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特開2023-69697過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びインジケータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069697
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びインジケータ
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20230511BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20230511BHJP
   A61L 2/28 20060101ALI20230511BHJP
   G01N 21/78 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
G01N31/00 M
G01N31/22 122
G01N31/22 121C
A61L2/28
G01N21/78 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181763
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴之
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
4C058
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA07
2G042BB11
2G042CB01
2G042DA08
2G042FA11
2G042FB07
2G042FC03
2G054AA01
2G054AB10
2G054BA04
2G054BB10
2G054CA07
2G054CB10
2G054CE02
2G054CE08
2G054CE10
2G054EA05
2G054EA06
2G054EB05
2G054FA29
2G054GB10
2G054GE05
2G054GE06
2G054JA01
2G054JA09
2G054JA11
4C058AA12
4C058AA24
4C058BB07
4C058DD15
4C058EE26
4C058JJ16
(57)【要約】
【課題】配合成分として組成物中に溶解する成分を採用しつつ、低濃度の過酸化水素ガスを検知可能な過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びそれを用いた過酸化水素ガス検知用インジケータを提供すること。
【解決手段】メチン系染料、バインダー樹脂、溶剤及び光重合開始剤を含む、過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチン系染料、バインダー樹脂、溶剤及び光重合開始剤を含む、過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
【請求項2】
さらに、カチオン系界面活性剤を含む、請求項1に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
【請求項3】
前記光重合開始剤の配合量が0.05~15質量%である、請求項1又は2に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
【請求項4】
前記カチオン系界面活性剤の配合量が0.01~15質量%である、請求項2に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
【請求項5】
メチン系染料、バインダー樹脂及び光重合開始剤を含む変色層を有する、過酸化水素ガス検知用インジケータ。
【請求項6】
前記変色層100質量%中に前記光重合開始剤が0.1~50質量%含まれる、請求項5に記載の過酸化水素ガス検知用インジケータ。
【請求項7】
前記変色層はさらにカチオン系界面活性剤を含み、
前記変色層100質量%中に前記カチオン系界面活性剤が0.1~50質量%含まれる、請求項6に記載の過酸化水素ガス検知用インジケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、過酸化水素ガスは病院又は研究機関における各種器材及び器具の消毒・滅菌等の用途に活用され、かかる消毒工程又は滅菌工程が完了したことを検知するためのインジケータが開発されている。
【0003】
過酸化水素ガスは、上記の消毒及び滅菌作業の他に、除染作業にも活用される。一般的な過酸化水素ガス滅菌装置は真空工程やプラズマ工程で除湿を行った後、40℃以上で行われるのに対して、滅菌保証レベルが医療器具に比べて低い除染作業は、常温常圧のまま室温で行われ、過酸化水素ガス濃度および暴露時間も滅菌に比べて短いことが多い。
【0004】
このため、滅菌工程確認用のインジケータでは変色反応が十分進行せず、実際には除染が完了していても、十分な変色が確認できないことがある。
【0005】
除染作業の実施を検知するためのインジケータとしては、消毒作業又は滅菌作業の実施を検知するためのインジケータよりも低濃度の過酸化水素ガスに対して反応するインジケータが求められる。
【0006】
かかる低濃度の過酸化水素ガスを検知可能なインジケータ用の組成物として、特許文献1には、酸化亜鉛及びステアリン酸マグネシウム等を含む組成物が開示されている。しかしながら、酸化亜鉛及びステアリン酸ナトリウムは溶剤に溶解しないため、組成物中の組成を均一にすることが難しく、変色ムラが生じやすい。
【0007】
このように、配合成分として組成物中に溶解する成分を採用しつつ、低濃度の過酸化水素ガスを検知可能な過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びそれを用いた過酸化水素ガス検知用インジケータが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6143444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、配合成分として組成物中に溶解する成分を採用しつつ、低濃度の過酸化水素ガスを検知可能な過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びそれを用いた過酸化水素ガス検知用インジケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、光重合開始剤を使用することにより、低濃度の過酸化水素ガスに対して反応し、且つ、配合成分が組成物中に均一に溶解する過酸化水素ガス検知用インキ組成物を提供できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びインジケータを提供する。
項1.
メチン系染料、バインダー樹脂、溶剤及び光重合開始剤を含む、過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
項2.
さらに、カチオン系界面活性剤を含む、項1に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
項3.
前記光重合開始剤の配合量が0.05~15質量%である、項1又は2に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
項4.
前記カチオン系界面活性剤の配合量が0.01~15質量%である、項2に記載の過酸化水素ガス検知用インキ組成物。
項5.
メチン系染料、バインダー樹脂及び光重合開始剤を含む変色層を有する、過酸化水素ガス検知用インジケータ。
項6.
前記変色層100質量%中に前記光重合開始剤が0.1~50質量%含まれる、項5に記載の過酸化水素ガス検知用インジケータ。
項7.
前記変色層はさらにカチオン系界面活性剤を含み、
前記変色層100質量%中に前記カチオン系界面活性剤が0.1~50質量%含まれる、項6に記載の過酸化水素ガス検知用インジケータ。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本発明に係る過酸化水素ガス検知用インキ組成物及びインジケータは、配合成分として組成物中に溶解する成分を採用しつつ、低濃度の過酸化水素ガスを検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0014】
1.過酸化水素ガス検知用インキ組成物
本発明の過酸化水素ガス検知用インキ組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う。)は、メチン系染料、バインダー樹脂、溶剤及び光重合開始剤を含む。本発明の組成物は、たとえ低濃度の過酸化水素ガスであっても、検知することが可能である。
【0015】
尚、本明細書において「低濃度の過酸化水素ガス」とは、無菌製剤クリーンルームに要求される無菌保証水準(SAL)10-6(製品100万個中、非無菌製品1個以下)の除染を過酸化水素で行う際の濃度で定義される。例えば51mに対して35%過酸化水素水400g~500g投入した場合、到達濃度の実測値は125ppm~290ppmである。35%過酸化水素水の投入量を別の単位で表記すると1Lに対して7.84mg~9.80mgである。一般に除染では低濃度の過酸化水素ガスを用いるが、除染よりも高い無菌保証水準を要求される滅菌処理の場合は例えば500ppm以上の高濃度の処理が行われる。
【0016】
1.1.メチン系染料
メチン系染料としては、メチン基を有する染料であればよく、特に限定はない。従って、本明細書においては、ポリメチン系染料、シアニン系染料等もメチン系染料に包含されるものと定義される。これらは、公知又は市販のメチン系染料から適宜採用することができる。具体的には、C.I.Basic Red 12、C.I.Basic Red 13、C.I.Basic Red 14、C.I.Basic Red 15、C.I.Basic Red 27、C.I.Basic Red 35、C.I.Basic Red 36、C.I.Basic Red 37、C.I.Basic Red 45、C.I.Basic Red 48、C.I.Basic Yellow 11、C.I.Basic Yellow 12、C.I.Basic Yellow 13、C.I.Basic Yellow 14、C.I.Basic Yellow 21、C.I.Basic Yellow 22、C.I.Basic Yellow 23、C.I.Basic Yellow 24、C.I.Basic Violet 7、C.I.Basic Violet 15、C.I.Basic Violet 16、C.I.Basic Violet 20、C.I.Basic Violet 21、C.I.Basic Violet 39、C.I.Basic Blue 62、C.I.Basic Blue 63等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
メチン系染料の含有量は、所望の色相等に応じて適宜決定できる。但し、一般的には本発明の組成物中0.05~5質量%とすることが好ましく、0.1~1質量%とすることがより好ましい。メチン系染料の含有量を0.05質量%以上とすることにより、塗膜の色が十分なものとなり、変色前後の判別が容易となる。また、メチン系染料の含有量を5質量%以下とすることにより、変色の確認のための過剰な積算濃度の過酸化水素ガス曝露が不要となり、除染の判定に好適に使用することができる。
【0018】
本発明の組成物中には、メチン系染料以外の染料又は顔料を併存させても良い。特に、過酸化水素ガス雰囲気下で変色しない色素成分(「非変色色素」という)を含有させても良い。かかる構成を採用することにより、ある色から他の色への色調の変化により視認効果をいっそう高めることができる。非変色色素としては、公知のインキ(普通色インキ)を使用することができる。この場合の非変色色素の含有量は、その非変色色素の種類等に応じて適宜設定すれば良い。
【0019】
1.2.バインダー樹脂
バインダー樹脂は、本発明の組成物をインジケータの基材に定着させるためのものであり、当該技術分野における公知のバインダー樹脂を広く採用することが可能である。
【0020】
かかるバインダー樹脂として、ポリアミド系樹脂、マレイン酸系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、スチレンアクリル酸系樹脂、アクリル系樹脂、及びケトン系樹脂を例示することができ、もちろんこれらに限定されない。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0021】
上記した中でも、アルキルフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、マレイン酸系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル酸系樹脂、及びポリビニルブチラール系樹脂を好適に使用することができる。
【0022】
バインダー樹脂の含有量は、本発明の組成物の、インジケータの基材への十分な密着性を確保するために、本発明の組成物100質量%中に5質量%以上とすることが好ましい。また、粘度が過度となることによる擦れの発生及び印刷性の悪化を回避するために、バインダー樹脂の含有量は本発明の組成物100質量%中に50質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましい。
【0023】
1.3.溶剤
溶剤としても、当該技術分野における公知の溶媒を使用することが可能であり、特に限定はない。
【0024】
具体的には、水、アルコール系溶剤(アルコール又は多価アルコール)、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、及びグリコールエーテル系溶剤を例示することができる。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
溶剤の含有量は、粘度が過度となることによる擦れの発生及び印刷性の悪化を回避するために、本発明の組成物100質量%中に40質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましい。一方、インキ粘度が低くなることに起因する滲みの発生を抑制するため、本発明の組成物100質量%中における溶剤の含有量を95質量%以下とすることが好ましく、90質量%以下とすることがより好ましい。
【0026】
1.4.光重合開始剤
光重合開始剤としても、特に制限されず、当該技術分野において使用される公知の光重合開始剤を広く採用することができる。具体的には、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、カチオン系光重合開始剤、アニオン系光重合開始剤、分子内水素引き抜き型光重合開始剤、及びオキシムエステル系光重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが可能であり、これらの中でも特に、分子内水素引き抜き型光重合開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤及びアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0027】
プラズマ処理の検知に使用されるインキ組成物において、光重合開始剤を配合することによりその感度が向上することは従来より知られている。詳細なメカニズムは不明であるが、プラズマ処理は一般に発光が伴うため、光重合開始剤の使用が何らかの影響を与えていると推測される。本発明者らは、驚くべきことに、発光を伴わない過酸化水素ガスへの暴露に対しても、光重合開始剤を使用することにより、その感度が上昇することを見出した。
【0028】
上記した光重合開始剤は、公知もの又は市販品も使用可能であり、また、一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。本発明では、光重合開始剤と後述するカチオン系界面活性剤とを併用することにより、極めて優れた検知感度を得ることができる。
【0029】
十分な検知感度を維持するために、本発明の組成物100質量%中の光重合開始剤の配合量は、0.05質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることがより好ましい。また、本発明の組成物の基材に対する密着性を確保するために、本発明の組成物100質量%中の光重合開始剤の配合量は15質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
【0030】
1.5.カチオン系界面活性剤
本発明の組成物は、さらにカチオン系界面活性剤を含むことが好ましい。カチオン系界面活性剤としても、特に制限されず、当該技術分野において使用される公知のカチオン系界面活性剤を広く採用することができる。具体的には、アルキルアンモニウム塩、イソキノリニウム塩、イミダゾリニウム塩及びピリジニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。これらは、公知もの又は市販品も使用できる。本発明では、カチオン系界面活性剤と光重合開始剤とを併用することにより、極めて優れた検知感度を得ることができる。
【0031】
アルキルアンモニウム塩の中でも、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、トリアルキルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、等が好ましい。具体的には、塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム等が挙げられる。特に、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等が好ましい。イソキノリニウム塩としては、例えばラウリルイソキノリニウムブロマイド、セチルイソキノリニウムブロマイド、セチルイソキノリニウムクロライド、ラウリルイソキノリニウムクロライド等が挙げられる。この中でも、特にラウリルイソキノリニウムブロマイドが好ましい。
【0032】
イミダゾリニウム塩としては、例えば1-ヒドロキシエチル-2-オレイルイミダゾリニウムクロライド、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロライド等が挙げられる。この中でも、特に2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロライドが好ましい。
【0033】
ピリジニウム塩としては、例えばピリジニウムクロライド、1-エチルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、1-ブチルピリジニウムクロライド、N-n-ブチルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムブロマイド、N-ヘキサデシルピリジニウムブロマイド、1-ドデシルピリジニウムクロライド、3-メチルヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチルヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチルオクチルピリジニウムクロライド、2-クロロ-1-メチルピリジニウムアイオダイド、3,4-ジメチルブチルピリジニウムクロリド、ピリジニウム-n-ヘキサデシルクロリド-水和物、N-(シアノメチル)ピリジニウムクロリド、N-アセトニルピリジニウムブロマイド、1-(アミノホルミルメチル)ピリジニウムクロライド、2-アミジノピリジニウムクロライド、2-アミノピリジニウムクロライド、N-アミノピリジニウムアイオダイド、1-アミノピリジニウムアイオダイド、1-アセトニルピリジニウムクロリド、N-アセトニルピリジニウムブロマイド等が挙げられる。この中でも、特にヘキサデシルピリジニウムクロライドが好ましい。
【0034】
上記したカチオン界面活性剤は、一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
十分な検知感度を維持するために、本発明の組成物100質量%中のカチオン系界面活性剤の配合量は0.01質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることがより好ましい。一方、本発明の組成物の基材に対する密着性を確保し、塗膜のブロッキングを抑制するという観点から、本発明の組成物100質量%中のカチオン系界面活性剤の配合量は15質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
【0036】
1.6.増量剤
本発明の組成物は、増量剤を含むことも好ましい。かかる増量剤としては、当該技術分野において使用される公知の増量剤を使用することができ、特に限定はない。具体的には、ベントナイト、活性白土、酸化アルミニウム、シリカ、及びシリカゲル等を例示することが可能である。
【0037】
組成物の十分な粘度を確保し、インジケータの基材への印刷時に生じる滲みの発生を抑制するため、本発明の組成物100質量%中の増量剤の配合量は0.5質量%以上とすることが好ましい。一方、本発明の組成物の粘度が過度となることにより生じ得るインジケータ基材への印刷時の擦れの発生を抑え、良好な印刷性を維持するため、本発明の組成物100質量%中の増量剤の配合量は30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。
【0038】
1.7.その他の成分
本発明の組成物は、必要に応じ、また、本発明の効果及び目的を損なわない範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、及び表面調整剤といった、公知のインキに使用される成分を例示することができる。
【0039】
本発明の組成物は、常法により製造することができる。例えば、上述の各配合成分を同時に又は順次に配合し、ホモジナイザー及びディゾルバーといった公知の攪拌機を使用して均一に混合する方法を挙げることができる。
【0040】
2.過酸化水素ガス検知用インジケータ
本発明は、さらに過酸化水素ガス検知用インジケータに係る発明を含む。本発明の過酸化水素ガス検知用インジケータ(以下、単に「本発明のインジケータ」ともいう。)は、例えば、上記した本発明の組成物を、基材に塗布又は印刷して変色層を形成することにより、得ることができる。
【0041】
基材としては、例えば、金属又は合金、セラミックス、ガラス、コンクリート、プラスチックス(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリイミド等)、繊維類(不織布、織布、その他の繊維シート)、これらの複合材料等を用いることができる。また、ポリプロピレン合成紙、ポリエチレン合成紙等の合成樹脂繊維紙(合成紙)も好適に用いることができる。
【0042】
基材表面に形成される変色層は、上記した本発明の組成物を基材に塗布又は印刷した後に適宜の方法により乾燥させることにより、得ることができる。
【0043】
変色層が形成される際には、本発明の組成物中に含まれる液体成分(溶剤など)がとばされることになるため、変色層中に含まれる各成分の固体としての含有量は、本発明の組成物中に含まれる状態から変動することになる。
【0044】
変色層100質量%中に含まれるメチン系染料の含有量は、0.1~50質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%とすることがより好ましい。
【0045】
変色層100質量%中に含まれるバインダー樹脂の含有量は、1.5~85質量%とすることが好ましく、12.5~70質量%とすることがより好ましい。
【0046】
変色層100質量%中に含まれる光重合開始剤の含有量は、0.1~50質量%とすることが好ましく、0.3~35質量%とすることがより好ましい。
【0047】
変色層は、さらにカチオン系界面活性剤を含むことが好ましく、変色層100質量%中に含まれるカチオン系界面活性剤の含有量は、0.1~50質量%とすることが好ましく、0.3~35質量%とすることがより好ましい。
【0048】
変色層は、さらに増量剤を含んでもよく、変色層100質量%中に含まれる増量剤の含有量は、0.5~60質量%とすることが好ましく、1.3~50質量%とすることがより好ましい。
【0049】
その他にも、上記した本発明の組成物同様に、上記変色層は、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、及び表面調整剤といった成分を適宜含んでいてもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0051】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0052】
(実施例及び比較例)
下記表1に示す組成に基づき、各成分を混合して各実施例及び比較例の組成物を得た。次いで基材として東洋紡製ポリエステル合成紙クリスパーK2323を用いた。インキ組成物をクリスパーK2323上にスクリーン印刷を行い、75℃15分条件下で強制乾燥させてインジケータを作製した。また、乾燥してインジケータとした際における各配合成分の固形成分としての含有量は、下記表2に示す通りである。
【0053】
【表1】
(表中の単位は、質量%である。)
【0054】
尚、表1中の各成分の概要は、次の通りである。
C.I. Basic Red 14:メチン系染料
C.I. Solvent Yellow 29:アゾ系染料
C.I. Pigment Green 7:フタロシアニン系顔料
タマノル100S:アルキルフェノール樹脂(荒川化学工業)
KR-610:ロジン系樹脂(荒川化学工業)
MOWITAL PVB-B20H:ポリビニルブチラール樹脂(クラレ)
NIKKOL CA-2150:4級アンモニウム塩界面活性剤(日光ケミカルズ)
OMNIRAD754:分子内水素引き抜き型光重合開始剤(IGM Resins)
OMNIRAD907:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins)
ブチルセロソルブ:溶剤
アロエジルR-972:非晶質シリカ(日本アエロジル)
SH200オイル 100CS:シリコンオイル(東レ・ダウコーニング)
【0055】
(過酸化水素ガス曝露評価試験)
変色性については、澁谷工業製除染庫80Lを使用した。変色テストの条件は、過酸化水素ガス保持時間5分、エアレーション時間30分で行った。チャンバー内に注入する35%過酸化水素水量は0.3g、0.5g、0.7gの3条件で評価を行った。投入量を別の単位で表記すると1Lに対して3.75mg~8.75mgとなり、一般的な除染条件と同等またはそれよりも低い過酸化水素ガス濃度となる条件である。暴露終了後、ブランク(暴露前のサンプル)と暴露後のサンプルを測色し、暴露前後での色差を計算して変色性を評価した。色差の測定にはJIS Z8729に規定される、CIE1978(L*a*b*)表色系を用い、得られた測定値から下記式(1)により、色差ΔE*abを求めた。測色はコニカミノルタ製蛍光分光濃度計FD-5を使用した。測定結果を表2に示す。
【0056】
【数1】
【0057】
下記表2に示すとおり、カチオン系界面活性剤と光重合開始剤とを共に配合する各実施例のインジケータは、各比較例のインジケータと対比して、過酸化水素ガスに対する検知感度が高いことが確認された。カチオン系界面活性剤のみであると、過酸化水素濃度ガスが低いと変色しにくかった。(比較例2)
【0058】
【表2】
(表中、組成の単位は質量%である。)