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<図1>
  • 特開-表面処理銅箔 図1
  • 特開-表面処理銅箔 図2
  • 特開-表面処理銅箔 図3
  • 特開-表面処理銅箔 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069796
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】表面処理銅箔
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/12 20060101AFI20230511BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C25D5/12
C25D7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181926
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】青島 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】星 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野澤 和浩
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA14
4K024AB02
4K024AB13
4K024BA09
4K024BB09
4K024BC02
4K024CA01
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024CA16
4K024DA03
4K024DB03
4K024DB04
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】 特に表示素子の用途に使用するために、基材との被接着面が、優れた耐エッチング性、黒色の色調、及び処理ムラや気泡痕がない外観を有する表面処理銅箔を提供する。
【解決手段】 表面処理銅箔10は、電解銅箔である銅箔層13と、電解銅箔の一方の面側を覆う黒化処理層14とを備え、黒化処理層14は、銅、ニッケル、コバルト、及びタングステンを含む複合金属層であり、黒化処理層のニッケルの付着量が120~400μg/dmであり、コバルトの付着量が400~700μg/dmであり、タングステンの付着量が70~200μg/dmである。黒化処理層14は、ニッケル、コバルト、及びタングステンを含むめっき浴で銅箔層13の一方の面をめっき処理することで形成することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解銅箔と、前記電解銅箔の一方の面側を覆う黒化処理層とを備える表面処理銅箔であって、
前記黒化処理層が、銅、ニッケル、コバルト、及びタングステンを含む複合金属層であり、
前記黒化処理層のニッケルの付着量が120~400μg/dmであり、コバルトの付着量が400~700μg/dmであり、タングステンの付着量が70~200μg/dmである表面処理銅箔。
【請求項2】
前記黒化処理層のニッケル、コバルト、及びタングステンの各付着量の合計が700~1200μg/dmである請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記表面処理銅箔の前記黒化処理層側の表面が、L表色系において、L値が55.0~65.0であり、a値が0.0~10.0であり、b値が0.0~10.0である請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
表面処理銅箔の黒化処理層側の表面に、直径50μm以上の気泡痕が1mにつき10個以上存在しない表面処理銅箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔に関し、より詳しくは、タッチパネルなどの表示素子用の表面処理銅箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表示素子の分野において、タッチパネル用配線形成材料などの用途に表面処理銅箔が使用されている。他の用途の表面処理銅箔では、基材との被接着面が、配線形成工程であるエッチングに使用する薬液に耐え得る耐エッチング性、及び処理ムラや気泡痕がない外観を有する表面処理が電解銅箔に施されていることが求められているが、表示素子の用途に使用する表面処理銅箔には、更に、表示素子とした際の映り込みを防ぐための黒色の色調を有する表面処理が電解銅箔に施されていることが求められる。
【0003】
銅箔に施される表面処理としては、例えば、非特許文献1には、硬質Crめっきの代替として、Ni-W合金めっきが記載されており、Wの含有量によってNi-W合金膜のめっき亀裂挙動の違いについて研究結果が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】石井和也ら、「Ni-W合金めっきの皮膜クラックに及ぼすめっき内部応力の影響」、表面技術、一般社団法人表面技術協会、2014年、Vol.65、No.8、p.49~53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載されているNi-W合金めっきは、耐酸性に優れているものの、黒色の色調を呈していないため、表示素子用途の電解銅箔への表面処理としては適していない。一方、黒色の色調を呈する表面処理を電解銅箔に施すと、表面に気泡痕が発生し易いという問題もある。気泡痕があると、いずれの用途であっても、異物として誤検出されるおそれがあり好ましくない。
【0006】
そこで本発明は、特に表示素子の用途に使用するために、基材との被接着面が、優れた耐エッチング性、黒色の色調、及び処理ムラや気泡痕がない外観を有する表面処理銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、電解銅箔と、前記電解銅箔の一方の面側を覆う黒化処理層とを備える表面処理銅箔であって、前記黒化処理層は、銅、ニッケル、コバルト、及びタングステンを含む複合金属層であり、前記黒化処理層のニッケルの付着量が120~400μg/dmであり、コバルトの付着量が400~700μg/dmであり、タングステンの付着量が70~200μg/dmである。
【0008】
また、前記黒化処理層のニッケル、コバルト、及びタングステンの各付着量の合計は、700~1200μg/dmであることが好ましい。
【0009】
前記表面処理銅箔の前記黒化処理層側の表面は、L表色系において、L値が55.0~65.0であり、a値が0.0~10.0であり、b値が0.0~10.0であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、別の態様として、表面処理銅箔の黒化処理層側の表面に、直径50μm以上の気泡痕が1mにつき10個以上存在しない表面処理銅箔である。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、電解銅箔の一方の面(表示素子の透明基材との被接着面)に黒化処理層として、銅、ニッケル、コバルト、及びタングステンを含む複合金属層に形成することで、耐エッチング性に優れるとともに、表面処理銅箔の黒化処理層側の表面を黒色に呈することができ、また、処理ムラや気泡痕がない外観とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る表面処理銅箔の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す表面処理銅箔をタッチパネル用配線形成材料として用いる場合の使用例を説明するための模式的な断面図である。
図3図1に示す表面処理銅箔をタッチパネル用配線形成材料として用いる場合の使用例を説明するための模式的な断面図である。
図4】表面処理銅箔の処理ムラを評価するために使用した基準となる表面処理銅箔の被接着面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る表面処理銅箔の一実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0014】
[表面処理銅箔]
本実施の形態の表面処理銅箔は、電解銅箔と、この電解銅箔の少なくとも一方の面側を覆う黒化処理層とを備えている。
【0015】
電解銅箔の厚さは、例えば、1~35μmの範囲が好ましく、2.0~6.0μmの範囲がより好ましく、約6μmが更に好ましい。銅箔の厚さが6.0μmよりも薄いと、電解銅箔のハンドリングが難しくなる場合がある。よって、6.0μmよりも薄い電解銅箔を使用する場合は、例えば図1に示す表面処理銅箔10のように、キャリア箔11と呼ばれる別の銅箔表面に剥離層12を介して電解銅箔として銅箔層13を形成し、これを使用する。この場合、キャリア箔11とは反対側の銅箔層13の表面に、黒化処理層14が形成される。キャリア箔11付きの銅箔層13において、銅箔層13の厚さが1.0μmよりも薄すぎると、キャリア箔剥離強度が不安定になるという問題が生じるおそれがある。一方、電解銅箔の厚さが35.0μmよりも厚すぎると、エッチングに長時間を要し、エッチング速度が面内方向で不均一となりやすいことから部分的にエッチングされ、平坦さが失われる恐れがあるという問題が生じるおそれがある。
【0016】
電解銅箔は、一般に、その製造過程において電着ドラムと接していた側である光沢を有する陰極面と、その反対側のめっきにより形成された析出面とを有する。黒化処理層は、電解銅箔の陰極面と析出面のどちらに形成してもよいが、形状が安定することから電解銅箔の陰極面に形成することが好ましい。
【0017】
黒化処理層は、優れた耐エッチング性を有するとともに、黒色の色調を呈するため、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびタングステン(W)の複合金属層である。黒化処理層の厚さは、例えば、1.0~100.0nmの範囲が好ましく、5.0~20.0nmの範囲がより好ましい。
【0018】
ニッケルの付着量は、120~400μg/dmの範囲が好ましく、170~350μg/dmの範囲がより好ましく、200~300μg/dmの範囲が更に好ましい。ニッケルの付着量が120μg/dm未満では、耐薬品性が低下し、エッチング時に残すべき部分の銅箔が剥離してしまうという問題が生じるおそれがある。一方、ニッケルの付着量が400μg/dmを超えると、エッチング時に形成した配線の端部に溶け残りが生じ、配線同士のショートを引き起こす恐れがあるという問題が生じるおそれがある。
【0019】
コバルトの付着量は、400~700μg/dmの範囲が好ましく、400~600μg/dmの範囲がより好ましく、400~500μg/dmの範囲が更に好ましい。コバルトの付着量が400μg/dm未満では、処理面の色調が明るくなるという問題が生じるおそれがある。一方、コバルトの付着量が700μg/dmを超えると、エッチング時に形成した配線の端部に溶け残りが生じ、配線同士のショートを引き起こす恐れがあるという問題が生じるおそれがある。
【0020】
タングステンの付着量は、70~200μg/dmの範囲が好ましく、80~150μg/dmの範囲がより好ましく、90~130μg/dmの範囲が更に好ましい。タングステンの付着量が70μg/dm未満では、耐薬品性が低下し、エッチング時に残すべき部分の銅箔が剥離してしまうという問題が生じるおそれがある。一方、タングステンの付着量が200μg/dmを超えると、エッチング時に形成した配線の端部に溶け残りが生じ、配線同士のショートを引き起こす恐れがあるという問題が生じるおそれがある。
【0021】
ニッケル、コバルト、およびタングステンの各付着量の合計(以下、単に「総量」という)は、700~1200μg/dmの範囲が好ましく、730~1100μg/dmの範囲がより好ましく、760~900μg/dmの範囲が更に好ましい。総量を700μg/dm以上とすることで、優れた耐薬品性を発揮し、エッチング時に残すべき部分の銅箔が剥離してしまうという問題をより確実に防止することができる。一方、総量を1200μg/dm以下とすることで、エッチング時に形成した配線の端部に溶け残りが生じ、配線同士のショートを引き起こす恐れがあるという問題をより確実に防止することができる。
【0022】
このような黒化処理層が電解銅箔の上に形成されることから、表面処理銅箔の被接着面の色調は、L表色系において、L値が65以下、a値が10以下、b値が10以下となり、表示素子に用いるための十分な黒色系の色調を呈することができる。
【0023】
値は明度であり、数値が低い程、暗い色調である。a値およびb値は、色の方向を示しており、a値が高い程、赤い方向に、低い程、緑の方向となる。また、b値が高い程、黄色い方向に、低い程、青方向となる。a値およびb値は、互いのバランスによって呈する色調が変わるため、一概には言えないが、両方が低い値である方が、より黒色を呈する。
【0024】
より好ましくは、L値が60以下、a値が5.0以下、b値が5.0以下であり、更に好ましくは、L値が57以下、a値が2.0以下、b値が2.0以下である。
【0025】
また、本実施の形態の黒化処理層を備えた表面処理銅箔は、黒化処理層側の表面に、直径50μm以上の気泡痕が1mにつき10個以上存在しないという優れた外観を有することができる。気泡痕は、1mにつき5個以上存在しないことが好ましく、1mにつき3個以上存在しないことがより好ましく、1mにつき1個以上存在しないことが更に好ましい。
【0026】
このような黒化処理層を備えた表面処理銅箔の表示素子への使用について説明する。図2に示すように、表示素子を製造するために、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明基材フィルム21の両面にそれぞれ接着層22を形成し、そして、この透明基材フィルム21の両面に、それぞれ図1に示すような表面処理銅箔10を、黒化処理層14が接着層22に接するように貼り合わせる。貼り合わせ後、キャリア箔11を剥がし、銅箔層13を所定の配線パターンにエッチングし、銅箔層13がセンサー配線材料として用いられる表示素子を製造する。
【0027】
図3に示すように、配線パターンにエッチングされた銅箔層13A、13Bと透明基材フィルム21との間に、同様に配線パターンにエッチングされた黒化処理層14A、14Bが位置することから、表示素子において、一方の配線パターンにエッチングされた銅箔層13A及び黒化処理層14Aの間から、他方の配線パターンにエッチングされた銅箔層13Bが視認されるのを、黒色を呈する黒化処理層14Bが防ぐことができる。これにより一方の銅配線の間から入射した光が反射するのを防止でき、表示素子の画質の低下を抑制する等のことができる。なお、本発明の表面処理銅箔は、図1図2に示すようなキャリア箔が付いたものに限定されるものではない。
【0028】
なお、本実施の形態の表面処理銅箔10は、必要に応じて、黒化処理層14の表面にシランカップリング剤処理層(図示省略)を備えてもよい。シランカップリング剤処理層は、従来、電解銅箔に適用されてきたシランカップリング剤処理によって形成される層でよい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、アミノ系シランカップリング剤や、エポキシ系シランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の表面処理銅箔10は、必要に応じて、黒化処理層14とシランカップリング剤処理層との間に、クロメート処理層(図示省略)を備えてもよい。クロメート処理層は、従来、電解銅箔に適用されてきたクロメート処理によって形成される層でよい。クロメート処理には、三酸化クロム、重クロム酸カリウム、重クロム酸ナトリウム等を使用することが好ましい。これにより形成されたクロメート処理層は、6価クロムから還元された3価クロムの酸化物又は水酸化物を含むものとなっている。
【0030】
[表面処理銅箔の製造方法]
表面処理銅箔を製造する方法の実施形態について、以下、説明する。本実施形態の表面処理銅箔の製造方法は、電解銅箔の一方の面に、黒化処理層を形成し、表面処理銅箔を得るというものである。
【0031】
黒化処理層を形成する工程は、電解銅箔の被接着側の面をめっき処理して、銅、ニッケル、コバルト、およびタングステンの複合金属層を形成する工程である。黒化処理層を形成するため、上述した複合金属層に含まれる金属を含有するめっき浴を用いる。めっき処理は、より黒色の色調を呈することができるため、1回ではなく、2回行うことが好ましい。
【0032】
第1のめっき処理としては、例えば、銅とコバルトの複合金属層を形成する。そのための具体的な第1のめっき浴組成としては、例えば、銅の濃度を1.3~10.2g/L、コバルトの濃度を2.1~12.6g/L、pHを2.5~3.5、浴温度を25~33℃とすることが好ましい。また、第1のめっき処理の条件としては、電流密度を0.0~4.0A/dm、処理時間を2.0~6.0秒とすることが好ましい。なお、第1のめっき処理は、銅とニッケルの複合金属層でもよいし、銅とタングステンの複合金属層でもよい。
【0033】
なお、このとき各金属の供給源は酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、イソポリ酸塩、金属オキソ酸塩などのいずれの形態であってもよい。また、液中イオン濃度安定化によるめっき出来栄えの安定化のため、硫酸ナトリウム無水物を加えてもよい。この場合、ナトリウムの濃度は5.0~30.0g/Lとすることが好ましい。
【0034】
続いて、第2のめっき処理としては、例えば、ニッケル、コバルト、およびタングステンの複合金属層を形成する。そのための具体的な第2のめっき浴組成としては、例えば、ニッケルの濃度を1.0~4.5g/L、コバルトの濃度を1.0~3.1g/L、タングステンの濃度を0.3~2.8g/L、pHを2.5~4.0、浴温度を25~33℃とすることが好ましい。また、第2のめっき処理の条件としては、電流密度を0.3~1.5A/dmとすることが好ましく、0.8~1.5A/dmとすることがより好ましく、1.0~1.4A/dmとすることが更に好ましい。また、処理時間は2.0~4.0秒とすることが好ましい。
【0035】
なお、このとき各金属の供給源は酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、イソポリ酸塩、金属オキソ酸塩などのいずれの形態であってもよい。また、液中イオン濃度安定化によるめっき出来栄えの安定化のため、硫酸ナトリウム無水物を加えてもよい。この場合、ナトリウムの濃度は5.0~30.0g/Lとすることが好ましい。
【0036】
このようにめっき処理を2回行うことで理論的には2層の複合金属層が形成されているはずであるが、各種分析を行ったものの2層の界面ははっきりと確認できず、1層の黒化処理層が形成されているとも考えられる。黒化処理層の表面から波長分散型X線分析(WDX)装置で黒化処理層のニッケル、コバルト、およびタングステンの量を測定したところ、2層の複合金属層に含まれる各元素の量が確認された。
【0037】
なお、黒化処理層を形成する工程では、いずれのめっき処理をする前に、予め水洗や、酸洗処理をしておくことが好ましい。また、黒化処理層を形成した後、上述したように、シランカップリング剤処理を行ったり、シランカップリング剤処理の前にクロメート処理を行ってもよい。クロメート処理およびシランカップリング剤処理の各処理条件は、電解銅箔に行われている公知の処理条件を適用することができる。
【実施例0038】
以下に、本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
先ず、厚さ6μmの電解銅箔(日本電解株式会社製、品番:SEED箔)の表面を10wt%の硫酸に10秒間浸漬して酸洗処理を行った。この銅箔を水洗した後、液中の銅濃度が4.1~5.1g/L、コバルト濃度が7.4~8.4g/L、およびナトリウム濃度が14.8~23.2g/Lであり、pH2.9、浴温度30℃に調整した第1のめっき液を用いて、銅箔の陰極面側の表面を2.4A/dmの電流密度でめっきして、銅およびコバルトを含む第1の複合金属層を形成した。
【0040】
そして、この銅箔を水洗した後、液中のニッケル濃度が2.6~2.8g/L、コバルト濃度が1.8~2.0g/L、タングステン濃度が0.9~1.1g/L、ナトリウム濃度が14.1~23.7g/Lであり、pH2.9、浴温度30℃に調整した第2のめっき液を用いて、更に銅箔の陰極面側の表面を1.0A/dmの電流密度でめっきして、ニッケル、コバルト、およびタングステンを含む第2の複合金属層を形成した。
【0041】
次に、この銅箔を水洗し、第1及び第2の複合金属層上に、重クロム酸ナトリウム3.5g/Lからなり、pH5.4、浴温度28℃に調整したクロム液を用いて、銅箔の陰極面側の表面を0.9A/dmの電流密度でめっきしてクロメート処理層を形成した。
【0042】
更に、この銅箔を水洗し、クロメート処理層上に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン0.25wt%からなるシランカップリング剤液に10秒間浸漬してシランカップリング剤処理層を形成した。これにより実施例1の表面処理銅箔を得た。
【0043】
[実施例2~4]
表1に示すように、第2のめっき処理の電流密度を1.1A/dm、1.2A/dm、1.4A/dmに変更した以外は、実施例1と同様の条件で電解銅箔を処理し、実施例2~4の表面処理銅箔を得た。
[実施例5]
表1に示すように、第1のめっき処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の条件で電解銅箔を処理し、実施例5の表面処理銅箔を得た。
【0044】
[比較例1~4]
表1に示すように、第2のめっき処理の電流密度を1.6A/dm、1.9A/dm、2.5A/dm、0.5A/dmに変更した以外は、実施例1と同様の条件で電解銅箔を処理し、比較例1~4の表面処理銅箔を得た。
【0045】
[比較例5]
表1に示すように、第2のめっき処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で電解銅箔を処理し、比較例1~5の表面処理銅箔を得た。
【0046】
各実施例、比較例にて実施しためっき処理の時間は、0.0~8.0秒の範囲で付着量を調整しながら実施した。
【0047】
実施例1~5、比較例1~5の表面処理銅箔について、以下に説明する方法で、表面処理銅箔の被接着面のNi、Co、Wの各成分の付着量を測定するとともに、表面処理銅箔の被接着面の色調、耐エッチング性、および処理ムラや気泡痕の外観について評価した。
【0048】
(1)付着量の測定
表面処理銅箔の被接着面の付着量(μg/dm)は、走査型蛍光X線分析装置(Rigaku社製、品番ZSX Primus IVi)を使用して測定した。Ni、Co、Wの各成分の付着量、およびその合計である総量の結果を表1に示す。
【0049】
(2)色調の測定
表面処理銅箔の被接着面の色調は、色彩色差計(コニカミノルタ社製、品番CR-400)を使用し、JIS Z 8781に準拠してL表色系のL値、a値、b値を測定した。その結果を表2に示す。
【0050】
(3)耐エッチング性
表面処理銅箔の被接着面をラミネートフィルム(アスカ社製、BH907)に、ラミネータ(フジプラ社製、LPD3226N)を使用して積層して銅張積層板とし、試験片を作製した。この試験片を塩化第二鉄の40%水溶液に10分間浸漬し、エッチングにより幅1mmの配線を形成した。この工程にて、銅箔配線が剥がれたものを剥離の評価として「×」とし、剥がれなかったもの「〇」とした。またエッチング後、配線端部に幅1μm以上の溶け残りがあるものを残渣の評価として「×」とし、幅1μm以上の溶け残りがないものを「〇」とした。その結果を表2に示す。
【0051】
(4)外観
表面処理銅箔の被接着面の外観を、処理ムラ、気泡痕の観点で評価した。処理ムラの評価としては、デジタルカメラを使用して、表面処理銅箔の被接着面を観察し、図4に示す画像の処理ムラを基準とし、図4よりも強い処理ムラが生じた場合を「×」とし、それよりも弱い場合を「〇」とした。気泡痕の評価としては、USBカメラを使用して拡大像(視野6mm×8mm)を撮影し、直径50μm以上の気泡痕が存在した場合を「×」とし、直径50μm以上の気泡痕は存在しない場合を「〇」とした。その結果を表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1および表2に示すように、実施例1~5のいずれの表面処理銅箔も、L表色系においてL値が65以下、a値が10以下、b値が10以下となり、表示素子用途で使用可能な黒色系の色調を示した。特に実施例4では、色調の値L、a、bがより低く、表示素子とした際の映り込みの可能性が低い結果となった。また、耐エッチング性の評価では、実施例1~5のいずれの表面処理銅箔も残渣、剥離は生じていなかった。更に、外観の評価では、実施例1~5のいずれの表面処理銅箔も気泡痕、処理ムラは発生していなかった。特に、第1のめっき処理を行わなかった実施例5に比べて、第1のめっき処理を行った実施例1~4は、a値、b値が低く、色調がより優れていた。
【0055】
一方、比較例1~3の表面処理銅箔では、第2のめっき処理の電流密度が高いことから、各成分の付着量が増大し、色調の評価において、L値、a値、b値がおおむね実施例1~4よりも低く、色調については問題がない一方、付着量の増加によって、エッチング液への溶解性が低下し、エッチング後に残渣が生じた。また、電流密度を上げたことにより、めっき処理中に銅箔側に水素ガスが発生しやすくなったため、外観の評価では、気泡痕、処理ムラが発生した。特に、比較例1~3のいずれの表面処理銅箔においても、気泡痕が1mにつき10個以上も存在していた。
【0056】
比較例4の表面処理銅箔では、第2のめっき処理の電流密度が低いことから、各成分の付着量が減少し、色調の評価において、L値が65を大きく超え、黒色系の色調を得ることはできなかった。更に、付着量の低下によって、エッチング液への溶解性が上昇し、エッチング時に銅箔が剥離してしまった。一方、電流密度を下げたことにより、めっき処理中に銅箔側に水素ガスが発生しにくくなったため、外観の評価では、気泡痕、処理ムラは発生していなかった。
【0057】
比較例5の表面処理銅箔では、第2のめっき処理を実施しなかったことから、色調の評価において、L値が65を大きく超え、黒色系の色調を得ることはできなかった。また、耐エッチング性の評価でも、銅箔の剥離が生じていた。
【符号の説明】
【0058】
10 表面処理銅箔
13 銅箔層(電解銅箔)
14 黒化処理層
20 タッチパネル
21 透明基材フィルム
22 接着層
図1
図2
図3
図4