(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007032
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】油槽付き加工治具、及びこれを用いた油槽加工方式
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20230111BHJP
B23Q 3/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B23Q11/10 A
B23Q3/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109988
(22)【出願日】2021-07-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】593217591
【氏名又は名称】昭和金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】古賀 清司
(72)【発明者】
【氏名】辻内 浩治
【テーマコード(参考)】
3C011
3C016
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C016BA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】既存の機械加工装置に高価な機構を追加することなく、深い縦孔の内部に切削油を十分に供給可能な治具、及び加工方式を提供する。
【解決手段】本発明の油槽付き加工治具100は、加工ワークBを切削油Cに浸漬しながら上下方向に延びる縦孔B1,B2を設けるために用いられ、加工ワークBを機械加工装置のテーブルAに固定する固定治具1と、固定治具1、及び加工ワークBを収容する油槽2とを備えている。固定治具1は、加工ワークBを上方から押さえる押さえ板3と、加工ワークBを載置して加工ワークBを下側から支持するとともに、油槽2の底板21に固定される土台部4と、上下から押さえ板3と土台部4で加工ワークBを挟持すべく押さえ板3と土台部4とを螺結する複数のボルト5・ナット6とを有し、押さえ板3は、縦孔B1,B2の上部開口B3,B4を上方へ開放する加工用開口部31を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、
加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、
上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽と
を備え、
前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、
前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有することを特徴とする油槽付き加工治具。
【請求項2】
前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔であり、
前記土台部は、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有している請求項1に記載の油槽付き加工治具。
【請求項3】
前記押さえ板は、加工用開口部の周縁が無端環状に設けられるとともに全周に渡り前記加工ワークと密着している請求項1に記載の油槽付き加工治具。
【請求項4】
前記油槽は、底板と、前記底板に着脱自在に載置、又は前記底板の周縁に着脱自在に嵌合される筒状の側壁とを有する請求項1に記載の油槽付き加工治具。
【請求項5】
前記側壁は、前記側方開口部と対向する切粉排出用の開閉口を備える請求項2に記載の油槽付き加工治具。
【請求項6】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項1に記載の油槽付き加工治具を用い、
クーラントホースから前記縦孔の上部開口へ切削油を流入させるとともに、当該クーラントホースから噴出した切削油を前記油槽に貯留して加工ワークを浸漬する油槽加工方式。
【請求項7】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項2に記載の油槽付き加工治具を用い、
クーラントホースから前記貫通孔の上部開口へ切削油を流入させ、これを当該貫通孔の下部開口、前記内室、及び側方開口部を介して前記油槽内へ流出させることを特徴とする油槽加工方式。
【請求項8】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項4に記載の油槽付き加工治具を用い、
前記油槽の上方から切削油を溢れさせながら、及び/又は前記油槽の側壁と前記底板の間から切削油を流出させながら前記縦孔の加工を行う油槽加工方式。
【請求項9】
前記縦孔が上部開口の位置まで切削油で浸漬される前に、前記縦孔の加工を開始する請求項6に記載の油槽加工方式。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークを浸漬して機械加工を行う技術に関し、特に孔径に比べて深さの大きい縦孔の加工に使用する油槽付き加工治具、及びこれを用いた油槽加工方式に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マシニングセンター等の機械加工装置で加工を行う場合、ドリル等の工具に対し側方から切削油を噴射する。深い孔加工をする際には、工具の側方から切削油を噴射したのでは、加工中の孔の内部に切削油が届かないため、工具内部を貫通する貫通孔を介して工具先端から切削油を噴出するようにしたいわゆるセンタースルー方式や、工具を保持する工具ホルダーを軸方向に貫通する貫通孔を通して工具周面に沿って切削油を供給するサイドスルー方式が用いられている。
【0003】
ところが、センタースルー方式やサイドスルー方式を行うためには、加工装置自体に工具や工具ホルダーへ切削油を供給する機構を設ける必要があり、過大なコストがかかるという問題が有る。
【0004】
そこで、本発明者は、加工装置のテーブル上に油槽を設け、これに加工ワークと工具とを浸漬した状態で孔加工を行うことに想到する。
【0005】
このように加工ワークを油槽に浸漬する技術は、従来公知のものであり、例えば特許文献1では、プラネタリキャリアの上下に並んだ2つのピニオンシャフト穴を油層に浸漬した状態でリーマ加工する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の加工装置では、油槽側壁のクーラント供給口にクーラントを供給する機構を設ける必要があるため、やはり過大なコストがかかるという問題が有る。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、過大なコストを必要とせずに、深い縦孔の内部に切削油を供給可能な油槽付き加工治具、及び油槽加工方式の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽とを備え、前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の油槽付き加工治具は、このように固定治具と加工ワークを上方に開口する油槽に収容し、加工する縦孔の上部開口を加工用開口部により上方へ開放したので、機械加工装置に備え付けのクーラントホースにより加工用開口部を介して加工中の縦孔の上部開口へ切削油を噴射でき、この工具に噴射した切削油をそのまま油槽に貯留して固定治具と加工ワークを切削油に浸漬できる。つまり、油槽に切削油を供給する追加の機構を必要とせずに、加工ワーク等を切削油で浸漬できる。
【0010】
前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔である場合には、前記土台部は、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有していることが好ましい。こうすることで、貫通孔の上部開口から流入した切削油を、貫通孔の下部開口、土台部の内室、及び側方開口部を介して油槽へ流すことができるので、貫通孔内の切粉を効率よく排出することができる。
【0011】
前記押さえ板は、加工用開口部の周縁が無端環状に設けられるとともに全周に渡り前記加工ワークと密着していることが好ましい。こうすることで、押さえ板の加工用開口部に切削油を蓄えて、加工中の縦孔に流し込むことができる。
【0012】
前記油槽は、底板と、前記底板に着脱自在に載置、又は前記底板の周縁に着脱自在に嵌合される筒状の側壁とを有することが好ましい。このように、側壁を底板に対し着脱自在に設けたので、孔加工の終了後、側壁を持ち上げるだけで切削油を一気に流すことができ、また、切削油を流したあと、底板上に溜まった切粉の掃除を容易に行うことができる。
【0013】
前記側壁は、前記側方開口部と対向する切粉排出用の開閉口を備えることが好ましい。このように、側方開口部と対向する位置に設けた開閉口から油槽の切削油を排出することで、ワークの貫通孔内の切削油を勢いよく排出できるため、貫通孔内の切粉をより効果的に排出することができる。
【0014】
本発明は、機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、請求項1に記載の油槽付き加工治具を用い、クーラントホースから前記縦孔の上部開口へ切削油を流入させるとともに、当該クーラントホースから噴出した切削油を前記油槽に貯留して加工ワークを浸漬する油槽加工方式を含む。このように、クーラントホースから噴出された切削油を油槽に貯留することで、油槽の切削油供給口を省略できる。
【0015】
本発明の油槽加工方式において、前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔である場合には、前記土台部が、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有している油槽付き加工治具を用い、クーラントホースから前記貫通孔の上部開口へ切削油を流入させ、これを当該貫通孔の下部開口、前記内室、及び側方開口部を介して前記油槽内へ流出させるようにするとよい。こうすることで、貫通孔内の切粉を効率よく排出することができる。
【0016】
本発明の油槽加工方式は、前記油槽が、底板と、前記底板に着脱自在に載置、又は前記底板の周縁に着脱自在に嵌合される筒状の側壁とを有する場合には、前記油槽の上方から切削油を溢れさせながら、及び/又は前記油槽と前記底板の間から切削油を流出させながら前記貫通孔の加工を行うことが好ましい。こうすることで、油槽から切削油を排出する排出口を省略でき、また、フィルターを設けることなく油槽内に切粉を捕獲しながら、余剰の切削油を油槽外に排出できる。
【0017】
本発明の油槽加工方式は、前記貫通孔が上部開口の位置まで切削油で浸漬される前に、前記貫通孔の加工を開始することが好ましい。貫通孔の加工途中において、孔の深さが浅いうちは、クーラントホースから噴射される切削油だけで十分に加工が行える。油槽が貫通孔の上部開口まで浸漬されるまでに貫通孔の加工を開始しておくことで、加工時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の油槽付き加工治具、及び油槽加工方式によれば、既存の機械加工装置に、切削油を供給するための高価な機構を追加することなく、加工ワークを油槽に浸漬して加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一の実施形態に係る油槽付き加工治具の平面図である。
【
図2】
図1におけるX-X線断面図を用いて、本発明の一の実施形態に係る油槽加工方式を示した説明図である。
【
図4】本発明の一の実施形態に係る加工ワークの正面図である。
【
図8】本発明に係る油槽加工方式において、最初の貫通孔が貫通するまでの様子を側面視断面で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を用いながら本発明の実施形態について詳述する。
図1、及び
図2は、本発明の一の実施形態に係る油槽付き加工治具100を示している。油槽付き加工治具100は、
図4、
図5に示した加工ワークBをマシニングセンター等の機械加工装置で切削加工する際に、当該機械加工装置の加工テーブルAに付設して用いられる。
【0021】
加工ワークBは、上下方向の縦孔を一又は複数個加工により設けるものであれば、特に形状、材質ともに限定されないが、本実施形態では、
図5に示す加工ワークBを加工するものとして以下の説明を行う。加工ワークBは、平面視で角丸の正方形をなし、上下面が平行な平面に形成され、平面視における中央に大径の貫通孔(縦孔)B1が設けられ、4隅に4つの雌螺子孔からなる貫通孔(縦孔)B2,B2,…が設けられる。
【0022】
油槽付き加工治具100は、
図2に示すように、加工ワークBを機械加工装置の加工テーブルAに固定する固定治具1と、上方に開口し、固定治具1、及び加工ワークBを収容する油槽2とを、主に備えている。
【0023】
固定治具1は、加工ワークBを上方から押さえる押さえ板3と、加工ワークBを載置して加工ワークBを下側から支持する土台部4と、押さえ板3と土台部4とを螺結する複数組(図示の例では2組)のボルト5、及びナット6とを有している。
【0024】
押さえ板3は、鉄鋼、ステンレス鋼等の金属材料から機械加工して形成され、
図2、
図6に示すように、4隅を斜めに切り落とした正方形の板状をなし、中央に略正方形の加工用開口部31が設けられて無端環状に形成されている。押さえ板3には、加工用開口部31を挟んで斜めに対向するよう端縁から切れ込む一対のボルト挿入用スリット32,32が設けられている。
【0025】
加工用開口部31は、
図6に示すように、略正方形状をなし、各辺の中央に曲率の大きい円弧からなる大円弧部31a,31a,…を有し、4隅に、曲率が小さく半円より大きい円弧からなる小円弧部31b,31b,…を有している。大円弧部31aは、貫通孔B1の上部開口B3に沿って設けられ、小円弧部31bは、貫通孔B2の上部開口B4に沿って設けられており、加工用開口部31が、貫通孔B1,B2の上部開口B3,B4を全開放するよう構成されている。また、加工用開口部31を、このように貫通孔B1,B2の上部開口B3,B4に沿って設けることで、加工ワークB全体に満遍なく押さえ板3による締め付け力を加えることができよう構成されている。また、押さえ板3は、全周に亘って、加工ワークBの上面に密着するよう構成されている。
【0026】
土台部4は、
図2、
図7に示すように、鉄鋼やステンレス鋼等の金属製の棒材から、平面視で無端環状をなす円筒状に形成され、油槽2の底板21に溶接やボルト等により固定されている。図示の例では、土台部4は、別途形成した土台上部43と土台下部44をボルトと溶接により連結して形成している。これは、高さ寸法が大きく、一体加工が困難なためであるが、全体を一体に加工してもよい。
【0027】
土台部4は、上下方向に貫通する内室41と、内室41に連通し、側方に開口する一対の側方開口部42,42と、内室41の周方向に等間隔に配設される水平断面が略半円状の4つの凹部41a,41a,…を有している。内室41は、貫通孔B1の下部開口B5に対向し、凹部41aは、貫通孔B2の下部開口B6に対向している。凹部41aは、上端が土台部4の上面に開口する一方で、下端は、土台部4の下端に達していないため、貫通孔B2は、凹部41aを介して内室41に連通する。一対の側方開口部42,42は、内室41の下端部から、土台部4の正面側(
図1の下側)と背面側(
図1の上側)に開口する。
【0028】
土台部4の上面には、
図2に示すように、内室41を挟んで、斜めに対向するように、2本のスタッド式のボルト5,5が立設されている。ボルト5は、ボルト挿入用スリット32に挿入された状態でナット6に螺結され、押さえ板3と土台部4で加工ワークBを挟持する。
【0029】
油槽2は、底板21と側壁22とにより水平断面が正方形をなす扁平の有底角筒状に形成されている。底板21は、鋼板やステンレス鋼板等から正方形の板状に形成され、機械加工装置のテーブルにボルトで固定されている。側壁22は、アクリル等の硬質の透明樹脂からなる板材4枚を接着剤等により4隅で接合して筒状に形成されている。
油槽2(側壁22)の上方は、全面が開口しており、また側壁22の下端は、底板21の外周に緩く嵌合し、底板21に対し切削油Cが漏れ出る程度の非液密に設けられている。油槽2は、底板21に対し固定されておらず、着脱自在に設けられている。ただし、油槽2は、底板21の上面に載置するようにしてもよい。
【0030】
油槽2は、側壁22の正面側に土台部4の正面側の側方開口部42に対向する開閉口22aを備えている。開閉口22aは、加工ワークBの加工中、あるいは加工終了後に開放されて、土台部4の側方開口部42から油槽2内に流出した切粉を油槽2の外部へ排出する。
【0031】
(油槽加工方式)
次に、本実施形態に係る油槽付き加工治具100を用いて加工ワークBに上下方向の貫通孔B1,B2を加工する方法について詳述する。ただし、本発明の油槽加工方式は、これに限られるものではない。
【0032】
(加工ワーク設置工程)
加工ワークBに貫通孔B1、B2を加工する際には、加工ワークBを固定治具1に固定する。加工ワークB中央には、固定治具1に設置される前に、溶断とNC旋盤により、貫通孔B1の仕上げ寸法よりやや小径の下穴が設けられている。貫通孔(雌螺子孔)B2については、固定治具に設置する時点では下穴は設けられていない。
【0033】
固定治具1へ加工ワークBを取り付ける際には、油槽2の側壁22を底板21から取り外した状態で行う。加工ワークBを適宜に位置決めしながら土台部4に載置し、ボルト5をボルト挿入用スリット32に挿入するようにして、押さえ板3を加工ワークBの上に載せ、ナット6で加工ワークBを締め付ける。 加工ワークBを、固定治具1で固定したら底板21の周縁に側壁22を嵌合して油槽2を組み立てる。
【0034】
(貫通孔B2加工工程)
貫通孔(雌螺子孔)B2を加工する際には、まず、ドリルA1を用いて下穴加工を行う。4つの貫通孔B2の下穴のうち最初に加工する下穴は、油槽2に切削油Cを満たさない状態で開始し、ドリルA1と加工ワークBの当接部にはクーラントホースDにて切削油Cを噴射する。油槽2に切削油Cを満たさない状態で加工を開始することで、油槽2が切削油Cで満たされるまでの時間を加工に用いることができ、加工時間を短縮できる。ここで、押さえ板3が平面視で無端環状をなし、底面33が加工ワークBの上面B7に密着しているので、
図8に示すように、押さえ板3の加工用開口部31内にクーラントホースDから噴射された切削油Cが貯留され、これが貫通孔B2の加工中の下穴に流入するので、下穴が深くなっても高回転、高送り速度で加工を行うことができ、ドリルの摩耗、焼付きを抑制することができる。
【0035】
貫通孔B2の下穴加工が終了したら、開口周縁に面取り加工を行う。面取り加工は、下穴の上部開口付近の加工のため、従来のクーラントホースDにより切削油Cを噴射するのみの加工方法でも、特に問題がない工程である。
【0036】
この面取り加工終了後、タップを用いて雌螺子加工を行う。この際、貫通孔B2は、すでに加工ワークBの下面まで開口しているので、
図2に示すように、クーラントホースDから噴射された切削油Cは、貫通孔B2内部、下部開口B6、土台部4の凹部41a、内室41、及び側方開口部42を介して、油槽2内に排出され、これとともに、貫通孔B2内の切粉が油槽2内に排出される。
【0037】
(貫通孔B1仕上げ加工)
4つの貫通孔B2の加工を終了したら、貫通孔B1を仕上げ寸法に仕上げるボーリング加工を行う。貫通孔B1の仕上げ加工も、クーラントホースDからチップと加工ワークBの当接箇所に切削油Cを噴射しながら加工を行う。こうすることで、貫通孔B1の下部開口B5、内室41,側方開口部42を介して、貫通孔B1内の切削油Cとともに切粉を油槽内に排出できる。
【0038】
1つ目の貫通孔B2の下穴が貫通すると、加工用開口部31に貯留された切削油Cは、下に抜けてしまうので、1つ目の貫通孔B2の下穴の加工中に、加工ワークB全体が切削油C浸漬されるようにすることが好ましい。こうすることで、2つ目以降の下穴加工を初めから切削油Cに浸漬した状態で開始できる。
【0039】
次に、本発明に係る実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
加工ワークBの材質をSS400、厚みを52mmとし、貫通孔B1をφ114mm、貫通孔B2をM18-P1.5の雌螺子穴として、
図4、
図5に示した加工ワークBを加工した。貫通孔B1の下穴として、溶断とNC旋盤加工にてφ113.5mmの貫通孔を設けておいた。これをファナック株式会社製のマシニングセンター(ROBODRILL α-D14LiB5)を用い、表1に示した各工具をセットして、上述した実施形態のとおりに貫通孔B1、貫通孔B2の加工を行った。
押さえ板3、及び土台部4は、焼き入れしないS45C鋼材から加工し、油槽2の底板21は、SS400鋼板から形成した。
【0040】
(比較例1)
加工ワークBを、油槽付き工程治具100を用いずに、切削油Cで浸漬せず、クーラントホースDで切削油Cを工具に噴射するのみの従来の方法で貫通孔B1,B2の加工を行った以外は、加工ワークBの下加工を含め、実施例1と同様にして加工を行った。
【0041】
表1に、従来の切削油Cで加工ワークBを浸漬しない加工方式と本発明に係る油槽加工方式における工具の回転数と送り速度を比較して示す。
【表1】
【0042】
(貫通孔B2下穴ドリル加工についての比較)
加工ワークBを浸漬せず、クーラントホースDから噴射する切削油Cのみで加工を行う比較例1では、表1に示すように、ドリルの回転数を300回/分、ドリル1回転当たりの送り速度を0.08m/回にしなければ加工ができず、加工ワーク5個目で工具の摩耗と焼付きが見られた。
【0043】
これに対し、本実施形態の油槽付き加工治具100、及び本実施形態の油槽加工方式により加工を行なった実施例1では、ドリルの回転数を800回/分、送り速度を0.16m/分にして加工することができ、加工ワーク50個目でもドリルの摩耗、焼付きは見られなかった。また、加工時間を比較例1の約3分の1に短縮できた。
【0044】
(貫通孔B2面取り加工についての比較)
貫通孔B2の面取り加工については、貫通孔B2の上部開口B4付近の加工であり、クーラントホースDからの切削油Cが十分に加工箇所に生き渡るため、表1に示すように、実施例1と比較例1で差はなかった。
【0045】
(貫通孔B2のタップ加工についての比較)
従来方法の比較例1では、表1に示すように、タップの回転数を140回/分、タップ一回転当たりの送り速度を0.21m/回にしなければ加工ができず、それでも加工ワーク5個目で工具の摩耗と焼付きが見られた。
【0046】
これに対し、実施形態1では、タップの回転数を400回/分、送り速度を0.6m/分にして加工することができ、加工ワーク50個目でもドリルの摩耗、焼付きは見られなかった。また、加工時間を比較例1の約3分の1に短縮できた。
【0047】
(貫通孔B1のカッター加工についての比較)
貫通孔B1の仕上げ加工にあたり、表1に示すように、従来方法の比較例1では、カッターの回転数を400回/分、カッター1回転当たりの送り速度を0.07m/回にしなければ加工ができず、それでも径方向の寸法公差に0.05mmのばらつきが発生し、真円度に0.07mmのばらつきが発生した。また、加工ワーク3個目でチップに欠けが発生した。
【0048】
これに対し、実施形態1では、タップの回転数を800回/分、送り速度を0.1m/分にして加工することができ、寸法ばらつきはほとんど無く、加工ワーク50個目でもチップの欠けは見られなかった。また、加工時間を比較例1の約3分の1に短縮できた。
【0049】
以上、本発明の巻上げ式油槽付き加工治具は、上記の実施形態に限られるものではなく、例えば、土台部は、内室や側方開口部を備えなくともよい。押さえ板は、加工用開口部の周縁が有端環状であってもよく、全周に渡り前記加工ワークと密着していなくともよい。油槽は、側壁が底板に固定されていてもよい。油槽の側壁は、切粉排出用の開閉口を備えなくともよく、切粉排出用の開閉口を側方開口部と対向しない位置に設けてもよい。油槽の上方から切削油を溢れさせなくてもよいし、油槽と底板の間から切削油を流出させなくてもよい。貫通孔が上部開口の位置まで切削油で浸漬された後、貫通孔の加工を開始することもできる。押さえ板と土台部を連結するボルト・ナットを3組以上設けてもよい。縦孔は鉛直方向に延びるものに限らず、鉛直方向に傾斜していてもよい。
【符号の説明】
【0050】
100 油槽付き加工治具
1 固定治具
2 油槽
21 底板
22 側壁
22a 開閉口
3 押さえ板
31 加工用開口部
4 土台部
41 内室
42 側方開口部
5 ボルト
6 ナット
B 加工ワーク
B1,B2 貫通孔(縦孔)
B3,B4 上部開口
B5,B6 下部開口
C 切削油
D クーラントホース
【手続補正書】
【提出日】2021-11-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、
加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、
上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽と
を備え、
前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、
前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有し、
前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔であり、
前記土台部は、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有することを特徴とする油槽付き加工治具。
【請求項2】
前記押さえ板は、加工用開口部の周縁が無端環状に設けられるとともに全周に渡り前記加工ワークと密着している請求項1に記載の油槽付き加工治具。
【請求項3】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、
加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、
上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽と
を備え、
前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、
前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有し、
前記油槽は、底板と、前記底板に着脱自在に載置、又は前記底板の周縁に着脱自在に嵌合される筒状の側壁とを有する油槽付き加工治具。
【請求項4】
前記側壁は、前記側方開口部と対向する切粉排出用の開閉口を備える請求項1に記載の油槽付き加工治具。
【請求項5】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延
びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項1に記載の油槽付き加工治具を用い、
クーラントホースから前記縦孔の上部開口へ切削油を流入させるとともに、当該クーラ
ントホースから噴出した切削油を前記油槽に貯留して加工ワークを浸漬する油槽加工方式
。
【請求項6】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延
びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項1に記載の油槽付き加工治具を用い、
クーラントホースから前記貫通孔の上部開口へ切削油を流入させ、これを当該貫通孔の
下部開口、前記内室、及び側方開口部を介して前記油槽内へ流出させることを特徴とする
油槽加工方式。
【請求項7】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延
びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
請求項3に記載の油槽付き加工治具を用い、
前記油槽の上方から切削油を溢れさせながら、及び/又は前記油槽の側壁と前記底板
の間から切削油を流出させながら前記縦孔の加工を行う油槽加工方式。
【請求項8】
機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延
びる縦孔を設けるための油槽加工方式であって、
油槽付き加工治具を用いて行い、
前記油槽付き加工治具は、加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽とを備え、前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有し、
クーラントホースから前記縦孔の上部開口へ切削油を流入させるとともに、当該クーラントホースから噴出した切削油を前記油槽に貯留して加工ワークを浸漬し、前記縦孔が上部開口の位置まで切削油で浸漬される前に、前記縦孔の加工を開始する油槽加工方式。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽とを備え、前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有し、前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔であり、前記土台部は、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、前記縦孔が加工ワークを上下方向に貫通する貫通孔であり、前記土台部が、前記貫通孔の下部開口に連通する内室と、前記内室に連通し側方に開口する側方開口部とを有することで、貫通孔の上部開口から流入した切削油を、貫通孔の下部開口、土台部の内室、及び側方開口部を介して油槽へ流すことができるので、貫通孔内の切粉を効率よく排出することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明は、機械加工装置を用い、加工ワークを切削油に浸漬しながら該加工ワークに上下方向に延びる縦孔を設けるための油槽付き加工治具であって、加工ワークを機械加工装置のテーブルに固定する固定治具と、上方に開口し、前記固定治具、及び加工ワークを収容する油槽とを備え、前記固定治具は、加工ワークを上方から押さえる押さえ板と、前記加工ワークを載置して前記加工ワークを下側から支持するとともに、前記油槽の底板に固定される土台部と、上下から前記押さえ板と前記土台部で前記加工ワークを挟持すべく前記押さえ板と前記土台部とを螺結する複数のボルト・ナットとを有し、前記押さえ板は、前記縦孔の上部開口を上方へ開放する加工用開口部を有し、前記油槽は、底板と、前記底板に着脱自在に載置、又は前記底板の周縁に着脱自在に嵌合される筒状の側壁とを有する油槽付き加工治具を含む。このように、側壁を底板に対し着脱自在に設けたので、孔加工の終了後、側壁を持ち上げるだけで切削油を一気に流すことができ、また、切削油を流したあと、底板上に溜まった切粉の掃除を容易に行うことができる。