(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070320
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】製紙用シームフェルト基布
(51)【国際特許分類】
D21F 7/08 20060101AFI20230512BHJP
D21F 7/10 20060101ALI20230512BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20230512BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230512BHJP
D03D 5/00 20060101ALI20230512BHJP
D03D 3/04 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D21F7/10
D03D11/00 Z
D03D1/00 Z
D03D5/00 Z
D03D3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182409
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】安野 正徳
(72)【発明者】
【氏名】上田 和貴
【テーマコード(参考)】
4L048
4L055
【Fターム(参考)】
4L048BA09
4L048BB05
4L048BD00
4L048BD10
4L048CA01
4L048CA15
4L048DA24
4L048DA39
4L055CE36
4L055CE37
4L055CE40
4L055CE71
4L055EA15
4L055EA16
4L055EA25
4L055FA13
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】経糸におけるループを形成するべく折り返された部分が地部から抜け難い製紙用シームフェルトを提供する。
【解決手段】製紙用シームフェルト基布2は、上緯糸8及び下緯糸9を含む緯糸6と、緯糸6が織り込まれた経糸7とを備える。また、製紙用シームフェルト基布2は、ループ4を含むループ部5と、経糸7が緯糸6に織り込まれた地部10とを備える。ループ4は、経糸7を折り返すことによって形成され、折り返された部分13は、地部10に織り込まれている。折り返された部分13は、合わせ目14よりも経方向の中央に配置された部分に比べて、クリンプの大きな組織を形成する。クリンプの大きな組織が、経糸7における折り返された部分13の抜けを抑制する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯方向に延在する上緯糸、及び前記上緯糸よりも走行面側に配置されて前記緯方向に延在する下緯糸を含む緯糸と、経方向に延在して前記緯糸が織り込まれた経糸とを備える製紙用シームフェルト基布であって、
前記緯糸が前記経糸を織り込む地部と、前記地部の前記経方向の両端部から突出するループ部とを備え、
前記ループ部は、前記経糸が折り返されることによって形成された複数のループを含み、
前記経方向の端部近傍にて前記ループによって連結される2つの経糸列を構成するように配置された1対の前記経糸において、1対の前記経糸の一方が折り返されて前記ループを形成し、前記一方の折り返された部分の先端側端部と1対の前記経糸の他方の端部とが、前記地部において前記緯方向から見て互いに重なり合うように又は突き合わさるように配置されることにより、合わせ目を形成し、
1対の前記経糸において、前記一方の前記折り返された部分の少なくとも一部が、前記合わせ目よりも前記経方向の中央に配置された部分に比べてクリンプの大きな組織を形成する、製紙用シームフェルト基布。
【請求項2】
前記地部が、前記ループ部の各々に隣接して配置された端部地部と、2つの前記端部地部の間に配置された主地部とを含み、
前記合わせ目は、前記主地部に形成され、
前記端部地部における前記経糸は、前記主地部における前記経糸に比べてクリンプの大きい組織を形成する、請求項1に記載の製紙用シームフェルト基布。
【請求項3】
前記端部地部における前記経方向の両端部に配置された緯糸間の長さが、5~7cmである、請求項2に記載の製紙用シームフェルト基布。
【請求項4】
前記地部にて、前記折り返された部分の内の前記合わせ目を除いた部分が、1対の前記経糸における他の部分に比べてクリンプの大きな組織を形成する、請求項1に記載の製紙用シームフェルト基布。
【請求項5】
前記緯糸は、前記経方向の1cm当たり13.8~17.7本で配置される、請求項1~4の何れか1項に記載の製紙用シームフェルト基布。
【請求項6】
前記合わせ目は、前記一方の前記折り返された部分の前記端部と、前記他方の前記端部とが、前記緯方向から見て5~13本の前記緯糸の分だけ重なり合うことによって形成されている、請求項1~5の何れか1項に記載のシームフェルト基布。
【請求項7】
前記経方向の各々の端部近傍において、前記合わせ目は、前記ループ部から250本分の前記緯糸の距離以上離れて配置された、請求項1~6の何れか1項に記載のシームフェルト基布。
【請求項8】
前記経方向の各々の端部近傍において、互いに前記緯方向に隣り合う前記合わせ目は、互いの最も近接する部分が前記経方向に17本分の前記緯糸の距離以上互いに離れるように配置された、請求項1~7の何れか1項に記載のシームフェルト基布。
【請求項9】
前記上緯糸の本数と前記下緯糸の本数との比は、1:1であり、
前記上緯糸及び前記下緯糸は、互いに前記経方向にずれた位置に交互に配置された、請求項1~8の何れか1項に記載のシームフェルト基布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用シームフェルト基布に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用シームフェルトは、抄紙機やパルプマシーン等のプレスパートで使用され、搾水される湿紙を運搬する。製紙用シームフェルトには、湿紙運搬性、搾水性、紙の表面にマークを付けない表面性(紙面性)、抄紙機等に装着されてから好ましい状態になるまでの時間に関する初期馴染み性、防汚性、及び耐久性等が要求される。製紙用シームフェルトは、抄紙機等に取り付けられる時、両端部に設けられたループを互いに掛け合わせて、芯線をループ内に挿通し接合することにより無端状にされる。
【0003】
製紙用シームフェルト基布にループを形成するための方法の1つとして、基布を平板状(経方向に有端状)に製織した後、経糸を折り返してループを形成し、その折り返した部分を地部に織り込む方法が知られている(例えば特許文献1)。なお、抄紙機のドライヤーパートで使用されるドライヤーカンバスのループも、同様の方法で形成されることがある(例えば、特許文献2及び3)。
【0004】
特許文献1に記載の発明では、ループを形成するべく折り返された部分と他の経糸との合わせ目が、両糸が互いに重なる部分(引き揃え部分)と突き合わせ部分とを含み、散在している。特許文献2に記載の発明では、合わせ目(糸上げ切断箇所)が、両糸が緯糸の2本分の長さだけ重複して、これらが分散している。特許文献3に記載の発明では、合わせ目は、両糸の突き合わせによって形成され、緯方向に隣り合う2つの合わせ目は、経方向にずれて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-73288号公報
【特許文献2】特開平8-302585号公報
【特許文献3】米国特許第7624767号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように形成された基布には、経糸におけるループを形成するべく折り返された部分が地部から抜けやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、経糸におけるループを形成するべく折り返された部分が地部から抜け難い製紙用シームフェルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、緯方向に延在する上緯糸(8)、及び前記上緯糸(8)よりも走行面側に配置され前記緯方向に延在する下緯糸(9)を含む緯糸(6)と、経方向に延在して前記緯糸(6)が織り込まれた経糸(7)とを備える製紙用シームフェルト基布(2,21)であって、前記緯糸(6)が前記経糸(7)を織り込む地部(10,22)と、前記地部(10,22)の前記経方向の両端部から突出するループ部(5)とを備え、前記ループ部(5)は、前記経糸(7)が折り返されることによって形成された複数のループ(4)を含み、前記経方向の端部近傍にて前記ループ(4)によって連結される2つの経糸列を構成するように配置された1対の前記経糸(7)において、1対の前記経糸(7)の一方が折り返されて前記ループ(4)を形成し、前記一方の折り返された部分(13,23)の先端側端部と1対の前記経糸(7)の他方の端部とが、前記地部(10,22)において前記緯方向から見て互いに重なり合うように又は突き合わさるように配置されることにより、合わせ目(14)を形成し、1対の前記経糸(7)において、前記一方の前記折り返された部分(13,23)の少なくとも一部が、前記合わせ目(14)よりも前記経方向の中央に配置された部分に比べてクリンプの大きな組織を形成する。
【0009】
この態様によれば、折り返された部分の少なくとも一部が、合わせ目よりも経方向の中央に配置された部分に比べてクリンプの大きな組織を形成することにより、紙面性を殆ど変えることなく、折り返された部分の地部からの抜けを抑制できる。
【0010】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2)において、前記地部(10)が、前記ループ部(5)の各々に隣接して配置された端部地部(11)と、2つの前記端部地部(11)の間に配置された主地部(12)とを含み、前記合わせ目(14)は、前記主地部(12)に形成され、前記端部地部(11)における前記経糸(7)は、前記主地部(12)における前記経糸(7)に比べてクリンプの大きい組織を形成しても良い。
【0011】
この態様によれば、端部地部の緯糸がループを形成している経糸を両側で強固に保持するため、経糸の抜けの抑制効果が高まる。
【0012】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2)において、前記端部地部(11)における前記経方向の両端部に配置された緯糸(6)間の長さが、5~7cmであっても良い。
【0013】
主地部は端部地部よりも紙面性に優れ、端部地部は主地部よりも経糸の抜けに対する抵抗力が強いところ、この態様によれば、経糸の抜けの抑制と紙面性の低下の抑制とのバランスが良くなる。
【0014】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(21)において、前記地部(22)にて、前記折り返された部分(23)の内の前記合わせ目(14)を除いた部分が、1対の前記経糸(7)における他の部分に比べてクリンプの大きな組織を形成してもよい。
【0015】
この態様によれば、抜けが生じやすい折り返された部分のみについて、抜けに対する抵抗力が大きくなるため、経糸の抜けが抑制されるとともに、紙面性の低下が抑制される。
【0016】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2,21)において、前記緯糸(6)は、前記経方向の1cm当たり13.8~17.7本で配置されてもよい。
【0017】
この態様によれば、搾水性、紙面性及び耐久性のバランスが良くなる。
【0018】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2,21)において、前記合わせ目(14)は、前記一方の前記折り返された部分(13,23)の前記端部と、前記他方の前記端部とが、前記緯方向から見て5~13本の前記緯糸分だけ重なり合うことによって形成されていてもよい。
【0019】
この態様によれば、互いに重なっている経糸同士の間に摩擦力が働き、経糸における合わせ目を形成している部分の緯糸からの抜けが抑制される。
【0020】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2,21)において、前記経方向の各々の端部近傍において、前記合わせ目(14)は、前記ループ部(5)から250本分の前記緯糸(6)の距離以上離れて配置されても良い。
【0021】
この態様によれば、合わせ目が、ループ部から250本分の緯糸の距離以上離れて配置されることにより、折り返された部分が所定の値以上の長さで緯糸に織り込まれることになり、経糸の抜けの抑制効果が高まる。
【0022】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2,21)において、前記経方向の各々の端部近傍において、互いに前記緯方向に隣り合う前記合わせ目(14)は、互いの最も近接する部分が前記経方向に17本分の前記緯糸(6)の距離以上互いに離れるように配置されても良い。
【0023】
この態様によれば、経糸が密に配置された合わせ目が分散するため、紙面性及び搾水性の低下が抑制される。
【0024】
上記の態様の製紙用シームフェルト基布(2,21)において、前記上緯糸(8)の本数と前記下緯糸(9)の本数との比は、1:1であり、前記上緯糸(8)及び前記下緯糸(9)は、互いに前記経方向にずれた位置に交互に配置されてもよい。
【0025】
この態様によれば、上緯糸と下緯糸が厚さ方向に整合している場合に比べて、厚さ方向の厚さ変化が小さくなるため、経方向への伸縮性が低くなり、寸法安定性が優れる。
【発明の効果】
【0026】
以上の態様によれば、経糸におけるループを形成するべく折り返された部分が地部から抜け難い製紙用シームフェルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る製紙用シームフェルトの斜視図
【
図2】第1実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の平面図(A:ループ部及び端部地部、B:合わせ目を含む主地部)
【
図3】第1実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の経方向及び厚み方向に平行な面の断面図
【
図4】第1実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の経方向及び厚み方向に平行な面の断面図(合わせ目を含む主地部)
【
図5】クリンプの大きさの説明図(A:比較例、B:端部地部、C:主地部)
【
図6】比較例及び第1実施形態に係る製紙用シームフェルト基布における経方向から見たループ部(A:比較例、B:第1実施形態)
【
図7】第1実施形態及びその変形例に係る製紙用シームフェルト基布の経方向及び上下方向に平行な面の断面図(A:変形例、B:端部地部、C:主地部)
【
図8】第2実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の平面図(A:端部近傍、B:合わせ目を含む地部)
【
図9】第2実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の経方向及び厚み方向に平行な面の断面図
【
図10】第2実施形態に係る製紙用シームフェルト基布の経方向及び厚み方向に平行な面の断面図(合わせ目を含む地部)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1~
図7は、第1実施形態を示す。
【0029】
図1は、製紙用シームフェルト1の斜視図である。製紙用シームフェルト1は、製紙用シームフェルト基布2(以下、「基布2」と記す)と、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂の短繊維シートを基布2にニードリングして形成したバット繊維層3とを備える。基布2の経方向の端部には、複数のループ4を含むループ部5が形成されている。製紙用シームフェルト1は、抄紙機のプレスパートで使用され、両端部に設けられたループ4を互いに掛け合わせて、芯線をループ内に挿通し接合することにより無端状にされ、その内側(走行面側)表面が抄紙機のロール(図示せず)等に支持され、その外側(製紙面側)表面が湿紙を支持する。
【0030】
図2に示すように、基布2は、緯方向に延在する複数の緯糸6と、経方向に延在して、緯糸6が織り込まれた複数の経糸7とを備える。「経方向」は、基布2の丈方向であり、抄紙機に取り付けられた時に、機械の進行方向(機械方向)に一致する。「緯方向」は、基布2の幅方向であり、抄紙機に取り付けられた時に、基布2の平面に沿って機械方向に直交する方向(交差機械方向)に一致する。緯糸6は、経方向に1cm当たり13.8~17.7本(1インチ当たり35~45本)(「x~y」はx以上y以下を意味する、以下同じ)で配置される。経糸7は、緯方向に1cm当たり18.1~22.8本(1インチ当たり46~58本)で配置される。
【0031】
緯糸6は、製紙面側に配置された複数の上緯糸8と、走行面側に配置された複数の下緯糸9を含む。上緯糸8の本数と下緯糸9の本数の比は1:1であり、基布2の厚み方向(経方向及び緯方向に直交する方向)から見て、上緯糸8及び下緯糸9は、互いに経方向にずれた位置に交互に配置される。各々の経糸7は、上緯糸8及び下緯糸9に織り込まれている。このように上下2層の緯糸6が1層の経糸7を織り込んでいる織物は、経1重緯2重織と呼ばれることもある。
【0032】
基布2は、緯糸6が経糸7を織り込む地部10と、地部10の経方向の両端部から突出する2つのループ部5とを備える。ループ部5は、経糸7が折り返されることによって形成されたループ4を含み、緯糸6を含まない。地部10は、ループ部5の各々に隣接して配置された2つの端部地部11と、2つの端部地部11の間に配置された主地部12とを含む。端部地部11の完全組織は、3本の上緯糸8、3本の下緯糸9及び3本の経糸7によって構成される。主地部12の完全組織は、4本の上緯糸8、4本の下緯糸9及び8本の経糸7によって構成される。なお、図中の緯糸No.及び経糸No.は、番号に「'」を付したもの(1'、2'、・・・)が端部地部11の緯糸6及び経糸7に対応し、番号のみを付したもの(1、2、・・・)が主地部12の緯糸6及び経糸7に対応する。
【0033】
ループ部5のループ4は、基布2の端部近傍において、経糸No.8、2、4及び6の経糸列を構成する経糸7が折り返されることにより形成され、折り返された部分13は、ループ4から所定の範囲の地部10に織り込まれ、経糸No.1、3、5及び7の経糸列の一部を構成する。反対側の端部については、図示を省略するが、同様にループ4が形成される。
【0034】
なお、反対側のループ4が、経糸No.1、3、5及び7の経糸列を構成する経糸7が折り返されることにより形成され、折り返された部分13が、ループ4から所定の範囲で、経糸No.8、2、4及び6の経糸列を構成しても良い。また、反対側のループ4が、経糸No.8、2、4及び6の経糸列を構成する経糸7が折り返されることにより形成され、折り返された部分13が、ループ4から所定の範囲で、経糸No.7、1、3及び5の経糸列を構成しても良い。また、反対側のループ4が、経糸No.1、3、5及び7の経糸列を構成する経糸7が折り返されることにより形成され、折り返された部分13が、ループ4から所定の範囲で、経糸No.2、4、6及び8の経糸列を構成しても良い。
【0035】
図2(A)、
図3及び
図7(B)を参照する。端部地部11の経方向の長さ、すなわち、端部地部11にて経方向の両端部に配置された緯糸6間の長さは、5~7cmである。なお、図示の都合上、
図2(A)及び
図3では、端部地部11に、緯糸6が12本しか記載していないが、実際の緯糸6の本数はもっと多い。端部地部11では、緯糸No.1'、3'及び5'の緯糸列が下緯糸9によって構成され、緯糸No.2'、4'及び6'の緯糸列が上緯糸8によって構成される。経糸No.1'の経糸7は、緯糸No.1'~6'の緯糸6に対して順に、下、下、上、上、上、下を通っている。経糸No.2'の経糸7は、経糸No.1'の経糸7に対して、2本の緯糸6(1本の上緯糸8又は下緯糸9)の分だけ緯糸No.の小さいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.3'の経糸7は、経糸No.1'の経糸7に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の大きいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。
【0036】
図2(B)、
図4及び
図7(C)を参照する。主地部12では、緯糸No.1、3、5及び7の緯糸列が上緯糸8によって構成され、緯糸No.2、4、6及び8の緯糸列が下緯糸9によって構成される。経糸No.1の経糸7は、緯糸No.1~8の緯糸6に対して順に、下、下、下、上、上、上、下、上を通っている。経糸No.2の経糸7は、経糸No.1の経糸7に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の大きいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.3の経糸7は、経糸No.1の経糸7に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の小さいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.4の経糸7は、経糸No.1の経糸7に対して、4本の緯糸6の分だけずれて緯糸6に織り込まれている。
【0037】
経糸No.5~8の経糸7の織り込みパターンは、経糸No.1~4の経糸7の織り込みパターンに対して、経方向の直交する所定の断面に対して鏡像対称形をなす。No.5の経糸7は、緯糸No.1~8の緯糸6に対して順に、下、上、下、上、上、上、下、下を通っている。経糸No.6の経糸7は、経糸No.5の経糸7に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の大きいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.7の経糸7は、経糸No.5の経糸7に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の小さいほうにずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.8の経糸7は、経糸No.5の経糸7に対して、4本の緯糸6の分だけずれて緯糸6に織り込まれている。
【0038】
図2(B)及び
図4を参照する。経方向の端部近傍にてループ4によって連結される2つの経糸列を構成するように配置された1対の経糸7に着目すると、1対の経糸7の一方(経糸No.8、2、4、6)が折り返されてループ4を形成し、折り返された部分13におけるループ4よりも先端側の部分は、地部10に織り込まれている。この折り返された部分13の先端側端部と1対の経糸7の他方(経糸No.1、3、5、7)の端部とが、主地部12において緯方向からみて重なり合うように配置され(共通の緯糸No.の緯糸6に織り込まれ)、合わせ目14(図中、破線で囲った部分)が形成されている。図示する例における合わせ目14では、両端部が緯方向から見て5本の緯糸6の分だけ重なっているが、この本数は変更しても良く、5~13本の緯糸6の分だけ重なっていることが好ましい。また、合わせ目14は、ループ部5から250本分の緯糸6の経方向距離以上離れて配置されることが好ましい。また、互いに緯方向に隣り合う合わせ目14は、互いの最も近接する部分が経方向に17本分の緯糸6の距離以上互いに離れるように、配置されることが好ましい。
【0039】
端部地部11における経糸7は、主地部12における経糸7よりもクリンプの大きい組織を形成している。
図5を参照して、経糸7における「クリンプの大きい組織」について説明する。
図5(A)は比較例を示し、
図5(B)は端部地部11を示し、
図5(C)は主地部12を示す。所定の区間において、湾曲した形状を含む経糸7,107の長さLA、LB、LCを、その区間の経糸7,107の延在方向(経方向)の直線距離Lで割った値が大きいほど、「クリンプが大きい」と言う。
図5(A)では、距離Lの区間で、経糸107が、上緯糸108の上を通ってから、下緯糸109の下を通り、再び上緯糸108の上を通るパターンが、1+5/8回繰り返されている。また、上緯糸108と下緯糸109とが互いに上下に整合しているため、地部110の厚さが
図5(B)及び(C)に示すものよりも大きく、その分だけ経糸107の長さLAも大きくなる。
図5(B)では、距離Lの区間で、経糸7が、上緯糸8の上を通ってから、下緯糸9の下を通り、再び上緯糸8の上を通るパターンが、2+1/6回繰り返されている。
図5(C)では、距離Lの区間で、同パターンが、1+5/8回繰り返されている。したがって、LB>LA>LCであり、LB/L>LA/L>LC/Lである。すなわち、
図5(B)に示す端部地部11の経糸7が最も大きなクリンプの組織を形成し、
図5(A)に示す比較例の経糸107が2番麺に大きなクリンプの組織を形成し、
図5(C)に示す主地部12の経糸7が最も小さなクリンプの組織を形成している。なお、経糸7について「クリンプの大きい組織」は、「経糸7が緯糸6を織り込むナックル部の経糸7の曲がり角度が小さい」と言い換えることができる。
【0040】
図6を参照して、ループ4の傾きについて説明する。
図6(A)は比較例に係るループ104を示し、
図6(B)は第1実施形態に係るループ4を示す。
図6(A)に示す比較例では、経糸107の列が略等間隔に配置されており、このため、ループ104が、経方向から見て厚さ方向に対して約45°傾いている。
図6(B)に示す第1実施形態では、ループ4を形成して互いに隣り合う1対の経糸7の列はペアリングしている。すなわち、各々の経糸7の列が、ループ4によって連結して隣接している経糸7の列に近づき、その反対側に隣接している経糸7の列から遠ざかって配置されている。このため、経方向から見た時のループ4の厚さ方向に対する傾きは、45°よりも小さくなる。このため、第1実施形態に係る製紙用シームフェルト1(
図1参照)は、その両端部に設けられたループ4を互いに容易に掛け合わせて接合することができる。
【0041】
経糸7、上緯糸8及び下緯糸9を構成する素材は特に限定されないが、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、経糸7、上緯糸8及び下緯糸9は、互いに同一素材から構成されても、異なる素材から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。経糸7、上緯糸8及び下緯糸9の糸の種類は、特に限定されないが、例えば、モノフィラメント単糸、モノフィラメント撚糸、マルチフィラメント撚糸、又はそれらの組み合わせであってよい。経糸7の直径は0.29mm~0.39mmが好ましく、緯糸6の直径は0.29mm~0.42mmが好ましい。経糸7の一部、上緯糸8の一部、及び/又は下緯糸9の一部に、例えば、経糸7について1本おきに、蛍光糸又は色糸を使用しても良い。蛍光糸又は色糸を使用することにより、ループ部5を縫合する際に縫合がし易くなる。
【0042】
図2~
図4を参照する。基布2は作業員が以下の工程を実施することにより製造される。基布2は、経糸7を整経糸とし、緯糸6を打ち込み糸として製織される。経糸7における折り返された部分13となるべき部分は、製織後に経方向の端部から緯糸6抜き去ることにより、又は、その部分に緯糸6を打ち込まないことにより形成される。対応する経糸7の先端部を折り返してループ4を形成し、更に、折り返された部分13におけるループ4よりも先端側の部分を合わせ目14まで地部10に織り込む。合わせ目14が形成されたら、折り返された部分13の合わせ目14よりも先端側の部分と、この折り返された部分13と合わせ目14を形成した経糸7の合わせ目14よりもループ4側の部分を切断する。切断された端部は、走行面側に配置することが好ましい。
【0043】
図1~
図6を参照して、基布2の作用効果について説明する。
【0044】
経糸7が、主地部12よりも端部地部11でクリンプの大きい組織を形成するため、端部地部11における経糸7の抜けに対する抵抗力大きくなる。このため、経糸7にループ4から引き抜く方向に力が加わっても、経糸7の抜けが抑制される。
【0045】
折り返された部分13の先端側端部と他の経糸7の端部とが、5~13本の緯糸6の本数の分だけ互いに重なって合わせ目14を形成している。このため、互いに重なっている経糸7同士の間に摩擦力が働き、経糸7における合わせ目14を形成している部分の緯糸6からの抜けが抑制される。
【0046】
主地部12は、端部地部11よりもクリンプの小さい組織で構成されているため、端部地部11よりも紙面性が良好である。比較的クリンプの小さい組織を有する主地部12を設けることにより、地部10の全体をクリンプの大きな組織とする場合に比べて、紙面性が良好となる。また、端部地部11の経方向の長さを5~7cmとすることにより、紙面性とループ4の抜けの抑制とのバランスが良くなる。
【0047】
緯糸6が経方向の1cm当たり13.8~17.7本で配置されることにより、搾水性、紙面性及び耐久性のバランスが良くなる。
【0048】
各々の経糸7の列の織り込みパターン自体は、経方向に直交する断面に対して鏡像対称形をなしていないため、経糸7から緯糸6に加わる力が偏っている。しかし、経糸No.1~4の経糸7の列と、経糸No.5~8の経糸7の列とでは、経糸7の織り込みパターンが経方向に直交する断面に対して互いに鏡像対称形をなすため、緯糸6に対して互いに反対方向に力を加える。このため、上緯糸8及び下緯糸9の位置が、互いに経方向にずれた位置で安定する。
【0049】
上緯糸8の本数と下緯糸9の本数との比が1:1であり、上緯糸8及び下緯糸9が、互いに経方向にずれた位置に交互に配置されることにより、上緯糸8と下緯糸9が厚さ方向に整合している場合に比べて、厚さ方向の圧縮性が低くなる。このため、経方向への伸縮性が低くなり、寸法安定性が優れる。
【0050】
経方向の各々の端部近傍において、合わせ目14が、ループ部5から250本分の緯糸6の距離以上離れて配置されることにより、折り返された部分13が所定の値以上の長さで緯糸6に織り込まれることになり、経糸7の抜けの抑制効果が高まる。
【0051】
経方向の各々の端部近傍において、互いに緯方向に隣り合う合わせ目14は、経方向に17本分の緯糸6の距離以上互いに離れて配置されていることにより、経糸7が密に配置された合わせ目14の位置が分散し、合わせ目14による紙面性及び搾水性の低下が抑制される。
【0052】
図7(A)は、第1実施形態の変形例に係る地部10を示す。上記の第1実施形態の主例の基布2の端部地部11及び主地部12は、
図7(B)及び(C)に示すように、緯糸6の二重性が崩れた組織、すなわち、上緯糸8及び下緯糸9が互いに経方向にずれて配置された組織によって構成される。変形例に係る基布2の地部10は、緯糸6の二重性が保たれた組織、すなわち、上緯糸8及び下緯糸9が互いに厚さ方向に整合して配置された組織によって構成される。
図7(A)に示す例では、経糸7は、上緯糸8の上、上緯糸8と下緯糸9の間、下緯糸9の下、上緯糸8と下緯糸9の間を通ることを繰り返すように緯糸6に織り込まれている。他の織り込みパターンとして、図示を省略するが、経糸7が、上緯糸8の上、下緯糸9の下、上緯糸8と下緯糸9の間を通ることを繰り返すことが挙げられ、この織り込みパターンの組織は、
図7(A)に示す組織よりもクリンプが大きい。また、他の織り込みパターンとして、図示を省略するが、経糸7が、上緯糸8の上、上緯糸8と下緯糸9の間、上緯糸8と下緯糸9の間、下緯糸9の下、上緯糸8と下緯糸9の間、上緯糸8と下緯糸9の間を通ることを繰り返すことが挙げられ、この織り込みパターンの組織は、
図7(A)に示す組織よりもクリンプが小さい。変形例に係る基布2は、このような緯糸6の二重性が保たれた組織が用いられるとともに、端部地部11における経糸7が、主地部12における経糸7よりもクリンプの大きい組織を形成する。
【0053】
次に、
図8~10を参照して、本発明に係る第2実施形態を説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成及び類似する構成は、相違点のみ説明し、同一の符号を付す。第2実施形態に係る製紙用シームフェルト基布21(以下、「基布21」と記す)は、地部22が、折り返された部分23が織り込まれた部分を除いて、単一の組織によって構成される点等で第1実施形態と相違する。
【0054】
基布21は、緯方向に延在する複数の上緯糸8及び下緯糸9を含む緯糸6と、経方向に延在して、緯糸6が織り込まれた複数の経糸7とを備える。緯糸No.1、3、5、7の緯糸列が上緯糸8によって構成され、緯糸No.2、4、6、8の緯糸列が下緯糸9によって構成される。
【0055】
基布21は、経方向の両端部は設けられたループ部5と、2つのループ部5の間に配置され、緯糸6が経糸7を織り込む地部22とを備える。
【0056】
経糸7は、地部22において、折り返された部分23を除いて、第1実施形態の主地部12(
図2参照)と同様に、緯糸6に織り込まれている。折り返された部分13は、ループ4及び合わせ目14を除いて、第1実施形態の端部地部11と同様の織り込みパターンで緯糸6に織り込まれている。地部22における経糸7のその他の部分は、第1実施形態の主地部12と同様の織り込みパターンで緯糸6に織り込まれている。折り返された部分23は、経糸No.1、3、5、7の経糸列の一部を構成している。
【0057】
地部22において、折り返された部分23の内の合わせ目14を除いた部分は、上緯糸8の上、下緯糸9の上、上緯糸8の下、下緯糸9の下、上緯糸8の下、下緯糸9の上を通ることを繰り返すように、緯糸6に織り込まれている。経糸No.3の経糸列の折り返された部分23は、経糸No.1の経糸列の折り返された部分23に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の小さい方にずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.5の経糸列の折り返された部分23は、経糸No.1の経糸列の折り返された部分23に対して、2本の緯糸6の分だけ緯糸No.の大きい方にずれて緯糸6に織り込まれている。経糸No.7の経糸列の折り返された部分23は、経糸No.1の経糸列の折り返された部分23と同様に緯糸6に織り込まれている。
【0058】
ループ4によって連結される2つの経糸列を構成するように配置された1対の経糸7に着目すると、1対の経糸7の一方(経糸No.8、2、4、6)が折り返されてループ4を形成し、折り返された部分23におけるループ4よりも先端側の部分は、地部22に織り込まれている。この折り返された部分23の先端側端部と1対の経糸7の他方(経糸No.1、3、5、7)の端部とが、地部22において緯方向からみて重なり合うように配置され(共通の緯糸No.の緯糸6に織り込まれ)、合わせ目14(図中、破線で囲った部分)が形成されている。合わせ目14の長さ、配置は第1実施形態と同様である。合わせ目14における経糸7の織り込まれ方は、合わせ目14よりも経方向の中央側の経糸7の織り込みパターンに従う。
【0059】
地部22において、合わせ目14を除いた折り返された部分23は、他の部分(合わせ目14、経糸No.1、3、5、7の合わせ目14よりも経方向の中央側の部分、及び、経糸No.8、2、4、6)よりもクリンプの大きい組織を形成している。このため、折り返された部分23の抜けに対する抵抗力が大きくなる。このため、経糸7にループ4から引き抜く方向に力が加わっても、経糸7の抜けが抑制される。ループ4に引張力が加わった時に、地部22から抜けやすいのは折り返された部分23である。このため、ループ4を形成するように互いに隣り合う1対の経糸7において、折り返され部分23とは反対側の経糸7のクリンプが小さくとも、経糸7の抜け抑制効果に対する影響は小さい。また、基布21の端部近傍において、1対の経糸7における折り返され部分23とは反対側の経糸7のクリンプが小さいため、紙面性が良好になる。
【実施例0060】
第1実施形態に対応する実施例1、第2実施形態に相当する実施例2、折り返された部分を含めて地部の全体が第1実施形態の主地部12に相当する織り込み方で織られた比較例(合わせ目の配置は実施例1と同じ)について、以下の試験条件にて、サンプルをストログラフにセットし、引張試験にてループ部を含む基布の強度試験を行なった。
<試験条件>
サンプル寸法:丈75cm×幅3cm
試験長:65cm(芯線部分を中心にしてストログラフにセット)
試験幅:幅2.5cm(2.5cm分の経糸本数に揃える)
試験速度:200mm/min
【0061】
試験結果は以下の通りであった。実施例1及び2では、比較例に比べて経糸が抜けるために約1.25~1.35倍の力が必要であった。
<結果>
実施例1:35.6kg/cm
実施例2:38.2kg/cm
比較例 :28.4kg/cm
【0062】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。製紙用シームフェルトは、抄紙機以外の製紙用機械、例えば、パルプマシーンに使用されても良い。経糸と緯糸との織り込み方は、上述のクリンプの大きさに関する条件を満たす範囲において変更しても良い。第2実施形態の地部において、合わせ目を除いた折り返された部分の全体ではなく、その一部分が他の部分に比べてクリンプの大きな組織を形成しても良い。合わせ目は、2つの経糸の重ね合わせによって形成されることに代えて、2つの経糸の先端が突き合わさるように構成されても良い。