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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070337
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】α線放出核種の多核種同時分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/64 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
G01N27/64 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182438
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】高貝 慶隆
(72)【発明者】
【氏名】飯島 和毅
(72)【発明者】
【氏名】寺島 元基
(72)【発明者】
【氏名】松枝 誠
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041DA14
2G041FA21
2G041GA03
2G041GA09
2G041LA08
(57)【要約】
【課題】煩雑な工程を必要とせずに、α線放出核種を同時に複数種定量分析することができる方法を提供する。
【解決手段】固相抽出用樹脂を備えたカラム2に試料溶液を導入し、カラム2の固相抽出用樹脂に試料溶液に含まれるα線放出核種を吸着させ、固相抽出用樹脂に吸着されたα線放出核種をグループごとに溶離液に溶出させ、当該溶離液を霧化してプラズマイオン源5に導入してイオン化し、当該イオン群に酸素又はアンモニアを導入して、それらガスとの反応により当該元素のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルター9において特定の質量数を持つイオンを除去し、四重極マスフィルター9を通過したα線放出核種の特定信号を測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のα線放出核種を含む試料の分析方法であって、
前記複数のα線放出核種のうちの少なくとも一つを吸着する固相抽出用樹脂を備えたカラムに当該試料の溶液を導入し、
上記固相抽出用樹脂に当該試料の溶液に含まれる当該複数のα線放出核種の少なくとも一つを吸着させ、
上記固相抽出用樹脂に吸着されたα線放出核種を溶離液に溶出させることで、前記複数のα線放出核種のうちの少なくとも一種を分離する工程と、
当該溶離液を霧化してプラズマイオン源に導入してイオン化し、当該イオン群に酸素ガス又はアンモニアガスを導入して当該イオン群に含まれるα線放出核種の少なくとも1種のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルターを通過した特定の質量の信号を測定することを特徴とする複数のα線放出核種を含む試料の分析方法。
【請求項2】
前記イオン群にプルトニウムとアメリシウムが含まれている場合において、前記酸素ガスの導入流量を2ml/min以上3ml/min以下にすることを特徴とする、請求項1記載の複数のα線放出核種を含む試料の分析方法。
【請求項3】
前記イオン群にプルトニウムとウランが含まれている場合において、前記アンモニアガスの導入流量を1ml/min以上2ml/min以下にすることを特徴とする、請求項1記載の複数のα線放出核種を含む試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα線放出核種のうち、例えば、トリウム(Th)、ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、プルトニウム(Pu)、ウラン(U)の分析方法に関し、特に、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を応用して、複数核種を同時に分析することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射性物質はα線,β線,γ線等の放射線を放出し、より安定な原子核になろうとして壊変を行う。その際,α線を放出する放射性核種の定量は、ZnS(Ag)シンチレーション計数装置、ガスフロー計数装置、シリコン半導体検出器等によってα線計測することにより測定ができるが、α線のエネルギーが近い核種を同時に分析することはできなかった。核種ごとに定量するためには、一般的には、種々の分離・濃縮操作が行われており、煩雑な工程が必要であった。
【0003】
また、一般的に知られている高周波誘導結合プラズマ質量分析方法によれば、質量が異なる核種については事前の分離操作を要せずに、核種ごとの定量が可能であるが、それでもなお、例えば、同重体である、238Uと238Pu、241Amと241Puは、分離して定量することができなかった。また、放射性物質であることから装置へ導入する試料は、pptオーダー程度の低濃度とすることがより好ましいが、低濃度とすると、例えばコンタミ等による多核種、多元素の干渉の影響が強くなり、結果、測定精度が低下する課題もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の前記問題点に鑑みてなされたものであって、煩雑な工程を要せずに、複数核種を同時に分析することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS、ICP-MS/MS)の長所を活かした、測定手段について鋭意検討した。
【0006】
《高周波誘導結合プラズマ質量分析装置:ICP-MS》
一般に液体試料は、試料導入部のネブライザに導入されてエアロゾル化される。そのエアロゾルはプラズマイオン源に導入される。プラズマイオン源では、高周波エネルギーが印加された高周波コイルの中心にアルゴンガスが導入され、強力な高周波がアルゴン原子同士を衝突させ、高エネルギーのアルゴンプラズマを発生する。エアロゾル化された試料は、プラズマ(6000~10000Kの温度)内で瞬時に分解し、測定対象元素は原子化し、そしてイオン化される。そのイオンは、サンプリングコーンとスキマーコーン(ハイパースキマーコーンを有する装置もある)と呼ばれる一対のオリフィスの約1mm前後の細孔を通過してイオンレンズ部に導入される。イオンレンズ部は、イオンを収束してイオンと中性物質を分離するとともにプラズマから入り込んできた光子を遮断する役目を果たす。コリジョン・リアクションセルは、反応性の無いガス(He)をセル内に導入して干渉イオンに衝突させ、分析対象元素との運動エネルギー差を利用して干渉を除去するか(コリジョンモード)または反応性の高いガス(酸素、メタン、アンモニアなど)をセル内に導入して、干渉イオンと反応させて干渉を除去する(リアクションモード)ものである。四重極マスフィルターは、4本の平行なロッド状電極からなり、相対する電極の極性を同じにして直流電圧と高周波交流電圧を重ね合わせた電圧を印加して四重極電場を形成するものである。低い加速電圧でロッド状電極に沿ってイオンを四重極電場に導入すると、イオンは上下、左右方向に振動しながら進むが、直流電圧/交流電圧の比を一定に保ちつつ電圧を変化させると、ある瞬間には特定の質量数を持つイオンのみが安定な振動をして四重極を通りぬけ、二次電子増倍管を備えた検出器に達する。一方、その他の質量数を持つイオンは振幅が大きくなり、発散して電極に衝突して消滅する。二次電子増倍管は微弱なイオン流を高精度で検出できる検出器であり、金属面または特殊加工したセラミックの表面にイオンが衝突すると二次電子が放出される性質を利用したもので、放出された二次電子は電場により加速され、さらに、衝突を繰り返すことで指数関数的に増幅される。最終的には数十万倍から一千万倍以上に二次電子が増幅されるため、質量ごとの大きな信号電流として取り出すことができる。
【0007】
ICP-MS(ICP-MS/MS)は、1)小型化が可能、2)高速走査が可能、3)普及が進んだことにより比較的安価、4)特別な国家資格が不要、5)操作が容易など多くの利点を有している。しかし、ICP-MS(ICP-MS/MS)は、質量分解能に限度があり、質量が1つ違うイオンを分離することはできるが、同重体のイオンを分離することができないという不都合な点がある。
【0008】
《本発明の重要な特徴》
そこで、本発明は、上記不都合な点を解消するために、「カラムを用いた同重体の粗分離」と、「ガスとの反応による同重体の精密分離」とを重要な特徴とする。
(1)カラムを用いた同重体の粗分離 α線放出核種のうち、同重体が存在し、又、過剰に存在することの多い、プルトニウム、ウランの分離を行う。α線放出核種を含有する試料溶液を、固相抽出用樹脂が充填されたカラムまたはフィルターに導入し、それらの分離を行う。固相抽出用樹脂としては、例えば、DGAレジン(EICHROM TECHNOLOGIES製)や、TRUレジン(EICHROM TECHNOLOGIES製)を用いることができるが、上記目的を達成できるものであれば、特に限定されない。例えば、DGAレジンを用いる場合は、測定試料を硝酸溶液(4M HNO3+0.1% H2O2や、4M HNO3+0.1M NaNO2)に調製する。そして、DGAレジンを充填したカラムまたはフィルターに4M HNO3+0.1% H2O2の硝酸溶液に調整したα線放出核種試料溶液を導入すると、DGAレジンに、ウラン、プルトニウム、アメニシウム、キュリウム等が吸着する。その後、低硝酸溶液(0.2M HNO3+0.1% H2O2、なお、硝酸溶液として4M HNO3+0.1M NaNO2を用いる場合は、0.1%H2O2にかえて0.1MNaNO2を用いる。以下同じ。)を通液すると、ウランがDGAレジンから溶出する。その後、例えば、0.5M HCl+0.1% H2O2溶液を通液すると、アメリシウムとキュリウム等が、DGAレジンから溶出し、0.5M HCl+1%アスコルビン酸溶液を通液すると、プルトニウムが、DGAレジンから溶出する。また、そのほかの固相抽出用樹脂として、TRUレジンを用いる場合は、例えば、4M HClを用いることで、アメリシウムとプルトニウムの分離が可能である。
(2)ガスとの反応による同重体の精密分離 ICP-MS(ICP-MS/MS)のコリジョン・リアクションセルに高純度酸素、アンモニアガスを通入して、それらガスとの反応性の高い元素を別の質量に変換することにより、その干渉を除去することができる。例えば、アメリシウムとプルトニウムは、酸素ガス量を所定の範囲にすることで、アメリシウムはAmOに、プルトニウムはPuO2に変換される。また、酸素ガス量を所定の範囲にすれば、プルトニウムがPuOに、UはUO2として変換され、同重体のプルトニウムとウランを分離測定することが可能となる。
そのほか、アンモニアガス量を所定の範囲にすることで、ウランのみアンモニア付加体(UN2H4など)に変換されることによる、同重体プルトニウムとウランの分離測定も可能である。
【0009】
《本発明のα線放出核種の分析方法》
上記の重要な特徴を備えた本発明の分析方法は、固相抽出用樹脂を充填したカラムまたはフィルターに試料溶液を導入し、上記固相抽出用樹脂に試料溶液に含まれるα線放出核種を吸着させ、その後、特に同重体を有する元素を別々に溶離液に溶出させ、その溶離液を霧化してプラズマイオン源に導入してイオン化し、そのイオン群に酸素またはアンモニアガスを導入してそれらガスとの反応性の高い元素のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルターを通過した特定信号を測定することを特徴としている。測定対象によっては、上記のうち、カラムのみの使用又は、酸素またはアンモニアガスの使用によるイオンの質量変換のみの使用としてもよいが、両方を使用することで、例えば、pptオーダーと低濃度の試料であっても、複雑な前処理をすることなく、確実に他元素、他核種の干渉を排除し、高精度に定量することが可能となる。なお、かかる分析方法を適切なソフトウエアを用いて自動制御することができる。また、カラムまたはフィルターに導入する前の試料溶液を適正な濃度に事前に濃縮することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固相抽出用樹脂を充填したカラムによる物質の分離とコリジョン・リアクションセルによる同重体の精密分離、四重極マスフィルターによる特定の質量数以外のイオンの分離により、煩雑な前処理等を要せずに、α線放出核種を核種ごとに定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の分析方法を実施するに好適な装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、カラムを使用して、α線放出核種を含有する混合標準溶液の分離を実施した一例を示す図である。
図3図3は、コリジョン・リアクションセルにおける酸化反応によるプルトニウムとアメリシウムの変化を示す図である。
図4図4は、コリジョン・リアクションセルにおける、アンモニアガスとの反応によるプルトニウムとアメリシウムの変化を示す図である。
図5図5は、本発明の方法により、α線放出核種10種類を同時測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明は下記実施形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、様々な変形や修正が可能である。
【0013】
《分析装置》
図1は、本発明の分析方法を実施するに好適な装置の概略構成を示す図である。図1において、1は分析対象である試料を適切な溶解液に溶出してなる試料溶液を充填した試料容器を保管しているオートサンプラー(自動分取装置)、2はカラム、3は高周波誘導結合プラズマ質量分析装置であって、ネブライザ(同軸形ネブライザまたは超音波ネブライザ)4と、プラズマイオン源5と、インターフェースコーン6と、イオンレンズ7と、ガス供給手段8aを備えたコリジョン・リアクションセル8と、四重極マスフィルター9と、検出器10とを備えている高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を示す。
【0014】
《カラム》
図1において、オートサンプラー(自動分取装置)1に保管されている試料容器に充填されている試料溶液は、カラム2に供給される。カラム2に充填された固相抽出用樹脂(図示せず)にα線放出核種等を吸着させる。
【0015】
《吸着工程》
オートサンプラー(自動分取装置)1の上にセットされた特定の試料容器に充填された、試料溶液を吸い上げて、ポンプ(図示せず)でカラム2に供給し、カラム2に充填された固相抽出用樹脂にα線放出核種を吸着させる。一定量の試料溶液をカラム2へ送給した後は、オートサンプラー1のプローブは溶離液の入った位置へ移動する。カラム2を通過した後の試料溶液は、そのまま、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS、ICP-MS/MS)に導入してもよいし、ドレイン(図示せず)をもうけて、そこから排出するなどしてもよく、特に限定されない。
【0016】
《溶出工程》
カラム2に充填された固相抽出用樹脂に吸着されたα線放出核種を溶出させる工程においては、ポンプから上記溶離液が供給されカラム2に送給される。カラム2において、固相抽出用樹脂に吸着されたα線放出核種は送給された溶離液に応じて溶出して、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)に導入される。導入の際のネブライザには、同軸形ネブライザや超音波ネブライザ(USN)などを用いる。
【0017】
《α線放出核種の分離》
上記のように構成されるカラムを使用して、α線放出核種を含有する混合溶液の分離を実施した一例を示すものが図2である。この混合溶液の組成は、235U、238U、241Am、244Cm、245Cm、246Cm、240Pu、242Pu、232Th、237Npを含む硝酸(4M HNO3+0.1MNaNO2)溶液である。固相抽出用樹脂(DGAレジン)は、220mgをカラムに充填した。この例では、混合溶液をカラムに通液・固相抽出用樹脂にα線放出核種を吸着させた後、溶離液をカラムに通液し、そのカラム通液後の溶離液を順次、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)に導入し、カラム通液後の溶離液に含まれているα線放出核種を定量した。図2において、横軸は時間を示し、グラフ上部において、グラフ上に記載の表の各stepとの対応を示している。縦軸は、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で得られた検出強度である。なお、ICP-MSのコリジョン・リアクションセルには、高純度酸素を導入しながら検出したため、混合溶液中のα線放出核種はすべて酸化物として検出している。図2に示すように、固相抽出用樹脂を用いることによって、α線放出核種を分離することができた。
【0018】
《コリジョン・リアクションセルによる同重体の干渉除去》
図2に示すように、α線放出核種のうちウランは分離できるが、例えば、同重体をもつアメリシウムとプルトニウム(241Amと241Pu)は分離されずに、溶液中に含まれたままとなる。この溶液を高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入すれば、質量数が同じである同重体を分離することができない。
そこで、図1において、ガス供給手段8aからコリジョン・リアクションセル8内にガス(酸素またはアンモニアガス)を供給することにより、それらガスと、各α線放出核種との反応性の違いにより、例えば、酸素ガス量を所定の範囲にすることで、アメリシウムはAmOに、プルトニウムはPuO2に変換される。また、酸素ガス量を所定の範囲にすれば、プルトニウムのみがPuOに変換され、UはUO2として変換され、同重体のプルトニウムとウランを分離測定することが可能となる。
【0019】
図3は、コリジョン・リアクションセルにおける、酸素ガスの流量と、アメリシウムとプルトニウムの酸化反応による生成物の違いを表している。横軸に、酸素ガスのコリジョン・リアクションセルへの導入流量、縦軸が、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で得られた検出強度である。酸素流量が、2mL/min以上では、アメリシウムはAmOに、プルトニウムは、PuOではなく、PuO2が生成していることがわかる。酸素流量は、好ましくは、2.0mL/min以上3.0mL/min以下である。図3のとおり、酸素流量が多すぎるとAmO、PuO2の検出強度がともに減少するので、3.0mL/min以下が好ましい。以上より、酸素流量を2mL/min以上3.0mL/min以下とすることで、241Puと241Amを分離して、分析できることがわかる。
【0020】
図4は、コリジョン・リアクションセルにおける、アンモニアガスの流量と、ウランとプルトニウムのアンモニアガスとの反応による生成物の違いを表している。横軸に、アンモニアガスのコリジョン・リアクションセルへの導入流量、縦軸が、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で得られた検出強度である。図4より、アンモニアガス流量が1.0ml/min以上では、ウランはアンモニア付加体(例えばUN2H4)に、プルトニウムは、おおよそPuのままであることがわかる。以上より、アンモニアガス流量を1.0ml/min以上2.0ml/min以下とすることで、238Puと238Uを分離して、分析できることがわかる。また、アンモニアガス流量が増加するとプルトニウムの検出強度が低下するので、導入するアンモニアガス流量は、より好ましくは、1.0ml/min以上1.5ml/min以下である。なお、定量に際しては、通常、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS、ICP-MS/MS)で行われている方法で、検量線を作成することで、検出値から定量することができる。
【0021】
図5は、本発明の方法により、α線放出核種10種類を同時測定した結果である。固相抽出用樹脂には、DGAレジンを用いている。
まず、step1として、DGAレジンを充填したカラムを、洗浄液(4M HNO3+0.1% H2O2溶液)を8ml用いてカラムを洗浄した。その後step2として、Th、Np、Am、Cm、Pu、Uを含む試料溶液(4M HNO3+0.1% H2O2溶液5ml、Th 20ppt、241Am 20ppt、244Cm 5.36、242Pu 1ppt、U 20ppt、237Npは241Am試料に由来、240Pu、245Cm、246Cmは244Cmに由来)をカラムに導入し、DGAレジンに上記α線放出核種を吸着させた。続けて、step3として上記洗浄液を8ml用いてカラムの洗浄を行った。次に、step4として、ウラン溶離液(0.2M HNO3+0.1% H2O2)を45mlカラムに導入し、ウランを溶出させた。その溶離液をそのまま、溶液流速300μl/minで高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS;NexION Perkin Elmer製)に導入し得られたのが、図5のstep4として示されている検出強度である。なお、溶液流速は、step7終了時まで一定とし、かつ、コリジョン・リアクションセルには酸素ガスを2.0ml/minで検出開始から検出終了時まで導入している。検出強度の確認によりウランの溶出のおおよそ終了したことを確認し、次のstep5として、アメリシウム、キュリウム溶離液(0.5M HCl+0.1% H2O2)17mlをカラムに導入し、アメリシウムとキュリウムを溶出させた。その溶離液をそのまま高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)に導入し得られたのが、図5のstep5として示されている検出強度である。検出強度の確認によりアメリシウム、キュリウムの溶出がおおよそ終了したことを確認し、次のstep6として、プルトニウム溶離液(0.5M HCl+1%アスコルビン酸)26mlをカラムに導入し、プルトニウムを溶出させた。その溶離液をそのまま高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)に導入し、かつ、コリジョン・リアクションセルに酸素ガスを2.0ml/minで導入し得られたのが、図5のstep6として示されている検出強度である。最後に、step7として、トリウム、ネプツニウム溶離液(0.01Mシュウ酸アンモニウム)16mlをカラムに導入し、トリウム、ネプツニウムを溶出させた。その溶離液をそのまま高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)に導入し、かつ、コリジョン・リアクションセルに酸素ガスを2.0ml/minで導入し得られたのが、図5のstep7として示されている検出強度である。このように、本発明の方法により、煩雑な前処理をすることなく、三酸化レニウム(質量数235)、二酸化鉛(質量数239)のような他元素、他核種の干渉を排除し、数pptレベルの低濃度であっても、より精度高く、α線放出核種10種類を同時測定することができる。
【0022】
以上より、本発明の、コリジョン・リアクションセルに導入するガス種及びそのガスの流量を調整することで、同重体であっても、煩雑な工程を経ることなく、α線放出核種を分離して定量することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の方法は、煩雑な工程を必要とせずに、α線放出核種を同時に複数種定量分析することができるので、様々な環境分析機関や事業所に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 オートサンプラー(自動分取装置)
2 α核種濃縮分離カラムまたはフィルター
3 高周波誘導結合プラズマ質量分析装置
4 同軸形ネブライザまたは超音波ネブライザ
5 プラズマイオン源
6 インターフェースコーン
7 イオンレンズ
8a 高純度酸素供給手段
8 コリジョン・リアクションセル
9 四重極マスフィルター
10 検出器
図1
図2
図3
図4
図5