(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069988
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】音増幅構造及び建物基礎構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/99 20060101AFI20230511BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20230511BHJP
H04R 1/30 20060101ALI20230511BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
E04B1/99 H
H04R1/02 101B
H04R1/30 A
E04B1/82 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007545
(22)【出願日】2022-01-21
(62)【分割の表示】P 2021181541の分割
【原出願日】2021-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】521488370
【氏名又は名称】株式会社シメックス
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 篤
【テーマコード(参考)】
2E001
5D017
5D018
【Fターム(参考)】
2E001DF11
5D017AD17
5D018AE13
5D018AE17
5D018AE20
(57)【要約】
【課題】スピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現する。
【解決手段】本発明の音増幅構造1は、建物の床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11とにより音道12が形成されており、音道12の一端(スピーカーユニット連通部121)は、建物の室内に配置される床上スピーカーユニットL1と連通可能であり、音道12の幅が一端から音道の他端に向けて広くなっており、音道12の他端(出力部123)は、床上スピーカーユニットL1から出され、音道12を通じて増幅した音を出力可能であり、音道12の長さは、4m以上である。本発明の音道12は、U字型、Z字型又はジグザグ型であることが好ましい。本発明のコンクリート周壁11は、建物の基礎構造を兼用することが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の床下基礎と、前記床下基礎から略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁とにより音道が形成されており、
前記音道の一端は、前記建物の室内に配置されるスピーカーユニットと連通可能であり、
前記音道の幅が前記一端から前記音道の他端に向けて広くなっており、
前記音道の前記他端は、前記スピーカーユニットから出され、前記音道を通じて増幅した音を出力可能であり、
前記音道の長さは、4m以上である、音増幅構造。
【請求項2】
前記音道は、U字型、Z字型又はジグザグ型である、請求項1に記載の音増幅構造。
【請求項3】
前記コンクリート周壁が建物の基礎構造を兼用する、請求項1又は2に記載の音増幅構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の音増幅構造と、
前記床下基礎と、前記床下基礎から略垂直に立ち上がって形成される第2のコンクリート周壁とにより囲まれて設けられ、サブウーファーを設置可能な床下サブウーファー設置部と、
を備える、建物基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音増幅構造及び建物基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、臨場感のある音場を実現したいという要請がある。しかしながら、質の高い音響空間を提供するには、床上に配置されるスピーカーを大型化する必要があり、当該音響空間を住宅内に設置するには、スペース面、床の耐荷重の面の双方で制約がかかる。
【0003】
例えば、建物の一階の床下空間部にサブウーファー設置用空間部を設け、該空間部を遮音用の質量体で囲むことが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明によると、サブウーファーが室内において邪魔にならず、しかも、サブウーファーの重低音を隣室や上階に伝えにくいという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、サブウーファーの設置場所を工夫する発明であり、スピーカーの設置場所を工夫する発明ではない。そのため、床上に配置されるスピーカーの大型化に伴って生じる課題を解決できるとはいえない。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、床上に配置されるスピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スピーカーユニット後方から発生する低音を管状構造によって増幅する方式であるバックロードホーン型スピーカーの音を増幅する管状構造に相当する構成を、スピーカーユニットの背後ではなく、建物一階の床下基礎等に設けることで、上述の課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
第1の特徴に係る発明は、
建物の床下基礎と、前記床下基礎から略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁とにより音道が形成されており、
前記音道の一端は、前記建物の室内に配置されるスピーカーユニットと連通可能であり、
前記音道の幅が前記一端から前記音道の他端に向けて広くなっており、
前記音道の前記他端は、前記スピーカーユニットから出され、前記音道を通じて増幅した音を出力可能であり、
前記音道の長さは、4m以上である、音増幅構造を提供する。
【0009】
スピーカーの形式には、密閉型、バスレフ型、フロントロード型、バックロードホーン型が知られている。バックロードホーン型であれば、密閉型、バスレフ型及びフロントロード型に比べ、高い能率で音を生成できることが知られている。そのため、低音域だけでなく有効音域すべてにおいて、立ち上がりが鋭い臨場感のある音場を再現し得る。このように、臨場感のある音場の再現という観点では、バックロードホーン型が優れるが、バックロードホーン型ではスピーカーユニットの背後に全長数メートルの、音を増幅する管状構造を設けなくてはならず、他の型式に比べてエンクロージャー(「筐体」、「キャビネット」とも呼ばれる。)が巨大になるという課題がある。そのため、現在、日本でバックロードホーン型のスピーカーは、量産されていない。
【0010】
第1の特徴に係る発明によると、管状構造に相当する音道が建物の床下基礎に設けられるため、建物の室内において床上に配置されるスピーカーの筐体に長大な管状構造を設ける必要がない。これにより、長さが4m以上の長大な音道を用いたバックロードホーン型の大型スピーカーシステムであるにもかかわらず、スピーカーユニットを収容する筐体の大きさを他の型式である密閉型、バスレフ型及びフロントロード型と同程度にし、床上に配置可能とすることができる。
【0011】
また、いずれの型によっても、エンクロージャーは、木材でできているのが一般的である。しかしながら、木材では低音域振動に弱く、20Hz~600Hzの低音域では音の歪みが生ずる。そのため、生演奏の雰囲気を再現するには限界がある。特に30Hz以下の低音域の音波を出力し、人の感性、聴力だけでなく、全身への音波による震えまで生演奏の雰囲気を十分に体感させるのは難しい。
【0012】
第1の特徴に係る発明によると、音道がコンクリート周壁で囲まれており、音道の長さは、4m以上である。コンクリートは強靭な物理特性を有しており、低音域の音波による歪みは皆無である。また、低音の再現精度を高めるには、音道が長い方が好ましいところ、木材製エンクロージャーであると、音道の長さが3mを超えると、低音が中高音より遅れて耳に到達してしまい、音の聴取者にとってストレスになる。第1の特徴に係る発明では、音道がコンクリート周壁で囲まれているため、音道の長さが4m以上であっても、低音の到達遅延が生じず、聴取者は、ストレスなく音を聴取できる。
【0013】
よって、第1の特徴に係る発明によると、床上に配置されるスピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現できる。
【0014】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記音道がU字型、Z字型又はジグザグ型である、音増幅構造を提供する。
【0015】
第2の特徴に係る発明によると、床下基礎の限られたスペースに音道を配置することを可能にするとともに、中高音を減衰させ、中高音と低音とのレベル差を小さく抑えることができる。
【0016】
よって、第2の特徴に係る発明によると、床上に配置されるスピーカーを大型化することなく、よりいっそう臨場感のある音場を住宅内で実現できる。
【0017】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記コンクリート周壁が建物の基礎構造を兼用する、音増幅構造を提供する。
【0018】
第3の特徴に係る発明によると、布基礎やベタ基礎に例示される建物の基礎構造を流用するため、建物の新築時及びリフォーム時等において建物基礎作り付けの音増幅構造を施工容易に取り付けることができる。
【0019】
第4の特徴に係る発明は、
第1から第3のいずれかに記載の音増幅構造と、
前記床下基礎と、前記床下基礎から略垂直に立ち上がって形成される第2のコンクリート周壁とにより囲まれて設けられ、サブウーファーを設置可能な床下サブウーファー設置部と、を備える、建物基礎構造を提供する。
【0020】
第4の特徴に係る発明によると、サブウーファーの設置領域が第2のコンクリート周壁で囲まれているため、ゆっくりした野太い低音域の音をはっきりと再生できる。
【0021】
例えば、ロック音楽の場合、収録されたコンパクトディスク(CD)自体に、ライブでのコンサートでなら楽しむことのできるゆっくりとした重たい低音域の音が収録されていない。そのような場合、サブウーファー利用で、ゆったりと重たい低音を出す効果があり、ジャンルによってまさにコンサートの臨場感を自宅で再現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、床上に配置されるスピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、斜め上からみた本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。
【
図2】
図2は、斜め上からみた本実施形態のスピーカーシステムSを示す概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す平面図である。
【
図4】
図4は、斜め上からみた本実施形態の建物基礎構造Uを示す概略図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の建物基礎構造Uの概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
<<スピーカーシステムS>>
図1は、斜め上からみた本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。
図2は、斜め上からみた本実施形態のスピーカーシステムSを示す概略図である。
図3は、本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す平面図である。スピーカーシステムSは、少なくとも、1以上の床上スピーカーLと、床下基礎Bと、1以上の建物基礎構造Uとを含んで構成される。なお、建物基礎構造Uについては後に
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0026】
<床上スピーカーL>
床上スピーカーLは、建物基礎構造Uの上方にある床上に配置されるスピーカーである。床上スピーカーLは、右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLを含むことが好ましい。これにより、床上スピーカーLは、音をステレオ再生できる。
【0027】
1以上の床上スピーカーLのそれぞれは、電気信号を音に変換して出力可能な1以上のスピーカーユニットL1(例えば、
図2の右床上スピーカーL1R及び左床上スピーカーL1L。)と、スピーカーユニットL1を支持可能なスピーカーエンクロージャーL2(例えば、
図2の右スピーカーエンクロージャーL2R及び左スピーカーエンクロージャーL2L。)と、を備える。
【0028】
〔スピーカーユニットL1〕
スピーカーユニットL1は、電気信号を音に変換して前面及び背面から出力可能なスピーカーユニットであれば、特に限定されない。床上スピーカーLがスピーカーユニットL1を備えることにより、床上スピーカーLは、アンプ等から提供される電気信号を音に変換して出力することができる。また、これにより、床上スピーカーLは、背面から出力された音を、建物基礎構造Uを介して増幅し、出力できる。
【0029】
スピーカーユニットL1の数は、1つであることが好ましい。これにより、床上スピーカーLは、複数のスピーカーユニットL1を含む場合より点音源に近くなり、音の位置である音位がより忠実に再現された音を出力できる。スピーカーユニットL1は、ハイパスフィルタ(「高域通過濾波器」とも称する。)及びローパスフィルタ(「低域通過濾波器」とも称する。)等のフィルタ回路(「フィルタ」「濾波器」「ネットワーク」とも称する。)を用いないフルレンジスピーカーを含むことが好ましい。フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットL1は、電気信号の位相を遅延させ得るネットワークを使用せずに音を出力できる。これにより、フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットL1は、微細信号に対する反応が速い音を高能率で出力できる。したがって、フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットL1は、電気信号に含まれる原音によりいっそう忠実で、微細な音がわかる音を出力できる。本実施形態のスピーカーシステムSは、後述する建物基礎構造Uを介した増幅により、スピーカーユニットL1が低域を出力しづらいフルレンジスピーカーであっても、豊かな低域を含む音を出力できる。スピーカーユニットL1は、フルレンジスピーカーを含む場合において、強力な磁気回路と軽い振動板とを組み合わせた構成であることが好ましい。これにより、スピーカーユニットL1は、微細信号に対する反応がよりいっそう速い音をよりいっそう高能率で出力できる。スピーカーユニットL1は、フルレンジスピーカーを含む場合において、超高域の音を少ない歪みで出力可能なスーパーツイーターを含んでもよい。これにより、スピーカーユニットL1は、超高域を出力しづらいフルレンジスピーカーを含んでいても、超高域を十分に含む音を出力できる。スーパーツイーターは、ネットワークを使用せずに音を出力可能であることが好ましい。これにより、スーパーツイーターから出力される音の位相が遅延し、微細信号に対する反応が遅くなることを防ぎ得る。
【0030】
〔スピーカーエンクロージャーL2〕
スピーカーエンクロージャーL2(例えば、
図2の右スピーカーエンクロージャーL2R及び左スピーカーエンクロージャーL2L。)は、1以上のスピーカーユニットL1のうち少なくとも1つ以上を収容可能であり、スピーカーユニットL1の背面から出力される音の少なくとも一部を通過させることが可能な内部空間を有するスピーカートップ部L21(例えば、
図2の右スピーカートップ部L21R及び左スピーカートップ部L21L。)と、スピーカートップ部L21の内部空間を建物基礎構造U内部の空間と連結可能に構成されたスピーカースロート部L22(例えば、
図2の右スピーカースロート部L22R及び左スピーカースロート部L22L。)と、を含む。床上スピーカーLがスピーカーエンクロージャーL2を備えることにより、スピーカーユニットL1の背面から出力される音を建物基礎構造U内部の空間に導くことができる。
【0031】
スピーカーユニットL1がフルレンジスピーカーを含む場合、スピーカーエンクロージャーL2は、フルレンジスピーカーの背面から出力される音を建物基礎構造U内部の空間に導くことが可能であることが好ましい。これにより、建物基礎構造Uを介して出力される低音域の音の歪みをよりいっそう低減することができる。また、建物基礎構造Uを介して出力される低音域の音を、微細信号に対する反応が速く、高能率なフルレンジスピーカーを用いて出力できる。
【0032】
[スピーカートップ部L21]
スピーカートップ部L21は、スピーカーユニットL1の背面から出力される音の少なくとも一部をスピーカースロート部L22の内部空間へ通過させることが可能な内部空間を有する。
【0033】
スピーカートップ部L21の内部空間は、建物基礎構造U内部の空間を除いて床上スピーカーL外部と接続されていない内部空間であることが好ましい。これにより、スピーカーユニットL1の背面から出力される音が床上スピーカーL外部に漏れることを防ぎ得る。したがって、より多くの音を建物基礎構造Uに導くことができる。
【0034】
[スピーカースロート部L22]
スピーカースロート部L22は、スピーカートップ部L21の内部空間から建物基礎構造U内部の空間へ向けてスピーカーユニットL1の背面から出力される音の少なくとも一部を通過させることが可能な内部空間を有する。
【0035】
スピーカースロート部L22の内部空間は、スピーカートップ部L21の内部空間から建物基礎構造U内部の空間へ向けて断面積が広くなる逆テーパー形状に構成されることが好ましい。これにより、スピーカースロート部L22の内部空間において、スピーカーユニットL1が出力する音が徐々に減圧され、音波の変位が増加し、増幅される。これにより、よりいっそう大きな変位を有する増幅された音を建物基礎構造Uに導くことができる。
【0036】
スピーカートップ部L21の内部空間は、建物基礎構造U以外の床上スピーカーL外部と接続されていない内部空間であることが好ましい。これにより、スピーカーユニットL1の背面から出力される音が床上スピーカーL外部に漏れることを防ぎ得る。したがって、より多くの音を建物基礎構造Uに導くことができる。また、スピーカーユニットL1の背面から出力される、スピーカーユニットL1の正面から出力される音と異なる位相の音が、床上スピーカーL外部のスピーカーユニットL1と近い位置において、スピーカーユニットL1の正面から出力される音と干渉することを防ぎ得る。
【0037】
〔その他のスピーカー〕
床上スピーカーLは、3つ以上であってもよい。これにより、ステレオ音声を出力可能な右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLに加えて、1つ以上の別スピーカーが正面方向、後方、上方等の各方向の場所に配置され得る。これにより、床上スピーカーLは、別スピーカーを配置した場所に応じた音位を有する音を出力できる。その他のスピーカーは、建物基礎構造Uと接続されていてもよく、接続されてなくてもよい。その他のスピーカーが建物基礎構造Uと接続されていることにより、その他のスピーカーは、バックロードホーン型の各種の長所を実現し得る。その他のスピーカーが建物基礎構造Uと接続されていないことにより、建物基礎構造Uと独立した場所にその他のスピーカーが配置され得る。
【0038】
<床下基礎B>
床下基礎Bは、住宅等の建物の床下に設けられた略平面構造であれば、特に限定されない。床下基礎Bは、例えば、建物の基礎でよい。スピーカーシステムSが地上階及び/又は地下階を合わせて2階以上の建物に設けられる場合、床下基礎Bは、スピーカーシステムSが設けられる階の直下の階に設けられた天井等によって例示される、スピーカーシステムSが設けられる階と直下の階との間を水平方向に区切る略平面構造でもよい。
【0039】
床下基礎Bが、建物の基礎であることにより、建物の基礎構造を兼用するよう建物基礎構造Uを設けられる。これにより、建物の基礎構造の直上(例えば、地下階がない建物における1階部分等。)において臨場感のある音場を実現できる。したがって、スピーカーシステムSは、例えば、住宅の1階に設けられたオーディオルームにおいて、臨場感のある音場を実現できる。
【0040】
床下基礎Bが、スピーカーシステムSが設けられる階と直下の階との間を水平方向に区切る略平面構造であることにより、建物の基礎構造の直上でない階(例えば、建物の2階以上の部分、地下階がある建物における1階以上の部分等。)に建物基礎構造Uを設けられる。これにより、スピーカーシステムSは、建物の基礎構造の直上でない階において臨場感のある音場を実現できる。したがって、スピーカーシステムSは、例えば、ビルの2階以上の階に設けられた映画館及び劇場等において、臨場感のある音場を実現できる。
【0041】
<建物基礎構造U>
図4は、斜め上からみた本実施形態の建物基礎構造Uを示す概略図である。
図5は、本実施形態の建物基礎構造Uの概略を示す平面図である。建物基礎構造Uは、床上スピーカーLの音を増幅して出力可能な音増幅構造1(例えば、
図4の右音増幅構造1R及び左音増幅構造1L等)を含んで構成される。
【0042】
床上スピーカーLが右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLを含む場合、建物基礎構造Uは、右床上スピーカーLRの音を増幅して出力可能な右建物基礎構造URと、左床上スピーカーLLの音を増幅して出力可能な左建物基礎構造ULと、を含むことが好ましい。これにより、建物基礎構造Uは、床上スピーカーLが出力する音を、ステレオの音として増幅できる。
【0043】
建物基礎構造Uが右床上スピーカーLRの音を増幅して出力可能な右建物基礎構造URと左床上スピーカーLLの音を増幅して出力可能な左建物基礎構造ULとを含む場合、右建物基礎構造URを平面視した形状は、左建物基礎構造ULと略左右対称であることが好ましい。これにより、音をステレオ再生するときの左右の音の歪みを防ぐことができる。
【0044】
建物基礎構造Uは、サブウーファーW(例えば、
図4の右サブウーファーWR及び左サブウーファーWL。)を設置可能な床下サブウーファー設置部2(例えば、
図4の右床下サブウーファー設置部2R及び左床下サブウーファー設置部2L。)をさらに含んで構成されることが好ましい。これにより、サブウーファーWが出力する低音を床下サブウーファー設置部2によって増幅し得る。床上スピーカーLが右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLを含む場合、建物基礎構造Uは、右床下サブウーファー設置部2R及び左床下サブウーファー設置部2Lを含むことが好ましい。これにより、スピーカーシステムSは、中高音だけでなく、低音をもステレオで出力し得る。
【0045】
〔音増幅構造1〕
音増幅構造1(「建物基礎作り付け音増幅構造」とも称する。)は、建物の床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11(例えば、
図4の右コンクリート周壁11R及び左コンクリート周壁11L。)と、により形成された音道12を含む。
【0046】
スピーカーの形式には、密閉型、バスレフ型、フロントロード型、バックロードホーン型が知られている。バックロードホーン型であれば、密閉型、バスレフ型及びフロントロード型に比べ、高い能率で音を生成できることが知られている。そのため、低音域だけでなく有効音域すべてにおいて、立ち上がりが鋭い臨場感のある音場を再現し得る。このように、臨場感のある音場の再現という観点では、バックロードホーン型が優れるが、バックロードホーン型ではスピーカーユニットの背後に全長数メートルの管状構造を設けなくてはならず、他の型式に比べてエンクロージャー(「筐体」、「キャビネット」とも呼ばれる。)が巨大になるという課題がある。そのため、現在、日本でバックロードホーン型のスピーカーは、量産されていない。
【0047】
実施形態の音増幅構造1では、管状構造に相当する音道12が建物の床下基礎Bに設けられるため、建物の室内において床上に配置される床上スピーカーLのスピーカーエンクロージャーL2に長大な管状構造を設ける必要がない。これにより、スピーカーユニットL1を収容するスピーカーエンクロージャーL2の大きさを他の型式である密閉型、バスレフ型及びフロントロード型と同程度にすることができる。
【0048】
建物基礎構造Uが右床上スピーカーLRの音を増幅して出力可能な右建物基礎構造URと左床上スピーカーLLの音を増幅して出力可能な左建物基礎構造ULとを含む場合、右音増幅構造1Rを平面視した形状は、左音増幅構造1Lと略左右対称であることが好ましい。これにより、音をステレオ再生するときの左右の音の歪みを防ぐことができる。
【0049】
[コンクリート周壁11]
コンクリート周壁11は、建物の床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11とにより音道12を形成する。コンクリート周壁11に用いられるコンクリートの種類は、特に限定されない。
【0050】
コンクリート周壁11は、建物の基礎構造を兼用することが好ましい。これにより、布基礎及びベタ基礎によって例示される建物の基礎構造を流用したコンクリート周壁11が設けられ得る。したがって、建物の新築時及びリフォーム時等において作り付けの音増幅構造1を施工容易に取り付けることができる。
【0051】
[音道12]
音道12は、建物の床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11とにより形成される。音道12は、音道12の一端であるスピーカーユニット連通部121(例えば、
図4の右スピーカーユニット連通部121R及び左スピーカーユニット連通部121L。)において、建物の室内に配置される床上スピーカーLと連通可能であり、床上スピーカーLから出され、音道12の増幅部122(例えば、
図4の右増幅部122R及び左増幅部122L。)を通じて増幅した音を、音道12の他端に設けられた出力部123(例えば、
図4の右増出力部123R及び左出力部123L。)において出力可能である。
【0052】
密閉型、バスレフ型、フロントロード型、バックロードホーン型のいずれの型によっても、エンクロージャーは、木材でできているのが一般的である。しかしながら、木材では低音域振動に弱く、20Hz~600Hzの低音域では音の歪みが生ずる。そのため、生演奏の雰囲気を再現するには限界がある。特に30Hz以下の低音域の音波を出力し、人の感性、聴力だけでなく、全身への音波による震えまで生演奏の雰囲気を十分に体感させるのは難しい。
【0053】
実施形態の音増幅構造1では、音道12が強靭な物理特性を有するコンクリートを用いたコンクリート周壁11により形成されるため、低音域の音波による歪みは皆無である。
【0054】
音道12の幅は、スピーカーユニット連通部121側の一端から出力部123側の一端に向けて広くなっている。出力部123側の一端における音道12の幅をスピーカーユニット連通部121側の一端における音道12の幅で割った比の上限は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。これにより、急激に広がる音道12において、音がコンクリート周壁11から離れて直進することを防ぎ得る。
【0055】
上述の比の下限は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。これにより、音道12において、スピーカーユニットL1が出力する音がよりいっそう減圧される。これにより、音波の変位がよりいっそう増加し、音がよりいっそう増幅される。これにより、よりいっそう大きな変位を有する増幅された音が出力され得る。
【0056】
低音の再現精度を高めるには、音道が長い方が好ましいところ、木材製エンクロージャーであると、音道の長さが3mを超えると、低音が中高音より遅れて耳に到達してしまい、音の聴取者にとってストレスになる。音道12が建物の床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11とにより形成されるため、音道12が長い場合であっても、低音の到達遅延が生じず、聴取者は、ストレスなく音を聴取できる。
【0057】
音道12の長さの下限は、4m以上であることが好ましい。これにより、低音の再現精度がよりいっそう高められ得る。音道12の長さの上限は、15m以下であることが好ましく、8m以下であることがより好ましく、5m以下であることがさらに好ましい。これにより、音道12で増幅された音の到達遅延の発生がよりいっそう防がれ得る。
【0058】
(スピーカーユニット連通部121)
スピーカーユニット連通部121は、スピーカースロート部L22と接続可能に構成され、スピーカースロート部L22と音増幅構造1とを連通可能であれば、特に限定されない。
【0059】
スピーカーユニット連通部121は、スピーカースロート部L22と接続する部分における断面形状が、スピーカースロート部L22と略同じであることが好ましい。これにより、音は、スピーカースロート部L22からスピーカーユニット連通部121に向けて澱みなく流れ得る。
【0060】
(増幅部122)
増幅部122は、スピーカーユニット連通部121を介して床上スピーカーLから提供される音を増幅することが可能であり、床上スピーカーLの管状構造に相当する。
【0061】
増幅部122は、湾曲部Cを有することが好ましい。これにより、出力部123が床上スピーカーLの周辺に配置され得る。出力部123が床上スピーカーLの周辺に配置されるため、床上スピーカーLから出力される音と、出力部123から出力される音との音位の違いを低減できる。床上スピーカーLの周辺に配置された出力部123から出力される増幅された低音は、波長が長い音であるため、床上スピーカーLとの音位の違いを感じさせない音を出力できる。
【0062】
湾曲部Cの数は、特に限定されない。湾曲部Cは、音道12をU字型、Z字型又はジグザグ型にするよう設けられることが好ましい。これにより、床下基礎Bの限られたスペースに音道12を配置することを可能にするとともに、中高音を減衰させ、中高音と低音とのレベル差を小さく抑えることができる。
【0063】
なかでも、湾曲部Cは、音道12をU字型にするよう設けられることが好ましい。これにより、湾曲部Cの数を最小限に抑え、音道12の湾曲部Cにおいて低音が減衰することをよりいっそう防ぎ得る。
【0064】
(出力部123)
出力部123は、音道12の、スピーカーユニット連通部121と異なる端に設けられている。音道12は、出力部123において立ち上がって床上と連通しており、床上スピーカーLから出され、音道12の増幅部122を通じて増幅した低音を、床上に出力可能である。
【0065】
出力部123は、床上との接続部分周辺において、音を通過させることが可能であり、人間等の落下を防ぐことが可能な落下防止部材を配置可能であることが好ましい。これにより、人間等が出力部123から落下することを防ぐことと、増幅された音を出力することとを両立できる。落下防止部材は、特に限定されず、例えば、出力部123と出力部123の床上との接続部分周辺を塞ぐことが可能な格子状の蓋等でよい。
【0066】
〔床下サブウーファー設置部2〕
床下サブウーファー設置部2は、床下基礎Bと、床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成される第2コンクリート周壁21(「第2のコンクリート周壁」とも称する。例えば、
図4の右第2コンクリート周壁21R及び左第2コンクリート周壁21L。)とにより囲まれて設けられ、サブウーファーWを設置可能である。
【0067】
床下サブウーファー設置部2が第2コンクリート周壁21で囲まれ、バスレフ型のダクト共振のみを利用するASW方式であるため、ゆっくりした野太い低音域の音をはっきりと再生できる。
【0068】
例えば、ロック音楽の場合、収録されたコンパクトディスク(CD)自体に、ライブでのコンサートでなら楽しむことのできるゆっくりとした重たい低音域の音が収録されていない。そのような場合、サブウーファー利用で、ゆったりと重たい低音を出す効果があり、ジャンルによってまさにコンサートの臨場感を自宅で再現できる。
【0069】
床下サブウーファー設置部2は、サブウーファーWの後方に設けられた空間であるサブウーファー後増幅部22(例えば、
図4の右サブウーファー後増幅部22R及び左サブウーファー後増幅部22L。)と、サブウーファーWの前方に設けられた空間であるサブウーファー前増幅部23(例えば、
図4の右サブウーファー前増幅部23R及び左サブウーファー前増幅部23L。)とを含むことが好ましい。これにより、サブウーファーWを、スピーカーユニットの前後両方が密閉されているバスレフ型のダクト共振のみを利用するASW(Acoustic Sub Woofer)として構成できる。これにより、サブウーファーWを床下サブウーファー設置部2に設置した場合において、サブウーファーWの前方及び後方がともに密閉されるため、エンクロージャーを通過できない高域がカットされ、低音のみを再生できる。
【0070】
建物基礎構造Uが右床下サブウーファー設置部2R及び左床下サブウーファー設置部2Lを含む場合、右床下サブウーファー設置部2Rを平面視した形状は、左床下サブウーファー設置部2Lと略左右対称であることが好ましい。これにより、低音をステレオ再生するときの左右の音の歪みを防ぐことができる。
【0071】
上述のとおり、実施形態の建物基礎構造Uによれば、コンクリート周壁11等で囲まれた音増幅構造1及び床下サブウーファー設置部2がそれぞれ音を増幅する。これにより、実施形態の建物基礎構造Uは、スピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現できる。
【0072】
実施形態の建物基礎構造Uが音増幅構造1を備え、この音増幅構造1が、建物の床下基礎Bと床下基礎Bから略垂直に立ち上がって形成されるコンクリート周壁11とにより形成された音道12を含むため、床下の空間を犠牲にせず、音響上有利な大型スピーカーの設置が可能となる。
【0073】
床等に配置する構造のスピーカー装置は、床等の強度のため、大きさ及び重さに制限を有する。本実施形態のスピーカーシステムSは、バックロードホーン部分を音増幅構造1として作り付けにすることにより、大きさ及び重さの制限を払拭し得る。これにより、コンクリート造りかつ大型の音増幅構造1を実現し、特に低域再生において、音を汚す歪みなく音響性能を飛躍的に向上させることができる。
【0074】
本実施形態のスピーカーシステムSは、床下基礎Bが建物の基礎であることにより、建物の基礎構造を兼用するよう建物基礎構造Uを設けられる。これにより、住宅建設又は床リフォーム工事等の基礎工事を行う場合において、スピーカーシステムSを同時に施工できる。これにより、住宅建設及び/又は床リフォーム工事等に、建物基礎構造Uを設けるという新たな選択肢を与え得る。
【0075】
本実施形態のスピーカーシステムSは、特に低域再生において音響性能を向上させることができるのみならず、国土の狭い日本の住宅事情において、いわゆる縁の下空間を有効利用し、優れた音質で音楽を再生可能な機能を住宅に与えることもできる。
【0076】
ところで、空気の振動を耳で聴いたときの体験と、空気の振動に加えて床の揺れ等を介して振動を感じたときの体験とは、異なる。例えば、地震の振動を音としてヘッドフォンで聴いた場合と、地震体験施設等で揺れを含む地震の振動を感じた場合とでは、体験した人の恐怖感及び体験の生々しさが異なり得る。
【0077】
本実施形態のスピーカーシステムSは、建物基礎構造Uを用いて音を増幅するため、スピーカーユニットL1が空気を震わせる音だけでなく、建物基礎構造Uによる音の波動、震え、及び/又は揺れを人の全身に伝え得る。これにより、スピーカーシステムSは、人の耳が備える聴覚だけでなく、人の体全体が備える他の感覚をも通して、生々しさを伴う音による感動を、人に与え得る。
【0078】
本実施形態のスピーカーシステムSは、建物基礎構造Uを用いて音を増幅するため、木製エンクロージャーを用いたスピーカーより大型のスピーカーシステムSを提供できる。また、建物基礎構造Uがコンクリート周壁11等によって構成されるため、床上に載置困難な大重量にて音増幅構造1を実現し、木製エンクロージャーが有する低周波の震えに弱い課題を解決できる。
【0079】
本実施形態のスピーカーシステムSは、音増幅構造1がバックロードホーン型のスピーカーシステムSを実現するため、密閉型及びバスレフ型との比較において、瞬間的な信号の変化、音の立ち上がり及び立ち下がりに対して、より短い遅延で追従可能な反応の良さ(「トランジェント」とも称する。)を実現できる。優れたトランジェントを実現可能であることにより、CD、レコード、テープ等の媒体に記録された情報を可能な限り忠実に音に変換して出力するピュアオーディオとして、よりいっそう優れたスピーカーシステムSを実現できる。
【0080】
本実施形態のスピーカーシステムSは、バックロードホーン型であるため、スピーカーユニットL1の後方が塞がれていない。これにより、スピーカーシステムSは、密閉型及びバスレフ型より微小な信号を音として出力し得る。これにより、スピーカーシステムSは、密閉型及びバスレフ型より大きなダイナミックレンジを実現し得る。
【0081】
本実施形態の床下サブウーファー設置部2は、サブウーファーWを第2コンクリート周壁21で囲まれたバスレフ型ASWとして構成できるため、ゆっくりした野太い低域が低歪みではっきりと再生される。これにより、音増幅構造1において増幅された低音と床下サブウーファー設置部2が出力する低音とを併用し、コンクリートの強靭さ、大質量、及び大重量を利用した優れた低域再生を実現できる。これにより、スピーカーシステムSは、ロック音楽等の野太い低域を出力することが好まれる音源において、CD等の媒体に記録されていない低域の音を補い、当該音源を迫力ある音で出力できる。
【0082】
なお、本発明の思想の範疇において、当業者であれば各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0083】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0084】
<スピーカーシステムの構築>
実施形態のスピーカーシステムSを構築し、さらに、比較対象として市販の密閉型スピーカー及びバスレフ型スピーカーを用いた2.1chスピーカーシステムを構築した。
【0085】
〔実施例〕実施形態のスピーカーシステムS
実施形態にしたがって、右床上スピーカーLR、左床上スピーカーLL、右サブウーファーWR、左サブウーファーWL、右建物基礎構造UR、及び左建物基礎構造ULを含むスピーカーシステムSを構築した。
【0086】
[建物基礎構造Uの施工]
幅35m奥行16.5mの床下基礎Bから略垂直に立ち上がる右コンクリート周壁11R、左コンクリート周壁11L、右第2コンクリート周壁21R、及び左第2コンクリート周壁21Lのそれぞれを形成可能な型枠をそれぞれ設置した。そして、型枠の中に生コンクリートを打込み、締固め及び仕上げを行ったのちに養生して、右コンクリート周壁11R、左コンクリート周壁11L、右第2コンクリート周壁21R、及び左第2コンクリート周壁21Lのそれぞれを形成した。
【0087】
右コンクリート周壁11R及び左コンクリート周壁11Lのそれぞれは、床下基礎Bとコンクリート周壁11とによって形成される音増幅構造1(右音増幅構造1R及び左音増幅構造1L)が、幅0.1m奥行0.29mのスピーカーユニット連通部121と、スピーカーユニット連通部121及び出力部123をつなぐ長さ4.5mでU字型の音道12と、幅0.574m奥行0.33mの出力部123とを含むよう、略左右対称に形成された。
【0088】
床の高さにおいて、出力部123の中心は、スピーカーユニット連通部121の中心から0.47m離れていた。スピーカーユニットL1の中心は、出力部123の中心から1m離れていた。
【0089】
右第2コンクリート周壁21R及び左第2コンクリート周壁21Lのそれぞれは、床下基礎Bと第2コンクリート周壁21とによって形成される床下サブウーファー設置部2(右床下サブウーファー設置部2R及び左床下サブウーファー設置部2L)が、幅0.17m奥行8.95mのサブウーファー後増幅部22と、幅0.188m奥行15.75mのサブウーファー前増幅部23とを含むよう、略左右対称に形成された。
【0090】
これにより、略左右対称の右建物基礎構造UR及び左建物基礎構造ULが施工された。
【0091】
[サブウーファーWの設置]
右床下サブウーファー設置部2R及び左床下サブウーファー設置部2Lのそれぞれについて、サブウーファー後増幅部22とサブウーファー前増幅部23との間に、市販されている直径0.23mのサブウーファーWを2つずつ設置した。
【0092】
[部屋の構築]
右建物基礎構造UR及び左建物基礎構造ULの上に床を張り、壁を形成して、スピーカーシステムSが収容される部屋を構築した。
【0093】
[床上スピーカーLの設置]
市販されている直径0.23m、入力ワット数40W、音圧レベル94dBのスピーカーユニットL1(Fostex社製、「FE208NS」)を、略直方体状のスピーカートップ部L21と略四角錐台状のスピーカースロート部L22とを有するスピーカーエンクロージャーL2に収容し、右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLを構築した。
【0094】
スピーカートップ部L21は、外寸が幅0.268m奥行0.302m高さ0.268mの略直方体であり、内寸が幅0.226m奥行0.260m高さ0.226mである。
【0095】
スピーカースロート部L22は、外寸が幅0.142m上部奥行0.207m下部奥行0.332m高さ0.97mの略四角錐台であり、内寸が幅0.10m上部奥行0.165m下部奥行0.290m高さ0.97mである。
【0096】
構築した右床上スピーカーLR及び左床上スピーカーLLのそれぞれを、スピーカースロート部L22が右スピーカーユニット連通部121R及び左スピーカーユニット連通部121Lのそれぞれと接続されるよう設置した。
【0097】
[アンプの接続]
右床上スピーカーLR、左床上スピーカーLL、右サブウーファーWR、及び左サブウーファーWLのそれぞれに市販のアンプを接続し、これらの機器が2.1chのサラウンドで音を出力可能であるようにした。
【0098】
これにより、実施形態のスピーカーシステムS(以下、単に「実施例」とも称する。)が構築された。
【0099】
〔比較例1〕市販のバスレフ型スピーカーを用いた2.1chスピーカーシステム
市販されている2本のバスレフ型スピーカーとサブウーファーとを用いて構築した2.1chスピーカーシステムに実施例と同じアンプを接続し、比較対象となる2.1chバスレフ型スピーカーシステム(以下、単に「比較例1」とも称する。)を構築した。
【0100】
〔比較例2〕市販の密閉型スピーカーを用いた2.1chスピーカーシステム
市販されている2本の密閉型スピーカーとサブウーファーとを用いて構築した2.1chスピーカーシステムに実施例と同じアンプを接続し、比較対象となる2.1ch密閉型スピーカーシステム(以下、単に「比較例2」とも称する。)を構築した。
【0101】
<評価>
〔官能評価〕
和太鼓の演奏が収録された市販のコンパクトディスク(株式会社グローバル・カルチャー・エージェンシー、規格品番「SACG-30008」、タイトル「鬼太鼓座/ONDEKOZA 富嶽百景/FUJIYAMA」)について、トラック番号5「三国/Mikuni」を再生した音を実施例、比較例1、及び比較例2から出力した。そして、モニターが実施例、比較例1、及び比較例2から出力された音それぞれを聴取する官能評価を行った。
【0102】
実施例から出力された音を聴取したモニターは、モニターの背後及び床から振動が伝わり、7.1chスピーカーシステムを備える映画館並みの臨場感であったと評価した。低音について、モニターは、低音の到達遅延及び低音の歪みを感じず、立ち上がりが鋭く、スピード感があってしっかりと収まる低音であったと評価した。音位について、モニターは、和太鼓それぞれの位置がわかる音であったと評価した。
【0103】
比較例1から出力された音を聴取したモニターは、モニターの前方から音が伝わってくるものの、臨場感からは程遠かったと評価した。低音について、モニターは、低音の到達遅延を感じなかったものの、実施例との比較において、立ち上がりが鈍く、スピード感が足りず、収まりが悪い低音であったと評価した。音位について、モニターは、和太鼓それぞれの位置がわかる音であったと評価した。
【0104】
比較例2から出力された音を聴取したモニターは、モニターの前方から音が伝わってくるものの、臨場感からは程遠かったと評価した。低音について、モニターは、低音の到達遅延を感じなかったものの、実施例との比較において、立ち上がりが鈍く、スピード感が足りず、収まりが悪い低音であったと評価した。音位について、モニターは、和太鼓それぞれの位置がわかる音であったと評価した。
【0105】
〔考察〕
実施例では、スピーカーユニットL1の音が音増幅構造1で増幅され、さらに、サブウーファーWの音が床下サブウーファー設置部2で増幅されたため、実施例が比較例1及び比較例2と同様に2本のスピーカーユニットとサブウーファーとから音を出力する2.1chスピーカーシステムであるにもかかわらず、比較例1及び比較例2と異なり、聴取者を取り巻くように設置された7本のスピーカーユニットとサブウーファーとから音を出力する7.1chスピーカーシステムを備える映画館並みの臨場感を得られたものと考えられる。
【0106】
実施例では、音増幅構造1がコンクリート周壁11によって形成されているため、音の立ち上がりが鋭くなり、全長4.5mの音増幅構造1で音を増幅したにもかかわらず、低音の到達遅延を感じさせない音が出力されたものと考えられる。
【0107】
実施例では、音増幅構造1がコンクリート周壁11によって形成され、さらに、床下サブウーファー設置部2が第2コンクリート周壁21によって形成されているため、低音の歪みを感じさせない音が出力されたものと考えられる。
【0108】
実施例では、バックロードホーン型であることにより、バスレフ型である比較例1及び密閉型である比較例2と異なり、立ち上がりが鋭く、スピード感があってしっかりと収まる低音が出力されたものと考えられる。すなわち、実施例は、瞬間的な信号の変化、音の立ち上がり及び立ち下がりに対して、バスレフ型及び密閉型スピーカーユニットを用いたスピーカーシステムより短い遅延で追従可能な反応の良さを実現できたものと考えられる。
【0109】
実施例では、音道12がU字型に形成されていたことにより、バックロードホーン部分となる音道12の全長が4.5mであるにもかかわらず、スピーカーユニットL1の中心と出力部123の中心との距離をわずか1mにとどめ、バックロードホーン部分を有さない比較例1及び比較例2と同様に、和太鼓それぞれの位置がわかる音が出力されたものと考えられる。