(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069712
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】鋼製階段
(51)【国際特許分類】
E04F 11/112 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
E04F11/112
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181789
(22)【出願日】2021-11-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 株式会社群鐵は、令和3年9月14日に東急建設株式会社(東京都渋谷区渋谷1-16-14)に、近藤省吾が発明した静音性能の高い特許出願に係る鋼製階段を販売した。
(71)【出願人】
【識別番号】503218492
【氏名又は名称】株式会社群鐵
(74)【代理人】
【識別番号】100122552
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 浩二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】近藤 省吾
【テーマコード(参考)】
2E301
【Fターム(参考)】
2E301CC47
2E301CC54
2E301CC56
2E301CC58
2E301CD04
2E301CD43
2E301DD01
2E301DD15
2E301DD25
2E301DD72
2E301DD93
(57)【要約】
【課題】鋼製階段について、過剰なコストや施工時間を要することなく、鋼製階段の総ての部分において優れた静音性を確保できるようにすることを課題とする。
【解決手段】鋼板を用いて踏板3Aと踊場部4を形成してなる鋼製階段1において、その踏板3A及び踊場部4を、底板3b,4bの上に踏面板3a,4aを重ねた二重構造として、その踏面板3a,4aを、底板3b,4bの上面に対し所定間隔で栓溶接を複数施してなる栓溶接部31,41により、底板3b,4b上面の全面に亘って密着した状態にして接続したことを特徴とするものとした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を用いて踏板と踊場を形成してなる鋼製階段において、前記踏板及び前記踊場は、底板の上に踏面板を重ねた二重構造とされており、前記踏面板は、前記底板の上面に対し所定間隔で複数施した栓溶接により前記上面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴とする鋼製階段。
【請求項2】
前記踊場は、前記底板の底面側が鉄製の根太で支持された構造となっており、前記底板は、前記根太の上面に対し所定間隔で複数施した栓溶接により前記上面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載した鋼製階段。
【請求項3】
前記根太と前記底板の前記栓溶接による接続箇所は、前記底板と前記踏面板を前記栓溶接で接続した箇所に対し、上下方向に重ならない位置とされている、ことを特徴とする請求項2に記載した鋼製階段。
【請求項4】
前記根太は平面視格子状に配設されており、少なくとも前記根太同士が十字状に交差した部分の上面側が前記底板と前記栓溶接で接続されている、ことを特徴とする請求項2又は3に記載した鋼製階段。
【請求項5】
前記踏板の段差部分を形成している蹴込板は、前記底板から屈曲して延設された板材に前記踏面板から屈曲して延設された板材を重ねた二重構造により構成されており、その外面側の前記板材は、内面側の前記板材の表面に対し所定間隔で複数箇所施した栓溶接により前記表面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載した鋼製階段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段部及と踊場部に設けた制振構造により静音機能を備えた鋼製階段に関する。
【背景技術】
【0002】
踏板及びささら桁からなる階段部と踊場部が鉄鋼で作成されている鋼製階段は、人が歩行する部分が鋼板製であるため音が響きやすく、昇降時の靴音による騒音が問題となりやすい。そのため、上面が皿状に開口した踏板本体を2本のささら桁の間に複数枚固定して鋼製階段の基体とし、これを建物に設置してから、その踏板本体内にモルタルを充填して固化させることにより、踏板の静音性を確保することが一般に行われている。
【0003】
しかし、この方式においては、鋼板を皿状に形成した踏板本体とこれに充填するモルタルに仕上げ材の踏面板(上板)の重量を合わせると、鋼板だけで作成した踏板と比べて総重量が大幅に大きくなってしまう。また、鋼製階段の基体を建物に設置した後に踏板本体内にモルタルを充填して均す手間を要するとともに、モルタルを充填する部分に配置した鉄筋に靴を引っ掛けて転倒する危険性がある。さらに、充填したモルタルが固化するまでの間は、その階段を使用できないという難点もある。
【0004】
このような問題に対し、2枚の鋼板の間に粘弾性物質等からなる制振素材を挟み込んだ制振板を踏面板として踏板本体に使用することで、モルタルのような充填材を用いずに静音性を確保しようとする技術が、実公昭51-23321号公報に提案されている。ところが、このように鋼板と制振素材を組み合わせる方式では、充分な荷重強度と静音性を両立するために余分な手間とコストを要して、結果的に全体の製造コストが嵩むことに繋がり、且つ、制振素材が可燃性物質であるため防災上の問題も指摘されている。
【0005】
そこで、本願発明者・出願人らは、先に特開2018-80522号公報において、鋼板を用いて踏面板(上板)・前面板・底板(底面板)・後面板を形成してなる鋼製階段の踏板を、底板の短径方向中央側を上方に突出するように屈曲させながらその中央部で踏面板に下から面接触して支持する構造を採用したことにより、底板のアーチ構造による支持力で踏面板の荷重強度を確保しながら、昇降動作による踏面板の振動を底板で吸収させる技術を提案した。
【0006】
これにより、安全性を損なうことなく低コストで静音性を確保することが可能となった。しかしながら、この技術は階段の踊場部には適用できないため、この部分についてはモルタルを充填する等の従来の方式が必要である。また、総ての踏板において、踏面板の裏面に底板の突出した上面をあらゆる状況下で均一に密着させることは技術的に困難であるため、均一的な静音性を確保しにくい状況が生じるケースも想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭51-23321号公報
【特許文献2】特開2018-80522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、過剰なコストや施工時間を要することなく、鋼製階段の総ての部分において優れた静音性を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、鋼板を用いて踏板と踊場を形成してなる鋼製階段において、その踏板及び踊場は、底板の上に踏面板を重ねた二重構造とされており、その踏面板は、底板の上面に対し所定間隔で複数施した栓溶接により前記上面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴とするものとした。
【0010】
このように、人の昇降動作で靴音が響きやすい鋼製階段において、その踏板と踊場を構成する底板と踏面板の間にモルタルを充填するのではなく、両者を上下に密着させるように栓溶接で均一的に接続しただけの簡易な構成により、発生した振動を減衰させる制振構造が階段部と踊場部の両方に形成され、且つ、工場で完成した基体を現場で設置するだけで済むものとなるため、過剰な施工コストや施工時間を要することなく、鋼製階段において人が歩行する総ての部分で靴音の発生を大幅に低減して、顕著な静音効果を発揮可能なものとなる。
【0011】
また、この鋼製階段において、その踊場は、底板の底面側が鉄製の根太で支持された構造となっており、その底板は、根太の上面に対し所定間隔で複数施した栓溶接により前記上面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴としたものとすれば、踊場部の耐荷重性が格段に向上することに加え、根太・底板・踏面板による三重構造のうち上下に重なった部分が各々均一的に接続した構成により、より優れた静音性を確保することができる。
【0012】
この場合、その根太と底板の栓溶接による接続箇所は、底板と踏面板を栓溶接で接続した箇所に対し、上下方向に重ならない位置とされている、ことを特徴としたものとすれば、三重構造のうち下側2枚と上側2枚の栓溶接による接続位置を互いにずらしたことでさらに振動減衰効果大きくなるため、一層優れた静音効果が期待できるものとなる。
【0013】
さらに、上述した根太と底板が栓溶接で接続された鋼製階段において、その根太は平面視格子状に配設されており、少なくともその根太同士が十字状に交差した部分の上面側が底板と栓溶接で接続されている、ことを特徴としたものとすれば、さらに強度・耐久性に優れた踊場を形成することができる。
【0014】
さらにまた、上述した鋼製階段において、その踏板の段差部分を形成している蹴込板は、底板から屈曲して延設された板材に踏面板から屈曲して延設された板材を重ねた二重構造により構成されており、その外面側の板材は、内面側の板材の表面に対し所定間隔で複数箇所施した栓溶接により前記表面の全面に亘って密着した状態にして接続されている、ことを特徴とするものとすれば、蹴込板部分においても制振構造が形成されたことで、一層優れた静音性を確保しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0015】
踊場と踏板について底板に踏面板を重ねた構造としながら両者が均一的に密着するように栓溶接で接続してなる本発明によると、踏板と踊場の両方において制振構造が形成されるため、過剰なコストや施工時間を要することなく、鋼製階段において人が歩行する総ての部分で靴音の発生を大幅に低減して、優れた静音性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明における実施の形態である鋼製階段の平面部分図である。
【
図3】
図2の鋼製階段の踊場部と階段部との接続箇所を拡大して示した断面部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態である鋼製階段1を平面部分図で示している。この鋼製階段1は、鋼板製の踏板3A,3A,3A,・・・とその両端側を支持したささら桁2,2からなる階段部3,3、及び鋼板製の踊場からなる踊場部4で構成されている。また、
図2の断面図に示すように、その階段部3の踏板3Aは、底板3bの上に踏面板3aを重ねた二重構造とされており、その踊場部4も底板4bの上に踏面板4aを重ねた二重構造となっている。
【0019】
そして、その二重構造をなす踏面板3a,4aは、底板3b,4bの上面に対し所定間隔で栓溶接(プラグ溶接)を均一的に複数箇所施してなる栓溶接部31,41(図中○で表示)により、各底板3b,4b上面の全面に亘ってまんべんなく密着した状態にして接続されており、あらゆる状況においてその密着した状態の二重構造を維持するようになっており、この点が本発明における最大の特徴部分となっている。
【0020】
即ち、人の歩行による靴音が響きやすい鋼製階段において、従来のように踏板3Aと踊場部4を構成している底板3b,4bと踏面板3a,4aとの間に各々モルタルを充填するのではなく、両者を上下に密着させるように栓溶接でまんべんなく接続しただけの簡易な構成を採用したことで、歩行による振動を減衰させる制振構造が階段部3と踊場4の両方に形成されるため、施工のためのコストや時間を過大にすることなく、鋼製階段において人が歩行する総ての部分で顕著な静音効果を発揮するものである。
【0021】
これは、底板3b,4bと踏面板3a,4aの厚さを合計した厚さの鋼板1枚を用いた単層構造の場合と比較して、底板3b,4bと踏面板3a,4aを栓溶接による複数の点で均一的に接続した二重構造の方が、制振機能に優れていることを本願発明者らが見出したことによるものである。
【0022】
また、その踊場部4は、底板4bの底面側が平面視格子状に配設された鉄製の根太43,44で支持された構造となっている。そして、その底板4bは、根太43,44の上面に対し所定間隔で均一的に複数施した栓溶接部42(図中×で表示)により、根太43,44上面の全面に亘って密着した状態にして接続されており、この点も本実施の形態における重要な特徴部分となっている。
【0023】
即ち、
図2において白抜矢印で指している丸で囲んだ拡大図部分に示すように、底板4bに穿設した栓溶接孔401が根太44の上面に一致した位置とされ、この位置で栓溶接を施して栓溶接部42を設けることで両者を接続したものであり(上方の円中はその平面図)、その上に踏面板4aが載った構成となっている。また、その右側円中の拡大部分図に示すように、底板4bの上に載った踏面板4aは、これに設けた栓溶接孔400の位置で底板4bとの間に栓溶接を施した栓溶接部41を設けて両者を接続している。
【0024】
これにより、踊場部4の耐荷重性を確保しやすくなることに加え、根太43,44・底板4b・踏面板4aによる三重構造が構成されて、その三重構造の上下に重なった部分がまんべんなく点接続により一体化していることにより、より優れた静音性を確保しやすいものとなっている。
【0025】
さらに、本実施の形態の鋼製階段1においては、
図2に示したように、根太43,44と底板4bの栓溶接部42による接続箇所が、底板4bと踏面板4aを栓溶接で接続した栓溶接部41の位置に対し、上下方向に互いに重ならない位置とされており、この点も本実施の形態における重要な特徴部分となっている。このように、根太43,44、底板4b、踏面板4aによる三重構造のうち、下側2枚と上側2枚の栓溶接による接続位置をずらしたことで、さらに振動減衰効果大きくなるため、より優れた静音効果を期待することができる。
【0026】
また、栓溶接部42は、格子状に配設した根太43,44の上面に設けることになるが、その位置としては、
図1に示したように、少なくとも根太43,44の交差部分に配置することが好ましく、また、格子を形成している正方形における各辺の中間部分にも栓溶接部4を設けることにより、平面視上の均一的な接続と両部材の密着性が確保されるため、さらに強度と静音性に優れた踊場部4を実現することができる。
【0027】
一方、本実施の形態において、その階段部3で踏板3Aの段差部分を形成している蹴込板は、
図3の拡大部分図に示すように、底板3b,4bから屈曲して延設された板材3d,4dに、踏面板3a,4aから屈曲して延設された板材3c,4cを重ねた二重構造により構成されている。
【0028】
そして、蹴込板の外面側の板材3c,4cは、
図4の側面図に示すように、内面側の板材3d,4dの表面に対し、所定間隔で均一的に複数箇所施した栓溶接による栓溶接部31,32で前記表面の全面に亘って密着した状態にして接続されているため、この蹴込板の部分においても制振構造が形成されたものとなっており、さらに優れた静音性を実現できるようになっている。
【0029】
尚、本実施の形態において、階段部3で段差を形成しているステップ面の角部には、滑り止め用のプレート35が配設されているが、
図3に示したように、底板3b,4b端部側の角部が面取りされていることで、その上に重なる踏面板3a,4a端部側の角部との間に空間が形成されており、プレート35を固定するネジの先端がその空間内に突出して、外部からネジの先端が露出しない構造とされているため、鋼製階段として美観に優れたものとなっている。
【0030】
以下に、上述した鋼製階段1(本件発明)を実際に作成し、従来品(対照例1)と比較試験を行うことにより、その静音性を確認した。
【実施例0031】
(本件発明)
図1乃至
図4と同様の構成にて作成した鋼製階段。栓溶接部の位置と数も図面と同様。
・踊場部:面積2544mm×1324mm、根太:厚さ9mm、高さ75mm、平面視300mmピッチの格子状に配置、底板:厚さ6mm、栓溶接孔6×10mm(楕円形)、踏面板:厚さ2.3mm、栓溶接孔6mm(円形)
・階段部:幅1200mm、底板:2.3mm、踏面板:2.3mm、栓溶接孔6mm(円形)、蹴込板も同様
(対照例1)基本構成は本件発明と同様であるが、栓溶接を施していない鋼板のみの鋼製階段。
【0032】
(試験方法)
本件発明と対照例1において、ゴルフボールを1.2mの高さから踏板の中央部と端部に各々落下させ、衝突した際の音圧を各々収録して周波数解析データ及び騒音レベルを取得した。
【0033】
(試験結果)
・対照例:中央部は騒音レベル83.1dB、固有周波数1400Hz、端部は騒音レベル83.5dB、固有周波数1690Hzであった。
・本件発明:中央部は騒音レベル79.0dB、固有周波数721Hz、端部は騒音レベル70.5dB、固有周波数790Hzであった。
【0034】
(考察)
中央部及び端部の両方において、本件発明は対照例1と比較して騒音レベルが顕著に低かったことから、静音効果に優れているものと考えられた。
【0035】
以上、述べたように、鋼製階段について、本発明により過剰なコストや施工時間を要することなく、鋼製階段の総ての部分において優れた静音性を確保できるようになった。
1 鋼製階段、2 ささら桁、3 階段部、3A 踏板、3a,4a 踏面板、3b,4b 底板、3c,3c,4c,4d 板材、4 踊場部、31,32,41,42 栓溶接部、43,44 根太、400,401 栓溶接孔