(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070288
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】単層ビトリファイドボンド砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20230512BHJP
B24D 3/14 20060101ALI20230512BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
B24D3/00 310B
B24D3/14
B24D3/02 310C
B24D3/02 310A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182364
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB07
3C063BB02
3C063BB24
3C063BC05
3C063BD01
3C063BD04
3C063BG01
3C063BG08
3C063CC04
3C063CC06
3C063CC16
3C063FF22
(57)【要約】
【課題】砥粒がボンド層から脱落し難く、長期の寿命を実現できる単層ビトリファイドボンド砥石を提供する。
【解決手段】本発明の単層ビトリファイドボンド砥石は、基材1と、基材1の表面に設けられた緻密なガラス質からなるボンド層3、表面が露出された状態でボンド層3によって基材1上に単層で固着された無数の砥粒5とを備えている。ボンド層3には、ガラス質より融点が高く、非酸化状態の金属質からなり、平均粒径が500nm以下である無数のフィラー7が含有されている。フィラー7は、ボンド層3中に0.01体積%を超え、かつ10.00体積%未満で含有されている。ボンド層3の表面における砥粒5の密度は、50%未満とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられた緻密なガラス質を含むボンド層と、表面が露出された状態で前記ボンド層によって前記基材上に単層で固着された無数の砥粒とを備え、
前記ボンド層には、前記ガラス質より融点が高く、非酸化状態の金属質からなり、平均粒径が500nm以下である無数のフィラーが含有されており、
前記フィラーは、前記ボンド層中に0.01体積%を超え、かつ10.00体積%未満で含有されており、
前記ボンド層の表面における前記砥粒の密度は、50%未満とされていることを特徴とする単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項2】
前記フィラーは、前記ボンド層中に0.10~5.00体積%含有されている請求項1記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項3】
前記ボンド層の表面における前記砥粒の密度は、40%以下とされている請求項1又は2記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【請求項4】
前記フィラーは、Ni、Cu、Fe及びAgの少なくとも1種からなる請求項1乃至3のいずれか1項記載の単層ビトリファイドボンド砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単層ビトリファイドボンド砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の単層ビトリファイドボンド砥石が開示されている。この単層ビトリファイドボンド砥石は、基材と、ボンド層と、無数の砥粒とを備えている。ボンド層は、基材の表面に設けられた緻密なガラス質からなる。無数の砥粒は、表面が露出された状態でボンド層によって基材上に単層で固着されている。砥粒は、例えばダイヤモンドやCBN等の超砥粒である。
【0003】
この種の単層ビトリファイドボンド砥石は、例えばドレッシング工具として具体化され、ドレッシング加工の際に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単層ビトリファイドボンド砥石は、砥粒が単層でしか固着されていないため、砥粒の脱落が起こってしまうと、研削抵抗が増大し、研削ができなくなってしまう。特に単層ビトリファイドボンド砥石を乾式研削に用いる場合、研削抵抗の増加や切粉によりボンド層の摩耗の影響が大きくなり、砥粒が脱落し易くなる。このため、単層ビトリファイドボンド砥石が早期に寿命を迎えてしまう。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、砥粒がボンド層から脱落し難く、長期の寿命を実現できる単層ビトリファイドボンド砥石を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石は、基材と、前記基材の表面に設けられた緻密なガラス質を含むボンド層と、表面が露出された状態で前記ボンド層によって前記基材上に単層で固着された無数の砥粒とを備え、
前記ボンド層には、前記ガラス質より融点が高く、非酸化状態の金属質からなり、平均粒径が500nm以下である無数のフィラーが含有されており、
前記フィラーは、前記ボンド層中に0.01体積%を超え、かつ10.00体積%未満で含有されており、
前記ボンド層の表面における前記砥粒の密度は、50%未満とされていることを特徴とする。
【0008】
発明者らは、単層ビトリファイドボンド砥石における砥粒の保持性を向上させるべく鋭意研究した。その結果、砥粒が脱落した単層ビトリファイドボンド砥石では、砥粒周りのボンド層にクラックが生じており、このクラックが起因となって研削加工時に砥粒が脱落していることが判明した。また、砥粒周りのボンド層のクラックは、溶融ガラスに対する砥粒の濡れ性が良すぎるために、砥粒周りに溶融ガラスがまとわりついてしまい、そのためにガラス固化後にクラックが生じていることも判明した。そして、砥粒周りのボンド層のクラックを抑えるべく、ボンド層中に微小な金属粒子をフィラーとして添加することを着想し、多くの試行錯誤の末、このフィラーの粒径の適正範囲等を見出して本発明を完成させた。
【0009】
発明者らの試験結果によれば、ガラス質より融点が高く、非酸化状態の金属質からなり、平均粒径が500nm以下である無数のフィラーがボンド層に適正量含有されており、しかも砥粒がボンド層の表面において適正量固着されていれば、砥粒がボンド層に強固に保持され、砥粒がボンド層から脱落し難くなることから、長期の寿命を実現できる。
【0010】
発明者らはこの理由を以下のように推察している。すなわち、このようなフィラーがボンド層に適正量含有されていれば、フィラーが靭性のある金属であることから、フィラーによってボンド層が弾性的に補強され、ボンド層にクラックが生じ難くなると考えられる。また、フィラーによって、溶融ガラスに対する砥粒の濡れ性が適正になり、このため砥粒周りに溶融ガラスがまとわりつくことが抑えられ、ガラス固化後に砥粒周りのボンド層にクラックが発生することも抑えられると考えられる。
【0011】
したがって、本発明の単層ビトリファイドボンド砥石では、砥粒がボンド層から脱落し難く、長期の寿命を実現できる。
【0012】
基材は、剛性を有する基材の他、ボンド層を変形させない程度の可撓性を有する基材を採用することができる。剛性を有する基材としては、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、ムライト等のセラミックス、炭素鋼、超硬合金、鋳鉄、純鉄、クロム鋼、鉄、SUS、銅等の金属、歪点が600°C以上のガラス等を採用することができる。中でも、金属が好ましく、特に炭素鋼等、線膨張係数(×10-6/°C)が10~15程度の金属が好ましい。可撓性を有する基材としては、天然繊維、合成繊維、炭素繊維等の繊維から成る織布又は不織布からなるシートや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アラミド等の合成樹脂、アルミニウム、銅等の金属からなる単層又は複層のフィルムを採用することができる。
【0013】
緻密なガラス質からなるボンド層としては、基材に対する密着性の高いもの、すなわち線膨張係数が基材に近いものが好ましい。すなわち、基材の線膨張係数に近い線膨張係数を有するガラスのフリットを含むガラス結合剤の粉末又はペーストを採用し、その粉末又はペーストを基材上に形成して溶融、固化させたものを採用することができる。本発明は単層ビトリファイドボンド砥石であり、ボンド層は砥粒を単層で固着しているだけであることから、ボンド層は気孔を実質的に含まない。
【0014】
砥粒としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト、CBN等のBN、イットリア安定化ジルコニア、ダイヤモンド等を採用することができる。中でも、超砥粒としてのダイヤモンドの他、CBN等のBNが好ましい。
【0015】
ボンド層に含まれるフィラーは、ガラス質より融点が高く、非酸化状態の金属質からなり、平均粒径が500nm以下のものである。このようなフィラーとして、具体的には、Ni、Cu、Fe、Ag等を採用することができる。これらの中では特に、Niが好ましい。ボンド層には、Ni、Cu、Fe及びAg等のうちの1種又は2種以上を含ませることができる。また、これらの金属の合金でもよい。
【0016】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石において、フィラーは、ボンド層中に0.01体積%を超え、かつ10.00体積%未満で含有されている。発明者らの試験結果によれば、フィラーは、ボンド層中に0.10~5.00体積%含有されていることが好ましい。ボンド層中のフィラーの含有量が少なすぎると、フィラー添加による効果が十分ではない。ボンド中のフィラーの含有量が多すぎると、ボンド層が砥粒を十分に保持できない。フィラーがボンド層中に1.00~5.00体積%含有されていることがより好ましい。フィラーがボンド層中に1.00~3.00体積%含有されていることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石において、ボンド層の表面における砥粒の密度は、50%未満とされている。発明者らの試験結果によれば、ボンド層の表面における砥粒の密度は、40%以下とされていることが好ましい。砥粒密度が高すぎると、切粉が目詰まりし易くなり、フィラーの効果が得られない。ボンド層の表面における砥粒の密度は、30%とされていることがより好ましい。ボンド層の表面における砥粒の密度は、5%以下とされていることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の単層ビトリファイドボンド砥石では、砥粒がボンド層から脱落し難いことによって長期の寿命を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例に相当する試験品2-4の模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施例に相当する試験品2-4に係り、表面の200倍のSEM写真である。
【
図3】
図3は、実施例に相当する試験品2-4に係り、側面の200倍のSEM写真である。
【
図4】
図4は、実施例に相当する試験品1-3に係り、フィラーの粒度分布データを示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例に相当する試験品2-1の模式断面図である。
【
図6】
図6は、比較例に相当する試験品2-1に係り、表面の200倍のSEM写真である。
【
図7】
図7は、比較例に相当する試験品2-1に係り、側面の200倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を試験1~4により説明するとともに、実施例と比較例とを説明する。
【0021】
(試験1)
まず、機械構造用炭素鋼としてのS45C製の基材と、表1に組成を示すガラス結合剤と、170メッシュアンダーのダイヤモンド(平均粒径91μm)からなる砥粒とを用意した。平均粒径はJISB4130による。また、フィラーとして、表2に平均粒径を示すNi粉末を用意した。フィラーの粒径は動的光散乱法により測定し、体積換算のD(50)を平均粒径とする(マルバーン社製ゼータサイザーナノ)。また、試験品1-3の平均粒径が180nmのフィラーの粒度分布データを
図4に示す。
【0022】
【0023】
ターピネオールを溶媒としてガラス結合剤をペーストとする。このペーストに各フィラーを混合し、フィラー入りペーストを得る。ペースト中におけるフィラーの含有量は、ペーストの固形分に対して1.00体積%である。つまり、フィラー入りペーストのみによってボンド層が形成されれば、そのボンド層中のフィラー体積%は1.00体積%となる。
【0024】
基材上にフィラー入りペーストをコーティングし、第1準備品とする。各第1準備品上に続けて砥粒を振り掛け、第2準備品とする。各第2準備品を乾燥し、コーティング層の溶剤を蒸発させて第3準備品とする。各第3準備品を非酸化雰囲気下、800°Cで焼成してガラス結合剤を溶融させ、一定時間の経過後、徐冷する。こうして、ガラス結合剤を固化させて緻密なガラス質からなるボンド層を形成する。常温まで冷却し、各試験品1-1~6を得る。
【0025】
フィラーの平均粒径は、試験品1-1が60nm、試験品1-2が100nm、試験品1-3が180nm、試験品1-4が300nm、試験品1-5が500nm、試験品1-6が1000nmである。
【0026】
各試験品1-1~6において、砥粒の突き出し量、つまり各砥粒がボンド層から突出している長さの平均値は35μmである。ボンド層の厚みはいずれも50μm±5μmである。
【0027】
以下の条件下、各試験品1-1~6を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。
加工物:単結晶Siウエハ
研削条件:10m/分
切り込み量:10μm
研削方式:乾式研削
【0028】
この際、1パスとして、10mm幅の加工物の短冊の片方から切込み、もう片方へ加工物と各試験品とを平行移動する。10パス以内に砥粒の脱落があった場合を「×」、10パスを超え、50パス以内に砥粒の脱落があった場合を「△」、50パスを超え、100パス以内に砥粒の脱落があった場合を「〇」、100パスでも砥粒に脱落がない場合を「◎」とした。結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
表2に示すように、試験品1-6は、ボンド層中のフィラーの平均粒径が1000nmであり、10パス以内に砥粒の脱落を生じてしまっている。一方、試験品1-1~5は、ボンド層中のフィラーの平均粒径が500nm以下であるため、砥粒がボンド層から脱落し難くなっている。特に、試験品1-2~4は、フィラーの平均粒径が100~300nmであるため、100パスを超えても砥粒の脱落を生じない。したがって、試験品1-1~5は長期の寿命を実現できることがわかる。
【0031】
(試験2)
表3に示すように、ボンド層中のフィラーの含有量を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品2-1~7を得る。ボンド層中のフィラーの体積%は、試験品2-1が0.00体積%、試験品2-2が0.01体積%、試験品2-3が0.10体積%、試験品2-4が1.00体積%、試験品2-5が3.00体積%、試験品2-6が5.00体積%、試験品2-7が10.00体積%である。
【0032】
試験品2-4の模式断面図を
図1に示す。試験品2-1の模式断面図を
図5に示す。
図1及び
図5に示すように、試験品2-1、2-4は、基材1と、基材1の表面に設けられた緻密なガラス質からなるボンド層3と、表面が露出された状態でボンド層3によって基材1上に単層で固着された無数の砥粒5とを備えている。試験品2-4は、
図1に示すように、ボンド層3に無数のフィラー7が含有されている。一方、試験品2-1は、
図5に示すように、ボンド層3にフィラーは含有されていない。
【0033】
試験1と同一の条件下、各試験品2-1~7を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表3に示す。
【0034】
【0035】
表3に示すように、試験品2-3~6のように、ボンド層3中に適正量のフィラー7が存在すれば、砥粒5がボンド層3から脱落し難く、寿命が長くなっている。特に、試験品2-4~6のように、ボンド層3中のフィラーの体積%が1.00~5.00体積%であれば、より寿命が長くなっている。さらに、試験品2-4~5のように、ボンド層3中のフィラーの体積%が1.00~3.00体積%であれば、さらに寿命が長くなっている。
【0036】
一方、試験品2-1~2にように、ボンド層3中のフィラー7の体積%が0.01体積%以下であったり、試験品2-7のようにボンド層3中のフィラー7の体積%が10.00体積%以上であったりすると、砥粒5の保持力が低下する。
【0037】
(試験3)
表4に示すように、ボンド層3の表面における砥粒5の密度を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品3-1~6を得る。砥粒密度は、試験品3-1が60%、試験品3-2が50%、試験品3-3が40%、試験品3-4が30%、試験品3-5が5%、試験品3-6が1%である。ボンド層3の表面における砥粒5の密度(%)とは、工具表面の砥粒が占める面積の割合のことである。密度は、まず、100倍のSEM画像(JEOL JSM-6610、表面の反射電子像)を取得し、このSEM画像をimageJ(画像処理ソフト)にて2値化してボンド層の部分と砥粒の部分とに分け、砥粒の占める面積割合を算出することにより求める。
【0038】
試験1と同一の条件下、各試験品3-1~6を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表4に示す。
【0039】
【0040】
表4に示すように、砥粒5は、ボンド層3の表面において、40%以下で固着されていることが好ましい。砥粒5は、ボンド層3の表面において、30%以下で固着されていることがより好ましい。砥粒5は、ボンド層3の表面において、1%以上、かつ5%以下で固着されていることがさらに好ましい。表面の砥粒密度が50%以上になると、切粉が目詰まりしやすくなり、フィラー添加による効果が得られない。
【0041】
(試験4)
フィラー7の種類を種々異ならせ、試験1と同様にして試験品4-1~6を得る。フィラー7は、試験品4-1がアルミナ、試験品4-2が3YSZ(3mol%イットリア安定化ジルコニア)、試験品4-3がFe、試験品4-4がNi、試験品4-5がCu、試験品4-6がAgである。
【0042】
試験1と同一の条件下、各試験品4-1~6を研削に用い、砥粒が脱落することによる寿命を評価した。結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
表5に示すように、フィラー7としては、Fe、Ni、Cu、Ag等を採用できることがわかる。特に、Niがフィラー7として好ましいことがわかる。
【0045】
以上において、本発明を試験品1-1等に即して説明したが、本発明は上記試験品1-1等に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明はドレッシング工具等に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…基材
3…ボンド層
5…砥粒
7…フィラー