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特開2023-70063ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070063
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/65 20060101AFI20230511BHJP
   C08G 18/66 20060101ALI20230511BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C08G18/65 011
C08G18/66 040
C08G18/28 015
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147631
(22)【出願日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】110141061
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】廖 徳超
(72)【発明者】
【氏名】許 漢卿
(72)【発明者】
【氏名】張 振偉
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA02
4J034CA04
4J034CB01
4J034CB03
4J034CB07
4J034CC03
4J034CC08
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DC50
4J034DF02
4J034DF12
4J034DF16
4J034DF21
4J034DG01
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034JA32
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB02
4J034QB03
4J034QB14
4J034QB15
4J034QC08
4J034RA03
4J034RA05
4J034RA11
(57)【要約】
【課題】本発明はラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分と、ポリオール成分と、鎖延長剤成分と、連鎖停止剤成分との重合反応で形成される。ポリオール成分は、第1のポリオール及び第2のポリオールを含む。第1のポリオールの数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。第2のポリオールの数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールである。第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。第2の鎖延長剤は、C3~C10二価アルコールである。第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する。連鎖停止剤成分は、C4~C18一価アルコールである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネート加工に適用する、熱可塑性ポリウレタン樹脂であって、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分と、ポリオール成分と、鎖延長剤成分と、連鎖停止剤成分と、を含む反応混合物の重合反応で形成され、
前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含み、前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molであり、前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molであり、前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molであり、
前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含み、前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的であり、前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有し、
前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである、ことを特徴とする、熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項2】
前記反応混合物の総重量を100重量部として、前記イソシアネート成分の含有量は、30重量部~35重量部であり、前記ポリオール成分の含有量は、60重量部~65重量部であり、前記鎖延長剤成分の含有量は、5重量部~10重量部であり、前記連鎖停止剤成分の含有量は、0.01重量部~0.05重量部である、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記第1のポリオールと前記第2のポリオールとの重量比(第1のポリオール:第2のポリオール)は、8~12:48~52であり、前記第1の数平均分子量を有する前記第1のポリオールで前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の軟化温度を低減させる、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記第1のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)(poly(1,4-butylene adipate))、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール(polyethylene-1,4-butylene adipate glycol)及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)(poly(1,6-hexamethylene adipate-succinic acid))からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記第2のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)(poly(1,4-butylene adipate))、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール(polyethylene-1,4-butylene adipate glycol)及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)(poly(1,6-hexamethylene adipate-succinic acid))からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記第1のポリオール及び/又は前記第2のポリオールの主鎖は、短鎖二価アルコールで更に側鎖グラフトすることによって非対称分子構造が形成される、請求項4に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項6】
前記第1の鎖延長剤は、1,4-ブタンジオール及びエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであり、前記第2の鎖延長剤は、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであり、前記第1の鎖延長剤と前記第2の鎖延長剤との重量比(第1の鎖延長剤:第2の鎖延長剤)は、4.5~4.75:0.25~0.5であり、前記側鎖又は前記エーテル基を含む前記第2の鎖延長剤で前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性を低減させる、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項7】
前記連鎖停止剤成分は、1-ブタノール、1-オクタノール、1-ドデカノール及び1-オクタデカノールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項8】
前記反応混合物の重合反応でのNCO/OH当量比は、0.98~1.02に制御される、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項9】
以下の条件(1)~(5)を満たし、
(1)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のゲル浸透クロマトグラフで分析された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.250~1.300であり、
(2)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の、示差走査熱量計で分析された結晶化度は、10%~30%であり、
(3)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のメルトインデックスは5g/10min(190℃)~8g/10min(190℃)であり、
(4)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、190℃の一定温度、0~1000s-1のせん断速度の条件で、動的機械分析装置で分析された粘度変化率は、300(N・s)/m~600(N・s)/mであり、
(5)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に含まれた95wt%の樹脂成分の軟化温度は、ラミネート加工のラミネート温度より低く、前記軟化温度は、150℃~180℃であり、前記ラミネート温度は、170℃~200℃である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項10】
ラミネート加工に適用する、熱可塑性ポリウレタン樹脂であって、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子鎖は、少なくとも1つの短いセグメント、少なくとも1つの長いセグメント、少なくとも1つの第1の延長セグメント、少なくとも1つの第2の延長セグメント、少なくとも1の連鎖停止セグメントを含み、
前記短いセグメントは、第1のポリオールの水酸基以外の残基で構成され、前記長いセグメントは、第2のポリオールの水酸基以外の残基で構成され、
前記第1のポリオールは第1の数平均分子量を有し、前記第2のポリオールは第2の数平均分子量を有し、前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molであり、前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molであり、前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molであり、
前記第1の延長セグメントは、第1の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成され、前記第2の延長セグメントは、第2の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成され、
前記第1の延長セグメントの炭素鎖長はC2~C6であり、前記第1の延長セグメントの分子構造は、直鎖且つ対称的であり、
前記第2の延長セグメントの炭素鎖長は、C3~C10であり、前記第2の延長セグメントの分子構造は、側鎖又はエーテル基を有し、
前記連鎖停止セグメントは、連鎖停止剤成分の水酸基以外の残基で構成され、前記連鎖停止剤成分は、C4~C18一価アルコールであり、前記連鎖停止セグメントは、前記高分子鎖の末端にある、ことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂。
【請求項11】
ラミネート加工に適用する、熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法であって、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法は、
イソシアネート成分、ポリオール成分、及び鎖延長剤成分をそれぞれ、押出機に添加して、反応混合物を形成することと、
前記押出機で前記反応混合物をNCO/OH当量比を0.98~1.02に制御するように重合反応を行うことで、分子量が向上されて熱可塑性ポリウレタン樹脂を形成することと、
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、前記重合反応で所定の分子量又は所定の粘度に達する際に、連鎖停止剤成分を前記押出機に添加して、前記重合反応を中止することと、を含み、
前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含み、第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molであり、第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molであり、前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molであり、
前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含み、前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的であり、前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有し、前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである、ことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂に関し、特に、ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(thermoplastic polyurethane,TPU)は、環境に優しいポリマーの一種である。熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート、インフレーション、圧延若しくは塗布などのプロセスによって、フィルム状製品を製造することができる。熱可塑性ポリウレタンで製造されたフィルム状製品は、優れた引張強度、弾性、靭性、耐磨耗性及び耐寒性を備えると共に、環境に優しく、無毒などの特性を有する。このようなフィルム状製品は、履物、スポーツ用品、プレタポルテ、医療、革製バッグ、おもちゃ、登山用品、自転車などの領域に広く用いられる。
【0003】
しかしながら、従来の技術において、熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する過程で、不融性の小さな結晶の形成は避けられない。このように、市販の熱可塑性ポリウレタンは、ラミネート加工でフィルムを製造する際に、前記フィルムは、粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況を起こしやすく、製品の外観及び品質に影響する。また、市販の熱可塑性ポリウレタンの分子量分布が広く、且つ溶融粘度の変化が大きいため、溶融体の流れが均一でなくなり、製品の物性が低減する。
【0004】
そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂を提供する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分と、ポリオール成分と、鎖延長剤成分と、連鎖停止剤成分と、を含む反応混合物の重合反応で形成される。前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含む。第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである。前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する。前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである。
【0007】
好ましくは、前記反応混合物の総重量を100重量部として、前記イソシアネート成分の含有量は、30重量部~35重量部であり、前記ポリオール成分の含有量は、60重量部~65重量部であり、前記鎖延長剤成分の含有量は、5重量部~10重量部であり、前記連鎖停止剤成分の含有量は、0.01重量部~0.05重量部である。
【0008】
好ましくは、前記第1のポリオールと前記第2のポリオールとの重量比(第1のポリオール:第2のポリオール)は、8~12:48~52であり、前記第1の数平均分子量を有する前記第1のポリオールで前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の軟化温度を低減させる。
【0009】
好ましくは、前記第1のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)(poly(1,4-butylene adipate))、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール(polyethylene-1,4-butylene adipate glycol)及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)(poly(1,6-hexamethylene adipate-succinic acid))からなる群から選択される少なくとも1つである。前記第2のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)(poly(1,4-butylene adipate))、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール(polyethylene-1,4-butylene adipate glycol)及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)(poly(1,6-hexamethylene adipate-succinic acid))からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0010】
好ましくは、前記第1のポリオール及び/又は前記第2のポリオールの主鎖に、短鎖二価アルコールで側鎖グラフトすることによって非対称分子構造が形成される。
【0011】
好ましくは、前記第1の鎖延長剤は、1,4-ブタンジオール及びエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであり、前記第2の鎖延長剤は、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1つであり、前記第1の鎖延長剤と前記第2の鎖延長剤との重量比(第1の鎖延長剤:第2の鎖延長剤)は、4.5~4.75:0.25~0.5であり、前記側鎖又は前記エーテル基を有する前記第2の鎖延長剤で前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性を低減させる。
【0012】
好ましくは、前記連鎖停止剤は、1-ブタノール、1-オクタノール、1-ドデカノール及び1-オクタデカノールからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0013】
好ましくは、また、前記反応混合物の重合反応でのNCO/OH当量比は、0.98~1.02に制御される。
【0014】
好ましくは、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、以下の条件(1)~(5)を満たし、(1)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のゲル浸透クロマトグラフで分析された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.250~1.300であり、(2)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、示差走査熱量計で分析された結晶化度は、10%~30%であり、(3)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のメルトインデックスは5g/10min(190℃)~8g/10min(190℃)であり、(4)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、190℃の一定温度、0~1000s-1のせん断速度の条件で、動的機械分析装置で分析された粘度変化率は、300(N・s)/m~600(N・s)/mであり、(5)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に含まれた95wt%の樹脂成分の軟化温度は、ラミネート加工のラミネート温度より低く、前記軟化温度は、150℃~180℃であり、前記ラミネート温度は、170℃~200℃である。
【0015】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂を提供する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子鎖は、少なくとも1つの短いセグメント、少なくとも1つの長いセグメント、少なくとも1つの第1の延長セグメント、少なくとも1つの第2の延長セグメント、少なくとも1の連鎖停止セグメントを含む。前記短いセグメントは、第1のポリオールの水酸基以外の残基で構成され、前記長いセグメントは第2のポリオールの水酸基以外の残基で構成される。前記第1のポリオールは、第1の数平均分子量を有し、前記第2のポリオールは、第2の数平均分子量を有する。前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである。前記第1の延長セグメントは、第1の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成され、前記第2の延長セグメントは、第2の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成される。前記第1の延長セグメントの炭素鎖長はC2~C6であり、前記第1の延長セグメントの分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の延長セグメントの炭素鎖長は、C3~C10であり、前記第2の延長セグメントの分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する。前記連鎖停止セグメントは、連鎖停止剤成分の水酸基以外の残基で構成される。前記連鎖停止剤成分は、C4~C18一価アルコールであり、前記連鎖停止セグメントは、前記高分子鎖の末端にある。
【0016】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、ラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法を提供する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法は、イソシアネート成分、ポリオール成分、及び鎖延長剤成分をそれぞれ、押出機に添加して、反応混合物を形成することと、前記押出機で前記反応混合物をNCO/OH当量比を0.98~1.02に制御するように重合反応を行うことで、分子量が向上されて熱可塑性ポリウレタン樹脂を形成することと、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、前記重合反応で所定の分子量又は所定の粘度に達する際に、連鎖停止剤を前記押出機に添加して、前記重合反応を中止することと、を含む。前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含む。第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである。前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する。前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有利な効果として、本発明に係るラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法は、「前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含む。前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである」、「前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する」、及び「前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである」といった技術特徴によって、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に狭い分子量分布、低い軟化温度、及び低い溶融粘度変化率を与える。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の粒子は、良好な加工性を有する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工でフィルムを製造した後に、フィルムがクリスタルポイントやフローマークを有しないと共に良好な厚み均一性及び耐加水分解性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明を参照されたい。しかし、提供される詳細な説明は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0019】
以下、所定の具体的な実施態様によって本発明の実施形態を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。
【0020】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0021】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂]
従来の技術において、熱可塑性ポリウレタン樹脂ペレットを製造する過程で、不融性の小さな結晶の形成は避けられない。このように、市販の熱可塑性ポリウレタンは、ラミネート加工でフィルムを製造する際に、前記フィルムは、粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況を起こしやすく、製品の外観及び品質に影響する。また、市販の熱可塑性ポリウレタンの分子量分布が広く、且つ溶融粘度の変化が大きいため、溶融体の流れが均一でなくなり、製品の物性が低減する。
【0022】
上述した従来技術における技術的な欠点を解決するため、本発明の実施形態は、熱可塑性ポリウレタン樹脂(thermoplastic polyurethane resin,TPU resin)を提供する。特に、ラミネート加工(laminating process)に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂を提供する。
【0023】
本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工によって熱可塑性ポリウレタンフィルム(thermoplastic polyurethane film,TPU film)を形成する際に、フィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が改善されると共に、フィルムが良好な物性を有する。
【0024】
上記の技術的目的を実現するために、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、反応混合物(reaction mixture)を重合反応することで形成される。前記反応混合物は、イソシアネート成分(isocyanate component)、ポリオール成分(polyol component)、鎖延長剤成分(chain extender component)及び連鎖停止剤成分(chain terminator component)を含む。
【0025】
前記反応混合物の総重量を100重量部として、前記イソシアネート成分の含有量は、30重量部~35重量部であり、前記ポリオール成分の含有量は、60重量部~65重量部であり、前記鎖延長剤成分の含有量は、5重量部~10重量部であり、前記連鎖停止剤成分の含有量は、0.01重量部~0.05重量部である。
【0026】
本発明の一つの実施形態において、前記イソシアネート成分は、メチレンジフェニルジイソシアネート(Methylene diphenyl diisocyanate,MDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4’-methylene dicyclohexyl diisocyanate,H12MDI)及びイソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate,IPDI)からなる群から選択される少なくとも1つであるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0027】
前記ポリオール成分は、第1のポリオール及び第2のポリオールを含む。
【0028】
本発明の一つの実施形態において、前記第1のポリオールは、例えば、ポリエステルポリオール(polyester polyol)、ポリエーテルポリオール(polyether polyol)、ポリカーボネートポリオール(polycarbonate polyol)又はポリカプロラクトンポリオール(polycaprolactone polyol)であってもよい。類似に、前記第2のポリオールは、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はポリカプロラクトンポリオールであってもよい。本発明の一つの好ましい実施形態において、前記第1のポリオールはポリエステルポリオールであると共に、前記第2のポリオールはポリエステルポリオールであるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0029】
本発明の一つの実施形態において、前記第1のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)からなる群から選択される少なくとも1つである。類似に、前記第2のポリオールは、ポリエステルポリオールであると共に、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)、ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール及びポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0030】
特筆すべきことは、ポリ(アジピン酸1,4-ブチレン)(poly(1,4-butylene adipate),PBA)は、アジピン酸と1,4-ブタンジオールとの重合反応で形成される。ポリエチレン-1,4-ブタンジオールアジペートジオール(polyethylene-1,4-buthylene adipate glycol)は、アジピン酸とエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとの重合反応で形成される。ポリ(1,6-ヘキサメチレンアジピン酸コハク酸)(poly(1,6-hexamethyleneadipate-succinic acid))は、アジピン酸とコハク酸とヘキサンジオールとの重合反応で形成される。
【0031】
更に説明すると、前記第1のポリオール及び前記第2のポリオールの材料の種類は、同様又は異なってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。前記第1のポリオールと前記第2のポリオールとの相違点は主に、両者の数平均分子量(number average molecular weight,Mn)の範囲は異なっている。
【0032】
本発明の一つの実施形態において、前記第1のポリオールは第1の数平均分子量を有し、第2のポリオールは第2の数平均分子量を有する。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より低い。前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molであり、前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molであり、また、前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、第1の数平均分子量と第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである。別の観点みると、前記第1の数平均分子量を有する第1のポリオールの炭素鎖長は、前記第2の数平均分子量を有する第2のポリオールの炭素鎖長より短い。
【0033】
本発明の1つの実施形態において、前記第1のポリオールと前記第2のポリオールとの重量比は、8~12:48~52であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0034】
上述した構成により、前記第1の数平均分子量を有する第1のポリオールによって、最終的に形成された熱可塑性ポリウレタン樹脂の軟化温度(softening temperature)を低減すると共に、前記第2の数平均分子量を有する第2のポリオールによって、最終的に形成された熱可塑性ポリウレタン樹脂は、好ましい機械的強度を維持することができる。
【0035】
特筆すべきことは、前記「軟化温度」は、特定の応力及び条件(例えば、サンプルサイズ、加熱速度、加えられた外力など)において、高分子樹脂のサンプルは変形値を達する温度であり、通常、Tsで表される。軟化温度の測定方法は、例えば、コフラー(Kofler)ホットベンチ法で測定される。
【0036】
更に説明すると、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の軟化温度は低減されることで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂がラミネート加工で熱可塑性ポリウレタンフィルムを形成する際に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂はほとんど、ラミネート加工のラミネート温度で溶融・軟化される。このように、従来の技術のTPUフィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が改善される。
【0037】
特筆すべきことは、高分子結晶化は、高分子鎖の箇所が配列される過程である。この過程において、高分子鎖は折り畳まれて整然とした領域を形成する。高分子は、メルトから冷却して結晶されてもよい。しかしながら、結晶性が高すぎると、TPUフィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が起こす。
【0038】
本発明の一つの実施形態において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性を低減させるため、前記第1のポリオール及び/又は第2のポリオールは、例えば、主鎖に側鎖グラフトすることで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子鎖の配列する際の立体障害が増加すると共に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性が低減される。このように、熱可塑性ポリウレタンを製造する過程において、不融性の小さな結晶の生成を回避して、従来技術のTPUフィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が更に改善される。
【0039】
更に説明すると、前記第1のポリオール及び/又は第2のポリオールは例えば、炭素鎖長C3~C10二価アルコールで側鎖グラフトすることで、前記第1のポリオール及び/又は第2のポリオールは、非対称な分子構造を有する。それによって、熱可塑性ポリウレタン樹脂のクリスタル構成が調整され、且つ前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性が低減される。
【0040】
炭素鎖長C3~C10を有する二価アルコールは、短鎖二価アルコールであり、ジエチレングリコール(diethylene glycol,DEG)、1,3-ブタンジオール(1,3-butanediol)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(2-methyl-1,3-propanediol)、ネオペンチルグリコール(neopentyl glycol)、1,6-ヘキサンジオール(1,6-hexanediol)及び3-メチル-1,5-ペンタンジオール(3-methyl-1,5-pentanediol)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0041】
前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。
【0042】
本発明の一つの実施形態において、前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6を有する二価アルコールである。前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。例えば、前記第1の鎖延長剤は、1,4-ブタンジオール(1,4-ブタンジオール、14BG)及びエチレングリコール(ethylene glycol,EG)からなる群から選択される少なくとも1つである。前記第1の鎖延長剤によって、最終的に形成された熱可塑性ポリウレタン樹脂に好ましい機械的強度(例えば、剛性及び引張強度)を与えるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0043】
本発明の一つの実施形態において、前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールである。前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖(side chain)又はエーテル基(ether group)を有する。例えば、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖を有すると共に、2-メチル-1,3-プロパンジオール(2-methyl-1,3-propanediol)、ネオペンチルグリコール(neopentyl glycol)及び3-メチル-1,5-ペンタンジオール(3-methyl-1,5-pentanediol)からなる群から選択される少なくとも1つである。側鎖を有する鎖延長剤の分子構造は、下表1-1に示すとおりである。
【0044】
【表1】
【0045】
前記第2の鎖延長剤の分子構造は、エーテル基を有すると共に、ジエチレングリコール(diethylene glycol,DEG)及びジプロピレングリコール(di-propylene glycol)からなる群から選択される少なくとも1つである。エーテル基を有する鎖延長剤の分子構造は、下表1-2に示すとおりである。
【0046】
【表2】
【0047】
前記第2の鎖延長剤の分子構造が側鎖又はエーテル基を有するため、最終的に形成された熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子鎖の配列する際の立体障害が増加すると共に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性が低減される。このように、熱可塑性ポリウレタンを製造する過程において、不融性の小さな結晶の生成を回避して、従来技術のTPUフィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が更に改善される。
【0048】
より具体的に説明すると、前記第2の鎖延長剤は、重合反応を行った後に、熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子構造におけるハードセグメントを形成する。前記第2の鎖延長剤によって、熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶温度及び結晶程度を低減することができる。このように、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のラミネート加工におけるラミネート温度はそれほど高い必要がない。ラミネート加工におけるラミネート温度が低減されることができるため、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の熱履歴(thermal history)及び分子量の減衰程度は効果的に改善される。なお、従来の技術のTPUフィルムの粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況が改善される。
【0049】
本発明の一つの実施形態において、前記第1の鎖延長剤と前記第2の鎖延長剤との重量比(第1の鎖延長剤:第2の鎖延長剤)は、4.5~4.75:0.25~0.5であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0050】
前記鎖延長剤成分の使用量、及び第1の鎖延長剤と第2の鎖延長剤との重量比によれば、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、理想的な結晶性及び機械的強度を有する。前記鎖延長剤成分の使用量、又は第1の鎖延長剤と第2の鎖延長剤との重量比は、前記範囲に含まれないと、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の結晶性及び機械的強度に悪影響を与えることがある。
【0051】
前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである。例えば、前記連鎖停止剤は、1-ブタノール(1-butanol)、1-オクタノール(1-octanol)、1-ドデカノール(1-dodecanol,ラウリルアルコールとも称す)及び1-オクタデカノール(1-octadecanol,ステアリルアルコールとも称す)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0052】
前記連鎖停止剤成分は、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が重合反応で所望の分子量を達成した後に重合反応を中止させることで完全に反応させる、という役割を果たせる。このように、前記熱可塑ポリウレタン樹脂の分子量は、安定な状態で維持された上で、前記熱可塑ポリウレタン樹脂の分子量の分布がより集中となる。
【0053】
更に説明すると、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量は、続いて向上せずに安定な状態で維持されるため、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂では、粗粒又はクリスタルポイントが生成されにくくなる。
【0054】
本発明の一つの実施形態において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の重合反応でのNCO/OH当量比を特定の範囲に制御することによって、分子量が安定し、分子量分布が狭く、且つ加工流動性が優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する。
【0055】
より具体的に説明すると、前記反応混合物の重合反応でのNCO/OH当量比(NCO/OH equivalent ratio)は、0.98~1.02に制御され、0.995~1.005にすることが特に好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0056】
NCO/OH当量比が前記範囲に含まれないと(例えば、イソシアネート成分が過量)、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、耐熱性不良及び加工困難などの問題を有することがあり、また、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工でフィルムを製造する際に、粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況を起こす。
【0057】
説明すべきことは、前記イソシアネート成分は、イソシアネート基(NCO group)を有すると共に、前記ポリオール成分、鎖延長剤成分及び連鎖停止剤成分はいずれも水酸基(OH group)を有する。即ち、前記NCO/OH当量比は、反応混合物におけるイソシアネート成分、ポリオール成分、鎖延長剤成分及び連鎖停止剤成分の間の使用量の比率によって調整される。
【0058】
別の観点から、重合反応の過程において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量を安定し、且つ熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量分布が集中するために、前記NCO/OH当量比は、続いて前記特定の範囲に制御される必要がある。
【0059】
特筆すべきことは、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂が合成された後に、粒子となるように製造されてもよい。また、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工に特に適用して、熱可塑性ポリウレタンフィルムとして形成する。前記フィルムは、粗粒、クリスタルポイント、及びフローマークなどの異常状況を有しない。
【0060】
更に説明すると、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂を、ラミネート加工にさらに適用させ、良好な品質及び外観を有する熱可塑性ポリウレタンフィルムを形成するため、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、以下の条件を満たす。
【0061】
(1)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフ(gel permeation chromatography,GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.250~1.300であり、1.280~1.290であることが好ましい。
【0062】
前記「重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)」は、多分散性指標の一種である。
【0063】
本発明の実施例に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、市販の熱可塑性ポリウレタン樹脂に比べて、狭い分子量分布を有する。
【0064】
(2)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の、示差走査熱量計(differential scanning calorimeters,DSC)で分析された結晶化度は、10%~30%であり、20%~25であることが好ましい。
【0065】
前記「結晶化度」はポリマーにおける結晶化部分の全体のポリマーを占める割合である。式で表されると、以下の通りである。結晶化度=結晶化部分/(結晶化部分+非結晶化部分)。
【0066】
本発明の実施例に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、市販の熱可塑性ポリウレタン樹脂に比べて、低い結晶化度を有する。それによって、粗粒及びクリスタルポイントの問題を改善される。
【0067】
(3)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂のメルトインデックス(melt flow index,MI)は5g/10min(190℃)~8g/10min(190℃)であり、6g/10min(190℃)~7g/10min(190℃)であることが好ましい。
【0068】
本明細書における「メルトインデックス」は、メルトフローレート試験機において、熱可塑性ポリウレタン樹脂を190℃で標準開口部から10分間に押出された重量である。その単位は、g/10min(190℃)である。メルトインデックスは、樹脂の溶融状態における流動性を示す、メルトインデックスが大きいほど、分子量が少なく、流動性が優れた。
【0069】
本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂のメルトインデックスの変化率は±1に制御する必要がある。それによって、樹脂に良好な加工性を与え、過多のクリスタルポイントが生成されなく、ラミネート加工で過多のフローマークが生成されない。
【0070】
(4)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、190℃の一定温度、0~1000s-1のせん断速度の条件で、動的機械分析装置(dynamic mechanical analyzer,DMA)で測定された粘度変化率は、300(N・s)/m~600(N・s)/mであり、400(N・s)/m~500(N・s)/mであることが好ましい。
【0071】
動的機械分析装置は、サンプルに温度、せん断力、頻度、変形量などの可変要因をかけることによって、材料の強度、粘性、弾性及び様々な相転移特性を測定する。
【0072】
本発明の実施例に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、市販の熱可塑性ポリウレタン樹脂に比べて、低い粘度変化率を有する。
【0073】
(5)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に含まれた95wt%の樹脂成分の軟化温度(softening temperature)は、ラミネート加工のラミネート温度(laminating temperature)より低い。前記軟化温度は、150℃~180℃であり、前記ラミネート温度は、170℃~200℃である。このように、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂はほとんど、ラミネート温度で軟化されるため、粗粒又はクリスタルポイントの生成を減少する。
【0074】
高分子構造の観点から、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の高分子鎖は、少なくとも1つの短いセグメント、少なくとも1つの長いセグメント、少なくとも1つの第1の延長セグメント、少なくとも1つの第2の延長セグメント、少なくとも1の連鎖停止セグメントをランダムに含む。なかでも、前記短いセグメントは、第1のポリオールの水酸基以外の残基で構成され、前記長いセグメントは第2のポリオールの水酸基以外の残基で構成される。前記第1のポリオールは、第1の数平均分子量を有し、前記第2のポリオールは、第2の数平均分子量を有する。前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである。なかでも、前記第1の延長セグメントは、第1の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成され、前記第2の延長セグメントは、第2の鎖延長剤の水酸基以外の残基で構成される。前記第1の延長セグメントの炭素鎖長はC2~C6であり、前記第1の延長セグメントの分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の延長セグメントの炭素鎖長は、C3~C10であり、前記第2の延長セグメントの分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する。なかでも、前記連鎖停止セグメントは、連鎖停止剤成分の水酸基以外の残基で構成される。前記連鎖停止剤成分は、C4~C18一価アルコールであり、前記連鎖停止セグメントは、前記高分子鎖の末端にある。
【0075】
本発明の実施例に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、市販の熱可塑性ポリウレタン樹脂に比べて、狭い分子量分布を有する。それによって、樹脂の軟化温度も比較的に集中する。
【0076】
本発明の実施形態において、ポリウレタン樹脂成分の軟化温度(150℃~180℃)は殆ど、前記ラミネート温度(170℃~200℃)より低いことは明らかである。このため、前記ポリウレタン樹脂成分の加熱溶融の溶融流動性が優れると共に、冷却で成形されることは容易であり、製品の厚み均一性を向上することができる。
【0077】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法]
上述した内容は、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂材料の特徴の説明であり、以下にて本発明の実施形態の熱可塑性ポリウレタン樹脂材料の製造方法を説明する。
【0078】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法は、工程S110、工程S120、及び工程S130を含む。説明すべきことは、本実施形態における各工程の順番や操作方式はニーズに応じて調整することは可能であり、これに制限されるものではない。
【0079】
前記工程S110において、イソシアネート成分(isocyanate component)、ポリオール成分(polyol component)、鎖延長剤成分をそれぞれ、押出機(例えば、二軸スクリュー押出機)に添加して、反応混合物(reaction mixture)を形成する。
【0080】
前記イソシアネート成分、ポリオール成分、鎖延長剤成分の使用量及び材料の特徴はすでに上文で説明したため、ここでその説明を略す。
【0081】
前記工程S120において、前記反応混合物は、前記押出機で重合反応を行うことで、分子量が向上されて熱可塑性ポリウレタン樹脂を形成する。なかでも、前記反応混合物の重合反応でのNCO/OH当量比(NCO/OH equivalent ratio)を0.98~1.02にするように、リアルタイム監視を用いて、前記イソシアネート成分、ポリオール成分、鎖延長剤成分の仕込み量を調整する。
【0082】
前記反応混合物の重合反応でのNCO/OH当量比を特定の範囲に制御することによって、分子量が安定し、分子量分布が狭く、且つ加工流動性が優れた熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する。前記重合反応は、ポリオール成分及び鎖延長剤成分における水酸基(-OH)とイソシアネート成分におけるイソシアネート基(-NCO)とを反応することによって、主鎖に含まれたウレタン単位を有する高分子を形成する。
【0083】
前記工程S130において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、重合反応で所定の分子量(例えば、70,000~150,000)、若しくは所定の粘度(例えば、300Pa.s~800Pa.s)を達する際に、連鎖停止剤成分(chain terminator component)を前記押出機に添加することによって、前記重合反応を中止させると共に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、押出機の押出で粒子状の産物として形成される。
【0084】
このように、前記熱可塑ポリウレタン樹脂の分子量は、安定な状態で維持された上で、前記熱可塑ポリウレタン樹脂の分子量の分布がより集中となる。
【0085】
更に説明すると、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量は、続いて向上せずに安定な状態で維持されるため、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂では、粗粒又はクリスタルポイントが生成されにくくなる。
【0086】
特筆すべきことは、従来の技術において、市販の熱可塑性ポリウレタン樹脂は、二軸スクリュー押出機で造粒して形成され、通常、以下の問題を起こす。反応混合物の混合及び反応が同時に行い、反応混合物の二軸スクリュー押出機での滞在時間が限られるため、製品の反応が完全でなく、ラミネート加工の製品では、粗粒及びクリスタルポイントを生成しやすい。TPU粒子の結晶性が高いため、ラミネート加工の温度が上る必要があり、それによって、フィルムの製造ではフローマークを生成しやすく、フィルムの厚みが均一でなくなる。
【0087】
従来の技術に比べて、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法は、押出しの条件を最適化して、NCO/OH当量比を最適化すると共に、形成された前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の重合反応がより完全に進行させて、粗粒及びクリスタルポイントの生成を回避する。
【0088】
本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法では、3つの液体の定量灌流を採用して反応押出機に仕込めて水切り造粒で製造した。押出プロセスにおいて、出されたメルトの粘度は、完成品の管理要件を満たすように制御される。
【0089】
全体的に説明すると、本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタン樹脂は、狭い分子量分布、低い軟化温度及び低い溶融粘度変化率を有する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の粒子は、良好な加工性を有する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工でフィルムを製造した後に、フィルムがクリスタルポイント及びフローマークを有さず、良好な厚み均一性及び耐加水分解性を有する。
【0090】
[実験データの測定]
以下、実施例1~4及び比較例1~3により、本発明の内容を詳しく説明するが、それらの実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0091】
実施例1において、異なる数平均分子量を有する2種の反応混合物を採用すると共に、第2の鎖延長剤を導入した。実施例2において、ハードセグメント比を向上させたと共に、異なる数平均分子量を有するポリオールを用いた以外は、実施例1と同様にした。実施例3において、異なる第2の鎖延長剤を用いた以外は、実施例1と同様にした。実施例4において、異なる数平均分子量を有するポリオールの使用量の比を変更した以外は、実施例1と同様にした。一方、比較例の製造条件が悪かった。比較例1において、第2の鎖延長剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にした。比較例2において、一種のポリオールのみを用いた以外は、実施例1と同様にした。比較例3において、NCO/OH当量比を低くした以外は、実施例1と同様にした。
【0092】
各成分のプロセス条件は、下表1に示すとおりである。
【0093】
次に、実施例1~4及び比較例1~3で製造された熱可塑性ポリウレタン樹脂に物理化学特性の測定を行って、それらの熱可塑性ポリウレタン樹脂の物理化学特性を得た。例えば、Mw/Mn、結晶化度(%)、メルトインデックス(g/10min(190℃))、粘度変化率(N・s)/m、ピーク軟化温度(℃)が挙げられた。それらの測定方法について、上記の説明に示した通りである。その測定結果は、下表1に示すとおりである。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
[測定結果の検討]
実施例において、二種のポリオールを導入し、第2の鎖延長剤を添加し、TPU粒子の粘度変化率は10%~12%であり、軟化温度は140℃~149℃であり、ラミネート加工に応用すると、成形流動性が優れて、外観が粗粒、クリスタルポイントを有しないと共に、より優れた透明度を有する。
【0097】
比較例において、単一のポリオールを添加し、第2の鎖延長剤を添加しなく、若しくは、NCO/OH当量比を低減された。軟化温度は162℃~170℃を向上され、粘度変化率は18%~24であり、ラミネート加工でのねじる力が高く、流動性が劣化し、且つ結晶性が高いため透明性が悪化となった。
【0098】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係るラミネート加工に適用する熱可塑性ポリウレタン樹脂及びその製造方法は、「前記ポリオール成分は、第1の数平均分子量を有する第1のポリオール及び第2の数平均分子量を有する第2のポリオールを含む。前記第1の数平均分子量は、600g/mol~2,000g/molである。前記第2の数平均分子量は、1,500g/mol~3,000g/molである。前記第1の数平均分子量は、前記第2の数平均分子量より小さく、前記第1の数平均分子量と前記第2の数平均分子量との差は、500g/mol~1,000g/molである」、「前記鎖延長剤成分は、第1の鎖延長剤及び第2の鎖延長剤を含む。前記第1の鎖延長剤は、炭素鎖長C2~C6二価アルコールであり、前記第1の鎖延長剤の分子構造は、直鎖且つ対称的である。前記第2の鎖延長剤は、炭素鎖長C3~C10二価アルコールであり、前記第2の鎖延長剤の分子構造は、側鎖又はエーテル基を有する非対称分子構造である」、及び「前記連鎖停止剤成分は、炭素鎖長C4~C18一価アルコールである」といった技術特徴によって、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に狭い分子量分布、低い軟化温度、及び低い溶融粘度変化率を与える。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の粒子は、良好な加工性を有する。前記熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ラミネート加工でフィルムを製造した後に、フィルムがクリスタルポイントやフローマークを有しないと共に良好な厚み均一性及び耐加水分解性を有する。
【0099】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。