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特開2023-6980付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物
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  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図1
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図2A
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図2B
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図2C
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図3
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図4
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図5A
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図5B
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図6A
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図6B
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図7
  • 特開-付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006980
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20230111BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230111BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B23K26/352
B23K26/00 G
A61L2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109900
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】596163770
【氏名又は名称】菱電商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 秀寛
【テーマコード(参考)】
4C058
4E168
【Fターム(参考)】
4C058AA01
4C058BB06
4C058KK01
4C058KK32
4E168AD18
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA03
4E168DA24
4E168DA25
4E168DA26
4E168DA32
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA05
4E168EA11
4E168EA15
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
4E168JA05
4E168JA06
4E168JA14
4E168JA16
4E168JA17
4E168JA18
4E168JA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物の付着を効果的に防止できる付着防止構造を、産業上実用可能なコストでかつ高速なダイレクトプロセッシング方法により形成できる付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物を提供する」。
【解決手段】対象物15の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する工程を含む付着防止構造物の製造方法である。例えば、粒子物としてのウイルスは宿主(付着する対象物)が無いと維持・拡散することができないので、対象物の表面にウイルスを付着及び残留させにくくする付着防止構造を形成することによって、抗ウイルス機能を付与することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する工程を含むことを特徴とする付着防止構造物の製造方法。
【請求項2】
モールドの表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成したモールドを用いて付着防止構造物を製造することを特徴とする付着防止構造物の製造方法。
【請求項3】
前記粒子物がウイルス、細菌、及び粉塵から選択される少なくとも1種である、請求項1から2のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項4】
前記付着防止構造が短周期付着防止構造及び長周期付着防止構造を有する、請求項1から3のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項5】
前記短周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離が1μm未満であり、
前記長周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離が1μm以上である、請求項4に記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項6】
前記短周期付着防止構造が、前記長周期付着防止構造の少なくとも凸頂部に形成されている、請求項4から5のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項7】
前記付着防止構造が干渉加工法により形成される、請求項1から6のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項8】
前記干渉加工法が表面波干渉加工法により行われる、請求項7に記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項9】
前記干渉加工法が多光束干渉加工法により行われる、請求項7に記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項10】
前記付着防止構造がパーカッション加工法により形成される、請求項1から3のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項11】
前記付着防止構造が逆テーパー加工法により形成される、請求項1から3のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法。
【請求項12】
対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する手段を有することを特徴とする付着防止構造物の製造装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法により製造されたことを特徴とする付着防止構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症COVID-19は、世界的感染爆発(パンデミック)を引き起こし、人から人への直接的な感染は人の行動(人流)によるところが大きい。一方、物を介した間接的な感染は生活環境に存在する材料や物品などの表面にウイルスを付着させないか、あるいはウイルスを不活化できる特性を物品などの表面に付与することが、感染防止対策として重要である。
【0003】
また近年、人々の生活環境に対する衛生指向が向上しており、例えば、食器、眼鏡、流し、台所周り、便器、トイレ周り、浴槽、浴室周り、洗面所周り、被服などへの衛生指向及び抗菌指向が高まっている。更に、細菌、カビ等の真菌類のみならず、病原性ウイルスを不活化し、人々の生活環境を取り巻く物品などを抗菌化・抗ウイルス化することによって、被感染又は二次感染のリスクを軽減することが強く望まれている。
【0004】
一方、科学的エビデンスのある抗菌技術としては、(1)有機コーティングと(2)材質由来であり、これに新規技術として(3)表面テクスチャが注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
前記(1)の有機コーティングは光増感剤と高分子電解質(ポリカチオン等の正の電荷を帯びた陽イオン)であり、材質由来としては銅、銀、亜鉛、二酸化チタンなどが示されている。
既に、これら各方法の抗菌メカニズムに関するエビデンスが報告されており、前記(1)の有機コーティングと前記(2)の材質由来の両方ともほぼ同じメカニズムに起因しており、下記の3つに整理できる。
(i)活性(酸素)種による細胞構造の損傷
(ii)活性種や金属イオンなどによる遺伝情報の損傷
(iii)細胞膜への付着防止と損傷
【0005】
前記(3)の表面テクスチャによる抗菌及び抗ウイルスでは、3番目のメカニズムである「付着と損傷」に着目しており、そのポイントは「ウイルスは宿主(取り付く相手)が無いと維持・拡散できない」という原則にある。つまり、ウイルス感染の原因となる生活状況の一つは宿主(物体)の表面に触れることであるから、抗ウイルス機能は「宿主である浮遊物(パーティクル)や菌(細胞)を付着・残留させにくくする(滑落性を高めて除去=防汚)」ことで高めることができる。
【0006】
また、物品の表面に微生物付着防止特性を付与することを目的として、例えば、表面に、少なくとも2種類の形状の複数の凸部を有し、複数の凸部は、同じ高さを有し、平面視において周期的に配列されており、少なくとも2種類の形状のうち少なくとも1種類の形状は、2回回転対称形状又は線対称形状である微細構造を有する成形体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-68347号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Imani S. M., Ladouceur L., Marshall T., Maclachlan R., Soleymani L., Didar T. F.: Antimicrobial Nanomaterials and Coatings: Current Mechanisms and Future Perspectives to Control the Spread of Viruses Including SARS-CoV-2, ACS Nano, 14(10):12341-12369 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、微細構造であればすべて実用に耐えうる優れた滑落性(付着防止性)を発現するものではない。上記特許文献1に記載の微細構造は単純な凹凸構造であり、それほど高い滑落性は期待できないと考えられる。微細構造により極めて高い滑落性(付着防止性)及び撥液性を発現する表面テクスチャとしては、「階層構造」や「リエントラント構造」が示唆されている。また上記特許文献1は、複数の凸部が同じ高さを有し、平面視において周期的に配列されており、少なくともに2種類の形状のうち少なくとも1種類の形状は、2回回転対称形状又は線対称形状であり、長周期付着防止構造と短周期付着防止構造からなる「階層構造」を有するものではないし、また深さ方向に逆テーパー形状を有する「リエントラント構造」を有するものではない。更に、複数の凸部は短パルスレーザー光を照射することにより形成されるものではなく、産業上実用可能なコストでかつ高速なダイレクトプロセッシング方法を実現できるものではない。
【0010】
本発明は、細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物の付着を効果的に防止できる付着防止構造を、産業上実用可能なコストでかつ高速なダイレクトプロセッシング方法により形成できる付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する工程を含むことを特徴とする付着防止構造物の製造方法である。
<2> モールドの表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成したモールドを用いて付着防止構造物を製造することを特徴とする付着防止構造物の製造方法である。
<3> 前記粒子物がウイルス、細菌、及び粉塵から選択される少なくとも1種である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<4> 前記付着防止構造が短周期付着防止構造及び長周期付着防止構造を有する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<5> 前記短周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離が1μm未満であり、
前記長周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離が1μm以上である、前記<4>に記載の付着防止構造物の製造方法である。
<6> 前記短周期付着防止構造が、前記長周期付着防止構造の少なくとも凸頂部に形成されている、前記<4>から<5>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<7> 前記付着防止構造が干渉加工法により形成される、前記<1>から<6>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<8> 前記干渉加工法が表面波干渉加工法により行われる、前記<7>に記載の付着防止構造物の製造方法である。
<9> 前記干渉加工法が多光束干渉加工法により行われる、前記<7>に記載の付着防止構造物の製造方法である。
<10> 前記付着防止構造がパーカッション加工法により形成される、前記<1>から<3>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<11> 前記付着防止構造が逆テーパー加工法により形成される、前記<1>から<3>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法である。
<12> 対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する手段を有することを特徴とする付着防止構造物の製造装置である。
<13> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の付着防止構造物の製造方法により製造されたことを特徴とする付着防止構造物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物の付着を効果的に防止できる付着防止構造を、産業上実用可能なコストでかつ高速なダイレクトプロセッシング方法により形成できる付着防止構造物の製造方法、付着防止構造物の製造装置、及び付着防止構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1の表面波干渉加工法によるレーザー加工に用いられるレーザー加工装置の一例を示す図である。
図2A図2Aは、実施例1の表面波干渉加工法により作製した付着防止構造の一例を示す図である。
図2B図2Bは、実施例1の表面波干渉加工法により作製した付着防止構造の他の一例を示す図である。
図2C図2Cは、実施例1の表面波干渉加工法により作製した付着防止構造の他の一例を示す図である。
図3図3は、実施例1の抗菌性試験に用いた付着防止構造が形成された加工試験片の一例を示す図である。
図4図4は、実施例2の多光束干渉加工法に用いる光学ユニットの一例を示す図である。
図5A図5Aは、実施例2の多光束干渉加工法により作製した2光束での付着防止構造の一例を示す図である。
図5B図5Bは、実施例2の多光束干渉加工法により作製した4光束での付着防止構造の一例を示す図である。
図6A図6Aは、実施例3のパーカッション加工法により作製した付着防止構造の一例を示す図である。
図6B図6Bは、実施例3のパーカッション加工法により作製した付着防止構造の他の一例を示す図である。
図7図7は、実施例4の逆テーパー加工法に用いる光学ユニットの一例を示す図である。
図8図8は、実施例4の逆テーパー加工法により作製した付着防止構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(付着防止構造物の製造方法及び付着防止構造物の製造装置)
本発明の付着防止構造物の製造方法は、対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0015】
本発明の付着防止構造物の製造装置は、対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成する手段を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0016】
本発明の付着防止構造物の製造方法は、本発明の付着防止構造物の製造装置により好適に実施することができ、付着防止構造を形成する工程は付着防止構造を形成する手段により行うことができ、その他の工程はその他の手段により行うことができる。
【0017】
本発明においては、対象物の表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射することにより、細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物の付着を効果的に防止する付着防止構造を形成することができる。例えば、粒子物としてのウイルスは宿主(付着する対象物)が無いと維持・拡散することができないので、対象物の表面にウイルスを付着及び残留させにくくする付着防止構造を形成することによって、抗ウイルス機能を付与することができる。
本発明の付着防止構造物の製造方法によると、優れた付着防止効果を有する付着防止構造物を、産業上実用可能なコストでかつ高速なダイレクトプロセッシング方法により実現することができる。
【0018】
<対象物>
前記対象物としては、表面に粒子物が付着可能な物であれば、その形状、大きさ、材質、構造などについて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記対象物の形状は、特に制限はなく、対象物の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、正方形状、長方形状、矩形状、角柱状、円柱状、円筒状、球状、楕円球状、不定形などが挙げられる。なお、対象物の表面は平面に限らず、曲面であってもよく、また、平面と曲面との組み合わせであってもよい。
前記対象物の構造は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。前記対象物の大きさは対象物の用途等に応じて適宜選択することができる。
【0019】
前記対象物の材質は、特に制限はなく、対象物の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、樹脂、ガラス、陶磁器、繊維、紙、煉瓦、ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、樹脂、金属、繊維が好ましい。
前記樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタアクリレート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルイミド、ポリフェニレンスルファイド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリル-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、シリコーン樹脂、ポリ乳酸、セルロース、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、銅合金、鉄、鉛、亜鉛、錫、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、タングステン、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、半田、鋼、真鍮、炭素鋼、ステンレス鋼、ジュラルミンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成繊維;セルロース系繊維、たんぱく質系繊維等の半合成繊維;レーヨン等の再生繊維;ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記対象物の具体例としては、例えば、食器、眼鏡、流し、台所周り、便器、トイレ周り、浴槽、浴室周り、洗面所周り、建材、衣類・装飾品、被服、家具類・家電製品、雑貨・日用品、洗面・バス用品、キッチン用品、装置・輸送機、工具・文具・事務用品、印刷物、運動器具・スポーツ用品、医療・健康用品、飲料・食品包装、飼育・ペット製品などが挙げられる。
【0023】
<粒子物>
粒子物は粒子状の物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウイルス、細菌、カビの胞子、花粉、粉塵(金属粉塵、鉱物粉塵、動物性粉塵、植物性粉塵)、黄砂などが挙げられる。これらの粒子物は、大気中で浮遊してエアロゾル粒子となる。
【0024】
前記ウイルスとしては、ゲノムの種類、又はエンベロープの有無等にかかわることなく、様々なウイルスが挙げられる。
前記ウイルスとしては、例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型又はC型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、東部及び西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルウス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱・ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘・帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルス、ジカウイルスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記細菌としては、グラム陽性、グラム陰性、好気性、又は嫌気性などの性質に関わらず様々な細菌が挙げられる。
前記細菌としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、腸炎菌、肺炎桿菌、緑膿菌、ビブリオ、サルモネラ菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌、セレウス菌、枯草菌、乳酸菌、ピロリ菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<短パルスレーザー光>
短パルスレーザー光は、ナノ秒(1×10-9秒)以下のパルス幅を有するものを意味し、前記短パルスレーザー光のパルス幅は、フェムト秒(10-15秒)オーダーからピコ秒(10-12秒)オーダーであることが好ましい。
前記フェムト秒レーザーは、パルスが1~999×10-15秒と非常に短く、レーザーエネルギーの吸収によるアブレーション加工において、熱の拡散による影響を殆ど受けないことが知られている。
前記フェムト秒レーザーは、非常に干渉性の高いレーザーであり、適当な光学系により二つのフェムト秒レーザーを重ね合わせると、干渉による光強度の縞(干渉縞)が生ずる。このように、フェムト秒レーザーの干渉を用いれば、フォトリソグラフィなどの複雑な工程を経なくても、数十~数百オーダーの周期構造もしくは周期的な屈折率変化を、数十~数百μmの領域に、容易かつ効率的に加工することが可能である。
【0027】
前記短パルスレーザー光の繰り返し周波数は、10kHz~1MHzであることが好ましく、500kHz~1MHzであることがより好ましい。
前記パルス発振するレーザーにおけるレーザー光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザー、Nd:YVOレーザー、半導体レーザーなどが挙げられる。
前記パルス発振するレーザーにおけるレーザー光源は、一定のピーク強度を有する短パルスレーザー光を繰り返し出力することができる。前記短パルスレーザー光は、ピーク強度が一定の複数のパルスを含むパルス列から構成される。
【0028】
<付着防止構造>
前記付着防止構造は、対象物の表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、付着防止効果の点から対象物の表面の半分以上の部分に形成されることが好ましく、対象物の全面に形成しても構わない。
前記付着防止構造は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、階層構造を有することが、粒子物に対する付着防止効果の点から好ましい。
前記階層構造としては、例えば、短周期付着防止構造及び長周期付着防止構造を有することが、粒子物に対する付着防止効果の点から好ましい。
前記短周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離(以下、「ピッチ」と称することもある)は1μm未満が好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.01μm以下が更に好ましく、0.005μm以下が特に好ましく、0.001μm以下がより更に好ましい。
前記長周期付着防止構造における隣接する凹部の中心間の最短距離(以下、「ピッチ」と称することもある)は,付着を防止する物質(粒子物)の大きさなどを考慮すると1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、50μm以上が特に好ましく、100μm以上がより更に好ましい。どのようなピッチを選択するかは、例えば、透明性が必要であれば小さなピッチを選択するなど、当該対象物(製品)の意匠性なども考慮して決定される。
【0029】
前記短周期付着防止構造は、前記長周期付着防止構造の少なくとも凸頂部に形成されていることが、粒子物に対する付着防止効果の点から好ましい。
【0030】
<付着防止構造の形成方法>
前記付着防止構造は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、干渉加工法により形成されることが好ましい。
前記干渉加工法には、表面波干渉加工法と多光束干渉加工法とがある。
【0031】
-表面波干渉加工法-
Birnbaumは、レーザー加工痕の底面に波長サイズの周期構造が「瞬時に」できることを1965年に発見した(Birnbaum M.:Semiconductor surface damage produced by ruby lasers,J. Appl. Phys.,36(11),3688-3689 (1965))。
前記周期構造は、入射光と表面にできるプラズマ波もしくは散乱光との干渉によりできる定常波が、物質表面を選択的に昇華するアブレーション現象であることが解明され、「表面波干渉加工法」と呼ばれる。つまり、レーザーによる物質の加工原理には、熱加工と、アブレーション(昇華)との2種類がある。レーザーのパワーが十分であればアブレーションのみが起こり熱は発生しない。レーザーのパワーが足りないとアブレーションと熱加工の両方が発生することになる。そして、レーザーのパワーが低いと熱加工のみが起こることになる。このいずれかの状況になるかは,パルスレーザーにおいてはパルス幅に依存する。
【0032】
表面波干渉加工法では、金属、樹脂等の特定の物質の表面に、固体の熱緩和時間よりも短いパルス幅のフェムト秒レーザーを照射すると、物質に表面プラズマ波(表面波)が励起されることを利用している。レーザーのエネルギー強度が閾値を超えた部分で選択的にイオン放出が起こって加工され、回折格子状の微細周期構造が現れる。この現象は、自己組織的に形成されるので、表面内を走査しても、凹凸の周期を一致させることができる。
フェムト秒レーザーを用いた表面波干渉加工によると、幅数mmに数千本の微細構造を秒速数mmという超高速度で形成することができる。
表面波干渉加工法によって生じる周期構造のピッチaは,レーザーの波長λと入射角θに依存してa=λ/(1±sinθ)の関係で変化することが理論的に示されている(下記論文参照)。
・Campbell EEB, Ashkenasi D, Rosenfeld A: Ultra-short-pulse laser irradiation and ablation of dielectrics, Materials Science Forum, 301, 123-144 (1999)
・Sakabe S, Hashida M, Tokita S, Namba S, Okamuro K: Mechanism for self-formation of periodic grating structures on a metal surface by a femtosecond laser pulse, Physical Review B, 79, 33409-1-33409-4 (2009)
なお、表面波干渉加工法の詳細については、例えば、「Birnbaum M.: Semiconductor surface damage produced by ruby lasers, J. Appl. Phys., 36(11), 3688-3689 (1965)」の記載などを参照することができる。
【0033】
-多光束干渉加工法-
多光束干渉加工法は、フェムト秒レーザーを用いることにより、レーザースポット内にマイクロメートルとナノメートルの領域の光の干渉パターンを任意に生成することができるので、一回のレーザー掃引で数十から数百本の周期構造を、レーザースポット径よりも小さなナノメートル領域のピッチでさえも実現でき、高速加工できる。また、光学的条件を選定することにより、3次元構造を形成することもできる。
例えば、フェムト秒レーザー加工装置と空間光位相変調器を用いて、数百nmピッチを加工でき、光束数を変化させるとともに、1本のレーザービームのみに位相板を挿入することにより、3次元形状の異なる干渉パターンを形成できる。
なお、多光束干渉加工法の詳細については、例えば、「A. A. Maznev, T. F. Crimmins, and K. A.: How to make femtosecond pulses overlap, Optics LEetters, Vol. 23, No. 17, 1378-1380, (1998)」の記載などを参照することができる。
【0034】
-パーカッション加工法-
前記付着防止構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、パーカッション加工法により形成されることが好ましい。
パーカッション加工法とは、間欠的にレーザー照射を行う加工法であり、パルス加工を被加工物(ワーク)に対して時間間隔、若しくは一定間隔、及びこれらを併用したショットを連続的に繰り返すレーザー加工法である。
ナノ秒パルスレーザーの照射ピッチをマイクロメートルオーダーで制御しながらパーカッション加工法を併用することで、マイクロメートルピッチとナノメートルピッチの異なる周期の微細周期構造を同時に形成することが可能となる。
レーザー照射を間欠的に行うパーカッション加工法を用い,かつ2次元平面上の照射パターンを変化させることによって所望の3次元形状を得ることができる。この方法として、レーザー照射箇所とレーザー照射される対象物とを相対移動させつつパーカッション加工を行うことにより、対象物の表面に周期構造を形成させることができる。更に、ナノ秒パルスレーザーの照射ピッチをマイクロメートルオーダー(即ち、1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下)で制御しながらパーカッション加工法を併用することで、マイクロメートルオーダーよりも周期の短いピッチの、異なる2つの微細周期構造を同時に形成させることができる。
超短パルスレーザーは所定の距離間隔及び所定の時間間隔で照射されるパーカッション加工法によって照射することができる。これにより、対象物の表面に形成される周期構造をレーザーのスポット径のオーバーラップ率を容易に調整することが可能となり、表面波干渉を制御したり,周期構造のピッチを制御したりすることができる。
なお、パーカッション加工法の詳細については、例えば、特開2020-66824号公報、特開2020-146725号公報などの記載を参照することができる。
【0035】
-逆テーパー加工法-
前記付着防止構造は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、逆テーパー加工法により形成することが好ましい。
短パルスレーザー加工においては、光の入射側からその進行方向に向かって加工領域を狭める加工(「順テーパー加工」)のみならず、光の入射側からその進行方向に向かって加工領域を拡げる加工(「逆テーパー加工」)が求められている。なぜなら、前記逆テーパー加工は、断面の3次元形状の制約がなくなり、任意の形状を取ることができ、3次元の直接加工が可能となるからである。
根元にくびれがある逆テーパー形状の凸部は、「リエントラント構造」と呼ばれている。逆テーパー角が数十度に達する「リエントラント構造」はフェムト秒レーザーを用いた光学ユニットを用いることにより形成できる。
なお、逆テーパー加工法の詳細については、例えば、特願2020-174320号明細書の記載などを参照することができる。
【0036】
(第2の形態の付着防止構造物の製造方法)
本発明の第2の形態の付着防止構造物の製造方法は、モールドの表面の少なくとも一部に短パルスレーザー光を照射して粒子物の付着を防止する付着防止構造を形成したモールドを用いて付着防止構造物を製造する。
本発明の第2の形態の付着防止構造物の製造方法によると、細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物を防止する付着防止構造を表面に形成したモールドを作製し、このモールドを用いて、例えば、射出成形、ブロー成形、ナノインプリントなどにより、表面に付着防止構造を有する付着構造物を高速に大量生産できる。
【0037】
(付着防止構造物)
本発明の付着防止構造物は、本発明の付着防止構造物の製造方法により製造される。
本発明の付着防止構造物は、表面の少なくとも一部に粒子物の付着を防止する付着防止構造を有しているので、細菌、ウイルス、粉塵等の粒子物の付着を効果的に防止できる。
【実施例0038】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
<表面波干渉加工法による付着防止構造の形成>
図1に示すように、超短パルスレーザーのひとつであるフェムト秒レーザー加工装置10(PHAROS SP、パルス幅234fs、中心波長514nm、繰り返し周波数60kHz、Light Conversion社)を使用し、被加工物15としてのガラス単繊維(繊維直径125μm、古河電気工業(株)製)にx-yの2軸方向とも走査速度0.5mm/sでショット加工を行った。図1中11はレーザーヘッド、12はビームエキスパンダ、13はミラー、14は集光レンズ、16はXYZステージである。
加工条件としては、スポット径6.9μmで固定し、フルエンス2.34~18.36J/cm、オーバーラップ率0~90%、ピッチ0.7~7μmで変化させた。
図1に示すフェムト秒レーザー加工装置により、図2Aから図2Cに示す付着防止構造を形成した。図2Aはフルエンス(F)=8.88J/cm、オーバーラップ率(OR)=0%の条件で作製した付着防止構造であり、長周期付着防止構造のピッチは9μmであった。
図2Bはフルエンス(F)=13.69J/cm、オーバーラップ率(OR)=50%の条件で作製した付着防止構造であり、短周期付着防止構造のピッチは950nmであった。
図2Cはフルエンス(F)=4.46J/cm、オーバーラップ率(OR)=90%の条件で作製した付着防止構造である。ランダム構造なので確定的なピッチは示せないが、長周期付着防止構造のピッチはおおよそ2~6μmであった。
【0040】
次に、上記表面波干渉加工法により形成した付着防止構造を有する加工試験片を用い、以下のようにして抗菌性試験を行った。
【0041】
<抗菌性試験>
-加工試験片の作製-
試験片の加工にはピコ秒パルスレーザー(TrueMicro5000シリーズ、TRUMPF ドイツ)、波長515nm、パルス幅190fs、最大繰り返し周波数600kHzを用いた。
表面波干渉加工法の加工条件は、試験片としてステンレス鋼(SUS304、厚さ0.3mm、表面粗さRa=0.02μm)を用い、繰り返し周波数400kHz、パルス幅190fs、平均出力8.2W、スポット径φ20μmとした。
レーザー加工の光学系には、ガルバノスキャナーと、エキスパンダと、f-θレンズを組み合わせた走査型光学系を採用し、60mm×60mmの試験片に対して、図3に示すように、50mm×50mmの部分に表面波干渉加工(ピッチ500nm)を行った。
なお、加工試験片は、乾熱滅菌器により60℃で1時間加熱し、無菌化して使用した。
【0042】
-抗菌性の評価-
JIS Z2801:2010「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」、5.試験方法(URL:http://kikakurui.com/z2/Z2801-2012-01.html)に基づき、抗菌性試験を実施した。
供試菌として大腸菌(NBRC3972)の懸濁液を使用した。
具体的な手順として、予め作製した加工試験片の全面を、エタノールを吸収させた脱脂綿により拭いた。
乾燥した加工試験片の上に、濃度を6.3×10cfu/mLに制御した大腸菌の懸濁液を0.4mL滴下し、40mm×40mmに断裁したポリプロピレンフィルム(VF-10、コクヨ社製)を載せることにより、加工試験片表面上に大腸菌の懸濁液を薄く広げつつ被覆して乾燥を防止した。その状態の加工試験片を35℃、湿度90%RH以上の環境下で24時間静置した。
その後、加工試験片を洗い流して回収した菌液を寒天培地にて培養し、コロニー数をカウントすることにより元の加工試験片上の生菌数を算出し、下記数式(i)により抗菌活性値Rを求め、下記の基準により抗菌性を評価した。結果を表1に示した。
抗菌活性値R=Ut-At・・・数式(i)
ただし、Utは未加工試験片の反応後の生菌数の対数値、Atは加工試験片の反応後の生菌数の対数値である。
[評価基準]
×:R<2.0、抗菌効果が認められない
〇:2.0≦R≦3.0、抗菌効果が認められる
◎:3.0<R、強い抗菌効果が認められる
【0043】
【表1】
表1の結果から、表面波干渉加工法により形成した付着防止構造を有する加工試験片は、良好な抗菌性を有することがわかった。
【0044】
(実施例2)
<多光束干渉加工法による付着防止構造の形成>
図4に示すように、レーザー発振器21として市販のフェムト秒パルスレーザー(Pharos-6W、Light Conversion リトアニア共和国)を、波長515nm、パルス幅277fs、及び繰り返し周波数10kHzで用いた。
多光束干渉加工法に用いる光学ユニット20は、図4に示すように、空間光位相変調器22(LCOS-SLM、浜松フォトニクス(株)製)と、空間光位相変調器22で分岐させた光を平行光にするためのコリメートレンズ23と、レーザーのスポット径を調整するためのビームエキスパンダ24と、2つの穴のあるマスク26(穴直径=200μm)と、集光レンズ27とから構成されている。なお、図4中25はミラー、28はワーク(被加工物)である。
多光束干渉加工法の加工条件は、ワーク(被加工物)28としてステンレス鋼(SUS304、厚さ1mm、表面粗さRa=0.03μm)を用い、繰り返し周波数10kHz、パルス幅290fs、平均出力235mW、スポット径64μmとした。
ワークを載せたステージ移動速度は0.5mm/sであり、1ショットあたり60本の溝を形成できた。
上記多光束干渉加工法により、図5Aに示すように2光束干渉で一軸(x)方向の格子状の付着防止構造を形成することができ、図5Bに示すように4光束干渉で二軸(x-y)方向の格子状の付着防止構造を形成することができた。
図5A及び図5Bの付着防止構造におけるピッチは1μmであった。つまり、本方法によれば、一方向の付着防止構造だけでなく、2方向の付着防止構造を同時に付与することができる。
このとき、回折角Ψと照射角θの関係は、次数式(1)で示される。
【数1】
ここで、合成焦点距離F=(f×f)/(f×f)である。
【0045】
付着防止構造(微細周期構造)パターンのピッチτは、波長λと照射角θから、次数式(2)で示される。
【数2】
即ち、本方法による加工により、同一表面へ所定のピッチの長周期付着防止構造と短周期付着防止構造を付与することで、階層構造を作製することができる。
【0046】
(実施例3)
<パーカッション加工法による付着防止構造の形成>
金属試料は炭素鋼(表面粗さRa=0.3μm、日立金属株式会社製)を用い、これを20mm×20mmの大きさに切り出し、加工試料片とした。
加工試料片を濃硫酸3に対し30%過酸化水素水1の容量比で混合したピラニア溶液に浸漬した後、引上げ、イオン交換水で洗浄し、乾燥させた。
上記の前処理を行った加工試料片について、同じ大きさの正方形となるように4分割した箇所に、以下のようにしてパーカッション加工を行った。
レーザー加工はナノ秒レーザー加工装置(発振波長532nm、最大出力10W)を使用した。レーザー加工の光学系としては,ガルバノスキャナーと、エキスパンダと、f-θレンズを組み合わせた走査型光学系を採用した。また、レーザー出力を制御するために減衰板を2個使用した。掃引方法としてはガルバノミラーを用いた。レーザースポット径はエキスパンダ8倍、レンズは焦点距離100mmのf-θレンズを用い、直径16μmとした。また、加工試料片の表面におけるレーザーの径は16μmとし、レーザー光の掃引スピードを変化させることでピッチを40μmとなるように制御した。また、1箇所当たりのレーザー照射のショット回数が80回となるようにした。
以上のパーカッション加工法により、図6A及び図6Bに示す付着防止構造を形成した。
図6Aはフルエンス(F)=4.98J/cmの条件で形成した付着防止構造である。
図6Bはフルエンス(F)=9.95J/cmの条件で形成した付着防止構造である。
図6A及び図6Bは、パーカッション加工法によるレーザー共焦点顕微鏡の写真であり、レーザー光の進行方向にクレーター状の穴が観察された。微細な穴の周囲にある土手状の外縁は、超短パルスレーザーのマランゴニ効果によって形成されたものと考えられる。
【0047】
(実施例4)
<逆テーパー加工法による付着防止構造の形成>
図7に示すように、逆テーパー加工法に用いる光学ユニット30は、コリメート調整をするビームエキスパンダ32と、照射角を可変とするための一対の第1のステップミラー33及び第2のステップミラー34と、レーザービームを回転させるためのダブプリズム35と、非球面レンズ37(f=17mm~20mm)とから構成されている。なお、図7中31はレーザーヘッド、36はスキャナミラー(固定)、38はワーク(被加工物)である。
第1のステップミラー33と第2のステップミラー34の角度を変更することにより、レーザービームの非球面レンズ37中心からの距離を調整し、アナログ的に逆テーパー角を可変できる。また、ダブプリズム35をモーターで回転させて、逆テーパー加工を行うことができる。
上記逆テーパー加工法により、図8に示す付着防止構造を形成した。図8は出力500mW、オーバーラップ率(OR)=90%の条件で形成した付着防止構造である。
【符号の説明】
【0048】
10 レーザー加工装置
11 レーザーヘッド
12 ビームエキスパンダ
13 ミラー
14 集光レンズ
15 被加工物
16 XYZステージ
20 光学ユニット
21 レーザー発振器
22 空間光位相変調器
23 コリメートレンズ
24 ビームエキスパンダ
25 ミラー
26 マスク
27 集光レンズ
28 ワーク
30 光学ユニット
31 レーザーヘッド
32 ビームエキスパンダ
33 第1のステップミラー
34 第2のステップミラー
35 ダブプリズム
36 スキャナミラー
37 非球面レンズ
38 ワーク

図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8