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特開2023-69913キレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069913
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】キレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C25D3/56 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182135
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 直也
(72)【発明者】
【氏名】宮田 碧里
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AB29
4K023CB11
4K023CB19
4K023CB32
4K023CB33
4K023DA04
4K023DA06
4K023DA08
(57)【要約】
【課題】めっき陽極に対する腐食力が抑制され、ニッケル共析率を良好な範囲に制御することが可能なキレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法を提供する。
【解決手段】アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを0.5~20質量%/分の速度で滴下して、前記アルキレンアミンの濃度(A)に対する前記エポキシドの濃度(B)の比B/Aを0.2~3.0とし、pH9以上に調製して、前記アルキレンアミンと前記エポキシドとを、30~90℃で10~600分間反応させる工程を含む、ハロゲンフリーのキレート剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを0.5~20質量%/分の速度で滴下して、前記アルキレンアミンの濃度(A)に対する前記エポキシドの濃度(B)の比B/Aを0.2~3.0とし、pH9以上に調製して、前記アルキレンアミンと前記エポキシドとを、30~90℃で10~600分間反応させる工程を含む、ハロゲンフリーのキレート剤の製造方法。
【請求項2】
前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、またはペンタエチレンヘキサミンである、請求項1に記載のキレート剤の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドである、請求項1または2に記載のキレート剤の製造方法。
【請求項4】
前記キレート剤が、亜鉛-ニッケル合金めっき処理液に用いられるキレート剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキレート剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のキレート剤の製造方法で得られたキレート剤を含む亜鉛-ニッケル合金めっき処理液を用いて、めっき対象の金属材の表面に、亜鉛-ニッケル合金めっきを形成する、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系材料や鉄系部品の防錆方法として亜鉛合金めっきが広く用いられている(特許文献1)。亜鉛合金めっきの中で、亜鉛-ニッケル合金めっきは金属イオンをめっき処理液中で安定に溶解させるために、めっき処理液中にキレート剤を含有させることが一般的である。また、形成する亜鉛-ニッケル合金めっきについては、被めっき品に求められる耐食性や二次加工性などの性能に応じてニッケル共析率を調整することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-278871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キレート剤は、一般にハロゲンを含有しており、めっき陽極に対する腐食力が大きいという問題がある。また、めっきのニッケル共析率を良好な範囲に調整することも依然として必要である。
【0005】
本発明は、めっき陽極に対する腐食力が抑制され、ニッケル共析率を良好な範囲に制御することが可能なキレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルキレンアミンの水溶液に所定の速度でエポキシドを滴下し、アルキレンアミン及びエポキシドの濃度比とpHを制御して反応させることで、上記課題が解決されることを見出した。
【0007】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを0.5~20質量%/分の速度で滴下して、前記アルキレンアミンの濃度(A)に対する前記エポキシドの濃度(B)の比B/Aを0.2~3.0とし、pH9以上に調製して、前記アルキレンアミンと前記エポキシドとを、30~90℃で10~600分間反応させる工程を含む、ハロゲンフリーのキレート剤の製造方法である。
【0008】
本発明のキレート剤の製造方法は一実施形態において、前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、またはペンタエチレンヘキサミンである。
【0009】
本発明のキレート剤の製造方法は別の一実施形態において、前記エポキシドが、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドである。
【0010】
本発明のキレート剤の製造方法は更に別の一実施形態において、前記キレート剤が、亜鉛-ニッケル合金めっき処理液に用いられるキレート剤である。
【0011】
本発明は別の一側面において、本発明の実施形態に係るキレート剤の製造方法で得られたキレート剤を含む亜鉛-ニッケル合金めっき処理液を用いて、めっき対象の金属材の表面に、亜鉛-ニッケル合金めっきを形成する、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、めっき陽極に対する腐食力が抑制され、ニッケル共析率を良好な範囲に制御することが可能なキレート剤の製造方法、及び、亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<キレート剤の製造方法>
以下、本発明の実施形態に係るキレート剤の製造方法について詳述する。
まず、水、好ましくは純水に、アルキレンアミンを加えて撹拌してアルキレンアミンの水溶液を作製する。
次に、アルキレンアミンの水溶液を加温し、30~90℃とする。これにより、当該アルキレンアミンと後述のエポキシドとの反応温度を30~90℃に制御することができる。アルキレンアミンの水溶液が30℃以上であると、アルキレンアミンとエポキシドとの反応性が良好となる。アルキレンアミンの水溶液が90℃以下であると、過反応を抑制して目的反応物の収率の低下を防止することができる。アルキレンアミンの水溶液は、40~70℃であるのがより好ましい。
【0014】
ここで作製したアルキレンアミンの水溶液の濃度は、50~600g/Lであるのが好ましく、150~500g/Lであるのがより好ましい。
【0015】
アルキレンアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、またはペンタエチレンヘキサミンであるのが好ましく、これらの中でもジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、またはペンタエチレンヘキサミンであるのがより好ましい。
【0016】
アルキレンアミンの水溶液を加温した後、エポキシドを滴下する。このとき、アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを0.5~20質量%/分の速度で滴下する。アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを0.5質量%/分以上の速度で滴下すると、空気中の水分と反応してエポキシドとして失活することが抑えられ、十分な収率のキレート剤が得られる。アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを20質量%/分以下の速度で滴下すると、反応速度以上にエポキシドが供給されることが無く、効率よくアルキレンアミンとエポキシドの反応が進行する。アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを1.0~10質量%/分の速度で滴下するのがより好ましい。
【0017】
このとき滴下するエポキシドは、濃度が50~500g/Lのエポキシドの水溶液であるのが好ましく、濃度が100~400g/Lのエポキシドの水溶液であるのがより好ましい。
【0018】
上述のように、アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを滴下することで、アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aを0.2~3.0に制御する。アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aが0.2以上であると、製造したキレート剤を用いためっき浴によってニッケル共析率5%以上のめっき皮膜が得やすくなる。アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aが3.0以下であると、製造したキレート剤を用いためっき浴によってニッケル共析率18%未満のめっき皮膜が得やすくなる。アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aは、0.5~1.5に制御するのがより好ましい。
【0019】
得られるめっき皮膜のニッケル共析率は、5%以上18%未満であるのが好ましい。めっき皮膜のニッケル共析率が5%未満であると、めっき皮膜の耐食性が低下するおそれがある。めっき皮膜のニッケル共析率が18%以上であると、めっき皮膜が被処理金属よりも貴となり、犠牲防食効果が得られなくなるおそれがある。めっき皮膜のニッケル共析率は、目的に応じて適宜調整することができる。例えば、めっき皮膜の二次加工性の観点からはニッケル共析率は低いほうが好ましく、めっき皮膜の耐食性をより向上させる観点からはニッケル共析率は高いほうが好ましい。
【0020】
エポキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはブチレンオキシドであるのが好ましく、これらの中でもエチレンオキシド、またはプロピレンオキシドであるのがより好ましい。
【0021】
また、アルキレンアミンの水溶液にエポキシドを添加した反応液のpHを9以上に制御する。当該反応液のpHが9以上であると、キレート剤の収率が向上する。当該反応液のpHは10以上に制御することがより好ましい。
【0022】
上述のようにしてアルキレンアミンとエポキシドとを反応させることで、金属イオンをめっき処理液で安定に溶解させることができる本発明の実施形態に係るキレート剤を製造することができる。反応時間はエポキシドの滴下開始から10~600分とし、30~360分であるのがより好ましい。
【0023】
上述のようにして製造された本発明の実施形態に係るキレート剤は、アルキレンアミンに対してエポキシドが同量または複数付加した、アルキレンアミンアルコール付加物の混合物である。
【0024】
本発明の実施形態に係るキレート剤の製造方法では、ハロゲンを使用していない。このためハロゲンフリーの(ハロゲンを含有していない、すなわちハロゲンの濃度が0g/Lである)キレート剤を製造することができる。従って、当該キレート剤を使用することで、めっき陽極に対する腐食力が抑制されためっき処理液を製造することができる。
【0025】
<亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法>
次に、本発明の実施形態に係る亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法について詳述する。
本発明の実施形態に係る亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法は、陰極と陽極を備えた亜鉛-ニッケル合金電気めっき浴において通電することで、処理対象の金属(被処理金属)の表面に亜鉛-ニッケル合金めっきを施す。
【0026】
被処理金属としては、例えば、鉄系材料や鉄系部品、銅系材料や銅系部品などの金属基材が挙げられる。当該被処理金属を、亜鉛-ニッケル合金電気めっき浴の陰極とし、鉄、ステンレス、ニッケル、カーボン等を陽極とすることができる。
【0027】
亜鉛-ニッケル合金めっき処理液は、例えば以下の組成(A)~(D)を有している。
(A)亜鉛イオン:4~15g/L
(B)ニッケルイオン:0.5~3g/L
(C)キレート剤:50~200g/L
(D)苛性ソーダ:50~150g/L
【0028】
キレート剤は、上述の本発明の実施形態に係るキレート剤の製造方法により製造したキレート剤を用いる。これにより、金属イオンを亜鉛-ニッケル合金めっき処理液で安定に溶解させると共に、めっき処理の際のめっき陽極の腐食が良好に抑制される。
また、亜鉛-ニッケル合金めっき処理液は、ポリアミンや複素環4級アンモニウム塩等の光沢剤を含んでもよい。ポリアミンとしては、日本表面化学株式会社製ZN-208JA等を用いてもよく、複素環4級アンモニウム塩としては、日本表面化学株式会社製ZN-208JBS等を用いてもよい。
【0029】
本発明の実施形態に係る亜鉛-ニッケル合金めっき処理方法としては、まず、被処理金属を、亜鉛-ニッケル合金電気めっき浴の陰極として設置し、鉄、ニッケル等を陽極として設置する。めっき浴の処理液として、上述の亜鉛-ニッケル合金めっき処理液を用いる。
【0030】
次に、亜鉛-ニッケル合金めっき浴を通電し、陰極の表面に亜鉛-ニッケル合金めっきを形成する。めっき浴の温度は、10~40℃の範囲が好ましく、15~35℃の範囲がより好ましい。
【0031】
めっき処理時間は、1~200分の範囲が好ましく、6~150分の範囲がより好ましく、10~100分の範囲が更により好ましい。処理時間が1分より短い場合はめっき皮膜の形成が不十分となり、200分より長いと、それ以上めっきが形成されにくくなる。
【0032】
亜鉛-ニッケル合金めっきの形成後は、所望の目的(めっき表面の保護または美観性等)により、種々の化成皮膜形成処理を行ってもよい。また、化成皮膜形成処理後に、コーティング剤にて後処理を行ってもよい。
【実施例0033】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0034】
(実施例1~81、比較例1~14)
四つ口フラスコに純水とアルキレンアミンを加えて撹拌し、加温した状態で、エポキシドの水溶液を滴下した。滴下後、さらに撹拌を続けた後、常温に冷却してキレート剤を作製した。
このときのアルキレンアミンの水溶液の濃度、添加したエポキシドの水溶液の濃度(g/L)、反応液中のアルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aを表1~3に示す。また、アルキレンアミンの水溶液の加温した状態の温度(反応温度)、反応液pH、エポキシドの水溶液の滴下速度、エポキシドの水溶液の滴下開始からの反応時間を、それぞれ表4~6に示す。
【0035】
次に、作製したキレート剤を用いて、亜鉛-ニッケル合金めっき浴を調製した。本試験に用いた合金めっき浴の組成を以下に記す。
・亜鉛イオン:7g/L
・ニッケルイオン:1.6g/L
・キレート剤:120g/L
・苛性ソーダ:120g/L
・ZN-208JA(ポリアミン、日本表面化学株式会社製):0.5mL/L
・ZN-208JBS(複素環4級アンモニウム塩、日本表面化学株式会社製):1mL/L
当該亜鉛-ニッケル合金めっき浴について、6.4cm×6.4cm×2mmのサイズのニッケル板を陽極とし、20cm×6.7cm×0.3mmのサイズの鉄板を陰極とするロングハルセルを用いてハルセル試験に準ずるめっき試験を行い、陽極の外観、及び陰極の鉄板表面に形成されためっきの外観を確認した。
【0036】
<陽極の外観>
陽極の外観は目視で評価した。評価基準を以下に示す。
A:腐食無し、B:腐食あり
【0037】
<めっき外観>
陰極の鉄板表面に形成されためっきの外観は、ハルセル試験によりめっきされた陰極のハルセル板を目視により評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一な光沢がある、B:やや光沢がある、C:光沢が不足している、D:光沢が得られない
【0038】
<めっき膜厚>
陰極の鉄板表面に形成されためっきの膜厚は、蛍光X線膜厚計(フィッシャー社製、XDLM237)によって測定した。測定位置は高電流部側である陰極板の左端(すなわち、陰極板上に形成されためっきの左端)から5cmの位置とした。
【0039】
<ニッケル共析率>
陰極の鉄板表面に形成されためっきのニッケル共析率は、蛍光X線膜厚計(フィッシャー社製、XDLM237)によって測定した。測定位置は高電流部側である陰極板の左端(すなわち、陰極板上に形成されためっきの左端)から3cm、5cm及び7cmの位置とした。評価基準を以下に示す。
A:上記3箇所の測定位置において、いずれもニッケル共析率が5%以上18%未満であった。
B:上記3箇所の測定位置において、少なくとも1箇所でニッケル共析率が5%未満または18%以上であった。
以上の評価結果を表4~6に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
<考察>
実施例1~81では、エポキシドの滴下速度が0.5~20質量%/分であり、アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/Aが0.2~3.0であり、反応液をpH9以上に調製し、アルキレンアミンとエポキシドとを、30~90℃で10~600分間反応させることでキレート剤を作製し、これによってめっき皮膜を作製したため、めっき陽極に対する腐食力を抑制することができ、ニッケル共析率を良好な範囲に制御することができた。
比較例1~14では、キレート剤の作製条件について、組成、エポキシドの滴下速度、アルキレンアミンの濃度(A)に対するエポキシドの濃度(B)の比B/A、反応液のpH、アルキレンアミンとエポキシドとの反応温度及び反応時間の少なくともいずれか一つが適切ではなかったため、めっき陽極に対する腐食力を抑制することができなかった、または、ニッケル共析率を良好な範囲に制御することができなかった。