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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000699
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】自動二輪車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20221222BHJP
   B62M 7/12 20060101ALI20221222BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20221222BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B62M6/45
B62M7/12
B62J45/00
B60L15/20 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101673
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 洋明
(72)【発明者】
【氏名】北澤 純也
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB03
5H125AC12
5H125AC23
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA08
5H125EE23
5H125EE42
5H125EE49
(57)【要約】
【課題】バッテリの残量が少ない場合でも車両の運搬を容易に行うことを可能にする自動二輪車の制御装置を提供する。
【解決手段】アシストモードは、電動モータのトルクまたは回転速度を上限値に制限した上で電動モータに通電する動作モードであり、駆動モードは、電動モータのトルクまたは回転速度を当該上限値に制限せずに電動モータに通電する動作モードである。モード許否判定部は、電圧検出部で検出されたバッテリ電圧Vbを第1の閾値電圧Vth1と比較し、Vb>Vth1の場合には、アシストモードおよび駆動モードでの動作を共に許可し、Vb≦Vth1の場合には、アシストモードでの動作を許可し、駆動モードでの動作を禁止する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータで車輪を駆動する自動二輪車の制御装置であって、
前記電動モータに給電する駆動バッテリのバッテリ電圧を検出する電圧検出部と、
アシストモードでの動作の許可/禁止と、駆動モードでの動作の許可/禁止とを定めるモード許否判定部と、
前記アシストモードでの動作を実行する期間で、前記電動モータのトルクまたは回転速度の上限値を制限する駆動制限部と、
を有し、
前記アシストモードは、前記電動モータのトルクまたは回転速度を前記上限値に制限した上で前記電動モータに通電する動作モードであり、
前記駆動モードは、前記電動モータのトルクまたは回転速度を前記上限値に制限せずに前記電動モータに通電する動作モードであり、
前記モード許否判定部は、前記電圧検出部で検出された前記バッテリ電圧を第1の閾値電圧と比較し、前記バッテリ電圧が前記第1の閾値電圧よりも高い場合には、前記アシストモードおよび前記駆動モードでの動作を共に許可し、前記バッテリ電圧が前記第1の閾値電圧よりも低い場合には、前記アシストモードでの動作を許可し、前記駆動モードでの動作を禁止する、
自動二輪車の制御装置。
【請求項2】
前記モード許否判定部は、前記電圧検出部で検出された前記バッテリ電圧を前記第1の閾値電圧よりも低い第2の閾値電圧と比較し、前記バッテリ電圧が前記第2の閾値電圧よりも低い場合には、前記アシストモードでの動作を禁止する、
請求項1に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項3】
前記駆動制限部は、前記アシストモードでの動作が許可され、かつ、ユーザ操作に応じて前記アシストモードでの動作の実行命令を受けた場合に、前記アシストモードでの動作を実行する、
請求項1に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項4】
前記駆動制限部は、前記アシストモードでの動作が許可され、かつ、ユーザ操作に応じた前記アシストモードでの動作の実行命令を受け、かつ、ユーザの着座の有無を検出するシートセンサから着座無しの検出信号を受けた場合に、前記アシストモードでの動作を実行する、
請求項1に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項5】
前記駆動制限部は、前記自動二輪車のスロットルの開度を検出するスロットルセンサからの入力を受け、前記電動モータのトルクまたは回転速度を、前記上限値の範囲内で前記スロットルの開度に応じて可変制御する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項6】
前記電動モータのトルクまたは回転速度の前記上限値は、歩行速度に基づいて定められる、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動式またはハイブリッド式の自動二輪車において、モータの制御モードを通常走行とは異なるアシストモードに切替え可能なパーキングアシスト選択スイッチを備えた構成が示される。パーキングアシスト選択スイッチは、前進スイッチ、後退スイッチおよび停止スイッチを備え、モータは、前進スイッチまたは後退スイッチが操作されると、例えば、前輪を5km/h等の車速を限度に正転駆動または逆転駆動する。また、アシストモードにおけるモータの駆動力は、ブレーキレバーを操作することで調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-19327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電動式またはハイブリッド式の自動二輪車では、方向転換の際や、車庫への移動の際等で、乗員が、車両から降りた状態で車両を手で運搬するような場面が想定される。このような場面を想定し、自動二輪車では、特許文献1に示されるようなアシストモードが設けられる場合がある。一方、自動二輪車では、通常走行が困難となるレベルまでバッテリの残量が低下した場合、通常、電動モータの動作が禁止される。しかし、バッテリの残量が低下した場合、バッテリを充電するため、車両を運搬する必要性が生じ得る。この際に、電動モータの動作が禁止されていると、車両の運搬が困難となる恐れがあった。
【0005】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、バッテリの残量が少ない場合でも車両の運搬を容易に行うことを可能にする自動二輪車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動二輪車の制御装置は、電動モータで車輪を駆動する自動二輪車の制御装置であって、前記電動モータに給電する駆動バッテリのバッテリ電圧を検出する電圧検出部と、アシストモードでの動作の許可/禁止と、駆動モードでの動作の許可/禁止とを定めるモード許否判定部と、前記アシストモードでの動作を実行する期間で、前記電動モータのトルクまたは回転速度の上限値を制限する駆動制限部と、を有し、前記アシストモードは、前記電動モータのトルクまたは回転速度を前記上限値に制限した上で前記電動モータに通電する動作モードであり、前記駆動モードは、前記電動モータのトルクまたは回転速度を前記上限値に制限せずに前記電動モータに通電する動作モードであり、前記モード許否判定部は、前記電圧検出部で検出された前記バッテリ電圧を第1の閾値電圧と比較し、前記バッテリ電圧が前記第1の閾値電圧よりも高い場合には、前記アシストモードおよび前記駆動モードでの動作を共に許可し、前記バッテリ電圧が前記第1の閾値電圧よりも低い場合には、前記アシストモードでの動作を許可し、前記駆動モードでの動作を禁止する、ように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バッテリの残量が少ない場合でも車両の運搬を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態による自動二輪車の構成例を示す側面図である。
図2図1のA矢視図である。
図3図1におけるコントローラ(制御装置)の主要部の構成例を示す概略図である。
図4図1におけるモード許否判定部の処理内容の一例を示すフロー図である。
図5図4のフローに伴う図3の制御装置の動作例を説明する図である。
図6図3における駆動制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。
図7】本発明の比較例となる自動二輪車の制御装置において、モード許否判定部の処理内容の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
《自動二輪車の構成》
図1は、本発明の一実施の形態による自動二輪車の構成例を示す側面図である。図2は、図1のA矢視図である。図1および図2に示す自動二輪車(車両とも呼ぶ)10は、車輪である前輪11および後輪12を備える。前輪11は、ユーザ(すなわち乗員)によるハンドル部13の操作に応じて操舵される。後輪12は、例えば、3相ブラシレスDCモータ等を代表とする電動モータMTにより駆動される。
【0011】
自動二輪車(車両)10は、当該車両10の骨格をなし、かつ前輪11および後輪12を支持する車体フレーム14を備える。車体フレーム14は、鋼材製の複数の中空パイプや鋼板等を溶接等により接続することで、フロント部14a、リア部14b、フロア部14c、前方傾斜部14dおよび後方傾斜部14eを含んだ所定形状に形成される。後方傾斜部14eには、電動モータMTを支持するブラケット14fが一体に設けられる。
【0012】
車体フレーム14のフロント部14aには、ハンドル部13の操作に連動するフロントフォーク15が回動自在に設けられる。フロントフォーク15には、フロントサスペンション(図示せず)が設けられる。前輪11は、当該フロントフォーク15の長手方向の一端に回動自在に装着される。また、ハンドル部13は、当該フロントフォーク15の長手方向の他端側に設けられる。
【0013】
ハンドル部13は、図2に示されるように、左右一対のグリップ13a、ブレーキレバー13bおよびバックミラー13cと、表示部13dとを備える。右側のグリップ13aには、スロットルが設けられる。スロットルセンサTSは、スロットルに電気的に接続され、スロットルの開度を検出する。表示部13dは、車両10の種々の情報を表示する。表示部13dの表示内容には、例えば、速度(km/h)やバッテリ残量(%)、さらにはコントローラ温度(℃)や走行距離(ODOおよびTRIP)等が含まれる。
【0014】
ここで、ハンドル部13において、右側のグリップ13aの近辺には、アシストスイッチASWが設けられる。アシストスイッチASWは、ユーザ操作に応じてアシストモードでの動作の実行命令を出力するスイッチである。例えば、ユーザ(すなわち乗員)によってアシストスイッチASWがオンに操作された場合、アシストモードでの動作の実行命令を表す操作信号が出力される。アシストモードは、電動モータMTのトルクまたは回転速度を上限値に制限した上で電動モータMTに通電する動作モードである。
【0015】
一方、アシストスイッチASWがオフの場合、駆動モードでの動作が選択される。駆動モードは、電動モータMTのトルクまたは回転速度をアシストモードでの上限値に制限せずに電動モータMTに通電する動作モードである。すなわち、駆動モードは、通常走行を行う場合の動作モードである。
【0016】
車体フレーム14のリア部14bには、左右一対のリアサスペンション17の長手方向の一端が回動自在に取り付けられる。一対のリアサスペンション17の長手方向の他端は、後輪12を回転自在に支持する車軸12aにそれぞれ回動自在に取り付けられる。なお、一対のリアサスペンション17の長手方向の他端は、車軸12aに限らず、図示しないスイングアーム(リアアーム)に取り付けられてもよい。
【0017】
車軸12aの長手方向の一端(図1の手前側および図2の左側)には、ドリブンスプロケット12bが固定されている。ドリブンスプロケット12bには、駆動チェーン19が噛み合わされている。また、駆動チェーン19には、電動モータMTの回転軸に固定されたドライブスプロケット16も噛み合わされている。ドライブスプロケット16は、ドリブンスプロケット12bよりも小径となっている。これにより、電動モータMTの回転軸の回転は、高トルク化された上でドリブンスプロケット16から後輪12に伝達される。なお、駆動チェーン19に替えて、例えば、芯金を内蔵したゴム製の無端ベルトが用いられてもよい。
【0018】
車体フレーム14は、フロントカバー部20a、フロアカバー部20bおよびリアカバー部20cを含むカバー部材20で覆われる。フロントカバー部20aは、車体フレーム14のフロント部14aおよび前方傾斜部14dを覆う。また、フロントカバー部20aの内部には、フロントフォーク15の一部が収容される。当該フロントフォーク15の一部は、フロントカバー部20aの内部で回動自在となっている。さらに、フロントカバー部20aの車両前方側には、ヘッドランプユニット21が設けられる。
【0019】
フロアカバー部20bは、車体フレーム14のフロア部14cを覆う。フロアカバー部20bの内部には、電動モータMTを制御するコントローラ(制御装置)CTが収容される。リアカバー部20cは、車体フレーム14のリア部14bと、ブラケット14fを含む後方傾斜部14eとを覆う。リアカバー部20cには、開口部が設けられ、当該開口部には、ユーザ(すなわち乗員)が着座するためのシート24が開閉自在に取り付けられる。シート24には、シートセンサSESが設置される。シートセンサSESは、例えば、荷重センサ等であり、ユーザの着座の有無を検出する。
【0020】
また、リアカバー部20cの内部には、駆動バッテリBTと、ブラケット14fに固定された電動モータMTとが収容される。駆動バッテリBTは、シート24を開くことで出し入れ可能となっている。駆動バッテリBTは、例えば、急速充電が可能な二次電池(リチウムイオンバッテリ等)で構成され、電動モータMTに給電する。電動モータMTは、リアカバー部20cの内部において、駆動バッテリBTの近傍に収容される。これにより、車両10の重量バランスを適正化できる。さらに、リアカバー部20cの車両後方側には、ブレーキランプユニット22が取り付けられる。
【0021】
《コントローラ(制御装置)の概略》
図3は、図1におけるコントローラ(制御装置)の主要部の構成例を示す概略図である。図3には、例えば、ECU(Engine Control Unit)等と呼ばれるコントローラCTと、コントローラCTの各種周辺部品とが示される。各種周辺部品の中には、図1および図2に示したように、電動モータMTと、駆動バッテリBTと、シートセンサSESと、アシストスイッチASWと、スロットルセンサTSとが含まれ、加えて、回転角センサRSと、電源26とが含まれる。
【0022】
回転角センサRSは、例えば、ホールIC、ロータリエンコーダ、レゾルバ等で構成され、電動モータMTの回転角を検出する。電源26は、例えば、12Vや5V等の制御用電圧Vcを生成する。駆動バッテリBTは、例えば、数10V~数100V等のバッテリ電圧Vbを生成し、代表的には、48V等を生成する。電源26は、駆動バッテリBTのバッテリ電圧Vbを降圧するDCDCコンバータや、当該DCDCコンバータによって充電される補機バッテリ等で構成される。
【0023】
コントローラCTは、モード許否判定部30と、電圧検出部31と、トルク制御部32と、インバータ33と、速度検出部34と、リレースイッチ(例えばコンタクタ)35と、電流センサISと、を備える。電圧検出部31は、電動モータMTに給電する駆動バッテリBTのバッテリ電圧Vbを検出する。具体的には、電圧検出部31は、バッテリ電圧Vbを抵抗分圧する抵抗素子や、抵抗分圧された電圧をディジタル値に変換し、バッテリ電圧Vbに比例する検出電圧値Vb_detを出力するアナログディジタル変換器等を含む。
【0024】
モード許否判定部30は、詳細は後述するが、バッテリ電圧Vb、詳細には電圧検出部31からの検出電圧値Vb_detに基づいて、前述したアシストモードでの動作の許可/禁止と、前述した駆動モードでの動作の許可/禁止とを定める。そして、モード許否判定部30は、アシストモード許可フラグAMFおよび駆動モード許可フラグDMFを生成する。アシストモード許可フラグAMFのオン/オフは、それぞれ、アシストモードでの動作の許可/禁止を表す。同様に、駆動モード許可フラグDMFのオン/オフは、それぞれ、駆動モードでの動作の許可/禁止を表す。
【0025】
速度検出部34は、回転角センサRSで検出された回転角の変化率等に基づいて、電動モータMTの回転速度ω、ひいては、車両10の車速を検出する。トルク制御部32は、スロットルセンサTS、シートセンサSES、電流センサIS、速度検出部34の各検出結果と、アシストスイッチASWからの操作信号と、モード許否判定部30からの各フラグとに基づいて、インバータ33を介して電動モータMTのトルクまたは回転速度を制御する。
【0026】
インバータ33は、例えば、3相のスイッチング素子、具体的には6個のスイッチング素子等で構成される。インバータ33には、駆動バッテリBTからのバッテリ電圧Vbがリレースイッチ35を介して印加される。インバータ33は、当該バッテリ電圧Vbを電源として、トルク制御部32からの3相のPWM(Pulse Width Modulation)信号PWMu,PWMv,PWMwに応じてスイッチング制御を行うことで、電動モータMTに3相の交流電力を供給する。この際に、電流センサISは、電動モータMTに流れるモータ電流Imを検出する。
【0027】
トルク制御部32は、詳細には、トルク指令部40と、電流制御器41と、PWM変調器42と、を備える。トルク指令部40は、例えば、モード許否判定部30からの駆動モード許可フラグDMFがオンの場合に、スロットルセンサTSによって検出されたスロットルの開度に基づいてトルク指令値、ひいては、電流指令値Iを算出する。これにより、トルク制御部32は、スロットルの開度に応じて車両10の加減速を制御し、車両10を通常走行させることが可能になる。
【0028】
ここで、トルク指令部40は、駆動制限部43を備える。駆動制限部43は、アシストモードでの動作を実行する期間で、電動モータMTのトルクまたは回転速度の上限値を制限し、その結果として電流指令値Iの大きさを制限する。具体的には、駆動制限部43は、アシストモードでの動作が許可され、かつ、ユーザ操作に応じてアシストモードでの動作の実行命令を受けた場合、すなわち、アシストモード許可フラグAMFがオン、かつアシストスイッチASWがオンの場合に、当該アシストモードでの動作を実行する。
【0029】
アシストモードでの上限値は、歩行速度に基づいて定められ、例えば、車両10の最高速度が4km~7km/h等となるように定められる。なお、駆動制限部43は、アシストモード許可フラグAMFおよびアシストスイッチASWに加えて、シートセンサSESの検出結果に基づいて、アシストモードでの動作を実行するか否かを定めてもよい。具体的には、駆動制限部43は、前述した条件に加えて、シートセンサSESから着座無しの検出信号を受けた場合に、アシストモードでの動作を実行してもよい。また、駆動制限部43は、電動モータMTの回転速度を制限する際には、速度検出部34によって検出された回転速度ωを参照しながら制御を行えばよい。
【0030】
電流制御器41は、トルク指令部40からの電流指令値Iと、電流センサISによって検出されたモータ電流Imの値との誤差に基づいて、当該誤差をゼロに近づけるためのデューティ比指令値DTを、比例積分制御(PI制御)等を用いて算出する。PWM変調器42は、電流制御器41からのデューティ比指令値DTを受け、当該デューティ比を有する3相のPWM信号PWMu,PWMv,PWMwを生成する。
【0031】
なお、図3において、コントローラCTは、代表的には、マイクロコントローラ(マイコンと略す)やスイッチング素子等を含む各種部品が搭載された配線基板等によって構成される。この場合、マイコンは、例えば、電源26からの5V等の制御用電圧Vcで動作する。実装形態の一例として、モード許否判定部30や、トルク制御部32内のトルク指令部40および電流制御器41は、マイコン内のプロセッサを用いたプログラム処理等によって実現される。トルク制御部32内のPWM変調器42は、マイコン内のPWMタイマ等を用いて実現される。速度検出部34は、マイコン内のタイマ等を用いて実現される。電圧検出部31内のアナログディジタル変換器も、マイコン内に搭載される。
【0032】
ただし、図3のコントローラCTは、このような実装形態に限らず、ソフトウェア、ハードウェア、または、その組み合わせで適宜実現されればよい。例えば、モード許否判定部30、電圧検出部31、トルク制御部32および速度検出部34の一部または全ては、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで実現されてもよい。
【0033】
《モード許否判定部(比較例)の動作》
図7は、本発明の比較例となる自動二輪車の制御装置において、モード許否判定部の処理内容の一例を示すフロー図である。図7において、比較例となるモード許否判定部は、例えば、所定の制御周期で電圧検出部31にバッテリ電圧Vbを検出させ、当該バッテリ電圧Vb、詳細には、検出電圧値Vb_detを、第1の閾値電圧Vth1と比較する(ステップS103)。第1の閾値電圧Vth1は、電動モータMTによる通常走行が可能な下限電圧を表し、例えば、予め設計段階で定められる。
【0034】
そして、当該モード許否判定部は、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも高い場合には、駆動モードおよびアシストモードでの動作を共に許可する(ステップS101~S103)。具体的には、当該モード許否判定部は、駆動モード許可フラグDMFおよびアシストモード許可フラグAMFを共にオンにする。
【0035】
一方、当該モード許否判定部は、ステップS103でバッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低い場合(ここでは閾値電圧Vth1以下の場合)には、駆動モードおよびアシストモードでの動作を共に禁止する(ステップS104,S106)。具体的には、当該モード許否判定部は、駆動モード許可フラグDMFおよびアシストモード許可フラグAMFを共にオフにする。
【0036】
しかし、このようなフローを用いると、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低い場合に、電動モータMTを動かすことができなくなる。その結果、車両10の運搬が困難となる恐れがあった。すなわち、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低くなると、例えば、駆動バッテリBTを早急に充電するため、車両10を充電スポットまで運搬する必要性が生じ得る。この際の運搬が困難となり得る。そこで、以下に示すフローを用いることが有益となる。
【0037】
《モード許否判定部(実施の形態)の動作》
図4は、図1におけるモード許否判定部の処理内容の一例を示すフロー図である。図4において、実施の形態によるモード許否判定部30は、図7の場合と同様に、電圧検出部31で検出されたバッテリ電圧Vbを第1の閾値電圧Vth1と比較する(ステップS103)。そして、モード許否判定部30は、図7の場合と同様に、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも高い場合には、アシストモードおよび駆動モードでの動作を共に許可する(ステップS101~S103)。
【0038】
一方、モード許否判定部30は、ステップS103でバッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低い場合には、図7の場合と同様に、駆動モードの動作を禁止する(ステップS104)。ただし、この場合でも、モード許否判定部30は、図7の場合と異なり、アシストモードでの動作を許可する。すなわち、モード許否判定部30は、ステップS102に伴うアシストモード許可フラグAMFのオンをそのまま維持する。
【0039】
これにより、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低い場合であっても、電動モータMTをアシストモードで動かすことができる。すなわち、アシストモードでは、電動モータMTのトルクまたは回転速度が上限値の範囲内に制限されるため、必要とされる電力が少ない。このため、駆動バッテリBTの残量が少ない場合であっても、電動モータMTのアシストモードとしての正常動作を維持できる。その結果、ユーザは、駆動バッテリBTに電動モータMTを動かせるだけの残量が残っている限り、アシストモードを用いて車両10を運搬することが可能になる。
【0040】
ただし、例えば、駆動バッテリBTがリチウムイオンバッテリ等の場合、第1の閾値電圧Vth1よりも低下した駆動バッテリBTをアシストモードで使い続けると、過放電が生じる恐れがある。過放電は、駆動バッテリBTの破損を招き得る。そこで、モード許否判定部30は、電圧検出部31で検出されたバッテリ電圧Vbを、第1の閾値電圧Vth1よりも低い第2の閾値電圧Vth2とも比較する(ステップS105)。そして、モード許否判定部30は、バッテリ電圧Vbが第2の閾値電圧Vth2よりも低い場合(ここでは閾値電圧Vth2以下の場合)には、アシストモードでの動作を禁止する(ステップS106)。
【0041】
図5は、図4のフローに伴う図3の制御装置の動作例を説明する図である。図5には、バッテリ電圧Vbの時間変化の一例が示される。図5において、バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも高い期間T1では、駆動モード許可フラグDMFおよびアシストモード許可フラグAMFは、共にオンとなる。バッテリ電圧Vbが第1の閾値電圧Vth1よりも低く、第2の閾値電圧Vth2よりも高い期間T2では、駆動モード許可フラグDMFはオフとなり、アシストモード許可フラグAMFはオンとなる。
【0042】
また、バッテリ電圧Vbが第2の閾値電圧Vth2よりも低い期間T3では、駆動モード許可フラグDMFおよびアシストモード許可フラグAMFは、共にオフとなる。第2の閾値電圧Vth2は、例えば、駆動バッテリBTにおける過放電の耐性等に基づいて予め定められる。
【0043】
ここで、ケースC1およびケースC2に示さるように、アシストモード許可フラグAMFがオンの期間T1,T2で、アシストスイッチASWがオンに操作された場合、図3の制御装置CT、詳細にはトルク指令部40は、アシストモードでの動作を実行する。一方、駆動モード許可フラグDMFおよびアシストモード許可フラグAMFが共にオフの期間T3では、図3の制御装置CTは、アシストスイッチASWのオン/オフに関わらず、停止状態となる。
【0044】
停止状態では、例えば、インバータ33の動作が禁止されるか、または、リレースイッチ35のオフによってインバータ33への電源供給が遮断されることで、駆動バッテリBTが過放電から保護される。また、ケースC2に示されるように、期間T2の途中の時点でアシストスイッチASWがオンに操作されると、制御装置CTは、期間T1の終点から当該期間T2の途中の時点までの期間で、駆動モードでの動作もアシストモードでの動作も実行していない待機状態となる。
【0045】
《駆動制限部の詳細》
図6は、図3における駆動制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。図6において、駆動制限部43は、まず、アシストモード許可フラグAMFに基づいて、アシストモードでの動作が許可されているか禁止されているかを判定する(ステップS201)。ステップS201でアシストモードでの動作が禁止されている場合、駆動制限部43は、アシストモードでの動作を実行しない。
【0046】
一方、ステップS201でアシストモードでの動作が許可されている場合、駆動制限部43は、アシストスイッチASWがオンであり、かつ、シートセンサSESによって着座無しが検出されているか否かを判定する(ステップS202)。ステップS202で、アシストスイッチASWがオフであるか、または、シートセンサSESによって着座有りが検出されている場合、駆動制限部43は、アシストモードでの動作を実行しない。
【0047】
ステップS202でアシストスイッチASWがオン、かつ、シートセンサSESによって着座無しが検出されている場合、駆動制限部43は、スロットルセンサTSの検出結果に基づいて、スロットルの入力有無を判定する(ステップS203)。すなわち、駆動制限部43は、スロットルの開度がゼロか、非ゼロかを判定する。ステップS203でスロットルの入力が無い場合、すなわちスロットルの開度がゼロの場合、駆動制限部43は、アシストモードでの動作を実行しない。
【0048】
一方、ステップS203でスロットルの入力が有る場合、すなわちスロットルの開度が非ゼロの場合、駆動制限部43は、アシストモードでの動作を実行する(ステップS204)。ステップS204では、駆動制限部43は、スロットルセンサTSからの入力を受け、電動モータMTのトルクまたは回転速度を、上限値の範囲内でスロットルの開度に応じて可変制御する。
【0049】
具体例として、トルクを可変制御する場合、駆動制限部43は、アシストモードでのトルクの上限値に向けてスロットルの開度に応じて大きくなっていくような電流指令値Iを生成すればよい。また、回転速度を可変制御する場合、駆動制限部43は、アシストモードでの回転速度の上限値に向けてスロットルの開度に応じて大きくなっていくような目標回転速度を生成したのち、速度制御器を用いて電流指令値Iを生成すればよい。この際に、速度制御器は、当該目標回転速度と、速度検出部34によって検出された回転速度ωとの誤差に基づいて、当該誤差をゼロに近づけるための電流指令値Iを比例積分制御(PI制御)等を用いて算出する。
【0050】
このようなフローを用いることで、スロットルを介したユーザの意向を反映してアシストの度合いを調整することが可能になり、ユーザの利便性を高めることが可能になる。また、ステップS202のように、アシストモードでの動作を実行するための条件として、シートセンサSESによる着座無しの条件を加えることで、例えば、通常走行中にユーザがアシストスイッチASWを誤ってオンに操作したような場合でも、駆動モードを維持できる。
【0051】
また、変形例として、例えば、図5の期間T1と期間T2とで、当該シートセンサSESに基づく条件の適用有無を切り替えてもよい。具体的には、駆動モード許可フラグDMFがオンの場合には、シートセンサSESによる着座無しの条件を適用し、駆動モード許可フラグDMFがオフの場合には、シートセンサSESによる着座無しの条件を削除してもよい。これにより、前述したように、通常走行中に意図せずにアシストモードでの動作が実行されるような事態を防止しつつ、図5の期間T2において、ユーザは、着座した状態で、車両10を低速に運搬することが可能になる。
【0052】
《実施の形態の主要な効果》
以上、実施の形態の方式を用いることで、代表的には、バッテリの残量が少ない場合でも車両の運搬を容易に行うことが可能になる。また、これに伴い、ユーザは、例えば、バッテリを早急に充電するため、車両を充電スポットまで容易に運搬することができる。その結果、ユーザの利便性を高めることが可能になる。
【0053】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記各実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0054】
10:自動二輪車(車両)、11:前輪、12:後輪、12a:車軸、12b:ドリブンスプロケット、13:ハンドル部、13a:グリップ、13b:ブレーキレバー、13c:バックミラー、13d:表示部、14:車体フレーム、14a:フロント部、14b、リア部、14c:フロア部、14d:前方傾斜部、14e:後方傾斜部、14f:ブラケット、15:フロントフォーク、16:ドライブスプロケット、17:リアサスペンション、19:駆動チェーン、20:カバー部材、20a:フロントカバー部、20b:フロアカバー部、20c:リアカバー部、21:ヘッドランプユニット、22:ブレーキランプユニット、24:シート、26:電源、30:モード許否判定部、31:電圧検出部、32:トルク制御部、33:インバータ、34:速度検出部、35:リレースイッチ、40:トルク指令部、41:電流制御器、42:PWM変調器、43:駆動制限部、AMF:アシストモード許可フラグ、ASW:アシストスイッチ、BT:駆動バッテリ、CT:コントローラ(制御装置)、DMF:駆動モード許可フラグ、DT:デューティ比指令値、I:電流指令値、IS:電流センサ、Im:モータ電流、MT:電動モータ、PWMu,PWMv,PWMw:PWM信号、RS:回転角センサ、SES:シートセンサ、TS:スロットルセンサ、T1~T3:期間、Vb:バッテリ電圧、Vb_det:検出電圧値、Vc:制御用電圧、Vth1:第1の閾値電圧、Vth2:第2の閾値電圧、ω:回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7