(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000697
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離回収・利用システムおよび二酸化炭素分離回収・利用方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20221222BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20221222BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20221222BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20221222BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20221222BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20221222BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20221222BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20221222BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20221222BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20221222BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C01B32/50
B01D53/14 100
B01D69/10 ZAB
B01D71/02 500
B01D53/22
B01D69/12
B01D53/04 110
B01D53/04 230
B01D53/62
B01D53/82
B01D53/96
C07C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101670
(22)【出願日】2021-06-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/大気中からの高効率CO2分離回収・炭素循環技術の開発」委託事業(事業期間、2020年度から2022年度)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】余語 克則
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雅博
【テーマコード(参考)】
4D002
4D006
4D012
4D020
4G146
4H006
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC03
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA01
4D002BA03
4D002BA04
4D002DA11
4D002DA21
4D002DA31
4D002DA41
4D002DA45
4D002DA46
4D002EA04
4D002EA07
4D002FA01
4D002HA02
4D006GA41
4D006HA21
4D006HA77
4D006MA02
4D006MA09
4D006MA31
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC05
4D006PA01
4D006PB65
4D006PB66
4D006PC80
4D012BA01
4D012CA03
4D012CB16
4D012CD02
4D012CG01
4D012CG03
4D012CH08
4D020AA03
4D020BA16
4D020BB01
4D020BC01
4D020CA03
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC11
4G146JC22
4G146JC24
4G146JC25
4G146JC26
4G146JD02
4H006AA02
4H006AC29
4H006BD10
4H006BD70
4H006BE20
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】エネルギー効率に優れた二酸化炭素の分離回収・利用システムおよび分離回収・利用方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料から、前記二酸化炭素を含むガスを生成させるとともに、前記固体材料を再生する再生部と、前記再生部で生成させた前記二酸化炭素を含むガスと、水素とが導入され、かつ、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも一種と、水蒸気と、を生成させる反応器と、前記反応器で生成させた前記水蒸気の少なくとも一部を、前記再生部に導入する水蒸気導入ラインと、を具備する、二酸化炭素分離回収・利用システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料から、前記二酸化炭素を含むガスを生成させるとともに、前記固体材料を再生する再生部と、
前記再生部で生成させた前記二酸化炭素を含むガスと、水素とが導入され、かつ、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも一種と、水蒸気と、を生成させる反応器と、
前記反応器で生成させた前記水蒸気の少なくとも一部を、前記再生部に導入する水蒸気導入ラインと、
を具備する、二酸化炭素分離回収・利用システム。
【請求項2】
前記反応器は、前記二酸化炭素を含むガスと前記水素とが導入される非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、を具備し、
前記水蒸気分離膜を透過した前記水蒸気と前記水素とが、前記第2空間から前記水蒸気導入ラインに導入される、請求項1に記載の二酸化炭素分離回収・利用システム。
【請求項3】
前記水蒸気分離膜が、多孔質支持体と、前記多孔質支持体に支持された無機膜と、を具備する無機複合体である、請求項2に記載の二酸化炭素分離回収・利用システム。
【請求項4】
更に、前記反応器に導入される前の前記二酸化炭素を含むガスから前記水蒸気を除去する脱水部を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離回収・利用システム。
【請求項5】
更に、二酸化炭素を含む処理対象ガスを前記固体材料と接触させて、前記固体材料に前記二酸化炭素を吸収または吸着させる二酸化炭素回収部を有し、
前記二酸化炭素回収部で前記二酸化炭素を吸収または吸着させた前記固体材料が、前記再生部に供給される、請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離回収・利用システム。
【請求項6】
二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料を準備する準備工程と、
前記二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料から、前記二酸化炭素を含むガスを生成させるとともに、前記固体材料を再生する再生工程と、
前記二酸化炭素を含むガスと、水素と、を反応させて、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種と、水蒸気と、を生成させる反応工程と、
を有し、
前記再生工程は、前記水蒸気の少なくとも一部を、前記二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料と接触させることを含む、二酸化炭素分離回収・利用方法。
【請求項7】
前記反応工程では、前記二酸化炭素を含むガスと前記水素とが、非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、を具備する反応器の前記第1空間に供給されるとともに、前記水蒸気分離膜を透過した前記水蒸気と前記水素とが、前記第2空間から引き抜かれ、
前記再生工程では、前記第2空間から引き抜かれた前記水蒸気と前記水素とが、前記二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料と接触する、請求項6に記載の二酸化炭素分離回収・利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の分離回収・利用システムおよび分離回収・利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスの削減の必要性が高まっており、発電所、製鉄所、セメントプラントなどで生成される排ガス中の二酸化炭素の分離回収技術の開発が急務とされている。
【0003】
例えば、特許文献1は、粒子状の二酸化炭素吸着材と二酸化炭素を含む処理対象ガスとを接触させて、前記処理対象ガスに含まれる二酸化炭素を前記二酸化炭素吸着材に吸着させるステップと、二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材と過熱蒸気とを接触させて、前記二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を離脱させることにより前記二酸化炭素吸着材を再生するとともに、離脱した二酸化炭素を回収するステップとを含み、前記二酸化炭素吸着材と接触させる前記過熱蒸気の飽和温度が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度以下であり、再生した前記二酸化炭素吸着材を、乾燥工程を経ることなく再び二酸化炭素の吸着に利用する、二酸化炭素分離回収方法を教示している。
【0004】
一方、特許文献2は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスを、非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間と、前記第1空間に配置された触媒と、を具備する分離膜反応器の前記第1空間に供給し、前記触媒の作用により前記原料ガスのメタノールへの転化反応を進行させる工程と、前記第2空間に掃引ガスを流通させることにより、前記転化反応に伴って発生する反応熱を除去するとともに、前記水蒸気分離膜を透過させた前記転化反応の副生成物である水蒸気を前記第2空間から流出させる工程と、前記転化反応により生成したメタノールと未反応ガスとを含む非透過流体を冷却し、メタノールを凝縮させて、メタノールと前記未反応ガスとを分離する工程と、前記未反応ガスを前記第1空間に循環させる工程と、を具備する、メタノール製造方法を教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020-90806号パンフレット
【特許文献2】特開2018-8940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エネルギー効率に優れた二酸化炭素の分離回収・利用システムおよび分離回収・利用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料から前記二酸化炭素を含むガスを生成させるとともに前記固体材料を再生する再生部と、前記再生部で生成させた前記二酸化炭素を含むガスと水素とが導入され、かつ、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種と水蒸気とを生成させる反応器と、前記反応器で生成させた前記水蒸気の少なくとも一部を前記再生部に導入する水蒸気導入ラインと、を具備する、二酸化炭素分離回収・利用システムに関する。
【0008】
本発明の別の側面は、二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料を準備する準備工程と、前記二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料から前記二酸化炭素を含むガスを生成させるとともに前記固体材料を再生する再生工程と、前記二酸化炭素を含むガスと水素とを反応させて、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種と水蒸気とを生成させる反応工程と、を有し、前記再生工程は、前記水蒸気の少なくとも一部を、前記二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料と接触させることを含む、二酸化炭素分離回収・利用方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱反応である二酸化炭素の水素化反応で生成する水蒸気が固体材料の再生に利用されるため、エネルギー効率に優れた二酸化炭素の分離回収・利用システムおよび分離回収・利用方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムの一例の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のシステムが具備する膜反応器が有する水蒸気分離膜の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムの一例は、二酸化炭素の分離回収システムと分離回収された二酸化炭素の水素化反応とを組み合わせたエネルギー利用効率に優れたシステムである。二酸化炭素の分離回収システムは、火力発電所、セメント工場、製鉄所、化学工場などで構築が検討されている。また、回収された二酸化炭素を還元して合成燃料を合成するFT(フィッシャー・トロプシュ)合成や、二酸化炭素を水素化してメタン、メタノールなどを合成する技術の開発が進められている。大気中の二酸化炭素を回収してビジネスに利用するダイレクトエアーキャプチャー(DAC)も注目されている。
【0012】
二酸化炭素の分離回収システムでは、二酸化炭素を固体材料に吸収または吸着させて分離する手法が有望である。固体材料は、繰り返し使用に適した耐久性を有している。二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料は、再生部で水蒸気と接触させることにより再生され、繰り返し利用される。再生部では、水蒸気により固体材料が加熱され、二酸化炭素を含むガスが取り出されるとともに固体材料が再生される。
【0013】
再生部に水蒸気を導入すると、二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)は、固体材料の表面における二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)と比較して著しく低くなる。このような二酸化炭素分圧の差が駆動力となって、固体材料に吸収または吸着されている二酸化炭素が水蒸気中に拡散する。これにより、固体材料から二酸化炭素が離脱し、固体材料が再生される。
【0014】
水蒸気は、過熱水蒸気であってもよい。過熱水蒸気は、飽和水蒸気と比較して相対湿度が低いため、固体材料の表面に凝縮水が付着しにくくなる。再生部の内部を減圧雰囲気にしてもよい。減圧雰囲気では、過熱水蒸気の温度は100℃未満(例えば60~80℃)になる。過熱水蒸気の温度は、固体材料の温度以下に制御してもよいが、固体材料の温度よりも高くてもよい。過熱水蒸気の温度は、例えば、固体材料の温度よりも20~30℃高くてもよい。
【0015】
過熱水蒸気の飽和温度は、固体材料の温度以下であってもよい。この場合、固体材料の表面で水蒸気の凝縮が生じないか凝縮量が僅かに抑制されるため、再生後の固体材料を乾燥させる必要がなくなる。固体材料の乾燥が不要になることで、二酸化炭素分離回収・利用システムの小型化や設備費用の削減も容易となる。
【0016】
固体材料には、例えば、アミン化合物を担持した多孔質材料やハニカム等を用い得るが、特に限定されない。多孔質材料としては、活性炭、活性アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、コージェライトなどを用い得る。
【0017】
再生部で生成させた二酸化炭素を含むガスは、水素とともに反応器へ送られ、反応器内で水素と反応して目的生成物と水蒸気とを生成する。この反応は、発熱反応であり、水蒸気は熱源として利用できる。二酸化炭素と水素との反応では、合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種が目的生成物として生成する。合成燃料とは、炭素数5~12のガソリン、炭素数12~18の軽油など、常温常圧で液体の燃料をいい、その中でも、炭素数5~10の炭化水素を主成分とする液体炭化水素燃料が好ましい。
【0018】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムでは、熱源として利用し得る水蒸気が反応器から引き抜かれ、水蒸気の少なくとも一部が再生部に導入される。すなわち、本実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムは、反応器で生成させた水蒸気の少なくとも一部を再生部に導入する水蒸気導入ラインを具備する。
【0019】
本実施形態の第1のメリットは、二酸化炭素の水素化反応で生成する蓄熱された水蒸気を固体材料の再生に利用できるためエネルギー効率に優れる点である。再生部では、二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料が水蒸気によって効率的に加熱され、二酸化炭素の固体材料からの離脱が促進される。これにより、二酸化炭素の分離回収に必要なエネルギーを削減することができる。
【0020】
ここで、反応器としては、二酸化炭素を含むガスと水素とが導入される非透過側の第1空間と、水蒸気分離膜と、透過側の第2空間とを具備する膜反応器が好適である。水蒸気分離膜は、第1空間と第2空間とを隔絶するように配置されている。水蒸気分離膜は、例えば、無機複合体であり、多孔質支持体と、これに支持された無機膜とを具備する。
【0021】
無機膜としては、ゼオライト膜、シリカ膜、カーボン膜などが挙げられる。無機膜の厚さは、例えば0.5μm~10μmである。多孔質支持体は、例えば、第1表面および第2表面を有し、第1表面と第2表面とが細孔により連通し、第1空間が第1表面で細孔と連通し、第2空間が第2表面で細孔と連通する筒状体である。多孔質支持体の材質としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、ステンレス鋼(SUS)などが挙げられる。
【0022】
第1空間には、二酸化炭素の水素化反応を促進させる触媒を配置してもよい。触媒は、例えば、第1空間内に充填されてもよいし、水蒸気分離膜の第1空間側に触媒を担持させてもよい。二酸化炭素の水素化反応を促進させる触媒としては、鉄、銅、パラジウム、酸化亜鉛、ジルコニア、酸化ガリウム、あるいはそれらの複合体などが挙げられる。
【0023】
膜反応器の非透過側の第1空間では、二酸化炭素の水素化反応が進行し、目的生成物と水蒸気が生成する。例えば、FT合成の反応式は、以下の通りである。目的生成物(例えば液体炭化水素)は、第1空間から回収される。
CO2+H2⇔CO+H2O
(2n+1)H2+nCO⇒CnH2n+2+nH2O
【0024】
一方、生成した水蒸気は、水蒸気分離膜を透過して透過側の第2空間に移動する。本実施形態の第2のメリットは、副生成物である水蒸気が第2空間に移動し、第1空間から除去されることで、平衡移動によって二酸化炭素と水素との反応が促進され、二酸化炭素の転化率が向上する点である。
【0025】
ただし、水と水素は分子サイズが近いため、第1空間に原料として導入された水素の一部も水蒸気分離膜を透過し、第2空間に移動する。すなわち、第2空間から引き抜かれる水蒸気には水素が含まれている。水素は、二酸化炭素利用システムを効率的に運用する上で貴重な資源であり、再利用することが望まれる。
【0026】
本実施形態の第3のメリットは、不可避的に第2空間に移動した水素が、蓄熱された水蒸気とともに水蒸気導入ラインに導入され、再生部に導入される点である。この場合、再生部で生成する二酸化炭素を含むガスには、第2空間から導入された水素が混入する。二酸化炭素を含むガスに混入した水素は、二酸化炭素とともに反応器に送られ、原料として再利用される。よって、水素の有効利用率が極めて高くなる。
【0027】
水蒸気分離膜の水蒸気透過速度は、大きいほど望ましいが、不可避的に第2空間に移動する水素量も多くなる。ただし、第2空間に移動した水素は、水蒸気導入ラインを介して再生部に導入され、最終的に反応器に戻されるので水素のロスは限定される。水蒸気分離膜の水蒸気透過速度は、例えば、1×10-7mol/(s・Pa・m2)以上でもよく、1×10-6mol/(s・Pa・m2)を超えてもよい。
【0028】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムは、更に、反応器に導入される前の二酸化炭素を含むガスから水蒸気を除去する脱水部を有してもよい。脱水部は、例えば、二酸化炭素を含むガスを冷却する機能を有してもよい。冷却により、水蒸気が液化し、ガス状の二酸化炭素と水素とが分離回収される。分離回収された二酸化炭素と水素との混合ガスが反応器に導入される。なお、脱水部の構成は特に限定されない。
【0029】
本実施形態に係る二酸化炭素分離回収・利用システムは、更に、二酸化炭素を含む処理対象ガスを固体材料と接触させて、固体材料に二酸化炭素を吸収または吸着させる二酸化炭素回収部を有してもよい。二酸化炭素回収部で二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料は再生部に供給される。これにより、二酸化炭素の分離回収システムと、分離回収された二酸化炭素を原料とする目的生成物の製造とを組み合わせたエネルギー利用効率に優れた二酸化炭素分離回収・利用システムを構築できる。
【0030】
二酸化炭素回収部は、再生部と兼用でもよい。すなわち、再生部が二酸化炭素回収部の機能を有してもよく、二酸化炭素回収部が再生部の機能を有してもよい。例えば、二酸化炭素回収部に充填された固体材料に二酸化炭素を吸着させた後、水蒸気を二酸化炭素回収部に導入して、二酸化炭素回収部を再生部として利用してもよい。
【0031】
処理対象ガスは、例えば、火力発電所、セメント工場、製鉄所、化学工場などで二酸化炭素を含むガスとして大量に生成する。例えば製鉄所では、高炉ガスまたは転炉ガスとして高濃度の二酸化炭素を含むガスは生成される。処理対象ガスは、バイオマスの燃焼ガスでもよいし、大気や閉鎖空間、室内空間の空気でもよい。
【0032】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る二酸化炭素の分離回収・利用システムおよび分離回収・利用方法の一例について具体的に説明する。
図1は、二酸化炭素分離回収・利用システムの一例の構成を示すブロック図である。
図2は、水蒸気分離膜の構成を示す概念図である。
【0033】
二酸化炭素分離回収・利用システム100は、膜反応器10と、再生部20とを具備する。再生部20には、二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料が充填されている。再生部20に熱源となる水蒸気を導入し、固体材料を水蒸気で加熱すると、固体材料から二酸化炭素が離脱する。その結果、再生部では、二酸化炭素と水蒸気を含むガスが生成される。同時に、二酸化炭素が取り出されたことで固体材料が再生される。
【0034】
再生部20で生成させた二酸化炭素を含むガスは、生成ガス導入ラインL21、L22を介して、膜反応器10の導入部12から膜反応器10に導入される。生成ガス導入ラインL21、L22の下流には、脱水部50が設けられている。脱水部50では、固体材料を加熱するために利用された水蒸気が、膜反応器10に導入される前に、二酸化炭素を含むガスから除去される。また、膜反応器10には、水素導入ラインL5を介して導入部12から水素が導入される。
【0035】
膜反応器10は、非透過側の第1空間S1と、水蒸気分離膜11と、透過側の第2空間S2とを具備する。第1空間S1には、導入部12から、再生部20で生成させた二酸化炭素を含むガスと水素とが導入される。水蒸気分離膜11は、多孔質支持体112と、多孔質支持体112に支持された無機膜111とを具備する無機複合体である。多孔質支持体112は、外周面(第1表面)および内周面(第2表面)を有する多孔質な筒状体であり、第1表面と第2表面とが細孔により連通している。第1空間S1は第1表面で細孔と連通する。第2空間S2は第2表面で細孔と連通する。第1空間S1には、二酸化炭素の水素化反応を促進する触媒を担持させた担体粒子Pが充填されている。
【0036】
第1空間S1での反応により生成した目的生成物(合成燃料、メタンおよびメタノールからなる群より選択される少なくとも1種)は、未反応ガスとともに、排出部13から分離部40に送られる。分離部40では、目的生成物(例えばメタノール)と未反応ガスが分離される。分離された未反応ガスは、未反応ガス回収ラインL4を介して、膜反応器10の導入部12に送られ、再利用される。
【0037】
一方、第1空間S1で生成した水蒸気の少なくとも一部および第1空間S1に導入された水素の一部は、水蒸気分離膜11を透過し、第2空間S2に移動する。その後、第2空間S2の水蒸気と水素は、水蒸気導入ラインL1を介して、再生部20へ送られる。その後、水蒸気と水素の熱は、再生部20で、二酸化炭素を吸収または吸着させた固体材料の再生に必要なエネルギーの少なくとも一部として利用される。再生部20で生成する二酸化炭素を含むガスのうち、水蒸気は脱水部50で除去され、二酸化炭素と水素は膜反応器10の第1空間S1に送られる。
【0038】
再生部20は、二酸化炭素回収部30(以下、「回収部30」という。)としても利用可能である。再生部20もしくは回収部30の内部には、二酸化炭素を可逆的に吸収もしくは吸着する固体材料が充填されている。所定の期間においては、再生部20(回収部30)に膜反応器10で生成する水蒸気が水蒸気導入ラインL1を介して導入される。別の期間においては、回収部30(再生部20)に処理対象ガス導入ラインL3を介して二酸化炭素を含む処理対象ガスが導入され、二酸化炭素が分離回収される。二酸化炭素以外の成分を含むガスは、排出ラインLoutを介して系外に放出もしくは移送される。
【0039】
図1のシステムでは、第1分岐部B1の操作により、水蒸気と水素が導入される再生部20が切り替えられる。また、第2分岐部B2の操作により、処理対象ガスが導入される回収部30が切り替られる。再生部20および回収部30を兼ね、固体材料を収容する構造体を複数設置することで、1つのシステム内に再生部20と回収部30とを常時確保することができる。
【0040】
水蒸気として過熱水蒸気を用いる場合、飽和水蒸気と比較して相対湿度が低いため、固体材料の表面に付着する凝縮水が低減される。再生部20の内部の過熱水蒸気の圧力は、過熱水蒸気と接触させる固体材料の温度における飽和水蒸気圧以下としてもよい。過熱水蒸気の飽和温度は、過熱水蒸気と接触させる固体材料の温度よりも10~15℃ほど低い温度に設定されてもよい。例えば、固体材料の温度が約60℃である場合、飽和温度が約50℃である約70℃の過熱水蒸気を用い得る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る二酸化炭素分離回収・利用システムおよび二酸化炭素分離回収・利用方法は、例えば、火力発電所、セメント工場、製鉄所、化学工場などにおいて、二酸化炭素の分離回収システムと二酸化炭素の水素化反応とを組み合わせて稼働させる場合に好適である。また、本発明に係る二酸化炭素分離回収・利用システムおよび二酸化炭素分離回収・利用方法は、エネルギー効率が高いため、DACや閉鎖空間、室内空間等で回収された二酸化炭素を有効利用する場合にも適している。
【符号の説明】
【0042】
100:二酸化炭素分離回収・利用システム
10:膜反応器
11:水蒸気分離膜
111:無機膜
112:多孔質支持体
12:導入部
13:排出部
20:再生部
30:二酸化炭素回収部
40:分離部
50:脱水部
L1:水蒸気導入ライン
L21、L22:生成ガス導入ライン
L3:処理対象ガス導入ライン
L4:未反応ガス回収ライン
L5:水素導入ライン
Lout:排出ライン
S1:第1空間
S2:第2空間
P:触媒粒子
B1:第1分岐部
B2:第2分岐部