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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069634
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230511BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230511BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20230511BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230511BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20230511BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 B
B32B7/02
C08J7/04 Z CFD
H01G13/00 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181654
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 翔
(72)【発明者】
【氏名】八尋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
5E082
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB20
4F006BA11
4F006BA12
4F006DA04
4F006EA05
4F006EA06
4F100AA21
4F100AA21D
4F100AB00
4F100AB00D
4F100AH06
4F100AH06C
4F100AK21
4F100AK21B
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK42
4F100AK42A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100DE01
4F100DE01A
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100JK14
4F100JK14B
4F100JL14
4F100YY00B
4F100YY00C
5E082BC38
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082KK01
(57)【要約】
【課題】再利用性と被離型物の浮き抑制性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、以下の条件1を満たす層Xを有する積層ポリエステルフィルム。
条件1:27≦γXP≦40
γXP(mN/m):層Xの表面自由エネルギーの極性成分
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、以下の条件を満たす層Xを有する積層ポリエステルフィルム。
条件1:27≦γXP≦40
γXP(mN/m):層Xの表面自由エネルギーの極性成分
【請求項2】
前記層Xの水の接触角HX(1)(°)とHX(20)(°)が以下の条件を満たす請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件2:5≦HX(1)-HX(20)≦60
HX(1)(°):層Xに水が接触してから1秒後の接触角
HX(20)(°):層Xに水が接触してから20秒後の接触角
【請求項3】
前記層Xがポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を含む請求項1または2のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記層Xがエタンジオール基変性ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を含む請求項3に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記層Xに溶解処理を施し形成せしめた層X’の表面自由エネルギーγX’Pが以下の条件を満たす、請求項1から4のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
条件3:0<γXP-γX’P
γX’P(mN/m):層X’の表面自由エネルギーの極性成分
【請求項6】
前記層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対面に、以下の条件を満たす層Yを有する請求項1から5のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
条件4:80≦HY(1)≦120
条件5:20≦HY(1)-HY(20)≦90
HY(1)(°):層Yに水が接触してから1秒後の接触角
HY(20)(°):層Yに水が接触してから20秒後の接触角
【請求項7】
前記層Yがジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物を含む請求項6に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記層Yの表面自由エネルギーの極性成分γYPが0.6以上10以下である請求項6または7に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記層Yの層Xと接する面とは反対面に被離型層を設け、層Yから被離型層を剥離する離型用途に用いられる請求項6から8のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
層Yから被離型層を剥離した後、層Xと層Yが除去される用途に用いられる請求項9に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
層Xと層Yを除去した積層ポリエステルフィルムを再利用する用途に用いられる請求項10に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項12】
前記被離型層が、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックグリーンシートである請求項9から11のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項13】
積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムとして用いられる、請求項1から12のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項14】
積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムとして用いられる、請求項1から13のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項15】
少なくとも一方の表層に以下の条件を満たす層Yを有する積層ポリエステルフィルム。
条件6:80≦HY(1)≦120
条件7:20≦HY(1)-HY(20)≦90
HY(1)(°):層Yに水が接触してから1秒後の接触角
HY(20)(°):層Yに水が接触してから20秒後の接触角
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型層を設けた際における離型性に優れ、積層ポリエステルフィルムに設けられた層を除去することに優れる積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは様々な分野に利用されている一方、マイクロプラスチックなど海洋汚染の原因物とされ、プラスチックによる環境負荷低減が急務となっている。また、近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスが急激に増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために重要な積層セラミックコンデンサ(MLCC)の数も爆発的に増加している。MLCCの一般的な製造方法は、プラスチックフィルムを基材とし、該基材上に離型層を設けた離型フィルム上に、セラミックグリーンシートと電極を積層して乾燥して固めた後、該積層体を離型フィルムから剥離し複数層を積層し、焼成するというものである。この工程において、離型フィルムは、工程中で不要物として廃棄されることとなる。このように、近年のMLCC数量の爆発的増加に伴い、不要物として廃棄される離型フィルムの増加による環境負荷の増大が課題となりつつある。
【0003】
上記のMLCC用途に代表される離型フィルムにおいて、離型層の成分は、離型性の観点から、一般的にはフィルムを構成する成分とは異なる組成であるため、離型層がついた離型フィルムをそのまま再溶融した場合、離型層の成分が異物として存在するため、再利用ができない。
【0004】
そこで離型フィルムを再利用する技術の例として、特許文献1では、離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設け、水洗することで離型層を除去した後、再利用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-050681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
離型フィルムの用途として、MLCCの工程搬送フィルムの基材用途や、粘着フィルムのセパレート用途などが挙げられるが、それぞれの用途において、被離型物の予期せぬ浮きがきっかけとなり、製品の品位低下や歩留まり低下を生じる課題があることがわかった。例えば、MLCCの工程搬送フィルムの基材用途においては、セラミックグリーンシートを裁断する工程で、裁断した衝撃で離型フィルムからセラミックグリーンシートが浮いてしまうという課題がある。
【0007】
特許文献1に記載の技術である離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設ける方法では、除去性にさらなる改善の余地があり、さらに前述した被離型物の浮きに対しても改善の余地がある。
【0008】
以上の点から、本発明の課題は、離型層を設けた際における離型性と再利用性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
[I]ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、以下の条件1を満たす層Xを有する積層ポリエステルフィルム。
条件1:27≦γXP≦40
γXP(mN/m):層Xの表面自由エネルギーの極性成分
[II]前記層Xの水の接触角HX(1)(°)とHX(20)(°)が以下の条件を満たす[I]に記載の積層ポリエステルフィルム。
条件2:5≦HX(1)-HX(20)≦60
HX(1)(°):層Xに水が接触してから1秒後の接触角
HX(20)(°):層Xに水が接触してから20秒後の接触角
[III]前記層Xがポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を含む[I]または[II]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[IV]前記層Xがエタンジオール基変性ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を含む[III]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[V]前記層Xに溶解処理を加えて形成せしめた層X’の表面自由エネルギーγX’Pが以下の条件を満たす、[I]から[IV]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
条件3:0<γXP-γX’P
γX’P(mN/m):層X’の表面自由エネルギーの極性成分
[VI]前記層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対面に、以下の条件を満たす層Yを有する[I]から[V]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
条件4:80≦HY(1)≦120
条件5:20≦HY(1)-HY(20)≦90
HY(1)(°):層Yに水が接触してから1秒後の接触角
HY(20)(°):層Yに水が接触してから20秒後の接触角
[VII]前記層Yがジメチルシロキサン骨格を有する樹脂を含む[VI]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[VIII]前記層Yの表面自由エネルギーの極性成分γYPが0.6以上10以下である[VI]または[VII]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[IX]前記層Yの層Xと接する面とは反対面に被離型層を設け、層Yから被離型層を剥離する離型用途に用いられる[VI]から[VIII]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[X]層Yから被離型層を剥離した後、層Xと層Yが除去される用途に用いられる[IX]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[XI]層Xと層Yを除去した積層ポリエステルフィルムを再利用する用途に用いられる[X]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[XII]前記被離型層が、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックグリーンシートである[IX]から[XI]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[XIII]積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムとして用いられる、[I]から[XII]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[XIV]積層セラミックコンデンサ(MLCC)製造工程用の離型フィルムとして用いられる、[I]から[XIII]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法。
[XV]少なくとも一方の表層に以下の条件を満たす層Yを有する積層ポリエステルフィルム。
条件6:80≦HY(1)≦120
条件7:20≦HY(1)-HY(20)≦90
HY(1)(°):層Yに水が接触してから1秒後の接触角
HY(20)(°):層Yに水が接触してから20秒後の接触角
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層ポリエステルフィルムを離型用フィルムの基材など、離型層を設けた際における離型性に優れ、その使用後においてポリエステルフィルム以外の層の除去性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に具体例を挙げつつ、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の好ましい一態様はポリエステルフィルムの少なくとも片側に1層以上の層を設けた積層ポリエステルフィルムに関する。本発明でいうポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0013】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。中でも、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、およびPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられる。
【0014】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に表面自由エネルギーの極性成分γXPが27mN/m以上40mN/m以下である層Xを有することが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分γXPは、積層ポリエステルフィルムの層X表面に対して、グリセロール、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンによる25℃での静的接触角を求め、各液体での静的接触角と、以下の非特許文献1に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を、以下の非特許文献2に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、連立方程式を解くことにより求めた値を指す。測定方法の詳細は後述する。
非特許文献1:J.Panzer :J.Colloid Interface Sci.,44,142 (1973).。
非特許文献2:北崎寧昭、畑敏雄:日本接着協会紙,8,(3) 131(1972).
表面自由エネルギーの極性成分γXPを当該範囲とすることで、層Xと溶媒との親和性を高くすることができる。層Xは、後述する層Yの形成時や被離型層を設ける過程において、溶媒によって膨潤されることで、凹凸構造を形成し、被離型層の浮きを抑制することができ、簡単な衝撃で剥がれてしまうことを抑制することができる。特に、層Xと極性溶媒との親和性を高くすることができ、極性溶媒を用いて層Yや被離型層を設ける場合において容易かつ顕著に凹凸構造を形成することができる。
【0015】
また、ポリエステルフィルムと層Xによる積層体である状態では比較的平坦であることから、ロールに巻いた際の巻き長を長くしてもロールの直径を小さくできるため、作業性や使用効率をよくすることができる。また、極性溶媒である水あるいは水溶液を用いて後述する洗浄処理を行うことで、積層ポリエステルフィルムから層Xを容易に除去することができる。同様の観点からγXPは30mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。
【0016】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に表面自由エネルギーの極性成分γXPが27mN/m以上40mN/m以下である層Xを有する方法として、例えば、平均重合度が300以上、1000以下で、ケン化度が30以上、90以下で、共重合量が3mol%以上、20mol%以下な、1,2-ジオール変性ポリビニルアルコール、および/または平均重合度が300以上、1000以下で、ケン化度が30以上、90以下で、共重合量が5mol%以上、20mol%以下な、スルホン酸塩変性ポリビニルアルコールを含む水系塗剤を塗工し、乾燥工程において雰囲気温度が式(i)を満たす条件で3.9倍以上延伸し、その後雰囲気温度が式(ii)を満たす条件で1秒~30秒熱処理し、厚みが50nm以上、500nm以下の層Xを形成する方法を好ましく挙げることができる。
(i)Tg(℃)≦T1n(℃)≦Tg+40(℃)
Tg:ポリエステルフィルムのガラス転移温度(℃)
(ii)Tmf-35(℃)≦Th0(℃)≦Tmf(℃)
Tmf:フィルムの融点(℃)
本発明の積層ポリエステルフィルムは、上記層Xに水が接触してから1秒後の接触角HX(1)と層Xに水が接触してから20秒後の接触角HX(20)の差(HX(1)-HX(20))が5°以上60°以下であることが好ましい。HX(1)-HX(20)は、一定時間経過する前後の水の接触角変化量を表すものであり、この値が小さいと一定時間経過する前後の水の接触角変化量が小さく、この値が大きいと一定時間経過する前後の水の接触角変化量が大きいことを表す。HX(1)-HX(20)を5°以上とすることで、層Xの吸水性が向上し、水あるいは水溶液で洗浄することが容易となる。また、HX(1)-HX(20)を60°以下とすることで、空気中の湿度の影響を受けて層Xの表面形状が意図せず変化することを防ぐことができる。同様の観点からHX(1)-HX(20)は、20°以上40°以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の積層ポリエステルフィルムの層Xは、水溶性の物質を含むことが好ましい。層Xが水溶性の物質を含むことで、HX(1)-HX(20)を好ましい範囲とすることが容易となる。また、層Xが水溶性の物質を含む場合、層Xを含む積層ポリエステルフィルムを水洗することにより、層Xが水中に溶け出すことでポリエステルフィルムと層Xの界面で剥離が起こり、ポリエステルフィルムのみを取り出すことが容易となる。水溶性の物質は、層X全体に対して60質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、水溶性の物質のみからなることが特に好ましい。
【0018】
水溶性の物質としては、水溶性を有するポリエステル骨格を有する樹脂、ポリエステルウレタン骨格を有する樹脂、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと記載することがある)、ポリビニルピロリドン骨格を有する樹脂(以下、ポリビニルピロリドンをPVPと記載することがある)、デンプンを主成分とするものが例示できる。ここでいう水溶性とは、当該樹脂を50℃の水に10分間浸漬し、水から取り出して表面に付着した水滴をウエスで十分に拭き取ったあとの質量を測定し、以下の方法で算出した質量変化量ΔMが15%以上であり、水溶液となるものである。
ΔM=|(M2―M1)|/M1×100(%)
M1(g):50℃の水に10分間浸漬する前の樹脂質量
M2(g):50℃の水に10分間浸漬した後の樹脂質量
本発明の積層ポリエステルフィルムの層X中に含まれる灰分は30質量%以下であることが好ましい。層X中に含まれる灰分を30質量%以下とすることで、樹脂を始めとする有機物成分量が十分多くなり、HX(1)-HX(20)を好ましい範囲としやすくなる。また、リサイクル性も向上する。同様の観点から層X中に含まれる灰分は10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。ここでいう灰分とは、物質を600℃で質量変化が見られなくなるまで加熱した後に残った残渣の加熱前に対する質量割合m3であり、以下の式によって算出される。
m3=m2/m1×100(%)
m1(g):加熱する前の物質質量
m2(g):600℃で質量変化が見られなくなるまで加熱した後の物質質量。
【0019】
ポリエステルフィルムとの親和性や、水溶性、耐溶剤性の観点から、層Xは、ポリビニルアルコール(PVA)骨格を有する樹脂を含むことが好ましい。PVA骨格を有する樹脂は、無極性部位が少なく、極性基を多く含有するため、水溶性が高く、さらに、耐溶剤性を有するため、好ましい。
【0020】
層Xとしてポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を用いる場合、重合度は300以上1000以下、より好ましくは400以上600以下であることが好ましい。重合度を300以上とすることで、層Xが後述するインラインコート法によって形成される際に、延伸処理を受け、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂の分子鎖が延伸方向に沿って配列しやすくなり、γXPを好ましい範囲としやすくなる。重合度が1000を超えると、水溶液の粘度が高くなるため、層Xをポリエステルフィルム上に後述するコーティングによって設ける際に均一な厚みの層Xを得ることが難しくなる場合がある。
【0021】
また、層Xとしてポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を用いる場合、けん化度は好ましくは30以上90以下、より好ましくは60以上88以下である。ポリビニルアルコールは、側鎖としてヒドロキシル基と酢酸基を有するが、けん化度が高いほど官能基としての嵩の小さいヒドロキシル基の量が多く、酢酸基の量が少ないことを表す。けん化度が90を超えると、熱処理によって分子鎖同士がパッキングしやすくなり、吸水性が劣るようになる場合がある。けん化度が30未満となると、酢酸基量が過剰となるため、吸水性が劣るようになる場合がある。
【0022】
層Xとしてポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を用いる場合、層Xにおけるバインダー能を有するアクリル樹脂やポリエステル樹脂、造膜性を向上させるメラミンやオキサゾリンなどの架橋作用のある樹脂、滑り性向上や表面凹凸形成の効果があるシリカやアルミナなどの無機粒子や、ポリオレフィンなどの有機粒子の含有量は各々ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂100質量部あたり3質量部以下であることが好ましい。上記態様とすることで、HX(1)-HX(20)を好ましい範囲とさせやすい。また後述する洗浄の際における廃液処理性が良くなる。
【0023】
また、層Xとして用いるポリビニルアルコール骨格を有する樹脂として、ヒドロキシル基や酢酸基以外の官能基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコールを用いることも好ましい実施形態である。中でも、一定の分子鎖長を持つ極性官能基、例えばエタンジオール基が好ましく、1,2-エタンジオール基がより好ましい。当該態様とすることでγXPとHX(1)-HX(20)を好ましい範囲としやすくなる。また、層Xが後述するインラインコート法によって形成される場合、側鎖が配向する際に分子鎖長が長いことで層Xの空気側最表層まで到達しやすく、γXPを好ましい範囲とすることが容易となる。共重合量としては、好ましくはポリビニルアルコール骨格を有する樹脂全体に対して3mol%以上20mol%以下、より好ましくは5mol%以上10mol%以下である。共重合量が20mol%を超える場合、層Xをポリエステルフィルム上に後述するコーティングによって設ける際に塗布性が悪くなり、積層するのが困難となる場合がある。
【0024】
層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPと、後述する溶解処理によって層Xから得た層X’の表面自由エネルギーの極性成分γX’Pとの差(γXP―γX’P)は、0を超えることが好ましい。ここでいう層X’は、実質的に層Xから分子鎖の配向を除いた塗膜である。γXP―γX’Pは、配向塗膜と無配向塗膜の表面自由エネルギーの極性成分の差であり、大きくなるほど極性の高い側鎖が空気側に配向していることを表す。0<γXP-γX’Pとする方法として、例えば、後述するインラインコート法などにより、層Xを形成する際の塗膜に延伸処理や高温の熱処理を行うことが好ましく挙げられる。0<γXP-γX’Pであることにより、層Xがランダム配向した状態のものと比べて、表面側に極性基が配向しているため、極性溶剤に触れた際の凸凹形成が容易になったり、水洗性が向上する一方で、耐溶剤性に優れ、溶剤により層Xが流出するといった問題を低減することができる。また、同様の観点から、1,2-エタンジオール基を側鎖に共重合した共重合ポリビニルアルコールを層Xに用いつつ、0<γXP-γX’Pを満たすことがより好ましい。
【0025】
本発明の積層ポリエステルフィルムの一態様として、前記層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対面に層Yを有する積層ポリエステルフィルムであって、層Yの水の接触角HY(1)(°)とHY(20)(°)が以下の式を満たす積層ポリエステルフィルムを挙げることができる。
80≦HY(1)≦120
20≦HY(1)-HY(20)≦90
HY(1):層Yに水が接触してから1秒後の接触角
HY(20):層Yに水が接触してから20秒後の接触角。
【0026】
水に対する接触角を制御し、80≦HY(1)とすることで、離型性を十分高くすることができ、層Yを有する積層ポリエステルフィルムを離型用フィルムとして好適に用いることができる。HY(1)≦120とすることで、コーティングによって被離型層を設ける場合に塗剤が弾きにくくなり、被離型層にピンホールなどの塗布欠陥が生じることを防ぐことができる。同様の観点から85≦HY(1)≦110であることがより好ましい。
【0027】
20≦HY(1)-HY(20)とすること、とはすなわち、層Yが水を透過していくことを意味する。20≦HY(1)-HY(20)とすることで、基材側に水が多くしみわたっていくため、基材表面部分で他の層と剥離しやすくなり、層Yを積層ポリエステルフィルムから水を用いて除去し、リサイクルに供することが容易になる。同様の観点から60≦HY(1)-HY(20)とすることがより好ましく、70≦HY(1)-HY(20)とすることがさらに好ましい。また、HY(1)-HY(20)≦90とすることにより、層Yの物性が安定し、水蒸気などにより層Yが変質することを抑制でき、また層Yの形成が容易となったり、変性や偏在をすることで局所的に水洗性が悪化することを抑制することができる。同様の観点からHY(1)-HY(20)≦85とすることがより好ましい。
【0028】
層YのHY(1)-HY(20)を上述の範囲とするための方法は特に限られるものではないが、層Yが後述の樹脂と界面活性剤とを含むようにする方法、ポリエステルフィルムと層Yの中間に、前述の層Xを、ポリエステルフィルムと層Yに接するように設ける(すなわち、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、表面自由エネルギーの極性成分γXPが27mN/m以上40mN/m以下である層Xを有する積層ポリエステルフィルムにおいて、前記層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対面に層Yを有した積層ポリエステルフィルムとする)方法などが好ましい実施形態として挙げられる。表面自由エネルギーが前述の値である層Xが層Yに接してなると、層Y上に接する水が、層Yを透過することを促進するため、HY(1)-HY(20)を大きくすることができる。
【0029】
また、層Yの撥水性が高いほど、HY(1)-HY(20)を大きくすることができ、層Yの水の透過性が高いほど、HY(1)-HY(20)を大きくすることができる。
【0030】
基材/層Yの構成からなる積層ポリエステルフィルムの層Yに用いることができる樹脂としてジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物、長鎖アルキル基を有する化合物、ポリオレフィン骨格を有する化合物、パーフロロアルキル基などのフッ素を有する化合物より選ばれる1種以上の化合物を好ましく挙げることができる。中でも、ポリオレフィン骨格を有する化合物が好適に用いることができる。ポリオレフィンを主骨格とする化合物は、後述する界面活性剤との相溶性が良い傾向にあるため、HY(1)-HY(20)を上述の範囲としやすい。ポリオレフィン骨格を有する化合物の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン、ポリイソブチレン、及びα-オレフィンのうち1種を単独で用いた重合体、もしくは2種以上の共重合体が挙げられる。α-オレフィンとは、分子鎖の片末端に二重結合を有するオレフィンのことであり、例えば1-オクテンなどが挙げられる。
【0031】
基材/層Yの構成からなる積層ポリエステルフィルムの層Yにポリオレフィン骨格を有する化合物を用いる場合、層Yが界面活性剤を含むことが好ましい。上記態様とすることで、層Yを透過した水が基材表面に広がりやすくなり、20≦HY(1)-HY(20)とすることが容易となる。ポリオレフィン骨格を有する化合物100質量部に対しての界面活性剤添加量は、好ましくは3質量部以上、10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上、8質量部以下である。界面活性剤添加量が3質量部以上であると、界面活性剤が層Y全体に広がるのに十分な量となり、水が層Yを透過しやすくなる。界面活性剤添加量が10質量部を超える場合、界面活性剤が層Yの表層に集まって、離型性を低下させる場合がある。
【0032】
基材/層Yの構成からなる積層ポリエステルフィルムの層Yに用いられ得る界面活性剤の例としては、各種のノニオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル;ポリオキシエレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤は、1種を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
基材と層Xと層Yを有する積層ポリエステルフィルムの層Yに用いることができる撥水性の高い樹脂として、ジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物、長鎖アルキル基を有する化合物、パーフロロアルキル基などのフッ素を有する化合物が挙げられる。中でも、ジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物が好適に用いることができる。ジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物は水を始めとした極性溶媒の透過性が高いことから、HY(1)―HY(20)を好ましい範囲とすることが容易となるとともに、後述する方法によって被離型層を設ける際に極性溶媒により層Xを積極的に膨潤させることが可能となる。
【0034】
ジメチルシロキサン骨格を有するシリコーン化合物(オルガノポリシロキサン)としては、硬化型シリコーン骨格を有する樹脂が好ましい。硬化型シリコーン骨格を有する樹脂には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとを白金触媒のもとに、加熱硬化させた「付加反応型」、オルガノハイドロジェンポリロキサンと末端に水酸基を含有するオルガノポリシロキサンとを有機錫触媒を用いて加熱硬化させた「縮合反応型」、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するオルガノポリシロキサン、あるいはアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンとメルカプト基を含有するオルガノポリシロキサンに光重合開始剤を配合し、UV光を照射することによって硬化させる「UV硬化型」、エポキシ基をオニウム塩開始剤にて光開環させて硬化させる「カチオン重合型」などが挙げられる。いずれを用いてもよいが、生産性、剥離力の観点から付加反応型やUV硬化型が好ましい。
【0035】
付加反応型シリコーン骨格を有する樹脂の具体例としては、末端にビニル基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとを含むものが好ましく、信越化学工業株式会社製のKS-847、KS-847T、KS-841、KS-774、KS-3703T、X-62-2825、ダウ・東レ株式会社製のSD7333、SRX357、SRX345、LTC310、LTC303E、LTC300B、LTC350G、LTC750A、LTC851、LTC759、LTC755、LTC761、LTC856、などが挙げられる(なお、“LTC”は登録商標である)。
【0036】
縮合反応型シリコーン骨格を有する樹脂と触媒の具体例としては、末端に水酸基を含有するポリジメチルシロキサンとハイドロジェンシロキサンとを有機錫触媒を含むものが好ましく、ダウ・東レ株式会社製のSRX290やSY LOFF23が挙げられる。
【0037】
UV硬化型シリコーン骨格を有する樹脂と触媒の具体例としては、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基を含有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤を含むものや、アルケニル基を含むポリジメチルシロキサンとメルカプト基を含むポリジメチルシロキサンと光重合開始剤を含むものが好ましく、JNC株式会社製のFM-0711、FM-0721、FM-0725、FM-7711、FM-7721、FM-7725、ダウ・東レ株式会社製のBY24-510HおよびBY24-544などが挙げられる。
【0038】
カチオン重合型シリコーン骨格を有する樹脂と触媒の具体例としては、エポキシ基を含むシロキサンと、オニウム塩開始剤を含むものが好ましく、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTPR6501、UV9300およびXS56-A2775などが挙げられる。
【0039】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムの層Yの表面自由エネルギーの極性成分γYPが0.6mN/m以上10mN/m以下であることが好ましく、0.6mN/m以上5.0mN/m以下であることがより好ましい。γYPを当該範囲とすることで、極性溶媒が層Yを透過しやすくなるため、極性溶媒である水を用いて後述する方法によって洗浄する際に、層Yを透過した水により基材表面により近い側から基材上に形成した層を剥がしとって容易に除去することができる。さらに、後述する方法によって被離型層を層Y上に設ける際に、層Yを透過した極性溶媒が層Xを膨潤し、層Xが凹凸構造を形成することが容易となる。
【0040】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、前述の特性を活かして、層Yの層Xと接する面とは反対面に被離型層を設け、層Yから被離型層を剥離する離型用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、水によって層Xおよび層Yを除去することが可能であるため、被離型層を剥離した後、層Xと層Yを除去してポリエステルフィルムのみを取り出すことが可能である。さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、層Xと層Yを除去した後、ポリエステルフィルムのみを取り出し、再利用することが好ましい。再利用する方法としては、取り出したポリエステルフィルムに再び層Xと層Yを設けて離型用フィルムとして用いる方法や、ポリエステルフィルムを再溶融して再びポリエステルフィルムに成型する方法が挙げられる。再溶融して再びポリエステルフィルムに成型する方法は、再利用する用途が限定されず、様々な用途に使用が可能であるため好ましい。
【0041】
本発明の積層ポリエステルフィルムの層Yとしてシリコーン化合物、特にジメチルシロキサン結合を含有する化合物を用いる場合、ジメチルシロキサン結合を含む成分は、ポリエステルフィルムと混合して再溶融すると異物になりやすく、ポリエステルの劣化を促進したり、溶融後に押出成形することができなくなることがあるため、本発明のフィルムを再溶融して再利用するためには層Yを除去することが好ましい。
【0042】
層X、層Yを有する本発明の積層ポリエステルフィルムを離型用フィルムとして用いる場合、被離型層はアクリルを主成分とする有機系粘着剤や、金属や金属酸化物を主成分とする無機物のシートが挙げられる。特に、金属酸化物のチタン酸バリウムは、MLCCを製造するために必要不可欠なものであり、チタン酸バリウムのシートを製造するための工程用離型フィルムの使用量が増加している。かかる状況下、チタン酸バリウムのシートを製造する工程において、層X、層Yを有する本発明の積層ポリエステルフィルムを用いることで、チタン酸バリウムのシートを製造する工程での使用後に、本発明の積層ポリエステルフィルムから層X、層Yを除去してポリエステルフィルムのみを再利用することができ、環境負荷低減に寄与することが可能となる。
【0043】
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造する方法を以下に説明するが、本発明はこの方法により得られる積層ポリエステルフィルムに限られるものではない。
【0044】
本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムは、必要に応じて乾燥した原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。該シートは、表面温度20℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸シートを作製することが好ましい。キャストドラムの温度は、より好ましくは20℃以上40℃以下、さらに好ましくは20℃以上30℃以下である。
【0045】
次に、未延伸シートを、下記(i)式を満たす温度T1n(℃)にて、フィルムの長手方向(MD)に3.6倍以上、フィルムの幅方向(TD)に3.9倍以上、面積倍率14.0倍以上20.0倍以下に二軸延伸することが好ましい。
(i)Tg(℃)≦T1n(℃)≦Tg+40(℃)
Tg:ポリエステルフィルムのガラス転移温度(℃)
フィルムの長手方向の延伸方法には、ロール感の速度差を用いる方法が好適に用いられる。この際、フィルムが滑らないようにニップロールでフィルムを固定しながら、複数区間にわけて延伸することも好ましい実施形態である。
【0046】
フィルム幅方向の延伸倍率は、好ましくは4.0倍以上、より好ましくは4.3倍以上5.0倍以下である。フィルム幅方向の延伸倍率を4.0倍以上とすることで、層Xを後述のインラインコート法を用いて設ける際に、層Xを構成する成分がフィルムの延伸方向に向かって配向しやすくなるため、γXPを好ましい範囲としやすくなる。また、後述の方法によって被離型層を設ける際に、凹凸構造を形成しやすくなる。幅方向延伸倍率が5.0倍を超えると、フィルムの製膜性が低下する場合がある。
【0047】
次に、二軸延伸フィルムを、下記(ii)式を満足する温度(Th0(℃))で、1秒間以上30秒間以下の熱固定処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷却することによって、ポリエステルフィルムを得ることが好ましい。
(ii)Tmf-35(℃)≦Th0(℃)≦Tmf(℃)
Tmf:フィルムの融点(℃)
(ii)を満たす条件によって二軸延伸フィルムを得ることにより、フィルムに適度な配向を付与せしめ、離型用フィルムとして使用する場合のハンドリング性を向上させることができる。このときの熱固定処理を行う温度としては、225℃以上、240℃以下が好ましい。層Xを後述のインラインコート法を用いて形成する場合、熱固定処理温度を225℃以上とすることで、層Xを構成する成分中の極性基が空気側に配向しやすくなり、γXPを好ましい範囲としやすくなる。また、後述の方法によって被離型層を設ける際に、表面凹凸を形成しやすくなる。熱固定処理温度が240℃を超えると、Tmf近傍の温度となり、平面性が低下する場合がある。
【0048】
本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムには、上述の製造方法に加え、フィルムに粒子を添加するのも好ましい実施形態である。添加する粒子としては、硬度の高い粒子が好ましく、ダイヤモンド粒子、ジルコニア粒子、酸化アルミ粒子が好適に用いられる。粒子添加量は、ポリエステルフィルムの質量に対して0.01%以上0.7%以下であることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムのポリエステルフィルムに、層X、層X’、層Y、被離型層を設ける方法について以下に説明するが、本発明はかかる方法により得られるフィルムに限られるものではない。
【0050】
層Xが水溶性の樹脂で形成される場合、層Xを形成する樹脂を水に溶解させ、本発明のポリエステルフィルム上にコーティングする方法が好ましく用いられる。コーティング方法としては、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用することが出来る。特に、長手方向に一軸延伸した後のポリエステルフィルムの表層に、層Xの樹脂をコーティングし、ポリエステルフィルムを幅方向に延伸すると同時に層Xを造膜するインラインコート法が好適に用いられる。
【0051】
インラインコート法によって層Xを設ける場合、一軸延伸されたポリエステルフィルムが幅方向に延伸されると、ポリエステルフィルムにコーティングされた層Xの樹脂も追従して幅方向に延伸されるため、層Xを構成する成分の分子主鎖がフィルムの延伸方向に沿って配向する。それに伴い、層Xを構成する成分の分子側鎖も取り得る向きが制限されるため、極性の高い側鎖が空気側に配向した状態となりやすく、結果としてγXPを好ましい範囲としやすくなる。また、後述の方法によって被離型層を設ける際に、極性基が空気側に配向した状態となることで、凹凸構造を形成しやすくなる。
【0052】
層Xの厚みは、50nm以上500nm以下が好ましい。50nm以上とすることで、層Xの極性溶媒の吸収を充分に発現することができ、極性溶媒である水を用いて洗浄する際に、層Yを透過した水が層Xを除去することが可能となるとともに、後述する方法によって被離型層を設ける際に、層Xが膨潤して凹凸構造を形成することが可能となる。また、500nmを超えると、形成される凹凸構造が粗大となり、被離型層の剥離性が劣るようになる場合がある。より好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0053】
次に、層X’を設ける方法について説明する。層X’は層Xに次に示す溶解処理を施すことで得られる。溶解処理とは、積層ポリエステルフィルムに設けた層Xの上に、バーコーティングによって水を1.8mg/cmとなるように塗布し、25℃で30分間静置することで、層X中の水溶性成分を水に溶解させ、その後熱風乾燥機を用いて100℃の条件で1分間の乾燥を行い、再び塗膜とすることである。インラインコート法によって形成された層Xにおいて、層Xの構成成分の分子主鎖は延伸工程を経て延伸方向に沿って配向しているが、それに溶解処理を施した層X’では、層Xの構成成分は一旦水に溶解し、再び乾燥されることでランダムな方向を向いた状態となる。すなわち、層X’は実質的に層Xから配向の影響を除いた塗膜となる。
【0054】
層Yは、層Xと同時に設けても、別々に設けてもよい。同時に設ける場合は、ダイなどを用いて2層を同時に塗布する方法、もしくは層Xの成分と層Yの成分を予め混合した塗剤を用いて塗布する方法が挙げられる。層Xと層Yの積層精度を向上させるため、層Xと層Yは別々に設ける方が好ましい。上述の方法で得られた層Xを含む積層ポリエステルフィルムに、層Yの成分を溶解させた塗液を用い、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用して塗布することができる。層Yの厚みは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。10nm以上とすることで層Yの機能を十分に発現することが可能となり、1000nm以下とすることで、被離型層を極性溶剤入りの塗剤を用いて層Y上に形成する際に、溶剤が層Yを浸透して層Xに達し、凹凸構造を形成することが短時間でできるようになる。また、層Xの極性溶媒の吸収を十分に発現し、HY(1)―HY(20)を好ましい範囲とすることが容易となる。上記観点から層Yの厚みは50nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0055】
また、本発明の積層ポリエステルの製造方法にかかる好ましい一態様として、層Yを極性溶媒を含む塗剤を用いて形成する工程を有することが挙げられる。本態様とすることで、層Y形成時に層Xを膨潤させて凹凸を形成することできる。
【0056】
ここで、極性溶媒とは、溶解度パラメーター(SP値)が9.0以上の溶媒を指し、SP値とは、ヒルデブランドにより提案された凝集エネルギー密度の平方根で定義される物性値であり、溶媒の溶解挙動を示す数値である。極性溶媒の例としては、これらに限られる物ではないが、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸、酢酸エチルなどが挙げられる。
【0057】
次に、層Xと層Yを除去する方法について説明する。層Xは前述の特性を有するため、極性溶媒である水で洗浄することが好ましい実施形態である。例えば、本発明の層X、層Yを含む積層ポリエステルフィルムを、積層ポリエステルフィルムを巻き出す工程と、巻き出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供給し、該積層ポリエステルフィルムから表面積層部(層X、層Y)を剥離する工程と、剥離後のポリエステルフィルムを巻き取る工程に供することが好ましい。温水の温度は50℃以上120℃以下であることが好ましい。50℃以上とすることで洗浄性が充分に得られる。120℃以下とすることで、ポリエステルフィルムのガラス転移温度を超えて、フィルムが搬送できない場合が起こることを抑制することができる。積層ポリエステルフィルムの表面に水が接する時間は、5秒以上が好ましく、より好ましくは10秒以上、さらに好ましくは30秒以上600秒以下である。巻出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供する工程は、水槽で行い、積層ポリエステルフィルム全体を覆う方法や、加熱された水を加圧して積層ポリエステルフィルムに対して噴射する方法が挙げられる。積層ポリエステルフィルムの層Yに水を供給することで、層Yを通して層Xに水が吸水され、層Yの物性を変化させることができる結果、層Yが積層ポリエステルフィルムから移動しやすくなり、洗浄性が向上する。前記の工程において、積層ポリエステルフィルムを搬送する速度は、5m/分以上が好ましく、より好ましくは10m/分以上、さらに好ましくは20m/分以上である、また、100m/分以下が好ましい。層Aと層Bを除去する工程において層Aと層Bを設けた積層ポリエステルフィルムを搬送する際、積層ポリエステルフィルムに張力をかけることも好適な態様として挙げられる。張力をかけることによって該積層ポリエステルフィルムの表面を展伸し、層Xと層Yの移動性を向上させる結果、洗浄性を向上させることができる。張力は5N/m以上100N/m以下が好ましく、より好ましくは20N/m以上80N/m以下、より好ましくは30N/m以上50N/m以下である。張力を前述の範囲以上とすることで、積層ポリエステルフィルムの表面が十分に展伸され、洗浄性を良好にすることができる。また、張力を前述の範囲以下とすることで、フィルムにシワが入ることで、表面の展伸性が低下することを抑制できるため、洗浄性を良好にすることができる。
【0058】
本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい態様としては、上記のように、ポリエステルフィルムの少なくとも片側に極性溶媒の吸収能を持つ層Xを設けた後、離型機能のある層Yを設けて工程用の離型用フィルムや他の機能性積層フィルムとして用い、さらに層Xおよび層Yを水により洗浄して除去し、ポリエステルフィルムのみを得ることを挙げることができる。そのため、得られるポリエステルフィルムをそのまま再利用することや、該フィルムを再溶融したのちチップ化し、再生原料としてフィルムの製膜に用い、フィルムとして再利用することが可能となる。
【0059】
[特性の評価方法]
A.各層の厚み
下記の方法にて、積層フィルム各層の厚みを求める。フィルム断面を、フィルム幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000倍の倍率で観察し、積層各層の厚みを測定する。
【0060】
B.固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mlに本発明のポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/dl)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定する。また、同様に溶媒の粘度を測定する。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記(a)式により、[η](dl/g)を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とする。
(a)ηsp/C=[η]+K[η]・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度(dl/g)/溶媒粘度(dl/g))―1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0061】
B-2.末端カルボキシル基量
末端カルボキシル基量(COOH末端基量)は国際公開第2010/103945号に記載の方法で求める。
【0062】
C.層Xの組成分析
層Xの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)スペクトルおよびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを測定し、ポリビニルアルコール骨格の有無を分析する。
[TOF-SIMSの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、TOF-SIMSスペクトルを測定する。
装置:ION-TOF社製TOF.SIMS5
1次イオン種:Bi ++
1次イオンの加速電圧:25kV
パルス幅:125ns
パンチング:なし(高空間分解能測定)
ラスターサイズ:40μm×40μm
スキャン数:64回
2次イオンの極性:正
帯電中和:あり
後段加速電圧:9.5kV。
[FT-IRの測定条件]
層X表面に対して、下記の装置を用い、FT-IRスペクトルを測定する。
装置:PerkinElmer社製Spectrum100
光源:特殊セラミックス
検出器:DTGS
分解能:4cm-1
積算回数:256回
測定波数範囲:4,000~680cm-1
測定モード:減衰全反射(ATR)法
付属装置:1回反射型ATRクリスタル(材質:ダイヤモンド/ZnSe)。
【0063】
C.層Xの共重合量(mol%)
下記の装置を用い、13CNMRスペクトル、DEPT135スペクトルにおいて、変性基導入の炭素シグナルのピーク面積から共重合量(mol%)を求める。
装置:ECZ-600R(株式会社JEOL RESONANCE社製)
測定方法:Single 13C pulse with inverse gated1H decoupling
測定周波数:150.9MHz
パルス幅:5.25μs
ロック溶媒:D
化学シフト基準:TSP(0ppm)
積算回数:10000回
測定温度:20℃
試料回転数:15Hz。
【0064】
D.層Xのけん化度
JIS K 6726(1994)ポリビニルアルコール試験方法に準じて、試料に含有される酢酸基量を水酸化ナトリウム水溶液による滴定法により定量し、算出する。
【0065】
E.層Xの平均重合度
JIS K 6726(1994)ポリビニルアルコール試験方法に準じて、試料を水酸化ナトリウム水溶液にて完全にけん化した後、オストワルド粘度系を用いて25℃での粘度を測定し、極限粘度から平均重合度を算出する。
【0066】
F.層X、層X’の表面自由エネルギー
共和界面科学株式会社製の接触角計DM501および付属の解析ソフトFAMASを用いて以下の方法で測定する。層Xまたは層X’表面に対して、標準液としてグリセロール、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンを用い、25℃での各液体の静的接触角を求め、各液体での静的接触角と、非特許文献1に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を、非特許文献2に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、連立方程式を解くことにより、層Xまたは層X’の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を求める。
【0067】
静的接触角の測定は、試料を事前に25℃の環境下で、12時間静置後に実施し、試料表面に液滴が接触した時間を0秒として、30秒後に撮影した画像を使用し、θ/2法を用いて、静的接触角を算出する。場所を変えて5回測定し、静的接触角の平均値を用いて、層Xまたは層X’の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を算出する。
【0068】
G.層Yの表面自由エネルギー
標準液としてベンジルアルコール、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタン用いた以外は、層Xの表面自由エネルギーと同様の方法で測定する。
【0069】
H.水の接触角(°)
共和界面科学株式会社製の接触角計DM501および付属の解析ソフトFAMASを用いて以下の方法で測定する。23℃、65%RHの雰囲気下、試料表面に水滴が接触した時間を0秒として、20秒間にわたって水滴形状の動画を撮影する。場所を変えて5回測定し、水滴が接する試料表面が層Xの場合、1秒後の水滴形状および20秒後の水滴形状から求められる接触角の平均値を算出し、それぞれHX(1)、HX(20)、水滴が接する試料表面が層Yの場合、同様にしてHY(1)、HY(20)として算出する。
【0070】
I.層Yの表面粗さSa1(nm)
層Yを設けた積層ポリエステルの表面粗さSa1を、株式会社菱化システム製の非接触表面形状計測システム“VertScan”(登録商標)R550H-M100を用いて、下記の条件で測定する。
【0071】
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード。
・対物レンズ:50倍。
・0.5×Tubeレンズ。
・測定面積:187×139μm。
【0072】
J.被離型層にセラミックグリーンシートを用いた場合の評価
被離型層としてセラミックグリーンシートを積層した場合について、以下の試験を行う。
[J-1.切断試験]
セラミックグリーンシートを積層した積層ポリエステルフィルムを、被離型層を上向きとして厚み3mmの塩ビシートの上に重ね、片刃(フェザー社製 剃刀替え刃炭素鋼(青箱)FA-10)の刃側を下向きとして積層ポリエステルフィルム面に対して平行な状態とし、フィルム面に向かってゆっくりと垂直に降ろし、積層ポリエステルフィルムに片刃が接触後、100g/cmの荷重をかけ、積層ポリエステルフィルムを押し切る。場所を変えて10回行い、積層ポリエステルフィルムの断面周辺に浮きが見られた回数を数える。
[J-2.セラミックグリーンシートの剥離性]
積層ポリエステルフィルムに積層されたセラミックグリーンシートの表面に、ポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製No.31B、幅19mm)を貼り付けて、共和界面科学株式会社製の剥離試験機VPA-H200を用いて、剥離角度180°、剥離速度300mm/minにて強度を測定し、50mm幅に換算する。
[J-3.セラミックグリーンシート積層後の表面粗さ]
J-2.試験後に残ったセラミックグリーンシート剥離後の積層ポリエステルフィルムを用いて、I.と同様の方法によってセラミックグリーンシート積層後の表面粗さSa2を測定し、下記(b)式によってΔSa1を算出し、以下の基準に従って判定する。
(b)ΔSa1=|Sa2―Sa1|
A;4以上、8以下
B;2以上、4未満または8を超え、14以下
C;2未満、または14を超える。
【0073】
K.被離型層に粘着シートを用いた場合の評価
被離型層として粘着シートを積層した場合について、以下の試験を行う。
[K-1.屈曲試験]
粘着シートを積層した積層ポリエステルフィルムの粘着シート側に、厚み25umのポリエステルフィルムを0.2kg/cmの荷重で気泡を噛まないように貼合し、貼合したフィルムから2cm×10cmのサンプルを切り出し、切り出したサンプルの長手方向が半分の長さとなるようにして積層ポリエステルフィルムが内側にして折り、貼合したフィルム同士に浮きが見られないか確認する。10回行い、浮きが見られた回数を数える。
[K-2.粘着シートの剥離性]
K-1で貼合したフィルムを25mm幅で10cmの長さに切り出し、共和界面科学株式会社製の剥離試験機VPA-H200を用いて、ポリエステルフィルム側を固定して、剥離角度180°、剥離速度300mm/minにて積層ポリエステルフィルムを粘着シートから剥離して強度を測定し、50mm幅に換算する。
[K-3.粘着シート積層後の表面粗さ]
K-2.試験後に残った粘着シート剥離後の積層ポリエステルフィルムを用いて、I.と同様の方法によって粘着シート積層後の表面粗さSa3を測定し、下記(c)式によってΔSa2を算出し、以下の基準に従って判定する。
(c)ΔSa2=|Sa3―Sa1|
A;4以上、8以下
B;2以上、4未満または8を超え、14以下
C;2未満、または14を超える。
【0074】
L.層X、層Yの除去性の評価
層X、層Yを除去して得られたポリエステルフィルムを用い、上記G.項に従って、1秒後に得られる水の接触角を測定し、以下の通り判定する。
A;65°以上80°未満
B;80°以上90°未満、もしくは65°未満
C;90°以上。
【0075】
M.再利用性
層X、層Yを除去した後のポリエステルフィルムを粉砕し、180℃で2時間乾燥した後、押出機に投入し280℃で溶融押出した後、25℃に冷却したキャストドラム上でシート状に成形し、得られたシートを上述のB.の方法によって固有粘度を測定する。その固有粘度IV(R)と、ポリエステルフィルムの固有粘度IVの差(ΔIV)を以下の式(d)により求める。
(d)ΔIV=|IV(R)-IV|
【実施例0076】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0077】
[PET-1の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0078】
[MB-Aの製造]PET-1を80質量部と粒径0.1μmの架橋ポリスチレン粒子(スチレン・アクリレート共重合体)の10質量%水スラリーを10質量部(架橋ポリスチレン粒子として1質量部)供給し、ベント孔を1kPa以下の減圧度に保持し水分を除去し、架橋ポリスチレン粒子を1質量%含有するMBを得た。ガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.61、末端カルボキシル基量は22eq./tであった。
【0079】
[PENの製造]2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルおよびエチレングリコールから、酢酸マンガンを触媒として、エステル交換反応を実施した。エステル交換反応終了後、三酸化アンチモンを触媒として常法によりPENを得た。また、重合時に粒径0.1μmのδ晶型アルミナ粒子の含有量が0.1%となるように添加した。得られたPENのガラス転移温度は124℃、融点は265℃、固有粘度は0.62、末端カルボキシル基量は25eq./tであった。
【0080】
[塗剤Aの作製]付加反応型シリコーン樹脂離型剤(信越化学工業株式会社製商品名KS-847T)100質量部、白金触媒(信越化学工業株式会社製商品名CAT-PL-50T)1質量部を、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Aを得た。
【0081】
[塗剤Bの作製]縮合反応型シリコーン樹脂離型剤(ダウ・東レ株式会社製商品名SRX290)100質量部、硬化剤(ダウ・東レ株式会社製商品名SRX242C)6質量部を、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Bを得た。
【0082】
[塗剤Cの作製]UV硬化型シリコーン樹脂離型剤(JNC株式会社製商品名FM-7721)2質量部、1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製商品名“ビスコート”(登録商標)#260)100質量部、光重合開始剤(IGM RESINS社製商品名“OMNIRAD”(登録商標)184)2質量部を、トルエンを溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Cを得た。
【0083】
[塗剤Dの作製]特許文献特開2004-230772号を参考にして、エチレンプロピレン共重合体とエチレンヘキセン共重合体をそれぞれ合成し、エチレンプロピレン共重合体53質量部、エチレンヘキセン共重合体42質量部、花王株式会社製のノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)「“レオドール”(登録商標) TW-L120」5質量部を、トルエン-酢酸エチル(質量比85:15)を溶媒として固形分1.5質量%となるように調整し、塗剤Dを得た。
【0084】
[塗剤Eの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度450、1,2-ブタンジオールの共重合量6.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Eを得た。
【0085】
[塗剤Fの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度60、平均重合度500、1,2-ブタンジオールの共重合量3.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Fを得た。
【0086】
[塗剤Gの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度75、平均重合度600、1,2-ブタンジオールの共重合量12.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Gを得た。
【0087】
[塗剤Hの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度300、1,2-ブタンジオールの共重合量6.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Hを得た。
【0088】
[塗剤Iの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度1000、1,2-ブタンジオールの共重合量6.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Iを得た。
【0089】
[塗剤Jの作製]特許文献特開平9-227627号を参考にして、けん化度88、平均重合度300、スルホン酸ナトリウムの共重合量8.0mol%となるPVAを作製した。該PVAを、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Jを得た。
【0090】
[塗剤Kの作製]三菱ケミカル株式会社製のポリビニルアルコール「GL-05」(けん化度88、平均重合度500)を、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Kを得た。
【0091】
[塗剤Lの作製]三菱ケミカル株式会社製のスルホン酸ナトリウム変性ポリビニルアルコール「L3266」(けん化度88、平均重合度300、スルホン酸ナトリウムの共重合量3.0mol%)を、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Lを得た。
【0092】
[塗剤Mの作成]チタン酸バリウム(富士チタン工業株式会社製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学株式会社製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状の塗剤Mを作製した。
【0093】
[塗剤Nの作成]アクリル系粘着剤(オリバインBPS-8170)を固形分濃度20%となるようにトルエン-酢酸エチル(質量比50:50)で希釈し、塗剤Nを作製した。
(実施例1)
PET-1を80質量部、MB-Aを20質量部を混合し、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムに、乾燥後の塗布厚みが100nmとなるようにバーコート法にて塗剤Eを塗布し、続いてフィルムのフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで240℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、層Xが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの層Xの上に、バーコーティングによって水を1.8mg/cmとなるように塗布し、25℃で30分間静置後、熱風乾燥機を用いて100℃の条件で1分間の乾燥を行い、層X’を得た。得られたポリエステルフィルム、層X、層X’の特性は表に記載のとおりであった。
【0094】
層Xが積層された積層ポリエステルフィルムの層Xのポリエステルフィルムと接する面とは反対の面に、層Yとして乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Aを用いてグラビアコート法にて塗布し、層Xと層Yが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。層Yの特性は表に記載のとおりであった。
【0095】
層Xと層Yが積層された積層ポリエステルフィルムに、被離型層として塗剤Mをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布し、塗布してから15秒後に100℃の温度で風速5m/秒の炉内で2分間の乾燥を実施して、層Xと層Yと被離型層としてセラミックグリーンシートが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。J.項に従って被離型層にセラミックグリーンシートを用いた場合の評価を行った。
【0096】
層Xと層Yが積層された積層ポリエステルフィルムに、被離型層として塗剤Nをダイコート法によって乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、塗布してから15秒後に100℃の温度で風速5m/秒の炉内で2分間の乾燥を実施して、層Xと層Yと被離型層として粘着シートが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。K.項に従って被離型層に粘着シートを用いた場合の評価を行った。
【0097】
層Xと層Yとセラミックグリーンシートが積層された積層ポリエステルフィルムからセラミックグリーンシートを離型するとともに、セラミックグリーンシートを離型した積層ポリエステルフィルムが巻き取られてなるフィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水で2分間洗浄し、層Xと層Yを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0098】
層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲であり、被離型層としてグリーンシートならびに粘着シートを用いた場合の被離型層の剥離性、浮き抑制性は良好であり、層X、層Yの除去性、再利用性も実用上問題のない範囲であった。
【0099】
(実施例2)
積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、MD方向の延伸倍率を4.0倍、TD方向の延伸倍率を3.9倍、テンター内での熱固定温度を235℃とした以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0100】
(実施例3~6)
層Xとして、実施例3では塗剤F、実施例4では塗剤G、実施例5では塗剤H、実施例6では塗剤Iを用いた以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0101】
(実施例7)
層Xの厚みを50nmに変えた以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0102】
(実施例8)
層Xの厚みを500nmに変えた以外は、実施例5と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0103】
(実施例9)
層Yとして塗剤Bを用いた以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0104】
(実施例10)
層Yとして、塗剤Cを用いて、乾燥後に酸素濃度0.1体積%の雰囲気下で積算光量200mJ/cmでUV照射した以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0105】
(実施例11)
積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、使用するポリエステル原料をPENに変え、MD方向の延伸時の温度を120℃、TD方向の延伸時の温度を150℃、TD方向の延伸倍率を3.9倍とした以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0106】
(実施例12)
層Xの厚みを1000nmに変えた以外は、実施例5と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0107】
(実施例13)
層Xとして塗剤Jを用い、積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、テンター内での熱固定温度を225℃とした以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0108】
(実施例14)
PET-1を80質量部、MB-Aを20質量部を混合し、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムのフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで240℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、層Xが積層されていないポリエステルフィルムを得た。
【0109】
層Xが積層されていないポリエステルフィルムの片面に、層Yとして乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Dを用いてグラビアコート法にて塗布し、層Yが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。層Yの特性は表に記載のとおりであった。
【0110】
層Yが積層された積層ポリエステルフィルムに、被離型層として塗剤Mをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布し、塗布してから15秒後に100℃の温度で風速5m/秒の炉内で2分間の乾燥を実施して、層Yと被離型層としてセラミックグリーンシートが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。J.項に従って被離型層にセラミックグリーンシートを用いた場合の評価を行った。
【0111】
層Yが積層された積層ポリエステルフィルムに、被離型層として塗剤Nをダイコート法によって乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、塗布してから15秒後に100℃の温度で風速5m/秒の炉内で2分間の乾燥を実施して、層Yと被離型層として粘着シートが積層された積層ポリエステルフィルムを得た。K.項に従って被離型層に粘着シートを用いた場合の評価を行った。
【0112】
層Yとセラミックグリーンシートが積層された積層ポリエステルフィルムからセラミックグリーンシートを離型するとともに、セラミックグリーンシートを離型した積層ポリエステルフィルムが巻き取られてなるフィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水で2分間洗浄し、層Yを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0113】
層Xが無いことから被離型層としてグリーンシートならびに粘着シートを用いた場合の被離型層の剥離性、浮き抑制性に劣るが、層YのHY(1)―HY(20)(°)が好ましい範囲であるため、層Yの除去性、再利用性は実用上問題のない範囲であった。
【0114】
(比較例1)
積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、MD方向の延伸倍率を4.2倍、TD方向の延伸倍率を3.7倍とした以外は、実施例10と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0115】
TD方向の延伸倍率が低いことから、層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性に劣るものであった。
【0116】
(比較例2)
積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、テンターでの熱固定温度を220℃に変え、層Yとして、塗剤Cを用いて、乾燥後に酸素濃度0.1体積%の雰囲気下で積算光量200mJ/cmでUV照射した以外は、実施例6と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0117】
熱固定温度が低いことから、層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性に劣るものであった。
【0118】
(比較例3)
層Xとして、塗剤Kを用いた以外は、実施例10と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0119】
層Xを構成するPVAが共重合成分を含まないことから、層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性と、層X、層Yの除去性に劣るものであった。その後、上述のM.項に従い、粉砕したポリエステルフィルムを溶融押出したところ、層X、層Yが除去できず残存しているため押出機内での劣化が生じ、シートを形成することができなかった。
【0120】
(比較例4)
積層ポリエステルフィルムの製膜条件として、MD方向の延伸時の温度を85℃、MD方向の延伸倍率を3.5倍、TD方向の延伸時の温度を95℃、TD方向の延伸倍率を3.7倍、テンターでの熱固定温度を220℃に変え、層Xとして、塗剤Lを用いた以外は、実施例1と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0121】
層Xを構成するPVAの共重合成分であるスルホン酸ナトリウムの共重合量が低いことから、層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性と、層X、層Yの除去性に劣るものであった。その後、上述のM.項に従い、粉砕したポリエステルフィルムを溶融押出したところ、層X、層Yが除去できず残存しているため押出機内での劣化が生じ、シートを形成することができなかった。
【0122】
(比較例5)
一軸延伸フィルムにバーコート法で塗剤Eを塗布する代わりに、横延伸を経て巻き取られた積層ポリエステルフィルムに対して乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Eをバーコート法で塗布し、熱風乾燥機を用いて100℃の条件で1分間乾燥して層Xが積層された積層ポリエステルフィルムを得た以外は、実施例1と同様に層X’を作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0123】
層Xを構成するPVAの極性基が配向していないことから、層Xの表面自由エネルギーの極性成分γXPが好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性と、層X、層Yの除去性に劣るものであった。その後、上述のM.項に従い、粉砕したポリエステルフィルムを溶融押出したところ、層X、層Yが除去できず残存しているため押出機内での劣化が生じ、シートを形成することができなかった。
【0124】
(比較例6)
層Yとして、塗剤Aを用いた以外は、実施例14と同様に積層ポリエステルフィルムを作製し、被離型物としてセラミックグリーンシートと粘着シートをそれぞれ積層して評価し、セラミックグリーンシートを剥離した後に層X、層Yを除去し、ポリエステルフィルムを再利用した。
【0125】
層Xを有さず、また層YのHY(1)―HY(20)(°)が好ましい範囲ではないため、被離型層の浮き抑制性と、層Yの除去性に劣るものであった。その後、上述のM.項に従い、粉砕したポリエステルフィルムを溶融押出したところ、層Yが除去できず残存しているため押出機内での劣化が生じ、シートを形成することができなかった。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、極性溶媒との親和性の高い層Xを有することから、層Xに接して積層した層Yの水による除去性に優れる。また、本発明の層Yを撥水性のある材料とすることで、誘電体ペーストや粘着剤を被離型層とする製造工程用の離型用フィルムとして用いた場合に、被離型層の浮きを抑制して好適に使用できる。また、MLCC製造工程で使用した後の離型用フィルムからポリエステルフィルムを容易に回収できるため、ポリエステルフィルムを溶融製膜用の原料として容易に再利用することができる。