(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069973
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】熱溶融転写型インクリボン
(51)【国際特許分類】
B41M 5/395 20060101AFI20230511BHJP
B41M 5/44 20060101ALI20230511BHJP
B41M 5/40 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B41M5/395 300
B41M5/44 310
B41M5/40 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021193636
(22)【出願日】2021-11-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年11月10日にダイニック株式会社埼玉工場から出荷した。
(71)【出願人】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 雅之
(72)【発明者】
【氏名】保科 敬則
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111BA03
2H111BA07
2H111BA53
2H111BA54
2H111BA63
(57)【要約】
【課題】高温環境下における環境保存性能に優れていて、高温環境下において印字を行っても印字画像に面状剥離が発生し難く、さらに印字感度が良好な熱溶融転写型インクリボンを提供する事が主たる課題である。
【解決手段】基材フィルム2の一方の面に耐熱滑性層3を設け、他方の面に転写制御層4とインク層5とを順次積層して設けた熱溶融転写型インクリボン1であって、インク層5が着色成分とバインダー成分とを含有し、インク層5のバインダー成分が、融解ピーク温度60℃以上のエチレン系共重合樹脂と、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子と、粘着付与樹脂とを含有し、転写制御層4が、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を転写制御層全体の50質量%以上95質量%以下の範囲で含有し且つ融解ピーク温度100℃以上のカルボン酸変性ポリオレフィンを転写制御層全体の5質量%以上50質量%以下の範囲で含有する熱溶融転写型インクリボン1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に耐熱滑性層を設け、他方の面に転写制御層とインク層とを順次積層して設けた熱溶融転写型インクリボンであって、
インク層が、着色成分とバインダー成分とを含有し、
インク層のバインダー成分が、融解ピーク温度60℃以上のエチレン系共重合樹脂と、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子と、粘着付与樹脂とを含有し、
転写制御層が、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を転写制御層全体の50質量%以上95質量%以下の範囲で含有し且つ融解ピーク温度100℃以上のカルボン酸変性ポリオレフィンを転写制御層全体の5質量%以上50質量%以下の範囲で含有する熱溶融転写型インクリボン。
【請求項2】
インク層が、インク層のバインダー成分である脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子をインク層全体の5質量%以上30質量%以下の範囲で含有する請求項1に記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項3】
インク層が、インク層のバインダー成分であるエチレン系共重合樹脂をインク層全体の20質量%以上50質量%以下の範囲で含有する請求項1又は請求項2に記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項4】
転写制御層が含有する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径が0.1μm以上5.0μm以下の範囲である請求項1~3のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項5】
インク層のバインダー成分であるエチレン系共重合樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項6】
インク層のバインダー成分である脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子が、フィッシャートロプシュワックス微粒子及びポリエチレンワックス微粒子の少なくとも一方からなる請求項1~5のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項7】
転写制御層が含有する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子が、フィッシャートロプシュワックス微粒子及びポリエチレンワックス微粒子の少なくとも一方からなる請求項1~6のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項8】
転写制御層が含有する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子が、フィッシャートロプシュワックス微粒子からなる請求項1~7のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項9】
転写制御層が含有するカルボン酸変性ポリオレフィンがカルボン酸変性ポリプロプレンである請求項1~8のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項10】
インク層のバインダー成分の粘着付与樹脂が、スチレン系粘着付与樹脂である請求項1~9のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下における環境保存性能と印字品質に優れ、さらに印字感度が良好な熱溶融転写型インクリボンに関する。
【背景技術】
【0002】
基材フィルム上に少なくとも顔料等の着色成分と各種ワックスや樹脂などのバインダー成分を含有するインク層を設けた熱溶融転写型インクリボンは、熱転写プリンタに装填されて用いられ、オフィスや工場や物流倉庫などで表示ラベルや管理用ラベルなどに文字情報やバーコード等を印字する用途で幅広く用いられている。
【0003】
熱転写プリンタは、オフィス用プリンタと比較して、シンプルな構造で出来ている事などから、メンテナンス性に優れ、故障し難く、さらにプリンタの大きさをコンパクトにする事が可能である等の理由から、様々な場所や環境下で幅広く用いられている。
【0004】
しかしながら、例えば、夏場の空調のあまり効いていない場所や、食品製造ラインなどのように、特に気温が高い環境下においては、熱転写プリンタを設置しているだけでも、熱転写プリンタ内部に装填した熱溶融転写型インクリボンにブロッキング現象が発生したり、熱溶融転写型インクリボンのインク層や転写制御層が軟化・変形する事などが原因で印字品質が悪化したりといった熱溶融転写型インクリボンの環境保存性能の問題が発生する事があった。
【0005】
さらに前述したような高温環境下において、熱転写プリンタを用いて連続印字を行うと、印字の際に発生した熱が放熱されずにサーマルヘッドに蓄熱し、その熱が原因で印字画像に面状剥離と呼ばれる印字品質の問題も発生し易くなる傾向があった。
【0006】
面状剥離について説明すると、面状剥離は
図2に示されるように、本来形成予定であった印字画像7aの被印字媒体6の搬送方向の反対側に鱗片状・波状に不均一に形成された印字画像7bの事を指し、印字画像7aが被印字媒体6に対してしっかり転写して接着しているのに対し、面状剥離した部分7bは被印字媒体6に対して通常は転写していてもしっかり接着していない、もしくは全く接着していない。この面状剥離が発生すると、文字情報などの印字においては外観上見た目が悪いだけでなくその状態が酷い場合には文字を認識出来なくなり、バーコードなどの印字においてはバーコードの読み取り不良が発生するなどの印字品質上の不具合が発生するだけでなく、面状剥離した部分が取れて飛散する事によって被印字媒体や周囲環境を汚染するなどの問題も発生する。
【0007】
熱転写プリンタによって行われる一般的な印字の仕組みの一例を説明すると、
図3に示すように被印字媒体6と熱溶融転写型インクリボン1は熱転写プリンタのサーマルヘッド8とプラテンロール9の間に挟まれて圧着された状態で熱転写プリンタにセットされる。印字の際にはサーマルヘッド8によって印字画像形成する部分の転写制御層4とインク層5が加熱されて軟化・溶融し、それらが被印字媒体6の表層部に対して濡れたり浸み込んだりした後に冷却されある程度固化したタイミングで熱溶融転写型インクリボン1と被印字媒体6が剥離される事によって被印字媒体6に転写制御層4とインク層5からなる印字画像が形成される。
【0008】
正常な印字の際には、
図3のA-B間の転写制御層4とインク層5がサーマルヘッド8によって過熱されてしっかり軟化・溶融し、最も接着力が弱くなる転写制御層4と基材フィルム2との界面付近で層間剥離が発生して
図3のA-B間の転写制御層4とインク層5だけが被印字媒体6に転写され、つまりは
図3の7aの部分の本来形成予定であった印字画像だけが形成される。
【0009】
しかしながら面状剥離が発生する印字の際には、サーマルヘッド8が
図3のA-B間でしか加熱をしていないにも関わらず、何らかの理由で印字の際にサーマルヘッド8に蓄積された熱によって、少なくとも
図3のB-C間の基材フィルム2に近い側の転写制御層4だけが軟化・溶融されるがインク層5は軟化・溶融しない、もしくはB-C間の転写制御層4とインク層5とが不完全に軟化・溶融する状態が発生する事が原因となり、熱溶融転写型インクリボン1と被印字媒体6を剥離する際に、本来形成予定の印字画像7aに引っ張られる形で
図3のB-C間の転写制御層4とインク層5の一部が面状剥離部分である印字画像7bとして転写される。この印字画像7bの部分は、印字画像7aの部分に無理やり引っ張られる形で転写されており、
図3のCの位置で転写制御層4やインク層5は機械的に無理やり破断されている為にその破断面は鱗片上・波状といった様に不均一に形成される。また
図3のB-C間のインク層5は、全く軟化・溶融されていない、もしくは不完全に軟化・溶融しかされてない為に、被転写媒体6に対して転写はしているものの、全く接着していない、もしくはしっかり接着をしていない。このような面状剥離が発生すると、上述したような印字品質の問題や汚染の問題を引き起こす為に、従来から改善が求められていた。
【0010】
このような問題を改善する為に、特許文献1では、基材フィルムの一方の面に耐熱滑性層を設け、他方の面に転写制御層とインク層を順次積層して設けた熱溶融転写型インクリボンであって、インク層がガラス転移点50℃以上110℃以下の熱可塑性樹脂を含有し、さらに転写制御層が融解ピーク温度110℃以上135℃以下で且つ融解ピーク温度と補外融解開始温度の温度差が10.0℃以内である高密度ポリエチレンワックスからなる微粒子を50質量%以上含有した熱溶融転写型インクリボンが提案されている。
【0011】
特許文献1で提案されている熱溶融転写型インクリボンを用いれば、高温環境下における環境保存性能に優れていて、さらに高温環境下において印字を行った場合に印字画像に面状剥離が発生し難くなるが、その一方で、インク層に添加する比較的高いガラス転移点を持つ熱可塑性樹脂の添加量が多くなったり、転写制御層の主成分として添加される特定の溶融特性を示す高融点の高密度ポリエチレンワックスの添加量が多くなったりすると、印字感度が悪くなって良好な印字品質を維持可能な印字エネルギーの範囲が比較的狭くなる傾向があり、その結果として、熱転写プリンタの種類や、印字を行う環境によっては、印字が掠れるなどの不具合が発生する事があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、高温環境下における環境保存性能に優れていて、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生し難く、さらに印字感度が良好な熱溶融転写型インクリボンを提供する事が主たる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決する為に、本発明者が検討を行った結果、基材フィルムの一方の面に耐熱滑性層を設け、他方の面に転写制御層とインク層とを順次積層して設けた熱溶融転写型インクリボンであって、インク層が、着色成分とバインダー成分とを含有し、インク層のバインダー成分が、融解ピーク温度60℃以上のエチレン系共重合樹脂と、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子と、粘着付与樹脂とを含有し、転写制御層が、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を転写制御層全体の50質量%以上95質量%以下の範囲で含有し且つ融解ピーク温度100℃以上のカルボン酸変性ポリオレフィンを転写制御層全体の5質量%以上50質量%以下の範囲で含有する熱溶融転写型インクリボンを用いる事によって、50℃の高温環境下における環境保存性能に優れていて、40℃の高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生し難く、さらに印字感度も良好になる事を見出した。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱溶融転写型インクリボンを用いれば、高温環境下において保存を行ってもブロッキング現象や印字品質の悪化などの環境保存性能の問題が発生し難く、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離などの印字品質の問題も発生し難く、さらに印字感度が良好であるので、様々なプリンタや様々な環境下において使用しても印字感度に起因する不具合が発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の熱溶融転写型インクリボンの実施形態の一例を示す模式的断面図。
【
図2】面状剥離について説明する為の印字画像の模式的平面図。
【
図3】面状剥離について説明する為の熱転写プリンタのサーマルヘッド周辺部を横から見た時の模式図。
【0017】
本発明の熱溶融転写型インクリボン1は、
図1に示すように基材フィルム2の一方の面に耐熱滑性層3を設け、他方の面に転写制御層4とインク層5を順次積層して設けた構造をしている。
【0018】
<<熱溶融転写型インクリボンの各構成体>>
次に本発明における熱溶融転写型インクリボンの各構成体についての詳細を下記に示す。
【0019】
<基材フィルム>
本発明に使用される基材フィルムとしては、ある程度の耐熱性と強度を有するものであれば特に限定される事はなく、従来公知の材料を適宜選択して用いる事が出来る。このような耐熱性を有した基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用する事が最も好ましい。基材フィルムの厚みは特に限定はされないが、強度・耐熱性・熱伝導性が適切になるように材料に応じて適宜考慮し、2μm以上12μm以下の範囲であれば良いが、熱伝導性が良好であるという理由から3μm以上6μm以下の範囲がより好ましい。
【0020】
<耐熱性滑性層>
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、印字の際のサーマルヘッドの熱によって、基材フィルムが破断したり、基材フィルムがサーマルヘッドに融着したり、基材フィルムにシワが発生したり、サーマルヘッドに異物が蓄積するのを防止したり、基材フィルムとサーマルヘッド間の滑り性が悪化するスティッキング現象が発生する事を防止する為に、基材フィルムの一方の面(印字の際にサーマルヘッドが接触する側の面)に耐熱滑性層を設ける。耐熱滑性層は、耐熱滑性層用の塗料を、各種公知の塗装機などを用いて基材フィルムに塗布した後に熱風乾燥機などで乾燥して設けても良いし、基材フィルムの成膜時に同時に設ける方法を採っても良い。
【0021】
本発明の耐熱滑性層に使用する原料としては、特に限定はされないが、例えば各種シリコーン変性樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂などの公知の各種耐熱性樹脂を主原料として、さらに各種公知の接着性樹脂(例えばポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等)や、各種公知の架橋剤や、各種公知の滑剤(例えば高級脂肪酸の誘導体やその金属塩、各種ワックス、シリコーンオイル、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、液状ポリオレフィン等)や、各種有機無機フィラー等をその他の原料として、要求品質に応じて適宜適切に選択して使用する事が出来る。
【0022】
耐熱滑性層の乾燥後の塗布量は特に限定されず、使用状況やプリンタの種類などに応じて0.01g/m2以上0.50g/m2以下の範囲から適宜選択して決定すれば良いが、コスト面や性能の安定性の理由から0.05g/m2以上0.40g/m2以下の範囲がより好ましい。耐熱滑性層の乾燥後の塗布量が0.01g/m2未満になると期待される耐熱性の効果が得られなくなり、逆に耐熱滑性層の乾燥後の塗布量が0.5g/m2以上になると印字の際の感度が悪化したり、耐熱滑性層が基材フィルムから脱落してしまう現象である箔落ちの問題が発生したりする傾向にある。
【0023】
<転写制御層>
本発明では、基材フィルムとインク層の間に、基材フィルムとインク層の間の剥離力及び印字のキレ等を制御する為の転写制御層を設ける。本発明の転写制御層は通常の転写制御層の役割に加えて、高温環境下における環境保存性能に悪影響を与えず、さらに高温環境下において印字を行った際に印字画像に面状剥離が発生する事を抑制するような性能を満たす転写制御層である必要がある。
【0024】
本発明者が前述した性能を満足させる為に転写制御層に添加する剥離性を付与する為の熱融解性物質を検討した結果、比較的高融点で、融点付近でのシャープな融解特性を有していて、不純物の含有が少なく、さらに融解時に他の層との離型性が非常に良好な熱融解性物質を添加する事が好ましい事が分かった。この様な熱融解性物質をさらに精査した結果、脂肪族系炭化水素合成ワックスを転写制御層に主成分として添加する事が最も好ましい事が分かった。前記脂肪族系炭化水素合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、数平均分子量が10000以下のオレフィン共重合体(例えば、エチレン-ポリプロピレン共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体)や、フィッシャートロプシュワックスなどが挙げられるが、印字感度や離型性が良好で、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を抑制する効果に優れているといった観点から、フィッシャートロプシュワックス及びポリエチレンワックスの少なくとも一方を添加する事がより好ましく、フィッシャートロプシュワックスを添加する事が最も好ましい。
【0025】
転写制御層に添加する上記脂肪族系炭化水素合成ワックスは、転写制御層自体の箔切れ性を向上させる事によって印字画像に面状剥離が発生する事をより効果的に抑制する事が可能となる事から、転写制御層中に分散させて存在させる事が好ましく、本発明の転写制御層に添加する上記脂肪族系炭化水素合成ワックスは、微粒子状に加工された状態で使用される。この様な脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子としては、水を主分散媒として用い、分散媒中に脂肪族系炭化水素合成ワックスを微粒子化した状態で分散させたエマルジョンやディスパージョンを使用する事が好ましい。脂肪族系炭化水素合成ワックスを転写制御層中に微粒子状で分散させて添加する事によって、微粒子の部分とその他の部分との構造的な差異や、接着力の差異や、融解ピーク温度の差異を設ける事によって、印字の際の他の層との間の離型性を容易にコントロールしたり、転写制御層の箔切れ性をより向上させたりする事が可能となり、その結果として印字画像における面状剥離の発生をより効果的に抑制する事が可能となる。
【0026】
前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径については、0.1μm以上10.0μm以下の範囲が好ましく、0.1μm以上5.0μm以下の範囲である事がより好ましい。脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径が前記範囲内であれば、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を効果的に抑制可能であるだけでなく、インク層と転写制御層の間の界面が適度に平滑になる為に、インク層と転写制御層の間の剥離力が適度になり、インク層の転写性が良好で且つインク層の箔落ちなどの問題が発生し難くなる傾向がある。なお本発明における前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径については、転写制御層を電子顕微鏡で10000倍に拡大して撮影し、撮影画像からランダムに任意の20個の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を選択して、各々の微粒子の最大径を測定し、その平均を求める事によって算出する。
【0027】
さらに本発明者が転写制御層に添加する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の熱特性について検討を行った結果、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の示差走査熱量測定法によって測定した融解ピーク温度(JIS K7121)が100℃以上である事が好ましい事を見出した。本発明者が検討を行った結果、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が100℃以上であれば、50℃の高温環境下において脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子が容易に軟化しない為に、転写制御層自体の軟化・変形を抑制可能である事などから、高温環境下における環境保存性能を向上させる効果があり、同時に40℃の高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を抑制する効果がある事が分かった。一方で脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が100℃を下回ると、印字の際に逆転写現象が発生し易くなり印字の転写性が悪化し易くなる傾向があり、また50℃の高温環境下において脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子が次第に軟化し始めるようになった結果、転写制御層が軟化・変形して環境保存性能が悪化する傾向があり、さらに高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が特に発生し易くなる傾向があった。
【0028】
前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度の上限については特に限定はされないが、印字感度や転写性の観点から、140℃以下が好ましく、130℃以下である事がより好ましい。逆に脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が前記上限を超えていくと、印字の際に必要な熱量が多く必要になったり、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の溶融粘度が高くなったりする事が原因で次第に印字感度や印字の転写性が悪くなる事が原因で、熱転写プリンタで適切な印字が行える印字エネルギーの幅が狭くなったり、低温環境下において印字カスレなどの問題等が発生し易くなったりする傾向がある。
【0029】
転写制御層に添加する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量は、少なくとも転写制御層全体の50質量%以上添加する事が好ましく、65質量%以上添加する事がより好ましい、逆に添加量の上限としては、転写制御層全体の95質量%以下添加する事が好ましく、85質量%以下添加する事がより好ましい。前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量が上記範囲内であれば、高温環境下における環境保存性能が良好で、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を効果的に抑制する事が可能となる。前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量が前記範囲の下限を下回ると、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が悪化し易くなる傾向があり、逆に前記範囲の上限を超えると、基材フィルムとの接着が急激に低下する事などから、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が急激に悪化したり、インク層や転写制御層の箔落ちが発生し易くなったりする傾向がある。
【0030】
本発明の転写制御層は、熱融解性物質である脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を主成分として含有するが、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子だけでは、基材フィルムと転写制御層との間の接着力や、インク層と転写制御層との間の接着力が不足する事によって、インク層や転写制御層の箔落ちの問題が発生し易くなったり、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が非常に悪化したりする傾向がある。その為に、本発明の転写制御層には脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の他に、接着性を有した熱可塑性樹脂を添加する事が好ましい。
【0031】
本発明の転写制御層に添加する接着性を有した熱可塑性樹脂としては、適度な接着性を有していて印字の転写性に悪影響を与えず、さらに高温環境下における環境保存性能に悪影響を与えず、さらに高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生しないような特性を有した熱可塑性樹脂を使用する事が好ましい。この様な熱可塑性樹脂について本発明者が検討した結果、カルボン酸変性ポリオレフィンを用いる事が好ましい事を見出した。
【0032】
本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンとは、少なくとも1種類以上の各種不飽和カルボン酸またはその無水物によって変性されたポリオレフィンの事をいう。前記カルボン酸変性ポリオレフィンの重合方法は特に限定されず、ポリオレフィン(オレフィン重合体またはオレフィン共重合体)に不飽和カルボン酸またはその無水物を共重合成分として共重合させたブロック共重合体やランダム共重合体であってもいいし、不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィンにグラフトさせて得られるグラフト共重合体であってもよい。
【0033】
前記カルボン酸変性ポリオレフィンの主構成物であるポリオレフィンとは、各種オレフィン重合体及び各種オレフィン共重合体の事を指し、本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンの原料として使用できるポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンまたはプロピレンと各種α-オレフィン(例えば1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン)の共重合体が挙げられ、これらを要求品質に応じて好適に選択して使用する事が可能である。
【0034】
本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンを構成する不飽和カルボン酸及びその無水物としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アニコット酸、アクリル酸、メタクリル酸、及び前記不飽和カルボン酸の無水物などが挙げられ、これらを要求品質に応じて好適に使用する事が可能であるが、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸を用いる事がより好ましい。ポリオレフィンをカルボン酸変性する事によって、ポリオレフィンに接着性を付与する事が可能となる。
【0035】
本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンに関して、カルボン酸変性ポリオレフィンを構成する不飽和カルボン酸及びその無水物の割合は特に限定はされないが、カルボン酸変性ポリオレフィン全体の0.1質量%以上20.0質量%以下である事が好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下の範囲である事がより好ましく、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲である事が最も好ましい。
【0036】
前記カルボン酸変性ポリオレフィンは、必要に応じてさらに不飽和カルボン酸の誘導体によって変性してもよい。前記不飽和カルボン酸誘導体としては、各種不飽和カルボン酸エステル、各種不飽和カルボン酸アミドなどが挙げられるが、不飽和カルボン酸エステルを使用する事がより好ましい。前記不飽和カルボン酸エステルとしては、各種フマル酸エステル、各種マレイン酸エステル、各種イタコン酸エステル、各種シトラコン酸エステル、各種アニコット酸エステル、各種アクリル酸エステル、各種メタクリル酸エステルなどが挙げられ、これらを要求品質に応じて好適に使用する事が可能であるが、各種アクリル酸エステル、各種メタクリル酸エステルを用いる事がより好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンを不飽和カルボン酸誘導体でさらに変性する事によって、他の樹脂等との相溶性を向上させたり、接着性をさらに付与させたりする効果が得られる事が期待できる。
【0037】
本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンに関して、カルボン酸変性ポリオレフィンを構成する不飽和カルボン酸誘導体の割合は特に限定はされないが、カルボン酸変性ポリオレフィン全体の0.1質量%以上30.0質量%以下である事が好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下の範囲である事がより好ましい。
【0038】
本発明の転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンについて本発明者が検討したところ、カルボン酸変性ポリエチレン又はカルボン酸変性ポリプロピレンを使用する事がより好ましく、カルボン酸変性ポリプロピレンを使用する事が最も好ましい事を見出した。特に転写制御層にカルボン酸変性ポリプロピレンを添加すると、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事をより効果的に抑制する事が可能である事を発明者は見出した。なお本発明における前記カルボン酸変性ポリエチレン中のポリオレフィン成分としては、ポリエチレン、もしくはエチレン・α-オレフィン共重合体のうちα-オレフィンモノマーを10mol%以下含有するものまでを含む。同様に本発明における前記カルボン酸変性ポリプロピレン中のポリオレフィン成分としては、ポリプロピレン、もしくはプロピレン・α-オレフィン共重合体のうちα-オレフィンモノマーを10mol%以下含有するものまでを含む。
【0039】
本発明者が、転写制御層に添加するカルボン酸変性ポリオレフィンの熱特性について検討を行った結果、カルボン酸変性ポリオレフィンの示差走査熱量測定法によって測定した融解ピーク温度が100℃以上である事が好ましく、110℃以上である事がより好ましい事を見出した。カルボン酸変性ポリオレフィンの融解ピーク温度が100℃以上であれば、50℃の高温環境下においてカルボン酸変性ポリオレフィンがほぼ軟化しない為に転写制御層自体の軟化・変形が発生しなくなり、結果的に50℃の高温環境下における環境保存性能を向上させ、同時に40℃の高温環境下において印字を行った際の印字画像における面状剥離の発生を抑制する効果を大きく向上させる事が可能となる。逆にカルボン酸変性ポリオレフィンのピーク温度が100℃を下回ると、50℃の高温環境下における環境保存性能が次第に悪化し、特に高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が急激に悪化する傾向がある。
【0040】
前記カルボン酸変性ポリオレフィンの融解ピーク温度の上限は特に限定はされないが、印字感度の観点から165℃以下である事が好ましく、150℃以下である事がより好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンの融解ピーク温度の上限が前記範囲内であれば、印字感度や高温環境下における環境保存性能が良好で、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を効果的に抑制する事が可能である。
【0041】
本発明者が、転写制御層に添加する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子とカルボン酸変性ポリオレフィンの熱特性についてさらに検討を行った結果、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度よりもカルボン酸変性ポリオレフィンの融解ピーク温度の方が高い方が、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事をより効果的に抑制する事が可能である事を見出した。
【0042】
前記カルボン酸変性ポリオレフィンの転写制御層への添加量は、少なくとも転写制御層全体の5質量%以上添加する事が好ましく、15質量%以上添加する事がより好ましい。逆に添加量の上限としては、転写制御層全体の50質量%以下添加する事が好ましく、35質量%以下添加する事がより好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンの添加量が上記範囲内であれば高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事の抑制に充分な効果が発現するようになるだけでなく、印字の転写性が良好で且つインク層や転写制御層の箔落ちの抑制も良好となる。カルボン酸変性ポリオレフィンの添加量が前記範囲の下限を下回ると、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生し易くなったり、インク層や転写制御層の箔落ちが発生し易くなったりする傾向があり、逆にカルボン酸変性ポリオレフィンの添加量が前記範囲の上限を超えると、高温環境下における環境保存性能や印字の転写性がしだいに悪化する傾向がある。
【0043】
本発明の転写制御層には上述した脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子やカルボン酸変性ポリオレフィンの他に、各種公知の有機・無機フィラーや界面活性剤や粘度調整剤や帯電防止剤等の各種添加剤を転写制御層の要求品質を損なわない程度に必要に応じて適宜少量添加しても構わない。
【0044】
本発明の転写制御層の乾燥後の塗布量は特に限定されず、0.1g/m2以上1.0g/m2以下の範囲から適宜選択すればよいが、印字感度や転写性を考慮して0.2g/m2以上0.8g/m2以下の範囲から選択する事がより好ましい。転写制御層の乾燥後の塗布量が0.1g/m2未満だと転写制御層と基材フィルムの界面で剥離が適切に行うことが出来ずに転写不良が発生する傾向があり、逆に転写制御層の乾燥後の塗布量が1.0g/m2を超えると、インク層や転写制御層の箔落ちが発生し易くなったり、印字感度が悪化したりする傾向がある。
【0045】
<インク層>
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、基材フィルムの上に設けられた転写制御層の上の最外層として、少なくともカーボンブラックなどの各種公知の有機・無機顔料などの着色成分と熱可塑性樹脂や各種公知のワックスなどのバインダー成分を少なくとも含むインク層を設ける。着色剤の添加量は特に限定はされないが、使用状況に応じてインク層全体の10質量%以上50質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下の範囲から適宜使用する事が好ましい。添加量が10質量%未満であると、印字物の印字濃度が十分でなく、50質量%を超えると印字の転写性に悪影響する傾向がある。
【0046】
本発明のインク層に添加されるバインダー成分について本発明者が検討した結果、印字感度や印字の転写性やラベル等の被転写媒体に対する印字画像の接着性を向上させる観点から、比較的低融点の接着性樹脂を添加する事が好ましく、加えて上述した転写制御層との相性を加味した結果、エチレン系共重合樹脂を使用する事が好ましい事を見出した。
【0047】
本発明のインク層に添加されるエチレン系共重合樹脂とは、エチレン成分を主構成成分として有する共重合体であって、前記エチレン系共重合体として特に好適に使用する事が好ましい物としては、エチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-プロピル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-ブチル(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン-(メタ)アクリレート共重合樹脂や、エチレン-(メタ)アクリルアミド共重合樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を使用する事が好ましく、さらに前記各種共重合樹脂を各種カルボン酸や無水マレイン酸などで変性したものを使用する事も可能である。さらに発明者が検討を行った結果、インク層に添加されるエチレン系共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を使用する事が最も好ましい事を見出した。なお前記「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」を包含する技術用語である。
【0048】
本発明のインク層に添加されるエチレン系共重合樹脂は、主構成成分のエチレンと、酢酸ビニルや各種(メタ)アクリレートなどのエチレンと共重合する他の構成成分と、からなり、本発明で使用するエチレン系共重合樹脂においては、前記他の構成成分の割合が少なくともエチレン系共重合樹脂全体の5質量%以上あるものが好ましく、10質量%以上あるものがより好ましく、20質量%以上あるものが最も好ましい。逆にエチレン系共重合樹脂全体におけるエチレンと共重合する他の構成成分の割合は、少なくともエチレン系共重合樹脂全体の40質量%以下ある事が好ましく、30質量%以下である事がより好ましい。エチレンと共重合する他の構成成分の割合が前記範囲内であれば、印字感度や印字の転写性や被転写媒体に対する印字画像の接着が良好となり、さらに高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生し難くなる傾向がある。
【0049】
本発明のインク層に添加されるエチレン系共重合樹脂の熱的特性について本発明者が検討した結果、エチレン系共重合樹脂の示差走査熱量測定法によって測定した融解ピーク温度の下限は60℃以上である事が好ましく、70℃以上である事がより好ましい。逆にエチレン系共重合樹脂の融解ピーク温度の上限は110℃以下である事が好ましく、90℃以下である事がより好ましい。エチレン系共重合樹脂の融解ピーク温度が前記範囲内であれば、印字感度や印字の転写性が良好で、被印字媒体に対する印字画像の接着性も良好となるだけでなく、50℃の高温環境下における環境保存性能が大きく悪化せず、40℃の高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離も大きく悪化しない。一方でエチレン系共重合樹脂の融解ピーク温度が前記範囲の下限を下回ると、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が急激に悪化し、またエチレン系共重合樹脂の融解ピーク温度が前記範囲の上限を上回ると、印字感度や印字の転写性が急激に悪化し、結果的に被印字媒体に対する印字画像の接着性も悪化する。
【0050】
前記エチレン系共重合樹脂のインク層への添加量の下限は、インク層全体の20質量%以上である事が好ましく、25質量%以上である事がより好ましい。逆に前記エチレン系共重合樹脂のインク層への添加量の上限は、インク層全体の50質量%以下である事が好ましく、40質量%以下である事がより好ましい。エチレン系共重合樹脂のインク層への添加量が前記範囲内であれば、印字感度や印字の転写性が良好で、被印字媒体に対する印字画像の接着性も良好となるだけでなく、50℃の高温環境下における環境保存性能が大きく悪化せず、40℃の高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離も大きく悪化しない。一方でエチレン系共重合樹脂のインク層への添加量が前記範囲の下限を下回ると、印字感度や印字の転写性が悪化し、結果的に被印字媒体に対する印字画像の接着性も悪化する傾向があり、またエチレン系共重合樹脂のインク層への添加量が前記範囲の上限を上回ると、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が悪化する傾向がある。
【0051】
本発明のインク層のバインダー成分として上述したエチレン系共重合樹脂を添加する事によって、印字感度や印字の転写性を向上する事が可能となるが、一方でエチレン系共重合樹脂を添加すると、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離に関しては良好な傾向を示さない為に、インク層のバインダー成分としてエチレン系共重合樹脂だけを用いると、50℃の高温環境下における環境保存性能は満足するものとならず、40℃の高温環境下において印字を行うと印字画像に激しく面状剥離が発生してしまう。この様な事から、本発明者がバインダー成分として他の原料を検討した結果、インク層のバインダー成分としてエチレン系共重合樹脂に加えて、印字感度を向上させ、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を抑制し、高温環境下における環境保存性能を向上させる為に、ワックスなどの熱融解性物質を添加する事が好ましく、特に融解ピーク温度が100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックスを添加する事がより好ましい事が分かった。さらに本発明者が検討を行った結果、インク層のバインダー成分として、融解ピーク温度が100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックスの微粒子を添加する事によって、高温環境下における環境保存性能の向上と、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を効果的に抑制させる事が可能となる事を見出した。
【0052】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の原料である脂肪族系炭化水素合成ワックスは、上述した転写制御層に添加する脂肪族系炭化水素合成ワックスと同じものを好適に使用する事が出来る。このような脂肪族系炭化水素合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、数平均分子量が10000以下のオレフィン共重合体(例えば、エチレン-ポリプロピレン共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体)や、フィッシャートロプシュワックスなどが挙げられるが、印字の転写性や、高温環境下における環境保存性能や、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離が発生する事を抑制する効果に優れているといった観点から、フィッシャートロプシュワックス及びポリエチレンワックスの少なくとも一方を添加する事がより好ましく、ポリエチレンワックスワックスを添加する事が最も好ましい。
【0053】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される前記脂肪族系炭化水素合成ワックスは、インク層自体の箔切れ性をよくする事によって印字画像における面状剥離の発生をより効果的に抑制する事が可能となる事などから、インク層中に分散させて存在させる事が好ましく、本発明のインク層に添加する前記脂肪族系炭化水素合成ワックスは、微粒子状に加工された状態で使用される。脂肪族系炭化水素合成ワックスをインク層中に微粒子状で分散させて添加する事によって、微粒子の部分とその他の部分との構造的な差異や接着力の差異や融解ピーク温度の差異を設ける事によって、印字の際の他の層との間の離型性を容易にコントロールしたり、インク層の箔切れ性をより向上させたりする事が可能となり、その結果として印字画像における面状剥離の発生をより効果的に抑制する事が可能となる。
【0054】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径については特に限定はされないが、1.0μm以上40.0μm以下の範囲が好ましく、2.0μm以上30.0μm以下の範囲である事がより好ましい。脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径が前記範囲内であれば、高温環境下における環境保存性能や、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離の抑制や、インク層の箔キレ性や、印字感度や、印字の転写性等に悪い影響が発現しない。特に前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径が、インク層の乾燥後の付着量と各原材料の密度から算出したインクの膜厚よりも大きくなる場合には、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子がインク層表面から突出する事により、高温環境下における環境保存性能(特に耐ブロッキング性能)は大幅に向上する。前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の平均粒子径については、インク層を電子顕微鏡で10000倍に拡大して撮影し、撮影画像からランダムに任意の20個の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を選択して、各々の微粒子の最大径を測定し、その平均を求める事によって算出する。
【0055】
本発明のインク層のバインダー成分として添加する前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の熱的特性について本発明者が検討した結果、脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の示差走査熱量測定法によって測定した融解ピーク温度の下限は100℃以上である事が好ましい。逆に脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度の上限は140℃以下である事が好ましく、130℃以下である事がより好ましい。前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が前記範囲内であれば、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離の抑制効果を向上させる事が可能となる。一方で前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が前記範囲の下限を下回ると、高温環境下における環境保存性能が悪化したり、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が悪化したりする傾向があり、逆に前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の融解ピーク温度が前記範囲の上限を上回ると、印字感度や印字の転写性や被印字媒体に対する印字画像の接着性が悪化する傾向がある。
【0056】
本発明のインク層のバインダー成分として添加する脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量は、少なくともインク層全体の5質量%以上添加する事が好ましく、10質量%以上添加する事がより好ましい、逆に添加量の上限としては、インク層全体の30質量%以下添加する事が好ましく、25質量%以下添加する事がより好ましい。前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量が上記範囲内であれば、高温環境下における環境保存性能を向上させたり、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離を効果的に抑制させたりする事が可能となる。一方で前記脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の添加量が前記範囲の下限を下回ると、高温環境下における環境保存性能や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が悪化し易くなる傾向があり、逆に前記範囲の上限を超えると、印字感度や、印字の転写性や、被印字媒体に対する印字画像の接着性が悪化する傾向がある。
【0057】
本発明のインク層のバインダー成分としては、上述したエチレン系共重合樹脂と脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の他に、さらに印字の転写性及び被印字媒体に対する印字画像の接着性を向上させ、さらにインク層の箔切れ性を向上させる効果を持った樹脂を添加する事が好ましい。前記効果を持つ樹脂としては、各種公知の粘着付与樹脂があげられ、例えばウッドロジン、ロジンエステル、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ピネン樹脂、ジペンテン樹脂、水添テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂、C5系炭化水素樹脂、C9系炭化水素樹脂、C5系/C9系炭化水素共重合樹脂、水素添加C5系炭化水素樹脂、水素添加C9系炭化水素樹脂、水素添加C5系/C9系炭化水素共重合樹脂、クロマン樹脂、クロマン・インデン樹脂、各種フェノール系粘着付与樹脂、各種スチレン系粘着付与樹脂、ケトン樹脂等が挙げられ、これらの粘着付与樹脂は、単独または複数組み合わせて適宜選択して使用することができる。
【0058】
前記粘着付与樹脂の中でも本発明のインク層のバインダー成分の粘着付与樹脂として特に好ましく用いる事が出来るものとしては、スチレン系粘着付与樹脂が挙げられる。スチレン系粘着付与樹脂としては、スチレン系モノマー重合体、α-メチルスチレン重合体、α-メチルスチレン・スチレン共重合体、スチレン系モノマーと脂肪族系炭化水素との共重合体、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸誘導体との共重合体、スチレン系モノマーと芳香族系炭化水素との共重合体、スチレン系モノマーとα-メチルスチレンと脂肪族系炭化水素との3元共重合体などからなる樹脂が挙げられる。インク層のバインダー成分の粘着付与樹脂としてスチレン系粘着付与樹脂を用いる事によって、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離を効果的に抑制させる事が可能となる事が分かった。
【0059】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される前記粘着付与樹脂としては、数平均分子量が数百~数千以下の比較的低分子量で、官能基をその構造内に多数有しており、他の樹脂に対する相溶性と、添加した層の粘・接着性を向上させる機能を持った樹脂を使用する事が好ましい。粘着付与樹脂をインク層に添加する事によって、顔料分散性や、印字感度や、印字の被転写媒体への転写性及び接着性や、インク層の箔切れ性を向上させる事が見込まれる。本発明に用いられる前記粘着付与樹脂としては、高温環境下における環境保存性能の向上や高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離を抑制する観点から、比較的高軟化点もしくは高ガラス転移点を有している粘着付与樹脂を使用する事が好ましい。
【0060】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される前記粘着付与樹脂の熱的特性について本発明者が検討した結果、前記粘着付与樹脂の示差走査熱量測定法で測定したガラス転移点は50℃以上110℃以下の範囲が好ましく、60℃以上90℃以下の範囲がより好ましい。また前記粘着付与樹脂の軟化点(環球法による軟化点 JIS K5601-2-2(1999))は110℃以上170℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは120℃以上160℃以下の範囲が好ましい。前記粘着付与樹脂のガラス転移点もしくは軟化点が前記範囲であれば、印字感度や高温環境下における環境保存性能に悪影響を与えず、さらに高温環境下における印字の際の面状剥離の発生を抑制する事が可能となる。
【0061】
本発明のインク層のバインダー成分として添加される粘着付与樹脂の添加量は、5質量%以上30質量%以下の範囲である事が好ましく、5質量%以上25質量%以下の範囲である事が好ましい。前記粘着付与樹脂の添加量が前記範囲内であれば、被印字媒体への転写性及び接着性が良好となり、高温環境下における環境保存性能に対しての悪影響が少なく、さらに高温環境下において印字を行った際の印字の面状剥離を効果的に抑制する事が可能となる。
【0062】
本発明のインク層には、上述した着色成分や、バインダー成分であるエチレン系共重合樹脂や脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子や粘着付与樹脂の他に、各種公知の有機・無機フィラーや界面活性剤や粘度調整剤や帯電防止剤等の各種添加剤をインク層の要求品質を損なわない程度に必要に応じて適宜少量添加しても構わない。
【0063】
本発明のインク層の乾燥後の塗布量は特に限定はされず、0.5g/m2以上2.0g/m2以下の範囲より要求品質に応じて適宜選択すれば良いが、コスト面や性能安定性の面から0.7g/m2以上1.5g/m2以下の範囲から適宜選択する事がより好ましい。インク層の乾燥後の塗布量が0.5g/m2未満であると充分な印字濃度及び耐擦過性が得られない傾向があり、逆に塗布量が2.0g/m2を超えると印字感度が悪化したり、インク層の箔切れ性が悪化する事に伴う印字画像の面状剥離が悪化したりする傾向がある。
【実施例0064】
次に実施例・比較例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0065】
<基材フィルム及び耐熱滑性層の形成方法について>
グラビア塗装機にて、厚み4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に下記に示す耐熱滑性層用塗料をグラビア塗装機にて塗布し、熱風乾燥機によって溶剤成分を揮発乾燥させて、乾燥後の付着量が0.2g/m2となるように耐熱滑性層を形成した。
(耐熱滑性層用塗料配合)
原料成分 質量%
・シリコーン変性ポリエステルポリウレタン系樹脂の
メチルエチルケトン/トルエン=1/1溶剤溶解液(固形分15質量%) 25.0
・メチルエチルケトン 60.0
・トルエン 15.0
上記耐熱滑性層用塗料は、メチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒と、メチルエチルケトンとトルエンの質量比が1:1の溶媒にシリコーン変性ポリエステルポリウレタン系樹脂を予め固形分が15質量%となるように溶解した溶解液とを、それぞれ上記配合に従って計量して容器に投入し、ディゾルバー等で攪拌混合する事によって作成される。上述した耐熱滑性層用塗料の作成方法や耐熱滑性層の形成方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。なお本発明の実施例及び比較例には全て前記耐熱性基材フィルム及び耐熱滑性層を用いた。
【0066】
<転写制御層の形成方法について>
本発明の実施例・比較例の転写制御層の詳細及び形成方法について下記に示す。
【0067】
本発明の実施例・比較例の転写制御層に使用する各熱融解性物質の詳細を表1に、各熱可塑性樹脂の詳細を表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
(転写制御層用塗料の作製方法)
表1に記載の各熱融解性物質を水中で乳化したエマルジョン原料と、表2に記載の各熱可塑性樹脂を水中で分散させたディスパージョン原料と、イソプロパノールを用いて、表3と表4に示す転写制御層用塗料1~13を作成した。なお前記エマルジョン原料やディスパージョン原料は上記表1や表2に示す組成物を固形分として含有している市販原料を適宜使用しても良いし、上記表1や表2に示す組成物を水中で乳化もしくは分散して作製した物を使用しても良い。具体的な転写制御層用塗料の作成方法としては、容器に表3と表4に示した配合量となるように各原料を計量後投入し、撹拌機によって充分に撹拌混合する事によって作製する。
【0071】
【0072】
【表4】
※上記の表3及び表4中の熱融解性物質の平均粒子径は、転写制御層を形成した後に、電子顕微鏡で拡大撮影した写真を元に測定及び計算した値である。
【0073】
(転写制御層の形成方法)
次に実施例・比較例で使用される転写制御層の形成方法について具体的に説明する。上述したPETフィルムの耐熱滑性層を設けた面の他方の面に表3及び表4に示す各転写制御層用塗料をグラビア塗装機によって塗布した後、熱風乾燥機によって塗料に含まれる水やイソプロパノールなどの分散媒成分を揮発乾燥させ、乾燥後の付着量が0.5g/m2となるように各転写制御層を形成した。なお前述した転写制御層用塗料の作製方法や転写制御層の形成方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。また、形成された各実施例・比較例の転写制御層中の各原料の固形分質量比率(転写制御層の構成物の質量比率)の詳細に関しては下記表9~11に別途記載する。
【0074】
<インク層の形成方法について>
本発明の実施例・比較例のインク層の詳細及び形成方法を下記に示す。
【0075】
本発明の実施例・比較例のインク層に使用する各接着性樹脂の詳細を表5に、各熱融解性物質の詳細を表6に、各粘着付与樹脂の詳細を表7に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
(インク層用塗料の作製方法)
まず密閉可能で攪拌と加熱が出来る容器の中にトルエンと表6に記載の熱融解性物質を質量比が「トルエン:熱融解性物質=9:1」となるように計量投入し、容器を密閉した後に攪拌しながら加熱することによって熱融解性物質をトルエンに完全に溶解させ、さらにその溶液を攪拌しながら徐々に冷却していく事によって熱融解性物質の微粒子をトルエン中に析出させる事によって、固形分10質量%の熱融解性物質のトルエン分散物を作成する。さらに別の密閉可能で攪拌と加熱が出来る容器の中に、トルエンと、表5に示す接着性樹脂と、表7に示す粘着付与樹脂とを、表8に示す質量比率となるように計量投入し、容器を密閉した後に撹拌しながら加熱する事によって接着性樹脂と粘着付与樹脂をトルエンに完全に溶解させた溶液を作成する。前記接着性樹脂と粘着付与樹脂とのトルエン溶液を室温まで冷却した後に、作製した前記熱融解性物質のトルエン分散物を表8に示す質量比率となるように計量投入した後に撹拌混合し、さらに表8に記載の他の原料を表8に示す質量比率となるように計量投入した後に撹拌混合して分散機による分散前の調整液を作成し、最後にビーズミルによって調整液を適宜必要な塗料状態までに分散する事によって、表8に示す各インク層用塗料の作成が完了する。
【0080】
【表8】
※上記の表8中の熱融解性物質の平均粒子径は、インク層を形成した後に、電子顕微鏡で拡大撮影した写真を元に測定及び計算した値である。
【0081】
(インク層の形成方法)
次に実施例・比較例で使用されるインク層の形成方法について具体的に説明する。上述したPETフィルム上に設けた転写制御層のさらに上層に表8に示す各インク層用塗料をグラビア塗装機によって塗布した後、熱風乾燥機によって塗料に含まれるトルエン・メチルエチルケトン・イソプロパノール等の分散媒・溶媒成分を揮発乾燥させ、乾燥後の付着量が1.0g/m2となるように各インク層を形成した。なお前述したインク層用塗料の作製方法やインク層の形成方法は一例でありこれに限定されず、各種公知の方法が使用可能である。また、形成された各実施例・比較例のインク層中の各原料の固形分質量比率(インク層の構成物の質量比率)の詳細に関しては下記表9~11に別途記載する。
【0082】
<<評価方法について>>
作製した下記表9~11に示す構成の実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを用いた印字試験条件及び各種評価方法について下記に示す。
【0083】
<印字試験条件>
実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを用いて下記の条件により各種印字試験を行った。
プリンタ: CL4NX-J (株式会社サトー製)
印字解像度: 305dpi
印字速度: 5inch/sec
印字濃度: 5/10、9/10
被印字媒体: PETラベル
【0084】
<(評価1)未環境保存試験品の印字感度の評価>
環境保存試験を行っていない実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを用いて、気温25℃の環境下において上記印字試験条件によって印字を行った際の各印字画像の状態を目視して印字感度の評価を以下に示す条件で評価した。
A・・・印字カスレは全く発生しない。
B・・・印字カスレが一部に僅かながら発生する。
C・・・印字カスレがほぼ全面に明確に発生する。
D・・・印字カスレが酷く印字がほとんど転写していない。
【0085】
<(評価2)未環境保存試験品の印字品質の評価>
環境保存試験を行っていない実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを用いて、気温25℃の環境下において上記印字試験条件によって印字を行った際の各印字画像の状態を目視して印字品質の評価を以下に示す条件で評価した。
A・・・印字画像に印字カケ及び面状剥離が全く発生していない。
B・・・印字画像の一部に僅かに印字カケ 及び/又は 面状剥離が発生している。
C・・・印字画像の一部に印字カケ 及び/又は 面状剥離がはっきり発生している。
D・・・印字画像のほぼ全面に酷い印字カケ 及び/又は 面状剥離が発生している。
【0086】
<(評価3)環境保存試験品の印字感度の評価>
実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを気温50℃湿度80%RHに設定した恒温槽内の雰囲気中に96時間静置保存する環境保存試験を行った後に、気温25℃の室温環境下において24時間静置した熱溶融転写型インクリボンを用いて、気温25℃の環境下において上記印字試験条件によって印字を行った際の各印字画像の状態を目視して印字感度の評価を以下に示す条件で評価した。
A・・・印字カスレは全く発生しない。
B・・・印字カスレが一部に僅かながら発生する。
C・・・印字カスレがほぼ全面に明確に発生する。
D・・・印字カスレが酷く印字がほとんど転写していない。
【0087】
<(評価4)環境保存試験品の印字品質の評価>
実施例・比較例の熱溶融転写型インクリボンを気温50℃湿度80%RHに設定した恒温槽内の雰囲気中に96時間静置保存する環境保存試験を行った後に、気温25℃の室温環境下において24時間静置した熱溶融転写型インクリボンを用いて、気温25℃の環境下において上記印字試験条件によって印字を行った際の各印字画像の状態を目視して印字品質の評価を以下に示す条件で評価した。
A・・・印字画像に印字カケ及び面状剥離が全く発生していない。
B・・・印字画像の一部に僅かに印字カケ 及び/又は 面状剥離が発生している。
C・・・印字画像の一部に印字カケ 及び/又は 面状剥離がはっきり発生している。
D・・・印字画像のほぼ全面に酷い印字カケ 及び/又は 面状剥離が発生している。
【0088】
<(評価5)環境保存試験による印字感度及び印字品質の変化の評価(環境保存性能)>
上記(評価1)~(評価4)の評価における各印字画像の状態を目視で比較して以下に示す条件で評価した。
A・・・環境保存試験後において印字感度及び印字品質に全く変化がない。
B・・・環境保存試験後において、印字感度、印字カケ、面状剥離の少なくともいずれかが環境保存試験前と比べて僅かであるが悪化している。
C・・・環境保存試験後において、印字感度、印字カケ、面状剥離の少なくともいずれかが環境保存試験前と比べて明確に悪化している。
D・・・環境保存試験後において、印字感度、印字カケ、面状剥離の少なくともいずれかが環境保存試験前と比べて非常に悪化している。
【0089】
<(評価6)耐ブロッキング性の評価(環境保存性能)>
耐ブロッキング性の評価には、熱溶融転写型インクリボンの原反を所定のサイズにスリットした物をプラスチック製コアに巻付けてロール状に加工したリボンサンプル(巾50mm、長さ100m、インク面内巻)を作成し、そのリボンサンプルを気温50℃湿度80%RHに設定した恒温槽内の雰囲気中に96時間静置保存した後に気温25℃の室温環境下において24時間冷却し、そのリボンサンプルの巻きを解した時のブロッキングの状態を目視して以下に示す条件で評価した。
A・・・ブロッキングが全く見られない。
B・・・リボンサンプルのプラスチック製コア付近で僅かにブロッキングが見られる。
C・・・リボンサンプルの巻きの途中からプラスチック製コア付近までの間で部分的にブロッキングが見られる。
D・・・リボンサンプルの全面にブロッキングが見られる。
【0090】
<(評価7)高温環境下の印字における印字画像の面状剥離の評価>
気温を40℃に設定した恒温槽内の雰囲気中に、印字試験に使用するプリンタ、被印字媒体のPETラベル、印字に使用する熱溶融転写型インクリボンを1時間静置した後に、同恒温槽内で続けて上記印字条件の印字濃度5/10において印字を行い、各印字画像を目視で確認し下記に示す条件で評価した。
A・・・印字画像に面状剥離が全く発生していない。
B・・・印字画像の一部に僅かに面状剥離が発生している。
C・・・印字画像の一部に面状剥離がはっきり発生していた。
D・・・印字画像のほぼ全面に酷い面状剥離が発生していた。
【0091】
上述した方法によって各実施例及び比較例の熱溶融転写型インクリボンを作成し、各実施例及び比較例のインク層及び転写制御層の構成物の質量比率と上述した各種評価を行った結果を下記表9~11に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表9~表11の結果より、実施例1~9の熱溶融転写型インクリボンのように、インク層が着色成分とバインダー成分とを含有し、インク層のバインダー成分が融解ピーク温度60℃以上のエチレン系共重合樹脂と、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子と、粘着付与樹脂とを含有し、転写制御層が融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を転写制御層全体の50質量%以上95質量%以下の範囲で含有し且つ融解ピーク温度100℃以上のカルボン酸変性ポリオレフィンを転写制御層全体の5質量%以上50質量%以下の範囲で含有してなる熱溶融転写型インクリボンを用いると、高温環境下において環境保存試験を行ってもブロッキング現象の発生や印字感度や印字品質の悪化がほとんど見られず、また高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離がほとんど発生せず、さらに印字感度が良好であった。
【0096】
一方で、転写制御層に注目すると、表9の比較例1~3のように、融解ピーク温度100℃以上のカルボン酸変性ポリオレフィンの代わりに、融解ピーク温度が100℃未満のカルボン酸変性ポリオレフィンを転写制御層に使用すると、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が著しく悪くなり、また高温環境下における環境保存試験の有無に関わらず印字濃度が高くなる(印字濃度9/10)と印字画像の面状剥離が著しく発生し、さらには高温環境下における環境保存試験の前後で印字品質(面状剥離)が悪化した。また表9の比較例4~比較例6のように、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の代わりに、融解ピーク温度が100℃未満の熱融解性物質の微粒子を転写制御層に使用すると、比較例4のように高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離が悪くなったり、比較例5のように高温環境下における環境保存試験の前後で印字感度が悪化したり、比較例6のように印字の際に逆転写現象が発生してそもそも印字がラベルに転写しなかったりといった各種不具合が発生した。また表10の比較例7のように、転写制御層にカルボン酸変性ポリオレフィンが全く入っていないと印字画像に面状剥離が発生し易くなり、特に高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離がはっきり発生した。また比較例8のように、転写制御層にカルボン酸変性ポリオレフィンが転写制御層全体の50質量%を超えて含有すると、印字の転写性が悪くなり、結果的に印字感度が非常に悪くなった。
【0097】
次にインク層に注目すると、表11の比較例9のように、インク層のバインダー成分であるエチレン系共重合樹脂として融解ピーク温度が60℃未満の物を使用すると、高温環境下における環境保存試験を行った後の印字品質(面状剥離)が悪化し、高温環境下において印字を行った際の印字画像の面状剥離もはっきりと発生した。また表11の比較例10のように、特許文献1の熱溶融転写型インクリボンに用いられているタイプのインク層をインク層として用いると、印字画像に面状剥離は発生しないものの、印字感度が良くなく、印字濃度5/10において印字が掠れてしまった。また表11の比較例11や比較例12のように、融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子の代わりに、融解ピーク温度が100℃未満の熱融解性物質の微粒子をインク層に使用すると、高温環境下において印字を行った際の印字画像に面状剥離がはっきり発生し、さらに比較例11においては高温環境下における環境保存試験を行った後の印字品質(面状剥離)が悪化した。また表11の比較例13のように、インク層のバインダー成分に融解ピーク温度100℃以上の脂肪族系炭化水素合成ワックス微粒子を全く添加しないと、高温環境下における環境保存試験を行った後の印字感度や印字品質(面状剥離)が悪化し、ブロッキング現象もはっきりと発生した。また表11の比較例14のように、インク層のバインダー成分に粘着付与樹脂を全く添加しないと印字試験の条件に関わらず印字画像に著しい面状剥離が発生した。
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、各種伝票類や製品タグや物流管理用ラベルなどに文字情報やバーコードを印字する一般的な用途に用いられる熱転写プリンタに使用出来るだけでなく、特に高温環境下において使用する可能性が高い熱転写プリンタ用の熱溶融転写型インクリボンとして利用が可能である。