(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070292
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】回転剛性の評価方法、合成梁端部の設計方法、及び合成梁端部の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/00 20060101AFI20230512BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
E04B1/00
E04B5/02 C
E04B5/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182370
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 智
(57)【要約】
【課題】接合部の回転剛性を精緻に評価することができる回転剛性の評価方法を提供する。
【解決手段】鉄骨梁25と、鉄骨梁上で支持されたスラブ35と、鉄骨梁及びスラブを、鉄骨梁の長さ方向Xに離散的又は連続的に互いに接合するシアコネクタ45と、を備え、長さ方向の少なくとも一方の端部が、仕口部材33を介して、支持部材15によりそれぞれ支持され、鉛直荷重を受ける合成梁47において、長さ方向の少なくとも一方の端部に形成される支持部材との接合部47aの回転剛性を評価する回転剛性の評価方法であって、接合部におけるスラブの曲げ剛性及び軸剛性、鉄骨梁及び仕口部材の曲げ剛性及び軸剛性、シアコネクタのせん断剛性を用いて、回転剛性を評価する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨梁と、
前記鉄骨梁上で支持されたスラブと、
前記鉄骨梁及び前記スラブを、前記鉄骨梁の長さ方向に離散的又は連続的に互いに接合するシアコネクタと、
を備え、
前記長さ方向の少なくとも一方の端部が、仕口部材を介して、支持部材によりそれぞれ支持され、鉛直荷重を受ける合成梁において、前記長さ方向の前記少なくとも一方の端部に形成される前記支持部材との接合部の回転剛性を評価する回転剛性の評価方法であって、
前記接合部における前記スラブの曲げ剛性及び軸剛性、前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性及び軸剛性、前記シアコネクタのせん断剛性を用いて、前記回転剛性を評価する、回転剛性の評価方法。
【請求項2】
前記シアコネクタを複数備え、
前記複数のシアコネクタは、前記長さ方向に間隔s(m)で並べて配置され、
(1)式から(13)式を用いて、前記回転剛性S
jを評価する、請求項1に記載の回転剛性の評価方法。
ただし、Lは前記合成梁の長さ又は前記合成梁において前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持されることで前記接合部が一対形成される場合の前記合成梁の前記一対の接合部間の距離(m)であり、kは前記シアコネクタ1つ当たりのせん断剛性(kN/m)であり、l
jはそれぞれの前記接合部の前記長さ方向の長さの2倍(m)である。(E
sI
s)
jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの曲げ剛性(kNm
2)であり、(E
sA
s)
jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの軸剛性(kN)であり、(E
bI
b)
jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性(kNm
2)であり、(E
bA
b)
jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の軸剛性(kN)である。
E
sI
sは前記スラブの曲げ剛性(kNm
2)であり、E
sA
sは前記スラブの軸剛性(kN)であり、c
sは前記スラブと前記鉄骨梁との界面から前記スラブの軸芯までの距離(m)であり、E
bI
bは前記鉄骨梁の曲げ剛性(kNm
2)であり、E
bA
bは前記鉄骨梁の軸剛性(kN)であり、c
bは前記界面から前記鉄骨梁の軸芯までの距離(m)である。
【数1】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性Sj、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントが、前記接合部のモーメント耐力を下回るように、前記回転剛性Sj及び前記モーメント耐力を調整する、合成梁端部の設計方法。
【請求項4】
前記合成梁では、前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持され、
請求項1又は2に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性S
j、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントの絶対値M
j,Edが、前記接合部のモーメント耐力M
j,Rd以上となる場合に、
前記合成梁の正曲げされた部分のモーメント耐力M
bs,Rdが、(16)式を満たすように設定する、合成梁端部の設計方法。
ただし、M
bs,pinは、前記合成梁において、それぞれの前記接合部がピン接合であると仮定した基準合成梁に対して、前記基準合成梁の正曲げされた部分に作用する最大モーメントの絶対値(kNm)である。
【数2】
【請求項5】
前記合成梁の前記少なくとも一方の端部と、
前記少なくとも一方の端部を支持する前記支持部材と、
を備え、
前記複数のシアコネクタは、前記長さ方向に間隔s(m)で並べて配置され、
請求項1又は2に記載の回転剛性の評価方法に基づいて(21)式から(33)式を用いて評価した前記回転剛性S
j、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントが、前記接合部のモーメント耐力を下回るように、前記回転剛性S
j及び前記モーメント耐力が調整されている、合成梁端部の接合構造。
ただし、Lは前記合成梁の長さ又は前記合成梁において前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持されることで前記接合部が一対形成される場合の前記合成梁の前記一対の接合部間の距離(m)であり、kは前記シアコネクタ1つ当たりのせん断剛性(kN/m)であり、l
jはそれぞれの前記接合部の前記長さ方向の長さの2倍(m)である。(E
sI
s)
jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの曲げ剛性(kNm
2)であり、(E
sA
s)
jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの軸剛性(kN)であり、(E
bI
b)
jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性(kNm
2)であり、(E
bA
b)
jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の軸剛性(kN)である。
E
sI
sは前記スラブの曲げ剛性(kNm
2)であり、E
sA
sは前記スラブの軸剛性(kN)であり、c
sは前記スラブと前記鉄骨梁との界面から前記スラブの軸芯までの距離(m)であり、E
bI
bは前記鉄骨梁の曲げ剛性(kNm
2)であり、E
bA
bは前記鉄骨梁の軸剛性(kN)であり、c
bは前記界面から前記鉄骨梁の軸芯までの距離(m)である。
【数3】
【請求項6】
前記スラブは、
コンクリートと、
前記コンクリートに埋設された鉄筋と、を有し、
前記モーメント耐力M
j,Rd(kNm)、及び前記作用モーメントの絶対値M
j,Ed(kNm)が、(41)式から(44)式を満たすように構成されている、請求項5に記載の合成梁端部の接合構造。
ただし、σ
ryは前記鉄筋の降伏応力度(kN/m
2)であり、A
r,effは前記スラブの有効幅内における前記鉄筋の全断面積(m
2)であり、x
hは前記接合部から前記合成梁に作用する曲げモーメントが0になる位置までの前記長さ方向の長さ(m)であり、P
Rdは前記シアコネクタ1つあたりのせん断耐力(kN)であり、nは前記接合部から前記合成梁に作用する曲げモーメントが0になる位置までの間に配置された前記シアコネクタの本数である。
【数4】
【請求項7】
前記合成梁の前記少なくとも一方の端部と、
前記少なくとも一方の端部を支持する前記支持部材と、
を備え、
請求項1又は2に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性S
j、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントの絶対値M
j,Edが、前記接合部のモーメント耐力M
j,Rd以上となる場合に、
前記合成梁の正曲げされた部分のモーメント耐力M
bs,Rdが、(45)式を満たすように構成されている、合成梁端部の接合構造。
ただし、M
bs,pinは、前記合成梁において、それぞれの前記接合部がピン接合であると仮定した基準合成梁に対して、前記基準合成梁の正曲げされた部分に作用する最大モーメントの絶対値(kNm)である。
【数5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転剛性の評価方法、合成梁端部の設計方法、及び合成梁端部の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨梁及びスラブ(床)がシアコネクタにより接合されて、合成梁が構成される。この鉄骨梁は、小梁や大梁として用いられる。通常、大梁に設けたガセットプレート(フィンプレート)に、小梁のウェブをボルトで接合するとともに、小梁の上下フランジは大梁に接合しない。このような構成により、小梁の両端部に、ピン接合による接合部を構成している。小梁は、スラブを、スラブの下方から支えている。小梁は、地震等による水平外力に耐えることが要求されない非耐震部材である。
【0003】
一方で、溶接やボルト等により、小梁の端部を大梁に剛接合することができる。また、鉄筋で適切に補強したコンクリートスラブ等を載置して、鉄骨梁とシアコネクタ等で締結したり、さらには、公知のように、小梁の端部を大梁に半剛接合することができる。これらのように小梁の端部を剛接合又は半剛接合とした場合は、小梁の中央のたわみやモーメントを、小梁の端部をピン接合とした場合に比べ抑制できる。さらに、小梁の断面積を小さくして、小梁を軽量化することができる。
このように構成された小梁は、大スパン構造等で活用されている。
【0004】
しかし、これらの接合部に対する従来の剛性評価方法は、接合部におけるスラブの曲げ抵抗や、鉄骨梁等の鉄骨部分の曲げ抵抗を適切に考慮していない。
一方で、例えば非特許文献1から3では、スラブに曲げひび割れ等が発生する前の剛性を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Written by Masaki Arita, Yuichi Nishida, Satoshi Kitaoka, Ryoichi Kanno, J. Y. Richard Liew, Jun Iyama and Koji Hanya, “Semi-rigid beam-to-beam joint model for long span composite floor beams”, 12th Pacific Structural Steel Conference Tokyo, Japan, November 9-11, 2019
【非特許文献2】西田裕一、有田政樹、北岡聡、鈴木一弁著、「合成スラブを有する連続梁の接合部の構造性能 その1 実験計画」、日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)、2019年9月 p.1493-1494
【非特許文献3】有田政樹、西田裕一、北岡聡、鈴木一弁著、「合成スラブを有する連続梁の接合部の構造性能 その2 実験結果」、日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)、2019年9月 p.1495-1496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1から3では、鉄骨梁等の鉄骨部分の曲げ抵抗を考慮していないため、特にスラブに曲げひび割れ等が発生する前の回転剛性については過小評価してしまうことがある。従って、接合部の剛性を精緻に評価して、合成梁中央のたわみやモーメントを抑制することができない。その結果、小梁の長さ方向に直交する断面積が大きくなり、非経済的な設計となっていた。
また、接合部付近に生じる負曲げモーメントを実際より過小評価してしまい、実際には接合部の耐力や横座屈耐力を上回る負曲げモーメントが発生している場合にも、設計上は耐力が足りている判定(危険側の設計)となることがあった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、接合部の回転剛性を精緻に評価することができる回転剛性の評価方法、この回転剛性の評価方法を用いた合成梁端部の設計方法、及び合成梁端部の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の回転剛性の評価方法は、鉄骨梁と、前記鉄骨梁上で支持されたスラブと、前記鉄骨梁及び前記スラブを、前記鉄骨梁の長さ方向に離散的又は連続的に互いに接合するシアコネクタと、を備え、前記長さ方向の少なくとも一方の端部が、仕口部材を介して、支持部材によりそれぞれ支持され、鉛直荷重を受ける合成梁において、前記長さ方向の前記少なくとも一方の端部に形成される前記支持部材との接合部の回転剛性を評価する回転剛性の評価方法であって、前記接合部における前記スラブの曲げ剛性及び軸剛性、前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性及び軸剛性、前記シアコネクタのせん断剛性を用いて、前記回転剛性を評価することを特徴としている。
【0009】
この発明では、シアコネクタを介して互いに接合された鉄骨梁及びスラブを備える合成梁の、支持部材との接合部において、その接合部の回転剛性を評価する。その際に、発明者等は鋭意検討の結果、以下のことを見出した。すなわち、接合部におけるスラブの曲げ剛性及び軸剛性、鉄骨梁及び仕口部材の曲げ剛性及び軸剛性、及びシアコネクタのせん断剛性を用いて、接合部の回転剛性を精緻に評価できる。
従って、これらの曲げ剛性、軸剛性、及びせん断剛性を用いて、接合部の回転剛性を精緻に評価することができる。
【0010】
また、前記回転剛性の評価方法において、前記シアコネクタを複数備え、前記複数のシアコネクタは、前記長さ方向に間隔s(m)で並べて配置され、(1)式から(13)式を用いて、前記回転剛性Sjを評価してもよい。
ただし、Lは前記合成梁の長さ又は前記合成梁において前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持されることで前記接合部が一対形成される場合の前記合成梁の前記一対の接合部間の距離(m)であり、kは前記シアコネクタ1つ当たりのせん断剛性(kN/m)であり、ljはそれぞれの前記接合部の前記長さ方向の長さの2倍(m)である。(EsIs)jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの曲げ剛性(kNm2)であり、(EsAs)jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの軸剛性(kN)であり、(EbIb)jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性(kNm2)であり、(EbAb)jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の軸剛性(kN)である。
EsIsは前記スラブの曲げ剛性(kNm2)であり、EsAsは前記スラブの軸剛性(kN)であり、csは前記スラブと前記鉄骨梁との界面から前記スラブの軸芯までの距離(m)であり、EbIbは前記鉄骨梁の曲げ剛性(kNm2)であり、EbAbは前記鉄骨梁の軸剛性(kN)であり、cbは前記界面から前記鉄骨梁の軸芯までの距離(m)である。
【0011】
【0012】
この発明では、(1)式から(13)式を用いて、接合部の回転剛性を、より精緻に評価することができる。
【0013】
また、本発明の合成梁端部の設計方法は、前記に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性Sj、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントが、前記接合部のモーメント耐力を下回るように、前記回転剛性Sj及び前記モーメント耐力を調整することを特徴としている。
【0014】
この発明では、例えば、合成梁を用いて建築物を施工した際に、接合部に作用する作用モーメントが接合部のモーメント耐力を下回るため、合成梁の両端部が、この建築物の使用性又は居住性に関わる、いわゆる使用限界状態になることを防止できる。ここで言う使用限界状態とは、合成梁の場合、接合部に作用する作用モーメントが接合部のモーメント耐力と等しくなる状態であり、合成梁の端部にヒンジが形成されて過大な不可逆変形(梁のたわみ)が生じる状態を意味する。
【0015】
また、他の本発明の合成梁端部の設計方法は、前記合成梁では、前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持され、前記に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性Sj、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントの絶対値Mj,Edが、前記接合部のモーメント耐力Mj,Rd以上となる場合に、前記合成梁の正曲げされた部分のモーメント耐力Mbs,Rdが、(16)式を満たすように設定することを特徴としている。
ただし、Mbs,pinは、前記合成梁において、それぞれの前記接合部がピン接合であると仮定した基準合成梁に対して、前記基準合成梁の正曲げされた部分に作用する最大モーメントの絶対値(kNm)である。
【0016】
【0017】
この発明では、合成梁を用いて建築物を施工した際に、作用モーメントの絶対値Mj,Edが接合部のモーメント耐力Mj,Rdに等しくなる使用限界状態を超える荷重が作用する場合であっても、(16)式を満たすことで、合成梁の正曲げ部分に作用する最大モーメントの絶対値が合成梁の正曲げに対するモーメント耐力Mbs,Rd以上とならないように設定される。ここで言う終局限界状態とは、両端部が支持されている合成梁において、両端部及び中央部の計3箇所にヒンジが生じて合成梁全体がメカニズムを形成する(合成梁が崩落する)状態を意味する。
このため、合成梁の両端部にヒンジが生じる使用限界状態を超える荷重が作用した場合であっても、終局限界状態になるのを防止することができる。従って、合成梁が終局限界状態に達して合成梁が崩落するのを防ぐことができる。
【0018】
また、本発明の合成梁端部の接合構造は、前記合成梁の前記少なくとも一方の端部と、前記少なくとも一方の端部を支持する前記支持部材と、を備え、前記複数のシアコネクタは、前記長さ方向に間隔s(m)で並べて配置され、前記に記載の回転剛性の評価方法に基づいて(21)式から(33)式を用いて評価した前記回転剛性Sj、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントが、前記接合部のモーメント耐力を下回るように、前記回転剛性Sj及び前記モーメント耐力が調整されていることを特徴としている。
ただし、Lは前記合成梁の長さ又は前記合成梁において前記長さ方向の両端部が前記仕口部材を介して前記支持部材によりそれぞれ支持されることで前記接合部が一対形成される場合の前記合成梁の前記一対の接合部間の距離(m)であり、kは前記シアコネクタ1つ当たりのせん断剛性(kN/m)であり、ljはそれぞれの前記接合部の前記長さ方向の長さの2倍(m)である。(EsIs)jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの曲げ剛性(kNm2)であり、(EsAs)jはそれぞれの前記接合部における前記スラブの軸剛性(kN)であり、(EbIb)jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の曲げ剛性(kNm2)であり、(EbAb)jはそれぞれの前記接合部における前記鉄骨梁及び前記仕口部材の軸剛性(kN)である。
EsIsは前記スラブの曲げ剛性(kNm2)であり、EsAsは前記スラブの軸剛性(kN)であり、csは前記スラブと前記鉄骨梁との界面から前記スラブの軸芯までの距離(m)であり、EbIbは前記鉄骨梁の曲げ剛性(kNm2)であり、EbAbは前記鉄骨梁の軸剛性(kN)であり、cbは前記界面から前記鉄骨梁の軸芯までの距離(m)である。
【0019】
【0020】
この発明では、例えば、合成梁端部の接合構造を用いて建築物を施工した際に、接合部に作用する作用モーメントが接合部のモーメント耐力を下回るため、合成梁の両端部が、この建築物の使用性又は居住性に関わる、いわゆる使用限界状態になることを防止できる。
【0021】
また、本発明の合成梁端部の接合構造は、前記スラブは、コンクリートと、前記コンクリートに埋設された鉄筋と、を有し、前記モーメント耐力Mj,Rd(kNm)、及び前記作用モーメントの絶対値Mj,Ed(kNm)が、(41)式から(44)式を満たすように構成されていることを特徴としている。
ただし、σryは前記鉄筋の降伏応力度(kN/m2)であり、Ar,effは前記スラブの有効幅内における前記鉄筋の全断面積(m2)であり、xhは前記接合部から前記合成梁に作用する曲げモーメントが0になる位置までの前記長さ方向の長さ(m)である。
【0022】
【0023】
この発明では、スラブがコンクリート及び鉄筋を有する場合に、建築物に用いられている合成梁端部の接合構造を、(41)式から(44)式を用いて精緻に評価することができる。
【0024】
また、本発明の他の合成梁端部の接合構造は、前記合成梁の前記少なくとも一方の端部と、前記少なくとも一方の端部を支持する前記支持部材と、を備え、前記に記載の回転剛性の評価方法を用いて評価した前記回転剛性Sj、及び前記鉛直荷重に応じて前記接合部に作用する作用モーメントの絶対値Mj,Edが、前記接合部のモーメント耐力Mj,Rd以上となる場合に、前記合成梁の正曲げされた部分のモーメント耐力Mbs,Rdが、(45)式を満たすように構成されていることを特徴としている。
ただし、Mbs,pinは、前記合成梁において、それぞれの前記接合部がピン接合であると仮定した基準合成梁に対して、前記基準合成梁の正曲げされた部分に作用する最大モーメントの絶対値(kNm)である。
【0025】
【0026】
この発明では、例えば、合成梁端部の接合構造を用いて建築物を施工した際に、合成梁端部の接合構造において、作用モーメントの絶対値Mj,Edが接合部のモーメント耐力Mj,Rdに等しくなる使用限界状態を超える荷重が作用する場合であっても、(45)式を満たすことで、合成梁の正曲げ部分に作用する最大モーメントの絶対値が合成梁の正曲げに対するモーメント耐力Mbs,Rd以上とならない。このため、合成梁の両端部にヒンジが生じる使用限界状態を超える荷重が作用した場合であっても、終局限界状態になるのを防止することができる。
従って、合成梁が終局限界状態に達して合成梁が崩落するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の回転剛性の評価方法、合成梁端部の設計方法、及び合成梁端部の接合構造では、接合部の回転剛性を精緻に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態の合成梁端部の接合構造が用いられた建築物を模式的に示す斜視図である。
【
図4】モデル化した合成梁の境界条件を模式的に示す図である。
【
図5】合成梁に作用する曲げモーメントM(x)を示す図である。
【
図6】曲げモーメントが作用した合成梁の概要を示す図である。
【
図7】合成梁の断面における曲率及びひずみ分布を表す図である。
【
図8】合成梁の接合部における回転角及びずれ変位を表す図である。
【
図9】合成梁の接合部における回転角及びずれ変位を表す図である。
【
図10】従来の回転剛性の評価に用いた試験体が抜き出される床組の平面図である。
【
図12】接合部の回転角φ
jに対する接合部モーメントM
jの変化を表す図である。
【
図13】無次元化座標に対する無次元化たわみの変化を表す図である。
【
図14】無次元化座標に対する無次元化曲げモーメントの変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る合成梁端部の接合構造の第1実施形態を、
図1から
図14を参照しながら説明する。
【0030】
〔1.合成梁端部の接合構造が用いられた建築物の構成〕
この合成梁端部の接合構造48は、
図1及び
図2に示す建築物1に用いられる。建築物1は、複数の柱10と、複数の大梁(支持部材)15と、複数の小梁である鉄骨梁25と、床スラブ(スラブ)35と、シアコネクタ45と、を備えている。
なお、
図1では、床スラブ35を透過して示し、シアコネクタ45を示していない。
【0031】
柱10は、上下方向に沿って延びている。複数の柱10は、互いに間隔を開けて配置されている。柱10は、鉄骨製、RC(Reinforced Concrete)製、SRC(Steel Reinforced Concrete)製、CFT(Concrete Filled steel Tube)製等である。
図1及び
図2に示すように、例えば、大梁15は、H形鋼製である。大梁15は、第1フランジ16と、第2フランジ17と、ウェブ18と、を備えている。第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ16及び第2フランジ17は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ16は、第2フランジ17よりも上方に配置されている。
ウェブ18は、第1フランジ16と第2フランジ17との間に配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16の幅方向の中心及び第2フランジ17の幅方向の中心を互いに接合している。
【0032】
図2に示すように、大梁15の第1フランジ16及びウェブ18には、ガセットプレート(フィンプレート)21が溶接等により接合されている。ガセットプレート21の上端、及び第1フランジ16の下面は、上下方向において、互いに同等の位置に配置されている。
ガセットプレート21の下端は、第2フランジ17の上面よりも上方に配置されている。すなわち、ガセットプレート21と第2フランジ17との間には、隙間が形成されている。
ウェブ18におけるガセットプレート21の下端に相当する位置には、水平リブ22が溶接等により固定されている。
【0033】
図1に示すように、大梁15は、隣り合う一対の柱10の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。大梁15の両端部は、柱10に溶接等でそれぞれ接合されている。
なお、大梁15は、RC製やSRC製でもよい。
【0034】
図1及び
図2に示すように、例えば、鉄骨梁25は、H形鋼製である。鉄骨梁25は、第1フランジ26と、第2フランジ27と、ウェブ28と、を備えている。
第1フランジ26、第2フランジ27、及びウェブ28は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ26及び第2フランジ27は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ26は、第2フランジ27よりも上方に配置されている。
ウェブ28は、第1フランジ26と第2フランジ27との間に配置されている。ウェブ28は、第1フランジ26の幅方向の中心及び第2フランジ27の幅方向の中心を互いに接合している。
【0035】
図2に示すように、鉄骨梁25の第1フランジ26、及び大梁15の第1フランジ16は、上下方向において、互いに同等の位置に配置されている。鉄骨梁25の第2フランジ27は、大梁15の第2フランジ17よりも上方に配置されている。
鉄骨梁25は、隣り合う一対の大梁15の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。具体的には、大梁15に設けられたガセットプレート21と鉄骨梁25のウェブ28とは、高力ボルト等の締結部材31により互いに接合されている。
【0036】
水平リブ22と鉄骨梁25の第2フランジ27とは、溶接により形成された溶接部32により互いに接合されている。なお、大梁15に設けられたガセットプレート21及び水平リブ22、及び締結部材31、及び溶接部32で、仕口部材33を構成する。
この例では、鉄骨梁25の第1フランジ26及び大梁15の第1フランジ16は、互いに接合されておらず、これらの間には隙間が形成されている。
なお、水平リブ22と鉄骨梁25の第2フランジ27とは、溶接部32により接合されなくてもよい。水平リブ22と鉄骨梁25の第2フランジ27とは、ボルトやメタルタッチにより接合されていてもよい。第2フランジ27は大梁15やその仕口部材33に接合されていなくてもよく、その場合水平リブ22はなくてもよい。
【0037】
床スラブ35は、デッキ合成スラブである。床スラブ35は、デッキプレート36と、コンクリート37と、鉄筋38と、を有する。
デッキプレート36は、鋼板を折り曲げること等により形成されている。デッキプレート36は、鉄骨梁25の第1フランジ26上、及び大梁15の第1フランジ16にそれぞれ配置されている。例えば、デッキプレート36と第1フランジ16,26とは、焼き抜き栓溶接等による接合部(不図示)により互いに接合されている。
鉄筋38は、配筋である。床スラブ35は、鉄筋38を複数備えている。複数の鉄筋38の一部である第1鉄筋41は、鉄骨梁25の長さ方向Xに延びている。複数の鉄筋38の残部である第2鉄筋42は、水平面に沿うとともに第1鉄筋41に直交する方向に延びている。第1鉄筋41及び第2鉄筋42は、コンクリート37に埋設されている。
以上のように構成された床スラブ35は、大梁15及び鉄骨梁25上で支持されている。
【0038】
建築物1は、頭付きスタッドであるシアコネクタ45を複数備えている。なお、一対の大梁15のピッチ間の鉄骨梁25、床スラブ35、及び複数のシアコネクタ45で、合成梁47を構成する。
複数のシアコネクタ45の下端部は、大梁15の第1フランジ16及び鉄骨梁25の第1フランジ26にそれぞれ溶接等により接合されている。複数のシアコネクタ45は、第1フランジ16,26から上方に向かって延び、コンクリート37に埋設されている。
複数のシアコネクタ45は、鉄骨梁25及び床スラブ35を、長さ方向Xに離散的(断続的)に互いに接合する。鉄骨梁25に設けられた複数のシアコネクタ45は、長さ方向Xに間隔(s(m)。
図2参照)で並べて配置されている。
なお、シアコネクタは、頭付きスタッドに限定されず、例えばLアングルでもよい。シアコネクタは、鉄骨梁25及び床スラブ35を、長さ方向Xに連続的に互いに接合してもよい。
【0039】
合成梁47において、長さ方向Xの両端部が仕口部材33を介して大梁15によりそれぞれ支持されていることで、接合部が一対形成されている。接合部には、鉄骨梁25の長さ方向Xの端部、床スラブ35の長さ方向Xの端部、及び複数のシアコネクタ45が含まれる。
なお、合成梁47における長さ方向Xの一方の端部は、大梁15により支持されなくてもよい。この場合、接合部は、合成梁47における長さ方向Xの一方の端部のみに形成される。
合成梁47は、下向きの静荷重等の鉛直荷重を受けている。鉛直荷重は、例えば、日本建築学会 建築物荷重指針・同解説(2015)第5版等により定められる。
合成梁47において、長さ方向Xの両端部に、大梁15との接合部47aがそれぞれ形成される。大梁15、及びこの大梁15を長さ方向Xに挟む一対の合成梁47の端部で、合成梁端部の接合構造48を構成する。なお、合成梁47の端部及びこの端部を支持する大梁15で合成梁端部の接合構造を構成するとしてもよいし、合成梁47の両端部及び一対の大梁15で合成梁端部の接合構造を構成するとしてもよい。
【0040】
この例では、接合部47aは、後述する欧州設計基準に規定される半剛接合である。
なお、合成梁47の接合部47aの構成は、この構成に限定されない。
なお、床スラブ35は、デッキプレート36を用いないRCスラブであってもよく、トラス筋付きデッキを用いたRCスラブであってもよい。床スラブ35は、プレキャストコンクリートスラブであってもよい。
【0041】
ここで、以下のように合成梁端部の接合構造48の寸法等を規定する。
合成梁47の一対の接合部47a間の距離(合成梁47のスパン)を、L(m)とする。距離Lは、大梁15の中心間距離から、後述する接合部47aの長さ方向Xの長さlj(m)を除いた長さとする。例えば、大梁15の中心間距離8m、lj=400mmの場合、L=7.6mとなる。なお、合成梁47の長さ方向Xの長さをL(m)としてもよい。
シアコネクタ45の1つ当たりのせん断剛性を、k(kN/m)とする。ただし、シアコネクタ45が多列配置されている場合は、せん断剛性は、kに列数を乗じた値とする。
鉄骨梁25に設けられた、長さ方向Xに隣り合う複数のシアコネクタ45間の距離を、s(m)とする。それぞれの接合部47aの長さ方向の長さの2倍を、lj(m)とする。ただし、添え字の「j」は、joint(接合部)の意味である。すなわち、それぞれの接合部47aの長さ方向の長さは、(lj/2)(m)である。
長さljは、大梁15の両側に一対の鉄骨梁25が接合される場合は、それぞれの鉄骨梁25に接合されたシアコネクタ45のうち、該大梁15に最も近いシアコネクタ45(以下、シアコネクタ45aとも言う)の軸心間距離とする。
【0042】
それぞれの接合部47aにおける床スラブ35の曲げ剛性を、(EsIs)j(kNm2)とする。それぞれの接合部47aにおける床スラブ35の軸剛性を、(EsAs)j(kN)とする。それぞれの接合部47aにおける鉄骨梁25及び仕口部材33の曲げ剛性を、(EbIb)j(kNm2)とする。それぞれの接合部47aにおける鉄骨梁25及び仕口部材33の軸剛性を、(EbAb)j(kN)とする。
【0043】
床スラブ35の曲げ剛性を、E
sI
s(kNm
2)とする。床スラブ35の軸剛性を、E
sA
s(kN)とする。床スラブ35と鉄骨梁25との界面(境界面。
図2参照)50から床スラブ35の軸芯までの距離を、c
s(m)とする。鉄骨梁25の曲げ剛性を、E
bI
b(kNm
2)とする。鉄骨梁25の軸剛性を、E
bA
b(kN)とする。界面50から鉄骨梁25の軸芯までの距離を、c
b(m)とする。
距離c
sは、床スラブ35が圧縮力を受ける場合は、床スラブ35のコンクリート37の厚さ中心から界面50までの距離、または第1鉄筋41及びデッキプレート36の山高さを考慮した床スラブ35の正味断面の中立軸から界面50までの距離としてもよい。距離c
sは、床スラブ35が引張力を受ける場合は、床スラブ35の有効幅内に含まれる複数の第1鉄筋41の重心から界面50までの距離としてもよい。例えば、床スラブ35の有効幅は、非特許文献5(日本建築学会、「各種合成構造設計指針・同解説」 第2版、2010)等による。
次に、以上のように構成された合成梁端部の接合構造48に対して、接合部47aの回転剛性を評価する回転剛性の評価方法について説明する。
【0044】
〔2.回転剛性の評価方法〕
〔2.1.はじめに〕
床スラブと鉄骨梁がシアコネクタによって接合された合成梁は、スラブと鉄骨梁の界面においてシアコネクタのせん断変形による界面の長さ方向のずれを伴いながらたわみを生ずる。このため、この合成梁は、平面保持の仮定が成立しない、所謂不完全合成梁と呼ばれる。この類の合成梁の研究は古くは、Newmarkによって、単純支持された不完全合成梁を対象に行われた。この研究として、非特許文献6(Newmark, N.M., SIESS, C.P. and VIEST, I.M., “Test and analysis of composite beams with incomplete interaction”, Proc. Soc. Exp. Stress Anal., 9(1), p.75-92, 1951)が挙げられる。
【0045】
その後、Aribertが、合成梁の端部における、床スラブ内の鉄筋の定着とシアコネクタの変形を考慮した半剛接合に、前記研究を適用した。この研究として、非特許文献7(Aribert J.M., “INFLUENCE OF SLIP OF THE SHEAR CONNECTION ON COMPOSITE JOINT BEHAVIOUR, Connections in Steel Structure III”, p.11-22, Pergamon, Trento, 1996)、及び非特許文献8(Aribert J.M., “THEORETICAL SOLUTIONS RELATING TO PARTIAL SHEAR CONNECTION OF STEEL-CONCRETE COMPOSITE BEAMS AND JOINTS”, Steel and Composite Structures, Delft, 1999)が挙げられる。
この研究の概要を、
図3及び(51)式に示す。
【0046】
【0047】
ただし、Kscは、スタッドのずれ変形の換算軸剛性である。Ks,rは、鉄筋そのものが持つ軸剛性である。α,βは、合成梁47の断面諸元で決まる定数である。
非特許文献7及び8では、鉄骨梁25の曲げモーメント(モーメント負担率)Ma(φj)が0であり、tanhβが1であると仮定して、(51)式を解いている。Ksc、Ks,rの計算方法及び(51)式を用いた評価方法は、欧州設計基準(CEN “EN 1994-1-1:2004 Eurocode 4: Design of composite steel and concrete structures - Part 1-1: General rules and rules for buildings”, European Committee for Standardization, Brussels, Belgium, 2004)に組み込まれている。
【0048】
しかしながら、非特許文献7及び8では、接合部の各構成要素の持つ曲げ剛性は考慮されていない。また、接合部の剛性を求める陽な式は適用範囲を限定した近似式に依っている等の理由により、半剛接合に適用するための一般化は十分とは言い難い状況にある。
発明者等が別途行った検討によれば、非特許文献7及び8において、tanhβが1であるという仮定は、一般的な合成梁の接合部の構成においては妥当である。
一方、発明者らの検討によると、例えばH形鋼のウェブを高力ボルト摩擦接合する場合、接合部の鉄骨梁部分が実際には回転抵抗を有している。従って、曲げモーメントMa(φj)が0であるいう仮定は正しくない。本発明では、接合部の鉄骨部分が有する回転抵抗を考慮することで、合成梁のたわみを過大評価することを回避して経済設計を可能とした。また、接合部に実際に作用するモーメントの過小評価を回避して接合部の損傷(ヒンジ形成)を防止できると考え、鉄骨梁25の曲げモーメントMa(φj)が0でない場合における接合部の剛性の評価式を導出した。
【0049】
なお、日本国内において、合成梁の設計では、非特許文献5が多く参照される。しかし、連梁のように隣接スパンの影響を考慮した設計や、梁端の接合状態が剛接合とピン接合との間の剛性を有する半剛接合の設計については、記載がない。
また、非特許文献5は不完全合成梁のたわみ評価式を記載しているが、実験式を用いており、適用範囲やたわみの評価精度に課題がある。
【0050】
〔2.2.不完全合成梁の評価方法〕
〔2.2.1.基本式〕
以下では、合成梁47を不完全合成梁として評価する。
まず、鉄骨梁25の長さ方向Xにx軸を取る。力のつり合い条件を用いて、床スラブ35と鉄骨梁25との界面50のずれ変位γ(x)(m)と、長さ方向Xの内力F(x)(kN)との関係式を導出する。対象の合成梁47のモデルを、
図4から
図6に示す。
ここで、シアコネクタ45に作用するせん断力をQ(x)(kN)とし、床スラブ35と鉄骨梁25との界面50の単位長さ当たりのせん断力分布を、q(x)(kN/m)とする。すると、(56)式から(58)式が導出される。
【0051】
【0052】
(58)式を(57)式に代入すると、(59)式が導出される。
【0053】
【0054】
(59)式の両辺をxで微分すると、(60)式が導出される。
【0055】
【0056】
次に、変形の適合条件と支配方程式から、ずれ変位γ(x)と長さ方向Xの内力F(x)が満たす条件式を導出する。ずれ変位γ(x)の変化率(1階微分)は、引張ひずみを正(+)として、(63)式で表すことができる。
【0057】
【0058】
図7に、合成梁47の曲率及び断面のひずみ分布を示す。
図7において、左側の図は接合部47a付近の合成梁47を表し、右側の図は合成梁47の断面内における床スラブ35と鉄骨梁25のひずみ分布を表す。
ひずみ分布は、右側のひずみが引張りを表し、左側のひずみが圧縮を表す。点線による線L1は、合成梁47を構成する鉄骨梁25及び床スラブ35のそれぞれの単独要素に曲げモーメントのみが作用した場合のひずみ分布を表す。実線による線L2は、合成梁47を構成する鉄骨梁25及び床スラブ35に、曲げモーメントに加えて、シアコネクタ45によって伝達されるせん断力が長さ方向X(X方向)に作用した場合のひずみ分布を表す。
シアコネクタ45によって伝達されるせん断力は、床スラブ35に対しては長さ方向Xの引張力として作用する。シアコネクタ45によって伝達されるせん断力は、鉄骨梁25に対しては長さ方向Xの圧縮力として作用する。
【0059】
図7に示すひずみ分布が、曲げ成分と長さ方向Xの軸力成分の合力によって表せることから、合成梁47の界面50におけるひずみについて、(64)式及び(65)式が導出される。
【0060】
【0061】
ここで、εsは、界面50における床スラブ35のひずみである。Ms(x)は、床スラブ35に作用する力の曲げモーメント成分(kNm)である。εbは、界面50における鉄骨梁25のひずみである。Mb(x)は、鉄骨梁25に作用する力の曲げモーメント成分(kNm)である。
(63)式に(64)式及び(65)式を代入すると、(66)式が導出される。
【0062】
【0063】
ここで、(66)式は(72)式の定義を用いて床スラブ35と鉄骨梁25の軸剛性を等価な軸剛性に集約した式である。
X軸上の任意の位置xにおける床スラブ35と鉄骨梁25の曲率κ(x)が互いに等しいとすると、(67)式が導出される。ここで、zは(67a)式で定義し、床スラブ35と鉄骨梁25の曲げ剛性を、後述する(73)式を用いて曲げ剛性の単純和に集約した。
【0064】
【0065】
(66)式において、床スラブ35の曲率及び鉄骨梁25の曲率が互いに等しいとする(67)式を考慮すると、(68)式が導出される。
【0066】
【0067】
(67)式を(68)式に代入すると、(69)式が導出される。ここで、床スラブ35と鉄骨梁25の曲げ剛性及びそれぞれに作用する偶力と軸剛性による曲げ抵抗を、後述する(74)式を用いて合成梁47としての等価な曲げ剛性に集約した。
【0068】
【0069】
(60)式に(69)式を代入すると、長さ方向Xの内力F(x)に関する(70)式及び(71)式の微分方程式が導出できる。
【0070】
【0071】
ここで、合成梁47の軸剛性及び曲げ剛性については、(72)式から(74)式のように集約している。
【0072】
【0073】
さらに、以下のように、ずれ変位γ(x)に関する微分方程式を導出する。
(69)式の両辺をxで微分すると、(75)式が導出される。
【0074】
【0075】
(59)式を用いると、(76)式及び(77)式が導出される。
【0076】
【0077】
〔2.2.2.片持ち梁形式の半剛接合に対する基本式の一般解〕
〔2.2.1〕で求めた基本式である、長さ方向Xの内力F(x)に関する微分方程式(71)式、ずれ変位γ(x)に関する微分方程式(77)式を、
図4から
図6に示した、1点集中荷重を受ける片持ち梁形式の半剛接合のモーメント分布及び境界条件を考慮して、xについて解く。
ここで、集中荷重をP(kN)、片持ち梁の長さ(集中荷重Pの作用点から接合部までの距離)をL(m)とする。このとき、モーメント分布M(x)は、(80)式で表せる。
【0078】
【0079】
従って、(80)式を(71)式及び(77)式に代入すると、片持ち梁に対する基本式は、(81)式及び(82)式のように導出される。
【0080】
【0081】
ここで、(83)式及び(84)式のように規定する。
【0082】
【0083】
すると、(81)式及び(82)式は(85)式及び(86)式のように整理できる。
【0084】
【0085】
(85)式及び(86)式のいずれも2階非斉次線形微分方程式であり、(85)式及び(86)式の一般解は、特殊解と斉次形の一般解との和で表すことができる。(85)式及び(86)式の特性方程式はともに、(87)式を満たす。
【0086】
【0087】
従って、斉次形の一般解はそれぞれ、(88)式及び(89)式のように導出される。
【0088】
【0089】
ただし、C1~C4は、積分定数を表し、λ1,λ2は(90)式によって表される。
【0090】
【0091】
特殊解はそれぞれ、(91)式及び(92)式のように導出される。
【0092】
【0093】
以上から、(85)式及び(86)式の一般解は、(97)式を考慮して、(95)式及び(96)式の通りとなる。
【0094】
【0095】
(95)式に対し、片持ち梁におけるF(x)についての(98)式による境界条件を用いると、(99)式が得られ、(100)式のようにC2をC1で表すことができる。
【0096】
【0097】
よって、(95)式及び(100)式から(101)式が導出される。
【0098】
【0099】
一方、ずれ変位γ(x)の境界条件は、剛接合の場合はx=0において0である。しかし、ずれ変位γ(x)の境界条件は、半剛接合の場合はx=0、x=Lのいずれにおいても与条件としては得られない。
一方、(59)式に(101)式を代入することで、(102)式の通り求まる。
【0100】
【0101】
(96)式と(102)式とを比較すると、(103)式及び(104)式が導出される。
【0102】
【0103】
〔2.3.不完全合成梁の評価方法〕
〔2.3.1.ずれ変位と内力分布〕
〔2.2.〕では、長さ方向Xの内力F(x)とずれ変位γ(x)を、(101)式及び(102)式のようにxの関数として導出した。
ここで、x=0における半剛接合による接合部47aの回転角φjを境界条件として、C1を求める。x=0のとき、(101)式及び(102)式は、(111)式及び(112)式のようになる。
【0104】
【0105】
一方、
図8より、x=0におけるずれ変位γ(x)と回転角φ
jとの関係は、(113)式で表せる。
【0106】
【0107】
ここで、xnsは、床スラブ35の中立軸(ひずみがゼロとなる点)から床スラブ35と鉄骨梁25の界面50までの距離を表す。xnbは、鉄骨梁25の中立軸(ひずみがゼロとなる点)から界面50までの距離を表す。
(112)式と(113)式が等価であることから、(114)式が得られ、(114)式をC1について解くと、C1は(115)式の通り表せる。
【0108】
【0109】
図9に、x=0における床スラブ35の断面及び鉄骨梁25の断面それぞれのずれ変位を示す。
次に、
図9に示すずれ変位から、距離x
ns,x
nbを求める。大梁15を挟む一対の接合部47aが存在する長さ方向Xの長さl
jの領域(以下では、「接合部47a領域」と言う)において、接合部47aの曲率がx=0における値と等しく、一定であると仮定する。このとき、x=0における曲率は、接合部47aの回転角φ
jを用いて、(116)式で表せる。
【0110】
【0111】
ここで、長さl
jの例を、
図2に示す。ここでは大梁15を挟んで連続する、小梁である鉄骨梁25の端部接合部を対象としている。この場合、鉄骨梁25に設置されたシアコネクタ45のうち、最も大梁15に近いものの軸心同士の距離を、接合部47aの長さ(l
j/2)の2倍のl
jとする。大梁15を挟んで両側の接合部47aが鏡面対称に曲率をもって回転していると仮定すると、曲率と(l
j/2)の積がシアコネクタ45aの位置における接合部47aの回転角φ
jとなる。従って、(116)式が得られる。
シアコネクタ45aの軸心を原点として長さ方向Xに沿ってx軸をとる。
次に、床スラブ35と鉄骨梁25との界面50の接合部47a(x=0)の位置における床スラブ35の断面の変位の大きさを、△
sと規定する。同じ位置において、床スラブ35が同一回転角の曲げ変形のみを受けている状態を想定した時の仮想変位の大きさを、△m
sと規定する。x=0における床スラブ35の断面における変位の中立軸から界面50までの距離を、x
nsと規定する。床スラブ35の厚さの1/2をc
sと規定する。デッキ山がある場合はデッキ山高さを除く正味の床スラブ35の厚さの1/2にデッキ山高さを加えた寸法をc
sと規定する。
このとき、
図9に示された幾何学的関係から、(117)式の関係が成り立つ。
【0112】
【0113】
さらに、△sは、前記仮想変位の大きさ△msと、軸力成分Fにより生じる長さ方向Xの引張変位と、の和である。なお、軸力成分Fは、長さ方向Xの内力F(x)のx=0における力を意味する。
それぞれの正負を考慮して、△sは(118)式で表せる。
【0114】
【0115】
なお、前記接合部47aにおける床スラブ35の軸剛性(EsAs)jは、接合部47a領域における、床スラブ35の軸剛性である。
(118)式を(117)式に代入してxnsについて解くと、(119)式が導出される。ただし、(119a)式のように表記している。
【0116】
【0117】
次に、床スラブ35と鉄骨梁25との界面50の接合部47a(x=0)の位置における、鉄骨梁25の断面の変位の大きさを、△
bと規定する。同じ位置において、鉄骨梁25が同一回転角の回転変形のみを受けている状態を想定した時の仮想変位の大きさを、△
mbと規定する。x=0における鉄骨梁25の断面の変位の中立軸から界面50までの距離を、x
nbと規定する。鉄骨梁25の断面の高さ(鉄骨梁25のせい)の1/2を、c
bと規定する。
接合部47aの鉄骨部分を構成するガセットプレート21や締結部材31が、鉄骨梁25の断面の高さ中心に対して上下に非対称に配置されている場合は、接合部47aの鉄骨部分の偏心を考慮した重心から界面50までの距離を、接合部47aにおけるc
bと規定する。
このとき、
図9に示す幾何学的関係から、(122)式が成り立つ。
【0118】
【0119】
さらに、△bは、x=0において鉄骨梁25に作用する回転変形により生じる引張変位△mbと、軸力成分Fにより生じる長さ方向Xの圧縮変位と、の和である。それぞれの正負を考慮して、△bは(123)式で表せる。
【0120】
【0121】
ここで、前記軸剛性(EbAb)jは、接合部47a領域における鉄骨部分の軸剛性を表す。(123)式を(122)式に代入してxnbについて解くと、(124)式が導出される。
【0122】
【0123】
以上から、(113)式に(119)式及び(124)式を代入して、(111)式を用いてFを消去すると、(125)式が得られる。
【0124】
【0125】
ただし、
図9に示すように、(67a)式を満たす。また、接合部47aにおける床スラブ35の軸剛性と鉄骨部分の軸剛性は、(126)式で定義する等価な軸剛性に集約した。
【0126】
【0127】
さらに、(112)式と(125)式が等しいことから、等式を立ててC1について解くと、C1が(127)式の通り定まる。
【0128】
【0129】
また、(φj=Mj/Sj)及び(Mj=PL)の関係を用いて、C1は(128)式及び(129)式でも表せる。ただし、φjは接合部47aの回転角であり、Mjは接合部47aの曲げモーメント(接合部モーメント)であり、Sjは接合部47aの回転剛性である。
【0130】
【0131】
さらに、(101)式、(102)式は、F(x)及びずれ変位γ(x)をPLで除した、(130)式、(131)式でも表すことができる。
【0132】
【0133】
〔2.3.2.接合部の回転剛性〕
図8に示す接合部47aの外力を用いると、接合部モーメントM
jは、(134)式で表せる。
【0134】
【0135】
ここで、κjは、接合部47aを構成する要素(床スラブ35、鉄骨梁25、ガセットプレート21)の接合部47a領域における曲率である。接合部47a領域において、曲率κjが一定であると仮定すると、曲率κjは、接合部47aの回転角φjと(135)式で関係付けられる。
【0136】
【0137】
(134)式に(111)式と(135)式を代入し、(Mj=PL)の関係式を用いると、(136)式が導出される。
【0138】
【0139】
ただし、接合部47aにおける床スラブ35の曲げ剛性EsIs及び鉄骨梁25とガセットプレート21の曲げ剛性EbIbは、(137)式に示す通り等価な曲げ剛性に集約した。
【0140】
【0141】
(136)式に(129)式を代入し、(Mj=PL)の関係式を用いると、(138)式が導出される。
【0142】
【0143】
(138)式の両辺に(Sj/Mj)をかけると、(139)式が導出される。
【0144】
【0145】
(139)式を回転剛性Sjについて解くと、(140)式から(142)式が導出される。
【0146】
【0147】
さらに、接合部47aの各要素の剛性を表す項を記号にまとめると、(145)式のように簡潔に表せる。
【0148】
【0149】
ここで、各記号は、(146)式から(155)式のように規定される。
【0150】
【0151】
さらに、(84)式と(155)式から、(156)式が導出される。
【0152】
【0153】
従って、回転剛性Sjについての(157)式が導出される。
【0154】
【0155】
〔2.4.回転剛性の評価方法のまとめ〕
以上のように、本実施形態の回転剛性の評価方法では、接合部47aにおける床スラブ35の曲げ剛性及び軸剛性、鉄骨梁25及び仕口部材33の曲げ剛性及び軸剛性、シアコネクタ45のせん断剛性を用いて、接合部47aの回転剛性Sjを評価する(算出する)。
より詳しく説明すると、本回転剛性の評価方法では、(67a)式、(126)式、(137)式、(146)式から(151)式、(153)式から(155)式、及び(157)式を用いて、回転剛性Sjを評価する。
【0156】
〔3.回転剛性の評価方法の応用〕
〔3.1.回転剛性の評価方法を用いた合成梁端部の設計方法〕
本実施形態の回転剛性の評価方法を用いて、合成梁47の端部を設計する合成梁端部の設計方法を行うことができる。
この合成梁端部の設計方法では、いわゆる使用限界状態及び終局限界状態の概念を用いる。使用限界状態は、合成梁47を用いて建築物1を施工した際に、合成梁47の両端部が、この建築物1の使用性又は居住性に支障をきたすようになる状態である。一方、終局限界状態は、合成梁47を用いて建築物1を施工した際に、この建築物1の安全性に支障をきたすようになる状態である。
【0157】
本回転剛性の評価方法では、使用限界状態を考慮したときに、回転剛性の評価方法を用いて評価した回転剛性Sj、及び鉛直荷重に応じて接合部47aに作用する作用モーメントが、接合部47aのモーメント耐力を下回るように、回転剛性Sj及びモーメント耐力を調整する。
なお、作用モーメントは、例えば、特開2021-82152号公報(連続梁の評価方法及び連続梁の評価プログラム)に開示された(70)式を変形させた、(161)式において、x=0,Lとした値になる。
【0158】
【0159】
ここで、Lは、一対の接合部47a間の距離(m)である。wは、鉛直荷重である。M
jlは、合成梁47のx=0となる端部に作用する曲げモーメントの絶対値である。M
jrは、合成梁47のx=Lとなる端部に作用する曲げモーメントの絶対値である。
M
jl及びM
jrは、特開2021-82152号公報の例えば請求項4や
図4に示すS
jl及びS
jrに、本回転剛性の評価方法で求めた回転剛性を代入し、収斂計算を行うことで、得られる。
【0160】
一方、本回転剛性の評価方法では、回転剛性の評価方法を用いて評価した回転剛性Sj、及び鉛直荷重に応じて接合部47aに作用する作用モーメントの絶対値Mj,Edが、接合部47aのモーメント耐力Mj,Rd以上となるときを対象とし、終局限界状態を考慮した安全性の検証を行う。このとき、合成梁47の正曲げ(下に凸の曲げ)された部分のモーメント耐力Mbs,Rdが、(164)式を満たすように設定する。
【0161】
【0162】
ただし、合成梁47において、それぞれの接合部47aがピン接合であると仮定した基準合成梁を規定する。この基準合成梁に対して、基準合成梁の正曲げされた部分に作用する最大モーメントの絶対値を、Mbs,pin(kNm)と規定する。
一般的に、長さ方向の両端部が剛接合又は半剛接合され、鉛直荷重を受ける合成梁(鉄骨梁)では、長さ方向の中央部が正曲げされ、長さ方向の両端部が負曲げ(上に凸の曲げ)される。
例えば、鉛直荷重が等分布荷重wであり、合成梁47(鉄骨梁)の長さがlの場合には、最大モーメントの絶対値Mbs,pinは、(wl2/8)の式となる。
【0163】
ここで、(164)式は、以下のように導かれる。
まず、接合部の回転剛性に依らず、梁に作用する負曲げモーメントの大きさ(作用モーメントの絶対値)Mj,Edと、正曲げモーメントの大きさMbs,Edの総和は、ピン接合の梁に作用する正曲げモーメントの大きさ(最大モーメントの絶対値)Mbs,pinに一致し、(167)式を満たす。
【0164】
【0165】
次に、接合部の回転剛性が0より大きくなると、回転剛性を大きくするほど、接合部に作用する負曲げモーメントの大きさが大きくなる。ところが、接合部は接合部のモーメント(接合部)耐力Mj,Rdよりも大きいモーメントを負担することができないので、作用モーメントが接合部のモーメント耐力Mj,Rdに到達してからは、回転剛性を大きくしても接合部作用モーメントは増加しない。
一方、回転剛性を一定値にして、梁に作用する荷重を増加させていくと、接合部の回転剛性に応じた比率で、接合部の負曲げモーメントと梁の正曲げモーメントが増加する。
ところが、接合部の負曲げモーメントの大きさMj,Edが接合部のモーメント耐力Mj,Rdに到達(Mj,Ed=Mj,Rd)して以降は、接合部の作用モーメントは増加せず、梁の正曲げモーメントのみが増加する。接合部のモーメントが耐力に到達してようがいまいが、先に述べた通り梁に作用する負曲げモーメントの大きさMj,Edと正曲げモーメントの大きさMbs,Edの総和は、ピン接合の梁に作用する正曲げモーメントの大きさMbs,pinに一致する。従って、梁の正曲げモーメントの大きさMbs,Edは、(168)式を満たす。
【0166】
【0167】
梁の正曲げモーメントの大きさMbs,Edが梁の接合部のモーメント耐力Mj,Rdに達しない限り、梁は崩落しないため、(169)式のように梁が終局限界状態に達しないための条件式が得られる。
【0168】
【0169】
(169)式を変形すれば、(164)式が得られる。
【0170】
〔3.2.回転剛性の評価方法を利用した合成梁端部の接合構造〕
本実施形態の回転剛性の評価方法を利用して、合成梁端部の接合構造48を構成することができる。
本合成梁端部の接合構造48では、使用限界状態を考慮したときに、回転剛性の評価方法を用いて評価した回転剛性Sj、及び鉛直荷重に応じて接合部47aに作用する作用モーメントが、接合部47aのモーメント耐力を下回るように、回転剛性Sj及びモーメント耐力が調整されている。
より具体的には、合成梁端部の接合構造48では、モーメント耐力Mj,Rd(kNm)、及び作用モーメントの絶対値Mj,Ed(kNm)が、(126)式、(152)式、(175)式、及び(176)式を満たすように構成されている。
【0171】
【0172】
ただし、σryは、鉄筋38の降伏応力度(kN/m2)である。Ar,effは、床スラブ35の有効幅内における鉄筋38の全断面積(m2)である。ここで言う鉄筋38の全断面積とは、例えば、鉄骨梁25の長さ方向Xに直交する断面における鉄筋38の断面積のことを意味する。
xhは、接合部47aから合成梁47に作用する曲げモーメントが0になる位置までの長さ方向Xの長さ(m)である。この曲げモーメントが0になる位置は、合成梁47の長さ方向Xの端(X=0またはX=L)から始まる、合成梁47が負曲げを受ける領域の終点である。
なお、モーメント耐力Mj,Rdは、複数の鉄筋38が一度に降伏するという仮定に基づいて求めている。
【0173】
一方で、本合成梁端部の接合構造48では、終局限界状態を考慮したときに、回転剛性の評価方法を用いて評価した回転剛性Sj、及び鉛直荷重に応じて接合部47aに作用する作用モーメントの絶対値Mj,Edが、接合部47aのモーメント耐力Mj,Rd以上となる場合に、合成梁47の正曲げされた部分のモーメント耐力Mbs,Rdが、(164)式を満たすように構成されている。
【0174】
ここで、(176)式は、以下のように導かれる。
(91)式において、Mj=PLであることを考慮し、片持梁におけるLを、両端支持梁における梁の接合部を含む負曲げ領域の長さxhに置き換えることで、両端支持梁にも適用できるものとすると、(180)式が得られる。
【0175】
【0176】
ここで、接合部における床スラブと鉄骨梁の界面のせん断力が、せん断耐力FRdと等しくなる時を接合部耐力Mj,Rdと定義すると、せん断耐力FRdは床スラブ35内の鉄筋の降伏耐力、または梁の接合部を含む負曲げ領域のシアコネクタ45のせん断耐力PRdの総和のいずれか小さい方で決まると考え、(181)式が得られる。
【0177】
【0178】
ここで、PRdは“日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説(2010)第2版”、“Eurocode 4: Design of composite steel and concrete structures - Part 1-1: General rules and rules for buildings” , December 2004, Authority: The European Union Per Regulation 305/2011, Directive 98/34/EC, Directive 2004/18/EC”等によって求めることができる。nは、1つの負曲げ領域xh内(0≦x≦xh)に配置されたシアコネクタ45の総数である。
【0179】
(128)式、(181)式を(180)式に代入すると、この時のMjが接合部耐力Mj,Rdであるので、(182)式が得られる。
【0180】
【0181】
(182)式を接合部耐力Mj,Rdについて解くと、(176)式が得られる。
【0182】
〔4.回転剛性の評価結果〕
〔4.1.従来の回転剛性の実験結果〕
以下では、まず、従来の回転剛性の実験結果の概要について説明する。
前記非特許文献1から3では、
図10に示すように、鉄骨製の大梁・小梁、及び合成スラブを備える試験体を用意した。試験体は、スパン8.4m、梁間隔2.8mの床組から抜き出した実大のものである。小梁の長さは、小梁の両端固定時に負曲げを受ける領域として設定した。
表1に試験体の仕様を示し、
図11に試験体の形状及び寸法を示す。
【0183】
【0184】
大梁・小梁は溶接組立H形鋼とし、シアースタッド(シアコネクタ)により床スラブと結合される。シアースタッドはφ19とし、200mm間隔で1列に配列されている。
このように構成された試験体を、載荷装置に取付けた。試験体は、大梁中心から1500mm離れた位置にある、載荷装置の載荷フレーム間にセットした。大梁下に配置された油圧ジャッキで試験体を持ち上げることで、鉛直荷重を受ける合成小梁の負曲げ領域を実験的に再現した。
実験結果を、
図12において、線L6で示す。
図12において、横軸は接合部の回転角φ
j(rad)を表し、縦軸は接合部モーメントM
j(kNm)を表す。なお、試験体の接合部の除荷剛性を確認するため、繰返し載荷を行った。このため、実質の実験結果は、線L6のうち、除荷された部分を除いた上側の部分である。
【0185】
〔4.2.実施例の回転剛性の評価方法による評価結果〕
前述のように、前記接合部47aのモーメント耐力M
j,Rdは、複数の鉄筋38が一度に降伏するという仮定に基づいて求めている。しかし、実際には、複数の鉄筋38のうち、接合部47aの中心に近い鉄筋38から順に降伏していき、最終的に全ての鉄筋38が降伏すると考えられる。また、モーメント耐力M
j,Rdは鉄筋38の降伏応力度σ
ryに比例するとして、モーメント耐力M
j,Rdを求めている。このため、弾性限(弾性限度)を、工学的に(2M
j,Rd/3)とした(
図12参照)。
また、合成梁47が弾性変形を超える変形をする鉛直荷重が、合成梁47に作用する場合には、鉄筋38が降伏して、実施例の回転剛性の評価方法により求められる回転剛性S
jでは成り立たなくなる。このため、この場合には、回転剛性S
jを(1/10)倍して用いている。
【0186】
なお、
図12中における直線L7は、原点を通り、傾きが、実施例の回転剛性の評価方法により得られた回転剛性S
jの線である。
実施例の回転剛性の評価方法により求めたモーメント耐力M
j,Rdを、線L8で示す。回転剛性S
j及びモーメント耐力M
j,Rdで表現されるトリリニアモデルは、線L6で示される実験結果を、概ね安全側に精度良く再現できていることが分かった。
【0187】
さらに、実施例の回転剛性の評価方法により求められた回転剛性S
jを用いて、両端が同じ回転剛性S
jを有する半剛接合で支持された8.4mスパンの合成梁のたわみと曲げモーメント分布を計算した。そして、それぞれの接合部47aがピン接合として設計した場合とのたわみの低減率を比較した。
ここで、それぞれの接合部47aがピン接合で支持された合成梁47の中央におけるたわみの計算値を、δ
b,pinと規定する。それぞれの接合部47aが半剛接合で支持された合成梁47のたわみを、ピン接合におけるたわみδ
b,pinで除した無次元化たわみを、
図13に示す。
【0188】
図13において、横軸は無次元化座標(x/L)を表し、縦軸は無次元化たわみを表す。実線による線L11は、〔4.1.〕の実験結果に対する無次元化たわみを表す。点線による線L12は、本回転剛性の評価方法により求められた無次元化たわみを表す。一点鎖線による線L13は、それぞれの接合部47aがピン接合で支持された合成梁47の中央におけるたわみを、たわみδ
b,pinで除した無次元化たわみを表す。
線L11,L12で示す無次元化たわみの最大値は、線L13で示すピン接合の無次元化たわみの最大値に比べて、40%程度に低減されることが分かった。
【0189】
ここで、それぞれの接合部47aがピン接合で支持された合成梁47の中央における曲げモーメントの計算値を、M
b,pinと規定する。それぞれの接合部47aが半剛接合で支持された合成梁47のモーメント分布の計算値を、ピン接合における曲げモーメントM
b,pinで除した無次元化曲げモーメントを、
図14に示す。
図14において、横軸は無次元化座標(x/L)を表し、縦軸は無次元化曲げモーメントを表す。実線による線L16は、〔4.1.〕の実験結果に対する無次元化曲げモーメントを表す。点線による線L17は、本回転剛性の評価方法により求められた無次元化曲げモーメントを表す。一点鎖線による線L18は、それぞれの接合部47aがピン接合で支持された合成梁47の曲げモーメントを、曲げモーメントM
b,pinで除した無次元化曲げモーメントを表す。
【0190】
線L16,L17で示す無次元化曲げモーメントの最大値は、線L18で示すピン接合の無次元化曲げモーメントの最大値に比べて54%程度に低減されることが分かった。そして、低減される分の曲げモーメント(ピン接合の無次元化曲げモーメントにおける最大値の46%程度)が、合成梁47の端部の接合部47aに作用することが分かった。
接合部47aに作用するモーメントが、接合部47aの弾性限である(2Mj,Rd/3)に相当するときの設計荷重は、21.6kN/m程度である。例えば鉄骨梁25のピッチである支配幅を2.8mとすると、支配幅当たりの設計荷重は、790kg/m2程度である。この設計荷重は、一般的な事務所や住宅等の居室の設計荷重(日本建築学会 建築物荷重指針・同解説(2015)第5版 等による)に対して、十分な余裕がある。
以上から、半剛接合の概念を用いた本実施形態の回転剛性の評価方法、合成梁端部の設計方法、及び合成梁端部の接合構造48を用いると、従来のピン接合に対し、合成梁47のたわみを半分程度に低減することができ、経済的な設計が可能となる。
【0191】
〔5.回転剛性の評価方法等の効果〕
以上説明したように、本実施形態の回転剛性の評価方法では、シアコネクタ45を介して互いに接合された鉄骨梁25及び床スラブ35を備える合成梁47の、大梁15との接合部47aにおいて、その接合部47aの回転剛性Sjを評価する。その際に、発明者等は鋭意検討の結果、以下のことを見出した。すなわち、接合部47aにおける床スラブ35の曲げ剛性及び軸剛性、鉄骨梁25及び仕口部材33の曲げ剛性及び軸剛性、及びシアコネクタ45のせん断剛性を用いて、接合部47aの回転剛性Sjを精緻に評価できる。
従って、これらの曲げ剛性、軸剛性、及びせん断剛性を用いて、接合部47aの回転剛性Sjを精緻に評価することができる。
【0192】
また、回転剛性の評価方法において、シアコネクタ45を複数備え、(67a)式、(126)式、(137)式、(146)式から(151)式、(153)式から(155)式、及び(157)式を用いて、回転剛性Sjを評価する。このため、これらの式を用いて、接合部47aの回転剛性Sjを、より精緻に評価することができる。
【0193】
また、本実施形態の回転剛性の評価方法では、合成梁47を用いて建築物1を施工した際に、接合部47aに作用する作用モーメントが接合部47aのモーメント耐力を下回る場合がある。この場合には、合成梁47の両端部が、この建築物1の使用性又は居住性に関わる、使用限界状態には達することがなく、使用性及び居住性が保たれる。
【0194】
また、本実施形態の回転剛性の評価方法では、作用モーメントの絶対値Mj,Edが接合部47aのモーメント耐力Mj,Rd以上となる場合に、合成梁47の正曲げされた部分のモーメント耐力bs,Rdが(164)式を満たすように設定する場合がある。この場合には、合成梁47を用いて建築物1を施工した際に、合成梁47の両端部が、この建築物の使用性又は居住性に支障をきたす使用限界状態になるが、安全性に関する終局限界状態には達することがなく、梁は崩落せず安全性が保たれる。
【0195】
また、本実施形態の合成梁端部の接合構造48では、回転剛性の評価方法を用いて評価した回転剛性Sj、及び鉛直荷重に応じて接合部47aに作用する作用モーメントが、接合部47aのモーメント耐力を下回るように、回転剛性Sj及びモーメント耐力が調整されている場合がある。この場合には、合成梁端部の接合構造48を用いて建築物1を施工した際に、合成梁47の両端部が、この建築物1の使用性又は居住性に関わる、使用限界状態には達することがなく、使用性及び居住性が保たれる。
また、合成梁端部の接合構造48では、モーメント耐力Mj,Rd(kNm)、及び作用モーメントの絶対値Mj,Ed(kNm)が、(126)式、(152)式、(175)式、及び(176)式を満たすように構成されている場合がある。この場合には、床スラブ35がコンクリート37及び鉄筋38を有する場合に、建築物1に用いられている合成梁端部の接合構造48を、(152)式、(175)式、及び(176)式を用いて精緻に評価することができる。
【0196】
また、本実施形態の合成梁端部の接合構造48では、接合部47aに作用する作用モーメントの絶対値Mj,Edが接合部47aのモーメント耐力Mj,Rd以上となる場合に、合成梁47の正曲げ部分のモーメント耐力Mbs,Rdが(164)式を満たすように構成されている場合がある。この場合には、合成梁47の両端部が、この建築物1の使用性又は居住性に支障をきたす、使用限界状態になるが、安全性に関する終局限界状態には達することがなく、梁は崩落せず安全性が保たれる。
【0197】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態の回転剛性の評価方法では、(67a)式、(126)式、(137)式、(146)式から(151)式、(153)式から(155)式、及び(157)式を用いずに、回転剛性Sjを評価してもよい。
合成梁端部の接合構造48では、モーメント耐力Mj,Rd(kNm)、及び作用モーメントの絶対値Mj,Ed(kNm)が、(152)式、(175)式、及び(176)式を満たさないように構成されていてもよい。
【0198】
床スラブ35は、鉄筋38を有さなくてもよい。合成梁47が備えるシアコネクタ45の数は1つでもよい。
鉄骨梁が小梁であり、支持部材が大梁15であるとした。しかし、鉄骨梁が大梁であり、支持部材が柱であるとしてもよい。
【符号の説明】
【0199】
15 大梁(支持部材)
25 鉄骨梁
33 仕口部材
35 床スラブ(スラブ)
37 コンクリート
38 鉄筋
45 シアコネクタ
47 合成梁
47a 接合部
48 合成梁端部の接合構造
50 界面
X 長さ方向