(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070419
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶
(51)【国際特許分類】
B65D 1/12 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
B65D1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182585
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 智一
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
【テーマコード(参考)】
3E033
【Fターム(参考)】
3E033AA06
3E033BA09
3E033BB08
3E033DD02
3E033FA10
(57)【要約】
【課題】ストリッピング時の缶胴の割れを防止する。
【解決手段】缶底11と、前記缶底の外周から缶軸に沿って延びる缶軸を中心とした円筒状の缶胴12と、を有する有底円筒状の缶本体10を備え、前記缶本体は、前記缶底の接地部から前記缶胴の上端までの缶高さが151mm以上160mm以下の範囲内であり、前記缶胴は、外径が直径45mm以上59mm以下の範囲内であると共に、前記缶底の接地部112Aから前記缶胴の上端側に向かって80mmから140mmの少なくとも一部に、前記缶胴の板厚が前記缶胴の内部側に漸次厚くなるテーパ部122を有し、前記テーパ部の缶軸に対する角度が50秒以上1分30秒以下である、ことを特徴とする樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶底と、前記缶底の外周から缶軸に沿って延びる缶軸を中心とした円筒状の缶胴と、を有する有底円筒状の缶本体を備え、
前記缶本体は、前記缶底の接地部から前記缶胴の上端までの缶高さが151mm以上160mm以下の範囲内であり、
前記缶胴は、
外径が直径45mm以上59mm以下の範囲内であると共に、
前記缶底の接地部から前記缶胴の上端側に向かって80mmから140mmの少なくとも一部に、前記缶胴の板厚が前記缶胴の内部側に漸次厚くなるテーパ部を有し、
前記テーパ部の缶軸に対する角度が50秒以上1分30秒以下である、ことを特徴とする樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶。
【請求項2】
前記缶本体を構成する樹脂被覆アルミ合金は、前記缶本体において外面側となる外面側被覆樹脂と、内面側となる内面側被覆樹脂と、前記外面側被覆樹脂と前記内面側被覆樹脂との間に設けられるアルミ合金とを含み、
前記缶底は、中央部に、缶軸方向に沿って前記缶胴の内部側に向けて凹む凹曲面状のドーム部を備え、
前記ドーム部の前記缶軸上の点を含む所定領域において、
前記外面側被覆樹脂の厚さが0.008以上0.015mm以下、
前記アルミ合金の厚さが0.18以上0.24mm以下、
前記内面側被覆樹脂の厚さが0.010以上0.020mm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶。
【請求項3】
前記缶胴は、上端部に、缶軸上方に向かって前記缶胴の外径が縮小するネック部を有し、
前記ネック部は、少なくとも該ネック部の下端部に径方向外側に凸となる凸曲面と、前記ネック部の下端部と上端部との間に径方向外側に凹となる凹曲面とを有し、前記凸曲面の頂部と前記凹曲面の頂部とを通る直線の缶軸に対する角度が27°未満である、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の内容物を充填する容器として、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶(2ピース缶)が知られている。樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶は、例えば、DI(Drawing&Ironing)法によって、缶胴および缶底を一体成形することにより得られる。
【0003】
DI法では、まず、カッピングプレス工程において、金属板を円板状に打ち抜いて絞り加工を施すことにより深さの浅いカップ状素材を成形する。次いで、ボディーメーカー工程において、リドローダイに缶材を押圧しながら、パンチを移動させて再絞り加工を行って、より深いカップ状に成形する。その後、更にパンチを移動させ、成形ダイの中を通過させてしごき加工を行うことによりカップの側壁板厚を徐々に薄肉化し、有底円筒状の缶に形成される。次いで、缶は、パンチからフィンガーによってストリッピングされて抜き取られる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
上述のような成形工程において、樹脂被覆していないアルミ合金製絞りしごき缶は、缶やダイに潤滑剤を直接スプレーしながら成形するのに対し、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶では、樹脂被覆が潤滑剤の役割を果たすため、潤滑剤(クーラント)を用いずに成形を行っている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭60-133号公報
【特許文献2】特許2010-75932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶では、成形工程において潤滑剤を用いないため、パンチの温度等の諸条件によってはパンチから缶を抜き取るためにより大きな力を要する場合がある。
【0007】
ところで、近年、ビール等を内容物とする一般的な2ピース缶(211径)に代わり、スタイリッシュなデザイン性から、より小径の細長い2ピース缶(例えば204径)が採用されることが増えつつある。更に、省資源化の要請により缶胴の板厚の薄肉化も進められている。
【0008】
このような小径で細長い缶の場合、缶高さ方向の延伸度が大きいため、ボディーメーカー工程におけるストリッピング時に、ストリッパーのフィンガーが缶の開口端に掛かる単位長さに対してパンチに張り付いている缶の長さが長い。このため、速い成形速度(例えば、毎分300個)を維持したままでは缶の開口端がストリッピングする際の力に耐えきれず、缶胴に割れが発生するおそれがある。このような缶胴における割れは、缶胴の板厚が薄肉化されるほど生じやすくなる。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明は、ストリッピング時の缶胴の割れを防止すること等を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、缶底と、前記缶底の外周から缶軸に沿って延びる缶軸を中心とした円筒状の缶胴と、を有する有底円筒状の缶本体を備え、前記缶本体は、前記缶底の接地部から前記缶胴の上端までの缶高さが151mm以上160mm以下の範囲内であり、前記缶胴は、外径が直径45mm以上59mm以下の範囲内であると共に、前記缶底の接地部から前記缶胴の上端側に向かって80mmから140mmの少なくとも一部に、前記缶胴の板厚が前記缶胴の内部側に漸次厚くなるテーパ部を有し、前記テーパ部の缶軸に対する角度が50秒以上1分30秒以下である、ことを特徴とする樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ストリッピング時の缶胴の割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の缶軸に沿う縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の
図1のA部分の拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の
図1のB部分の拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の缶本体の板厚分布を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶について、テーパ部の角度を変化させて缶本体を成形した結果を示す表である。
【
図6】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶について、テーパ部の角度を変化させて缶本体を成形した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一の符号は同一の機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の缶軸Oに沿う縦断面図であって、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶の概略を示している。なお、
図1では、缶本体の板厚について記載を省略した線図で断面形状を示している。
図1に示すように、樹脂被覆アルミ合金製絞りしごき缶1は、有底円筒状の缶本体10を備えている。
【0015】
缶本体10は、樹脂被覆アルミ合金により形成されている。樹脂被覆アルミ合金は、例えば、缶本体10において外面側となる外面側被覆樹脂と、缶本体10において内面側となる内面側被覆樹脂と、外面側被覆樹脂と内面側被覆樹脂との間に設けられるアルミ合金とを含んでいる。
【0016】
缶本体10は、缶底11と、缶底11の外周から缶軸Oに沿って延びる缶軸Oを中心とした円筒状の缶胴12とを有し、缶底11及び缶胴12によって有底円筒状をなしている。缶底11及び缶胴12は、缶軸O周りに全周に亘って同一の形状を有している。缶本体10は、樹脂被覆アルミ合金からなる板材を円形状に打ち抜き、絞り加工を施して有底円筒状のカップ部材に成形し、カップ部材に再絞り・しごき加工を施すことで、缶底11と缶胴12とを一体的に成形し、その後、缶胴12の開口端をトリミング加工、ネッキング加工及びフランジ加工することで得られる。
【0017】
缶本体10は、缶底11の接地部(後述)から缶胴12の上端までの缶高さが151mm以上160mm以下の範囲内であり、
図1に示す例では、155.0mmとしている。
缶胴12は、外径が直径45mm以上59mm以下の範囲内であり、
図1に示す例では、57.2mmとしている。
【0018】
缶底11は、ドーム部111と環状凸部112とを備えている。
ドーム部111は、缶底11の中央部に設けられ、缶軸O方向に沿って缶胴12の内部側に向けて凹むドーム状の凹曲面を有している。
図1に示す例では、ドーム部111は、中央部分の曲率半径R1の第1曲面111Aと、第1曲面の周囲に位置し、曲率半径R1と異なる曲率半径R2の第2曲面111Bとを有している。ドーム部111は、
図1の例のように互いに異なる曲率半径の複数の曲面を有していてもよく、また、単一の曲率半径の曲面であってもよい。その他、公知のドーム形状を適用することもできる。
【0019】
ドーム部111は、ドーム部111の缶軸O上の点を含む所定領域において、外面側被覆樹脂の厚さが0.008以上0.015mm以下、アルミ合金の厚さが0.18以上0.24mm以下、内面側被覆樹脂の厚さが0.010以上0.020mm以下であることが好ましい。
【0020】
環状凸部112は、ドーム部111の外周囲に、缶軸方向に沿って缶胴12の外側に向けて環状に突出しており、缶本体10を水平面に載置した場合に、水平面に接地して缶本体10を支持する接地部112Aを含んでいる。環状凸部112の先端部は、
図1の縦断面視において、缶胴12の径方向内側に屈曲していてもよい。つまり、
図1の例のようなボトムリフォームを施すことで、缶底11の強度を更に向上させることもできる。
【0021】
缶胴12は、缶底11の外周から缶軸Oに沿って延びる缶軸Oを中心とした円筒状に形成されている。缶胴12は、上端部に設けられるネック部121と、上端部と下端部との間に設けられるテーパ部122とを備えている。
【0022】
ネック部121は、缶軸Oに沿って缶胴の上方に向かうに従って缶胴12の外径が漸次縮径されるように形成されている。ネック部121には、缶胴12よりも小径の缶蓋(図示せず)が設けられるようになっている。なお、
図1の例では、ネック部121における最小外径は52.4mmとなっている。
【0023】
ネック部121は、上端部に径方向外側へ凹む曲率半径r1の凹曲面121Aと、下端部に径方向外側に凸となる曲率半径r2の凸曲面121Bと、上端部と下端部との間において径方向外側へ凹む曲率半径r3の凹曲面121Cとを有している。
【0024】
図1の例では、曲率半径r1は1.5mm、曲率半径r2は5.0mm、曲率半径r3は10.0mmとなっている。各曲率半径の値は、一例にすぎず、これらの値に限定されない。また、凸曲面121Bと凹曲面121Cとを結ぶ直線L1が缶軸Oに平行な直線となす角度θ1は27°未満であることが好ましく、
図1の例では24°となっている。
【0025】
缶本体10の開口端部、すなわちネック部121の上端には、フランジ部123が形成されている。
図1の例では、フランジ部123の上端からネック部121の下端までの缶軸O方向に沿う距離は11mmである。
【0026】
図2及び
図3にテーパ部122を説明する拡大図を示す。
図2は
図1のAの範囲の拡大図を示し、
図3は
図1のBの範囲の拡大図を示す。なお、
図3は
図2よりも拡大率を大きくした図である。
【0027】
テーパ部122は、具体的には、缶底11の接地部112Aから缶胴12の上端側に向かって80mmから140mmの範囲内(
図1のAの範囲)の何れかの位置に設けられている。
図2及び
図3に示すように、テーパ部122は、
図1のAの範囲の少なくとも一部において、缶胴12の板厚が缶軸Oに沿って缶胴の上方に向かうに従って缶胴12の内部側に漸次厚くなっている。テーパ部122は、缶胴の上方に向う板厚の増加に伴って缶胴12の内面が内側に向かって傾斜するようになっている。
【0028】
図2及び
図3の例では、缶胴12は、缶底11の接地部112Aから缶胴12の上端側に向かって90mm付近から徐々に板厚が厚くなり、135mm付近からネック部121に向かってさらに板厚が厚くなるように形成されている。缶本体10の板厚の分布を
図4に示す。
【0029】
図2及び
図3に示すように、テーパ部122の缶胴12の内面における傾斜角度、すなわち、テーパ部122の缶軸Oに平行な直線となす角度θ2は、50秒以上1分30秒以下となっている。このように、缶本体10が薄肉化された場合であっても、テーパ部122の角度を最適化して板厚変化を緩やかにすることで、ストリッピング時の抜け性が向上すると共に、ストリッピング時の缶胴の割れを防止することができる。
【0030】
図5に、テーパ部122の角度を30秒から1分50秒まで10秒ずつ変化させて、ブランク径(B.D.)を143.0mmとした円形状の板材から、57.2mmの缶胴を有する缶本体を成形した結果を示す。また、
図6に、テーパ部122の角度を30秒から1分50秒まで10秒ずつ変化させて、ブランク径(B.D.)を143.0mmとした円形状の板材から、57.4mmの缶胴有する缶本体を成形した結果を示す。
【0031】
図5及び
図6の表では、成形速度は1分当たり300個であり、各テーパ部122の角度において、それぞれ元板厚を0.22mmとして成形した場合と0.23mmとして成形した場合の結果を示している。また、缶胴に割れが生じた場合は×、缶胴に割れが生じなかった場合は〇で表している。なお、
図5及び
図6における元板厚を示す数値は、アルミニウム合金の板厚を示し、外面側被覆樹脂及び内面側被覆樹脂の厚みを含まない。
【0032】
缶胴に割れが生じているか否かの評価は、ERV(エナメルレイティング値)を用いて行った。すなわち、エナメルレーターを用い、成形後の缶の内側面に金属露出部を形成して陽極に接続すると共に、缶内に満たされた食塩水に陰極を浸し、室温(約23℃)以下で6Vの直流電圧を4秒間印加した後の電流値によって評価した。評価基準は、電流値が60mA以下の場合には缶胴割れがなかったと評価し、電流値が60mAを超えた場合には缶胴割れが生じたと評価した。
【0033】
図5及び
図6の表から、テーパ部122の角度が40秒以下(比較例1-1、1-2比較例2-1、2-2)又は1分40秒以上(比較例1-8、1-9、比較例2-8、2-9)になると、絞り時又は再絞り時の何れかに缶胴割れが生じたことがわかる。一方、テーパ部122の角度が50秒以上1分30秒以下の場合(比較例1-3から比較例1-7、比較例2-3から2-7)には、絞り時及び再絞り時のいずれにおいても缶胴割れが生じなかった。
【0034】
以上述べた如く、本実施形態によれば、ボディーメーカー工程におけるストリッピング時に缶胴12の開口端にストリッパーのフィンガーにより負荷が加わった場合でも、板厚変化が緩やかとなるように缶軸に対する角度を最適化したテーパ部122を設けているので、ストリッピング時の抜け性を向上させることができると共に、板厚が薄肉化された缶胴においても缶胴割れを防止することができる。
【符号の説明】
【0035】
10:缶本体、11:缶底、12:缶胴、111:ドーム部、112:環状凸部、112A:接地部、121:ネック部、121A:凹曲面、121B:凸曲面、121C:凹曲面、122:テーパ部、123:フランジ部