(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070062
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、その製造方法、それを含むエポキシ組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08G 59/14 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
C08G59/14
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147381
(22)【出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0151657
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】513269240
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョン エ
(72)【発明者】
【氏名】パク、スク ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン チュ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ス チン
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036CA07
4J036CA08
4J036CB20
4J036CC03
4J036CD07
4J036DC41
4J036FA05
4J036FB08
4J036HA12
4J036JA07
4J036KA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エポキシシステムの熱的特性が向上し、優れた加工性を示すエポキシ樹脂、その製造方法、それを含む組成物及びその用途を提供する。
【解決手段】低分子量領域と高分子量領域全般にわたる分子量分布を有するようにすることで熱膨張係数を下げる。このため分子量の上限値が最大2,000,000まで増加したものであって、300~2,000,000の分子量分布の範囲を有する分子量分布が調節されたエポキシ樹脂、その製造方法、それを含む組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記化学式(AF)、化学式(BF)、化学式(CF)及び化学式(DF)からなる群から選択される1種の第1構造単位と、
(2)下記化学式(1F)、化学式(2F)、化学式(3F)、化学式(4F)及び化学式(5F)からなる群から選択される1種の第2構造単位と、を含み、
前記第1構造単位と前記第2構造単位は、下記化学式(L)を介して連結され、
下記化学式(E)のグリシジル基により決定されるエポキシ当量(EEW、Epoxy
Equivalent Weigth)が200g/Eq~1,000g/Eqであり、分子量分布の範囲が300~2,000,000である分子量分布が調節されたエポキシ樹脂。
【化1】
(前記化学式(BF)において、Sは
【化2】
であり、
化学式(DF)において、tは
【化3】
であり、
化学式(AF)~(DF)において、nは1~100の整数であり、
前記エポキシ樹脂は、下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有するか、又は有さず、
前記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有する場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMの一部は、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする下記化学式(E)のグリシジル基であり、残りのMは下記化学式(S1)及び(S2)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有さない場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMは、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする、下記化学式(E)のグリシジル基である。)
【化4】
(前記化学式(L)において、RはH又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、
前記**は前記化学式(AF)、(BF)、(CF)又は(DF)のMに対する単結合による連結であり、前記*は下記化学式(1F)、(2F)、(3F)、(4F)又は(5F)の*に対する単結合による連結である。)
【化5】
(化学式(1F)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3F)において、Yはそれぞれ独立してH及びメチル基から選択され、化学式(1F)~(5F)において、*はそれぞれ前記化学式(L)の*に対する単結合による連結である。)
【化6】
(前記化学式(S1)及び(S2)において、Rは水素又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、GはC1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10のアリール基からなる群からそれぞれ独立して選択され、n’はそれぞれ独立して0~5の整数である。)
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の全体積を基準に、70,000超~2,000,000の分子量を有する高分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が3vol%~50vol%であり、300~70,000以下の分子量を有する低分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が50vol%~97vol%である、請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
前記低分子量領域のうち、低分子量領域であるエポキシ樹脂の全体積を基準に、分子量が300~2,000であるエポキシ樹脂の含量が30vol%~90vol%であり、分子量が2,000超~700,000であるエポキシ樹脂の含量が10vol%~70vol%である、請求項2に記載のエポキシ樹脂。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比が0.5以下である、請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
ホスフィン系触媒の存在下で、下記化学式(AS)~(DS)からなる群から選択された1種のエポキシ樹脂と、下記化学式(1)~(5)からなる群から選択された1種の2官能性芳香族アルコールとを混合し、該混合により得られる混合物を加熱する分子量調節反応によるエポキシ樹脂の製造方法。
【化7】
(前記化学式BSにおいて、Sは
【化8】
であり、
化学式DSにおいて、tは
【化9】
であり、
化学式AS~DSにおいて、nは1~100の整数であり、Kは下記化学式(E)のグリシジル基である。
【化10】
(化学式(1)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3)において、YはH及びメチル基からなる群からそれぞれ独立して選択される。)
【請求項6】
前記2官能性芳香族アルコールは、2官能性芳香族アルコールのヒドロキシ基が出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.05~0.5当量となる量で使用される、請求項5に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項7】
下記化学式(6)及び(7)から選択された少なくとも一種の1官能性芳香族アルコールが前記2官能性芳香族アルコールと併用される、請求項5に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化11】
(但し、前記式において、GはC1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10のアリール基からなる群からそれぞれ独立して選択され、n’はそれぞれ独立して0~5の整数である。)
【請求項8】
前記1官能性芳香族アルコールは、出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.05当量~0.5当量で使用される、請求項7に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記分子量調節反応は80℃~120℃の温度で行われる、請求項5に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記分子量調節反応は1時間~12時間行われる、請求項5に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記分子量調節反応の後に、分子量調節反応により製造されるエポキシ樹脂と下記化学式Bのイソシアネートアルコキシシランとを混合し、該混合により得られる混合物を加熱するアルコキシシリル化反応をさらに含む、請求項5から10のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
[化学式B]
OCN(CH2)3SiR1R2R3
(前記R1~R3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)
【請求項12】
請求項1に記載のエポキシ樹脂を含むエポキシ組成物。
【請求項13】
前記エポキシ組成物は、請求項1に記載のエポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂をさらに含む、請求項12に記載のエポキシ組成物。
【請求項14】
前記エポキシ組成物は熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項12に記載のエポキシ組成物。
【請求項15】
前記エポキシ組成物は熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項13に記載のエポキシ組成物。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか一項に記載のエポキシ組成物の硬化物。
【請求項17】
請求項16に記載の硬化物を含む物品。
【請求項18】
前記物品は、半導体パッケージング素材、半導体部品、半導体装置、電気素材、電気部品、電気装置、電子素材、電子部品、及び電子装置からなる群から選択される少なくとも
一種である、請求項17に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月5日に韓国知的所有権庁に提出された韓国特許出願第10-2021-0151657号に対する優先権の利益を主張し、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、分子量分布が調節されたエポキシ樹脂、その製造方法、それを含む組成物、及びその用途に関するものである。より詳細には、本発明は、2官能性芳香族アルコールとの連結(linkage)反応により低分子量領域から高分子量領域まで分子量分布の範囲が拡大されたエポキシ樹脂、その製造方法、それを含む組成物、及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0003】
エポキシ素材は、優れた機械的特性、電気絶縁性、耐熱性、耐水性及び接着性等の物性により、塗料、プリント配線基板、IC封止材、電気部品、電子部品、接着剤等として広く用いられる。
【0004】
しかし、半導体パッケージングに適用する際、シリコンウエハと比べてエポキシ素材の熱膨張係数(CTE、Coefficient of Thermal Expansion)が高く、部品の信頼性及び加工性が著しく制限される。エポキシ素材の熱膨張係数を下げるための研究が継続的に行われているが、エポキシ素材の熱膨張係数は要求されるレベルに比べて依然として大きい。したがって、改善された熱膨張特性を示すエポキシ素材の開発が求められてきた。
【0005】
また、エポキシ樹脂の分子量は、素材特性及び加工性に影響を与える。分子量の高いエポキシ樹脂を使用する場合、素材の靭性(toughness)やフィルム成形性などが向上する。しかし、分子量の増加により粘度が高くなり、高くなった粘度により加工性が減少するという問題点がある。逆に、分子量の低いエポキシ樹脂を使用する場合、低くなった粘度により加工性は向上するが、素材の柔軟性やフィルム成形性等は減少する。したがって、エポキシ樹脂の物性向上及び加工性の確保のためには、使用するエポキシ樹脂の分子量分布が調節された、すなわち、低分子量エポキシ樹脂と高分子量エポキシ樹脂とが同時に存在するようにエポキシ樹脂の分子量分布を調節する必要がある。
【0006】
本発明者は、改善された熱膨張特性を有するエポキシ樹脂としてアルコキシシリル基を有するエポキシ樹脂を開発し(韓国特許出願10-2013-0111473、10-2014-0021884、10-2018-0052731等)、エポキシ樹脂にアルコキシシリル基が導入されると、エポキシ複合体の熱膨張特性が大きく向上すること(すなわち、CTEの減少)を観察した。アルコキシシリル基を有するエポキシ化合物の製造方法に関する上記韓国特許出願10-2018-0052731では、マイルドな触媒と1官能性芳香族アルコールを開環剤として使用してアルコキシシリル基を有するエポキシ化合物を比較的容易に製造することができた。しかし、開環剤として1官能性芳香族アルコールのみを使用するため、分子量の調節、具体的には、出発物質であるエポキシ樹脂に比べて生成されるアルコキシシリル基を有するエポキシ樹脂の分子量を増加させにくいという問題があった。すなわち、低分子量領域と高分子量領域全般にわたる分子量分布を有するように調節しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許出願第10-2013-0111473号
【特許文献2】韓国特許出願第10-2014-0021884号
【特許文献3】韓国特許出願第10-2018-0052731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来のエポキシ樹脂における問題点、すなわち、低分子量領域と高分子量領域全般にわたる分子量分布を有するようにすることが調節しにくい従来技術の限界を克服することであって、分子量分布が調節されたエポキシ樹脂、その製造方法、それを含む組成物及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点によると、
(1)下記化学式(AF)、化学式(BF)、化学式(CF)及び化学式(DF)からなる群から選択される1種の第1構造単位と、
(2)下記化学式(1F)、化学式(2F)、化学式(3F)、化学式(4F)及び化学式(5F)からなる群から選択される1種の第2構造単位と、を含み、
上記第1構造単位と上記第2構造単位は、下記化学式(L)を介して連結され、
下記化学式(E)のグリシジル基により決定されるエポキシ当量(EEW、Epoxy
Equivalent Weight)が200g/Eq~1,000g/Eqであり、分子量分布の範囲が300~2,000,000である分子量分布が調節されたエポキシ樹脂が提供される。
【0010】
【化1】
(上記化学式(BF)において、Sは
【化2】
であり、
化学式(DF)において、tは
【化3】
であり、
化学式(AF)~(DF)において、nは1~100の整数であり、
上記エポキシ樹脂は、下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有するか、又は有さず、
上記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有する場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMの一部は、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする下記化学式(E)のグリシジル基であり、残りのMは下記化学式(S1)及び(S2)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
上記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有さない場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMは、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする、下記化学式(E)のグリシジル基である。)
【化4】
(上記化学式(L)において、RはH又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基、好ましくはC1~C3アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、
上記**は上記化学式(AF)、(BF)、(CF)又は(DF)のMに対する単結合による連結であり、上記*は下記化学式(1F)、(2F)、(3F)、(4F)又は(5F)の*に対する単結合による連結である。)
【化5】
(化学式(1F)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3F)において、YはそれぞれH及びメチル基から独立して選択され、化学式(1F)~(5F)において、*はそれぞれ上記化学式(L)の*に対する単結合による連結である。)
【化6】
(上記化学式(S1)及び(S2)において、Rは水素又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、GはC1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10のアリール基からなる群からそれぞれ独立して選択され、n’はそれぞれ独立して0~5の整数である。)
【0011】
本発明の第2観点によると、上記エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の全体積を基準に、70,000超~2,000,000の分子量を有する高分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が3vol%~50vol%(すなわち、3vol%以上~50vol%以下)であり
、300~70,000以下の分子量を有する低分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が50vol%~97vol%である、エポキシ樹脂が提供される。
【0012】
本発明の第3観点によると、上記エポキシ樹脂は、上記低分子量領域のうち、低分子量領域であるエポキシ樹脂の全体積を基準に、分子量が300~2,000であるエポキシ樹脂の含量が30vol%~90vol%であり、分子量が2,000超~700,000であるエポキシ樹脂の含量が10vol%~70vol%であるエポキシ樹脂が提供される。
【0013】
本発明の第4観点によると、[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比が0.5以下である、エポキシ樹脂が提供される。
【0014】
本発明の第5観点によると、ホスフィン系触の媒存在下で、下記化学式(AS)~(DS)からなる群から選択された1種のエポキシ樹脂と、下記化学式(1)~(5)からなる群から選択された1種の2官能性芳香族アルコールとを混合し、該混合により得られる混合物を加熱する分子量調節反応によるエポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【化7】
(上記化学式BSにおいて、Sは
【化8】
であり、
化学式DSにおいて、tは
【化9】
であり、
化学式AS~DSにおいて、nは1~100の整数であり、Kは下記化学式(E)のグリシジル基である。)
【化10】
(化学式(1)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3)において、YはH及びメチル基からなる群からそれぞれ独立して選択される。)
【0015】
本発明の第6観点によると、上記2官能性芳香族アルコールは、2官能性芳香族アルコールのヒドロキシ基が出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.05~0.5当量となる量で使用されるエポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第7観点によると、下記化学式(6)及び(7)から選択された少なくとも一種の1官能性芳香族アルコールが上記2官能性芳香族アルコールと併用されるエポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【化11】
(但し、上記式において、GはC1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10のアリール基からなる群からそれぞれ独立して選択され、n’はそれぞれ独立して0~5の整数である。)
【0017】
本発明の第8観点によると、上記1官能性芳香族アルコールは、出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.05当量~0.5当量で使用される、エポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第9観点によると、上記分子量調節反応は80℃~120℃の温度で行われる、エポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の第10観点によると、上記分子量調節反応は1時間~12時間行われる、エポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【0020】
本発明の第11観点によると、上記分子量調節反応の後に、分子量調節反応で製造されるエポキシ樹脂と下記化学式Bのイソシアネートアルコキシシランとを混合し、該混合により得られる混合物を加熱するアルコキシシリル化反応をさらに含む、上記第5観点~第10観点のいずれか一観点によるエポキシ樹脂の製造方法が提供される。
[化学式B]
OCN(CH2)3SiR1R2R3
(上記R1~R3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)
【0021】
本発明の第12観点によると、上記いずれかの観点のエポキシ樹脂を含むエポキシ組成物が提供される。
【0022】
本発明の第13観点によると、上記エポキシ組成物は、第1観点のエポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂をさらに含む。
【0023】
本発明の第14観点によると、第12観点のエポキシ組成物は熱可塑性樹脂をさらに含む。
【0024】
本発明の第15観点によると、第13観点のエポキシ組成物は熱可塑性樹脂をさらに含む。
【0025】
本発明の第16観点によると、上記いずれかの観点のエポキシ組成物の硬化物が提供される。
【0026】
本発明の第17観点によると、第16観点の硬化物を含む物品が提供される。
【0027】
本発明の第18観点によると、上記物品は半導体パッケージング素材、半導体部品、半導体装置、電気素材、電気部品、電気装置、電子素材、電子部品、及び電子装置からなる群から選択される少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂は、低分子量領域(70,000以下、例えば、300~70,000)から高分子量領域(70,000超、例えば、70,000超~2,000,000)までの広い分子量範囲を有する。このように、出発物質であるエポキシ樹脂にと比較して分子量の上限値が増大し、分子量分布の範囲が拡大された本発明のエポキシ樹脂は、高分子量領域であるエポキシ樹脂によりエポキシシステムの熱的特性が向上し、低分子量領域であるエポキシ樹脂が共に存在することにより、優れた加工性を兼ね備える。具体的には、低分子量領域から高分子量領域までの幅広い分子量分布によって優れた物性、例えば、優れた熱膨張特性(低い熱膨張係数(CTE))及び加工性を示す。したがって、本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂、及び/又はそれを含むエポキシ組成物は、エポキシ硬化物の低熱膨張性、柔軟性、フィルム成形性、コーティング性、及び/又は接着性等が求められる用途に効果的に使用することができる。
【0029】
また、本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂の製造方法では、2官能性芳香族アルコール及び選択的に1官能性芳香族アルコールの割合及び/又は濃度等を調節することにより、エポキシ樹脂の分子量の増加及び分子量分布の範囲を容易に調節することができる。すなわち、本発明の方法により結果的に得られるエポキシ樹脂は、70,000以下の低分子量領域から70,000超~2,000,000までの高分子量領域にわたる分子量を含む広い分子量分布を有するようになる。したがって、本発明のエポキシ樹脂の製造方法は、既存の高分子量領域を含むエポキシ樹脂を製造しにくいという問題を解決することである。
【0030】
本発明の上記および他の態様、特徴、および利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明に適合することから、より明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】合成例1の出発物質であるエポキシ樹脂と製造されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂のゲル透過クロマトグラフである。
【
図2】比較合成例1の出発物質であるエポキシ樹脂と製造されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂のゲル透過クロマトグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0033】
本発明は、上述のように、従来のエポキシ樹脂の分子量範囲の拡大調節に対する限界を克服したものであって、本発明による、エポキシ樹脂は、低分子量領域から高分子量領域までの分子量を有するように分子量分布の範囲が拡大されたものである。本発明において「低分子量領域」とは、分子量が70,000以下、例えば、300~70,000である分子量領域を指す。本発明において「高分子量領域」とは、分子量が70,000超、例えば、70,000超~2,000,000、例えば、70,000超~1,000,000である分子量領域を指す。本発明において「分子量分布が調節された」とは、低分子量領域から高分子量領域までの分子量を有するように分子量分布が調節されたことを意味する。
【0034】
A.分子量分布が調節されたエポキシ樹脂
本発明の一実施態様によると、
(1)下記化学式(AF)、化学式(BF)、化学式(CF)及び化学式(DF)からなる群群から選択される1種の第1構造単位と、
(2)下記化学式(1F)、化学式(2F)、化学式(3F)、化学式(4F)及び化学式(5F)からなる群群から選択される1種の第2構造単位と、を含み、
上記第1構造単位と上記第2構造単位は、下記化学式(L)を介して連結され、
下記化学式(E)のグリシジル基により決定されるエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqであり、分子量分布の範囲が300~2,000,000である分子量分布が調節されたエポキシ樹脂が提供される。
【化12】
(上記化学式(BF)において、Sは
【化13】
であり、
化学式(DF)において、tは
【化14】
であり、
化学式(AF)~(DF)において、nは1~100の整数であり、
上記エポキシ樹脂は、下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも一つを有するか、又は有さず、
上記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有する場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMの一部は、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする下記化学式(E)のグリシジル基であり、残りのMは下記化学式(S1)及び(S2)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
上記エポキシ樹脂が下記化学式(S1)及び(S2)のうち少なくとも1種を有さない場合に、複数のMのうち少なくとも一つは、下記化学式(L)の**に対する単結合による連結であり、残りのMは、エポキシ樹脂のエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqとなるようにする、下記化学式(E)のグリシジル基である。)
【化15】
(上記化学式(L)において、RはH又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基、好ましくはC1~C3アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、
上記**は上記化学式(AF)、(BF)、(CF)又は(DF)のMに対する単結合による連結であり、上記*は下記化学式(1F)、(2F)、(3F)、(4F)又は(5F)の*に対する単結合による連結である。)
【化16】
(化学式(1F)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3F)において、YはそれぞれH及びメチル基から独立して選択され、化学式(1F)~(5F)において、*はそれぞれ化学式(L)の*に対する単結合による連結である。)
【化17】
(上記化学式(S1)及び(S2)において、Rは水素又は-C(=O)-NH-(CH
2)
3-SiR
1R
2R
3(ここで、R
1~R
3のうち少なくとも一つはC1~C5アル
コキシ基、好ましくはC1~C3アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。)であり、GはC1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10のアリール基からなる群からそれぞれ独立して選択され、n’はそれぞれ独立して0~5の整数である。)
【0035】
また、上記本発明の分子量範囲が調節されたエポキシ樹脂(以下、「本発明のエポキシ樹脂」又は「エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2)」ともいう。)は、上記化学式(E)のグリシジル基により決定されるエポキシ当量(EEW)が200g/Eq~1,000g/Eqである。EEWが200g/Eq未満であると、高分子量のエポキシ樹脂を確保しにくい点があり、EEWが1,000g/Eqを超えると、エポキシ樹脂に要求されるエポキシド基の濃度が不足する。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂は、上記化学式(L)で定義された連結基によりエポキシ樹脂の分子量が増加して、低分子量領域から高分子量領域までの広い分子量分布の範囲を有する。本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂の分子量分布の範囲は300~2,000,000、例えば、300~1,000,000、例えば300~500,000、例えば、300~100,000であってもよい。上記分子量分布は、ゲル透過クロマトグラフィーで測定した分子量である。
【0037】
分子量分布の下限値である300は、一般的なエポキシ樹脂分子量の下限値であり、本発明による分子量範囲が調節されたエポキシ樹脂は、一般的なエポキシ樹脂分子量の下限値から2,000,000まで分子量が増大したことを特徴とする。分子量が2,000,000を超えると、粘度増加により加工性が低下する可能性がある。
【0038】
さらに、本発明のエポキシ樹脂の分子量分布において、エポキシ樹脂の全体積を基準に、(1)70,000超~2,000,000の分子量を有する高分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が3vol%~50vol%、好ましくは3vol%~40vol%であり、(2)300~70,000以下の分子量を有する低分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が50vol%~97vol%、好ましくは60vol%~97vol%である。上記高分子量領域であるエポキシ樹脂の含量が3vol%未満であると(すなわち、低分子量領域のエポキシ樹脂の含量が97vol%超であると)、分子量増加による物性効果を観察しにくく、高分子量領域であるエポキシ樹脂が50vol%超であると(すなわち、低分子量領域のエポキシ樹脂が50vol%未満であると)、加工性が低下して物性向上が期待できない。
【0039】
また、加工性を確保するためには、低分子量領域(分子量300~70,000以下)のうち、分子量300~2,000以下の領域の含量が全低分子量領域であるエポキシ樹脂の含量の総体積を基準に、30vol%~90vol%であり、分子量2,000超~70,000以下の領域の含量が10~70vol%であることが好ましい。これは、加工性を確保するために粘度をより効果的に制御するためである。
【0040】
さらに、本発明のエポキシ樹脂は、好ましくは[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比が0.5以下であってもよい。[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比が0.5を超えると、アルコキシシリル基間の副反応が増加し得るため好ましくない。エポキシ樹脂は、アルコキシシリル基を有さなくてもよいため、[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比の下限値は特に規定されない。
【0041】
具体的に、本発明による分子量分布が調節されたエポキシ樹脂は、第1構造単位と第2構造単位としてそれぞれ、化学式(AF)と化学式(1F)、化学式(AF)と化学式(2F)、化学式(AF)と化学式(3F)、化学式(AF)と化学式(4F)、化学式(
AF)と化学式(5F)、化学式(BF)と化学式(1F)、化学式(BF)と化学式(2F)、化学式(BF)と化学式(3F)、化学式(BF)と化学式(4F)、化学式(BF)と化学式(5F)、化学式(CF)と化学式(1F)、化学式(CF)と化学式(2F)、化学式(CF)と化学式(3F)、化学式(CF)と化学式(4F)、化学式(CF)と化学式(5F)、化学式(DF)と化学式(1F)、化学式(DF)と化学式(2F)、化学式(DF)と化学式(3F)、化学式(DF)と化学式(4F)、又は化学式(DF)と化学式(5F)を含むことができる。
【0042】
本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂は、例えば、電子素材、例えば、これらに限定されるものではないが、半導体基板、例えば、IC基板、積層板、プリプレグ、封止材料(パッケージング材料)、プリント配線基板、電子部品、接着剤、塗料、複合材料など各種の用途に使用され得る。
【0043】
B.エポキシ樹脂の製造方法
本発明の他の実施態様によると、出発物質であるエポキシ樹脂の分子量調節反応により製造される分子量分布が調節されたエポキシ樹脂の製造方法が提供される。
【0044】
本発明のさらに他の実施態様によると、上記分子量分布が調節されたエポキシ樹脂の製造方法は、必要に応じて、分子量調節反応の後にアルコキシシリル化反応をさらに含むことができる。
【0045】
本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂の製造方法の概略的な概念は、下記の反応スキーム1に示す通りである。
【化18】
【0046】
出発物質であるエポキシ樹脂の分子量調節反応は、マイルドなホスフィン系の触媒の存在下で出発物質であるエポキシ樹脂と2官能性芳香族アルコールとの反応により行われ、ここで反応は、出発物質であるエポキシ樹脂と2官能性芳香族アルコールとを混合し、該
混合により得られる混合物を加熱して行われる。出発物質としては、化学式(AS)~(DS)からなる群から選択される1種のエポキシ樹脂が使用されてもよい。
【0047】
【化19】
(上記化学式BSにおいて、Sは
【化20】
であり、
化学式DSにおいて、tは
【化21】
であり、
化学式AS~DSにおいて、nは1~100の整数であり、Kは下記化学式(E)のグリシジル基である。)
【化22】
【0048】
出発物質であるエポキシ樹脂の数平均分子量分布は300~30,000の範囲であり、これは、一般的なエポキシ樹脂の分子量分布の範囲であり、特に限定されるものではない。
【0049】
上記2官能性芳香族アルコールは、下記化学式(1)~(5)からなる群から選択される1種が使用されてもよい。
【化23】
(化学式(1)において、Xは-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-S-又は-SO
2-であり、化学式(3)において、YはH及びメチル基からなる群からそれぞれ独立して選択される。)
【0050】
また、必要に応じて、選択的に1官能性芳香族アルコールが上記2官能性芳香族アルコールと併用されてもよい。上記2官能性芳香族アルコールと1官能性芳香族アルコールとを併用することにより、エポキシ樹脂の高分子量化をよりマイルド(mild)に調節することができる。
【0051】
上記1官能性芳香族アルコールは、下記化学式(6)のフェノール類及び下記化学式(7)のナフトール類からなる群から選択された1種以上が使用されてもよく、又は1種が使用されてもよい。
【化24】
【0052】
但し、上記化学式(6)及び(7)において、Gはフェノール又はナフトール芳香族環に対する置換基であって、C1~C10のアルキル基、アリル基、及びC6又はC10の
アリール基からなる群からそれぞれ独立して選択されてもよい。n’はそれぞれ独立して0(すなわち、非置換のフェノール又はナフトール)~5の整数である。
【0053】
上記2官能性芳香族アルコールは2つのヒドロキシ基を有する。分子量調節反応において、2官能性芳香族アルコールの2つのヒドロキシ基と出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシド基との反応により形成された上記化学式(L)(但し、R=H)の連結基によって、出発物質であるエポキシ樹脂に由来する上記第1構造単位と、2官能性芳香族アルコールに由来する上記第2構造単位とが連結されて製造されるエポキシ樹脂は、高分子量領域を有するように高分子量化する。すなわち、このような連結により、出発物質であるエポキシ樹脂の分子量に比べて高分子量化したエポキシ樹脂が生成される。これにより得られたエポキシ樹脂の分子量は、低分子量領域から高分子量領域まで分子量分布の範囲が拡大される。
【0054】
上記2官能性芳香族アルコールは、2官能性芳香族アルコールのヒドロキシ基が出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.05当量~0.5当量、より好ましくは0.05当量~0.4当量となる量で使用され得る。出発物質のエポキシ基1当量に対してヒドロキシ基が0.05当量未満となる量で2官能性芳香族アルコールが使用されると、開環率が低調となり、最高分子量の増加及び分子量分布の拡大が低調となる。出発物質のエポキシ基1当量に対してヒドロキシ基が0.5当量を超える量で2官能性芳香族アルコールが使用されると、エポキシ樹脂の分子量増加が大きすぎてゲル化が進む可能性がある。
【0055】
上記1官能性芳香族アルコールは1個のヒドロキシ基を有するため、芳香族コア構造とエポキシコア構造間のリンケージ形成には作用できない。したがって、必要に応じて、1官能性芳香族アルコールを併用することにより、生成物であるエポキシ樹脂の分子量がこれ以上増加しないように調節し、後述する更なるアルコキシシリル化反応に参加できるヒドロキシ官能基の生成を増加させることができる。1官能性芳香族アルコールがさらに使用される場合、本発明のエポキシ樹脂は、上記化学式S1及びS2の置換基を有することができる。
【0056】
上記1官能性芳香族アルコールは、出発物質であるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.4当量以下、好ましくは0.05当量~0.4当量で使用され得る。1官能性芳香族アルコールは、さらに任意に使用できる物質であって、下限使用量は限定されない。但し、1官能性芳香族アルコールの添加時に使用目的を達成させるためには、0.05当量以上使用することが好ましい。1官能性芳香族アルコールの使用量が0.05当量未満であると、1官能性芳香族アルコールの添加による十分なヒドロキシ基の濃度が確保できない可能性があり、0.4当量を超えると、分子量増加による分子量分布の拡大調節が困難であるという点で好ましくない。
【0057】
上記分子量調節反応は、マイルドな触媒の存在下で行われる。マイルドな触媒としては、ホスフィン系の触媒が使用されてもよい。ホスフィン系の触媒としては、例えば、トリフェニルホスフィン(TPP)、ジフェニルプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンでからなる群から選択される少なくとも1種以上が使用されてもよく、又は1種が使用されてもよい。
【0058】
上記ホスフィン系触媒は、出発物質であるエポキシ樹脂100重量部当たり0.01~3重量部、好ましくは0.05~2重量部で使用され得る。ホスフィン系触媒の使用量が0.01重量部未満であると、触媒の作用による反応速度の増大による分子量分布の調節が低調となり、3重量部を超えても更なる反応速度の向上が観察されないため、3重量部を超えて使用することは好ましくない。
【0059】
上記ホスフィン系の触媒は、分子量調節反応で使用された2官能性芳香族アルコールが全て消費されると、酸化して触媒活性を失うため、(1)分子量の調節が容易であるだけでなく、(2)残留ホスフィン系触媒を除去する必要がないため製造工程が単純化され得る。
【0060】
上記分子量調節反応では、触媒としてNaOH、KOH、K2HCO3、又はK2CO3などのような塩基を使用しない。このような塩基を使用すると、分子量300~70,000の低分子量領域であるエポキシ樹脂が得られにくく、分子量調節反応の後にワークアップ(workup)のような精製工程が必要であるだけでなく、後述するアルコキシシリル化反応に影響を与えるなど、製造工程上の困難を伴うためである。
【0061】
上記分子量調節反応では、必要に応じて溶媒を選択的に使用することができる。例えば、分子量調節反応において、別途の溶媒がなくても、反応温度における反応物の粘度が反応の実施に適していれば、溶媒を使用しなくてもよい。すなわち、反応物の混合及び攪拌が溶媒なしで円滑に実施可能な程度に反応物の粘度が低くなると、別途の溶媒を必要とせず、これは当業者が容易に判断することができる。溶媒を使用する場合、反応物をよく溶解し、反応に何ら悪影響を及ぼさず、反応後に容易に除去できる限り、如何なる有機溶媒(非プロトン性溶媒)が使用されてもよい。このような溶媒としては、これに特に限定するものではないが、例えば、アセトニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、MEK(メチルエチルケトン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、トルエン、又はキシレンなどが単独で使用又は2つ以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は特に限定するものではなく、反応物が十分に溶解し、反応に好ましくない影響を及ぼさない範囲で適切な量を使用することができ、当業者はこれを考慮して適切に選択することができる。
【0062】
上記分子量調節反応の反応温度及び反応時間は反応物の種類に応じて異なるが、分子量調節反応は、例えば80℃~120℃、好ましくは100℃~120℃で行うことができる。温度が80℃未満と低くなると、開環反応の速度が遅くなり、120℃を超えると、副反応が進む可能性がある。分子量調節反応の反応時間は1時間~12時間、好ましくは2時間~6時間であってもよい。最適な反応時間は、エポキシ基の構造、開環度、溶媒、触媒の量によって決定されるが、1時間未満であると、反応が完了しない可能性があり、12時間を超えても更なる反応が進まないため、12時間超の反応は不要である。
【0063】
上記分子量調節反応により、例えば、下記の反応スキーム2に示すように、様々な分子量を有する様々なエポキシ樹脂が混合した状態で製造され得る、これは、高分子樹脂の製造反応において一般的であることが当業者によく知られている。
【0064】
【0065】
上記分子量調節反応により、最高分子量が増加し、分子量分布の範囲が拡大されたエポキシ樹脂が製造される。また、様々な分子量範囲のエポキシ樹脂が共に形成されることができ、これらが混在した状態で製造され、そのまま使用され得る。具体的には、上記項目(A)に記載した本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂のうち連結基である化学式(L)、そして存在する場合、化学式(S1)及び(S2)において、R=Hであるエポキシ樹脂が得られる。
【0066】
上記分子量調節反応の後に、分子量調節反応により製造された分子量分布が調節されたエポキシ樹脂のヒドロキシ基をアルコキシシリル化するアルコキシシリル化反応を、必要に応じてさらに行うことができる。アルコキシシリル化反応をさらに行うことによって、分子量分布が調節されたエポキシ樹脂のヒドロキシ基にアルコキシシリル基が導入され、分子量分布が制御されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂が得られる。
【0067】
アルコキシシリル化反応では、上記分子量調節反応で得られた分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(以下、「エポキシ(F1)」ともいう)とイソシアネートアルコキシシランが反応して分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ 樹脂(以下、「エポキシ(F2)」ともいう)が生成され、ここで、反応はエポキシ(F1)とイソシアネートアルコキシシランとを混合し、該混合により得られた混合物を加熱することで行われる。
【0068】
上記アルコキシシリル化反応に使用される上記イソシアネートアルコキシシランは、下記化学式Bで表すことができる。
[化学式B]
OCN(CH2)3SiR1R2R3
【0069】
上記R1~R3のうち少なくとも一つはC1~C5アルコキシ基、好ましくはC1~C3アルコキシ基であり、残りはC1~C10アルキル基である。
上記アルコキシシリル化反応において、エポキシ(F1)中のヒドロキシ基とイソシアネートアルコキシシランのアルコキシシラン基が化学量論によって当量比で反応する。したがって、イソシアネートアルコキシシランを、エポキシ(F1)においてヒドロキシ基
をアルコキシシリル化しようとする程度に応じて適切な割合で反応させて、アルコキシシリル化の程度を調節することができる。例えば、エポキシ(F1)のヒドロキシ基1当量に対して、イソシアネートアルコキシシランを1.2当量以下、好ましくは0.1当量~1.2当量、より好ましくは0.3~1.0当量、さらに好ましくは1当量で反応させることができる。アルコキシシリル化反応は、選択的な段階であって、イソシアネートアルコキシシランの下限使用量は特に制限されない。但し、アルコキシシリル化反応を行う場合に、アルコキシシリル化反応により意図するアルコキシシリル基の形成を考慮して、0.1当量以上使用されることが好ましい。例えば、イソシアネートアルコキシシランの量がエポキシ(F1)のヒドロキシ基1当量に対して、0.1当量未満であると、生成物においてアルコキシシリル基が不十分であり、1.2当量であると、十分にアルコキシシリル化するため、これより超過量を使用する必要はない。
【0070】
上記アルコキシシリル化反応には、必要に応じてアミン触媒を任意に使用することができる。例えば、アルコキシシリル化反応において、別途の触媒がなくても反応温度でアルコキシシリル化反応が進む場合、アミン触媒を使用しなくてもよい。アミン触媒を使用する場合、これに限定するものではないが、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン及びピリジンなどが使用されてもよい。NaOH、KOH、K2HCO3、又はK2CO3などのような塩基は、分子量調節反応に好ましくなく、イソシアネートアルコキシシランと反応して副反応が起こるため使用することができない。これらのアミン触媒は1種又は2種以上が併用されてもよい。
【0071】
上記アミン触媒は、上記エポキシ(F1)のヒドロキシ基1当量に対して1当量以下で使用することが反応効率の面で良い。アミン触媒は選択的に使用できる成分であって、下限使用量は特定されず、1当量の量で添加することで意図する触媒作用を示し、これ以上の過量は不要である。
【0072】
上記アルコキシシリル化反応において溶媒は、必要に応じて任意に使用されてもよい。例えば、別途の溶媒がなくても、反応温度における反応物の粘度が反応の実施に適していれば、溶媒を使用しなくてもよい。すなわち、反応物の混合及び攪拌が溶媒なしで円滑に実施可能な程度に反応物の粘度が低いと、別途の溶媒を必要とせず、これは当業者が容易に判断することができる。溶媒を使用する場合に、可能な溶媒としては、反応物をよく溶解し、反応に何ら悪影響を及ぼさず、反応後に容易に除去できる限り、如何なる非プロトン性溶媒が使用されてもよい。溶媒としては、これに限定するものではないが、例えば、トルエン、キシレン、アセトニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、MEK(メチルエチルケトン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、メチレンクロライド(MC)などが使用されてもよい。これらの溶媒は1種又は2種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は特に限定するものではなく、反応物が十分に溶解し、反応に好ましくない影響を及ぼさない範囲で適切な量を使用することができ、当業者はこれを考慮して適切に選択することができる。
【0073】
上記アルコキシシリル化反応の反応温度及び反応時間は反応物に応じて異なるが、エポキシ樹脂のヒドロキシ基は、低温では反応速度が遅い(反応性が低い)ため、反応温度が40℃以上であることが好ましい。また、反応温度が150℃を超えると、反応時間中に反応物の熱的安定性が低下する可能性がある。したがって、アルコキシシリル化反応は40℃~150℃の温度で行われる。
【0074】
上記アルコキシシリル化反応は1時間~48時間、好ましくは12時間~24時間行うことができる。1時間未満であると、ヒドロキシ基のアルコキシシリル化が不十分であり、48時間を超えると、更なる追加反応が行われないため不要である。
【0075】
上記アルコキシシリル化反応により分子量が増加し、分子量分布の範囲が拡大されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))が製造される。また、様々な分子量のアルコキシシリル化エポキシ樹脂が共に形成されることができ、これらが混在した状態で製造され、そのまま使用され得る。具体的に、更なるアルコキシシリル化反応により、上記項目(a)に記載した本発明による分子量分布が調節されたエポキシ樹脂が製造される。
【0076】
C.エポキシ組成物
上記本発明の分子量が調節されたエポキシ樹脂は、従来この技術分野においてエポキシ樹脂が用いられる如何なる分野、適用先及び用途に使用されてもよい。
【0077】
本発明の一実施態様において、上記本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))を含むエポキシ樹脂組成物が提供される。
【0078】
本発明の他の実施態様によると、上記本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))を含むエポキシ樹脂組成物は、上記本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))とは異なるエポキシ樹脂(以下、「エポキシ(G)」ともいう)をさらに含むことができる。
【0079】
本発明のさらに他の実施態様によると、上記本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))を含むエポキシ樹脂組成物;及び/又はエポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2)とエポキシ(G)を含むエポキシ組成物は、必要に応じて熱可塑性樹脂及び/又は無機フィラーをさらに含むことができる。
【0080】
本発明による分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))は、上記項目(A)エポキシ樹脂に記載したエポキシ樹脂であって、エポキシ樹脂の分子量分布は調節され、上記項目(A)に記載された内容が全て適用される。
【0081】
上記エポキシ(G)としては、上記本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2))でないものとして、この技術分野において既知公知の如何なる一般的なエポキシ樹脂が使用されてもよい。一般的なエポキシ樹脂の種類及び/又は物性は特に制限されるものではなく、これは、この技術分野において一般的に知られている事項であって、ここでは詳細に記述しない。一般的なエポキシ樹脂の例を挙げると、これに限定されるものではないが、ビスフェノール、ビフェニル、ナフタレン、ベンゼン、チオジフェノール、フルオレン、アントラセン、イソシアヌレート、トリフェニルメタン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン、テトラフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、アミノフェノール、脂環族、脂肪族又はノボラックユニットを有するグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル系エポキシ樹脂で構成されるグリシジル系エポキシ樹脂グループ及び脂環族系エポキシ樹脂から選択された少なくとも一種であってもよい。上述の一般的なエポキシ樹脂は、さらに既存の一般的なエポキシ樹脂であってアルコキシシリル基を有するように改質されたものであってもよい。
【0082】
上記エポキシ(G)は、必要に応じて本発明のエポキシ組成物に配合される任意成分であって、エポキシ組成物が適用されるエポキシ素材の要求物性(加工性、モジュラス、熱的特性等)を考慮して、エポキシ組成物にエポキシ樹脂の総重量を基準に、95wt%以下、好ましくは5wt%~95wt%で配合されてもよい。任意成分として含量の下限値が特定されるものではないが、エポキシ(G)が使用される場合に、この使用による物性及び/又は加工性調節効果を奏するように5wt%以上使用されることが好ましく、95
wt%を超えると、相対的にエポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2)の含量が少なくなり、エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2)による物性改善効果が不十分になる可能性がある。例えば、本発明のエポキシ組成物において、エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の総重量を基準に、エポキシ(F1)及び/又はエポキシ(F2)5wt%~95wt%、並びにエポキシ(G)5wt%~95wt%で組成され得る。
【0083】
上記熱可塑性樹脂は、物性及び/又は加工性を調節する用途として使用される。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂などを単独又は2種以上を併用することができ、これは、この技術分野において一般的に知られている事項であって、ここでは詳細に記載しない。
【0084】
熱可塑性樹脂が使用される場合、これは、この技術分野において一般的に使用される量で使用されることができ、特に限定するものではない。但し、例えば、エポキシ樹脂100重量部に対して、エポキシ配合の加工性(フィルム成形性)及び/又は要求物性(例えば、靭性)を示すように150重量部以下(熱可塑性樹脂は選択的に添加される成分であって、下限値は限定されない)、好ましくは10~150重量部の範囲から適切に選択して使用することができるが、これに限定するものではない。
【0085】
また、エポキシ組成物の物性を補強するために、無機フィラーとしては、この技術分野において一般的に使用される任意の無機フィラーが使用され得る。
【0086】
これに限定されるものではないが、例えば、無機フィラーとしては、従来エポキシ樹脂の物性を補強するために使用されることが知られている任意の無機フィラーを使用することができる。具体的に、これに限定されるものではないが、例えば、無機フィラーは、シリカ(例えば、溶融シリカ及び結晶性シリカを含む)、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のような金属酸化物、窒化ケイ素及び窒化アルミニウム、及びシルセスキオキサンからなる群から選択される少なくとも一種が使用されてもよい。上記無機フィラーは、単独又は2種以上の混合物で使用されてもよい。無機フィラーは、この技術分野において一般的に知られている事項であって、ここでは詳細に記載しない。
【0087】
無機フィラーは、この技術分野において一般的に使用される範囲、例えば、エポキシ組成物の固形分含量の総重量を基準に90wt%以下、好ましくは70wt%以下、より好ましくは60wt%以下、そして最も好ましくは50wt%以下で物性及び/又は加工性を考慮した配合が可能であるが、これに限定されない。90wt%を超えると、工程が難しくなる可能性があり、無機フィラーは選択的に配合される成分であって下限値は限定されない。本発明において、「エポキシ組成物の固形分含量の総重量」とは、エポキシ組成物に偶発的に存在し得る液体成分及び/又は溶媒が使用される場合に、使用された溶媒など、任意の液体成分が除去されて硬化するエポキシ組成物の固形分含量の総重量を意味する。例えば、本発明のエポキシ組成物の固形分含量の総重量を基準に、無機フィラーの含量を除いた残りの含量(例えば、エポキシ組成物の固形分含量の総重量を基準に、無機フィラーが90wt%であると、残りの含量は、10wt%)がエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤、硬化触媒及び後述するその他の添加剤など、全ての有機成分の含量である。
【0088】
上述のいずれかの実施態様のエポキシ組成物は、エポキシ組成物の硬化のために硬化剤及び硬化触媒を含み、これは、この技術分野において一般的なことである。上記硬化剤としては、エポキシ樹脂に対する硬化剤として一般的に知られている任意の硬化剤が使用されてもよく、これに特に限定するものではないが、例えば、アミン系、ポリフェノール系、酸無水物系などが使用されてもよい。これは、この技術分野において一般的に知られている事項であって、ここでは詳細に記載しない。
【0089】
目的とする硬化度の範囲に応じてエポキシ樹脂のエポキシド基の濃度を基準にして硬化剤の含量を調節することができる。これに限定するものではないが、例えば、硬化剤はエポキシド基の当量:硬化剤のエポキシド基との反応官能基の当量の割合が1:0.5~2.0、好ましくは1:0.8~1.5となるように硬化剤の含量を調節して使用することが好ましい。上記硬化剤のエポキシド基との反応官能基は、例えば、アミン系触媒ではアミン基、ポリフェノール系触媒ではフェノール性水酸基であり、この技術分野において一般的に知られている。
【0090】
硬化触媒としては、この技術分野においてエポキシ組成物の硬化に一般的に使用されることが知られている如何なる硬化触媒が使用されてもよいが、これに限定するものではない。但し、例えば、第三級アミン系、第四級アンモニウム系、有機酸塩系、リン系化合物等の硬化触媒が使用されることができ、これは、この技術分野において一般的に知られている事項であって、ここでは詳細に記載しない。
【0091】
硬化触媒は、この技術分野において一般的に使用される量で配合して使用することができる。これに限定するものではないが、例えば、上記エポキシ樹脂100重量部に対して0.1~10重量部、例えば0.2~5重量部で使用され得る。硬化触媒は、硬化反応の促進効果及び硬化反応の速度制御の面で上記含量で使用されることが好ましい。上記硬化触媒を上記範囲の配合量で使用することにより硬化が効果的に促進され、作業処理量の向上が期待できる。
【0092】
本発明の任意の実施態様によるエポキシ組成物は、エポキシ組成物の物性を損なわない範囲で、組成物の物性調節のためにこの技術分野のエポキシ組成物に通常配合される難燃剤、可塑剤、抗菌剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、カップリング剤、粘度調節剤、希釈剤、成形用製剤などのその他の添加剤も必要に応じて配合され得る。また、硬化前に配合が容易に分散できるように、必要に応じて溶媒を使用してエポキシ組成物を分散させることもできる。このようなその他の添加剤及び/又は溶媒の種類、配合、含量などは、当業者に一般的に知られている事項であって、本明細書では詳細に記述しない。
【0093】
本発明の他の実施態様によると、上述のいずれかの実施態様によるエポキシ組成物の硬化物が提供される。硬化物はエポキシ組成物の硬化、例えば、熱硬化により得られ、エポキシ組成物の硬化方法及び硬化条件等は、この技術分野において一般的に知られている内容であって、ここでは詳細には記述しない。また、硬化物は複合体を含む意味として使用される。
【0094】
本発明のさらに他の実施態様によると、上述の本発明のいずれかのエポキシ組成物及び/又は硬化物を含む物品が提供される。上記物品は、半導体素材、半導体部品、半導体装置、 電気素材、電気部品、電気装置、電子素材、電子部品、電子装置などであってもよい。上記半導体装置は、半導体素材及び/又は半導体部品を含むものであってもよく、 上記電気装置は、電気素材及び/又は電気部品を含むものであってもよく、上記電子装置は、上記電子素材及び/又は電子部品を含むものであってもよい。半導体及び/又は電子素材はこれに限定するものではないが、例えば、半導体用基板、プリプレグ、プリプレグに金属層が配置された積層板、基板、封止材料(パッケージング材料)、ビルドアップフィルム等だけでなく、プリント配線基板などであってもよい。具体的に、本発明のエポキシ組成物及び/又は硬化物は、これに限定されるものではないが、例えば、半導体装置用EMC(エポキシモールディングコンパウンド)、アンダーフィル、DAF(ダイアタッチフィルム、ダイボンディングフィルム)等に使用してもよい。また、本発明のエポキシ組成物は、接着剤、塗料及び複合材料など、各種の用途に適用することができる。
【0095】
実施例
以下、実施例を通じて本発明についてより詳細に説明する。しかし、下記の実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0096】
A.合成例
合成例1
室温(20~25℃、以下同じ)で2口フラスコにビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(KEB-3180-M80、コーロンインダストリー、上記化学式(AS)に該当、EEW210g/Eq)65g、ビスフェノールA2.95g、フェノール2.43g及びメチルエチルケトン(MEK)16.3gを入れ、115℃で均一な溶液が製造されるように攪拌した。その後、トリフェニルホスフィン(TPP)0.11gをフラスコに入れ、115℃で5時間分子量調節反応を行った。分子量調節反応の終結後、フラスコの温度を80℃に下げた。ここにメチルエチルケトン(MEK)150g、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)9.99g、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート(TEOS)19.11gを入れてから12時間さらに加熱及び攪拌を行った。その後、温度を室温に下げてから回転蒸発器(ロータリーエバポレーター)を用いて塩基触媒及び溶媒を除去した後、真空ポンプを用いて乾燥することで、分子量分布が調節されたアルコキシシリル基を有するエポキシ樹脂を得た。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0097】
合成例2:
分子量調節反応の出発物質として、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(KEB-3180-M80、コーロンインダストリー、上記化学式(AS)に該当、EEW210g/Eq)及びビスフェノールAを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0098】
合成例3:
分子量調節反応の出発物質として、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(上記化学式(AS)に該当、EEW210g/Eq)及びナフタレン-1,6-ジオールを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0099】
合成例4:
分子量調節反応の出発物質として、フェノールノボラックエポキシ樹脂(EPALLOY-8330、ハンツマン社、上記化学式(BS)
【化26】
に該当、EEW180g/Eq)、1、1’-ビフェニル-4,4’-ジオール及びフェノールを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹
脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0100】
合成例5:
分子量調節反応の出発物質として、オルソ-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(YDCN-500-80P、コクド ケミカル社、上記化学式(CS)に該当、EEW200g/Eq)、ビスフェノールA及びフェノールを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0101】
合成例6:
分子量調節反応の出発物質として、ナフタレンノボラックエポキシ樹脂(ESN-175、新日鉄化学、上記化学式(DS)に該当、EEW265g/Eq)、1,4-ジヒドロキシベンゼン及びフェノールを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0102】
合成例7:
分子量調節反応の出発物質として、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(KEB-3180-M80、コーロンインダストリー、上記化学式(AS)に該当、EEW210g/Eq)、4,4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジフェノール及びフェノールを使用した。下記表1のような化合物の含量と反応条件下で、上記合成例1と同様の方法で反応を行った。本合成例の分子量調節反応で得られた分子量が調節されたエポキシ樹脂(エポキシ(F1))及び分子量分布が調節されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))の物性を下記表2に示した。
【0103】
【0104】
【表2】
(1)テトラヒドロフランを用いたゲル透過クロマトグラフィーで測定
(2)[アルコキシシリル基]/[エポキシド基]のモル比
【0105】
比較合成例1:
室温で2口フラスコにクレゾールノボラックエポキシ樹脂(YDCN-500-80P、コクド ケミカル社、上記化学式(CS)に該当、EEW200g/Eq)25g、フェノール2.14g(1官能性芳香族アルコール)及びトルエン25gに入れ、10分間室温で撹拌した。その後、TPP0.25gをフラスコに入れ、温度を110℃に加熱して12時間反応を行った。その後、フラスコの温度を80℃に下げた後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)2.94g、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート5.62gを入れてから12時間さらに加熱及び攪拌を行った。その後、温度を室温に下げてから回転蒸発器(ロータリーエバポレーター)を用いてアミン触媒及び溶媒を除去した後、真空ポンプを用いて乾燥することで最終エポキシ樹脂を得た。これを使用して、表3の比較例1の硬化物を製造した。
【0106】
上記合成例1及び比較合成例1において、出発物質であるエポキシ樹脂と製造されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂(エポキシ(F2))のゲル透過クロマトグラフをそれぞれ
図1及び
図2に示した。
図1から確認できるように、合成例1で製造された分子量分布が調節されたエポキシ樹脂は、出発物質であるエポキシ樹脂に比べて最高分子量値及び高
分子量領域であるエポキシ樹脂が大きく増加し、300~650,000の分子量分布を示した。このように本発明による方法によって、分子量範囲の上限値及び高分子量領域(70,000超)のエポキシ樹脂が増加したエポキシ樹脂が製造された。
【0107】
しかし、1官能性芳香族アルコールのみが使用された比較合成例1は、
図2から確認できるように、出発物質であるエポキシ樹脂の分子量に比べて最終生成物であるアルコキシシリル化エポキシ樹脂の分子量がほとんど増加せず、類似していた。比較合成例1で製造されたアルコキシシリル化エポキシ樹脂は300~70,000の分子量分布を示した。
【0108】
B.複合体の製造及び熱膨張特性の評価
(1)エポキシフィラー複合体(硬化物)の製造
下記表3の組成で、フェノール硬化剤及びシリカをメチルエチルケトンに固形分の含量が80wt%となるように溶かす。この混合液を10分間混合した後、アクリル樹脂を入れて追加で1時間さらに混合し、その後、エポキシ樹脂を入れて追加で30分間さらに混合した後、次いで硬化触媒を入れて均一な溶液となるように10分間さらに混合した。上記混合物を離型紙の上にキャスティングした後、70℃に加熱されたコンベクションオーブンに入れて30分間溶媒を除去する。乾燥された試料を120℃で1時間硬化した後、180℃のオーブンで2時間追加硬化させて物性測定用試片を4mm×40mm×0.1mm(mm3)のサイズに製造して物性を評価した。
【0109】
(2)熱膨張特性の評価
下記表3の実施例及び比較例で得られた硬化物の温度による寸法変化を熱機械分析器を用いて評価し、下記表3にCTEで示した。
【0110】
【0111】
合成例1(a):合成例1の分子量調節反応後に得られたエポキシ樹脂
合成例1(b)~7(b):各合成例のアルコキシシリル化反応後に得られたエポキシ樹脂
(1)EEW=180g/Eq;
(2)EEW=210g/Eq;
(3)フェノキシレジン、コクド ケミカル;
(4)Paracron(登録商標)、根上工業株式会社;
(5)硬化剤、HEW=119g/mol
【0112】
上記表3から分かるように、本発明による分子量分布が調節された合成例1~7のエポキシ樹脂を含有する実施例1~8の硬化物は、比較例1に比べて格段に優れた熱膨張特性(すなわち、低いCTE)を示した。これにより、本発明による低分子量領域から高分子量領域にわたる分子量分布が拡大されたエポキシ樹脂により、エポキシ硬化物の熱膨張特性が格段に改善されることが確認できた。
【0113】
一方、比較のために提示された、既存のビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂を使用した比較例2は、CTEが110ppm/℃であって、比較例1に比べても劣った熱膨張特性(すなわち、高いCTE)を示した。高分子量のフェノキシ樹脂を使用した比較例3及び4では、組成物の加工性が低下して均一なフィルムに製造されなかった。比較例5のように、高分子量のフェノキシ樹脂を少量使用した場合にはフィルムに形成されたものの、高いCTEを示しているため物性が良くなかった。これは、フェノキシ樹脂が70,000~1,000,000の範囲の高分子量領域の分子量を示しているが、300~2,000の低分子量領域であるエポキシ樹脂が存在しないためであると考えられる。また、フェノキシ樹脂は、エポキシ基の濃度が測定しにくいほどに極めて低いため(EEW>>1000g/Eq)、本発明の分子量分布が調節されたエポキシ樹脂のような優れた物性を示していないと考えられる。
【0114】
以上、実施形態を図示および説明したが、当業者には、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく修正および変更を行うことができることが明らかであろう。