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特開2023-70374蒸発器用ウィック及び蒸発器用ウィックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070374
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】蒸発器用ウィック及び蒸発器用ウィックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/04 20060101AFI20230512BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
F28D15/04 E
F28D15/04 B
F28D15/02 101L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182503
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】小田切 公秀
(72)【発明者】
【氏名】小川 博之
(72)【発明者】
【氏名】常 新雨
(72)【発明者】
【氏名】永井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(57)【要約】
【課題】安定して製造が可能であり、かつ高性能な蒸発器用ウィックを提供する。
【解決手段】多孔質体の金属板が軸方向Sに複数積層されて形成された円柱状の本体部52aを備え、本体部52aは、円柱状の内部に形成され、軸方向Sの第1側の端部に開口し、第2側の端部には開口していない中空部52bと、円柱状の外周面の周方向に間隔をあけて複数形成された蒸気溝52cであって、軸方向Sの第2側の端部から軸方向Sに向けて形成され、軸方向Sの第1側の端部には形成されていない蒸気溝52cと、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の金属板が軸方向に複数積層されて形成された円柱状の本体部を備え、
前記本体部は、
前記円柱状の内部に形成され、前記軸方向の第1側の端部に開口し、第2側の端部には開口していない中空部と、
前記円柱状の外周面の周方向に間隔をあけて複数形成された蒸気溝であって、前記軸方向の前記第2側の端部から前記軸方向に向けて形成され、前記軸方向の第1側の端部には形成されていない蒸気溝と、
を備える、
蒸発器用ウィック。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発器用ウィックの製造方法であって、
多孔質体の金属板を複数積層して積層体を形成する積層工程と、
前記積層工程において形成された前記積層体を円柱状に切り出して前記本体部の基材を形成する切り出し工程と、
前記基材に前記中空部及び前記蒸気溝を形成して前記本体部を形成する形彫り工程と、
を備える、
蒸発器用ウィックの製造方法。
【請求項3】
前記切り出し工程及び前記形彫り工程に放電加工が用いられ、
前記放電加工の電気条件は、前記積層工程において積層した前記金属板の剥離を回避可能な範囲に設定する、
請求項2に記載の蒸発器用ウィックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発器用ウィック及び蒸発器用ウィックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機搭載機器の高性能化、高密度実装化や低リソース環境での設計成立要求の高まりを背景に、より高効率な熱制御デバイスが求められている。熱制御デバイスとして、LHP(ループヒートパイプ)及びCPL(キャピラリーポンプループ)が注目を集めている。LHPおよびCPLは、封入流体の蒸発と凝縮を利用して熱輸送を行う、気液二相流体ループである。
特許文献1には、蒸気の逆流を完全に防止して、作動液を閉ループ内の一定方向に安定させて循環させるループヒートパイプが開示されている。
特許文献2には、キャピラリーポンプループの蒸発器に適用される蒸発器用ウィックとして、複数設けられた細孔の内壁が蒸発器の両端にそれぞれ接続された液路から蒸気路に向けて直線状に形成されることで、毛細管力を有効に活用したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-148882号公報
【特許文献2】特開平06-194075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ループヒートパイプ及びキャピラリーポンプループは、駆動力が蒸発器の内部で生み出される毛細管力のみである。このため、省電力で長距離かつ大量の熱輸送が可能な点が特長である。高性能な蒸発器としては、毛細管性能を高くすることが重要である。毛細管性能を高くするためには、蒸発器に設けられるウィックの内部について、細孔が均一に設けられていることが好ましい。このため、材料に用いられる多孔質体を均質にすることが重要である。しかしながら、例えば金属粒子を用いてウィックを成形しようとすると、高い空隙率とより小さな空孔半径の成形を両立することが難しく、十分な性能を発揮できない。このように、上述のような十分な性能を有するウィックの製作技術が未だ確立されていない。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、安定して製造が可能であり、かつ高性能な蒸発器用ウィックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る蒸発器用ウィックは、多孔質体の金属板が軸方向に複数積層されて形成された円柱状の本体部を備え、前記本体部は、前記円柱状の内部に形成され、前記軸方向の第1側の端部に開口し、第2側の端部には開口していない中空部と、前記円柱状の外周面の周方向に間隔をあけて複数形成された蒸気溝であって、前記軸方向の前記第2側の端部から前記軸方向に向けて形成され、前記軸方向の第1側の端部には形成されていない蒸気溝と、を備える。
【0007】
この発明によれば、多孔質体の金属板が軸方向に複数積層されて形成された円柱状の本体部を備える。本体部は、円柱状の内部に形成され、軸方向の第1側の端部に開口した中空部と、円柱状の外周面に形成された蒸気溝と、を備える。円柱状の本体部を、金属粒子を焼結するなどして成形した場合、高い空隙率とより小さな空孔半径の成形を両立することが難しく、毛細管性能が低くなることがある。これに対し、多孔質体の金属を積層して本体部を構成することで、本体部の内部において毛細管現象を生じさせる細孔の大きさ及び密度を均一にすることができる。よって、毛細管性能を向上することができる。また、既存の多孔質体の金属板を使用できることから、高度な技術を必要とせず、安定した品質を確保することができる。
【0008】
また、本体部に中空部と蒸気溝とを設けることで、蒸発器における冷媒は、本体部の内側から中空部を介して蒸気溝のある外側へ移動する。つまり、冷媒が本体部の有する細孔を確実に通過するようにして、本体部において毛細管現象を確実に発生させることができる。よって、本体部における毛細管性能を確実に発揮させることができる。よって、本発明に係る蒸発器用ウィックを用いる蒸発器の性能を向上することができる。
【0009】
また、本発明に係る蒸発器用ウィックの製造方法は、多孔質体の金属板を複数積層して積層体を形成する積層工程と、前記積層工程において形成された前記積層体を円柱状に切り出して前記本体部の基材を形成する切り出し工程と、前記基材に前記中空部及び前記蒸気溝を形成して前記本体部を形成する形彫り工程と、を備える。
【0010】
この発明によれば、積層工程と、切り出し工程と、形彫り工程と、を備える。積層工程において予め積層した金属板から、切り出し工程及び形彫り工程によって切り出すように本体部を形成することで、金属粒子を焼結するなどして成形する場合と比較して、専用の型などを用意することなく本体部を成型することができる。また、高度な技術を必要としないことから、安定した品質のウィックを容易に量産することができる。
【0011】
ここで、金属板は本体部の円柱状の軸方向に積層されている。つまり、切り出し工程においては、金属板の積層方向に直交して円柱状を切り出す。これにより、各層の境界部分のうち、加工断面に露出する領域を最小化することができる。これにより、本体部の円柱状の表面にクラックが生じることを防ぐことができる。更に、予め積層した複数の金属板を切り出し工程において一度に加工することで、円盤状の金属板を積層して直接円柱状を成形した場合と比較してバラツキ等によって金属板同士の間に形状の差が生じることを防ぎ、より形状の精度(例えば、真円度等)を向上することができる。
【0012】
また、前記切り出し工程及び前記形彫り工程に放電加工が用いられ、前記放電加工の電気条件は、前記積層工程において積層した前記金属板の剥離を回避可能な範囲に設定してもよい。
【0013】
この発明によれば、切り出し工程及び形彫り工程に放電加工が用いられ、放電加工の電気条件は、積層工程において積層した金属板の剥離を回避可能な範囲に設定する。これにより、積層した金属板が剥離する、すなわちクラックが発生することを防ぐことができる。更に、切り出し工程及び形彫り工程において金属板の表面に切屑が発生したり、金属板の表面が溶けたりすることによって、金属板の表面における細孔が塞がることを防ぐことができる。よって、毛細管性能を損なうことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定して製造が可能であり、かつ高性能な蒸発器用ウィックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ループヒートパイプの概観図である。
図2図1に示すII-II方向の断面図である。
図3図2に示すIII部の拡大図である。
図4】本発明に係るウィックの斜視図である。
図5】ウィックの正面図である。
図6図5に示すVI方向の側面図である。
図7図5に示すVII方向の側面図である。
図8図5に示すVIII-VIII方向の断面図である。
図9】本発明に係るウィックの製造工程の概観図である。
図10】多孔質体で発生する毛細管力の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る蒸発器用ウィックを説明する。
図1は、ループヒートパイプ100の概観図である。ループヒートパイプ100は、前記管の内部を作動流体Rが循環し、蒸発及び凝縮を繰り返しながら循環することで熱輸送を行う、いわゆる気液二相流体ループである。ループヒートパイプ100は、宇宙機搭載機器の熱制御デバイスとして好適に用いられる。
【0017】
作動流体Rは、毛細管性能、すなわち毛細管現象を生じさせる性能が高いことが好ましい。具体的には、作動流体Rは、表面張力が大きいことが好ましい。また、作動流体Rは、物体に対する接触角が大きいことが好ましい。本実施形態において、作動流体Rは、例えば、エタノール、アセトン、アンモニア、窒素が用いられる。あるいはこれに限らず、その他の流体が用いられてもよい。
【0018】
本発明に係るウィック52(蒸発器用ウィック)は、ループヒートパイプ100の備える蒸発器50の1部品として用いられる。
図1に示すように、ループヒートパイプ100は、蒸気管10と、凝縮器20と、液管30と、補償室40と、蒸発器50と、を備える。ループヒートパイプ100における前記各構成は管が環状に接続されることで構成される。
【0019】
蒸気管10は、気体の状態である作動流体Rが輸送される部位である。蒸気管10は、一方の端部が蒸発器50に接続され、他方の端部が凝縮器20に接続される。
凝縮器20は、蒸発した作動流体Rを液体に凝縮し、排熱を行う部位である。凝縮器20の一方の端部は蒸気管10に接続され、他方の端部は液管30に接続される。
液管30は、液体の状態である作動流体Rが輸送される部位である。液管30の一方の端部は凝縮器20に接続され、他方の端部は補償室40に接続される。
【0020】
補償室40は、作動流体Rの流量を調整する部位である。作動流体Rの蒸発が活発に行われ、凝縮器20の内部において、気体である作動流体Rの割合が増加すると、液管30及び蒸発器50の内部に液体である作動流体Rが集中し、蒸発器50の性能が十分に発揮できなくなることがある。このような場合に補償室40で作動流体Rの余剰分を収容することで、蒸発器50の内部における作動流体Rの量を調整する。補償室40の一方の端部は液管30に接続され、他方の端部は蒸発器50に接続される。
【0021】
蒸発器50は、作動流体Rを蒸発させることで吸熱をする部位である。蒸発器50の大きさは、要求される必要な吸熱性能に合わせて適宜選択される。例えば、宇宙空間で用いられる蒸発器50は、例えば、直径12mm、長さ50mm~60mmのものが用いられる。
蒸発器50は、容器51と、ウィック52と、を備える。蒸発器50の一方の端部は補償室40に接続され、他方の端部は蒸気管10に接続される。
【0022】
容器51は、図2に示すように内部にウィック52を収容する筒状の部材である。容器51は、耐熱性能、強度及び耐久性の観点から、金属製であることが好ましい。容器51とウィック52とは、焼き嵌めにより固定される。ループヒートパイプ100における作動流体Rは、ウィック52の外周面と容器51の内周面との間で蒸発する。蒸発した作動流体Rは蒸気管10に移動し、凝縮器20へ搬送される。
ウィック52は、容器51との間において作動流体Rを蒸発させる役割を有する部位である。ウィック52は、本体部52aと、本体部52aに形成された中空部52bと、蒸気溝52cと、を備える。
【0023】
本体部52aは、円柱状の部材である。本体部52aは、毛細管現象を用いて作動流体Rを中空部52bの側から蒸気溝52cの側に移動させる。このため、本体部52aには多孔質体が用いられる。多孔質体は、耐熱性能、強度及び耐久性の観点から、金属であることが好ましい。あるいは、毛細管現象を発生させることができれば、本体部52aにはセラミック等の素材が用いられてもよい。
【0024】
本実施形態において、本体部52aは、図4又は図9に示すように多孔質体の金属板が円柱状の軸方向Sに複数積層されて形成される。ここで、多孔質体の金属板とは、板状の部材の内部に無数の細孔を備えたものである。本実施形態において、金属板には、例えば、ステンレス製の多孔質体が用いられる。
【0025】
本体部52aに用いられる金属板について、下記性能が要求される。すなわち、金属板の内部における細孔の半径が少なくとも5μm以下の範囲であり、細孔の体積が金属板の体積の50%以上の範囲であること、細孔への作動流体Rの浸透率が高いこと、すなわち毛細管性能が高いこと、熱伝導率が低いこと、である。
【0026】
多孔質体で発生する毛細管力Pc(毛細管性能)は、次の数式(1)より算出される。なお、以下の式において、σは流体の表面張力(N/m)、θは流体と多孔質体間の接触角(°)、rporeは多孔質体の細孔半径(m)を表す。本計算では、エタノール、アセトン、アンモニアの300Kにおける表面張力と、80Kにおける窒素の表面張力を用いた。また接触角は全て0°、すなわちcosθ=1を仮定して計算した。rporeは、0.5~10μmの範囲で計算した。
【0027】
【数1】
【0028】
上記範囲に係る計算の結果を、図10に示す。図10に示す本計算結果より、多孔質体の細孔半径は毛細管力に特に5μm以下で大きな影響を与え、細孔半径が小さいほど高い毛細管性能が得られることが分かる。
【0029】
これらの要求を高い水準で達成する多孔質材料として、ステンレス製の金属板が好適である。具体的には、例えば、フィルター用途の1mm厚のステンレスメッシュを積層し焼結させた、30~40mm厚の積層型ステンレス多孔質体ブロックが特に好適である。
また、ステンレス多孔質ブロックに限らず、積層型金属多孔質ブロックであれば、この範囲で材料の種類を変えて適用することが可能である。例えば、銅多孔質ブロック、ニッケル多孔質ブロック、チタン多孔質ブロック、アルミニウム多孔質ブロックを用いてもよい。
【0030】
中空部52bは、本体部52aの円柱状の内部に形成される。図6図7図8に示すように、中空部52bは、軸方向Sの第1側の端部に開口し、第2側の端部には開口していない。以下、第1側とは、図1に示すループヒートパイプ100において、ウィック52を流れる作動流体Rの上流側をいい、第2側とは、ウィック52を流れる作動流体Rの下流側をいうものとする。ここで、第2側の端部に中空部52bが開口していると、作動流体Rが本体部52aの細孔を介さずに、第2側の端部の開口から流出する。このため、第2側の端部に中空部52bが開口しないことで、作動流体Rが確実に中空部52bから蒸気溝52cに向けて移動するようにする。
【0031】
蒸気溝52cは、本体部52aの円柱状の外周面の周方向に間隔をあけて複数形成される。図5に示すように、蒸気溝52cは、軸方向Sの第2側の端部から軸方向Sに向けて形成され、軸方向Sの第1側の端部には形成されていない。このような形状とすることで、本体部外周面において蒸気溝52cが形成されていない部位が、焼き嵌めにより容器51の内周面と嵌合する。
【0032】
上述の構成を備えるウィック52において、液体の状態である作動流体Rは下記のように移動する。すなわち、図3に示すように、作動流体Rは、本体部52aの有する細孔の内部を毛細管現象によって移動する。具体的には、液体の状態である作動流体Rは、補償室40を通過した後に、ウィック52の中空部52bに流入する。その後、中空部52bから細孔を通して毛細管現象によって蒸気溝52cの側に移動する。
【0033】
このように本体部52aの内部を通過した作動流体Rは、本体部52aの外周面と容器51の内周面との間で蒸発する。蒸発した作動流体Rは、蒸気溝52cを通って蒸気管10に運搬される。蒸気管10に移動した作動流体Rは、その後、凝縮器20に移動して液体に凝縮され、液管30に移動する。このようにして、作動流体Rは、ループヒートパイプ100の内部を循環する。ループヒートパイプ100における作動流体Rの循環は、ウィック52における毛細管現象による移動を駆動力として行われる。
【0034】
(ウィック52の製造方法)
次に、本発明に係るウィック52の製造方法について説明する。製造方法には、積層工程と、切り出し工程と、形彫り工程と、を備える。
積層工程は、多孔質体の金属板を複数積層して積層体Bを形成する工程である。具体的には、まず、図9に示すように、金属板を複数枚積層してブロック状にする。その後、積層した複数の金属板を、重ね合わせた方向から加圧しながら加熱する。これにより金属板同士を焼結させ、本体部52aの基材となる積層体Bを形成する。
【0035】
切り出し工程は、積層工程において形成された積層体Bを円柱状に切り出して本体部52aの基材を形成する工程である。切り出し工程においては、積層間に剥離(クラック)を発生させない、いわゆるクラックレスな加工が要求される。本体部52aにクラックが生じると毛細管性能が低下するためである。また、本体部52aの円柱状における真円度が低下する。これにより、容器51と本体部52aとのはめ合いの精度が低下するためである。
【0036】
本実施形態のように本体部52aを円柱状とする場合、軸方向S及び蒸気溝52cの長手方向に対して、直交方向に積層が存在する。この積層の間にクラックを生じさせないために、ワイヤーカット放電加工が好適に用いられる。また、ワイヤーカット放電加工の電気条件は、金属板の剥離、すなわちクラックの発生を回避可能な範囲に設定する。一般的に、ブロック状の金属をワイヤーカット放電加工する際、ファーストカットの条件が用いられるが、この条件を用いるとクラックが生じやすくなる。このため、本実施形態においては、フォースカット等の条件により加工することで、クラックの発生を回避する。
【0037】
形彫り工程は、切り出し工程で形成した基材に中空部52b及び蒸気溝52cを形成して本体部52aを形成する工程である。形彫り工程には、形彫り放電加工が用いられる。形彫り放電加工においても、切り出し工程と同様に、クラックレスな加工が要求される。このため、形彫り工程においても、フォースカット等の低電圧の条件により加工することで、クラックの発生を回避する。
以上の工程により、ウィック52を形成する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るウィック52によれば、多孔質体の金属板が軸方向Sに複数積層されて形成された円柱状の本体部52aを備える。本体部52aは、円柱状の内部に形成され、軸方向Sの第1側の端部に開口した中空部52bと、円柱状の外周面に形成された蒸気溝52cと、を備える。円柱状の本体部52aを、金属粒子を焼結するなどして成形した場合、バラツキ等により本体部52aの内部の細孔が均一とならず、毛細管性能が低くなることがある。これに対し、多孔質体の金属を積層して本体部52aを構成することで、本体部52aの内部において毛細管現象を生じさせる細孔の大きさ及び密度を均一にすることができる。よって、毛細管性能を向上することができる。また、既存の多孔質体の金属板を使用できることから、高度な技術を必要とせず、安定した品質を確保することができる。
【0039】
また、本体部52aに中空部52bと蒸気溝52cとを設けることで、蒸発器50における冷媒は、本体部52aの内側から中空部52bを介して蒸気溝52cのある外側へ移動する。つまり、冷媒が本体部52aの有する細孔を確実に通過するようにして、本体部52aにおいて毛細管現象を確実に発生させることができる。よって、本体部52aにおける毛細管性能を確実に発揮させることができる。よって、本発明に係るウィック52を用いる蒸発器50の性能を向上することができる。
【0040】
また、積層工程と、切り出し工程と、形彫り工程と、を備える。積層工程において予め積層した金属板から、切り出し工程及び形彫り工程によって切り出すように本体部52aを形成することで、金属粒子を焼結するなどして成形する場合と比較して、専用の型などを用意することなく本体部52aを成型することができる。また、高度な技術を必要としないことから、安定した品質のウィック52を容易に量産することができる。
【0041】
ここで、金属板は本体部52aの円柱状の軸方向Sに積層されている。つまり、切り出し工程においては、金属板の積層方向に直交して円柱状を切り出す。これにより、各層の境界部分のうち、加工断面に露出する領域を最小化することができる。これにより、本体部52aの円柱状の表面にクラックが生じることを防ぐことができる。更に、予め積層した複数の金属板を切り出し工程において一度に加工することで、円盤状の金属板を積層して直接円柱状を成形した場合と比較してバラツキ等によって金属板同士の間に形状の差が生じることを防ぎ、より形状の精度(例えば、真円度等)を向上することができる。
【0042】
また、切り出し工程及び形彫り工程に放電加工が用いられ、放電加工の電気条件は、積層工程において積層した金属板の剥離を回避可能な範囲に設定する。これにより、積層した金属板が剥離する、すなわちクラックが発生することを防ぐことができる。更に、切り出し工程及び形彫り工程において金属板の表面に切屑が発生したり、金属板の表面が溶けたりすることによって、金属板の表面における細孔が塞がることを防ぐことができる。よって、毛細管性能を損なうことを防ぐことができる。
【0043】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ループヒートパイプ100は宇宙機搭載機器の熱制御デバイスとして好適に用いられると説明したが、これに限らない。例えば、ノートPCやタブレット端末等におけるCPU排熱、プロジェクターの光源排熱、自動車における排熱にループヒートパイプ100を用いてもよい。
本実施形態に係るウィック52はループヒートパイプ100に用いるものとして説明したが、キャピラリーポンプループに用いてもよい。
【0044】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
50 蒸発器
52 ウィック
52a 本体部
52b 中空部
52c 蒸気溝
B 積層体
S 軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10