(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069922
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル用バルーン
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20230511BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61M25/10 512
A61M25/10 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182149
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 真弘
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼淵 崇亘
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA07
4C267BB07
4C267BB12
4C267BB28
4C267CC09
4C267DD01
(57)【要約】
【課題】バルーンの強度を高めてバルーンの所望しない方向への伸びや破損を防止しつつ、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティ及びプッシャビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーンを提供する。
【解決手段】バルーン本体20の外面よりも径方向の外方に突出しておりバルーン本体20の長手軸方向に延在している突出部60と、を有しており、径方向の断面において、直管部に設けられている突出部60は、バルーン本体20の外面と接続している基端61と、基端61よりも径方向の外方に位置し、突出部60の径方向の外方端である先端62と、を有しており、近位側スリーブ部及び/又は遠位側スリーブ部に設けられている突出部60は、バルーン本体20の周方向の第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線L
pと基端61の垂線L
vとがなす角度θは45°以上である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直管部と、前記直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、前記近位側テーパー部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、前記直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、前記遠位側テーパー部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、を有しているバルーンカテーテル用バルーンであって、
外面及び内面を有するバルーン本体と、前記バルーン本体の外面よりも径方向の外方に突出しており前記バルーン本体の長手軸方向に延在している突出部と、を有しており、
前記径方向の断面において、前記直管部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の外面と接続している基端と、前記基端よりも前記径方向の外方に位置し、前記突出部の前記径方向の外方端である先端と、を有しており、
下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たしているバルーンカテーテル用バルーン。
(1)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
(2)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
【請求項2】
下記(3)及び(4)の少なくとも一方を満たす請求項1に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
(3)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記近位側スリーブ部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
(4)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記遠位側スリーブ部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
【請求項3】
下記(5)及び(6)の少なくとも一方を満たす請求項1に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
(5)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記近位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上である。
(6)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記遠位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上である。
【請求項4】
下記(7)及び(8)の少なくとも一方を満たす請求項1に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
(7)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記近位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上であり、
前記近位側スリーブ部と前記近位側テーパー部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
(8)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記遠位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上であり、
前記遠位側スリーブ部と前記遠位側テーパー部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテル用バルーンに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内壁に石灰化等により硬化した狭窄部が形成されることによって、狭心症や心筋梗塞等の疾病が引き起こされる。これらの治療の一つとして、バルーンカテーテルを用いて狭窄部を拡張させる血管形成術がある。血管形成術は、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であり、広く行われている。
【0003】
バルーンカテーテルは、バルーンの収縮状態で体腔に挿入され体腔内を通って治療部位まで送達される。送達時には、手元側からの操作をバルーンが配置されている先端側に伝達することによりバルーンの搬送を制御する。このとき、体腔内での挿通が容易であること、また、手元側からの操作の先端側への伝達が容易である(プッシャビリティが高い)ことが要求される。また、バルーンを拡張させるためにバルーンの内腔に流体を導入した際に、バルーンが流体の圧力によって所望しない方向に伸びたりバルーンが破損したりする問題がある。このような問題に対し、例えば特許文献1には、バルーンとアウターシャフトとの固着部での外径を太くすることなく、バルーンとアウターシャフトとの固着強度を向上させたバルーンカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルーンカテーテルには、高いプッシャビリティやバルーンの強度が求められるだけでなく、体腔内を滑らかに挿通できる能力や、曲がりくねった体腔内に追随して柔軟に進行できる能力(トラッカビリティ)が求められる。しかし、従来のバルーンカテーテルは、強度の向上と滑らかな挿通及びトラッカビリティの向上を両立するには不十分であった。そこで本発明は、バルーンの強度を高めてバルーンの所望しない方向への伸びや破損を防止しつつ、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティ及びプッシャビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明のバルーンカテーテル用バルーンの一実施形態は、直管部と、前記直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、前記近位側テーパー部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、前記直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、前記遠位側テーパー部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、を有しているバルーンカテーテル用バルーンであって、外面及び内面を有するバルーン本体と、前記バルーン本体の外面よりも径方向の外方に突出しており前記バルーン本体の長手軸方向に延在している突出部と、を有しており、前記径方向の断面において、前記直管部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の外面と接続している基端と、前記基端よりも前記径方向の外方に位置し、前記突出部の前記径方向の外方端である先端と、を有しており、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たしている。
(1)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
(2)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部に設けられている前記突出部は、前記バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
このような構成により、突出部を有することによりバルーンの強度を高めてバルーンの所望しない方向への伸びや破損を防止しつつ、バルーンを前進又は後退させる際に先頭となる遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、倒れた突出部がクッションのような働きをし、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーンとすることができる。また、遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、突出部自体を縮小することなくバルーンの外径を抑えることができ、バルーンの強度と体腔内の挿通の容易性を両立できる。
【0007】
下記(3)及び(4)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(3)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記近位側スリーブ部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
(4)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記遠位側スリーブ部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
【0008】
下記(5)及び(6)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(5)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記近位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上である。
(6)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記遠位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上である。
【0009】
下記(7)及び(8)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(7)前記径方向の断面において、前記近位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記近位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上であり、
前記近位側スリーブ部と前記近位側テーパー部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
(8)前記径方向の断面において、前記遠位側スリーブ部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は45°以上であり、
前記径方向の断面において、前記遠位側テーパー部の前記突出部は、前記第1方向又は前記第2方向に倒れており、前記基端の幅方向の中点と前記先端とを結ぶ直線と前記基端の垂線とがなす角度は30°以上であり、
前記遠位側スリーブ部と前記遠位側テーパー部は、前記バルーン本体の内面よりも前記径方向の内方に突出しており前記長手軸方向に延在している内側突出部を有している。
【発明の効果】
【0010】
上記バルーンカテーテル用バルーンによれば、突出部を有することによりバルーンの強度を高めてバルーンの所望しない方向への伸びや破損を防止しつつ、バルーンを前進又は後退させる際に先頭となる遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、倒れた突出部がクッションのような働きをすることで、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーンとすることができる。また、遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、突出部自体を縮小することなくバルーンの外径を抑えることができるため、バルーンの強度と体腔内の挿通の容易性を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの側面図を表す。
【
図3】
図2に示したバルーンの収縮状態における断面図を表す。
【
図5】
図4に示したバルーンの収縮状態における断面図を表す。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るバルーンの断面図を表す。
【
図9】本発明のさらに他の実施形態に係るバルーンの断面図を表す。
【
図10】本発明のさらに他の実施形態に係るバルーンの断面図を表す。
【
図11】本発明の一実施形態に係る膨張前のパリソンの斜視図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0013】
本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンは、直管部と、直管部よりも近位側に位置している近位側テーパー部と、近位側テーパー部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部と、遠位側テーパー部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、を有しているバルーンカテーテル用バルーンであって、外面及び内面を有するバルーン本体と、バルーン本体の外面よりも径方向の外方に突出しておりバルーン本体の長手軸方向に延在している突出部と、を有しており、径方向の断面において、直管部に設けられている突出部は、バルーン本体の外面と接続している基端と、基端よりも径方向の外方に位置し、突出部の径方向の外方端である先端と、を有しており、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たしている。
(1)径方向の断面において、近位側スリーブ部に設けられている突出部は、バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、基端の幅方向の中点と先端とを結ぶ直線と基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
(2)径方向の断面において、遠位側スリーブ部に設けられている突出部は、バルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れており、基端の幅方向の中点と先端とを結ぶ直線と基端の垂線とがなす角度は45°以上である。
【0014】
このように、本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンは、突出部を有することによりバルーンの強度を高めてバルーンの所望しない方向への伸びや破損を防止しつつ、バルーンを前進又は後退させる際に先頭となる遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、倒れた突出部がクッションのような働きをすることで、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーンとすることができる。また、遠位側スリーブ部及び/又は近位側スリーブ部に設けられている突出部がバルーン本体の周方向の第1方向又は第2方向に倒れていることにより、突出部自体を縮小することなくバルーンの外径を抑えることができるため、バルーンの強度と体腔内の挿通の容易性を両立できる。
【0015】
図1~
図10を参照しながら、本発明の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるバルーンカテーテルの側面図を表す。
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図を表し、
図1に示したバルーンカテーテルのバルーンの直管部の拡張状態における断面図を表す。
図3は、
図2に示した拡張部の収縮状態における断面図を表す。
図4は、
図1のIV-IV線に沿った断面図を表し、
図1に示したバルーンカテーテルのバルーンの遠位側テーパー部の拡張状態における断面図を表す。
図5は、
図4に示した遠位側テーパー部の収縮状態における断面図を表す。
図6は、
図1のVI-VI線に沿った断面図を表し、
図1に示したバルーンカテーテルのバルーンの遠位側スリーブ部の断面図を表す。
図7は、
図6の変形例を表す。
図8~
図10は、本発明のそれぞれ異なる実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンの断面図を表し、
図8は遠位側スリーブ部の断面図を表し、
図9及び
図10は遠位側テーパー部の収縮状態における断面図を表し、
図9はより遠位側の遠位側テーパー部、
図10はより近位側の遠位側テーパー部の断面図を表す。本明細書においては、バルーンカテーテル用バルーンを単に「バルーン」と称することがある。
【0016】
本発明において、近位側とはバルーンカテーテル1の延在方向又はシャフト3の長手軸方向に対して使用者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向、すなわち処置対象者側の方向を指す。バルーンカテーテル1の長手軸方向は、バルーン本体20の長手軸方向xと同じであることが好ましい。また本明細書においては、長尺状の部材以外であっても、同じ長手軸方向xを有するとして説明する。バルーン本体20の径方向yは、長手軸方向xに垂直な方向であって長手軸方向xに垂直な断面においてバルーン本体20の中心と拡張状態のバルーン本体20の外縁上の点とを結ぶ方向である。バルーン本体20の周方向zは、径方向yの断面において拡張状態のバルーン本体20の外縁に沿う方向である。
【0017】
図1に示すように、バルーンカテーテル1は、シャフト3とシャフト3の遠位端部に設けられたバルーン2とを有するものである。バルーンカテーテル1は、シャフト3を通じてバルーン2の内部に流体が供給されるように構成され、インデフレーター(バルーン用加圧器)を用いてバルーン2の拡張及び収縮を制御することができる。流体は、ポンプ等により加圧された加圧流体であってもよい。
【0018】
シャフト3は、内部に流体の流路を有しており、さらにガイドワイヤの挿通路を有していることが好ましい。シャフト3が内部に流体の流路及びガイドワイヤの挿通路を有する構成とするには、例えば、シャフト3が外側チューブ31と内側チューブ32とを有しており、内側チューブ32がガイドワイヤの挿通路として機能し、内側チューブ32と外側チューブ31の間の空間が流体の流路として機能する構成とすることが挙げられる。このようにシャフト3が外側チューブ31と内側チューブ32とを有している構成の場合、内側チューブ32が外側チューブ31の遠位端から延出してバルーン2よりも遠位側に貫通し、バルーン2の遠位側が内側チューブ32に接合され、バルーン2の近位側が外側チューブ31と接合されることが好ましい。
【0019】
図1に示すように、バルーンカテーテル用バルーン2は、直管部23と、直管部23よりも近位側に位置している近位側テーパー部22と、近位側テーパー部22よりも近位側に位置している近位側スリーブ部21と、直管部23よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部24と、遠位側テーパー部24よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部25と、を有しており、外面及び内面を有するバルーン本体20と、バルーン本体20の外面よりも径方向yの外方に突出しておりバルーン本体20の長手軸方向xに延在している突出部60と、を有しており、径方向yの断面において、直管部23に設けられている突出部60は、バルーン本体20の外面と接続している基端61と、基端61よりも径方向yの外方に位置し、突出部60の径方向yの外方端である先端62と、を有しており、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たしている。
(1)径方向yの断面において、近位側スリーブ部21に設けられている突出部60は、バルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線L
pと基端61の垂線L
vとがなす角度θは45°以上である。
(2)径方向yの断面において、遠位側スリーブ部25に設けられている突出部60は、バルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線L
pと基端61の垂線L
vとがなす角度θは45°以上である。
バルーン2が突出部60を有していることにより、バルーン2の強度を高めてバルーン2の所望しない方向への伸びや破損を防止できる。また、バルーン2を体腔に挿入し、体腔内を病変部まで送達させる際に、バルーン2の前進又は後退において先頭となる遠位側スリーブ部25及び/又は近位側スリーブ部21に設けられている突出部60がバルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れていることにより、倒れた突出部60がクッションのような働きをすることで、体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーンカテーテル用バルーン2とすることができる。さらに、遠位側スリーブ部25及び/又は近位側スリーブ部21に設けられている突出部60がバルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れていることにより、突出部60自体を縮小することなくバルーン2の外径を抑えることができるため、バルーン2の強度と体腔内の挿通の容易性を両立できる。
【0020】
図1に示すように、バルーン2は、直管部23と、直管部23よりも近位側に位置している近位側テーパー部22と、近位側テーパー部22よりも近位側に位置している近位側スリーブ部21と、直管部23よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部24と、遠位側テーパー部24よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部25と、を有している。近位側スリーブ部21及び遠位側スリーブ部25の少なくとも一部がシャフト3と固定される構成とすることができ、シャフト3が外側チューブ31及び内側チューブ32とを有する構成の場合は、近位側スリーブ部21の少なくとも一部が外側チューブ31と固定され、遠位側スリーブ部25の少なくとも一部が内側チューブ32と固定される構成とすることができる。
【0021】
近位側テーパー部22、直管部23、及び遠位側テーパー部24は、シャフト3を通じてバルーン2の内部に流体が供給されることにより拡張される部分であり、近位側スリーブ部21及び遠位側スリーブ部25はバルーン2の内部に流体が供給された場合にも拡張しないことが好ましい。これにより、バルーン2の拡張状態においてもバルーン2とシャフト3との固定を安定させることができる。
【0022】
直管部23は長手軸方向xにおいて同じ径を有していることが好ましく、近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24は直管部23から離れるにつれて縮径するように形成されていることが好ましい。近位側テーパー部22及び遠位側テーパー部24が縮径されていることにより、バルーン2を収縮させた際にバルーン2の近位端部及び遠位端部の外径を小さくしてシャフト3とバルーン2との段差を小さくすることができるため、バルーン2を体腔内で挿通させやすくなる。
【0023】
図2に示すように、バルーン2は、外面及び内面を有しているバルーン本体20と、バルーン本体20の外面よりも径方向yの外方に突出しておりバルーン本体20の長手軸方向xに延在している突出部60を有している。バルーン2は病変部に送達されると
図2に示すようにバルーン本体20を拡張させ、突出部60により病変部の狭窄部を切開する等の治療を行うことができる。
【0024】
直管部23に設けられている突出部60は、バルーン本体20の外面と接続している基端61と基端61よりも径方向yの外方に位置し、突出部60の径方向yの外方端である先端62とを有している。突出部60の径方向yの断面の形状がどのような形状であっても径方向yの外方端は一義的に決定でき、突出部60の先端62を定義することができる。先端62で病変部にバルーン2を固定したり病変部に切り込みを入れたりし、さらに基端61側まで突出部60を病変部に食い込ませるようにして病変部を切開し、狭窄部を拡張することが好ましい。突出部60の先端62は鋭角を有する尖鋭な形状であってもよいし、曲面や平面を有する形状であってもよいが、上記観点から先端62は尖鋭な形状を有することが好ましい。
【0025】
基端61は、バルーン本体20の周方向zに所定の幅を有しており、基端61の周方向zの幅は、バルーン本体20の周長の1/100以上が好ましく、1/80以上がより好ましく、1/70以上がさらに好ましく、また、1/4以下が好ましく、1/8以下がより好ましく、1/10以下がさらに好ましい。
【0026】
図2に示すように、突出部60は周方向zに複数設けられていてもよいし、或いは図示していないが、周方向zに1つの突出部60が設けられていてもよい。周方向zに複数の突出部60が設けられている場合の突出部60の周方向zの数は特に限定されないが、例えば2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上であってもよく、また、10以下が好ましく、8以下が好ましく、6以下であってもよい。この場合、突出部60は周方向zに離隔して配されていることが好ましく、周方向zに等間隔に配されていることがより好ましい。これにより、バルーン2の固定や狭窄部の切開が行いやすくなる。
【0027】
突出部60は、バルーン本体20の近位端から遠位端にかけて連続して設けられていてもよいし、断続的に設けられていてもよい。また、突出部60は、バルーン本体20の長手軸方向xに平行に配されていてもよいし、バルーン本体20の外面を周方向zに周回するようにらせん状に配されていてもよい。突出部60が長手軸方向xに平行に配されていれば、突出部60により狭窄部を真っ直ぐに切開することができる。突出部60がらせん状に配されていれば、突出部60により狭窄部を斜めに切開することができる。
【0028】
突出部60の長手軸方向xに垂直な断面の形状は任意の形状であってよく、
図2に示したような略三角形であってもよく、また、多角形、扇型、楔形、凸字形、紡錘形等であってもよい。
【0029】
直管部23に設けられている突出部60は、周方向zの第1方向d1及び第2方向d2のいずれにも倒れていないことが好ましい。これにより、突出部60によるバルーン2の病変部への固定や狭窄部の切開を効率よく行うことができる。突出部60が周方向zの第1方向d1及び第22方向d2のいずれにも倒れていないとき、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとは一致する、すなわち基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は0°であることが好ましい。該角度の絶対値は3°以下、5°以下、10°以下であることも許容される。このとき、上記直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は、基端61の幅方向の中点を起点とし、直線Lpが基端61の垂線Lvに対して突出部60が倒れる方向になす角度とする。ここで、垂線Lvは、径方向yの断面において、基端61の周方向zの一方端と他方端とを結ぶ線分の垂線とする。
【0030】
直管部23における突出部60の高さの最大値は、バルーン本体20の膜厚の1倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、また50倍以下、30倍以下、或いは10倍以下であることも許容される。突出部60の高さが上記範囲であることで、突出部60による狭窄部の切開が容易となり、バルーン2の長手軸方向xへの伸びも容易に防止でき、バルーン2のプッシャビリティも向上できる。突出部60の高さは、径方向yの断面において、バルーン本体20の図心と先端62とを結ぶ線分の長さから、バルーン本体20の図心から該線分がバルーン本体20の外縁と交わる点までの長さを除することで得ることができる。
【0031】
図3に示すように、バルーン2の収縮状態においては、直管部23におけるバルーン本体20は羽根29を形成して、羽根29が折り畳まれていることが好ましい。このとき、突出部60は羽根29以外の部分に形成されており、羽根29が突出部60を覆うように折り畳まれていることが好ましい。バルーン2は収縮状態で体腔内を病変部まで搬送されるが、突出部60が羽根29に覆われていることにより、搬送中に突出部60が不必要に体腔壁を傷つけたり突出部60が損傷したりすることを防止できる。収縮状態においても、直管部23に設けられている突出部60は、周方向zの第1方向d1及び第2方向d2のいずれにも倒れていないことが好ましい。これにより、バルーン2を拡張させた際に突出部60が倒れていない状態を保つことができる。
【0032】
バルーン2の収縮状態における羽根29の数は特に制限されないが、例えば2枚以上が好ましく、3枚以上がより好ましく、4枚以上であってもよく、また、10枚以下が好ましく、8枚以下がより好ましく、6枚以下がさらに好ましい。羽根29の数が上記範囲であれば、バルーン2を容易に収縮させることができる。
【0033】
図4に示すように、遠位側テーパー部24に設けられている突出部60は、周方向zの第1方向d1及び第2方向d2のいずれにも倒れていなくてもよい。近位側テーパー部22については図示していないが、遠位側テーパー部24と同様に、近位側テーパー部22に設けられている突出部60は、周方向zの第1方向d1及び第2方向d2のいずれにも倒れていなくてもよい。バルーン2の拡張状態においてテーパー部の突出部60が倒れていないことにより、テーパー部に配置されている突出部60によりバルーン2を病変部に固定したり狭窄部を切開したりすることができる。
図5に示すようなバルーン2の収縮状態においては、テーパー部は直管部23よりも外径が小さくなるように折り畳まれやすいため、突出部60が倒れていなくてもバルーン2の挿通性をそれほど損なうことなくバルーン2を病変部へ送達することができる。
【0034】
バルーン2は、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たしている。
(1)径方向yの断面において、近位側スリーブ部21に設けられている突出部60は、バルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度θは45°以上である。
(2)径方向yの断面において、遠位側スリーブ部25に設けられている突出部60は、バルーン本体20の周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度θは45°以上である。
【0035】
ここで、垂線Lvは、径方向yの断面において、基端61の周方向zの一方端と他方端とを結ぶ線分の垂線とする。
【0036】
図6には遠位側スリーブ部25の断面図を示しているが、近位側スリーブ部21についても同様に説明できるため
図6を参照しつつ説明する。
図6に示すように、近位側スリーブ部21及び/又は遠位側スリーブ部25に設けられている突出部60は、周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線L
pと基端61の垂線L
vとがなす角度θは45°以上である。このような構成により、バルーン2が体腔内を病変部まで搬送される際に、倒れた突出部60がバルーン本体20と体腔壁との間でクッションのような働きをすることで、バルーン2が体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーン2とすることができる。さらに、突出部60は周方向zに倒れているだけで、突出部60自体が縮小されているわけではないため、突出部60によるバルーン2の伸びの防止やプッシャビリティの向上の効果は保ったままバルーン2の外径を抑えてバルーン2の挿通を容易とすることができる。角度θは、50°以上が好ましく、60°以上がより好ましく、65°以上がさらに好ましい。角度θの上限は、基端61がバルーン本体20の外面に接続しており、先端62はバルーン本体20の外面に接するまでしか倒れることができないため自ずと制限されるが、例えば角度θは100°以下であってもよく、95°以下であってもよく、90°以下であってもよい。このとき、直線L
pと基端61の垂線L
vとがなす角度θは、基端61の幅方向の中点を起点とし、直線L
pが基端61の垂線L
vに対して突出部60が倒れる方向になす角度とする。
【0037】
ここで、突出部60が周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れていると、その状態での突出部60の径方向yの外方端は、突出部60が倒れていないときの外方端とは異なってくるが、本明細書においては、突出部60が倒れているときの先端62は、突出部60が倒れていないときの先端62と同じ部分を指すものとする。
【0038】
近位側スリーブ部21及び遠位側スリーブ部25の両方において、突出部60は周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れていることが好ましい。これにより、バルーン2を体腔内で前進及び後退させる際に先頭となる遠位側スリーブ部25及び近位側スリーブ部21の両方に設けられている突出部60がクッションのような働きをし、前進及び後退のいずれの場合も体腔内を滑らかに挿通できトラッカビリティの向上したバルーン2とすることができる。
【0039】
或いは、遠位側スリーブ部25のみにおいて、突出部60は周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、近位側スリーブ部21においては、突出部60は倒れていなくてもよい。これにより、バルーン2を体腔内で前進させる際に先頭となる遠位側スリーブ部25に設けられている突出部60がクッションのような働きをし、バルーン2を容易に前進させることができる。このとき、近位側スリーブ部21に配置されている突出部60によって、搬送時にバルーン2の近位部を体腔壁に対して支えることができるため、バルーン2のトラッカビリティを向上することができる。
【0040】
また或いは、近位側スリーブ部21のみにおいて、突出部60は周方向zの第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、遠位側スリーブ部25においては、突出部60は倒れていなくてもよい。これにより、バルーン2の先頭側である遠位側スリーブ部25に配置されている突出部60により体腔壁を削りながらほふく前進させる治療が可能となり、バルーン2を後退させる際は近位側スリーブ部21に配置されて倒れている突出部60のクッション作用により容易に後退させることができる。
【0041】
図7に示すように、突出部60が周方向zに複数設けられている場合、1つの突出部60は周方向zの第1方向d1に倒れており、他の突出部60は周方向zの第2方向d2に倒れていてもよい。
【0042】
図6に示すように、倒れている突出部60の先端62とバルーン本体20の外面との間に空間が形成されていることが好ましく、この空間の大きさを表す指標とできるバルーン本体20の外面から先端62までの距離hが所定以上であることが好ましい。距離hは、バルーン本体20の図心Oと先端62とを結ぶ線分と垂直なバルーン本体20の外面の接線と、該接線と平行であって先端62を通る直線との距離として定義することができる。距離hは、バルーン本体20の膜厚の1/5以上であることが好ましく、より好ましくは1/4以上、さらに好ましくは1/2以上であり、また10倍以下、5倍以下、或いは3倍以下であることも許容される。距離hが上記範囲であれば、倒れている突出部60の先端62とバルーン本体20の外面との間に形成されている空間の大きさを所定以上とすることができ、倒れている突出部60によるクッション作用により、バルーン2のトラッカビリティを向上することができる。
【0043】
いずれの場合であっても、スリーブ部に配置されている突出部60は、長手軸方向xの全ての範囲において倒れていてもよいし、長手軸方向xの一部において倒れていてもよい。どの程度のクッション性を付与したいかによって、突出部60を倒す範囲を決めることができる。
【0044】
バルーン2は、下記(3)及び(4)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(3)径方向yの断面において、近位側スリーブ部21の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は45°以上であり、
近位側スリーブ部21は、バルーン本体20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有している。
(4)径方向yの断面において、遠位側スリーブ部25の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は45°以上であり、
遠位側スリーブ部25は、バルーン本体20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有している。
【0045】
図8に示すように、近位側スリーブ部21及び/又は遠位側スリーブ部25は、突出部60が倒れている部分において、バルーン20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有していることが好ましい。これにより、突出部60が倒れている部分であっても、内側突出部70によりバルーン2の近位端部及び/又は遠位端部の強度を向上することができる。内側突出部70は、周方向zにおいて突出部60と同じ位置に配されていることが好ましい。これにより、バルーン2の近位端部及び/又は遠位端部の強度をより向上できる。
【0046】
バルーン2は、下記(5)及び(6)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(5)径方向yの断面において、近位側スリーブ部21の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度θは45°以上であり、
径方向yの断面において、近位側テーパー部22の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は30°以上である。
(6)径方向yの断面において、遠位側スリーブ部25の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度θは45°以上であり、
径方向yの断面において、遠位側テーパー部24の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は30°以上である。
【0047】
図9及び
図10に示すように、テーパー部においても突出部60は第1方向d1又は第2方向d2に倒れていてもよい。
図9は収縮状態におけるより遠位側の遠位側テーパー部24、
図10は収縮状態におけるより近位側の遠位側テーパー部24の断面図を表しているが、このように、より遠位側、すなわちバルーン2の端部側であって直管部23から遠く、収縮状態における羽根29の長さが短い部分では突出部60が深く倒れており、より近位側、すなわちバルーン2の直管部23側であって収縮状態における羽根29の長さが長い部分では突出部60の倒れが浅い態様も好ましい。これにより、直管部23に近いほど突出部60の倒れが浅く、病変部に送達された際に遠位側テーパー部24に配置されている突出部60によりバルーン2を病変部に固定したり狭窄部を切開することが容易となる。この説明は、近位側テーパー部22に対しても同様になされることができる。つまり、近位側テーパー部22のより近位側、すなわちバルーン2の端部であって直管部23から遠く、収縮状態における羽根29の長さが短い部分では突出部60が深く倒れており、より遠位側、すなわちバルーン2の直管部23側であって収縮状態における羽根29の長さが長い部分では突出部60の倒れが浅い態様も好ましい。突出部60が深く倒れているとは、距離hが短いことを意味し、突出部60が浅く倒れているとは距離hが長いことを意味する。距離hをどのように決めるかにより、突出部60を倒すことによるクッション性の大きさを制御することができる。
【0048】
或いは、テーパー部における突出部60は、長手軸方向xにおいて同じ程度倒れていてもよい。また、突出部60は、長手軸方向xにおいて倒れている部分と倒れていない部分があってもよい。
【0049】
テーパー部における突出部60が倒れていることにより、テーパー部における突出部60もクッションとして機能することができ、バルーン2のトラッカビリティを向上することができる。近位側テーパー部22及び/又は遠位側テーパー部24のいずれに配されている突出部60が倒れているかについての効果は、上記近位側スリーブ部21及び/又は遠位側スリーブ部25のいずれに配されている突出部60が倒れているかについての効果を参照することができる。
【0050】
テーパー部における突出部60が倒れる角度θは、30°以上が好ましく、45°以上がより好ましく、50°以上がさらに好ましく、また、例えば95°以下であってもよく、90°以下であってもよく、80°以下であってもよい。
【0051】
バルーン2は、(7)及び(8)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(7)径方向yの断面において、近位側スリーブ部21の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は45°以上であり、
径方向yの断面において、近位側テーパー部22の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は30°以上であり、
近位側スリーブ部21と近位側テーパー部22は、バルーン本体20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有している。
(8)径方向yの断面において、遠位側スリーブ部25の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は45°以上であり、
径方向yの断面において、遠位側テーパー部24の突出部60は、第1方向d1又は第2方向d2に倒れており、基端61の幅方向の中点と先端62とを結ぶ直線Lpと基端61の垂線Lvとがなす角度は30°以上であり、
遠位側スリーブ部25と遠位側テーパー部24は、バルーン本体20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有している。
【0052】
テーパー部とスリーブ部に配されている突出部60が倒れている部分において、バルーン20の内面よりも径方向yの内方に突出しており長手軸方向xに延在している内側突出部70を有していることが好ましい。これにより、突出部60が倒れている部分であっても、内側突出部70によりバルーン2の近位端部及び/又は遠位端部の強度を向上することができる。内側突出部70は、周方向zにおいて突出部60と同じ位置に配されていることが好ましい。これにより、バルーン2の近位端部及び/又は遠位端部の強度をより向上できる。テーパー部に配されている内側突出部については図示していないが、
図8の内側突出部70を参照することができる。
【0053】
バルーン本体20を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等のポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ラテックスゴム等の天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。特に、バルーン本体20の薄膜化や柔軟性の点からエラストマー樹脂を用いることが好ましい。例えば、ポリアミド系樹脂の中では、ナイロン12、ナイロン11等がバルーン本体20を構成する樹脂として好適であり、ブロー成形する際に比較的容易に成形可能である点から、ナイロン12がより好適である。また、バルーン本体20の薄膜化や柔軟性の点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリアミドエーテルエラストマー等のポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。中でも、降伏強度が高く、バルーン本体20の寸法安定性を良好とする点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマーが好ましく用いられる。
【0054】
突出部60及び内側突出部70は、バルーン本体20と同一材料から構成されていることが好ましい。突出部60と内側突出部70がバルーン本体20と同一材料から構成されていれば、バルーン2の柔軟性を維持しながら、突出部60や内側突出部70がバルーン本体20の外側面を傷つけにくくすることができる。バルーン本体20と突出部60及び内側突出部70は、一体成形されていることが好ましい。これにより、バルーン本体20からの突出部60及び内側突出部70の脱落を防ぐことができる。
【0055】
バルーン2は、例えば
図11に示すような、樹脂から構成されている筒状のパリソン200を、内腔に溝を有する金型に配置し、二軸延伸ブロー形成することにより製造することができる。突出部60は、例えば、パリソン200を金型の内腔に挿入して金型の溝にパリソンの肉厚部220を入り込ませ、パリソン200の内腔210に流体を導入してパリソン200を膨張させることで形成することができる。また、内側突出部70を形成する場合は、例えば、金型の溝がない部分にパリソン200の肉厚部220を押し当て、パリソン200の内腔210に流体を導入してパリソン200を膨張させることで、内側突出部70を形成することができる。パリソン200を構成する材料としては、上記バルーン本体20を構成する材料の説明を参照することができる。
【0056】
シャフト3を構成する材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、シャフト3を構成する材料は、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂の少なくとも1つであることが好ましい、これにより、シャフト3の表面の滑り性を高め、バルーンカテーテル1の体腔内での挿通性を向上させることができる。
【0057】
バルーン2とシャフト3との接合は、接着剤による接着、溶着、バルーン2の端部とシャフト3とが重なっている箇所にリング状部材を取り付けてかしめること等が挙げられる。中でも、バルーン2とシャフト3は、溶着によって接合されていることが好ましい。バルーン2とシャフト3が溶着されていることにより、バルーン2を繰り返し拡張及び収縮させてもバルーン2とシャフト3との接合が解除されにくく、バルーン2とシャフト3との接合強度を容易に高めることができる。
【0058】
図1に示すように、シャフト3の近位側にはハブ4が設けられていてもよく、ハブ4には、バルーン2の内部に供給される流体の流路と連通した流体注入部7が設けられていてもよい。また、ハブ4は、ガイドワイヤの挿通路と連通したガイドワイヤ挿入部5を有することが好ましい。バルーンカテーテル1が流体注入部7とガイドワイヤ挿入部5を備えるハブ4を有していることにより、バルーン2の内部に流体を供給してバルーン2を拡張及び収縮させる操作や、ガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテル1を治療部位まで送達する操作を容易に行うことができる。このようにガイドワイヤがシャフトの遠位側から近位側にわたって挿通される所謂オーバーザーワイヤ型のバルーンカテーテルのみならず、本発明の実施形態に係るバルーン2は、シャフトの遠位側から近位側に至る途中までガイドワイヤを挿通する所謂ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテルにも適用することができる。
【0059】
シャフト3とハブ4との接合は、例えば、接着剤による接着、溶着等が挙げられる。中でも、シャフト3とハブ4は、接着により接合されていることが好ましい。シャフト3とハブ4とが接着されていることにより、例えば、シャフト3は柔軟性の高い材料から構成され、ハブ4は剛性の高い材料から構成されている等、シャフト3を構成する材料とハブ4を構成する材料とが異なっている場合に、シャフト3とハブ4との接合強度を高めてバルーンカテーテル1の耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0060】
1:バルーンカテーテル
2:バルーン
3:シャフト
4:ハブ
5:ガイドワイヤ挿入部
7:流体注入部
20:バルーン本体
21:近位側スリーブ部
22:近位側テーパー部
23:直管部
24:遠位側テーパー部
25:遠位側スリーブ部
29:羽根
31:外側チューブ
32:内側チューブ
60:突出部
61:基端
62:先端
70:内側突出部
200:パリソン
210:パリソンの内腔
220:パリソンの肉厚部
x:バルーン本体の長手軸方向
y:バルーン本体の径方向
z:バルーン本体の周方向
d1:第1方向
d2:第2方向
Lv:基端の垂線
Lp:基端の幅方向の中点と先端とを結ぶ直線
θ:LvとLpとがなす角度
h:バルーン本体の外面と先端との間に形成された空間におけるバルーン本体の外面から先端までの距離