(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069841
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】金属置換処理液、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182009
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前川 拓摩
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克久
(72)【発明者】
【氏名】田中 小百合
(72)【発明者】
【氏名】柴山 文徳
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA14
4K022BA25
4K022BA28
4K022DA03
(57)【要約】
【課題】めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる金属置換処理液、該金属置換処理液を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む金属置換処理液。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む金属置換処理液。
【請求項2】
亜鉛化合物を亜鉛濃度として0.2~5.0g/L含む請求項1記載の金属置換処理液。
【請求項3】
ニッケル化合物をニッケル濃度として0.2~10g/L含む請求項1又は2記載の金属置換処理液。
【請求項4】
ゲルマニウム化合物をゲルマニウム濃度として0.2~5.0g/L含む請求項1~3のいずれかに記載の金属置換処理液。
【請求項5】
フッ素化合物をフッ素濃度として5.0~50g/L含む請求項1~4のいずれかに記載の金属置換処理液。
【請求項6】
亜鉛濃度、ゲルマニウム濃度の比率が1:5~5:1である請求項1~5のいずれかに記載の金属置換処理液。
【請求項7】
pHが4.0~6.5である請求項1~6のいずれかに記載の金属置換処理液。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金用である請求項1~7のいずれかに記載の金属置換処理液。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する被処理物を、請求項1~8のいずれかに記載の金属置換処理液に接触させ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金上の酸化皮膜を除去し、前記アルミニウムを前記金属置換処理液に含有される金属に置換させる金属置換処理を行い、前記被処理物の表面に前記金属を含む置換金属皮膜を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項10】
前記置換金属皮膜を形成した後、該置換金属皮膜表面にめっき皮膜を形成する請求項9記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属置換処理液、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは大気中、水中で容易に酸化膜を形成する。この酸化膜に起因し、アルミニウム又はアルミニウム合金にめっき処理を施す際に、めっき皮膜の密着性が低いことが知られている。そのため、めっき処理に先立って、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化被膜を除去しアルミニウム上に形成されるめっき皮膜との密着性を確保する目的で亜鉛置換処理(ジンケート処理)工程が行われている(例えば、特許文献1~3、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-256864号公報
【特許文献2】特開2020-196914号公報
【特許文献3】特開2009-127101号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】表面技術 Vol.64(2013), No.12, p.645-649
【非特許文献2】表面技術 Vol.66(2015), No.12, p.658-665
【非特許文献3】表面技術 Vol.47(1996), No.9 , p.802-807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、従来の技術では、めっき皮膜との密着性について改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は、本発明者らが新たに見出した前記課題を解決し、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる金属置換処理液、該金属置換処理液を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の組成の金属置換処理液を用いることにより、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む金属置換処理液に関する。
【0008】
前記金属置換処理液は、亜鉛化合物を亜鉛濃度として0.2~5.0g/L含むことが好ましい。
【0009】
前記金属置換処理液は、ニッケル化合物をニッケル濃度として0.2~10g/L含むことが好ましい。
【0010】
前記金属置換処理液は、ゲルマニウム化合物をゲルマニウム濃度として0.2~5.0g/L含むことが好ましい。
【0011】
前記金属置換処理液は、フッ素化合物をフッ素濃度として5.0~50g/L含むことが好ましい。
【0012】
前記金属置換処理液は、亜鉛濃度、ゲルマニウム濃度の比率が1:5~5:1であることが好ましい。
【0013】
前記金属置換処理液は、pHが4.0~6.5であることが好ましい。
【0014】
前記金属置換処理液は、アルミニウム又はアルミニウム合金用であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する被処理物を、前記金属置換処理液に接触させ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金上の酸化皮膜を除去し、前記アルミニウムを前記金属置換処理液に含有される金属に置換させる金属置換処理を行い、前記被処理物の表面に前記金属を含む置換金属皮膜を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【0016】
前記置換金属皮膜を形成した後、該置換金属皮膜表面にめっき皮膜を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む金属置換処理液であるので、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(a)Alスパイクが見られない場合の一例を示す写真である。(b)Alスパイクが見られる場合の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の金属置換処理液は、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む。これにより、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる。
【0020】
前記金属置換処理液で前述の効果が得られる理由は、以下のように推察される。
アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する被処理物を、前記金属置換処理液に接触させ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金上の酸化皮膜を除去し、前記アルミニウムを前記金属置換処理液に含有される金属に置換させる金属置換処理を行うことにより、亜鉛(Zn)と共に、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)が共析し、Zn、Ni、Geを含有する置換金属皮膜をアルミニウム又はアルミニウム合金表面に形成できる。
このようなZn、Ni、Geを含有する置換金属皮膜を表面に有するアルミニウム又はアルミニウム合金にめっき処理を行い、めっき皮膜(金属皮膜、例えば、ニッケル皮膜)を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金と、めっき皮膜(金属皮膜、例えば、ニッケル皮膜)間で、置換金属皮膜中に存在するZn、Ni、Geが相乗的に作用することとなり、アルミニウム又はアルミニウム合金に、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる。
Zn、Ni、Geが相乗的に作用していることは、Zn、Ni、Ge単独の場合、Zn、Niの組み合わせ(Geなし)の場合、Zn、Geの組み合わせ(Niなし)の場合、Ni、Geの組み合わせ(Znなし)の場合では、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できないことから明らかである。
【0021】
<金属置換処理液>
本発明の金属置換処理液は、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む。
【0022】
<<亜鉛化合物>>
亜鉛化合物は、水溶性の亜鉛化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、グルコン酸亜鉛等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫酸亜鉛が好ましい。
【0023】
金属置換処理液は、亜鉛化合物を亜鉛(金属亜鉛(Zn))濃度として0.1~7.0g/L含むことが好ましく、0.2~5.0g/L含むことがより好ましく、0.2~4.0g/L含むことが更に好ましい。0.1g/L未満では、Zn析出量が少なく充分な密着性が確保できない傾向がある。7.0g/L超では、Znの析出量が過剰となり充分な密着性が確保できない傾向がある。
【0024】
<<ニッケル化合物>>
ニッケル化合物は、水溶性のニッケル化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、グルコン酸ニッケル等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫酸ニッケルが好ましい。
【0025】
金属置換処理液は、ニッケル化合物をニッケル(金属ニッケル(Ni))濃度として0.1~12g/L含むことが好ましく、0.2~10g/L含むことがより好ましい。0.1g/L未満では、Znとの共析量が低下し充分な密着性が確保できない傾向がある。12g/L超では、Znとの共析量が過剰となり充分な密着性が確保できない傾向がある。
【0026】
<<ゲルマニウム化合物>>
ゲルマニウム化合物は、水溶性のゲルマニウム化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、二酸化ゲルマニウム、硫酸ゲルマニウム、硫化ゲルマニウム、フッ化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ヨウ化ゲルマニウム等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、二酸化ゲルマニウムが好ましい。
なお、本明細書において、フッ化ゲルマニウムなど、ゲルマニウム化合物にもフッ素化合物にも該当する場合、ゲルマニウム化合物として扱う。亜鉛化合物、ニッケル化合物についても同様の場合、同様に、亜鉛化合物、ニッケル化合物として扱う。
【0027】
金属置換処理液は、ゲルマニウム化合物をゲルマニウム(金属ゲルマニウム(Ge))濃度として0.1~7.0g/L含むことが好ましく、0.2~5.0g/L含むことがより好ましい。0.1g/L未満では、Znとの共析量が低下し充分な密着性が確保できない傾向がある。7.0g/L超では、Znとの共析量が過剰となり充分な密着性が確保できない傾向がある。
【0028】
亜鉛濃度、ゲルマニウム濃度の比率(亜鉛濃度:ゲルマニウム濃度)は、1:5~5:1であることが好ましい。
【0029】
<<フッ素化合物>>
フッ素化合物は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の酸化被膜中のアルミニウムを溶解して、亜鉛などの金属との置換をスムーズに進行させる。
フッ素化合物の具体例としては、例えば、ホウフッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素、フッ化リチウム等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ホウフッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素が好ましく、ホウフッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化アンモニウムがより好ましい。
【0030】
金属置換処理液は、フッ素化合物をフッ素(F)濃度として1.0~100g/L含むことが好ましく、5.0~50g/L含むことがより好ましい。1.0g/L未満では、アルミニウムを溶解させる作用が弱くなり充分な密着性が確保できない傾向がある。100g/L超では、 アルミニウムが過剰に溶解して充分な密着性が確保できない傾向がある。
なお、本明細書において、金属置換処理液中の、亜鉛(金属亜鉛(Zn))濃度、ニッケル(金属ニッケル(Ni))濃度、ゲルマニウム(金属ゲルマニウム(Ge))濃度は、ICP(堀場製作所社製)により測定される。
また、本明細書において、金属置換処理液中のフッ素(F)濃度は、フッ素イオン電極を用いて測定される。
【0031】
<<pH>>
金属置換処理液のpHは、好ましくは1.0~12.0、より好ましくは2.0~10.0である。すなわち、本発明の金属置換処理液は、アルカリ性、酸性のいずれにおいても使用可能である。ここで、通常のジンケート処理では、アルカリ性の場合、アルミニウムが過剰に溶出することがあり(例えば、非特許文献3の
図9)、アルミニウムスパイクが生じる傾向があり、酸性の場合は、アルミニウムが過剰に溶出することがないものの、充分な密着性が確保できない傾向がある。
一方、本発明の金属置換処理液は、酸性の場合であっても、充分な密着性が確保できるもので、酸性で用いることにより、より顕著な密着性の改善効果が得られる。更には、酸性の場合、アルミニウムが過剰に溶出することがなく、アルミニウムスパイクも低減できる。ただし、pHが3.5未満になると、アルミニウムが過剰に溶出するおそれもある。
そのため、金属置換処理液のpHは、更に好ましくは3.5~6.5、特に好ましくは4.0~6.5、最も好ましくは4.5~6.5である。これにより、前記の通り、より顕著な密着性の改善効果が得られると共に、アルミニウムが過剰に溶出することがなく、アルミニウムスパイクも低減できる。ここで、アルミニウムが過剰に溶出され、アルミニウムスパイクが生じると、アルミニウム表面に多数のくさび状の凹みが生じてしまい、その後のめっき皮膜形成工程において、例えばニッケルめっきがその凹みに入り込み、平滑性の乏しいめっき皮膜が形成されてしまい、導通性にも影響をもたらし、外観も大きく損なわれる。よって、アルミニウムスパイクの低減により、平滑性が高く、めっき外観の優れためっき皮膜を形成できる。
なお、本明細書において、金属置換処理液のpHは、25℃において測定される値である。
【0032】
金属置換処理液のpHの調整は、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物の種類の選択により行なうこともできる。また必要に応じて、アルカリ成分、酸成分を添加してもよい。
アルカリ成分は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニウム等が挙げられる。酸成分は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、リン酸等が挙げられる。これらアルカリ成分、酸成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
金属置換処理液は、pH緩衝性を高めるために、緩衝剤を含有してもよい。
緩衝剤としては、緩衝性があれば特に限定されず、例えば、pH4.0~6.5付近に緩衝性がある化合物としては、例えば、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、マロン酸、乳酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ギ酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属置換処理液中の緩衝剤濃度は、好ましくは1.0~50g/L、より好ましくは5.0~30g/Lである。
【0034】
<<その他>>
金属置換処理液は、前記成分と共に、金属置換処理液に汎用されている成分、例えば、界面活性剤、光沢剤等を含有してもよい。また、上記以外の金属、例えば、鉄、銅、銀、パラジウム、鉛、ビスマス、タリウム等の金属の水溶性塩類を含有してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
金属置換処理液は、溶媒(好ましくは水)を用いて、各成分を適宜混合することにより製造することができる。金属置換処理液は、操作の安全性の観点から水溶液として調製されることが好ましいが、その他の溶媒、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、IPA等を用いたり、水との混合溶媒とすることも可能である。なお、これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
金属置換処理液は、アルミニウム又はアルミニウム合金用の金属置換処理液として好適に使用可能である。
【0037】
<アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法>
次に、本発明の金属置換処理液を用いた、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法について説明する。
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する被処理物を、本発明の金属置換処理液に接触させ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金上の酸化皮膜を除去し、前記アルミニウムを前記金属置換処理液に含有される金属に置換させる金属置換処理を行い、前記被処理物の表面に前記金属を含む置換金属皮膜を形成する。
この表面処理方法は、被処理物に対してめっき皮膜、例えばニッケルめっき皮膜やパラジウムめっき皮膜を施すための前処理方法であり、アルミニウム又はアルミニウム合金を少なくとも表面に有する被処理物に、本発明の金属置換処理液を接触させて、表面に付着した酸化皮膜を除去し、置換金属皮膜を形成することによって、後に処理するニッケルめっき皮膜等の密着性を高めるようにしている。
【0038】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法では、本発明の金属置換処理液によって、少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物(以下、アルミニウム基板とも記載する。)上に付着した酸化皮膜が除去され、亜鉛等の金属とアルミニウムとの電極電位差による置換反応により亜鉛粒子、ニッケル粒子、ゲルマニウム粒子が被処理物の表面に析出する。
【0039】
一般的に、ジンケート処理液を用いた、アルミニウム基板へのめっき前処理では、2回の亜鉛置換処理を施すダブルジンケート処理プロセスで行われる。すなわち、(1)アルミニウム基板に第1亜鉛置換処理を施し、(2)酸洗後、(3)次いで第2亜鉛置換処理を施すというプロセスであり、このダブルジンケート処理後に、(4)無電解ニッケルめっき等のめっき処理を行う。
一方、本発明の金属置換処理液を用いた、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法では、非常に良好な密着性が得られるため、ダブルジンケート処理を行う必要が無く、シングルジンケート処理により良好な密着性を付与できる。よって、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法では、(1)アルミニウム基板に金属置換処理を施し、このシングルジンケート処理後に、(4)無電解ニッケルめっき等のめっき処理を行うことが好ましい。すなわち、金属置換処理と、めっき処理の間に、(2)酸洗処理、(3)酸洗処理後の第2金属置換処理を行わないことが好ましい。
【0040】
<<(1)金属置換処理>>
めっき被処理物であるアルミニウム基板は、少なくともその表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有していればよい。アルミニウム基板は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を材質とする各種の物品のほか、非アルミニウム材(例えば、セラミックス、ウェハ等の各種の基材)上にアルミニウム又はアルミニウム合金皮膜が形成されてなる物品、溶融アルミニウムめっき処理を施した物品、鋳物、ダイキャスト等を使用することができる。アルミニウム基板の形状も特に限定されるものではなく、通常の板状物(フィルム、シート等の薄膜状物を含む)や各種の形状に成形された成型品のいずれでもよい。また、上記板状物には、アルミニウム又はアルミニウム合金単独の板状物に限らず、例えばセラミックスやウェハ等の基板上にスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の常法に従って成形されたアルミニウム皮膜(基板と一体化されたもの)も包含される。
【0041】
アルミニウム合金としては特に限定されず、例えば、アルミニウムを主要金属成分とする各種合金を用いることができる。例えば、A1000系の準アルミニウム、A2000系の銅及びマンガンを含むアルミニウム合金、A3000系のアルミニウム-マンガン合金、A4000系のアルミニウム-シリコン合金、A5000系のアルミニウム-マグネシウム合金、A6000系のアルミニウム-マグネシウム-シリコン合金、A7000系のアルミニウム-亜鉛-マグネシウム合金、A8000系のアルミニウム-リチウム系合金等を適用対象とすることができる。
【0042】
アルミニウム又はアルミニウム合金のアルミニウム純度は、めっき平滑性の観点から、好ましくは98%以上、より好ましくは98.5%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0043】
めっき被処理物であるアルミニウム基板は、周知の方法、例えばスパッタリング法等によって、非アルミニウム材、例えばシリコン板に、アルミニウム層を被覆して作成することができる。アルミニウム層の被覆は、非アルミニウム材の全部に対する被覆であっても、その一部のみの被覆でもよく、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上の厚みを有するアルミニウム層が被覆される。また、このアルミニウム基板の形成方法も、スパッタリング法に限られるものではなく、真空蒸着法、イオンプレーティング法等を用いて作成することができる。
【0044】
まず、このアルミニウム基板を、周知の方法で、脱脂処理等のクリーナー処理を施し、適宜水洗後、アルカリ又は酸によって周知のエッチング処理を施す。具体的に、脱脂処理は、アルミニウム用の脱脂液に浸漬させたり、電解脱脂を行うことによって行う。また、エッチング処理は、例えば約1~10%のアルカリ溶液、又は約1~20%の酸性溶液を用い、約25~75℃の液温で、約1~15分間溶液に浸漬させることによって行う。
【0045】
次に、アルカリ又は酸によるエッチング残渣(スマット)を除去することを目的として、酸性溶液に所定時間、浸漬させる。具体的には、例えば、約10~800ml/L、好ましくは約100~600ml/Lの濃度範囲を有し、液温が約15~35℃の硝酸水溶液に、エッチングを施したアルミニウム基板を、約30秒~2分間浸漬させて、スマットを除去する。
【0046】
そして、このようにデスマット処理等が施されたアルミニウム基板を、水洗後、本発明の金属置換処理液(ジンケート処理液)に浸漬し、金属置換処理を施す。具体的には、例えば、上述した組成を有する、液温が10~50℃、好ましくは15~30℃のジンケート処理液に、アルミニウム基板を浸漬させる。ジンケート処理液の温度が10℃以上であれば、置換反応が遅くなりすぎず、ムラが生じることがなく金属皮膜を形成でき、また50℃以下であれば、置換反応が増大しすぎず、置換金属皮膜表面が粗くなってしまうことも防止することができることから、上述した温度が好ましい。
【0047】
浸漬時間に関する条件も、特に制限されるものではなく、除去すべきアルミニウム酸化皮膜の厚さ等を鑑みて適宜設定することができ、例えば、通常約5秒以上、好ましくは10秒以上、上限として5分以下である。浸漬時間が短すぎると、置換が進まず酸化皮膜の除去が不十分となり、一方で浸漬時間が長すぎると、置換金属層の小さな穴から処理液が侵入し、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶出してしまうおそれがあることから、これらの点を考慮して、条件設定する必要がある。
【0048】
このようにジンケート処理液にアルミニウム基板を浸漬させることによって、その基板表面に付着した酸化皮膜を除去させることができるとともに、Zn、Ni、Geを含有する置換金属皮膜をさらに被覆してアルミニウム表面を活性化することより、被処理物に対して、良好な密着性を有するめっき皮膜を形成させることが可能となる。
【0049】
金属置換処理では、アルミニウム基板の表面に、本発明の金属置換処理液が接触可能な態様である限り特に制限されない。該接触方法としては、浸漬以外にも、例えば、塗布、スプレー等の方法を採用することができる。
【0050】
<<(4)めっき処理>>
このめっき処理は、ジンケート処理が施されたアルミニウム基板に対して、無電解めっき又は電解めっきによって行われる。例えば、無電解ニッケル、無電解パラジウム又は銅めっき浴のような適当な金属めっき液で所望の最終膜厚にめっきさせる。
【0051】
具体的に、一例として、無電解ニッケルめっきについて説明する。無電解ニッケルめっき液は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等の水溶性のニッケル塩の使用によってニッケルイオンが与えられ、このニッケルイオンの濃度としては、例えば約1~10g/Lである。また、無電解ニッケルめっき液には、例えば約20~80g/Lの濃度範囲を有する酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩や、アンモニウム塩、アミン塩等のニッケルの錯化剤が含有され、さらに約10~40g/Lの濃度範囲を有する次亜リン酸又は次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩が還元剤として含有される。次亜リン酸塩等を還元剤として含有させることにより、めっき液の安定性が高められ、コストの安価なニッケル-リンの合金皮膜を形成させることができる。そして、これらの化合物からなるめっき液は、pHが約4~7となるように調製して用いられ、さらにこのめっき液を60~95℃の液温に調製し、めっき処理液へのアルミニウム基板の浸漬時間としては、約15秒~120分間浸漬させることによってめっき処理が行われる。また、適宜、このめっき処理時間を変えることによって、めっき皮膜の厚みを変えることができる。
【0052】
なお、上述したように、めっき処理としては、無電解めっき処理に限られず、電解めっきによって行ってもよい。また、めっき金属の種類は、以上に例示したものの他、Cu、Au等のめっき金属を用いて行ってもよく、さらに置換めっき法等によって、2層以上の層を形成するようにめっき処理を行ってもよい。
【0053】
以上に説明したジンケート処理及びめっき処理における処理条件や、各種の濃度設定に関しては、以上のような条件に限られるものではなく、形成する皮膜の厚み等によって適宜変更できることは言うまでもない。
【0054】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法では、アルミニウム又はアルミニウム合金を表面に有する被処理物を、本発明の金属置換処理液に接触させ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金上の酸化皮膜を除去し、前記アルミニウムを前記金属置換処理液に含有される金属に置換させる金属置換処理を行うことにより、Znと共に、Ni、Geが共析し、Zn、Ni、Geを含有する置換金属皮膜をアルミニウム又はアルミニウム合金表面に形成できる。
このようなZn、Ni、Geを含有する置換金属皮膜を表面に有するアルミニウム又はアルミニウム合金にめっき処理を行い、めっき皮膜(金属皮膜、例えば、ニッケル皮膜)を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金と、めっき皮膜(金属皮膜、例えば、ニッケル皮膜)間で、置換金属皮膜中に存在するZn、Ni、Geが相乗的に作用することとなり、アルミニウム又はアルミニウム合金に、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できる。
【0055】
本発明により得られためっき皮膜(金属皮膜)が施されたアルミニウム又はアルミニウム合金は、様々な電子部品に用いることが可能である。電子部品としては、例えば、家電機器、車載機器、送電システム、輸送機器、通信機器等に用いられる電子部品が挙げられ、具体的には、エアコン、エレベーター、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、発電装置用のパワーコントロールユニット等のパワーモジュール、一般家電、パソコン等が挙げられる。
本発明では、金属置換処理液のpHを4.0~6.5とすることにより、アルミニウムスパイクも低減でき、平滑性が高く、めっき外観の優れためっき皮膜を形成するための、めっき前表面処理を施すことができるため、半導体用途、好ましくはウェハ用途に好適に使用でき、特に、ウェハにアンダーバンプメタル又はバンプを形成する場合の前処理に有効なアルミニウム又はアルミニウム合金上の金属置換処理液及びこの金属置換処理液を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法として好適である。
【実施例0056】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0057】
表1~3に示す条件に従い、アルミニウム基板に各処理を施してめっき皮膜を形成した。ここで、アルミニウム基板として、1cm×2cmのAl-Cu TEG wafeを用いた。得られためっき皮膜、めっき皮膜が設けられた基板について、下記の方法で評価した。評価結果を表2、3に示す。
なお、表2、3において、表中の数値(濃度)は、コハク酸を除き、フッ素(F)又は各金属元素換算濃度(g/L)である。
【0058】
<密着性評価:折り割り試験>
得られためっき皮膜が設けられた基板について、エアーブロー乾燥させ、めっき面にセロハンテープを貼り付けた。そして、テープを貼り付けたwafer中央部に傷をつけ半分に割った。割った中央部からテープを剥がし、Al下地とNi皮膜間で剥がれた量を100分率として求めた。なお、折り割り試験の概要を
図1に示した。
0%は、テープを剥がした際に全くめっき皮膜が剥がれないことを、100%は、テープを剥がした際に全面でめっき皮膜が剥がれることを意味する。
【0059】
<アルミニウム(Al)スパイク評価>
得られためっき皮膜について日立ハイテクノロジーズ社製のXVision 210DBを用いてFIB(集束イオンビーム)断面観察を行った。
図2(a)にAlスパイクが見られない場合の一例を、
図2(b)にAlスパイクが見られる場合の一例を示した。
図2(a)のようにAlスパイクが見られない場合に良好であると判断した。
【0060】
【表1】
脱脂/エッチング:エピタスMCE-31(上村工業(株)製)
無電解Ni:エピタスNPR-18(上村工業(株)製)
【0061】
【0062】
【0063】
表2、3より、亜鉛化合物、ニッケル化合物、ゲルマニウム化合物、フッ素化合物を含む実施例の金属置換処理液は、めっき皮膜(金属皮膜)との良好な密着性を付与できることが分かった。また、金属置換処理液のpHを3.5~6.5とすることにより、アルミニウムスパイクも低減できることが分かった。なお、表2、3は、アルミニウム基板として、Al-Cu TEG wafeを用いた場合の結果であるが、アルミニウム基板として、・Al-Si TEG waferを用いた場合も同様の結果であった。