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特開2023-69624可塑性グラウト材料及びそれを用いた工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069624
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】可塑性グラウト材料及びそれを用いた工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230511BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20230511BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230511BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230511BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 17/44 20060101ALI20230511BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C04B28/02
E02D3/12 101
C04B22/08 Z
C04B24/26 B
C04B24/38 Z
C09K17/10 P
C09K17/44 P
C04B111:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181640
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
(72)【発明者】
【氏名】エギ クリスタル ソエシロ
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA01
2D040CA10
2D040CB03
4G112MD01
4G112PA06
4G112PA22
4G112PB40
4G112PC03
4H026CA01
4H026CB06
4H026CB08
4H026CC03
4H026CC04
(57)【要約】
【課題】 水中で造成された改良体の下方領域に不良部が生成されてしまうことを防止することができる可塑性グラウト材料と、それを用いた方法の提供。
【解決手段】 本発明の可塑性グラウト材料は、水と粉体を含み、粉体はセメントとシリカフュームを含み、ベントナイト、無機系可塑剤、増粘剤、減水剤を含んでいる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と粉体を含み、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、
ベントナイト、無機系可塑剤、増粘剤、減水剤を含むことを特徴とする可塑性グラウト材料。
【請求項2】
可塑性グラウト材料を、水中或いは地下水位より低い領域に注入或いは充填し、前記可塑性グラウト材料は、
水と粉体を含み、粉体の水に対する水粉体比が40~65質量%であり、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、シリカフュームの粉体中で示す割合が5~20質量%であり、
ベントナイトを含み、ベントナイトの混和量はセメントの2~8質量%であり、
無機系可塑剤を含み、無機系可塑剤の混和量はセメントの0.4~1.0質量%であり、
増粘剤を含み、増粘剤の混和量は水の0.2~1.0質量%であり、
減水剤を含み、減水剤の混和量はセメントの0.2~3.0質量%であることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記可塑性グラウト材料は、10%粒径が50mm以上の粒状物を含有する地盤に注入或いは充填される請求項2の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で施工するのに適した可塑性グラウト材料と、その様なグラウト材料を水中の施工領域に注入する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑性グラウト材料における「可塑性」なる文言は、せん断力が加わると流動性を発現し、せん断力が加わらないと流動性を発現しない性質を意味している。
可塑性グラウト材料はレオロジー特性としてビンガム流体に該当すると考えられ、水中不分離性及び低収縮性を有する。可塑性グラウト材料は、例えば、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、地盤と構造物の間に生じた隙間に注入する注入材料や、既設トンネルの履工背面空洞における充填材料として用いられている(例えば、特許文献1参照)。
可塑性グラウト材料は、護岸の基礎として構築された捨石マウンドなどの巨礫の間隙の充填に用いられる場合がある。その様な場合としては、護岸の耐震補強等を目的として施工されるケース等において、捨石マウンドの一部を限定的に改良するために施工されるケースがある。
【0003】
巨礫の間隙に可塑性グラウト材料を充填する場合には、可塑性グラウト材料が注入管の吐出口から同心円状(或いは球状)にグラウト材料が広がって充填されるのが理想である。注入管の吐出口から同心円状(或いは球状)にグラウト材料が広がって充填されることにより、例えば耐震補強に必要とされる改良範囲に対して限定的に充填することが可能となり、不必要な範囲(必要とされる改良範囲外)への充填を防止することが出来る。
【0004】
ここで、水中における巨礫の間隙の充填において、吐出口から同心円状(或いは球状)に広がる性状を有するグラウト材料を使用した場合に、図1で全体を符号1で示す改良体において、その下方領域2において、強度の低い不良部3が生じることがある。
【0005】
不良部3が生じる原因について、出願人が種々研究、実験した。
水中における巨礫の間隙の充填において、グラウト材料が吐出口から同心円状に広がる際に、下方に広がるグラウト材料の一部が、比較的狭い隙間を介して広い間隙に押し出されると、礫間に存在する水の圧力が当該押し出されたグラウト材料の一部を引き千切る様に作用し、当該(グラウト材料の)一部が自重により千切れて、下方に落下する。
落下したグラウト材料の一部は、礫間に存在する水を吸収、含有し(水と混ざって)、流動性が向上し、重力により下方に移動し易くなり、さらに下方に移動(落下)する。そのため、改良体1の下方領域2には、千切れて、水を多く含み、流動性が高いグラウト材料が多く存在する様になり、不良部3を生じると推論される。この流動性が高いグラウト材料は、水を多く含むことから強度が低下し、必要な強度が得られない場合がある。
すなわち、不良部3が生じる理由は、例えば礫間の比較的大きな空隙に存在するグラウト材料の一部が礫間の水の圧力により千切られて落下し、水を含んで不良のグラウト材料となり、流動化し易くなって下方に移動するためである。
この様な問題に対処する可塑性グラウト材料或いは注入工法は、従来は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5697228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、水中で造成された改良体の下方領域に不良部が生成されてしまうことを防止することができる可塑性グラウト材料と、それを用いた工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、水中で施工した際に、グラウト材料が千切れてしまうことを防止できるかについて、種々研究を行った。その際に、水中ではなく空気中(気中)であれば、水圧がグラウト材料の一部を千切る様に作用することなく、千切られたグラウト材料が水を吸収して流動性が高くなることがなく、図1で示す不都合(改良体1の下方領域2に不良部3が生じる不都合)は生じないことに着目した。そして、水中で千切れ難いグラウト材料であれば、係る不都合が生じないことに想到した。
本発明は係る知見に基づいて創作された。
本発明の可塑性グラウト材料は、水と粉体を含み、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、
ベントナイト、無機系可塑剤、増粘剤、減水剤を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明において、粉体の水に対する水粉体比(W/(C+SF)×100%)が40~65質量%であり、
シリカフュームの粉体中で示す割合(SF/(C+SF)×100%)が5~20質量%であり、
ベントナイトの混和量はセメントの2~8質量%であり、
無機系可塑剤の混和量はセメントの0.4~1.0質量%であり、
増粘剤の混和量は水の0.2~1.0質量%であり、
減水剤の混和量はセメントの0.2~3.0質量%であるのが好ましい。
【0010】
本発明の方法は、可塑性グラウト材料を、水中或いは地下水位より低い領域に注入或いは充填し、前記可塑性グラウト材料は、
水と粉体を含み、粉体の水に対する水粉体比(W/(C+SF)×100%)が40~65質量%であり、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、シリカフュームの粉体中で示す割合(SF/(C+SF)×100%)が5~20質量%であり、
ベントナイトを含み、ベントナイトの混和量はセメントの2~8質量%であり、
無機系可塑剤を含み、無機系可塑剤の混和量はセメントの0.4~1.0質量%であり、
増粘剤を含み、増粘剤の混和量は水の0.2~1.0質量%であり、
減水剤を含み、減水剤の混和量はセメントの0.2~3.0質量%であることを特徴としている。
【0011】
本発明の方法において、前記可塑性グラウト材料は、10%粒径が50mm以上の粒状物を含有する地盤に注入或いは充填されるのが好ましい。ここで10%粒径は、粒径加積曲線における通過質量百分率が10%のときの粒径を意味している。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成を具備する本発明の可塑性グラウト材料によれば、水と粉体を含み、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、ベントナイト、無機系可塑剤、増粘剤、減水剤を含むため、水中で自重により千切れるまでの大きさ、重量(実験例3における水中押出し長さ)が大きく、自重が負荷しても千切れ難い(実験例3における水中引張強さが大きい)性質を有するので、その一部が水中で千切れて水分を吸収して流動性が高くなり、重力により下方に移動してしまうことが抑制される。そのため、水中で充填、注入されても、改良体の下方に水分を多く含有したグラウト材料が移動することが防止され、造成された改良体の下方領域に不良部が生成されてしまうのを防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来技術における不都合を示す説明図である。
図2図1で示す不都合が生じる理由を示す説明図である。
図3】実験例3で用いられた実験装置の説明図である。
図4】実験例1~実験例4の実験結果を表として示す図である。
図5】フロー値とベーンせん断強さの相関を示す関係図である。
図6】気中引張強さとベーンせん断強さの関係を示す図である。
図7】水中引張強さとベーンせん断強さの関係を示す図である。
図8図7をシリカフュームの混和量で区別して示す図である。
図9図7をベントナイトの混和量で区別して示す図である。
図10】気中の押出し長さと水中の押出し長さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に、図1で示す不良部3が生じる原因について、図2を参照して説明する。
図2において、符号21は水中の礫を示している。図2の上方に存在するグラウト材料25A(大きな空間に存在するグラウト材料)には問題がない。しかし、巨礫21の間隙の充填において、グラウト材料が同心円状に広がるに際して、下方に広がるグラウト材料25Aの一部は、比較的狭い隙間SNを介して広い間隙SWに押し出され、礫21間に存在する水の圧力が当該押し出されたグラウト材料の一部を引き千切る様に作用し、当該一部が自重により千切れて、下方に落下してしまう(図2におけるグラウト材料25B)。
落下したグラウト材料25Bは、礫21間に存在する水を吸収して(水と混ざって)、流動性が向上するため、重力により下方に移動し易くなり、さらに下方に移動(落下)する(図2におけるグラウト材料25C)。その結果、改良体1(図1)の下方領域2(図1)には、千切れて、水を多く含み、流動性が高いグラウト材料25B、25Cが多く存在し、不良部3を生じると推論される。流動性が高いグラウト材料25B、25Cは水を多く含むため強度が低下し、必要な強度(18N/mm)が得られない場合がある。
【0015】
すなわち、図2を参照して説明した様に、礫21間の比較的大きな空隙に存在するグラウト材料25Aの一部が水圧により千切られて、自重により落下し、水を含んで不良のグラウト材料25B、25Cとなる。水を含んだ不良のグラウト材料25B、25Cは流動化し易いため、下方に移動して、改良体1の下方領域2に不良部3が生じてしまう。
ここで、グラウト材料の一部が水圧により千切られて、自重により落下することを防止出来れば、図2を参照して説明した問題は生じない。
発明者は種々研究の結果、水中で千切れ難く、自重により落下し難い可塑性グラウト材料を創作した。
【0016】
本発明の実施形態に係る可塑性グラウト材料は水と粉体を含み、粉体の水に対する水粉体比(W/(C+SF)×100%)が40~65質量%であり、
粉体はセメントとシリカフュームを含み、シリカフュームの粉体中で示す割合(SF/(C+SF)×100%)が5~20質量%であり、
ベントナイトを含み、ベントナイトの混和量はセメントの2~8質量%であり、
無機系可塑剤を含み、無機系可塑剤の混和量はセメントの0.4~1.0質量%であり、
増粘剤を含み、増粘剤の混和量は水の0.2~1.0質量%であり、
減水剤を含み、減水剤の混和量はセメントの0.2~3.0質量%である。
【0017】
ここで、実施形態に係る配合における上記材料において、
セメントは市販品(太平洋セメント株式会社製造の商品名「普通ポルトランドセメント」)を用い、
シリカフュームも市販品(SKWイースアジア株式会社販売の商品名「SILICA FUME SILICIUM」)を用い、
高分子系可塑剤も市販品(緑興産株式会社販売の商品名「パフェハード」)を用い、
ベントナイトも市販品(クニミネ工業株式会社製造の商品名「クニゲルV1」)を用い、
無機系可塑剤も市販品(浅田化学工業株式会社製造の商品名「アルミン酸ソーダ」)を用い、
増粘剤も市販品(巴工業株式会社販売の商品名「HECELLOSE」)を用い、
減水剤も市販品(ポゾリスソリューションズ株式会社製造の商品名「マスターグレニウムSP8SV」)を用い、
水は水道水を用いた。
【0018】
上述の市販品を含めた複数種類のセメント及びシリカフュームについて、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、セメントとシリカフュームから成る粉体の水粉体比(W/(C+SF)×100%)が40質量%よりも少ないと練り混ぜが困難となり、65質量%を越えると目標強度(18N/mm)が得られない場合があった。
換言すると、発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類のセメント及びシリカフュームについては、セメントとシリカフュームから成る粉体の水粉体比(W/(C+SF)×100%)が40~65質量%であれば、練り混ぜが可能であり、且つ、目標強度(18N/mm)が達成できた。
【0019】
上述の市販品を含めた複数種類のシリカフュームについて、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、シリカフュームの粉体中で示す割合(SF/(C+SF)×100%)が5質量%未満であるとグラウト材料が自重により水中で千切れて落下する現象を抑制することが出来ず、20質量%を越えるとグラウト材料の粘性が大きくなり過ぎて練り混ぜが困難となる場合があった。
そして、発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類のシリカフュームについては、シリカフュームの粉体中で示す割合(SF/(C+SF)×100%)が5~20質量ならば、グラウト材料が自重により水中で千切れて落下する現象を抑制することが出来ると共に、グラウト材料の粘性が大きくなり過ぎずに練り混ぜが可能であった。
【0020】
上述の市販品を含めた複数種類のベントナイトについて、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、セメントの2質量%未満の場合にはグラウト材料が自重により水中で千切れて落下する現象を抑制することが出来ず、セメントの8質量%を越えている場合にはグラウト材料の粘性が大きくなり過ぎて練り混ぜが困難になる場合があった。
発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類のベントナイトについては、セメントの2~8質量%であれば、グラウト材料が自重により水中で千切れて落下する現象を抑制出来て、且つ、グラウト材料の粘性が大きくなり過ぎることなく練り混ぜが可能であった。
【0021】
上述の市販品を含めた複数種類の無機系可塑剤について、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、無機系可塑剤の混和量がセメントの0.4質量%未満であると可塑性グラウト材料として必要なフロー値(155mm以下)を得ることが出来ず、セメントの1.0質量%を越えると硬化速度が速くなり過ぎて施工性が低下する場合があった。
それに対して、発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類の無機系可塑剤については、無機系可塑剤の混和量がセメントの0.4~1.0質量%であれば、可塑性グラウト材料として必要なフロー値(155mm以下)を得ることが出来て、しかも、硬化速度が速くなり過ぎず施工性は低下しなかった。
【0022】
上述の市販品を含めた複数種類の増粘剤について、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、増粘剤の混和量が水の0.2質量%未満であると水中不分離性が低くなりセメント粒子が水中に拡散する場合があった。そして、増粘剤の混和量が水の1.0質量%を越えると、グラウト材料の粘性が高くなり過ぎて練り混ぜが困難な場合があった。
発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類の増粘剤については、増粘剤の混和量が水の0.2~10.0質量%であると、水中不分離性が高くなってセメント粒子が水中に拡散せず、且つ、グラウト材料の粘性が高くなり過ぎず練り混ぜが可能であった。
【0023】
上述の市販品を含めた複数種類の減水剤について、後述の実験例以外に行った発明者の実験によれば、減水剤の混和量がセメントの0.2質量%未満であると材料練り混ぜ時の流動性が小さくグラウト材料の圧送が困難であり、セメントの3.0質量%を越えても材料練り混ぜ時の流動性が向上せず、材料の圧送性能も向上せず、減水剤を添加する効果がない場合があった。
発明者が実験した(上述の市販品を含む)複数種類の減水剤については、減水剤の混和量がセメントの0.2~3.0質量%であれば、材料練り混ぜ時の流動性が向上し、グラウト材料の圧送性も向上し、減水剤の混和量が増加すれば材料練り混ぜ時の流動性及び材料の圧送性能が向上した。
図示の実施形態では、高分子可塑剤(PA)は包含していない。後述の表1で示す基本配合「Prototype」には高分子可塑剤が包含されているが、この基本配合「Prototype」は本発明の効果を示す比較例として選択されたものである。その意味で、高分子可塑剤の上限及び下限について言及していない。
【0024】
実施形態に係る可塑性グラウト材料は、上述した様に、地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、地盤と構造物の間に生じた隙間に注入され、既設トンネルの履工背面空洞に充填され、護岸の基礎として構築された捨石マウンドなどの巨礫の間隙の充填に用いられる。
そして、実施形態に係る可塑性グラウト材料は、水中で千切れ難く、自重により落下し難い性能を有している。図示の実施形態に係る可塑性グラウトがその効果を発揮するのは、10%粒径が50mm以上の粒状物を含有する地盤であり、水中もしくは地下水位より低い位置にあり、10%粒径が50mm以上の粒の間隙が水で満たされている土壌である。
実施形態に係る可塑性グラウト材料は、例えば、10%粒径が50mm以上の粒状物を含有する地盤であって、水中もしくは地下水位より低い位置に注入或いは充填される。
ここでグラウト材料の充填速度は、例えば毎分50リットルに想定している。しかし充填速度が毎分50リットルではなくても、本発明は適用可能であることが、実験例には記載されていない発明者の別の実験により確認されている。
また、注入或いは充填の方法については、公知技術を適用することが出来る。
【0025】
次に本発明の実験例を説明する。
最初に、実験例で用いられる供試体について説明する。
本発明には該当しないグラウト材料の供試体は、基本配合「Prototype」で示す。
そして、本発明には該当するグラウト材料の供試体は、水粉体比「W/(C+SF)×100%」、粉体の内シリカフュームの占める割合「SF/(C+SF)×100%」、ベントナイト「BN」(C×%)、高分子系可塑剤「PA」(C×%)、無機系可塑剤「PB」(C×%)、増粘剤「VA」(W×%)、減水剤「SP」(C×%)を変動させて、下表1で示す17種類(基本配合を含む)の配合に係る試料を用意して製作した。
表1
【0026】
ここで、水粉体比、粉体の内シリカフュームの占める割合、ベントナイト、高分子系可塑剤、無機系可塑剤、減水剤の量はセメントに対する質量%(「C×%」で示す)であり、増粘剤の量は水に対する質量%(「W×%」)である。
表1で示す様に、高分子系可塑剤「PA」を含有しているのは基本配合「Prototype」のみであり、本発明の実験例に係る16種類の試料は高分子系可塑剤「PA」を含有していない。
表1で示す各試料について、総練混ぜ量の80%の水をミキサに投入し、減水剤「SP」及びセメントもしくは粉体の混合物(増粘剤を除く)をミキサに投入し、低速(139rpm)で3分間撹拌した(A材)。
次に、総練混ぜ量の20%の水と増粘剤「VA」を他のミキサ(ハンドミキサ)で30秒撹拌し、高分子系可塑剤「PA」(基本配合「Prototype」のみ)及び無機系可塑剤「PB」を投入し、60秒撹拌した(B材)。
そして、A材を撹拌したミキサにB材を投入し、低速で1分間撹拌して、供試体を作成した。表1で示す全ての試料を用いて、同様な方法で供試体を作成した。
【0027】
[実験例1]
表1で示す各試料から作成した供試体について、JISR5201に準拠してフロー試験を行った。ただし、フローコーンではなく、NEXCO試験法313「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」記載のシリンダー(内径80mm、高さ80mm)を用いた。
15回の打撃を加えた後の広がりである「打撃フロー値」と、打撃を加える前の広がりである「静置フロー値」を測定した。
【0028】
[実験例2]
表1で示す各試料から作成した供試体について、JGS1411「原位置ベーン試験方法」を行い、表1で示す組成のグラウト材料のフレッシュ状態(固化する前の状態)におけるベーンせん断強さを測定した。
ただし、小型のベーンブレード(幅20mm、高さ40mm)を用いた。
可塑性グラウト材料の流動性の評価はフロー試験で行うことが一般的であるが、静置フロー値は90~110mm程度の狭い範囲に集中するので測定の感度が高くない。そのため、測定の感度が高くなるベーンせん断強さによる評価(実験例2)を、実験例1のフロー試験に加えて行った。
【0029】
[実験例3]
表1で示す各試料から作成した供試体について、フレッシュ状態(固化する前の状態)における引っ張り強さを評価するために、図3で示す様に、市販の合成樹脂製シリンジ12(例えば容量100cc)の先端を開放し、ハウジングCに固定した。シリンジ12内には表1で示す試料(符号14)を充填し、ハウジングCのシリンジ12下方には透明なビーカー16(例えば容量500cc)を配置する。
ビーカー16内に水が充填可能であり、ビーカー16には例えば1cm間隔の目盛り(図示せず)が設けられている。
図3で示す様に試料14が自重で切断されるまで、シリンジ12のプランジャ18を矢印A方向に押圧して、シリンジ12内の試料14(グラウト材料)をビーカー16内に押し出す。プランジャ18が矢印A方向に押圧されて試料14がビーカー16内に押し出される様子が、図示しないビデオカメラで撮影されている。そのビデオカメラの映像から、試料14が切断した瞬間におけるシリンジ12の図3における下方先端から試料14先端までの長さを「押出し長さ」として測定する。
実験例3は、ビーカー16内に水が充填されている場合(水中における押出し長さの測定)と、水が充填されていない場合(気中における押出し長さの測定)の双方について行う。
ビーカー内に水が充填されていない場合の押出し長さに、試料14(グラウト材料)の密度と重力加速度gを乗算した数値を、フレッシュ状態における気中の引張強さとした。
ビーカー内に水が充填されている場合の押出し長さに、試料14(グラウト材料)の密度と重力加速度gを乗算し、そこから押出し長さ分の試料に作用する浮力を減じた数値を、フレッシュ状態における水中の引張強さとした。
【0030】
[実験例4]
表1で示す各試料から作成した供試体について、JISA1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して圧縮強度を測定した。供試体はφ50×100mmの円柱供試体として、材齢1日で脱型後、試験材齢まで水中養生した。
実験例1~実験例4の実験結果は、図4の表で一括して示されている。
図4において、試料「50-00-4」(水粉体比50%、シリカフューム混和量0%、ベントナイト混和量4%)、試料「55-00-4」(水粉体比55%、シリカフューム混和量0%、ベントナイト混和量4%)、試料「55-05-4」(水粉体比55%、シリカフューム混和量5%、ベントナイト混和量4%)、試料「55-05-6」(水粉体比55%、シリカフューム混和量5%、ベントナイト混和量6%)、試料「60-5-4」(水粉体比60%、シリカフューム混和量5%、ベントナイト混和量4%)、試料「65-10-4」(水粉体比65%、シリカフューム混和量10%、ベントナイト混和量4%)について圧縮強度(一軸圧縮強度)が表示されていない。これは、実験例4の圧縮強度試験は代表的と思われる試料(配合)についてのみ行ったことに起因する。また、図4から明らかな様に、圧縮強度が測定された試料(配合)については全て目標強度(18N/mmを上回っており、上述した圧縮強度を測定しなかった試料についても目標強度を上回ると推定されるからである。
【0031】
また、図5図10を参照して、実験結果を説明する。
図4から、表1の各試料は、基本配合「Prototype」に比較して、気中の引張強さは劣る場合があるが、水中の引張強さは基本配合「Prototype」よりも強いことが判明した。
また、表1の各試料は、基本配合「Prototype」と同程度或いはそれ以上の圧縮強度が得られることが明らかになった。
図4において、薄いグレーは、図3を参照して説明した実験例3における試験装置で測定できる押出し長さの限界(発明者の作製した試験装置では80mm)よりも押出し長さが長いデータであることを示している。換言すれば、図4で薄いグレーが付された試料(例えば気中における50-05-6等)は、引張強さが図4で記載された数値よりも強い。
【0032】
図5を参照して、ベーンせん断強さ(実験例2)とフロー値(静置フロー値及び打撃フロー値)との関係を説明する。
図5は、表1における各試料のフロー値(静置フロー値と打撃フロー値)を縦軸に、ベーンせん断強さを横軸に取り、プロットしたものである。静置フロー値とベーンせん断強さのプロットは「〇」、打撃フロー値とベーンせん断強さのプロットは「●」で示す。
図5から明らかな様に、表1における各試料について、静置フロー値と打撃フロー値は共に、ベーンせん断強さと相関がある。従って、実験例2で述べた通り、フロー試験(実験例1)に加えて、ベーンせん断強さによる評価(実験例2)を行うことは適正であると言える。図5において、静置フロー値が90mm前後、打撃フロー値が140mm前後において、同程度のフロー値でありながらベーンせん断強さが大きく異なるプロットが複数存在し、ベーンせん断試験がフロー試験よりも感度が高いことを示している。以下において、ベーンせん断強さに着目してフレッシュな状態における引張強さについて評価する。
図5からは、シリカフューム、ベントナイトを配合した試料と基本配合との差異は見受けられない。
【0033】
図6は、表1における各試料の気中の引張強さを縦軸に、ベーンせん断強さを横軸に取ってプロットしている。図6において、「●」のプロットは押出し長さが80mmを超えており(実験例3の実験装置の測定限界を超えているプロット)、「〇」のプロットは押出し長さが80mm以下である。
図6から明らかな様に、ベーンせん断強さとフレッシュな状態における気中の引張強さとの間には強い相関性がある。
図6においても、シリカフューム、ベントナイトを配合した試料と基本配合との差異は見受けられない。
【0034】
図7は、表1における各試料の水中の引張強さを縦軸に、ベーンせん断強さを横軸に取ってプロットしている。図6において、「●」のプロットは押出し長さが80mmを超えており(実験例3の実験装置の測定限界を超えているプロット)、「〇」のプロットは押出し長さが80mm以下である。
図6図7を比較すれば明らかな様に、フレッシュ状態の試料は、空気中に比較して水中の引張強さが低下し、各試料における水中引張強さのばらつきが大きい。特にベーンせん断強さが0.3~0.7kN/m付近では、水中引張強さは3倍程度の差異がある(ばらつきが大きい)。
ここで、図7において、「基本配合(Prototype)」は水中引張強さが極めて低い。このことから、シリカフューム、ベントナイトを添加することは、フレッシュ状態における引張強さを向上させる旨が明らかである。
【0035】
図8では、図7で示す水中の引張強さとベーンせん断強さの関係を、シリカフュームの混和量でプロットを区別して示している。図8において、「〇」で示すプロットはシリカフューム混和量(粉体の内シリカフュームの占める割合:SF/(C+SF)×100%)が0%であり、「●」で示すプロットはシリカフューム混和量が5%であり、「□」で示すプロットはシリカフューム混和量が10%であり、「■」で示すプロットはシリカフューム混和量が15%である。そして、上向きの矢印が付いているプロットは、押出し長さが80mmを超えたプロットである。
図8から明らかに、シリカフューム混和量が0%或いは5%の試料に比較して、シリカフューム混和量が10%或いは15%の試料の方が、水中引張強さが強い傾向が存在する。このことから、シリカフュームを少なくとも10%(粉体における質量パーセント)以上添加することで、水中引張強さが向上することが明らかとなった。
【0036】
図9では、図7で示す水中の引張強さとベーンせん断強さの関係を、ベントナイトの混和量でプロットを区別して示している。図8において、「〇」で示すプロットはベントナイト混和量(セメントに対する質量%)が4%であり、「●」で示すプロットはベントナイト混和量が6%であり、「□」で示すプロットは「基本配合」そして、上向きの矢印が付いているプロットは、押出し長さが80mmを超えたプロットである。
図9では、ベントナイト混和量が4%と6%とでは有意な差異は見られない。有意な差異が見られないのは、シリカフューム混和量による影響が排除できないことに起因すると推定される。
しかし、図9において基本配合のプロット「□」とベントナイト混和量4%のプロット「〇」とを比較した場合、或いは、図3における「基本配合」と配合「50-00-4」(シリカフュームを混和しないが、ベントナイトは4%混和する配合:図3で、Prototype直下の配合)とを比較すると、ベーンせん断強さでは基本配合が強い(プロット「□」)が、水中引張強さではベントナイト混和量4%のプロット「〇」が上回る配合(例えば配合「50-00-4」:基本配合の水中引張強さ=0.14kN/m:配合「50-00-4」の水中引張強さ=0.17kN/m)が複数存在する。
このことを考慮すると、ベントナイトを添加すると水中引張強さが向上し、可塑性グラウト材料が水中で千切れ難くなる効果を奏すると考えられる。そして、ベントナイトを添加することにより、本発明の可塑性グラウト材料に必要な性質(水中のグラウト材料の一部が千切れ難くなる性質)を獲得できることが明らかである。
【0037】
図10は、表1における各試料の水中押出し長さと気中押出し長さの関係を示している。図10において、「〇」で示すプロットはシリカフューム混和量(が0%であり、「●」で示すプロットはシリカフューム混和量が5%であり、「□」で示すプロットはシリカフューム混和量が10%であり、「■」で示すプロットはシリカフューム混和量が15%である。そして、上向き或いは右向きの矢印が付いているプロットは、押出し長さが80mmを超えたプロットである。
図6図7を比較して上述した様に、フレッシュ状態の試料は、空気中に比較して水中の引張強さが低下する。しかし、図10で示す様に、シリカフュームの混和量が10%、15%の試料においては、水中押出し長さが気中押出し長さを上回っている。本発明が水中のグラウト材料の一部が千切れるのを防止することを考慮すれば、シリカフュームを混和することにより、本発明の可塑性グラウト材料に必要な性質(水中のグラウト材料の一部が千切れ難くなる性質)を獲得できることが、図10で示されている。
【0038】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0039】
1・・・改良体
2・・・改良体下方領域
3・・・改良体の不良部
12・・・シリンジ
14・・・試料(可塑性グラウト材料)
C・・・ハウジング
16・・・ビーカー
18・・・プランジャ
21・・・礫
25A、25B、25C・・・グラウト材料(可塑性グラウト材料)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10