(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069928
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20230511BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230511BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230511BHJP
C08K 5/1539 20060101ALI20230511BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L63/00 Z
C08L21/00
C08K5/1539
C08K5/3445
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182166
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】矢野 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 泰典
(72)【発明者】
【氏名】片岡 央尚
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB053
4J002BB214
4J002CD002
4J002CH081
4J002EL136
4J002EU117
4J002FD144
4J002FD146
4J002FD157
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】連続相と分散相とからなる互いに非相溶である2つの相を含む樹脂組成物であって、目的に応じた高いTgを示し、したがって優れた耐熱性を発揮できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂成分からなる連続相と、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーを含むエラストマー成分からなる分散相と、促進剤とを含む樹脂組成物である。硬化剤が酸無水物を含み、変性エラストマーがフェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂の主鎖の水酸基と反応可能で、フェノキシ樹脂100質量部に対しエポキシ樹脂40質量部以下、促進剤0.08質量部以下で、フェノキシ樹脂の水酸基当量とエポキシ樹脂のエポキシ当量の和に対する硬化剤の酸無水物当量の比率が0.1を超え1.0以下、変性エラストマーに対する熱可塑性エラストマーの体積比が3.5以下で、連続相と分散相との体積比が80:20~55:45である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂成分からなる連続相と、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーを含むエラストマー成分からなる分散相と、促進剤とを含む樹脂組成物であって、
前記硬化剤が少なくとも酸無水物を含み、前記変性エラストマーが、前記フェノキシ樹脂および前記エポキシ樹脂の主鎖の水酸基と反応可能であり、
前記フェノキシ樹脂100質量部に対し、前記エポキシ樹脂が40質量部以下であり、前記促進剤が0.08質量部以下であり、
前記フェノキシ樹脂の水酸基当量(eq)と前記エポキシ樹脂のエポキシ当量(eq)との総和に対する前記硬化剤の酸無水物当量(eq)の比率が0.1を超え1.0以下であり、
前記変性エラストマーの体積に対する前記熱可塑性エラストマーの体積の比率が3.5以下であって、かつ、
前記連続相と前記分散相との体積比が、80:20~55:45の範囲であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記促進剤がイミダゾール系化合物である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、赤外吸収スペクトルにおいて、120℃~230℃の間にピークが変化するか、または、120℃~230℃の間に温度上昇に伴って溶融粘度が上昇する請求項1または2記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、詳しくは、連続相と分散相とからなる互いに非相溶である2つの相を含む樹脂組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
海島構造を持つ樹脂組成物は、高剛性であって高耐衝撃性を持つことが知られている。このような樹脂組成物は、例えば、自動車部品、特にエンジン周辺でよく使われる。そのため、このような樹脂組成物には耐熱性も要求されることから、海部分であるマトリクス樹脂には、融点が高い、例えば、200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂が、一般的に使用されている。
【0003】
上記のような高融点を有するマトリクス樹脂を使用する場合、海島構造を持つ樹脂組成物を混練工程により形成する際の加工温度も高くなる。そのため、島部分であるドメイン樹脂として使用する材料としては、その加工温度において加工可能であって、かつ、物性等の変化が生じない材料に限定される。ゴムなどの二重結合をもつ材料は、上記のような加工温度では二重結合が破壊されるので、ドメイン樹脂として使用することができない。
【0004】
一方、低温でも混練可能な樹脂材料はTgも低いため、このような樹脂材料をマトリクス樹脂として用いる場合、海島構造を持つ樹脂組成物は耐熱性に劣るものとなる。また、特許文献1に開示されているような、低温で混練することができ、硬化させることによって高いTgを示す樹脂も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/157132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような樹脂をマトリクス樹脂として使用する場合、どのように調整すれば、目的に応じた高いTgを確保しつつ、高剛性であって高耐衝撃性を持つ海島構造の樹脂組成物を形成できるかについては、未だ検討が不十分であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、海島構造のような、連続相と分散相とからなる互いに非相溶である2つの相を含む樹脂組成物であって、目的に応じた高いTgを示し、したがって優れた耐熱性を発揮できる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂成分からなる連続相と、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーを含むエラストマー成分からなる分散相と、促進剤とを含む樹脂組成物であって、
前記硬化剤が少なくとも酸無水物を含み、前記変性エラストマーが、前記フェノキシ樹脂および前記エポキシ樹脂の主鎖の水酸基と反応可能であり、
前記フェノキシ樹脂100質量部に対し、前記エポキシ樹脂が40質量部以下であり、前記促進剤が0.08質量部以下であり、
前記フェノキシ樹脂の水酸基当量(eq)と前記エポキシ樹脂のエポキシ当量(eq)との総和に対する前記硬化剤の酸無水物当量(eq)の比率が0.1を超え1.0以下であり、
前記変性エラストマーの体積に対する前記熱可塑性エラストマーの体積の比率が3.5以下であって、かつ、
前記連続相と前記分散相との体積比が、80:20~55:45の範囲であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記促進剤がイミダゾール系化合物であることが好ましい。また、本発明は、前記熱可塑性エラストマーが、赤外吸収スペクトルにおいて、120℃~230℃の間にピークが変化するか、または、120℃~230℃の間に温度上昇に伴って溶融粘度が上昇するものである場合に有用である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、海島構造のような、連続相と分散相とからなる互いに非相溶である2つの相を含む樹脂組成物であって、目的に応じた高いTgを示し、したがって優れた耐熱性を発揮できる樹脂組成物を実現することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂成分からなる連続相と、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーを含むエラストマー成分からなる分散相と、の2つの相を含む構造を有し、さらに促進剤を含むものであって、以下に詳述するような材料および配合量に係る条件を満足するものである。
【0014】
本発明の樹脂組成物によれば、樹脂成分のガラス転移温度を適正に調整して、例えば、樹脂組成物のTgで120℃以上とすることで、耐熱性を損なうことなく熱可塑性エラストマーの選択の幅を広く確保することができるとともに、硬化時間を適正に調整して作業性を確保することができ、さらに、連続相を形成する樹脂成分と、分散相を形成するエラストマー成分とを混練する際に、エラストマー成分のドメインサイズを所望の範囲にコントロールすることができる。これにより、本発明の樹脂組成物によれば、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立することができる。
【0015】
[連続相]
本発明の樹脂組成物における連続相は、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂成分からなる。本発明においては、連続相において、フェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂を用いるとともに、硬化剤を必須成分とすることで、樹脂組成物のTgを高く確保することができる。また、本発明においては、促進剤を必須成分とすることで、反応を促進させて、樹脂組成物において、エラストマー成分のドメインサイズを所望の範囲に調整することができる。
【0016】
フェノキシ樹脂としては、いかなる構造を有していてもよく、具体的には例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、脂環式フェノキシ樹脂、脂肪族鎖状フェノキシ樹脂等が挙げられる。フェノキシ樹脂は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの重縮合反応や、2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応により、従来公知の方法で得ることができる。フェノキシ樹脂は、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルアニリン、トリグリシジルアミノフェノール等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
硬化剤としては、フェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂と反応し得る活性基を有する化合物であれば、特に制限されるものではなく、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。硬化剤としては、例えば、酸無水物基、アミノ基またはアジド基を有する化合物を用いることができ、本発明においては、フェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂との反応性の観点から、硬化剤が、少なくとも酸無水物を含むことが好ましい。このような酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸、無水ヘプタン酸、無水安息香酸、無水ケイ皮酸、無水コハク酸、無水メチルコハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、スチレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0019】
連続相を構成する樹脂成分におけるフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤の配合比率としては、まず、硬化剤については、フェノキシ樹脂の水酸基当量(eq)とエポキシ樹脂のエポキシ当量(eq)との総和に対する硬化剤の酸無水物当量(eq)の比率、すなわち、[硬化剤の酸無水物当量(eq)]/[フェノキシ樹脂の水酸基当量+エポキシ樹脂のエポキシ当量(eq)]の値が、0.1を超え1.0以下であるものとする。上記当量比の値が0.1以下であると、硬化剤の配合量が少なすぎて、得られる樹脂組成物において、所望のTgが得られない。上記当量比の値が1.0を超えると、硬化剤の配合量が多すぎて、反応しきれない分が不純物として残留し、破壊の核になるおそれがある。上記当量比の値は、好適には0.5以上0.8以下である。本発明において、硬化剤の配合量は、エラストマー成分のドメインサイズには影響しない。
【0020】
[分散相]
本発明の樹脂組成物における分散相は、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーを含むエラストマー成分からなる。本発明において、変性エラストマーは、相容化剤としての機能を有する。本発明においては、相容化剤としての変性エラストマーを配合することで、変性エラストマーが樹脂成分に含まれる特定官能基と反応するので、連続相を形成する樹脂成分と分散相を形成するエラストマー成分とを相互反応させることができる。これにより、エポキシ樹脂の配合による樹脂成分の低粘度化に起因するエラストマー成分のドメインサイズの巨大化を抑制して、所望のドメインサイズの分散相とすることができる。本発明において、エラストマー成分は、樹脂組成物のTgに影響しない。
【0021】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系(TPO);アミド系(TPA);エステル系(TPC);スチレン系(TPS);ウレタン系(TPU);熱可塑性ゴム架橋体(TPV)などの熱可塑性エラストマーが挙げられ、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。本発明において、分散相には熱可塑性エラストマーとともに相容化剤としての変性エラストマーを配合するので、本発明における熱可塑性エラストマーには、変性熱可塑性エラストマーは含まれない。
【0022】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)とポリプロピレン(PP)とのブレンド(TPO-(EPDM+PP))、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体とポリエチレン(PE)とのブレンド(TPO-(EPDM+PE))などが挙げられる。
【0023】
アミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などであり、ソフトセグメントがポリエーテルおよび/またはポリエステルである熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0024】
エステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートなどであり、ソフトセグメントがポリエーテルおよび/またはポリエステルである熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0025】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)-ポリスチレン(SEEPS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)などが挙げられる。
【0026】
ウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが芳香族または脂肪族などであり、ソフトセグメントがポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルおよびポリエステル、ポリカーボネート、ポリカプロラクトンなどである熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0027】
熱可塑性ゴム架橋体としては、例えば、相を高度に架橋してPPの連続相に細かく分散した、EPDMとPPとの複合体;アクリロニトリル-ブタジエンゴム相を高度に架橋してPPの連続相に細かく分散した、NBRとPPとの複合体などが挙げられる。
【0028】
熱可塑性エラストマーとしては、市販品を用いてもよく、このような市販品としては、例えば、三井化学(株)製のエチレン系共重合体であるタフマー(登録商標)DF640、DF610、DF605などのDFシリーズ、タフマー(登録商標)XM7070、XM7080、XM7090などのXMシリーズ、住友化学(株)製の特殊プロピレン系エラストマーであるタフセレン(登録商標)T1712、H3002などのタフセレン(登録商標)シリーズ、(株)プライムポリマー製のプロピレンホモポリマーであるプライムポリプロ(登録商標)J-700GP、(株)クラレ製のポリスチレンのハードセグメントとビニル-ポリジエンのソフトセグメントとからなる共重合体であるハイブラー(登録商標)5125、5127などの未水添グレード5000シリーズ、ハイブラー(登録商標)7125、7311などの水添グレード7000シリーズ、ポリスチレンのハードセグメントとポリオレフィン構造のソフトセグメントとからなる共重合体であるセプトン(登録商標)4033などの4000シリーズ等が挙げられる。
【0029】
本発明は、混練時の温度を高くしなくてもエラストマー成分のドメインサイズを適正な範囲に調整できる点に特徴を有するので、特に、高温では混練できない熱可塑性エラストマーを用いる場合に有用である。このような熱可塑性エラストマーとは、例えば、高温下では、化学構造が部分的に破壊されるか、または、物理的な変化が生ずる熱可塑性エラストマーである。具体的には例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のジエン系ゴムのような、化学構造中に二重結合を有する熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)のような、加水分解するエステル系エラストマーなどが挙げられる。また、このような熱可塑性エラストマーとしては、赤外分光法(IR)分析により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、120℃~230℃の間に構造変化に起因するピークの変化が確認されるか、または、120℃~230℃の間に温度上昇に伴って溶融粘度が上昇する熱可塑性エラストマーとして特定できる。ここで、本発明において、熱可塑性エラストマーの赤外吸収スペクトルのピークが変化するとは、120℃~230℃の間のある温度を境に熱可塑性エラストマーの化学構造に変化が生じたことを意味し、この場合、その温度未満での測定で得られたピークと、その温度以上での測定で得られたピークとが異なるものとなる。例えば、化学構造中で二重結合の解離などが生ずれば、ピークの消失などの変化が発生する。また、熱可塑性エラストマーにおいて、温度上昇に伴いゲル化が生じ、エラストマー機能の消失が起こると、溶融粘度が上昇するので、本発明においては、120℃~230℃の範囲でこの溶融粘度の上昇が生ずるか否かによっても、熱可塑性エラストマーの化学構造の変化を確認することができる。
【0030】
本発明において、変性エラストマーとしては、連続相の樹脂成分を構成するフェノキシ樹脂およびエポキシ樹脂の主鎖の水酸基と、反応可能であるものを用いる。このような変性エラストマーとしては、具体的には、上記熱可塑性エラストマーを、酸変性、エポキシ変性またはウレタン変性して得られる変性熱可塑性エラストマーが挙げられる。変性エラストマーは、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
変性に用いられる酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸などの不飽和カルボン酸が挙げられる。また、これら不飽和カルボン酸の誘導体も使用できる。その誘導体としては、例えば、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩などが挙げられ、具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、マレイン酸エチル、アクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。一実施形態では、変性に用いる酸は、マレイン酸および無水マレイン酸からなる群より選択される1種以上である。
【0032】
酸変性エラストマーとしては、例えば、無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、無水マレイン酸変性ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)、無水マレイン酸変性ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)、無水マレイン酸変性スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)などの無水マレイン酸変性熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0033】
エポキシ変性エラストマーとしては、例えば、エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、エポキシ変性ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)、エポキシ変性ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)、エポキシ変性スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)などのエポキシ変性熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0034】
変性エラストマーにおける変性量としては、例えば、上記熱可塑性エラストマーに対する変性剤の量として、0.01~8質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.02~5質量%である。
【0035】
変性エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーの種類に合わせて、相溶性の高いものを適宜選択すればよく、市販品を用いてもよい。
【0036】
本発明の樹脂組成物の分散相における熱可塑性エラストマーと変性エラストマーとの配合比率としては、変性エラストマーの体積に対する熱可塑性エラストマーの体積の比率、すなわち、(熱可塑性エラストマーの体積)/(変性エラストマーの体積)の比率の値で、3.5以下となるような範囲とする。上記体積比率が3.5を超えると、変性エラストマーの割合が少なすぎて、エラストマー成分のドメインサイズを所望の範囲に調整できなくなる。上記体積比率は、好適には2以下である。なお、変性エラストマーと反応する官能基は、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とで共通であるので、上記体積比率は、連続相におけるエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との比率には影響されない。
【0037】
[促進剤]
促進剤としては、例えば、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミンなどのアミン系化合物、リン系化合物(リン系触媒など)、ホスホニウム塩系化合物、双環式アミジン類およびその誘導体、有機金属化合物、有機金属錯体、ポリアミンの尿素化物等の硬化促進剤が挙げられる。これらの中でも、促進剤としては、イミダゾール系化合物を用いることが好ましい。促進剤は、1種を単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
なお、本発明の樹脂組成物におけるフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂および促進剤の配合比率としては、フェノキシ樹脂100質量部に対し、エポキシ樹脂が40質量部以下であって、促進剤が0.08質量部以下であるものとする。上記エポキシ樹脂の配合量が40質量部を超えると、粘度低下に伴いドメインサイズの制御が困難となる。また、上記促進剤の配合量が0.08質量部を超えると、混練できる時間が短くなりすぎて、作業性が悪化する。特には、フェノキシ樹脂100質量部に対し、エポキシ樹脂が5~40質量部であって、促進剤が0.025~0.05質量部であることが好ましい。促進剤の配合量を適正な範囲とすることにより、混練時の温度を高くしなくてもエラストマー成分のドメインサイズを小さくして、適正な範囲に調整することができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物における連続相と分散相とは、互いに非相溶であって、具体的には、いわゆる海島構造、すなわち、比較的連続的に見える連続相(海相)の中に、不連続的に分散相(島相)が混在している構造を有する。本発明の樹脂組成物における連続相と分散相との非相溶性は、例えば、各成分を二軸押出機を用いて混練後、得られたペレットから15cm×15cm×2mmのモールドにてシートを作製し、このシートをミクロトームにより超薄切片として、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察することによって評価することができる。このような評価手法によって相分離構造が確認された場合、樹脂組成物を構成する連続相と分散相とは互いに非相溶であるといえる。
【0040】
本発明の樹脂組成物における連続相と分散相との体積比、すなわち、(連続相の体積):(分散相の体積)の比率は、80:20~55:45の範囲とする。連続相と分散相との体積比をこの範囲内とすることで、エラストマー成分のドメインサイズを適正な範囲とすることができ、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立できる樹脂組成物とすることができる。上記体積比は、好適には、60:40~55:45の範囲とすることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物における連続相および分散相には、上述した成分に加えて、結晶核剤、離型剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤等のその他の成分が含まれていてもよい。これらのその他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物の用途としては、特に制限されるものではないが、樹脂組成物単体の使用に制限されず、例えば、繊維材料と樹脂材料との複合体である強化繊維複合樹脂(コンポジットプリプレグ)に好適に適用できる。
【0043】
[強化繊維複合樹脂]
強化繊維複合樹脂は、具体的には、強化繊維と、この強化繊維を被覆する樹脂組成物と、を含む複合材料である。強化繊維複合樹脂に本発明の樹脂組成物を適用することにより、高い剛性と高い耐衝撃性とを両立した強化繊維複合樹脂とすることができる。
【0044】
強化繊維は、強化繊維複合樹脂に剛性を付与する働きを有する。強化繊維としては、連続繊維および不連続繊維のいずれを用いてもよく、双方を混合して用いてもよい。ここで、本発明において、連続繊維とは、長さが5cm以上の繊維を指し、シート状に縫合された繊維を含むものとする。また、本発明において、不連続繊維とは、連続繊維以外の強化繊維を指す。繊維長が0.5mm以上5cm未満の繊維は、強化繊維複合樹脂を用いて、スタンピング成形法等により、半球形状やリブ等の立体的な形状を成型する際に好適に用いることができる。繊維長が0.5mm未満の繊維は、強化繊維複合樹脂を、特に、射出成形による成形に供する際に好適に用いられる。耐衝撃強度の観点からは、連続繊維を用いることが最も好ましく、繊維長が短くなるほど耐衝撃強度における効果は小さくなるが、幅広い成形法に対応できる利点がある。また、上述のように立体的な形状を形成する際には不連続繊維も好適に用いられ、複雑な形状を形成する際には、連続繊維で作製する部位と不連続繊維で作製する部位とを有するものとしてもよい。不連続繊維を用いる場合は、射出成形も好適に選択される。
【0045】
強化繊維としては、具体的には、公知のFRP(繊維強化プラスチック)に用いられている連続繊維および不連続繊維を用いることができる。このような強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。これらは中実であっても、中空であってもよい。また、強化繊維は、イソシアネート系化合物や有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤などで予備処理したものであってもよい。強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
強化繊維としては、軽量性と高い剛性とを両立できる観点から、ガラス繊維および炭素繊維のうちのいずれかまたは両方を用いることが好ましく、炭素繊維を用いることがより好ましい。
【0047】
強化繊維としては、例えば、単繊維の平均直径が0.1~20μm、好適には5~10μm、より好適には6~8μmであるものを、用いることができる。また、強化繊維複合樹脂がシート状である場合のその厚みは、例えば、0.5~10mmであり、より好ましくは、1~5mmである。
【0048】
強化繊維複合樹脂における強化繊維の配置は特に限定されず、UD(Uni Direction、一方向に繊維の方向を揃えたもの)、クロス(経糸と緯糸とが交差したもの)、疑似等方性などの配置を、任意に選択することができる。
【0049】
強化繊維複合樹脂は、フィルムスタック法や押出成形法などの公知の製造方法により、製造することができる。具体的には例えば、上述した本発明の樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物をTダイ等によりシート状に押出して、そのシート状の樹脂組成物に強化繊維を埋設し、その後、温度および/または圧力をかける冷熱プレスを行うことにより、強化繊維中に樹脂組成物が含浸されるとともに強化繊維が樹脂組成物により被覆されてなる強化繊維複合樹脂を得ることができる。温度をかける場合の温度は、材料により適宜選択することができる。圧力をかける場合の圧力は、例えば、0.5~50MPaである。
【0050】
強化繊維複合樹脂の用途については限定されないが、特に、剛性およびエネルギー吸収性の要求される用途において好適である。このような用途としては、例えば、自動車(例えば、ボディ)、電車などの車両用部品;航空機用部品;防振部品;吸音・遮音材;建築材料;風力発電などの発電における発電装置部品;家電部品、OA機器部品;圧力容器;水素タンクなどが挙げられる。
【0051】
強化繊維複合樹脂は、強化繊維と、この強化繊維を被覆する樹脂組成物と、からなるシート状に形成して、このシート状の強化繊維複合樹脂を複数層で積層した積層体として用いることもでき、これにより、高い剛性と、高いエネルギー吸収性とを両立することができる。このような積層体は、例えば、シート状の強化繊維複合樹脂を直接、または、樹脂層などを介して、2~100層、特には16~40層程度で積層したものとすることができる。ここで、シート状の強化繊維複合樹脂において強化繊維が一方向に配向している場合には、隣接する強化繊維複合樹脂の層間において、強化繊維の配向方向は、同じでもよいし、異なっていてもよい。隣接する強化繊維複合樹脂の層間で強化繊維の配向方向が同方向である場合、応力集中を回避することができるため好ましい。また、積層体を形成する各強化繊維複合樹脂の構造は、同じでもよいし、異なっていてもよい。このような積層体は、強化繊維複合樹脂を直接、または、樹脂層などを介して積層して、温度および/または圧力をかける冷熱プレスを行うことにより、製造することができる。
【実施例0052】
以下、具体的な実施例を用いて、本発明を、より詳細に説明する。
【0053】
下記の表1中に示す配合にて、各成分を130℃で混合することにより、連続相を形成する樹脂成分を調製した。硬化剤および促進剤の配合量を変えることにより、樹脂組成物のTgに影響する連続相の樹脂成分のTgがどのように変化するかを評価した。得られた樹脂成分についてTgを測定した結果を、表1中に併せて示す。
【0054】
(Tgの測定方法)
各樹脂成分について、粘弾性評価装置(ARES)を用いて、歪0.05%、周波数10Hz、昇温速度4℃/minの条件で、tanδのピーク温度を計測した。このピーク温度をTgとした。
【0055】
【0056】
*1)フェノキシ樹脂:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名:YP-70
*2)エポキシ樹脂:三菱ケミカル株式会社製、品名:JER1001
*3)硬化剤:酸無水物、東京化成工業株式会社製、品名:無水ピロメリット酸
*4)促進剤:東京化成工業株式会社製、品名:2-フェニルイミダゾール
【0057】
結果として、硬化剤の配合量がTgに大きく影響する一方、促進剤の配合量はTgにほぼ影響しないことが確認できた。なお、実験例1では、促進剤が多すぎるために樹脂成分がゲル化し、作業性は悪化する結果となった。
【0058】
下記の表2,3中に示す配合にて、各成分を混合し、表中に示す温度で混練することにより、樹脂成分からなる連続相とエラストマー成分からなる分散相とを含む構造を有する樹脂組成物を調製した。連続相と分散相とは互いに非相溶であって海島構造を形成していた。硬化剤を配合せずに、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーの配合比率を変えることにより、エラストマー成分のドメインサイズがどのように変化するかを評価した。得られた樹脂組成物についてドメイン形成性を評価した結果を、表2,3中に併せて示す。
【0059】
(ドメイン形成性の評価方法)
各樹脂組成物について、硬化後におけるエラストマー成分のドメインサイズを測定することにより、下記の基準に従い、ドメイン形成性を評価した。
○:平均ドメインサイズが5μm以下である場合。
×:平均ドメインサイズが5μm超である場合。
【0060】
【0061】
*5)熱可塑性エラストマー:三井化学株式会社製、品名:DF640
*6)変性エラストマー:三井化学株式会社製、品名:MH7010
【0062】
【0063】
結果として、熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーの配合比率がドメインサイズに大きく影響することが確認できた。なお、上記ではオレフィン系エラストマーを使用しているが、本明細書中に列挙された他の種類の熱可塑性エラストマーおよび変性エラストマーにおいても、熱可塑性エラストマーと変性エラストマーとの配合比率と、ドメインサイズとは同じ関係性を示している。その理由としては、変性エラストマーは無変性エラストマーと連続相の樹脂成分との相溶性を増加させる役割を持つため、変性エラストマーの配合量の増加は、連続相の樹脂成分と無変性エラストマーとの間で働く相容化剤の増加を意味するためである。
【0064】
下記の表4中に示す配合にて、各成分を混合し、130℃で混練することにより、樹脂成分からなる連続相とエラストマー成分からなる分散相とを含む構造を有する樹脂組成物を調製した。連続相と分散相とは互いに非相溶であって海島構造を形成していた。得られた樹脂組成物について、表1~表3の試験結果から得た知見を踏まえ、Tgおよびドメイン形成性を評価した結果を、表4中に併せて示す。
【0065】
【0066】
結果として、本発明に係る条件を満足する実施例1~3の樹脂組成物においては、Tgを高く確保することができ、耐熱性および作業性を損なうことなくドメインサイズを適正に調整できることが分かった。これに対し、比較例1,2では、促進剤を含まないため作業性は良好であるものの、所望のドメインサイズが得られなかった。