IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アース製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-揮散器および揮散方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070185
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】揮散器および揮散方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
A61L9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178325
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021182134
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】東藤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】北村 篤志
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA13
4C180AA18
4C180AA19
4C180CA06
4C180GG12
4C180GG17
4C180HH09
4C180HH10
4C180LL20
(57)【要約】
【課題】本発明は香料中の各芳香成分を効率的に揮散させ、多様な香調表現を実現できる揮散器および揮散方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、香料と、前記香料に含まれる芳香成分を揮散させる複数種の揮散体とを有する、揮散器であって、前記複数種の揮散体は、特定の式で示される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む、揮散器に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料と、前記香料に含まれる芳香成分を揮散させる複数種の揮散体とを有する、揮散器であって、
前記複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む、
揮散器。
(I)吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
【請求項2】
香料を複数種の揮散体に吸い上げさせ、前記複数種の揮散体より前記香料に含まれる芳香成分を揮散させる、揮散方法であって、
前記複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む、
揮散方法。
(I)吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮散器および揮散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、香料等の薬剤を揮散させる薬剤揮散器が種々提案され、市販されている。例えば、上部に開口を有する容器に液状の薬剤を収容し、さらに容器の開口から棒状の揮散体を挿入して薬剤に浸した薬剤揮散器が知られている。このような薬剤揮散器では、薬剤が棒状の揮散体を伝い、そして外部に揮散する。このような揮散器は、インテリア性に優れることから、特に香料などで広く利用されている。
【0003】
例えば、従来の薬剤揮散器として、特許文献1には、内部に香料及び色素を保持し、香料に含まれる芳香成分を揮散させる揮散器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-329794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、香料に含まれる芳香成分を揮散させる揮散器としては、通常一つの揮散器に対して一種類の揮散体が用いられてきた。しかし、香料には、多様な香調を表現すべく、通常種類の異なる様々な芳香成分が含まれているところ、香料中の各芳香成分の揮散性能はその種類により異なり、また揮散体に吸液される速度も各々異なるため、揮散体から揮散するタイミングが芳香成分ごとに異なっていた。そのため、従来のような単一種類の揮散体を用いた揮散器では、香料中の各芳香成分が異なるタイミングで揮散されることになるため、香料の多様な香調を実現することが難しかった。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、香料中の各芳香成分を効率的に揮散させ、多様な香調表現を実現できる揮散器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の吸液性能を有する複数種の揮散体を有する揮散器によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記<1>、<2>に関するものである。
<1>香料と、前記香料に含まれる芳香成分を揮散させる複数種の揮散体とを有する、揮散器であって、
前記複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む、
揮散器。
(I)吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
<2>香料を複数種の揮散体に吸い上げさせ、前記複数種の揮散体より前記香料に含まれる芳香成分を揮散させる、揮散方法であって、
前記複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む、
揮散方法。
(I)吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
【発明の効果】
【0009】
本発明の揮散器および揮散方法によれば、香料中の各芳香成分を効率的に揮散させることができ、多様な香調表現を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の揮散器の一実施形態の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の揮散器および揮散方法について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲「A~B」は「A以上B以下」であることを示す。
【0012】
図1に、本発明の揮散器の一実施形態の例を示す。本発明の揮散器10は、香料11と、香料11に含まれる芳香成分を揮散させる複数種の揮散体12とを有する。揮散体12の少なくとも一部は、香料11と接触するように配置されている。また、香料11や、揮散体12の一部は、図1に示すように容器13に収容されていてもよい。
本発明の揮散器10において、上記複数種の揮散体12は、後述する式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体12aと、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体12bとを少なくとも含むことを特徴とする。なお、本発明の揮散器における揮散体の種類の数や本数は、図1に示す態様に限定されるものではない。
【0013】
また、本発明の揮散方法は、香料を複数種の揮散体に吸い上げさせ、当該複数種の揮散体より香料に含まれる芳香成分を揮散させる。そして、当該複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0014】
式(I):吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
なお、上記イソパラフィン系溶剤としては、例えばIPソルベント2028(出光興産株式会社製)を用いることができる。また、上記POEデシルエーテルとしては、例えばファインサーフD1310(青木油脂工業社製)を用いることができる。なお、「E.O.10モル」とは、デシルエーテルに付加した、酸化エチレンの平均モル数が10であることを意味する。
【0015】
本発明の揮散器および揮散方法は、上記のように、吸液指数が異なる複数種の揮散体を用いることにより、香料中の各芳香成分を効率的に揮散させることができ、多様な香調表現を実現できる。上記理由については必ずしも定かではないが、以下のように推察される。
【0016】
上記吸液指数が大きい揮散体は、油性溶剤を吸い上げるスピードが比較的遅いため、香料に含まれる芳香成分のうち親油性の高い芳香成分は比較的遅れて香り始め、また比較的長時間香りが継続することになる。また、一般的に、香料は、揮散性の高い芳香成分(トップ)、揮散性の低い芳香成分(ベース)、トップとベースの中間の揮散性を有する芳香成分(ミドル)というように、揮散性能の異なる種々の芳香成分を組み合わせて調香されているところ、親油性の高い芳香成分は揮散性が一般的に低い傾向にあるため、揮散性の低い芳香成分の香りが比較的長時間継続することになる。
一方、水性溶剤を吸い上げるスピードは比較的速いため、香料に含まれる芳香成分のうち親水性の高い芳香成分は比較的早い段階から香り始め、香りが継続する時間は比較的短くなる。親水性の高い芳香成分は揮散性が一般的に高い傾向にあるため、揮散性の高い芳香成分が比較的早い段階から香り始めることになる。
【0017】
また、上記吸液指数が小さい揮散体は、油性溶剤を吸い上げるスピードが比較的速いため、香料に含まれる芳香成分のうち親油性の高い芳香成分は比較的早い段階から香り始め、香りが継続する時間は比較的短くなる。親油性の高い芳香成分は一般的に揮散性が低い傾向にあるため、揮散性の低い芳香成分が比較的早い段階から香り始めることになる。一方、水性溶剤を吸い上げるスピードは比較的遅いため、香料に含まれる芳香成分のうち親水性の高い芳香成分は比較的遅れて香り始め、比較的長時間香りが継続することになる。親水性の高い芳香成分は一般的に揮散性が高い傾向にあるため、揮散性の高い芳香成分の香りが比較的長時間継続することになる。
【0018】
上記吸液指数が特定値を境にして、当該特定値以上の吸液指数を有する揮散体と、当該特定値未満の吸液指数を有する揮散体とを少なくとも含むことによって、揮散性能の異なる各芳香成分をそれぞれ効率的に吸液し揮散させることができ、その結果、多様な香調表現を実現できると推察される。
【0019】
(香料)
香料としては、例えば、様々な植物や動物から抽出された天然香料や、化学的に合成される合成香料、さらにはこれらの芳香成分を多数混合して作られる調合香料等が挙げられる。
【0020】
天然香料としては、例えば、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ラバンジン油、ベルガモット油、パチュリ油、シダーウッド油、ペパーミント油等の天然精油等が挙げられる。
【0021】
合成香料としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、p-シメン、テルピノレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、ミルセン、カンフェン、オシメン等の炭化水素テルペン;ヘプタナール、オクタナール、デカナール、ベンズアルデヒド、サリシリックアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、シトロネラール、ハイドロキシシトロネラール、ハイドロトロピックアルデヒド、リグストラール、シトラール、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、リリアール、シクラメンアルデヒド、リラール、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、ヘリオナール、バニリン、エチルバニリン等のアルデヒド類;エチルフォーメート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルプロピオネート、メチルイソブチレート、エチルイソブチレート、エチルブチレート、プロピルブチレート、イソブチルアセテート、イソブチルイソブチレート、イソブチルブチレート、イソブチルイソバレレート、エチル-2-メチルバレレート、イソアミルアセテート、テルピニルアセテート、イソアミルプロピオネート、アミルプロピオネート、アミルイソブチレート、アミルブチレート、アミルイソバレレート、アリルヘキサノエート、エチルアセトアセテート、エチルヘプチレート、ヘプチルアセテート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、エチルオクチレート、スチラリルアセテート、ベンジルアセテート、ノニルアセテート、ボルニルアセテート、リナリルアセテート、オルト-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、安息香酸リナリル、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、エチルシンナメート、メチルサリシレート、ヘキシルサリシレート、ヘキシルアセテート、ヘキシルブチレート、メンチルアセテート、ターピニルアセテート、アニシルアセテート、フェニルエチルイソブチレート、ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、エチレンブラシレート、γ-ウンデカラクトン、γ-ノニルラクトン、シクロペンタデカノライド、クマリン等のエステル・ラクトン類;アニソール、p-クレジルメチルエーテル、ジメチルハイドロキノン、メチルオイゲノール、β-ナフトールメチルエーテル、β-ナフトールエチルエーテル、アネトール、ジフェニルオキサイド、ローズオキサイド、ガラクソリド、アンブロックス等のエーテル類;イソプロピルアルコール、cis-3-ヘキセノール、ヘプタノール、2-オクタノール、ジメトール、ジヒドロミルセノール、リナロール、ベンジルアルコール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、ターピネオール、テトラハイドロゲラニオール、l-メントール、セドロール、サンタロール、チモール、アニスアルコール、フェニルエチルアルコール、ヘキサノール等のアルコール類;ジアセチル、メントン、イソメントン、チオメントン、アセトフェノン、α-又はβ-ダマスコン、α-又はβ-ダマセノン、α-、β-又はγ-ヨノン、α-、β-又はγ-メチルヨノン、メチル-β-ナフチルケトン、ベンゾフェノン、テンタローム、アセチルセドレン、α-又はβ-イソメチルヨノン、α-、β-又はγ-イロン、マルトール、エチルマルトール、cis-ジャスモン、ジヒドロジャスモン、l-カルボン、ジヒドロカルボン、メチルアミルケトン等のケトン類、カンファー、1,8-シネオール、アリルアミルグリコレート、イソプレゴール、アリルカプロエートなどが挙げられる。
【0022】
これらの香料は、1種単独で使用しても、また2種以上を任意に組み合わせて、調合香料として使用することもできる。本発明の効果がより顕著となることから、香料としては、親油性の高い芳香成分と親水性の高い芳香成分を組み合わせることが好ましく、具体的には、LogPが4以上の芳香成分と4未満の芳香成分を組み合わせることが好ましく、LogPが4.5以上の芳香成分と3.5以下の芳香成分を組み合わせることがより好ましい。親油性の高い芳香成分と親水性の高い芳香成分の配合比は9:1~1:9が好ましく、7:3~3:7がより好ましい。
【0023】
ここで、LogPとは、オクタノール相と水相の間での物質の分配を表す尺度である。具体的には、化合物の化学構造をその構造要素に分解し、各フラグメントの有する疎水性フラグメント定数(f値)を積算して求められる。LogPは、例えば、MedChem1.01ソフトウエアプログラムを用いて計算することができる。なお、MedChemソフトウエアプログラムとは、Medicinal Chemistry Project,Pomona College,Pomona Californiaで開発されたソフトウエアプログラムである。
【0024】
(その他成分)
本発明の効果を損なわない範囲において、香料に、溶剤、消臭剤、殺菌剤、除菌剤、抗菌剤、防カビ剤、害虫忌避剤、害虫防除剤、着色剤、酸化防止剤、UV吸収剤等を混合して使用してもよい。
【0025】
溶剤としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(ジプロピレングリコールメチルエーテル)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ジエチルフタレート、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類、流動パラフィン、n-パラフィン、イソパラフィン等のパラフィン類、その他、ヘキサン、ケロシン、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、尿素化合物等が挙げられる。
【0026】
香料と溶剤等を混合する場合、香料の配合量が少ないと香りが弱くなってしまうため、香料の配合量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
また、溶剤の配合量は99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
(揮散体)
本発明の揮散器は、複数種の揮散体を含む。本発明において揮散体とは、香料を吸い上げて、その表面から芳香成分を揮散させる機能を有する。当該複数種の揮散体は、下記式(I)で定義される吸液指数が0.65以上の第1揮散体と、前記吸液指数が0.65未満の第2揮散体とを少なくとも含む。
式(I):吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
以下、第1揮散体および第2揮散体は、単に揮散体と称することもある。
【0028】
上記式(I)における炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤(以下、単にイソパラフィン系溶剤ともいう)、および2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液(以下、単にデシルエーテル水溶液ともいう)の吸液時間の測定方法を説明する。
まず、(外径)1.5mm×(内径)1.1mm×(高さ)75mmのキャピラリで、イソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液を高さ5cmまで吸い上げる。
次に、揮散体に上記キャピラリの先端を接触させ、揮散体にイソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液を吸液開始させてから、揮散体がキャピラリ内のイソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液を全て吸収するまでの時間(秒)を測定する。
以上の測定を、イソパラフィン系溶剤およびデシルエーテル水溶液それぞれについて各10回ずつ行い、それらを平均した時間を、イソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液の吸液時間(秒)とする。
【0029】
なお、揮散体の長手方向(吸液方向)に垂直の断面の面積が、キャピラリ先端の面積よりも大きい場合は、キャピラリ先端を揮散体の長手方向先端に接触させて、イソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液を吸収させるものとする。また、揮散体の長手方向(吸液方向)に垂直の断面の面積が、キャピラリ先端の面積よりも小さい場合は、キャピラリ先端を揮散体の長手方向の端付近の面上に接触させて、イソパラフィン系溶剤またはデシルエーテル水溶液を吸収させるものとする。
【0030】
第1揮散体の吸液指数は0.65以上であり、第2揮散体の吸液指数は0.65未満である。このように、第1揮散体および第2揮散体の吸液指数が0.65を境として、それぞれ範囲を設定することにより、香料中の各芳香成分を効率的に揮散させることができ、多様な香調表現を実現できる。
第1揮散体の吸液指数は0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。また、第2揮散体の吸液指数は0.6未満が好ましく、0.5未満がより好ましい。
【0031】
また、第1揮散体の吸液指数と第2揮散体の吸液指数との差(第1揮散体の吸液指数-第2揮散体の吸液指数)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましい。上記範囲であることで、香料中の各芳香成分をより効率的に揮散させることができ、より多様な香調表現を実現できる。
【0032】
揮散体の吸液指数は、揮散体の材質、組成、サイズ、形状、目付(密度)、繊維長、及び繊維方向等により異なり、これらを適宜設定、選択することにより、所望の吸液指数を有する揮散体を得ることができる。例えば、PET(芯)を用いる場合は、目付を小さくする等で、吸液指数を大きくすることができる。
【0033】
揮散体の材質は特に制限されず、上記所望の吸液指数となるように適宜選択される。揮散体の材質としては、例えば、紙、布、コルク、無機鉱物、炭、植物の茎、枝、幹、葉、花等が挙げられる。
紙としては、例えば、揮散紙、濾紙、クレープペーパ、書道用紙、和紙、洋紙、パルプ、特殊紙(すいとり紙等)等を用いることができる。なお、パルプは、PIM(Pulp Injection Molding)成型品として用いることもできる。
布としては、例えば、PET等のポリエステル、綿、アクリル、フェルト、不織布等を用いることができる。
コルクとしては、コルク材と結合剤とを混合して成型されたものを用いることができる。コルク材はコルク樫の樹皮を剥いで粉砕したものである。結合剤としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂およびフェノール樹脂、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)等が挙げられる。結合剤としては、なかでも、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂が好ましい。なお、結合剤の配合量を増やすことで、吸液指数を大きくすることができる。
無機鉱物としては、石、ガラス、炭酸カルシウム、石膏、珪藻土、セラミック等を用いることができる。
炭としては、木炭、竹炭、花炭等が挙げられる。
植物の茎としては、例えばラタン、い草等を用いることができる。
植物の枝としては、例えば柳の枝等を用いることができる。
【0034】
また、揮散体は複数種の材質から構成されていてもよい。揮散体の複数種の材質としては、例えば、合成繊維、PET等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン等の単品またはこれらを複合したものが挙げられる。
【0035】
揮散体の形状も特に限定されず、上記所望の吸液指数となるように、当該材質も考慮しながら適宜選択される。例えば、棒状、柱状、筒状、球状、板状、キャラクターの形状等、任意の形状を採用することができる。揮散性の観点から、揮散体の形状は、棒状であることが好ましい。
【0036】
また、揮散体の厚みも特に限定されず、上記所望の吸液指数となるように、当該材質も考慮しながら適宜設定される。
【0037】
第1揮散体としては、例えば、PET(スティック、布)、アクリル(芯)、ラタン等の植物の茎等が挙げられる。第2揮散体としては、例えば、コルク、PET(芯)、パルプのPIM成型品等が挙げられる。ここで、スティックとは、揮散体の長手方向にわたって繊維を寄り合わせたもの、布とは、繊維を縦横で折り合わせたもの、芯とは、繊維を樹脂等の接着剤を用いて棒状に成型したものを意味する。
【0038】
第1揮散体と第2揮散体との揮散量比は、質量基準で6:1~1:9が好ましく、4:1~1:4がより好ましく、2:1~1:2がさらに好ましい。ここで、揮散量とは、25℃、40~60%RHにおける1日(24時間)あたりの香料の揮散量(g/日)を意味し、継時的な重量測定によって測定できる。
【0039】
揮散体の揮散量は、上記吸液指数と同様に、揮散体の材質、組成、サイズ、形状、目付(密度)、繊維長、繊維方向等により異なる他、揮散体の一部を香料に浸漬させた場合において、香料に浸漬していない部分の揮散体の長さや表面積等により異なり、これらを適宜設定、選択することにより、所望の揮散量を有する揮散体を得ることができる。例えば、PET繊維を用いる場合、目付を小さくする等で、揮散量を大きくすることができる。コルクを用いる場合、コルク材の粒度を小さくすること等でも揮散量を大きくすることができる。また、使用する揮散体の数の増減によっても表面積を調節し、所望の揮散量を得ることができる。
【0040】
本発明の一実施形態の揮散器は、香料と揮散体とを含み、前記揮散体の少なくとも一部が前記香料と接触するように配置されている。図1に示すように、本発明の揮散器10は、香料11及び揮散体12の一部を収容する容器13を備えていてもよい。当該容器13は、例えば、上部に開口を有する。揮散体12は、図1に示すように開口から先端部が突出するように容器13に挿入されてもよい。挿入された揮散体12は容器13に含まれる香料11と接触し、香料を揮散体内部に取り込み、容器13外まで吸い上げ、芳香成分を揮散させる。
【0041】
上記容器の形状は、上述のとおり揮散体が挿入可能で、かつ、香料を収容することができる範囲のものであれば、特に限定されない。上記容器の素材も、特に限定されず、例えば、プラスチック、ガラス、陶器、金属等が挙げられる。
本発明の揮散器は、容器を含まない態様であってもよく、例えば、香料を含んだ多孔体(スポンジ等)に揮散体が差し込まれてなる揮散器等が挙げられる。
【実施例0042】
以下、具体的な試験例に基づき本発明を更に説明するが、本発明は下記例に何ら制限されるものではない。
【0043】
<吸液指数の測定>
本試験では、各種揮散体について、下記式(I)に示す吸液指数を求めた。揮散体としては、後述する表1に示すものを用いた。
式(I):吸液指数=炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤の吸液時間(秒)/2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間(秒)
【0044】
上記式(I)における炭素数10~16、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)のイソパラフィン系溶剤、および2質量%POEデシルエーテル(E.O.10モル)水溶液の吸液時間は以下のように測定した。なお、上記イソパラフィン系溶剤としては、IPソルベント2028(出光興産株式会社製)を用い、上記POEデシルエーテルとして、ファインサーフD1310(青木油脂工業社製)を用いた。
【0045】
1.まず、(外径)1.5mm×(内径)1.1mm×(高さ)75mmのキャピラリ(ガラス製、富士理化工業株式会社製)で、上記イソパラフィン系溶剤または上記デシルエーテル水溶液を高さ5cmまで吸い上げた。
2.次に、揮散体に上記キャピラリの先端を接触させ、揮散体に上記イソパラフィン系溶剤または上記デシルエーテル水溶液を吸液開始させてから、揮散体がキャピラリ内の上記イソパラフィン系溶剤または上記デシルエーテル水溶液を全て吸収するまでの時間を測定した。かかる時間を上記イソパラフィン系溶剤または上記デシルエーテル水溶液の吸液時間とした。
なお、揮散体のうち、PETスティック、アクリル芯、ラタン、PET芯、コルク、PIM成型品については、揮散体の長手方向(吸液方向)に垂直の断面の面積が、キャピラリ先端の面積よりも大きいため、揮散体の長手方向先端にキャピラリの先端を接触させて吸液させた。また、揮散体のうち、布、紙については、揮散体の長手方向(吸液方向)に垂直の断面の面積が、キャピラリ先端の面積よりも小さいため、揮散体の長手方向の端付近の面上に先端を接触させて吸液させた。
3.上記の試験を各揮散体について10回ずつ行い、イソパラフィン系溶剤およびデシルエーテル水溶液の吸液時間(秒)の平均値、および、吸液指数(式(I))を下記表1に示した。なお、上記イソパラフィン系溶剤または上記デシルエーテル水溶液の吸液時間について、60秒以内で吸液しなかった場合は、表1中「60」と記載した。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、表1中のコルクは、コルクとウレタン樹脂をリボンミキサーで撹拌し、得られた混合物をコンプレッション成型法により成型し板状にカットして打ち抜きを行ったものである。
【0048】
<イソパラフィン系溶剤の吸液時間の比較>
本試験では、各種揮散体について、炭素数が10~16の範囲内である各種イソパラフィン系溶剤を吸液させ、それらの吸液時間の比較を行った。
揮散体として、上記表1に記載の「PETスティック」、「ラタン」、「PET芯」、及び「コルク」を使用した。
炭素数10~16のイソパラフィン系溶剤として、炭素数10~16のイソパラフィンの混合物であるIPソルベント2028(出光興産株式会社製、蒸気圧0.04kPa(20℃))、及び炭素数11~16のイソパラフィンの混合物であるIsoper M(ExonMobil社製、蒸気圧0.011kPa(20℃))を使用した。
各揮散体における各種イソパラフィン系溶剤の吸液は、上記吸液指数の測定と同様の方法により行った。本試験は検体ごとに10回ずつ行い、その平均値を下記表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果から、いずれの揮散体においても、炭素数10~16のイソパラフィンの混合物であるIPソルベント2028を吸液させた場合と、炭素数11~16のイソパラフィンの混合物であるIPソルベント2028を吸液させた場合とでは、吸液時間は同等であった。この結果から、上記式(I)の吸液指数を求める際は、蒸気圧0.05kPa以下(20℃)であって炭素数10~16の範囲内にあるイソパラフィン系溶剤を用いることができることがわかった。
【0051】
<香りの官能試験(1-1)>
本試験では、上記試験で吸液指数を求めた各種揮散体を用いて揮散器を作製し、香りの官能試験(1-1)を行った。
まず、下記表3に示す処方の香料を調製した。
【0052】
【表3】
【0053】
・芳香成分:ウッディ系香料、高砂香料工業社製
・IPソルベント2028:イソパラフィン系溶剤、出光興産株式会社製
・IPクリーンLX:イソパラフィン系溶剤、出光興産株式会社製
【0054】
上記調製した香料50mLを、上部に開口を有する2つのサンプル瓶(容量100mL)にそれぞれ充填した。その後アルミホイルで蓋をし、表4に記載の各揮散体の先端が香料に接するようにして、各揮散体を上記瓶に入れ、それぞれ検体1および検体2とした。
なお、上記各瓶には揮散体を2つずつ入れており、表4に示すとおり、検体1では1種類の揮散体を2つ、検体2では1種類の揮散体を2つまたは2種類の揮散体を1つずつ用いた。
【0055】
検体1および検体2を一晩静置した後、訓練された専門パネラー3人により、検体ごとに匂いを嗅ぎ、官能評価を行った。官能評価は、検体1と検体2との香りの違いについて以下の評価基準に基づき行い、3人の平均値を算出した。
3:明らかに香りの違いを感じる
2:容易に香りの違いを感じる
1:わずかに香りの違いを感じる
0:香りの違いを感じない
結果を下記表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例1について、まず実施例1-1により、検体1における揮散体は吸液指数が0.65以上であり、検体2における揮散体は吸液指数が0.65未満であることにより、検体間の香りの違いが明らかに感じられることが確認された。そして、実施例1-2および1-3において、検体2は吸液指数が0.65以上である揮散体と、吸液指数が0.65未満である揮散体とを含むため、1種類の揮散体しか含まない検体1との間で検体間の香りの違いが感じられる結果となった。実施例2~4も同様であった。
すなわち、実施例1において、まず実施例1-1により、検体1(PETスティック)の香り(香調Aとする)と検体2(コルク)の香り(香調Bとする)が異なっており、検体1と検体2とで、香調Aと香調Bという異なる香調を表現できた。実施例1-2、1-3においても、検体1(PETスティックまたはコルク)の香り(香調Aまたは香調B)と検体2(PETスティックおよびコルク)の香り(香調Cとする)が異なるので、検体2で、香調Aとも香調Bとも異なる香調Cを表現できた。このように、実施例1では表現できる香調のバリエーションが増え、多様な香調を表現できる。実施例2~4も同様であった。
一方、比較例1について、まず比較例1-1により、検体1および検体2における揮散体はいずれも吸液指数が0.65以上であることにより、検体間の香りの違いがわずかしか感じられないことが確認された。そして、比較例1-2および1-3において、検体2における2種類の揮散体はいずれも吸液指数が0.65以上であるため、1種類の揮散体しか含まない検体1との間で検体間の香りの違いがあまり感じられない結果となった。比較例2~3も同様である。
すなわち、比較例1において、まず比較例1-1により、検体1(PETスティック)の香り(香調Aとする)と検体2(アクリル芯)の香り(香調A’とする)の違いは小さいため、検体1と検体2とで、香調Aと香調A’という似通った香調しか表現できていない。比較例1-2、1-3においても、検体1(PETスティックまたはアクリル芯)の香り(香調Aまたは香調A’)と検体2(PETスティックおよびアクリル芯)の香り(香調A’’とする)の違いは小さいため、検体2で、香調Aや香調A’と似通った香調A’’しか表現できていない。このように、比較例1では、似通った香調しか表現できず、多様な香調表現が実現できない。比較例2~3も同様であった。
【0058】
また、香質についても、実施例1-2、1-3、2-2、2-3、3-2、3-3、4-2、4-3では、2種類の揮散体からの種類の異なる香りが組み合わされた、多様な好調を有する奥深い香りであった。一方、比較例1-2、1-3、2-2、2-3、3-2、3-3では、2種類の揮散体を用いているが、単調な香りであった。
【0059】
以上の結果から、吸液指数が0.65以上の揮散体と、吸液指数が0.65未満の揮散体とを少なくとも含むことにより、多様な香調表現を実現できる結果となった。
【0060】
<香りの官能試験(1-2)>
訓練された専門パネラー11人により官能評価を行ったことを除いては、上記の香りの官能試験(1-1)と同様の試験を行った。専門パネラー11人の平均値を算出した結果を下記表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
専門パネラー11人により官能評価を行った場合も、上記の香りの官能試験(1-1)と同様の結果となった。すなわち、揮散器は吸液指数が0.65以上の揮散体と、吸液指数が0.65未満の揮散体とを少なくとも含むことにより、多様な香調表現を実現できる結果となった。
【0063】
<香りの官能試験(2-1)>
本試験では、吸液指数が0.65以上の揮散体(PETスティック)と、吸液指数が0.65未満の揮散体(コルク)とを用いた場合において、揮散体間の揮散量比による香りの違いについて官能試験を行った。
【0064】
まず、上記表3に示すものと同一組成の香料を調製した。調製した香料50mLを、上部に開口を有する2つのサンプル瓶(容量100mL)にそれぞれ充填した。その後アルミホイルで蓋をし、表7に記載の各揮散体の先端が香料に接するようにして、各揮散体を上記瓶に入れ、それぞれ検体1、検体2とした。なお、上記各瓶には揮散体を2つずつ入れており、表7に示すとおり、検体1では1種類の揮散体を2つ、検体2では2種類の揮散体を1つずつ用いた。
なお、PETスティックとコルクの揮散量比は、表6に示すように揮散体の長手方向の長さを変えて、香料から出ている揮散体の長さを変えることで調節した。PETスティックとコルクの組み合わせと揮散量比との関係を表6に示す。
なお、PETスティックとコルクの揮散量は、25℃、40~60%RHにおける1日(24時間)あたりの香料の揮散量(g/日)を意味し、継時的な重量測定によって測定した。
【0065】
【表6】
【0066】
検体1および検体2を一晩静置した後、訓練された専門パネラー3人により、検体ごとに匂いを嗅ぎ、官能評価を行った。官能評価は、検体1と検体2との香りの違いについて以下の評価基準に基づき行い、3人の平均値を算出した。
3:明らかに香りの違いを感じる
2:容易に香りの違いを感じる
1:わずかに香りの違いを感じる
0:香りの違いを感じない
結果を下記表7に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
実施例5~12の検体2において、吸液指数が0.65以上の揮散体と吸液指数が0.65未満の揮散体との揮散量比率が6:1~1:9の範囲内であるため、1種類の揮散体しか含まない検体1との間で検体間の香りの違いが大きく感じられる結果となった。すなわち、1種類の揮散体しか含まない検体1とは異なる香調を検体2では表現できており、表現できる香調のバリエーションが増え、多様な香調を表現できる。
【0069】
<香りの官能試験(2-2)>
訓練された専門パネラー10人により官能評価を行ったことを除いては、上記の香りの官能試験(2-1)と同様の試験を行った。専門パネラー10人の平均値を算出した結果を下記表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
専門パネラー10人により官能評価を行った場合も、上記の香りの官能試験(2-1)と同様の結果となった。すなわち、吸液指数が0.65以上の揮散体と吸液指数が0.65未満の揮散体との揮散量比率が6:1~1:9の範囲内であるため、1種類の揮散体しか含まない検体1との間で検体間の香りの違いが大きく感じられる結果となった。
【0072】
<揮散成分分析(1)>
本試験では、下記表9に示す処方の香料と、特定の揮散体と、を用いて揮散器を作製し、揮散成分の分析を行った。
まず、下記表9に示す処方の香料を調製した。
【0073】
【表9】
【0074】
・リモネン:東京化成工業社製
・リナロール:東京化成工業社製
・IPクリーンLX:イソパラフィン系溶剤、出光興産株式会社製
【0075】
上記調製した香料50mLを、上部に開口を有する4つのサンプル瓶(容量100mL)にそれぞれ充填し、アルミホイルで蓋をした。つづいて、上記表1に記載の「PETスティック」、「ラタン」、「コルク」、及び「PIM成型品」の各揮散体を、それぞれ別々のサンプル瓶に2本ずつ挿入し、一晩静置した。
その後、サンプル瓶ごとに容量10Lのガラス容器に入れ、さらに1時間静置した。そして、試料濃縮用注射針(NeedlEx(登録商標)有機溶剤用、信和化工社製)を用いて、内部の空気を100mL捕集し、ガスクロマトグラフィー装置(島津製作所社製)を用いて、以下の条件で分析を行った。
(分析条件)
・検出器:水素炎イオン化検出器
・カラム:DB-17(agilent社製)内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm
・カラム温度:50℃で5分保持後、8℃/分で250℃まで昇温して5分保持
・注入口温度:200℃
・検出器温度:250℃
・キャリアガス:ヘリウム
・流量:リモネンの保持時間が約10分になるよう調整
【0076】
リモネンとリナロールの面積を算出し、面積比として評価した結果を下記表10に示す。
【0077】
【表10】
【0078】
上記結果より、揮散体の吸液指数の違いにより、揮散させやすい芳香成分が異なることが分かった。よって、吸液指数の異なる揮散体を組み合わせることで、種類の異なるより多くの芳香成分を効率的に揮散できることが示唆された。すなわち、吸液指数の異なる揮散体を組み合わせることで、揮散する芳香成分の構成に違いが生じ、多様な香調表現を実現できることが示唆された。
【0079】
<揮散成分分析(2)>
本試験では、グリーン系香料と、吸液指数が0.65以上の揮散体(PETスティック)及び/又は吸液指数が0.65未満の揮散体(コルク)と、を用いて揮散器を作製し、官能評価および揮散成分の分析を行った。
まず、グリーン系香料50mLを、上部に開口を有する2つのサンプル瓶(容量100mL)にそれぞれ充填した。その後アルミホイルで蓋をし、PETスティック及び/又はコルクの各揮散体の先端が香料に接するようにして、各揮散体を上記瓶に入れ、それぞれ検体1および検体2とした。
なお、上記各瓶には揮散体を2つずつ入れており、表11に示すとおり、検体1では1種類の揮散体を2つ、検体で2は1種類の揮散体を2つまたは2種類の揮散体を1つずつ用いた。
【0080】
検体1および検体2を一晩静置した後、訓練された専門パネラー10人により、検体ごとに匂いを嗅ぎ、上記香りの官能試験(1-1)と同様に官能評価を行った。専門パネラー10人の平均値を算出した結果を下記表11に示す。
【0081】
【表11】
【0082】
つづいて、揮散体としてPETスティックを単体で用いた場合、コルクを単体で用いた場合、およびPETスティックとコルクを併用した場合における揮散成分について、以下のようにGC-MS分析を行った。
上記実施例13-1の検体1(PETスティック単体)、実施例13-1の検体2(コルク単体)、実施例13-2の検体2(PETスティック、コルク併用)をそれぞれ、天面に開口部を有するガラス容器(容量約4L)に入れ、開口部をアルミでふさいで密閉し、1時間静置した。
そして、試料濃縮用注射針(NeedlEx(登録商標)有機溶剤用、信和化工社製)を上記ガラス容器の開口部に挿入し、内部の空気を100mL捕集し、ガスクロマトグラフィー装置(島津製作所社製)を用いて、以下の条件でGC-MS分析を行った。
(分析条件)
・検出器:水素炎イオン化検出器
・カラム:InertCap Pure-WAX(ジーエルサイエンス社製)内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm
・カラム温度:50℃で5分保持後、5℃/分で250℃まで昇温して5分保持
・注入口温度:200℃
・検出器温度:250℃
・キャリアガス:ヘリウム
・流量:ユーカリプトールの保持時間が約10分になるよう調整
本香料(グリーン系香料)の主たる3成分(ユーカリプトール、ゲラニオール、βカリオフィレン)について、GC-MS分析で得られたピーク面積比(%)を以下表12に示す。
【0083】
【表12】
【0084】
表11および12の結果から、PETスティックとコルクでは揮散させる芳香成分の構成比が異なるため、PETスティックとコルクを組み合わせることで、種類の異なるより多くの芳香成分を効率的に揮散できることが示唆された。すなわち、吸液指数の異なる揮散体を組み合わせることで、揮散する芳香成分の構成に違いが生じ、多様な香調表現を実現できることが示唆された。
【0085】
<揮散成分分析(3)>
本試験では、下記表13に示す処方の香料と、特定の揮散体と、を用いて揮散器を作製し、揮散成分の分析を行った。
まず、下記表13に示す処方の香料を調製した。
【0086】
【表13】
【0087】
・1,8-シネオール:東京化成工業社製
・ゲラニオール:東京化成工業社製
・βカリオフィレン:東京化成工業社製
【0088】
まず、上記調製した香料50mLを、上部に開口を有する3つのサンプル瓶(容量100mL)にそれぞれ充填した。その後アルミホイルで蓋をし、PETスティック及び/又はコルクの各揮散体の先端が香料に接するようにして、各揮散体を上記瓶に入れ、それぞれ検体1および検体2とした。
なお、上記各瓶には揮散体を2つずつ入れており、表14に示すとおり、検体1では1種類の揮散体を2つ、検体で2は1種類の揮散体を2つまたは2種類の揮散体を1つずつ用いた。
【0089】
検体1および検体2を一晩静置した後、訓練された専門パネラー10人により、検体ごとに匂いを嗅ぎ、上記香りの官能試験(1-1)と同様に官能評価を行った。専門パネラー10人の平均値を算出した結果を下記表14に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
つづいて、揮散体としてPETスティックを単体で用いた場合、コルクを単体で用いた場合、およびPETスティックとコルクを併用した場合における揮散成分について、以下のようにGC-MS分析を行った。
上記実施例14-1の検体1(PETスティック単体)、実施例14-1の検体2(コルク単体)、実施例14-2の検体2(PETスティック、コルク併用)をそれぞれ、天面に開口部を有するガラス容器(容量約4L)に入れ、開口部をアルミでふさいで密閉し、1時間静置した。
そして、試料濃縮用注射針(NeedlEx(登録商標)有機溶剤用、信和化工社製)を上記ガラス容器の開口部に挿入し、内部の空気を100mL捕集し、ガスクロマトグラフィー装置(島津製作所社製)を用いて、以下の条件でGC-MS分析を行った。
(分析条件)
・検出器:水素炎イオン化検出器
・カラム:InertCap Pure-WAX(ジーエルサイエンス社製)内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm
・カラム温度:50℃で5分保持後、5℃/分で250℃まで昇温して5分保持
・注入口温度:200℃
・検出器温度:250℃
・キャリアガス:ヘリウム
・流量:1,8-シネオールの保持時間が約10分になるよう調整
本香料の主たる3成分(1,8-シネオール、ゲラニオール、βカリオフィレン)について、GC-MS分析で得られたピーク面積比(%)を以下表15に示す。
【0092】
【表15】
【0093】
表14および15の結果から、PETスティックとコルクでは揮散させる芳香成分の構成比が異なるため、PETスティックとコルクを組み合わせることで、種類の異なるより多くの芳香成分を効率的に揮散できることが示唆された。すなわち、吸液指数の異なる揮散体を組み合わせることで、揮散する芳香成分の構成に違いが生じ、多様な香調表現を実現できることが示唆された。
【符号の説明】
【0094】
10 揮散器
11 香料
12 揮散体
12a 第1揮散体
12b 第2揮散体
13 容器
図1