽から抜き出したスラリーを、固液分離機に供給することにより、BHETの結晶と母液とを得る工程と、を有することを特徴とするBHETの結晶の製造方法である。
【0011】
第1の態様によれば、晶析槽において晶析操作の対象とするBHET水溶液に対して、真空発生装置による減圧下で、溶媒である水の蒸発による断熱冷却操作を行うと、BHETの結晶が析出する。さらに、晶析槽で生成したスラリーを晶析槽から抜き出し、固液分離により結晶と母液とに分離することにより、高品質の精製BHETを得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、60℃以上の温度でBHETが溶解された前記水溶液を前記晶析槽に連続的に供給し、前記晶析槽の内部が、3.7~8.6kPaAかつ30~45℃の条件下で前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽に前記スラリーを連続的に得ることを特徴とする第1の態様のBHETの結晶の製造方法である。
【0013】
第2の態様によれば、BHETの良好な針状結晶を晶出させることができる。連続的にBHETの結晶を生成することにより、省力化、生産性の向上、製品品質の向上、設備の省スペース化などが期待できる。
【0014】
本発明の第3の態様は、前記固液分離機が遠心分離機またはろ過機であることを特徴とする第1または第2の態様のBHETの結晶の製造方法である。
【0015】
第3の態様によれば、BHETのスラリーから容易にBHETの結晶を得ることができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、固液分離により前記固液分離機内に形成されたBHETの結晶のケーキ層に対して、水により洗浄を行うことで、BHETの純度を高めることを特徴とする第1~第3のいずれか1の態様のBHETの結晶の製造方法である。
【0017】
第4の態様によれば、BHETの結晶の純度を容易に高めることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、20~30wt%のBHETを含む水溶液の晶析操作を行う晶析槽と、前記晶析槽の内部を減圧する真空発生装置と、を備え、前記水溶液に対して溶媒である水の蒸発により、前記水溶液を断熱冷却することで、前記晶析槽にBHETの結晶を含むスラリーを得る晶析装置と、前記晶析槽から抜き出したスラリーから、BHETの結晶と母液とを得る固液分離機と、を有することを特徴とするBHETの結晶の製造装置である。
【0019】
第5の態様によれば、晶析槽において晶析操作の対象とするBHET水溶液に対して、真空発生装置による減圧下で、溶媒である水の蒸発による断熱冷却操作を行うと、BHETの結晶が析出する。さらに、晶析槽で生成したスラリーを晶析槽から抜き出し、固液分離により結晶と母液とに分離することにより、高品質の精製BHETを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、BHETの水溶液から、従来の方式より装置容量、建設費用、設置面積等を低減し、スケーリングの溶解操作の頻度を低減し、安定的に高純度なBHETの結晶を得ることができる。より具体的には、伝熱面積を確保するために晶析槽の径または高さあるいはその両方を大型化することなく、BHETの水溶液を冷却することができ、かつ、その冷却のためのエネルギー量が低減される。また、伝熱面への経時的な結晶スケーリングや結晶の堆積を抑制することができるので、スケーリングの溶解操作に起因する、定期修繕以外の時期における生産停止も最小限で済むようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に用いる装置の構成を例示する概略図である。
図2】BHETの溶解量の温度変化を示すグラフである。
図3】実施例1に用いた装置の構成を示す概略図である。
図4】比較例1に用いた装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0023】
図1に示すように、実施形態に用いる装置は、概略として、晶析槽10と、固液分離機20と、真空発生装置32とを備えている。このうち、断熱冷却式の晶析操作に用いる晶析装置100は、晶析槽10と、真空発生装置32とを備えている。
【0024】
<晶析工程>
管路41より、原液1として、BHETを含む水溶液が晶析槽10に供給される。晶析槽10の周囲には、加熱媒体2が流通するジャケット12が設けられている。ジャケット12に加熱媒体2を流通させることにより、晶析槽10の水溶液の温度を所定の値に維持することができる。
【0025】
晶析工程の初期段階では、BHETを含む水溶液が晶析槽10に収容された状態で、真空発生装置32を用いて晶析槽10の内部を減圧すると、溶媒として水溶液に含まれる水が蒸発し、さらに水蒸気が断熱的に膨張して、温度が低下する。このような断熱冷却操作により、晶析槽10内の水溶液は冷却される。晶析槽10内の水溶液の断熱冷却による断熱冷却式晶析を行うことにより、水の蒸発に伴い、供給される原液1の熱量やBHETの結晶化熱が奪い取られ、晶析槽10中にBHETの結晶が析出して、水溶液とBHETの結晶とが混在するスラリー13が生成している。このとき必要となる外部入熱量は僅かである。このため、加熱媒体2として、温水、蒸気等を使用して差し支えない。
晶析槽10内に、スラリー13が保持された状態となったあとは、新たに水溶液を供給し、断熱式晶析を連続的に行うとともに、スラリー13の一部を晶析槽10より抜き出す。
【0026】
晶析操作において、水の蒸発過程で結晶が飛沫に同伴されることでスラリー13の液面近傍、例えば晶析槽10の側壁面や、撹拌機14が設置されている場合には、撹拌機14の駆動軸などにスケーリングとして付着する場合がある。間接冷却式の場合は、冷却された伝熱面にスケーリングが発生すると、晶析操作中の溶解操作が困難である。断熱冷却式晶析の場合は、スラリー13液面の近傍で溶解操作を実施しても、減圧による水の蒸発を妨げにくいため、スケーリング溶解工程を行いながら、晶析操作による結晶生産運転を実施することができる。
【0027】
スケーリングを溶解するには、例えば、晶析槽10内部でスラリー13液面上方の空間15にシャワーリングやスプレーノズル等の溶解設備を設置し、スケーリングが発生した箇所、例えば晶析槽10の側壁面、スラリー13液面、撹拌機14の駆動軸などに向けて水などのスケーリング溶解液4を供給する方式が挙げられる。
【0028】
さらに断熱冷却式晶析の場合は、水の蒸発潜熱によりスラリー13を冷却することができるため、実施形態の装置を大規模設備に適用しようとした場合、必要となる伝熱面積を確保するために、晶析槽10の径または高さあるいはその両方を大型化する必要がない。また、晶析槽10内部のスラリー13保有容量が過大となることもない。
【0029】
これにより、装置費用や工事費用の削減を図ることができる。また、装置の設置に必要な面積のコンパクト化を図ることができる。また、間接冷却式の場合に見られるような経時的な結晶スケーリングや結晶の堆積に起因する、定期修繕以外の時期における生産停止による溶解操作も必要としない。連続的に結晶を生成することにより、省力化が図られる。自動的なプロセスの常時監視も容易である。これにより、生産性の向上、製品品質や安全性の向上、設備の省スペース化などが期待できる。
【0030】
晶析槽10に供給される原液1の温度、及び晶析槽10に収容される水溶液またはスラリー13の温度は、BHETの溶解量に応じて、設定することが好ましい。水100cc(100cm)におけるBHETの溶解量は、次のとおりである。
【0031】
5℃:0.28g
40℃:1.34g
60℃:11.26g
80℃:53.42g
【0032】
BHET溶解量(g/100cc-水)のプロットを図2に示す。水溶液の温度が40℃以下または40℃付近ならBHETの水に対する溶解量が1wt%程度と少ない値であり、BHETの高い回収率が見込まれる。また、晶析槽10の内部温度が40℃以下で晶析操作を行う場合は、晶析槽10で得られるBHETのスラリー13濃度が20~30wt%となるよう、出発原料の原液1を、20~30wt%のBHETを含む水溶液とすることが好ましい。
【0033】
原液1として晶析槽10に供給される水溶液は、温度を65℃以上、好ましくは65~70℃まで加熱してBHETを全て溶解させていることが好ましい。原液1を晶析槽10に供給する工程は、連続式でもバッチ式でもよい。晶析槽10内で断熱冷却し、冷却された水溶液の温度は、上述したように、40℃付近、好ましくは30~45℃、さらに好ましくは35~40℃に制御するとよい。
【0034】
晶析槽10内にはBHETの結晶が析出し、水溶液と混在するスラリー13が生成している。この場合、スラリー13の温度は、スラリー13中に含まれる水溶液の温度と同一とみなすことができる。原液1の晶析槽10への供給に伴い、スラリー13の温度が一時的に上昇してもよい。晶析槽10の内部がスラリー13の断熱冷却で上述の温度で操作されている状態で、スラリー13を晶析槽10から抜き出すことが好ましい。また、スラリー13の温度が継続的に上述の温度範囲内に維持されるよう、制御することが好ましい。
【0035】
断熱冷却操作中の晶析槽10内の圧力(絶対圧:kPaA)は、飽和水蒸気圧に対して、適宜の範囲内であることが好ましい。例えば、晶析槽10内のスラリー13温度が30℃であれば、3.7kPaA程度が好ましく、35℃であれば、5.0kPaA程度が好ましく、40℃であれば、6.6kPaA程度が好ましく、45℃であれば、8.6kPaA程度が好ましい。例えば、晶析槽10内の圧力を飽和水蒸気圧の80~95%程度としてもよい。
【0036】
晶析工程における晶析槽10内の圧力は、晶析槽10内でスラリー13液面上方の空間15における気相の圧力を制御してもよく、晶析槽10の外部で、真空発生装置32により発生する圧力を制御してもよい。晶析槽10の外部で圧力を測定する場合は、晶析槽10とベーパー凝縮器30との間の管路46で圧力を測定してもよく、気液分離槽31と真空発生装置32との間の管路47で圧力を測定してもよい。
【0037】
原液1として60℃以上の温度でBHETが溶解された水溶液を晶析槽10に連続的に供給し、晶析槽10の内部が、3.7~8.6kPaAかつ30~45℃の条件下でスラリー13を断熱冷却することで、晶析槽10にBHETのスラリー13を連続的に得ることが好ましい。さらには、5.0~6.6kPaAかつ35~40℃の条件下かつ30~45℃の条件下で断熱冷却晶析を行うことでBHETのスラリー13を連続的に得ることが好ましい。
【0038】
晶析槽10にはBHETの水溶液と結晶を含むスラリー13が得られる。晶析槽10からスラリー13を抜き出す工程は、連続式でもバッチ式でもよい。詳しくは後述するように、スラリー13から結晶と母液とを固液分離して得られる母液の少なくとも一部を晶析槽10に戻してもよい。母液44を晶析槽10に戻す工程は、連続式でもバッチ式でもよい。
【0039】
晶析槽10に対する原液1の供給、スラリー13の抜き出し、母液44の戻しが、それぞれ連続的に実施されてもよい。連続晶析を行うことにより、晶析槽10におけるスラリー13の温度およびBHETの濃度を所定の範囲内に維持しながら、連続的にBHETを晶析することができる。原液1と母液44の割合を適宜調整してもよい。特に図示しないが、晶析槽10の内部に撹拌翼等の撹拌装置を設置、あるいは母液を外部に抜き出し再度供給する循環手段を設置することで、晶析槽10内のスラリー13を撹拌してもよい。
【0040】
<固液分離工程>
生成したスラリー13は晶析槽10から管路42を介してポンプ11により抜き出し、管路43を通じて固液分離機20に移送される。スラリー13を固液分離機20に供給して固液分離操作を行うことにより、BHETの結晶と母液とに分離される。これにより、高品質の精製BHETを得ることができる。
【0041】
固液分離機20としては、特に限定されないが、遠心分離機またはろ過機が好ましい。これにより、BHETのスラリーから容易にBHETの結晶を得ることができる。固液分離機20の具体例としては、遠心分離機として、ろ布や金属スクリーン等のろ材を有した底部排出型のバッチ式遠心分離機、金属スクリーンを有したバスケット型の連続式の遠心分離機、横型遠心分離機、またろ過機として、連続走行するろ布上にスラリーを供給し、ろ布の進行方向に沿って往復動する真空トレイからの吸引により、連続的に真空ろ過を行う真空ろ過機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、遠心ろ過機等であってもよく、沈降分離機等であってもよい。
【0042】
固液分離機20において結晶を洗浄した後、結晶分流れCrと母液44とに分離することが好ましい。結晶洗浄の方法は特に限定されないが、固液分離機20内に形成されたBHETの結晶からなるケーキ層に対して、水により洗浄を行うことが好ましい。これにより、BHETの結晶の純度を容易に高めることができる。ケーキ層の効率的な洗浄のために、ケーキ層を全自動で水洗浄できる機構を持つ固液分離機を使用することが好ましい。結晶洗浄に用いた洗浄水は、母液に合わせてもよく、母液とは分けてもよい。
【0043】
固液分離機20により得られたBHETの結晶は、固液分離機20から結晶分流れCrとして、後工程に移送される。結晶分流れCrは乾燥手段により付着水を除去することでより高品質のBHETを得ることができる。乾燥手段は、特に限定されないが、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。
【0044】
固液分離機20から排出された母液44は、一旦、母液受槽21に貯留された後、母液ポンプ22により抜き出し、管路45を通じて晶析槽10に戻すことができる。このように、晶析槽10から排出されたスラリー13に含まれる母液は、固液分離を経て晶析槽10に戻され、循環する。母液中の不純物の蓄積または濃縮により、結晶の性状または品質に影響を及ぼす場合は、母液44の一部をパージし、パージ流れPuとして系外に排出してもよい。
【0045】
<凝縮工程>
晶析槽10で断熱冷却操作により発生した蒸発ベーパーは、管路46を通し、ベーパー凝縮器30にて凝縮され、気液分離槽31に導かれる。ベーパー凝縮器30は、晶析槽10と真空発生装置32との間に配置されている。気液分離槽31は、ベーパー凝縮器30と真空発生装置32との間に配置されている。
【0046】
ベーパー凝縮器30の設備や工程に限定はないが、シェル&チューブ式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器などが挙げられる。蒸発ベーパーは冷媒3を流通させたベーパー凝縮器30に導き、水分の凝縮を図る。蒸発ベーパー中の水分が凝縮することにより、凝縮水を含む液相部と、空気等のガスを含む気相部とが混在した状態になる。
【0047】
気液分離槽31では、気相部は管路47を通し、真空発生装置32にて吸気される。真空発生装置32としては、吸気側に未凝縮の水分を含んでも運転への影響が少ない機種が好適である。液相部は、管路48を通しポンプ33により抜き出され、凝縮水流れCdにて廃棄または再利用される。凝縮水の成分は、晶析槽10にて蒸発した水であるため、洗浄水などの工業用水として再利用することが可能である。装置の系内で凝縮水を再利用してもよく、系外で凝縮水を再利用してもよい。また、得られた凝縮水は、固液分離機20の洗浄液または、晶析槽10のスケーリング溶解液4として供給することができる。
【0048】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0049】
原料として用いられるBHETとしては、特に限定されないが、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、ジメチルテレフタレート等のテレフタル酸エステルとエチレングリコールとのエステル交換反応、テレフタル酸とエチレンオキサイドとの付加反応、エチレングリコールによるポリエチレンテレフタレート(PET)の解重合反応等で得ることができる。
【実施例0050】
以下、本発明を具体的な実施例において説明する。
【0051】
(実施例1)
図3に、実施例1に用いた装置の構成を示す。晶析槽101とベーパー凝縮器102との間は、管路121を介して接続されている。また、ベーパー凝縮器102と真空ポンプVcとの間は、管路122を介して接続されている。ベーパー凝縮器102と真空ポンプVcとの間には、気液分離槽103が配置されている。恒温槽104,105の温度は、温度指示調節計(TIC)により、制御されている。
【0052】
まず、BHETを28wt%含む水溶液(原料)1.5kgを70℃まで加温した。70℃のとき、原料中の固形物が完全に水に溶解していることが目視で確認できた。次に、晶析槽101に原料を全量投入した。原料の供給液を晶析槽101に投入した後、モーター(M)を用いて撹拌機を起動し、撹拌状態を維持させた。晶析槽101のジャケット部に恒温槽104より温水を通水し、管路131,132を通じて循環させた。
【0053】
次に、ベーパー凝縮器102に恒温槽105よりチラー水を通水し、管路133,134を通じて循環させた。真空ポンプVcを起動して圧力及び温度調整を行った。次に、真空度を調整しつつ晶析槽101の断熱冷却を行い、BHETの結晶を析出させた。原料温度を示す温度計111が38.6℃、原料上方の気相の温度を示す温度計112が36.6℃、真空ポンプVcの真空度を示す圧力計113が6.6kPaAの時点で冷却操作を終了した。
【0054】
次に、スラリーを晶析槽101から取り出し、晶析終了時の操作温度38.6℃に維持しながら、上排式の遠心分離機(遠心効果750G)にて5分間脱液した。次に、遠心分離機のろ布に残ったケーキに対し、霧吹きで常温の水を噴霧することで結晶洗浄操作を実施した。結晶洗浄操作では、ケーキ層の乾燥品に相当する固形分100重量部に対して、水を10重量部の割合で使用した。結晶洗浄操作後のケーキ層は、上部排出式の遠心分離機(遠心効果750G)にて5分間脱液した。
【0055】
(比較例1)
図4に、比較例1に用いた装置の構成を示す。まず、実施例1と同組成のBHET水溶液(原料)約1.9kgを70℃まで加温した。70℃のとき、原料中の固形物が完全に水に溶解していることが目視で確認できた。次に、晶析槽201に原料を全量投入した。原液投入後、撹拌機を起動し、撹拌状態を維持させた。次に、晶析槽201のジャケット部に恒温槽202より温水を通水し、管路231,232を通じて循環させた。
【0056】
次に、恒温槽202の設定温度を調節することで間接冷却操作を行った。原料温度を示す温度計211を用いて晶析槽201内部の温度を監視した。70℃から65℃までは急冷し、65℃から35℃までは3時間かけて徐々に冷却した。35℃に到達した時点で30分間運転状態を維持した。冷却操作を終了した後は、スラリーを晶析槽201から取り出し、それ以降は、実施例1と同様の条件下で固液分離操作と結晶洗浄操作を行った。
【0057】
(分析結果)
表1に、実施例1及び比較例1の洗浄結晶の分析結果を示す。分析項目は、カールフィッシャー水分計による結晶水分率、及び白色度測定によるカラー(L値,a値,b値)である。
【0058】
【表1】
【0059】
表1より、実施例1(断熱冷却式)は、比較例1(間接冷却式)よりも水分値が低く、後段の乾燥プロセスの負荷低減が期待できる。また、実施例1によって得られたBHETの洗浄結晶は、比較例1と比較して同等以上の色度を示した。
【0060】
表2及び表3に、それぞれ実施例1及び比較例1のテスト結果に基づいたマテリアルバランスを示す。供給液の総量を100と換算している。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
実施例1と比較例1のマテリアルバランスを比較すると、実施例1(断熱冷却式)は、供給液中の水分の一部をベーパーとして蒸発させていること、それに伴いスラリー中の母液量が減少していることが見て取れる。凝縮液の成分は晶析槽にて蒸発した水分であるため、洗浄水などの工業用水としてリユース可能であり、プラントの原単位削減に繋がる。また、母液量が少ないことにより母液を循環利用する際の再生プロセスの負荷や排水処理設備の負荷低減に繋がる。
【0064】
実施例1と比較例1の結果に基づいて晶析槽をサイジングした場合、表2(実施例1)の晶析槽内のスラリー容量は、表3(比較例1)の晶析槽の4分の1以下に抑えることができる。晶析槽の容量が小さくなることのメリットとしては、運転開始に伴う液の張込み及び運転停止に伴う液の抜出しなどの雑時間の短縮、晶析槽に設置されるモーター容量の低減、晶析槽の省サイズ化に伴う機器コストや工事コストの低減が挙げられる。
【符号の説明】
【0065】
100 晶析装置
10,101,201 晶析槽
13 スラリー
20 固液分離機
30,102 ベーパー凝縮器
31,103 気液分離槽
32 真空発生装置
図1
図2
図3
図4