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特開2023-70101画像空間においてヒール効果補償を用いて物体のCT画像を得るための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070101
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】画像空間においてヒール効果補償を用いて物体のCT画像を得るための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20230511BHJP
【FI】
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022170718
(22)【出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】21206293.9
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】522418233
【氏名又は名称】ブルーカー ベルジャム エスエー
【氏名又は名称原語表記】BRUKER Belgium S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】シュエン リウ
(72)【発明者】
【氏名】フィル サーモン
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001FA01
2G001FA08
2G001GA01
2G001HA13
2G001HA14
2G001JA08
2G001PA12
2G001PA14
2G001SA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡単な方法でヒール効果アーチファクトを低減する。
【解決手段】物体のCT画像を得るための方法であって、a)角度付きアノードを含むX線源を使用してX線を生成するステップと、b)物体または物体の一部の2D投影を記録するステップと、c)物体の3DCT画像を生成するステップとを有し、方法は、d)各生成された3DCT画像を補正するステップをさらに含み、ボクセルのスライスについてのスケーリング因子は3DCT較正画像を用いて決定され3DCT較正画像はy方向に関して測定セットアップの視野の異なる領域におけるX線のビーム経路内に載置された較正物体の類似または同一の物体構造を描写し、3DCT較正画像についてy方向におけるスライス位置に起因する前記異なる領域における類似または同一の物体構造に属するボクセルのグレー値寄与がほぼ決定されスケーリング因子はグレー値寄与を補償するように選択されることを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(10)のCT(=コンピュータ断層撮影)画像(36、53)を得るための方法であって、
a)角度付きアノード(3)を含むX線源(2)を使用してX線(8)を生成するステップであって、前記X線(8)は、前記角度付きアノード(3)のアノード材料内で生成され、前記アノード材料を出る前記X線(8)は、y方向に関するそれらの出口の位置に応じて前記アノード材料内で異なる距離(Pla、PLb)を移動したものであるステップと、
b)前記生成されたX線(8)のビーム経路内に位置する前記物体(10)または前記物体(10)の一部の2D投影(31)の少なくとも1つのセット(33)を、前記物体(10)の背後の前記ビーム経路に位置する2D X線検出器(11)を用いて記録するステップであって、前記X線源(2)および前記2D X線検出器(11)は、測定セットアップ(1)の一部であり、2D投影(31)のセット(33)それぞれの前記2D投影(31)は、前記測定セットアップ(1)に対する前記物体(10)の異なる回転位置に1つずつ記録され、前記測定セットアップ(1)に対する前記物体(10)の前記回転は、前記y方向に平行な回転軸(12)に対するものであり、
2D投影(31)のそれぞれのセット(33)各々について、前記y方向に関して前記X線源(2)および前記2D X線検出器(11)を含む前記測定セットアップ(1)に対する前記物体(10)のそれぞれのシフト位置が選択されるステップと、
c)前記物体(10)または前記物体(10)の前記一部の少なくとも1つの3D CT画像(34)を生成するステップであって、2D投影(31)のそれぞれのセット(33)各々について、3D CT画像(34)が生成され、前記3D CT画像(34)は、それぞれのグレー値が関連付けられた複数のボクセルからなるステップと、
を有し、
前記方法は、
d)各生成された3D CT画像(34)について、前記3D CT画像(34)を補正して、補正された3D CT画像(35)にするか、もしくは、前記3D CT画像(34)の2D CT部分画像(65)を補正して、補正された2D CT部分画像(66)にするステップ
をさらに含み、
前記3D CT画像(34)のボクセルの各スライス(64)について、スケーリング因子(sf)が決定され、ボクセルの各スライス(64)は、前記3D画像(34)内においてy方向に同一の位置を有する前記3D CT画像(34)のそれらのボクセルを含み、
前記3D CT画像(34)または前記2D CT部分画像(65)のボクセルのそれぞれのスライス(64)の各ボクセルの前記グレー値は、前記ボクセルのそれぞれのスライス(64)に対して決定された前記スケーリング因子(sf)で乗算され、前記補正された3D CT画像(35)または前記補正された2D CT部分画像(66)の前記ボクセルについての補正されたグレー値が得られ、
前記ボクセルのスライス(64)についての前記スケーリング因子(sf)は、前記測定セットアップ(1)で測定された少なくとも1つの3D CT較正画像(62)を用いて決定され、前記少なくとも1つの3D CT較正画像(62)は、前記y方向に関して、前記測定セットアップ(1)の視野(50)の異なる領域(R1、R2)における、前記X線(8)の前記ビーム経路内に載置された較正物体(61)の類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)を描写し、前記少なくとも1つの3D CT較正画像(62)について、y方向におけるスライス位置(n、j)に起因する前記異なる領域(R1、R2)における前記類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)に属するボクセルの前記グレー値へのグレー値寄与が少なくともほぼ決定され、ボクセルのそれぞれのスライス(64)についての前記スケーリング因子(sf)は、そのスライス(64)について前記決定されたグレー値寄与を補償するように選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記グレー値寄与は、y方向における線形または区分的線形関数で近似されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2D投影(31)のセット(33)すべての前記2D投影(31)について、フラットフィールド補正(FFC)が適用されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2つの3D CT較正画像(62)が測定され、前記少なくとも2つの3D CT較正画像(62)は、3D CT較正画像(62)の少なくとも1つの較正対(CP;CP1、CP2)を形成し、
それぞれの較正対(CP;CP1、CP2)の前記2つの3D CT較正画像(62)は、前記y方向に関して、前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)の異なる領域(R1、R2)における、前記X線(8)の前記ビーム経路内に載置された前記較正物体(61)の、それぞれの同一の物体構造(71、72)を描写し、
前記較正対(CP;CP1、CP2)の前記2つの3D CT較正画像(62)は、前記測定セットアップ(1)に対する前記較正物体(61)の異なるシフト位置で測定され、
前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)の異なる領域(R1、R2)に位置する前記それぞれの同一の物体構造(71、72)は、この較正対(CP;CP1、CP2)の、異なる3D CT較正画像(62)に描写され、
特に、前記異なる領域(R1、R2)内の前記ボクセルの少なくとも一部の前記グレー値は、前記グレー値寄与を決定するために比較される
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記較正物体(61)は、前記物体(10)と同一であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記物体(10)は、前記y方向に関して前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)よりも長く、
前記物体(10)の部分の2D投影(31)の少なくとも2つのセット(33)が記録され、前記2D投影(31)の少なくとも2つのセット(33)は、前記y方向に関して前記測定セットアップ(1)に対する前記物体(10)の少なくとも2つの異なるシフト位置に記録され、
前記物体(10)の前記部分の少なくとも2つの3D CT画像(34)は、前記2D投影(21)の少なくとも2つのセット(33)から生成され、
前記少なくとも2つの3D CT画像(34)は、少なくとも1つの3D CT画像(34)の対を形成し、前記3D CT画像(34)の対それぞれにおいて描写された前記物体(10)の部分それぞれは、重なり合う物体セクション(51a、51b)それぞれにおいてy方向に重なり合い、
少なくとも1つの前記3D CT画像の対(34)は、3D CT較正画像(62)の少なくとも1つの前記較正対(CP;CP1、CP2)として使用され、3D CT較正画像(62)のそれぞれの較正対(CP;CP1、CP2)について、前記重なり合う物体セクション(51a、51b)それぞれは、この較正対(CP;CP1、CP2)の前記それぞれの同一の物体構造(71、72)を提供し、
特に、前記少なくとも2つの3D CT画像(34)の全体(52)は、完全な物体(10)を描写する
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
それぞれの3D CT較正画像(62)は、y方向に関して、前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)の異なる領域(R1、R2)における、前記X線(8)の前記ビーム経路内に載置された前記較正物体(61)の類似の物体構造(64a、64b)を描写し、
前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)の異なる領域(R1、R2)に位置する前記類似の物体構造(64a、64b)は、同じそれぞれの3D CT較正画像(62)に含まれ、
前記較正物体(61)は、測定される前記物体(10)とは異なる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記較正物体(61)は、少なくともほぼ円筒形状であり、前記y方向に沿って整列したものが選択される
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記較正物体(61)の較正材料の較正材料密度CMDと前記物体(10)の材料もしくは優位的な材料の密度Dとは、類似であり、
特に、90%≦CMD/D≦110%であり、
ならびに/または、前記較正物体(61)および前記物体(10)の幾何学的形状は、類似であり、
特に、y方向における前記較正物体(61)の高さCOHおよび前記物体(10)の高さHについて、80%≦COH/H≦120%が適用され、ならびに/または、y方向に垂直な断面における前記較正物体(61)の最大直径COLDおよび前記物体(10)の最大直径LDについて、80%≦COLD/LD≦120%が、前記高さCOHもしくはHのそれぞれの少なくとも80%に適用される
ことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの3D CT画像(34)のボクセルの前記スライス(64)は、それらのy位置に関して連続して番号付けされ、
前記少なくとも1つの3D CT画像(34)のボクセルの1つのスライス(64)は、スケーリング因子(sf)が1の基準スライス(130)として設定され、
特に、前記基準スライス(130)は、前記y方向に関して前記少なくとも1つの3D CT画像(34)の中央スライス(64)であり、
前記少なくとも1つの3D CT画像(34)のボクセルのそれぞれのスライス(64)に対して決定された前記スケーリング因子(sf)は、以下のように決定され:
sf(n)=1+sc*(n-nref
ここで、sf:スケーリング因子、sc:スケーリング係数、n:前記それぞれのスライス(64)の位置番号、nref:前記基準スライス(130)の位置番号、である
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記グレー値寄与を決定するために、前記類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)に属するボクセルの前記グレー値は、前記測定セットアップ(1)の前記視野(50)の2つの異なる領域(R1、R2)において比較され、前記2つの異なる領域(R1、R2)における描写された類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)の合計K個のセットが分析され、Kは、1以上の自然数であり、
特に、2つの異なる領域(R1、R2)における3D CT較正画像(62)のK個の較正対(CP;CP1、CP2)が分析され、
前記2つの異なる領域(R1、R2)は、第1の領域(R1)と、第2の領域(R2)とを含む
ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1および第2の領域(R1、R2)の各々、または前記第1および前記第2の領域(R1、R2)のそれぞれのセクション(91a、91b;92)の各々について、前記それぞれのセクション(91a、91b;92)が前記それぞれの類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)に属するボクセルを含み、前記y方向に関する特徴グレー値および特徴位置番号が決定され、
前記スケーリング係数(sc)は、以下のように決定され:
【数3】
ここで、gv :セットkについての前記第1の領域(R1)またはそのセクション(91a;92)の特徴グレー値、gv :セットkについての第2の領域(R2)またはそのセクション(91b;92)の特徴グレー値、i :セットkについての前記第1の領域(R1)またはそのセクション(91a;92)の特徴位置番号、i :セットkについての前記第2の領域(R2)またはそのセクション(91b;92)の特徴位置番号、k:分析される描写された類似または同一の物体構造(64、64b;71、72)のセットのインデックス、である
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の領域(R1)またはそのセクション(91a;92)の前記特徴グレー値は、平均グレー値(mgv)として選択され、第2の領域(R2)またはそのセクション(91b;92)の前記特徴グレー値は、平均グレー値(mgv)として選択され、前記第1の領域(R1)またはそのセクション(91a;92)の前記特徴位置番号は、平均位置番号として選択され、前記第2の領域(R2)またはそのセクション(91b;92)の前記特徴位置番号は、平均位置番号として選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1および第2の領域(R1、R2)の各々、または前記第1および第2の領域(R1、R2)のそれぞれのセクション(91a、91b;92)の各々であって、前記それぞれのセクション(91a、91b;92)が前記それぞれの類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)に属するボクセルを含むものについて、
-これらのボクセルの前記グレー値の関数としてのボクセルの量のヒストグラム(HR1、HR2)が生成され、前記第1の領域(R1)および第2の領域(R2)の前記ヒストグラム(HR1、HR2)が重ね合わされ、前記第2の領域(HR2)の前記ヒストグラム(HR2)は、前記ヒストグラム(HR1、HR2)の偏差が最小になるまで、前記第1のヒストグラム(HR1)に関してグレー値に対してシフトされ、またはその逆も同様であり、
-前記y方向に関する特徴位置番号、特に平均位置番号が決定され、
前記スケーリング係数(sc)は、以下のように決定され:
【数4】
ここで、シフト(shift):前記ヒストグラム(HR1、HR2)の偏差がセットkについて最小になる前記グレー値に関するヒストグラム(HR1、HR2)のシフト、i :セットkについての前記第1の領域(R1)またはそのセクション(91a;92)の特徴位置番号、特に平均位置番号、i :セットkについての前記第2の領域(R2)またはそのセクション(91b;92)の特徴位置番号、特に平均位置番号、k:分析される描写された類似または同一の物体構造(64、64b;71、72)のセットのインデックスである
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
y方向における前記それぞれのスライス(64)の前記スライス位置jの関数として、前記少なくとも1つの3D CT較正画像(62)の各スライス(64)についての前記平均グレー値mgvをプロットする曲線(131)が決定され、
y方向にスライス位置jrefを有する基準スライス(130)が選択され、特に、前記基準スライス(130)は、前記少なくとも1つの3D CT較正画像(62)の中央スライス(64)であり、
前記曲線(131)に重み因子wfが乗算され、重み付き平均グレー値wf*mgvの重み付き曲線(132)が得られ、前記重み因子wfは、前記基準スライス(130)の前記重み付き平均グレー値wf*mgv(jref)がwf*mgv(jref)=1の値を有するように選択され、
スライス位置jにおけるそれぞれのスライス(64)についての前記スケーリング因子sf(j)は、sf(j)=1/[wf*mgv(j)]で選択される
ことを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体のCT(=コンピュータ断層撮影)画像を得るための方法であって、
a)角度付きアノード(angled anode)を含むX線源を使用してX線を生成するステップであって、X線は、角度付きアノードのアノード材料内で生成され、アノード材料を出るX線は、y方向に関するそれらの出口の位置に応じてアノード材料内で異なる距離を移動したものであるステップと、
b)生成されたX線のビーム経路内に位置する物体または物体の一部の2D投影の少なくとも1つのセットを、物体の背後(behind)のビーム経路に位置する2D X線検出器を用いて記録するステップであって、X線源および2D X線検出器は、測定セットアップ(measurement setup)の一部であり、2D投影のセットのそれぞれの2D投影は、測定セットアップに対する物体の異なる回転位置に1つずつ記録され、特に、測定セットアップに対する物体の回転は、y方向に平行な回転軸に対するものであり、2D投影のそれぞれのセット各々について、y方向に関してX線源および2D X線検出器を含む測定セットアップに対する物体のそれぞれのシフト位置が選択されるステップと、
c)物体または物体の前記一部の少なくとも1つの3D CT画像を生成するステップであって、2D投影のそれぞれのセット各々について、3D CT画像が生成され、3D CT画像は、それぞれのグレー値が関連付けられた複数のボクセルからなるステップと
を有する、方法に関する。
【0002】
このような方法は、特許文献1から知られている。
【背景技術】
【0003】
コンピュータ断層撮影(=CT)撮像は、三次元(=3D)方法で物体の内部を非破壊的に調査するための強力なツールである。CT撮像は、例えば、構成要素の材料の体積内部の細孔や亀裂を検出するため、あるいはアクセスすることができない複雑な構成要素の内部構造の寸法を決定するためなど、構成要素の品質を検証するために産業において使用される。医学では、CT撮像を使用して、生きているヒトまたは動物の体内の組織および骨の状態を調査することができ、例えば、腫瘍または他の病理学的変化を検出および特徴付けすることができる。
【0004】
CT撮像の場合、関心物体またはその一部の複数の二次元(=2D)X線画像、すなわち2D投影が記録され、物体は、各2D投影において異なる回転位置で撮像される。そのような2D投影のセットから、物体または前記一部の3D CT画像を生成する、すなわち計算することができる。使用される測定セットアップの視野よりも物体のほうが大きい場合、複数の2D投影のセットを記録することができ、各2D投影のセットは、物体の一部を撮像し、そしてここで、物体は、異なるセットについて、測定セットアップに関して異なる位置にシフトされ、得られた3D CT画像は、完全な物体の1つの全体的な3D CT画像に組み合わせられることができる。3D CT画像は、それぞれのグレー値を有する複数のボクセルからなり、グレー値は、物体のそれぞれの局所X線減衰を表す。物体の構造の境界では、グレー値は一般的に変化し、3D CT画像に視認可能なコントラストをもたらす。実際には、1つまたは複数の特定の平面内における物体の内部構造を知るために、1つまたは複数の2D CT部分画像が3D CT画像から抽出されることが多いことに留意されたい。
【0005】
物体(またはその一部)の2D投影を記録するために、X線源がX線を生成し、物体(またはその一部)がX線のビーム経路内に載置され、物体の背後(behind)の2D X線検出器がX線強度を検出する。
【0006】
CT撮像に使用される一般的なタイプのX線源は、いわゆる反射型ターゲットを適用する。ここで、カソードから生じる電子ビームは、電子に対するアノードとして機能する金属ターゲット上に向けられ、アノードは、X線ビームに対して傾斜したターゲット表面を含む。対応するアノードは、「角度付きアノード」とも呼ばれる。電子は、アノード材料を幾分透過し、アノード材料内で減速し、基本的に連続的なスペクトル範囲を有する制動放射の形態のX線を生成する。X線撮像に使用される生成されたX線は、基本的に電子ビーム方向を横断する方向に伝播するのが一般的である。ターゲット表面が傾斜しているため、生成されたX線の異なる局所画分は、アノード材料を出て物体および2D X線検出器までさらに移動する前に、アノード材料の異なる厚みを通って移動する。通過するアノード材料の厚みは、X線の放出角(または伝播方向)に依存し、電子ビーム方向に対応する、ここではy方向と呼ばれる方向に関するターゲット表面上のX線の出口の位置に相関付けることができる。アノード材料は、通過する生成されたX線を減衰させ、生成されたX線ビームの特性に影響を及ぼし、この現象は「ヒール効果」と呼ばれる。
【0007】
ヒール効果には、2つの態様がある。第1に、一般に、通過するアノード材料の厚みが厚いほどX線の吸収が多くなり、逆もまた同様であるため、X線の局所強度はy方向に沿って変化する(「強度効果」)。第2に、波長がより短いX線(「より硬いX線」)は、一般に、波長がより長いX線(「柔らかいX線」)と比較して、アノード材料での吸収が少ない。結果として、より厚いアノード材料を通って移動してきたX線の局所画分は、より薄いアノード材料を通って移動してきた局所画分と比較して「硬く」なり、すなわちX線のスペクトル組成は、y方向に沿って変化する(「スペクトル効果」)。
【0008】
反射型ターゲットで生成されたX線を用いて2D X線画像、すなわち2D投影を記録すると、「強度効果」は、y方向に沿った全般的な強度勾配をもたらし、X線2D投影を歪ませる。「強度効果」は、いわゆる「フラットフィールド補正」によって補償することができる。この目的のために、物体なしで2D投影が記録される。物体のない2D X線検出器での局所測定強度を反転させ、物体を有する2D投影の測定強度に適用される局所補正因子を得ることができる。フラットフィールド補正は、X線源(すなわち、ターゲット上の電子スポット)までの異なる距離および2D X線検出器表面の局所部分のX線の異なる入射角、ならびに局所検出器感度の発生し得るばらつきを補償するが、ヒール効果の「強度効果」の態様も補償する。
【0009】
しかし、ヒール効果の他の態様、すなわち「スペクトル効果」は、フラットフィールド補正後でも依然として残っている。物体(またはその一部)の2D投影が記録されると、物体にX線が放射され、そのスペクトル組成は場所によって変化する。より正確には、物体に到達するX線の硬度は、y方向の位置に依存する。ここでも、一般に、より硬いX線はより柔らかいX線よりも吸収されにくく、これは物体材料にも当てはまることに留意されたい。このため、物体によるX線の減衰は、物体の特性(すなわち、その幾何学的形状および材料組成)に依存するだけでなく、y方向における位置にも依存する。例えば、y方向に均一な物体の2D投影を記録する場合、X線検出器において測定されたX線強度は、物体に到達する局所X線がより硬い物体の領域において、局所X線がより柔らかい領域と比較してより大きいが、これは、物体によるより硬いX線の吸収がより少ないためである。これにより、2D投影における物体のグレー値勾配および結果として得られる3D CT画像が生じる。これは、測定セットアップの視野(y方向において、「垂直視野」)よりも大きい物体の3D CT画像を結合して全体的な3D CT画像にするときに特に明らかになる。結合された3D CT画像の遷移において、コントラストの急激な変化が物体に現れる。この画像アーチファクトは、「バンブー効果」と呼ばれることがある。
【0010】
特許文献1は、すべての放出角についてのタングステンアノード材料のスペクトル吸収挙動を考慮し、さらにタングステンアノード材料内を移動経路長を考慮して、2D投影における検出器出力に適用されるヒール効果補正因子を提案している。さらに、物体材料のスペクトル吸収挙動およびスペクトル検出器の吸収効率が考慮される。この手順は、多くの計算労力、並びに、アノード材料、物体材料、および検出器の特性に関する詳細な知識を必要とする。
【0011】
非特許文献1は、セルフウェッジ補正プロセスの適用を提案しており、ここでは、すべての回転角度の2D投影から試料の平均投影が決定され、平均投影についての最小グレー値が決定され、平均投影からこれを差し引き、メディアンフィルタが適用され、フィルタリングされた平均投影を各ケースにおいて差し引くことで、元の2D投影を補正するために使用される。補正された2D投影は、試料の3D CT画像を生成するために使用することができる。この手法によりヒール効果が低減されたように見えるが、特に各2D投影において、依然としてかなりの計算労力を必要とする。さらに、コントラストの改善はやや限定的に見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0244397号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K.Liu et al.(K.Liu,R.Boardman,M.Mavrogordato,F.A.Loveridge,W.Powrie,’’The Importance of the Heel Effect in X-Ray Ct Imaging of Soils’’,Environmental Geotechnics,2020,pp.1-15,ISSN 2051-803X)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ヒール効果アーチファクトが簡単な方法で低減される、物体の3D CT画像を得るための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、最初に紹介した方法によって達成され、
方法は、
d)各生成された3D CT画像について、3D CT画像を補正して、補正された3D CT画像にするか、もしくは、3D CT画像の2D CT部分画像を補正して、補正された2D CT部分画像にするステップ
をさらに含み、
3D CT画像のボクセルの各スライスについて、スケーリング因子が決定され、ボクセルの各スライスは、3D画像内においてy方向に同一の位置を有する3D CT画像のそれらのボクセルを含み、
3D CT画像または2D CT部分画像のボクセルのそれぞれのスライスの各ボクセルのグレー値は、ボクセルのそれぞれのスライスに対して決定されたスケーリング因子で乗算され、補正された3D CT画像または補正された2D CT部分画像のボクセルについての補正されたグレー値が得られ、
ボクセルのスライスについてのスケーリング因子は、測定セットアップで測定された少なくとも1つの3D CT較正画像を用いて決定され、
少なくとも1つの3D CT較正画像は、y方向に関して、測定セットアップの視野の異なる領域における、X線のビーム経路内に載置された較正物体の類似または同一の物体構造を描写し(picture)、少なくとも1つの3D CT較正画像について、y方向におけるスライス位置に起因する前記異なる領域における類似または同一の物体構造に属するボクセルのグレー値へのグレー値寄与(グレー値の寄与)(grey value contribution)が少なくともほぼ決定され、ボクセルのそれぞれのスライスについてのスケーリング因子は、そのスライスについて決定されたグレー値寄与を補償するように選択される
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の方法は、CT撮像の3D CT画像レベル(「画像空間」)に対して、そのスペクトル効果の態様に関してヒール効果の少なくともおおよその補償を適用する。本発明によれば、再構成された3D CT画像は、3D CT画像内のボクセルの各スライスに対して決定されて乗算によって3D CT画像またはその2D CT部分画像のボクセルのグレー値に直接適用されるスケーリング因子による補正を受ける。このようにして、方法は、適用するのが非常に簡単であり、特に2D投影に作用する補正方法と比較して簡単である。さらに、本発明の方法は、測定によって容易に得ることができる1つまたは複数の再構成された3D CT較正画像から得られた補正情報に基づく。本発明の方法は、測定セットアップ(アノードの幾何学的形状またはアノード材料の吸収挙動または検出器の感度など)または測定される物体(物体の幾何学的形状および物体材料の吸収挙動など)に関する詳細な知識を必要としない。このため、本発明の方法は実行が容易であり、基本的にすべてのシステムで普遍的に適用することができる。
【0017】
スケーリング因子は、少なくとも1つの3D CT較正画像を使用して決定される。少なくとも1つの3D CT較正は、ヒール効果が沿って作用しているy方向に関して測定セットアップの視野内の異なる領域(位置)における較正物体の類似または同一の物体構造を描写する。
【0018】
類似の物体構造は、それらが(少なくともほぼ)同じX線吸収性質を示すという点で類似であり、特に、類似の物体構造は、(少なくともほぼ)同じ密度を有する材料から作製され(典型的には、類似の物体構造は、少なくとも主に同じ材料から作製される)、視野の異なる領域内、特に対応する(すなわち、比較される)スライスにおけるxz平面内で(少なくともほぼ)同じ寸法を有する。比較される物体構造が同一である場合、それらは本質的に同一のX線吸収性質を有する。
【0019】
しかし、ヒール効果に起因して、類似または同一の物体構造は、視野の異なる領域内の少なくとも1つの3D CT較正画像において幾分異なって見える。一般的に言えば、y方向において異なる位置にある類似または同一の物体構造のグレー値は、互いに対してシフトされる(場合によっては引き伸ばされる)。言い換えれば、類似または同一の物体構造は、y位置の関数として異なる輝度(場合によっては異なるコントラストも)を有する。視野内の異なるy位置における類似または同一の構造のグレー値の変更(alteration)は、y方向におけるスライス位置に起因するグレー値寄与(またはグレーレベル寄与)を表す。
【0020】
グレー値寄与はヒール効果から生じ、y位置に応じて、反射型ターゲットの角度付きアノードで生成されたX線は異なる波長分布を有し、この異なる波長分布は、補正前において、異なるy位置に位置する(類似または同一の)物体構造における異なるX線吸収、したがって異なる見かけのグレー値をもたらす。
【0021】
ヒール効果から生じる補正されていない3D CT画像におけるグレー値寄与をy位置(すなわち、y方向におけるスライス位置)の関数として用いることにより、このグレー値寄与を補償する各スライスについてのスケーリング因子を決定することができる。特定のスライスについてのスケーリング因子は、そのスライスにおけるヒール効果を少なくともほぼ逆転させる。最も簡単には、基準スライスは、標準グレー値レベルを表す(典型的にはy方向に対して中央の)各3D CT画像に対して定義することができ、基準スライスでは、定義によって補正は必要とされず(すなわち、スケーリング因子は1である)、基準スライスの上下において、スケーリング因子によりグレー値が増加または減少するが、一般に、補正されるスライスが基準スライスから離れるほど、スケーリング因子は1から大きくずれる。
【0022】
特定のスケーリング因子は、同じy位置を有するスライスに起因する。X線源(またはビームスポット)と測定される物体との間の典型的な距離では、特定のスライス内のX線は、ビームスポットからほぼ同じ放出方向(「ヒール角」)を有し、それによりアノード材料のほぼ同じ厚み(経路長)を通って移動し、したがって、ほぼ同じスペクトル組成を有する。したがって、1つのスケーリング因子が完全なスライス(complete slice)に適している。
【0023】
類似または同一の物体構造は、測定される物体(の少なくとも一部)(すなわち、物体は較正物体としても使用される)であってもよく、または測定される物体に概ね類似する較正物体(の少なくとも一部)(「ファントム」)(すなわち、測定される物体とは異なる較正物体/ファントムが使用される)であってもよいことに留意されたい。
【0024】
本発明の方法では、1つまたは複数の3D CT画像を1つまたは複数の3D CT較正画像としても使用することが可能であり(したがって、個別の較正画像測定は必要ない)、あるいは、物体の1つまたは複数の3D CT画像に加えて1つまたは複数の3D CT較正画像が撮影される。
【0025】
物体の3D CT画像(3D CT image(s))が3D CT較正画像(3D CT calibration images)としても使用される(そのとき、物体が較正物体として機能する)場合、本発明の較正は、「自己較正」と呼ぶことができる。
【0026】
測定セットアップに対する物体の回転を実行するために、物体を(回転に関する限り)静止した測定セットアップ(X線源/2D X線検出器)に対して回転させることができるか、または測定セットアップ(X線源/2D X線検出器)を(回転に関する限り)静止した物体に対して回転させることができる。測定セットアップに対する物体のシフトを実行するために、物体を(シフトに関する限り)静止した測定セットアップ(X線源/2D X線検出器)に対してシフトさせることができるか、または測定セットアップ(X線源/2D X線検出器)を(シフトに関する限り)静止した物体に対してシフトさせることができる。
【0027】
本発明の補正は、完全な3D CT画像を補正するのではなく、3D CT画像の2D CT部分画像に限定されてもよいことに留意されたい。本発明の方法で補正された典型的な2D CT部分画像は、y方向および別の方向xまたはzに延在するボクセル平面である(2D CT部分画像がxz平面内で選択された場合、ヒール効果補正は必要ないことに留意されたい)。
【0028】
x、y、zは直交座標系を形成し、典型的にはzはX線の一般的な伝播方向を表し、角度付きアノードのターゲット表面はx方向に平行に延在し、y方向に対して傾斜していることに留意されたい。角度付きアノードに当たる電子ビームの方向は、典型的にはy方向に対応する。
【0029】
本発明の好ましい変形例
本発明の方法の好ましい変形例では、グレー値寄与は、y方向における線形または区分的線形関数で近似される。これにより、本発明の手順は簡素化され、ほとんどの用途において、適切な(近似的な)ヒール効果補償がもたらされる。言い換えれば、ほとんどの用途では、ヒール効果は、(再構成された3D CT画像内の)画像空間内でy方向に基本的に線形であり、その結果、この変形例は非常によく物理的挙動に適合する。線形関数の場合、異なるy位置を有する2つの領域/位置(「基点」)のみでの類似または同一の物体構造の分析で十分である。区分的線形関数の場合、基点の数NBが適用され、典型的には、4≦NB≦20、または5≦NB≦15、または6≦NB≦12である。グレー値寄与関数の線形近似は、測定セットアップの視野で使用されるX線の放出角が比較的小さい場合、例えば、ターゲット表面上に電子スポットを含むxz平面に対して±25°、または±20°の最大範囲内である場合に特によく適している。
【0030】
別の有利な変形例では、2D投影のセットすべての2D投影について、フラットフィールド補正が適用される。フラットフィールド補正の過程において、物体なしのX線の2D投影が測定セットアップで測定され、この2Dフラットフィールド投影の測定された強度値は、物体または較正物体で測定された2D投影で乗算される局所フラットフィールド補正因子(画素ごとに)を得るために反転される。必要に応じて、ダークフィールド補正(暗視野補正)(dark field correction)もここに含めることができる(2Dダークフィールド投影がX線なし(および物体なし)で測定され、2Dダークフィールド投影は、物体なしの2Dフラットフィールド投影および物体/較正物体の各2D投影から減算され得る)。フラットフィールド補正は、ターゲット表面上の電子スポットまでの異なる距離およびX線放射の異なる入射角を有する異なる2D X線検出器領域から生じる振幅歪み、ならびに検出器の局所感度の起こり得るばらつきを補償する。さらに、フラットフィールド補正では、アノード材料内の異なる経路長に由来する、y位置の関数としての生成されたX線の全波長にわたる振幅の差は、本質的に相殺される。言い換えれば、ヒール効果の強度効果の態様は、フラットフィールド補償によって直接かつ事前に補償することができる。フラットフィールド補正(本質的にヒール効果の強度効果の態様および他のアーチファクトに対処する)は、画素ごとに投影空間で行われる手順であるのに対して、本発明のヒール効果補正(ヒール効果のスペクトルの態様に対処する)は、y位置(スライス)ごとに画像空間で行われる手順であることに留意されたい。
【0031】
別の好ましい変形例では、少なくとも2つの3D CT較正画像が測定され、少なくとも2つの3D CT較正画像は、3D CT較正画像の少なくとも1つの較正対を形成し、
それぞれの較正対の2つの3D CT較正画像は、y方向に関して、測定セットアップの視野の異なる領域における、X線のビーム経路内に載置された較正物体の、それぞれの同一の物体構造を描写し、
較正対の2つの3D CT較正画像は、測定セットアップに対する較正物体の異なるシフト位置で測定され、
測定セットアップの視野の異なる領域に位置するそれぞれの同一の物体構造は、この較正対の、異なる3D CT較正画像に描写され、
特に、前記異なる領域内のボクセルの少なくとも一部のグレー値は、グレー値寄与を決定するために比較される。グレー値寄与を決定するために、すなわちヒール効果を補償するために同一の物体構造を使用することによって、ヒール効果補償は特に正確になり得る。補正の基礎となる類似の物体構造の(のみの)X線吸収挙動の起こり得る差は、完全に排除される。
【0032】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、較正物体は、物体と同一である。このようにして、測定(撮像)される物体の他には個別の較正物体は必要とされず、方法が単純化される。また、測定される物体が較正物体として使用されるため、較正物体と測定される物体との間の材料または構造の起こり得る差によって補償が歪められることはない。一般に、物体を代表する物体の一部が、好ましくは同一の物体構造として選択されることに留意されたい。
【0033】
特に好ましいのは、このさらなる発展形態の部分変形例であり、
物体は、y方向に関して測定セットアップの視野よりも長く、
物体の部分の2D投影の少なくとも2つのセットが記録され、2D投影の少なくとも2つのセットは、y方向に関して測定セットアップに対する物体の少なくとも2つの異なるシフト位置に記録され、
物体の部分の少なくとも2つの3D CT画像は、2D投影の少なくとも2つのセットから生成され、
少なくとも2つの3D CT画像は、少なくとも1つの3D CT画像の対を形成し、3D CT画像の対それぞれにおいて描写された物体の部分それぞれは、重なり合う物体セクションそれぞれにおいてy方向に重なり合い、
少なくとも1つの前記3D CT画像の対は、3D CT較正画像の少なくとも1つの前記較正対として使用され、3D CT較正画像のそれぞれの較正対について、重なり合う物体セクションそれぞれは、この較正対のそれぞれの同一の物体構造を提供し、
特に、少なくとも2つの3D CT画像の全体は、完全な物体を描写する。この手順は、「自己較正」と呼ぶこともでき、「連結走査」(connected scan)に適用することができる。連結走査では、記録された3D CT画像は、対で(pairwise)重なり合い、それによりそれぞれの重なり合う物体セクションが走査され、その体積が2回、典型的には小さいヒール角で1回、大きいヒール角で1回(すなわち、視野内のy位置が低い場合に1回、高い場合に1回)、再構成される。ここで、ヒール効果は最も顕著で十分に観察可能であり、y方向におけるスライス位置に起因するグレー値寄与を決定するために使用することができる。したがって、物体の3D CT画像を3D CT較正画像として使用することができ、物体は較正物体として使用される。このようにして、追加の走査(2D投影のセット)は必要なく、方法は特に迅速かつ正確である。
【0034】
別の好ましい変形例では、それぞれの3D CT較正画像は、y方向に関して、測定セットアップの視野の異なる領域における、X線のビーム経路内に載置された較正物体の類似の物体構造を描写し、
測定セットアップの視野の異なる領域に位置する類似の物体構造は、同じそれぞれの3D較正画像に含まれ、
較正物体は、測定される物体とは異なる。この変形例は、行うのが簡単であり、特に、物体または較正物体のシフトを必要としない。較正物体は、較正を行うための類似の物体構造を提供する少なくとも2つの領域を有するように選択される。典型的には、この変形例では、物体の少なくとも1つの3D CT画像とは無関係に、較正物体からの1つの3D CT較正画像のみが測定される(典型的には、完全な物体の1つの3D CT画像のみが測定されるが、単一の3D CT画像では大きすぎる物体を分割して描写した複数の3D CT画像であることもある)。しかし、較正物体の複数の3D CT較正画像を測定し、スケーリング因子を決定するためにこれらの複数の3D CT較正画像から較正情報(グレー値分布に関する情報)を平均化することも可能である。
【0035】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、較正物体は、少なくともほぼ円筒形状であり、y方向に沿って整列したものが選択される。このようにして、物体は、較正目的のために類似の物体構造を選択するためにその全長に沿って使用することができ、特に、実質的に任意の数の基点がグレー値寄与のための区分的線形関数に対して選択されてもよく、または連続的なグレー値寄与関数が適用されてもよい。較正物体は、一般に均一な材料で作製されることに留意されたい。
【0036】
別の好ましいさらなる発展形態では、
較正物体の較正材料の較正材料密度CMDと物体の材料もしくは優位的な材料の密度Dとは、類似であり、
特に、90%≦CMD/D≦110%であり、
ならびに/または、較正物体および物体の幾何学的形状は、類似であり、
特に、y方向における較正物体の高さCOHおよび物体の高さHについて、80%≦COH/H≦120%が適用され、ならびに/または、y方向に垂直な断面における較正物体の最大直径COLDおよび物体の最大直径LDについて、80%≦COLD/LD≦120%が、高さCOHもしくはHのそれぞれの少なくとも80%に適用される。このようにして、本発明によるヒール効果補償は、非常に正確になる。
【0037】
本発明の方法の有利な変形例では、
少なくとも1つの3D CT画像のボクセルのスライスは、それらのy位置に関して連続して番号付けされ、
少なくとも1つの3D CT画像のボクセルの1つのスライスは、スケーリング因子が1の基準スライスとして設定され、
特に、基準スライスは、y方向に関して少なくとも1つの3D CT画像の中央スライスであり、
少なくとも1つの3D CT画像のボクセルのそれぞれのスライスに対して決定されたスケーリング因子は、以下のように決定され:
sf(n)=1+sc*(n-nref
ここで、sf:スケーリング因子、sc:スケーリング係数、n:それぞれのスライスの位置番号、nref:基準スライスの位置番号、である。この変形例では、スケーリング因子は、完全なそれぞれの3D CT画像に対して1つの線形関数によって決定され、これは特に単純である。さらに、3D CT画像の中心で1のスケーリング因子を選択することによって、ほとんどの実用的な用途で良好なコントラストを達成することができる。
【0038】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、グレー値寄与を決定するために、類似または同一の物体構造に属するボクセルのグレー値は、測定セットアップの視野の2つの異なる領域において比較され、2つの異なる領域における描写された類似または同一の物体構造の合計K個のセットが分析され、Kは、1以上の自然数であり、
特に、2つの異なる領域における3D CT較正画像のK個の較正対が分析され、
2つの異なる領域は、第1の領域と、第2の領域とを含む。(較正対ごとに)視野の2つの異なる領域のみの類似または同一の構造を比較することは、特に簡単であり、スケーリング係数scを決定するのに非常に十分なものである。複数の較正対が分析される場合(すなわち、K≧2)、単一のスケーリング係数sscが各較正対に対して決定されてもよく、スケーリング係数scは、単一のスケーリング係数sscを平均化することによって計算されてもよい。1つまたは複数の較正対が分析される場合、異なる領域は、典型的には、較正対の3D CT較正画像の画像体積のそれぞれの重なり合う部分に対応する。しかしながら、それら領域は、必要に応じてより小さく選択されてもよい。
【0039】
有利なのは、このさらなる発展形態の部分変形例であって、
第1および第2の領域の各々、または第1および第2の領域のそれぞれのセクションの各々について、それぞれのセクションがそれぞれの類似または同一の物体構造に属するボクセルを含み、y方向に関する特徴グレー値および特徴位置番号が決定され、
スケーリング係数(sc)は、以下のように決定され:
【数1】
ここで、gv :セットkについての第1の領域またはそのセクションの特徴グレー値、gv :セットkについての第2の領域またはそのセクションの特徴グレー値、i :セットkについての第1の領域またはそのセクションの特徴位置番号、i :セットkについての第2の領域またはそのセクションの特徴位置番号、k:分析される描写された類似または同一の物体構造のセットのインデックス、である。このようにして、スケーリング因子を簡単な方法で計算することができる。Kの平均化は、スケーリング係数scの決定の責任を増大させる。セクションは、典型的には、物体/較正物体(またはその一部)のみが描写され、物体/較正物体の周りの空き空間が除外されるように選択される。異なる領域(ここでは第1および第2の領域)またはそれぞれのセクションは、一般に、同一のサイズで選択されることに留意されたい。較正物体(または物体)の同一の物体構造が較正に使用される場合、視野の異なる領域は、較正物体(または物体)内の同じエリアに関連する。特徴グレー値は、例えば、極大値などの局所的極値として、または平均グレー値として選択されてもよい。
【0040】
上記の部分変形例の有利な部分発展形態では、第1の領域またはそのセクションの特徴グレー値は、平均グレー値として選択され、第2の領域またはそのセクションの特徴グレー値は、平均グレー値として選択され、第1の領域またはそのセクションの特徴位置番号は、平均位置番号として選択され、第2の領域またはそのセクションの特徴位置番号は、平均位置番号として選択される。平均グレー値および平均位置番号は、特に自動手段を用いて容易かつ迅速に決定することができる。
【0041】
上記のさらなる発展形態の別の好ましい部分変形例では、
第1および第2の領域の各々、または第1および第2の領域のそれぞれのセクションの各々であって、それぞれのセクションがそれぞれの類似または同一の物体構造に属するボクセルを含むものについて、
-これらのボクセルのグレー値の関数としてのボクセルの量のヒストグラムが生成され、第1の領域および第2の領域のヒストグラムが重ね合わされ、第2の領域のヒストグラムは、ヒストグラムの偏差が最小になるまで、第1のヒストグラムに関してグレー値に対してシフトされ、またはその逆も同様であり、
-y方向に関する特徴位置番号、特に平均位置番号が決定され、
スケーリング係数は、以下のように決定され:
【数2】
ここで、シフト(shift):ヒストグラムの偏差がセットkについて最小になるグレー値に関するヒストグラムのシフト、i :セットkについての第1の領域またはそのセクションの特徴位置番号、特に平均位置番号、i :セットkについての第2の領域またはそのセクションの特徴位置番号、特に平均位置番号、k:分析される描写された類似または同一の物体構造のセットのインデックスである。このようにして、スケーリング係数を特に高い精度で決定することができる。ヒストグラムをシフトして最適なシフトを決定することは、非常に確固としたものであり、特に、例えば単一の検出器の読み間違えなど、多くの測定アーチファクトに影響されない。Kの平均化は、スケーリング因子の決定の責任を増大させる。セクションは、典型的には、物体/較正物体(またはその一部)のみが描写され、物体/較正物体の周りの空き空間が除外されるように選択される。
【0042】
それぞれの3D CT較正画像が視野の異なる領域に較正物体の類似の物体構造を描写する変形例の好ましいさらなる発展形態では、
y方向におけるそれぞれのスライスのスライス位置jの関数として、少なくとも1つの3D CT較正画像の各スライスについての平均グレー値mgvをプロットする曲線が決定され、
y方向にスライス位置jrefを有する基準スライスが選択され、特に、基準スライスは、少なくとも1つの3D CT較正画像の中央スライスであり、
曲線に重み因子wfが乗算され、重み付き平均グレー値wf*mgvの重み付き曲線が得られ、重み因子wfは、基準スライスの重み付き平均グレー値wf*mgv(jref)がwf*mgv(jref)=1の値を有するように選択され、
スライス位置jにおけるそれぞれのスライスについてのスケーリング因子sf(j)は、sf(j)=1/[wf*mgv(j)]で選択される。このようにして、連続的なヒール効果補償を確立することができるが、これは特に正確である。各スライスについての平均グレー値は、完全な視野にわたって延在する較正物体/ファントムを測定し、そのスライスのボクセルの測定されたグレー値から各スライスについての平均グレー値を計算することによって決定することができる。あるいは、曲線は区分的線形関数によって近似され、平均グレー値は、視野内の少数個の基点についてのみ測定によって決定され、基点間の平均グレー値は、線形補間によって決定される。
【0043】
さらなる利点は、本明細書および添付の図面から抽出することができる。上述および下記の特徴は、本発明に従って個々にまたは任意の組み合わせで集合的に使用することができる。言及された実施形態は、網羅的な列挙として理解されるべきではなく、むしろ本発明の説明のための例示的な性質を有する。
【0044】
本発明が、図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明で使用するためのCT測定セットアップの概略側面図である。
図2】ヒール効果の発生を説明する、角度付きアノードの領域における図1の拡大図である。
図3】本発明の変形例で適用される、ヒール効果およびフラットフィールド補正の強度効果の態様を概略的に示す図である。
図4】単一の3D CT画像を用いた変形例についてのヒール効果のスペクトル効果の態様、および本発明の補正の効果を概略的に示す図である。
図5】3D CT画像の連結走査を用いた変形例についてのヒール効果のスペクトル効果の態様、および本発明の補正の効果を概略的に示す図である。
図6】例示的な変形例における3D CT画像に対する本発明のヒール効果補償を概略的に示す図であって、個別の円筒状較正物体を使用し、かつ較正のために視野の2つの異なる領域を使用して1つの個別の3D CT較正画像を適用したものである。
図7】例示的な変形例における3D CT画像に対する本発明のヒール効果補償を概略的に示す図であって、較正物体として物体を使用し、かつ較正のために視野の2つの異なる領域を使用して2つの連結3D CT較正画像を適用したものである。
図8】例示的な変形例における3つの3D CT画像の連結走査に対する本発明のヒール効果補償を概略的に示す図であって、較正物体として物体を使用し、かつ較正のために視野の2つの異なる領域を使用して3D CT較正画像として3D CT画像を適用したものである。
図9】例示的な変形例における本発明の補正方法に使用される円筒状較正物体の類似の物体構造を含む視野内の2つの異なる領域の選択を概略的に示す図である。
図10】較正物体として使用される、測定される物体の同一の物体構造を含む視野内の2つの異なる領域の選択を概略的に示す図であって、例示的な変形例において本発明の補正方法で使用される連結走査を適用したものである。
図11】例示的な変形例における、本発明に係るスケーリング因子を決定するための走査係数の決定を概略的に示す図であって、視野内の2つの異なる領域のセクションにグレー値のヒストグラムを適用したものであって、部分Aはヒストグラム偏差を最小化するためのシフト前、部分Bはシフト後である。
図12】本発明の例示的な変形例に係る走査因子を決定するための走査係数の決定に使用されるテーブルであって、3つの重なり合う画像に含まれる視野内の2つの異なる領域のセクションにおける平均位置番号および平均グレー値を列挙する。
図13】本発明の例示的な変形例に係る走査因子の決定を概略的に示す図であって、ボクセルの各スライス(上の3つの図A、B、C)または代替的に6つの基点(下の図D)についての平均グレー値を計算するものである。
図14】円筒状物体の補正されていない3D CT画像(左の写真A)および円筒状物体の補正された3D CT画像(右の写真B)を示す図であって、各スライスについての平均グレー値に基づいて、本発明の変形例に係る各スライスについてのスケーリング因子を適用したものである。
図15】マウス大腿骨の3つの3D CT画像の補正されていない連結走査/全体的な3D CT画像(左の写真A)およびマウス大腿骨の補正された全体的な3D CT画像(右の写真B)を示す図であって、本発明の変形例に係る自己較正によって得られたスケーリング因子を適用したものである。
図16a】ヒール効果補正前のAlロッドの全体的な3D CT画像のスライスインデックスの関数として平均グレー値および標準偏差間隔をプロットした図である。
図16b】自己較正を適用した、本発明の変形例に係るヒール効果補正後の図16aの図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、本発明で使用するための、3D CT画像を得るための例示的な測定セットアップ1を概略的に示す。
【0047】
測定セットアップ1は、角度のついた(角度付き)アノード3を有する反射型ターゲットを含む、X線源2を備える。カソード4から生じる電子5は、電子ビーム5aを形成し、これはターゲットとしての角度付きアノード3に向けられる。電子5は、5kV以上などの高電圧によって角度付きアノード3に向かって加速される(詳細には図示せず)。電子ビーム5aは、ここでは、y方向に平行である。方向x、y、およびzは、直交座標系を形成する。
【0048】
また、図2の拡大図から明らかなように、角度付きアノード3は、電子ビーム5aの伝播方向に向かって、すなわちy方向に対して角度αだけ傾斜したターゲット表面6を有する。前記角度αは、アノード角αとも呼ばれる。図示の例では、アノード角αは約45°であるが、一般には、アノード角αは、典型的には25°≦α≦65°で選択されることに留意されたい。ターゲット表面6は平坦であり、ここではx方向に平行に延在している。
【0049】
電子ビーム5aの電子5は、角度付きアノード3のアノード材料に少し入り込み(少し透過し)、おおよそターゲット表面6の少し下の電子ビームスポット領域7において、X線8を生成する(ここでは物理学的事項が幾分単純化されているが、ヒール効果の基本を理解するためには、この提示で十分であることに留意されたい)。電子5の減速によって基本的に連続的な波長スペクトルを有する制動放射が生じ、電子ビーム5aの電子5によって電子が放出されたアノード材料内において電子殻が充填されることから、X線8が生じ、アノード材料の特性X線が得られる。角度付きアノード3は、放出スペクトルに影響を与えるために、特定の材料の被覆層を含んでもよい(「ターゲット材料」)ことに留意されたい。一般に、制動放射は、生成されたX線8の大部分であり、CT撮像を支配する。X線8は、z方向を略中心とした空間角度エリアで電子ビームスポット領域7から放出される、すなわちX線は、電子ビームスポット領域7から略z方向に伝播する。
【0050】
正確な放出方向に応じて、X線8は、ターゲット表面6に到達し、したがってアノード材料を離れる前に、異なる距離でアノード材料内を通って移動しなければならない。図示の例では、カソード4に近いX線画分(x-ray fraction)8aは、アノード材料を通って経路長PLaを移動し、カソード4から遠いX線画分8bは、アノード材料を通って経路長PLbを移動し、ここでは、PLbはPLaの約2倍の長さである。一般的に言えば、図示の例では、より大きいy位置値でターゲット表面6に到達するX線画分(画分8bなど)は、より小さいy位置値でターゲット表面6に到達するX線画分(画分8aなど)と比較して、アノード材料内をより長く移動している。
【0051】
電子ビームスポット領域7で生成されたX線8は、アノード材料を出る前にアノード材料と相互作用する。一般に、アノード材料は、通過するすべての波長のX線を減衰させ、アノード材料における経路長が長いほど、減衰は強くなる(ランベルトベールの法則と比較)。また一般に、アノード材料において、より柔らかいX線は、より硬いX線と比較してより大きく減衰されるが、これはビーム硬化として知られている。このビーム硬化は、アノード材料における経路長が長いほど、より顕著である。結果として、全体的なX線強度は、より小さいy位置値でターゲット表面6に到達するX線画分についてより高く、より高いy位置値では減少する(ヒール効果の「強度効果」の態様をもたらす)。さらに、X線のスペクトルは、より大きいy位置値でターゲット表面6に到達するX線画分についてより硬く、y位置値が小さい程より柔らかくなる(ヒール効果の「スペクトル効果」の態様をもたらす)。図示の例においては、y軸は垂直であり、これは典型的かつ好ましい方向づけである。
【0052】
測定セットアップ1は、物体ステージ9をさらに備え、物体ステージ9において、3D CT画像測定のために測定される物体10が保持される(あるいは、ここには示されていないが、3D CT較正測定のために個別の較正物体(a separate calibration object)が物体ステージ9に保持されてもよい)。図示の例では、物体10は、物体ステージ9によって、ここではy方向に平行な回転軸12を中心に回転することができる。さらに、図示の例では、物体10はまた、物体ステージ9によりy方向にシフトされ得る。X線8は、物体10に向けられ、物体の幾何学的形状および(局所的な)物体材料に応じて、物体10によって減衰される。物体10を透過したX線は、測定セットアップ1の2D X線検出器11で測定され、すなわち2D X線検出器は、物体10の2D投影(2D画像と呼ばれることもある)を記録することができる。
【0053】
ここで、代替的な設計としては、(残りの(remaining))静止した測定セットアップ1(すなわち、静止したX線源2および静止した2D X線検出器11)に関して物体ホルダ9によって物体10を回転(旋回)および/またはシフトさせる代わりに、残りの測定セットアップ1を物体10の周りに回転させること、および/または残りの測定セットアップ1を物体10(すなわち、ここには示されていない静止した物体10)に関してシフトさせることが可能であることに留意されたい。
【0054】
測定セットアップ1によって、物体10の3D CT画像を得るために、2D投影のセットが物体10の異なる回転位置で測定され、このセットから、3D CT画像が計算(再構成)される。
【0055】
図3を参照すると、物体がない状態で図1および図2の測定セットアップ1を用いて2D投影30を記録すると、2D投影30は、2D X線検出器11で記録されたグレー値の勾配を示す。図3(ならびに以下の図)では、検出器11におけるより高いX線強度がより暗い色で示されており、その逆も同様である。2D投影30内の画素の低いy位置値の場合、ヒール効果の「強度効果」の態様に起因して、より高いX線強度が現れる。しかし、このアーチファクトは、いわゆる「フラットフィールド補正」(ここではFFCとも略される)によって解消することができる。FFCでは、2D投影の画素の強度値に、物体なしで測定された強度の逆数に相当するFFC補正因子が乗算される。例えば、FFCを2D投影30に適用すると、均一なグレー2D投影38を得ることができる。フラットフィールド補正はまた、検出器感度の局所的な差、および電子ビームスポット領域(「ビームスポット」)に対する2D X線検出器11の局所的な距離の変化も補償することに留意されたい。ここで、本発明の方法の過程において、FFC補正は、一般に、2D投影レベル(2D projection level)(すなわち、投影空間内)に適用されることが好ましいことに留意されたい。
【0056】
ヒール効果の「強度効果」の態様の同等の補償は、3D画像再構成におけるラインごとの空気強度ライン補正(air intensity line per line correction)によって達成することができることに留意されたい(ここではこれ以上説明しない)。
【0057】
物体10がビーム経路に含まれている測定セットアップ1で記録された2D投影に対してFFCを適用する場合、ヒール効果の「スペクトル効果」の態様が関連するようになる。図4の例のように、y方向に沿って整列している基本的に円筒状で均一な物体10が撮像されると、結果として得られる2D投影31において、物体投影32はy方向に関するグレー値の勾配を示す。このアーチファクトの理由は、y方向の位置がより大きいX線8(またはそれぞれの画分)は、より硬いX線スペクトルを有し、このため物体10に吸収されにくいためである。したがって、2D投影では、y位置が高い物体投影32の対応エリアは、より高いX線強度を有する。これに対して、y方向の位置がより小さいX線8(またはそれぞれの画分)は、より柔らかいX線スペクトルを有し、このため物体10により多く吸収される。したがって、2D投影において、y位置が小さい物体投影32の対応エリアは、より低いX線強度を有する。
【0058】
アーチファクトは、(異なる回転位置で記録された)2D投影31のセット33の各2D投影に現れ、また、セット33から生成された(再構成された)3D CT画像34に変換される。したがって、3D CT画像34内の物体画像35は、グレー値の勾配を示す。
【0059】
このアーチファクトを解消するために、3D CT画像34は、以下に説明する本発明のヒール効果補正を受け、補正された3D CT画像36が得られる。均一な物体10を有する図示の例では、補正された3D CT画像36内の物体画像37は、均一なグレー値を示す。
【0060】
本発明によれば、図5に示されるように、連結走査も行えることに留意されたい。この例の物体10は、円筒状で均一な物体10として再び選択され、y方向に沿って整列されるが、図5よりもはるかに長く、測定セットアップ1ではもはや単一の3D CT画像で撮像することはできない。図5に示すように、物体10が2D X線検出器11の視野50(2D X線検出器11のセンサエリアと、角度付きアノード上の電子ビームのスポットエリアに対応する制限X線ビーム50aによって決定される)よりも大きい場合、物体10の複数の3D CT画像(または対応する2D投影のセット)を、測定セットアップ1に対してy方向に関して物体10の異なるシフト位置で記録することができ、3D CT画像は幾分重なり合い、重なり合う物体セクション51a、51bを比較する。重なり合う物体セクション51a、51bは、個々の3D CT画像を全体的な3D CT画像に結合するときにそれらを位置合わせする(整列させる/aligning)ために用いられるが、特には、相対的な空間シフトを「その場その場で臨機応変に(on the fly)」計算することができる。図5では、3つの異なるシフト位置が(1つは実線で、2つは点線で)示されており、これらは続けてアクセスされ(ここで、物体10は固定されているとし、測定セットアップ1がシフトされる)、2D投影のセットが各シフト位置で記録される。個々の3D CT画像(またはそれぞれの2D投影のセット)を記録する間の連結走査において適用される物理的シフトは、通常、同じに選択されることに留意されたい。このようにして得られた個々の3D CT画像は、結合されて、物体10の全体的な3D CT画像52となることができる。
【0061】
フラットフィールド補正のみが2D投影レベルに適用され、残りのヒール効果(すなわち、そのスペクトル効果の態様)を補償するためのさらなる対策がとられない場合、結果として得られる全体的な3D CT画像52は、いわゆる「バンブー効果」アーチファクトを示す。部分物体画像35a、35b、35c(異なるシフト位置で記録された個々の3D CT画像に由来する)は、各々が独自のグレー値の勾配を示す。さらに、結合された個々の3D CT画像間の遷移において、グレー値の急激なジャンプが、撮像された物体に見られる。対照的に、このコントラストの急激なジャンプは、実際には存在しない物体内の構造と誤認される可能性がある。
【0062】
このアーチファクトを解消するために、全体的な3D CT画像52の個々の3D CT画像は、以下に説明する本発明のヒール効果補正を受け、補正された全体的な3D CT画像53を、補正された個々の3D CT画像から得ることができる。図示の例では、補正された3D CT画像53内の部分物体画像54a、54b、54cは、そのとき、均一なグレー値を示し、全体的な物体画像55は、バンブー効果のない、全体的に均一なグレー値を有する。
【0063】
図6を用いて、本発明によるヒール効果補正の一般的な手順は、第1の変形例で説明され、単一の3D CT画像のみが得られ、補正は、個別の較正物体で記録された単一の3D CT較正画像を用いて行われる。しかし、説明の大部分は、本発明の他の変形例にも同様に適用される。
【0064】
図4で説明したプロセスと同様に、測定される物体10の2D投影のセットが測定セットアップ1で(FFCを用いて)記録され、対応する3D CT画像34が再構成される(上記の図4と比較)。図示の例では、物体10は、全体的に、複雑な外形でy方向に延在しているが、基本的に均一な材料で作製される。(補正されていない)3D CT画像34では、物体画像35は、ヒール効果のスペクトル効果の態様に起因して、y方向にグレー値の有意な勾配を示す。
【0065】
さらに、較正物体61の2D投影のセットが測定セットアップ1で記録され、対応する3D CT較正画像62が再構成される。ここでは、較正物体61は、円筒形であり、均一な材料で作製される。一般に、較正物体61は、X線吸収性質が(特に連続的な補正のために、)測定される物体10のX線吸収性質に類似するように好ましく選択される。特に、較正物体61は、ここでは物体10と同じ材料から作製される。さらに、ここでは、物体10の高さHと較正物体61の高さCOHは同一である。またさらに、xz平面における物体10の最大直径LDおよび較正物体61の最大直径COLDは、ほとんどのy位置でほぼ同じであり、すなわちCOLDは、y位置の少なくとも80%について最大20%LDからずれる。簡単にするために、最も下のy位置についてのLDおよびCOLDのみがここに示されており、LDおよびCOLDはほぼ同じである。3D CT較正画像62内の較正物体画像63は、y方向にも有意なグレー値勾配を示しているが、これは、ヒール効果が物体10および較正物体61で基本的に同じように働くためである。
【0066】
3D CT画像34は、複数のボクセルで作製され、各ボクセルは、このボクセルにおける測定物体のX線吸収を示すグレー値に起因する(ここでより暗い色は低いX線吸収を示し、簡単にするために、物体を囲む空気領域は3D CT画像内で黒色でマークされていないので、物体画像はより良好に視認できることに留意されたい)。
【0067】
ボクセルは、多数のスライス64に起因してもよく、各スライスは、y方向において同じ位置を有するボクセルを示す。言い換えれば、各スライス64は、特定のxzボクセル平面を示す。3D CT画像34は、N個のスライスを有し、典型的にはN≧500である。さらに、各スライス64は、典型的には、少なくとも250×250=62500ボクセルのような数千ボクセルを含むことに留意されたい。スライス64は、スライス番号インデックスnで連続的に番号付けされ、ここでは最小のy位置でn=1から始まり、最大のy位置でn=Nで終わる。3D CT較正走査に対してアナログ分類を行うことができることに留意されたい(下記参照)。
【0068】
各スライス64について、インデックス番号nのそれぞれのスライス64におけるヒール効果を補正するために、それぞれスケーリング因子sfまたはsf(n)が決定される。このスケーリング因子sf(ns)は、3D CT較正画像62から導出される。特定のスライス64のスケーリング因子sfによって、このスライス64内のボクセルの補正されていないグレー値は、それぞれの補正されていないグレー値に特定のスライス64についてのスケーリング因子sfを乗算することによって、補正されたグレー値に補正することができる。結果として得られる物体10の補正された3D CT画像は、補正された3D CT画像36として示されており、ここで物体画像37は均一なグレーになっている。言い換えれば、スケーリング因子sfからの補正情報は、画像空間内の情報、ここでは3D CT較正画像62から得られ(2D投影の投影空間内ではない)、画像空間内で、ここでは3D CT画像34に適用される(2D投影の投影空間内ではない)。これにより、補正は、個々のシステムから切り離される。
【0069】
ここで、スケーリング因子sfを3D CT画像34の完全なスライスに適用する代わりに、3D CT画像34の2D CT部分画像65のみを補正することができ、例えば、図示のように特定のz位置でxy平面に平行なセクション(または図示されていない特定のx位置でzy平面に平行なセクション)を補正することができることに留意されたい。そして、ヒール効果を補正するために、それぞれのスライス64に属するセクション65内のボクセルのラインは、このそれぞれのスライス64についてのスケーリング因子sfが乗算され、補正された2D CT部分画像66が得られる。
【0070】
図6の変形例では、3D CT較正画像62において、2つの異なる領域、すなわち第1の領域R1および第2の領域R2が、本発明のヒール効果補正の基礎となるように選択される(この点について、図11図12も比較)。あるいは、較正物体61またはその3D CT較正画像の3つ以上の基点に基づく連続的な分析または単一の分析も可能であることに留意されたい(図13と比較)。第1の領域R1は、ここでは2D X線検出器11の視野50または対応する3D CT較正画像62の底部にあり、第2の領域R2は、ここでは視野50の上部にある。この変形例では、X線吸収に関する限りにおいて、互いに類似した挙動を示し、好ましくは、測定される物体10と比較しても類似した挙動を示す、2つの領域R1、R2内における類似の物体構造64a、64bを、基準物体61が有することがとりわけ重要である。典型的には、類似の物体構造64a、64bは、同じ材料で作製され、(可能な限り小さい物体構造の体積に基づいて)それぞれの領域内でサイズが最大20%異なる。
【0071】
ヒール効果またはそのスペクトル効果の態様は、それぞれ、視野50内の異なる位置に位置する、類似の物体構造、すなわち類似のX線吸収挙動を有する物体構造のボクセルのグレー値に対してグレー値寄与を引き起こす。円筒状で均一な較正物体61を用いると、第1の領域R1内の物体画像63の類似の物体構造64aは、第2の領域R2内の物体画像63の類似の物体構造64bと同じに見えるはずであるが、異なるy位置において較正物体61に対して異なるように作用するヒール効果に起因して、物体構造64bは、物体構造64aよりも暗いグレー値を示す。したがって、構造64aと64bとの間のグレー値のシフトは、スライス64内の類似の物体構造64a、64bの異なるy位置に遡ることができるグレー値寄与を表し、ここで、前記シフトはヒール効果によって引き起こされるが、これは補正されるべきでものある。
【0072】
前記グレー値寄与および補償スケーリング因子を決定するために、3D CT画像の領域R1およびR2内の類似の物体構造64a、64bのグレー値が、スケーリング因子sf(n)を決定するために分析される(以下をさらに参照)。
【0073】
ほとんどのCT測定セットアップに当てはまる測定セットアップ1で測定する物体のシフトが可能である場合、個別の較正物体はなしで行うことができる。これに代えて、図7に示されるように、測定される物体10を較正物体として使用することができる。物体を完全にとらえている物体の3D CT画像(図7の上側部分であり、ここでは3D CT較正画像としても作用する)に加えて、追加の3D CT較正画像が、物体位置がシフトされた状態で(図7の下側部分参照)得られ、ここでは物体10は残りの測定セットアップ1に対して下降している。いずれの場合も、本発明の補正の基礎となる同一の物体構造71として物体10の上部がここで使用される。これらの同一の物体構造71は、追加の3D CT較正画像においては、2D X線検出器11の視野50の下側部分の第1の領域R1内(図7の下側部分)、並びに、3D CT画像においては、視野50の上側部分の第2の領域R2内(図7の上側部分、ここでは3D CT較正画像としても使用される)に位置決めされる。
【0074】
ここでグレー値寄与を決定するために、2つの3D CT較正画像(そのうちの一方は同時に物体10の3D CT画像である)の領域R1およびR2内の同一の物体構造71のグレーレベルが、スケーリング因子sf(n)を決定するために分析される(以下をさらに参照)。前記2つの3D CT較正画像は、ここではいわゆる較正対CPを形成し、これらは、y方向に関して測定セットアップ1の視野50の異なる領域R1、R2で同一の物体構造71を描写している。
【0075】
測定セットアップ1の視野50よりも大きい物体10の連結走査の場合、一般に、自己較正の過程で、図8に見られるように、複数の較正対を構築することができる。物体10から、ここでは3つの3D CT画像が記録され(図8の上側、中央、および下側部分参照)、これらは、物体10を較正物体として3D CT較正画像として同時に機能する。物体10の異なる部分は、物体10の部分が対になるように重なって、3つの3D CT画像の各々に記録されることに留意されたい。
【0076】
上側および中央の3D CT較正画像は、領域R1およびR2において同一の構造71を描写し、したがって第1の較正対CP1を形成する。さらに、中央および下側の3D CT較正画像は、領域R1およびR2において同一の構造72を描写し、したがって第2の較正対CP2を形成する。
【0077】
各較正対CP1、CP2から、スケーリング因子SFIに関する情報(単一のスケーリング係数など)を導出することができる。その時、異なる較正対のSFIを平均化すること(また、場合によってはさらなる計算)によって、スライスインデックス番号nを有する各スライスについてのスケーリング因子sf(n)を導出することができる。
【0078】
図9は、3D CT較正画像62内の視野50の領域R1、R2における図6の類似の物体構造64a、64bをもう一度示している。スライス位置に起因しうるグレー値寄与を得るために、2つの領域R1、R2の類似の物体構造64a、64b内のグレー値が比較される。この目的のために、任意の「空気領域」または他の非代表的な材料を安全に除外して、類似の物体構造64a、64b内のそれぞれのセクション91a、91b(「関心領域」)を選択することができる。セクション91a、91bは、同一のサイズになるように選択される。
【0079】
同様に、図10に示されるように物体10が視野50に関してシフトした状態(図7も比較)で、3D CT較正画像の較正対が視野50の異なる領域R1、R2内の同一の物体構造71を描写している場合、異なる領域R1、R2内の同一の構造71のグレー値が比較される。ここでも、「空気領域」および他の非代表的な材料を安全に除外するために、同一の物体構造71内のセクション92(「関心領域」)を選択することができる。
【0080】
ここで、図11は、好ましい変形例におけるスライスnsについてのスケーリング因子sf(n)を決定する方法を示している。
【0081】
第1の領域および第2の領域(またはそれらに対応するセクション)において、類似または同一の物体構造のグレー値が分析される。各領域について、グレー値がヒストグラムにプロットされる。図11のうち左側(部分A)は、横座標にグレー値(ここでは合計256ビンのビン番号として)を示し、縦座標に前記グレー値を有するボクセルの数を示し、曲線HR1は第1の領域内のボクセルに対するものであり、曲線HR2は第2の領域内のボクセルに対するものである。第1の領域および第2の領域は各々、比較される同様または同一の構造を含むことに留意されたい。ヒストグラムは、好ましくはボックスカーフィルタリングを受けており、存在する場合には0ピークを除去するように処理されてもよい。また、潜在的な飽和領域を除去するために、最初および/または最後のビンは0にリセットされてもよい。
【0082】
図11の部分Aから見られるように、2つのヒストグラムHR1、HR2は各々、HR1についてはビン208において、およびHR2についてはビン191において、1つの強い最大値を示す。
【0083】
簡単な評価のために、それぞれの最大値のビンは、それぞれのヒストグラムHR1、HR2またはそれぞれの第1および第2の領域についての特徴グレー値gv、gvとして使用することができる。さらに、第1および第2の領域の各々について、(y方向に連続して番号付けされたスライスの)特徴位置番号i、iが決定されるものとし、典型的には、それぞれの領域の中央スライスの位置番号が選択される。そして、sc=(gv-gv)/(i-i)によりスケーリング係数scを計算することができる。例えば、特徴(平均)位置番号がi=377およびi=1225の場合、
sc=(208-191)/(377-1255)=-0.019
のスケーリング係数(または「勾配」)scが得られる。次にスケーリング因子sf(n)は、
sf(n)=1+sc*(n-nref)、
となり、nrefは、視野内の基準(中央)スライスであり、ここでは例えば、nref=801に位置決めされ、ここで
sf=1-0.019*(n-801)である。
【0084】
あるいは、ヒストグラムRH1、RH2のシフトは、それらの偏差が最小になるように決定されてもよい。このシフトは、それらの2つの領域またはセクションにおける重なり合うエリアの全体的な強度変化を表す。シフトの決定は、例えば、2つのヒストグラムHR1、HR2の畳み込みを計算し、畳み込みが最大となるシフトパラメータの値を決定することによって行うことができる。好ましくは、シフトを決定するために、より高い重みが高強度ボクセルに与えられ、これはアーチファクトの影響を低減し、特に強く吸収する材料に対するヒール効果補正を改善すると思料される。
【0085】
図11の右側(部分B)では、ヒストグラムHR1は、HR2との最良一致が得られるまで幾分右側にシフトされており、これは17ビンのシフトであった。次にスケーリング因子scは、
sc=シフト/(i-i
となり、再び、
sc=17/(377-1225)=-0.019
となる。
【0086】
複数の較正対が利用可能である場合、各計算対(「単一のスケーリング因子」ssc)に対してスケーリング係数が決定されるべきであり、最終的なスケーリング因子sfは平均化されたスケーリング係数で計算されるべきであることに留意されたい。
【0087】
そのような手順の一例が図12に示されており、3D CT較正画像としても使用される物体の3つの3D CT画像を含むテーブルであって、物体は較正物体として使用されるものである。3つの3D CT較正画像は、図12のテーブルでは「部分1」、「部分2」、および「部分3」として示されている。3つの3D CT較正画像から、2つの較正対CP1、CP2を構築することができる。較正対CP1は、グレー値比較のための異なる領域として、部分1の垂直視野(「vFOW」)の上部および部分2のvFOVの底部を使用する(この較正対は、図11のヒストグラムの基礎でもあったことに留意されたい)。また、較正対CP2は、グレー値比較のための異なる領域として、部分2の垂直視野(「vFOW」)の上部および部分3のvFOVの底部を使用する(マウス大腿骨における部分1P1、部分2P2、部分3P3の帰属について図15も比較されたい)。スライスインデックスまたは平均/特徴位置番号(y方向)は、ここでは単にそれぞれの領域の平均位置番号であり、第2の列に示されている。また、それぞれの領域における平均強度(特徴グレー値として)は、第3の列に示されている。ここでは、「空気領域」を除外する(第1または第2の)領域のセクション(「関心領域」)に限定して、ここでは同一の物体構造を含むそれぞれの領域の平均グレー値が決定されたことに留意されたい。
【0088】
CP1から、「単一の」スケーリング係数
ssc(CP1)=(gv-gv)/(i-i)=(188-171)/(337-1225)=-0.019
が得られる。
CP2から、「単一の」スケーリング係数
ssc(CP2)=(181-166)/(337-1225)=-0.017
が得られる。
【0089】
与えられた例では、平均化する較正対の総数がK=2であるため、ここでは
sc=(1/2)*[(-0.019)+(-0.017)]=-0.018
を用いて、単一のスケーリング係数からスケーリング因子を決定することができる。
このスケーリング係数scを用いて、再びスケーリング因子sf(ns)およびnref=801が、
sf(n)=1+sc*(n-nref)=1-0.018*(n-801)
で計算されうる。
【0090】
図11および図12の例では、スケーリング因子sfは、ヒール効果によって引き起こされる線形グレー値寄与の仮定に基づいて決定されている。しかし、このような仮定なしに、連続的にグレー値寄与を決定することも可能である。後者は、円筒状の均一な較正物体の3D CT較正走査が利用可能である場合に特に簡単である。図13の部分Aに示されるように、そのような変形例の一例では、3D CT較正画像の各スライス(y方向に連続して番号付けされたスライスインデックスjを有するもの)について、そのスライス内の平均的な平均グレー値mgv(ビン単位)が決定され、図に入力されている。図示の例では、3D CT較正画像において合計2500個のスライスが利用可能であり、インデックスj=1251における中央基準スライス130は、基準スライスインデックスjrefを有する。図13の部分Aは、得られた曲線131を示し、この曲線131は、互いに非常に近い単一の点の連続からなることに留意されたい。
【0091】
ここで、重み因子wfは、重み因子wfと基準スライス130の平均グレー値mgvの積が正確に1になるように決定される。図示の例では、j=1251におけるmgvはここでは100であるので、wfはここでは1/100=0.01となる。図13の部分Bは、得られた重み付き曲線132を示し、これは、ここで部分Aの曲線131に重み因子wfを乗算したものに相当する。これは、実際には、部分Aの図と比較して、部分Bの図の縦座標のラベルにのみ影響を及ぼす。
【0092】
ここで、特定のスライスjに対するスケーリング因子sf(j)は、部分Bの曲線132の「逆」(“inverse”)を計算することによって決定することができる。この逆曲線133は、
sf(j)=1/[wf*mgv(j)]
図13の部分Cの図に示されており、
ここでは
sf(j)=1/[0.01*mgv(j)]である。
【0093】
ここでも、曲線133は、互いに非常に近い単一の点の連続からなることに留意されたい。
【0094】
計算の手間を少しでも低減するために、図13の部分Aのように各スライスjについての平均グレー値mgvを決定する代わりに、図13の部分Dに示されるように、6つのスライスといった少数のスライスに対してのみ平均グレー値mgvを計算することも可能である。これらのスライスにおける平均グレー値は、基点間の線形補間によって得られる、セクションごとの線形曲線134の基点として機能する。この曲線134により、前述の図13の部分Bおよび部分Cに示すように、スケーリング因子sf(j)を決定することができる。
【0095】
図13の変形例は、ほとんどの場合、1つの3D CT画像の視野に収まるほど十分小さい物体の単一の走査の準備に適用されることに留意されたい。しかし、図13で説明したように得られたスケーリング因子sfは、連結走査または結合すべきその3D CT画像をそれぞれ補正するために用いることもできる。
【0096】
図14は、ヒール効果の本発明の補正についての第1の実験例として示す。y方向に沿って整列した円筒状NbTi合金ロッドを、物体と較正物体の両方として使用した。左側(部分A)には、ヒール効果を補正する前のロッドの2D CT部分画像(ロッドの中心のx位置におけるyz平面のセクションとして撮影)が示されている。y方向に沿ったグレー値の勾配が視認可能であり、ロッドは、均一な組成であるにもかかわらず、上部付近でより明るく、底部付近でより暗い。次に、ヒール効果補正を、図13の部分A/B/Cで説明したように行った。部分Bとして図14の右側に示す、結果として得られた補正された2D CT部分画像は、y方向に沿ったグレー値の有意な勾配をもはや示していない。
【0097】
図15は、ヒール効果の本発明の補正についての第2の実施例を示す。ここでは、3つの3D CT画像/3D CT較正画像(ここではP1、P2、およびP3と呼ぶ)の連結走査における物体および較正物体としてマウス大腿骨を使用し、本発明に係る自己較正を適用した。左側(部分A)には、ヒール効果を補正する前のマウス大腿骨の(全体的な)2D CT部分画像(大腿骨のほぼ中心のx位置におけるyz平面のセクションとして取られる)が示されている。画像P1からP2およびP2からP3の遷移において、大腿骨においてグレー値のジャンプが視認可能である(「バンブーアーチファクト」)、(矢印150、151を比較されたい)。さらに、例えば、画像P2において良好に視認可能であるように、大腿骨内では、y方向におけるグレー値の勾配が視認可能であり、物体画像は、P2の上部に向かって明るく、底部に向かって暗くなっている。次いで、個々の3D CT画像は、図11に示されるような本発明によるヒール効果補正を受け、画像P1/P2は、第1の較正対を形成し、画像P2/P3は、第2の較正対を形成し、シフトは、ヒストグラムをそれらの偏差が最小になるまでシフトすることによって各較正対について決定された。シフトを使用して、各較正対についての単一のスケーリング係数を決定し、単一のスケーリング係数を平均化して(全体的な)スケーリング係数およびスケーリング因子を得た。図15の右側(部分B)の補正された(全体的な)の2D CT画像では、画像P1/P2とP2/P3との間の遷移はもはや視認可能ではない。また、(補正された)画像P1、P2、P3の大腿骨部内のグレー値には、識別可能な勾配はもはや視認できない。
【0098】
図16aおよび図16bは、ヒール効果の本発明の補正についての第3の実施例を示している。y方向に沿って整列した均一なアルミニウムロッドを連結走査における物体として使用して、図15で説明したように自己較正を適用したが、ここでは5つの3D CT画像(したがって4つの使用可能な較正対)を結合して全体的な3D CT画像(図示せず)とした。図16aは、補正されていない全体的な3D CT画像について、横座標にy方向における位置(すなわち、スライスインデックス)をプロットし、縦座標に対応するスライスについての平均グレー値をその標準偏差間隔と共にプロットした図を示す。結合された3D CT画像の遷移において、グレー値のジャンプ(またはステップ)が明確に視認可能であり、ジャンプの間においてグレー値の有意な勾配が視認可能である。図16bは、全体的な3D CT画像についての対応する図を示し、基礎となる3D CT画像は、本発明による前記自己較正を受けたものである。これ以上の視認可能なグレー値のジャンプ(またはステップ)は存在せず、ジャンプの間におけるグレー値の勾配は消失している。
【0099】
要約すると、本発明は、物体(10)のCT(=コンピュータ断層撮影)画像(36、53)を得るための方法に関し、以下のステップ:
a)角度付きアノード(3)を含むX線源(2)を使用してX線(8)を生成するステップと、
b)物体(10)または物体(10)の一部の、少なくとも1つの2D投影(31)のセット(33)を記録するステップと、
c)物体(10)の少なくとも1つの3D CT画像(34)を生成するステップ
を有する方法であって、
d)各生成された3D CT画像(34)について、3D CT画像(34)を補正するステップをさらに含み、ボクセルのスライス(64)についてのスケーリング因子(sf)は、測定セットアップ(1)で測定された少なくとも1つの3D CT較正画像(62)を用いて決定され、少なくとも1つの3D CT較正画像(62)は、測定セットアップ(1)の視野(50)の、y方向に関して異なる領域(R1、R2)において、X線(8)のビーム経路内に載置された較正物体(61)の類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)を描写し、少なくとも1つの3D CT較正画像(62)について、y方向におけるスライス位置(n、j)に起因する前記異なる領域(R1、R2)内の類似または同一の物体構造(64a、64b;71、72)に属するボクセルのグレー値へのグレー値寄与が少なくともほぼ決定され、ボクセルのそれぞれのスライス(64)についてのスケーリング因子(sf)は、そのスライス(64)について決定されたグレー値寄与を補償するように選択される
ことを特徴とする。この方法によって、簡単な方法でヒール効果アーチファクトが低減される。
【符号の説明】
【0100】
1 測定セットアップ
2 X線源
3 角度付きアノード
4 カソード
5 電子
5a 電子ビーム
6 ターゲット表面
7 電子ビームスポット領域
8(生成された)X線
8a X線の画分(カソードに近い)
8b X線の画分(アノードから遠い)
9 物体ステージ
10 測定される物体
11 2D X線検出器
12 回転軸
30 2D投影(物体なし)
31 2D投影
32 物体投影(2D投影)
33 2D投影のセット
34 3D CT画像(補正されていない)
35 物体画像(補正されていない)
35a-35c 部分物体画像(補正されていない)
36 3D CT画像(補正されている)
37 物体画像(補正されている)
38 FFC後の2D投影(物体なし)
50(垂直)視野
50a 制限X線ビーム
51a 重なり合う物体セクション
51b 重なり合う物体セクション
52 全体的な3D CT画像(補正されていない)
53 全体的な3D CT画像(補正されている)
54a-54c 部分物体画像(補正されている)
61 較正物体
62 3D CT較正画像
63 較正物体画像
64a-64b 類似の物体構造
64 スライス
65 2D CT部分画像(補正されていない)
66 2D CT部分画像(補正されている)
71 同一の物体構造
72 同一の物体構造
91a-91b セクション
92 セクション
130 基準スライス
131 mgvの曲線
132 wf*mgvの(重み付き)曲線
133 スケーリング因子の曲線
134 セクションごとの線形平均グレー値の曲線
150 画像の遷移を指す矢印
151 画像の遷移を指す矢印
α アノード角
CP 較正対
CP1 較正対
CP2 較正対
FFC フラットフィールド補正
HR1 第1の領域のグレー値のヒストグラム
HR2 第2の領域のグレー値のヒストグラム
ref 基準スライスのインデックス番号
スライスインデックス
mgv 平均グレー値
スライスの位置インデックス番号
ref 基準スライスの位置インデックス番号
PLa アノード材料における経路長(カソードに近いビーム)
PLb アノード材料における経路長(カソードから遠いビーム)
R1 第1の領域
R2 第2の領域
sc スケーリング係数
ssc 単一のスケーリング係数
sf スケーリング因子
SFI スケーリング因子情報
wf 重み因子
x 方向
y 方向
z 方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
【外国語明細書】