(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070388
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】酸素発生装置および酸素発生方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/047 20210101AFI20230512BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20230512BHJP
C25B 9/09 20210101ALI20230512BHJP
C30B 29/22 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C25B11/047
C25B1/02
C25B9/09
C30B29/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182529
(22)【出願日】2021-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/高温溶融塩電解を利用したCO2還元技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太
【テーマコード(参考)】
4G077
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC60
4K011AA02
4K011DA09
4K021AA01
4K021BA01
4K021DA03
4K021DA13
4K021DC01
(57)【要約】
【課題】溶融塩に対する高い耐食性を有する陽極を備える、酸素発生装置および酸素発生方法を提供する。
【解決手段】電解槽と、前記電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、前記酸化物イオンを酸化して酸素を発生させる酸素発生装置であって、前記陽極は、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽と、
前記電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、
前記酸化物イオンを酸化して酸素を発生させる酸素発生装置であって、
前記陽極は、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置。
【請求項2】
前記複合酸化物は、下記式(1):
La1-xSrxCo1-yMyO3-δ
(式中、Mはランタンおよびコバルト以外の遷移金属であり、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.1、δは酸素欠損量である。)
で表される、請求項1に記載の酸素発生装置。
【請求項3】
前記複合酸化物は、下記式(2):
La1-xSrxCoO3-δ
(式中、0.2≦x≦0.6、δは酸素欠損量である。)
で表される、請求項1または2に記載の酸素発生装置。
【請求項4】
電解槽と、
前記電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、
前記陽極が、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置を用いて、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、前記酸化物イオンを酸化して、酸素を発生させる、酸素発生方法。
【請求項5】
前記複合酸化物は、下記式(1):
La1-xSrxCo1-yMyO3-δ
(式中、Mはランタンおよびコバルト以外の遷移金属であり、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.1、δは酸素欠損量である。)
で表される、請求項4に記載の酸素発生方法。
【請求項6】
前記複合酸化物は、下記式(2):
La1-xSrxCoO3-δ
(式中、0.2≦x≦0.6、δは酸素欠損量である。)
で表される、請求項4または5に記載の酸素発生方法。
【請求項7】
前記溶融塩の温度は、400℃以上850℃以下である、請求項4~6のいずれか一項に記載の酸素発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生装置および酸素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融塩を用いて複合酸化物を電気分解する方法が知られている。この電気分解の陽極として、一般に、化学的に安定とされる白金電極、または、耐熱性の高い炭素電極が用いられる。特許文献1は、ダイヤモンド電極を用いた複合酸化物の電気分解を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白金電極または炭素電極は、溶融塩に対する耐食性に劣る。さらに、炭素電極は、複合酸化物の電気分解により生成した酸化物イオンと反応するため、消耗し易く、また、二酸化炭素を発生させる。温室効果ガスである二酸化炭素の発生は望ましくない。ダイヤモンド電極は、消耗し難く、また、二酸化炭素の発生を抑制することができる点で望ましい。
【0005】
資源の有効利用の観点から、電気分解の対象は、今後、さらに多様化すると予想されており、溶融塩を用いた電気分解がより注目されている。そのため、溶融塩に対する耐食性がより高い陽極が求められる。
【0006】
本開示は、溶融塩に対する高い耐食性を有する陽極を備える、酸素発生装置および酸素発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、下記の態様を含む。
[1]
電解槽と、
前記電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、
前記酸化物イオンを酸化して酸素を発生させる酸素発生装置であって、
前記陽極は、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置。
[2]
前記複合酸化物は、下記式(1):
La1-xSrxCo1-yMyO3-δ
(式中、Mはランタンおよびコバルト以外の遷移金属であり、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.1、δは酸素欠損量である。)
で表される、上記[1]に記載の酸素発生装置。
[3]
前記複合酸化物は、下記式(2):
La1-xSrxCoO3-δ
(式中、0.2≦x≦0.6、δは酸素欠損量である。)
で表される、上記[1]または[2]に記載の酸素発生装置。
[4]
電解槽と、
前記電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、
前記溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、
前記陽極が、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置を用いて、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、前記酸化物イオンを酸化して、酸素を発生させる、酸素発生方法。
[5]
前記複合酸化物は、下記式(1):
La1-xSrxCo1-yMyO3-δ
(式中、Mはランタンおよびコバルト以外の遷移金属であり、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.1、δは酸素欠損量である。)
で表される、上記[4]に記載の酸素発生方法。
[6]
前記複合酸化物は、下記式(2):
La1-xSrxCoO3-δ
(式中、0.2≦x≦0.6、δは酸素欠損量である。)
で表される、上記[4]または[5]に記載の酸素発生方法。
[7]
前記溶融塩の温度は、400℃以上850℃以下である、上記[4]~[6]のいずれかに記載の酸素発生方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融塩に対する高い耐食性を有する陽極を備える、酸素発生装置および酸素発生方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の酸素発生装置の一例を示す模式図である。
【
図2】実施例において使用した実験装置の模式図である。
【
図3A】実施例1で作製された仮焼成後の混合物のXRD分析の結果を示すグラフである。
【
図3B】実施例1で作製された陽極のXRD分析の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で作製された陽極の導電率と温度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1および2で行ったサイクリックボルタンメトリーの結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で行われた定電流電解中における、陽極の電位の経時変化を示すグラフである。
【
図7A】実施例1で作製された陽極の電解前の表面をSEMで撮影した二次電子像(3000倍)である。
【
図7B】実施例1で作製された陽極の電解前の表面をSEMで撮影した反射電子像(3000倍)である。
【
図8A】実施例1で作製された陽極の電解後の表面をSEMで撮影した二次電子像(3000倍)である。
【
図8B】実施例1で作製された陽極の電解後の表面をSEMで撮影した反射電子像(3000倍)である。
【
図9】実施例1で作製された陽極の電解後のXRD分析の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例3および4で行ったサイクリックボルタンメトリーの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
陽極材料として、多機能な金属複合酸化物に着目した結果、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物(以下、LSC酸化物と称する場合がある。)が、酸化物イオンと反応し難く、かつ、溶融塩に対して極めて高い耐食性を有していることが見出された。このLSC酸化物を含む陽極(以下、LSC陽極と称する場合がある。)を用いると、陽極からは安定して酸素(好ましくは酸素のみ)が発生し、陽極の消耗および溶解が抑制される。その結果、不純物が発生し難く、電解浴の汚染も抑制される。
【0011】
加えて、LSC陽極は、広い温度域で極めて優れた導電性を示す。そのため、高い温度で電解を行っても、すなわち、溶融塩の温度を高くしても、効率よく酸素を発生させることができる。溶融塩の高温化は、溶融塩に溶解される電解の対象物(被電解物。通常は、酸化物イオン源)の増量および反応速度の向上をもたらすため、望ましい。さらに、LSC電極は、白金電極やダイヤモンド電極と比較して、低コストで作製することができる。
【0012】
[酸素発生装置]
本開示に係る酸素発生装置は、電解槽と、電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、陰極と陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備える。陽極は、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物(LSC酸化物)を含む。LSC陽極は、溶融塩に対する高い耐食性と、広い温度域における優れた導電性を有する。
【0013】
本開示に係る装置は、酸化物イオンを酸化して酸素を発生させるために使用される。酸素の発生に伴い、酸化物イオン源は還元される。つまり、本開示に係る酸素発生装置は、種々の酸素原子を含む化合物の還元に利用できる。そのため、例えば、本開示に係る酸素発生装置は、種々の金属酸化物から純金属を製造するプロセス(精錬)や、原子力発電の使用済酸化物燃料の再処理プロセスに使用することができる。
【0014】
加えて、本開示に係る酸素発生装置は、溶融塩を電解質として用いるため、固体、液体および気体のいずれの状態の物質であっても、電解の対象になり得る。
【0015】
(陽極)
陽極は、酸素発生電極(アノード)である。酸化物イオン源(被電解物)の電解によって生成した酸化物イオン(O2-)は、陽極上で酸化される。LSC陽極上において、酸化物イオンと炭素との反応は起こらない。よって、陽極の消耗が抑制され、また、陽極からは、二酸化炭素および/または一酸化炭素ではなく、酸素(好ましくは酸素のみ)が発生する。
【0016】
LSC陽極は、溶融塩を用いた電解において、カーボン電極や白金電極よりも高い耐食性を有する。電極の耐食性は、例えば、腐食速度から評価できる。腐食速度γ(g/cm2・h)は、論文:S. Jiao, Derek J. Fray, The Minerals, Metals & Materials Society and ASM International, 41B(2010)に基づき、下記の式により算出できる。
γ=△W/t・S
△W:電解前後の電極の質量変化(g)
t:電解(浸漬)時間(h)
S:電極の浸漬している部分の表面積(cm2)
【0017】
上記論文によれば、腐食速度γは1.5×10-3(g/cm2・h)以下が望ましいとされている。本開示で用いられる陽極の腐食速度γは、1.5×10-3(g/cm2・h)以下であり、1.0×10-3(g/cm2・h)以下であり、0.5×10-3(g/cm2・h)以下であり得る。
【0018】
LSC陽極は、常温から高温の広い範囲で優れた導電性(電子の伝導性)を示す。例えば、20℃から850℃の範囲において、LSC陽極の導電率は8×104S/m以上である。導電性を示す複合酸化物は一般に知られており、その導電率は温度上昇に伴って高まる。しかしながら、LSC酸化物以外の複合酸化物の導電率は、高温下であっても、LSC陽極よりかなり小さい。例えば、NiO-Fe2O3-Cuの導電率は、980℃で1.11×103S/m程度である(出典:I.Galasiu, R. Galasiu, J. Thonstad, “Inert Anodes for Alminium Electrolysis”, 1st edition,Alminium-Verlag (2007))。
【0019】
本実施形態における酸素発生プロセスにおいて、反応物質は酸化物イオンである。LSC酸化物は、この酸化物イオンとの親和性に特に優れていると考えられる。そのため、LSC陽極は、本実施形態における酸素発生プロセスに特に適している。電極の元素組成によって、反応物質との親和性が変化することは、例えば、論文:M.H. Seo, H.W. Park, D.U. Lee, M.G. Park, Z. Chen, ACS Catal., 5 (2015) 4337.、J. Suntivich, K.J. May, H.A. Gasteiger, J.B. Goodenough, Y.S. Horn, Science, 334 (2011) 1383.に示されている。
【0020】
LSC酸化物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。ペロブスカイト型複合酸化物は、一般にABO3で表される。Aサイトには、Bサイトよりイオン半径の大きな元素が入る。LSC酸化物は、Aサイトに位置する元素としてランタン(La)およびストロンチウム(Sr)を含み、Bサイトに位置する元素としてコバルト(Co)を含む。
【0021】
LSC酸化物は、例えば、下記式(1):
La1-xSrxCo1-yMyO3-δ
(式中、Mはランタンおよびコバルト以外の遷移金属であり、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.1、δは酸素欠損量である。)
で表される。
【0022】
Aサイトには、LaおよびSrが配置される。Aサイトに占めるSrの割合x(元素数基準)は、0.1≦x≦0.9である。Srの割合xが0.1以上であると、広い温度域において優れた導電性が得られる。特に、高温において高い導電率が得られ易い点で、Srの割合xは0.2以上であってよく、0.3以上であってよい。Srの割合xが0.9以下であると、LSC酸化物の焼結性が向上し、相対密度が高まり易い。相対密度の観点から、Srの割合xは0.6以下であってよく、0.5以下であってよい。一態様において、Srの割合xは0.2≦x≦0.6であり、0.3≦x≦0.5であり得る。
【0023】
Bサイトには、Coが配置される。Bサイトには、Coとともに、LaおよびCo以外の遷移金属である金属元素Mが配置されてもよい。金属元素Mとしては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)の第一遷移金属が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
高温下における導電性の観点から、Bサイトに占める金属元素Mの割合は小さい方が望ましい。Bサイトに占める金属元素Mの割合y(元素数基準)は、0≦y≦0.1であり、0≦y≦0.05であってよく、y=0であってよい。
【0025】
望ましいLSC酸化物は、例えば、下記式(2):
La1-xSrxCoO3-δ
(式中、0.2≦x≦0.6、δは酸素欠損量である。)
で表される。
【0026】
酸素欠損量δは、LSC酸化物の製造条件等によって変化し得る。酸素欠損量δは、例えば、0≦δ≦0.15であり、0≦δ≦0.10であってよく、0≦δ≦0.05であってよい。LSC酸化物における各元素の割合は、例えば、電子プローブマイクロアナライザを使用した波長分散型X線分析(Wavelength Dispersive X-ray spectroscopy)を用いて求めることができる。
【0027】
LSC陽極には、LSC酸化物の原料やLSC酸化物以外の複合酸化物が含まれ得る。耐食性および導電性の観点から、陽極に占めるLSC酸化物の割合は80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。同様の観点から、陽極は、LSC酸化物の単一相から形成されることが望ましい。
【0028】
陽極の相対密度は、90%以上であってよく、95%以上であってよく、98%以上であってよい。これにより、陽極の耐食性および導電性はさらに向上する。相対密度は空隙の多寡を表す指標の一つである。相対密度が大きいほど、空隙が少なく緻密であることを示す。LSC酸化物からなる陽極の相対密度は、その陽極の質量の実測値を、LSC酸化物の比重に陽極のみかけの体積を乗じて算出される陽極の理論上の質量で除すことにより、算出される。
【0029】
(陰極)
陰極上では、酸化物イオン源由来のカチオンの還元反応が起こる。
陰極(カソード)の材質は特に限定されない。陰極の材料としては、例えば、Ag、Cu、Ni、Pb、Hg、Tl、Bi、In、Sn、Cd、Au、Zn、Pd、Ga、Ge、Ni、Fe、Pt、Pd、Ru、Ti、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zrおよびこれらの合金等の金属、ならびに、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンド等のカーボン材料が挙げられる。
【0030】
(酸化物イオン源)
酸化物イオン源は、電解の対象(被電解物)である。酸化物イオン源は、酸素原子を含む限り、特に限定されない。酸化物イオン源の状態も特に限定されず、常温で気体、液体または固体のいずれであってもよい。常温で固体の酸化物イオン源としては、例えば、金属の酸化物および金属の炭酸塩(以下、第1金属化合物と総称する。)が挙げられる。常温で気体の酸化物イオン源(以下、酸化物ガスと称する。)としては、例えば、炭素の酸化物(すなわち、二酸化炭素)、硫黄の酸化物(いわゆる、SOx)および窒素の酸化物(いわゆる、NOx)が挙げられる。常温で液体の酸化物イオン源としては、例えば、水素の酸化物(すなわち、水)が挙げられる。
【0031】
第1金属化合物は特に限定されない。本開示によれば、高温で電解を行うことができる。そのため、溶融し難い第1金属化合物であっても、電解の対象になり得る。第1金属は、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはケイ素であってよく、プルトニウムまたはウラン等の原子力発電の燃料に用いられる金属であってよく、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であってよい。
【0032】
溶融塩に添加される第1金属化合物の量は、特に限定されない。本開示によれば、より多くの第1金属化合物を溶融塩に溶融させることができる。反応効率の観点から、第1金属化合物の添加量は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上が特に好ましい。第1金属化合物の添加量は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、例えば、20モル%以下であり、15モル%以下であってよく、10モル%以下であってよい。一態様において、第1金属化合物の添加量は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上20モル%以下である。
【0033】
酸化物ガスは、電解槽の気相部に吹き込んで溶融塩の液面と接触させるか、あるいは、溶融塩中に吹き込むことにより、溶融塩に添加される。電圧印加前に、十分な量の酸化物ガスを溶融塩に添加してもよいし、電圧を印加しながら、酸化物ガスを溶融塩に添加してもよい。酸化物ガスは、不活性ガス(典型的には、アルゴンガス)と混合した後、溶融塩に添加されてもよい。酸化物ガスの添加量は、溶融塩中への溶解度等を考慮して適宜設定することができる。常温で液体の酸化物は、例えば加熱して気体にした後、酸化物ガスと同様にして、溶融塩に添加される。
【0034】
(溶融塩)
溶融塩は、電解浴において電解質として機能する。溶融塩によって、酸化物イオン源が溶融され易くなる。溶融塩としては、金属(以下、第2金属と称する)のイオンとそのカウンターイオン(以下、第2アニオンと称する。)との塩(金属塩。金属酸化物を含む。)が挙げられる。
【0035】
金属塩は特に限定されず、酸化物イオン源や電解温度等に応じて適宜選択される。第2金属としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)が挙げられる。
【0036】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。アルカリ土類金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素およびアクチノイド元素が挙げられる。なかでも、安定性および酸化物イオン源の溶解性の観点から、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0037】
第2アニオンとしては、例えば、炭酸イオン(CO3
2-)、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオン、酸化物イオン(O2
-)、ハロゲンイオンが挙げられる。なかでも、安定性および酸化物イオン源の溶解性の観点から、ハロゲンイオンが好ましい。
【0038】
ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)およびアスタチン(At)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいハロゲンとしては、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0039】
金属塩としては、具体的には、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等のハロゲン化アルカリ金属;MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2、MgBr2、CaBr2、SrBr2、BaBr2、MgI2、CaI2、SrI2、BaI2等のハロゲン化アルカリ土類金属;AlCl3等の希土類元素のハロゲン化物;Li2O、CaO等の第1金属以外の金属の酸化物;Li2CO3、Na2CO3、K2CO3等の金属炭酸塩;LiNO3、NaNO3、KNO3等の金属硝酸塩が挙げられる。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0040】
金属塩は、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、溶融温度が低下し易い点で、2種以上の他の金属塩を組み合わせて用いることが好ましい。例えば、複数種の塩化物の組み合わせ、複数種のフッ化物の組み合わせ、および、1以上の塩化物と1以上のフッ化物との組み合わせが挙げられる。具体例としては、LiClとKCl、LiClとCaCl2、LiClとKClとCaCl2、LiFとNaFとKF、NaFとNaCl、NaClとKClとAlCl3との組み合わせが挙げられる。
【0041】
複数種の金属塩の組み合わせにおいて、各金属塩の配合比は特に限定されない。例えば、LiClとKClとの組み合わせにおいて、LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、30モル%以上であってよく、45モル%以上であってよく、50モル%以上であってよい。LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、90モル%以下であってよく、70モル%以下であってよく、65モル%以下であってよい。一態様において、LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、45モル%以上90モル%以下である。
【0042】
(電解槽)
電解槽は、耐熱性を有し、かつ、必要な量の溶融塩を収容できる限り、特に限定されない。電解槽の形状、大きさおよび材料は、目的に応じて適宜選択される。電解槽の材料としては、例えば、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、パイレックス(登録商標)ガラス、石英が挙げられる。
【0043】
(電源)
電源は、陰極および陽極それぞれと電気的に接続している。電源によって、陰極と陽極との間に電圧(典型的には、直流電圧)が印加される。電源としては、従来公知のものを適宜利用することができる。
【0044】
図1は、本開示に係る酸素発生装置の一例を示す模式図である。
酸素発生装置20は、電解槽1と、溶融塩2と、陰極3と、陽極4と、電源5と、を備える。溶融塩2は、電解槽1に収容されており、溶融状態の金属塩を含む。陰極3および陽極4の少なくとも一部は、溶融塩2に浸漬されている。電源5は、陰極3および陽極4にそれぞれ電気的に接続しており、両者の間に電圧を印加する。酸素発生装置20は、さらに、金属塩を加熱して溶融状態を保持するためのヒーター6を備える。ヒーター6は、例えば、電解槽1の外側を取り囲むように配置されている。
【0045】
溶融塩2に酸化物イオン源MOxが添加され、電源5によって陰極3と陽極4との間に電圧が印加されると、溶融塩2中で、以下のように酸化物イオン源MOxが還元される。その結果、Mの単体および酸素O2が生じる。Mの単体は、例えば電解槽1の底部に沈殿し、回収される。酸素O2は、電解槽1の気相中へと排出され、回収される。電解槽1の内部には、Mの単体を回収するための回収槽(図示せず)が配置されてもよい。
【0046】
陰極(カソード):Mx++xe- → M
陽極(アノード):2O2- → O2+4e-
全反応 :MOx → M+x/2O2
【0047】
本開示に係る酸素発生装置は、陽極の材料にLSC酸化物を用いているため、陽極と酸化物イオンとの反応が起こり難い。よって、陽極からは効率よく酸素が発生し、また、陽極の消耗が抑制される。さらに、LSC酸化物は溶融塩に対して溶解し難く、不純物の発生が抑制される。
【0048】
[酸素発生方法]
本開示に係る酸素発生方法は、電解槽と、電解槽に収容され、酸化物イオンを含む溶融塩と、溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陰極と、溶融塩に少なくとも一部が浸漬された陽極と、陰極と陽極との間に電圧を印加するための電源と、を備え、陽極が、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含む複合酸化物を含む、酸素発生装置を用いて、陰極と陽極との間に電圧を印加する。これにより、溶融塩に含まれる酸化物イオンが酸化されて、陽極から酸素(好ましくは酸素のみ)が発生する。
【0049】
酸素発生装置の詳細は、上記の通りである。
【0050】
印加電圧は、酸素が発生する限り特に限定されない。酸素発生電位(Li+/Li基準)は、典型的には2.4Vから3.7Vである。LSC陽極を用いると、電位(Li+/Li基準)が2.4Vから3.7Vの範囲において、安定して高い電流密度が得られる。
【0051】
電気分解時における溶融塩の温度は、400℃以上850℃以下であってよい。このような高温下であっても、LSC陽極は優れた導電性を示すため電解効率が高く、さらに、消耗および溶解は抑制される。加えて、溶融塩を高温に加熱することができるため、より多くの酸化物イオン源を速やかに処理することができる。さらに、種々の酸化物イオン源を電解することができる。溶融塩の温度は、420℃以上であってよく、430℃以上であってよい。溶融塩の温度は、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。
【0052】
[LSC陽極の製造方法]
本開示で用いられる陽極(LSC陽極)は、例えば、以下の方法により製造される。これにより、相対密度が高く、酸素発生電極として適する陽極が得られる。以下、LSC酸化物からなる陽極を製造しているが、本開示で用いられる陽極は、LSC酸化物とそれ以外の材料とから形成されてもよい。
【0053】
LSC陽極は、La元素、Sr元素、およびCo元素を含む原料を700℃以上1000℃以下で10時間以上焼成(仮焼成)することと、得られた仮焼成物を粉砕することと、粉砕物を所望の形状に成形することと、成形物を1200℃以上1600℃以下で5時間以上焼成(本焼成)することと、を含む方法により製造される。
【0054】
(1)仮焼成
原料は、La元素、Sr元素、およびCo元素を含んでいればよい。原料は、La元素、Sr元素、およびCo元素をそれぞれ含む金属化合物の組み合わせであってよく、これら元素のうち、少なくとも2種の元素を含む金属化合物の組み合わせであってよい。原料は、必要に応じて、さらに金属元素Mを含む。原料としては、例えば、上記元素の酸化物、炭酸塩、硝酸塩などの金属化合物が挙げられる。このような金属化合物としては、具体的には、酸化ランタン、炭酸ランタン、酸化ストロンチウム、酸化コバルト、炭酸コバルトが挙げられる。原料は、La元素、Sr元素、Co元素、さらには金属元素Mを、上記の式(1)におけるxおよびyを満たす比率で含む。
【0055】
金属化合物は乾式で混合された後、仮焼成される。仮焼成により、目的物であるLSC酸化物が生成される。仮焼成は、700℃以上1000℃以下で10時間以上行われる。これにより、LSC酸化物の単一相が形成され易くなる。単一相であることは、例えば、X線回折(XRD)分析により確認できる。
【0056】
LSC酸化物の単一相がさらに形成され易い点で、仮焼成温度は750℃以上であってよく、800℃以上であってよい。同様の観点から、仮焼成温度は900℃以下であってよい。同様に、仮焼成時間は、20時間以上であってよく、22時間以上であってよい。生産性の観点から、仮焼成時間は48時間以下であってよく、30時間以下であってよい。
【0057】
仮焼成時間とは、昇温過程および降温過程を除く期間である。仮焼成温度は、仮焼成時間中の平均温度である。仮焼成時間中に、瞬間的に、または短時間だけ700℃未満あるいは1000℃超になることは許容される。「瞬間的」とは、15分間以内を意味する。「短時間」とは、仮焼成時間の20%未満の期間を意味する。焼成時間および焼成温度も同様である。
【0058】
仮焼成工程は、酸素含有雰囲気で行われる。仮焼成工程に用いられる雰囲気の酸素含有量は、特に限定されない。仮焼成は、例えば、大気雰囲気(酸素含有率:約20体積%)で行ってもよく、純酸素(酸素含有率:100体積%)中で行ってもよい。
【0059】
仮焼成の前に、原料に含まれる結晶水や有機物などの除去を目的とする予備焼成を行ってもよい。予備焼成は、例えば、仮焼成よりも低温で短時間行われる。
【0060】
(粉砕)
得られた仮焼成物を粉砕する。これにより、LSC酸化物の単一相がさらに形成され易くなる。加えて、仮焼成物の形状および粒度が均一化されて、得られる陽極の相対密度が高くなり易い。
【0061】
粉砕は、例えば、ビーズミル、ボールミル、ロッドミル、粉砕ロール、ジェットミルにより行われる。遊星ボールミルを用いる粉砕は、仮焼成物を冷却した後、例えば、回転数200rpm以上500rpm以下で、2時間以上10時間以下行われる。ビーズミルで使用される粉砕メディアの直径は、例えば、0.01mm以上50mm以下である。粉砕メディアの材質としては、例えば、二酸化ジルコニウムまたは酸化アルミニウムが挙げられる。
【0062】
(成形)
粉砕物を所望の形状に成形する。成形は、例えば、各種プレス機(代表的には、冷間静水圧プレス機)によって行われる。プレス圧力は特に限定されない。プレス圧力は、例えば、200MPa以上400MPa以下である。
【0063】
(本焼成)
成形物を1200℃以上1600℃以下で5時間以上焼成する。これにより、LSC陽極が得られる。LSC陽極は、望ましくはLSC酸化物の単一相により形成されている。LSC陽極の相対密度は、例えば90%以上である。
【0064】
LSC酸化物の単一相がさらに形成され易い点で、焼成温度は1250℃以上であってよく、1300℃以上であってよい。同様の観点から、焼成温度は1550℃以下であってよい。同様に、焼成時間は、6時間以上であってよく、7時間以上であってよい。生産性の観点から、焼成時間は15時間以下であってよく、10時間以下であってよい。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
[実験装置]
図2は、本実施例で使用した実験装置の模式図である。実験装置30は、電解槽1と、溶融塩2と、陰極3と、陽極4と、電源5と、を備える。実験装置30は、さらに、参照電極7、熱電対9、供給管10および排出管11を備える。電解槽1は、密閉容器12に収容されている。密閉容器12は、本体12aと本体12aの上部開口を閉じる蓋12bとを備えている。密閉容器12の外側には、これを取り囲むヒーター6が配置されている。
【0067】
陰極3は、コイル状のニッケル線である。陽極4は、LSC酸化物により形成されている。参照電極7はAg+/Ag電極である。陰極3、陽極4および参照電極7はそれぞれ、ニッケル製の導線8によって、ポテンショスタット/ガルバノスタット装置(バイオロジック社製)に接続されている。溶融塩2は溶融状態の金属塩であり、電解槽1に収容されている。陰極3、陽極4および参照電極7は、溶融塩2に浸かるように、蓋12bに固定されている。供給管10から電解槽1内にアルゴンガスが導入されて、実験装置30はアルゴン雰囲気に維持されている。アルゴンガスは、発生した酸素とともに排出管11から実験装置30の外部に排出され、回収され、必要に応じてガスクロマトグラフィー等で組成分析される。
【0068】
[実施例1]
(i)陽極の作成
酸化ランタン、酸化ストロンチウムおよび酸化コバルトを、式(1)におけるxが0.4、yが0になるモル比となるように、ボールミルに入れて2時間混合した。得られた混合物を乾燥させた後、850℃で24時間焼成した(仮焼成)。仮焼成後の混合物の組成を、X線回折(XRD)分析により確認した。XRD分析の結果を
図3Aに示す。XRD分析により、得られた混合物は、La
0.6Sr
0.4CoO
3-δの単一相により形成されていることが確認された。
【0069】
仮焼成後の混合物を、ビーズミル(回転数300rpm)で8時間粉砕した。次いで、この粉砕物を静水圧プレス機で、ストリップ状に成形した。得られた成形体を、大気雰囲気下、1400℃で8時間焼成し(本焼成)、LSC陽極を得た。陽極の組成を、X線回折(XRD)分析により確認した。XRD分析の結果を
図3Bに示す。XRD分析により、得られた陽極も、La
0.6Sr
0.4CoO
3-δの単一相により形成されていることが確認された。
【0070】
LSC陽極の導電率を、温度を800℃まで上昇させながら、四端子法により測定した。結果を
図4に示す。600℃におけるLSC酸化物を含む陽極の導電率は、1.21×10
5S/mであった。
図4から、LSC酸化物を含む陽極は、高温下においても極めて高い導電率を有することがわかる。
【0071】
(ii)電解
LiClとKClとを、LiCl/KCl=58.5モル%/41.5モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。LiClおよびKClの合計モル数に対して3モル%のLi2Oを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩を上記の電解槽に収めて蓋をして、アルゴン雰囲気中で450℃に加熱した。このようにして、Li2Oを含むLiCl-KClの溶融塩を得た。
【0072】
次いで、ポテンショスタット/ガルバノスタット装置を用いて、参照電極に対するLSC陽極の電位が2.4Vから4.0V(vs.Li
+/Li)なるように電圧を印加した。このとき、サイクリックボルタンメトリー(走査速度100mV/秒)を行なった。結果を
図5に示す。
図5において、横軸は陽極の電位(V、vs.Li
+/Li)を示し、縦軸は陽極の電流密度(mA/cm
-2)を示している。Ag
+/Ag基準で測定された電位は、電気化学的にニッケル線上に析出させたリチウム金属と浴中のリチウムイオンとの示す電位を用いて、Li
+/Li基準に校正した。
【0073】
図5から、電位2.4V付近から酸素発生に起因する酸化電流の立ち上がりが見られ、電位3.7V付近まで安定して電流が流れていることが確認された。酸素発生電位(vs.Li+/Li)は約2.4Vから約3.7Vであることから、LSC陽極は、酸素発生電極として効率的に機能し得ることがわかる。
【0074】
続いて、定電流電解を行った。電解条件は、450℃、電流密度57.8mA/cm
2、10時間とした。
図6は、電解中のLSC陽極の電位の経時変化を示すグラフである。
図6によれば、10時間の電解中、LSC陽極の電位(vs.Li+/Li)は、3.0Vから3.1Vの間を安定して推移している。これにより、LSC陽極を使用した装置において、安定して酸素が発生していることがわかる。さらに、回収されたガスをガスクロマトグラフィーにより分析したところ、発生したガスは酸素ガスのみであることが確認された。
【0075】
電解終了後、LSC陽極を取り出し、目視で観察し、さらにその表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図7Aは、電解前の陽極表面をSEMで撮影した二次電子像(3000倍)である。
図7Bは、電解前の陽極表面をSEMで撮影した反射電子像(3000倍)である。
図8Aは、電解後の陽極表面をSEMで撮影した二次電子像(3000倍)である。
図8Bは、電解後の陽極表面をSEMで撮影した反射電子像(3000倍)である。目視観察では、電解の前後において、陽極の外観に大きな変化は見られなかった。特に、角部が丸まることもなく、元のシャープな形状が維持されていた。さらに、SEM画像からわかるように、陽極の表面状態にも大きな変化は見られず、平滑さが維持されていた。このことから、LSC酸化物を含む陽極は、消耗が少なく、また溶融塩に対する高い耐食性を有することがわかる。
【0076】
LSC陽極の高い耐食性は、腐食速度γが小さいことからも確認できる。上記のようにして算出されるLSC陽極の腐食速度γは、2.4×10-4(g/cm2・h)であり、望ましいとされる基準1.5×10-3(g/cm2・h)より一桁小さい値であった。
【0077】
さらに、電解後のLSC陽極をX線回折(XRD)分析して、組成を評価した。結果を
図9に示す。
図3Bで示される電解前のLSC陽極のピークと、
図9に示されるピークとは一致しており、電解前後においてLSC陽極の組成変化は認められなかった。すなわち、LSC陽極は、化学的にも安定である。
【0078】
[実施例2]
Li
2OをLiClおよびKClの合計モル数に対して0.5モル%添加したこと以外、実施例1と同様に溶融塩を調製し、サイクリックボルタンメトリー(走査速度100mV/秒)を行なった。結果を
図5に示す。実施例2においても、電位2.4V付近から酸素発生に起因する酸化電流の立ち上がりが見られ、電位3.7V付近まで安定して電流が流れていることが確認された。
【0079】
[実施例3]
LiClとCaCl2とを、LiCl/CaCl2=65.0モル%/35.0モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。LiClおよびCaCl2の合計モル数に対して1モル%のCaOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩を上記の電解槽に収めて蓋をして、アルゴン雰囲気中で600℃に加熱した。このようにして、CaOを含むLiCl-CaCl2の溶融塩を得た。
【0080】
上記600℃の溶融塩を用いて、サイクリックボルタンメトリー(走査速度100mV/秒)を行なった。結果を
図10に示す。電解温度を高くしても、電位2.4V付近から酸素発生に起因する酸化電流の立ち上がりが見られ、電位3.7V付近まで安定して電流が流れていることが確認された。
【0081】
[実施例4]
Li2OをLiClおよびKClの合計モル数に対して8モル%添加したこと以外、実施例3と同様に600℃の溶融塩を調製した。電解温度が高いことで、酸化物イオン源の添加量を多くすることができる。
【0082】
得られた600℃の溶融塩を用いて、サイクリックボルタンメトリー(走査速度100mV/秒)を行なった。結果を
図10に示す。電解温度を高くしても、電位2.9V付近から酸素発生に起因する酸化電流の立ち上がりが確認できた。そのため、LSC酸化物を含む陽極は、高温条件においても、酸素発生電極として効率的に機能し得ることがわかる。
【0083】
[比較例1]
LSC陽極に変えて、La
0.7Sr
0.3FeO
3-δにより形成された陽極(LSF陽極)を用いたこと以外、実施例1と同様にLi
2Oを電解した。
LSF陽極の導電率を、実施例1と同様にして測定した。結果を
図4に示す。600℃におけるLSF陽極の導電率は1.32×10
4S/mであった。
上記のようにして算出されるLSF陽極の腐食速度γは、1.7×10
-1(g/cm
2・h)であり、望ましいとされる基準1.5×10
-3(g/cm
2・h)より二桁大きい値であった。