(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070446
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20230512BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20230512BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230512BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
C08L23/26
C08L51/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182634
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】水野 正志
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB11X
4J002BB12X
4J002BB14X
4J002BB21Y
4J002BN05Y
4J002BP01W
4J002CP03Z
4J002FD02Z
4J002GB00
4J002GC00
4J002GG01
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】融着耐久性と摺動性に優れる複合成形体を成形可能な熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物。成分(C)は、(メタ)アクリル酸とマレイン酸から選ばれる酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレン、特に(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレンが好ましい。
成分(A):スチレン系エラストマー
成分(B):未変性ポリプロピレン
成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン
成分(D):滑剤
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):スチレン系エラストマー
成分(B):未変性ポリプロピレン
成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン
成分(D):滑剤
【請求項2】
前記成分(C)が(メタ)アクリル酸とマレイン酸から選ばれる酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレンである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(C)が(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレンである、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の未変性ポリプロピレンのJIS K7210(1999年)に準拠して測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上60g/10分以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時引張応力の測定法に準拠して、23℃で測定した切断時引張応力の値が15~26MPaである、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
非架橋熱可塑性エラストマー組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材。
【請求項8】
請求項7に記載の接合部材を備えた自動車用複合成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の自動車用複合成形体を用いた自動車用コーナー材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材、この接合部材を備える自動車用複合成形体及び自動車用コーナー材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂及びスチレン-ブタジエンブロック共重合体を溶融混練することにより動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム的な軟質材料としての特性を示しながらも加硫工程が不要であり、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有するものである。このため、このような熱可塑性エラストマー組成物は、製造工程の合理化やリサイクル性等の観点から注目され、自動車部品、家電用品、医療用機器部品、電線、雑貨等の分野で広く使用されている。特に、この熱可塑性エラストマー組成物は、自動車用シール材や建材用シール材としての用途において多用されてきている。
【0003】
自動車用シール材や建材用シール材に用いられる部材は複雑な構造を有しており、部材同士を接合して、目的の部材が製造されている。部材同士を接合するために、液体状やのり状の接着剤等を用いるかわりに、接合部材を介して接合させる技術が知られている。
【0004】
例えば、動的架橋熱可塑性エラストマーよりなる部材同士を接合するために、特定の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材を用いる技術が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-131722号公報
【特許文献2】特開2020-125442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車等の窓枠のシール材として使用される複合成形体は、接合部材と被接合部材とを接合面において融着して得られ、この複合成形体には、窓の繰り返しの昇降に伴う異音やへたりを防止するために、融着耐久性と摺動性を高いレベルで両立する技術が望まれている。
【0007】
特許文献1、特許文献2に記載されている熱可塑性エラストマー組成物からなる接合部材は、摺動性及び被接合部材との融着性を良好としているが、その融着部における接合部材と被接合部材との界面を起点に折り曲げると、その界面から簡単に剥がれてしまうという不具合があり、接合部材と被接合部材の融着部での融着耐久性に改良の余地があった。
【0008】
このように、従来において、融着耐久性と摺動性を高いレベルで両立し、自動車用複合成形体の接合部材として優れた熱可塑性エラストマー組成物は提供されていないのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、融着耐久性と摺動性に優れる複合成形体を成形可能な熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材、この接合部材を備える自動車用複合成形体及び自動車用コーナー材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、成分(A):スチレン系エラストマー、成分(B):未変性ポリプロピレン、成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン、成分(D):滑剤、を含む熱可塑性エラストマー組成物が、融着耐久性に優れる上に高いレベルの摺動性を達成し得るという、従来全く知られていなかった新規知見を得、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
[1] 下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):スチレン系エラストマー
成分(B):未変性ポリプロピレン
成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン
成分(D):滑剤
【0013】
[2] 前記成分(C)が(メタ)アクリル酸とマレイン酸から選ばれる酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレンである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[3] 前記成分(C)が(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体により変性されたグラフト変性ポリプロピレンである、[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[4] 前記成分(B)の未変性ポリプロピレンのJIS K7210(1999年)に準拠して測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上60g/10分以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[5]ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時引張応力の測定法に準拠して、23℃で測定した切断時引張応力の値が15~26MPaである、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[6] 非架橋熱可塑性エラストマー組成物である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材。
【0019】
[8] [7]に記載の接合部材を備えた自動車用複合成形体。
【0020】
[9] [8]に記載の自動車用複合成形体を用いた自動車用コーナー材。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、融着耐久性と摺動性に優れる複合成形体を成形可能な熱可塑性エラストマー組成物、この熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材、この接合部材を備える自動車用複合成形体及び自動車用コーナー材を提供することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材は、自動車用シール材、建材用シール材の接合部材として有用であり、特に自動車用グラスランチャンネル等の自動車用複合成形体、特に自動車用コーナー材としての自動車用複合成形体の接合部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明が適用される自動車用グラスランチャンネルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は双方を意味する。
【0024】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物である。
成分(A):スチレン系エラストマー
成分(B):未変性ポリプロピレン
成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン
成分(D):滑剤
【0025】
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、融着耐久性に優れ、摺動性も良好であるという効果を奏する。
【0026】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)の極性基が熱可塑性エラストマー組成物表面に存在することにより、熱融着時の被接合部材との接着界面での分子の絡み合い効果が促進され、融着耐久性が向上するものと考えられる。
摺動性については、摺動性を高めるだけの目的であれば成分(D)の滑剤を多く配合すればよいが、そうすると、融着耐久性が悪くなる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)と成分(C)とが、共通してポリプロピレン主鎖を有するために、成分(B)と成分(C)とに相溶性があり、成分(B)や成分(C)のポリプロピレン部に由来する高い表面平滑性が維持されることで、摺動性に優れると考えられる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)と成分(C)と成分(D)とを含むマトリックス部に、成分(A)のドメイン部を有するドメインマトリックス構造へと制御することにより、上記メカニズムによる効果を奏しやすく好適である。
【0027】
[成分(A)]
本発明で用いる成分(A)は、スチレン系エラストマーである。
【0028】
スチレン系エラストマーとしては、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)の少なくとも2個と、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)の少なくとも1個とを有するブロック共重合体、及び/又は該ブロック共重合体の水素添加物が好適である。以下、このブロック共重合体及び/又はその水素添加物を「(水添)ブロック共重合体」と記載する場合がある。
【0029】
ここで、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、50モル%以上含むことをいう。
【0030】
ブロックPを構成する芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレンが挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく用いられる。より好ましくはスチレンである。
【0031】
ブロックPは、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の芳香族ビニル化合物単位から構成されていてもよい。ブロックPには、ビニル芳香族化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0032】
ブロックQを構成する共役ジエン化合物とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。共役ジエン化合物としては、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンが挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。より好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0033】
ブロックQは、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位から構成されていてもよい。ブロックQには、共役ジエン化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0034】
成分(A)のブロック共重合体における芳香族ビニル化合物単位を主体とするブロックPの質量割合は限定されないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、一方、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましい。
【0035】
成分(A)のブロック共重合体の化学構造は直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましく、機械的強度向上の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
【0036】
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
式中、PはブロックPを表す。QはブロックQを表す。mは1~5の整数を表す。nは2~5の整数を表す。
ブロックP、ブロックQがそれぞれ複数存在する場合、それらに含まれる単量体単位はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0037】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0038】
成分(A)は、組成物のゴム弾性の観点から、式(1)で表されるブロック共重合体であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体が特に好ましい。
【0039】
本発明で用いる成分(A)は、ブロックPと、ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であってもよい。この場合、式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることがより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が特に好ましい。
【0040】
成分(A)の数平均分子量は限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定したポリスチレン換算の値として、100,000以上であることが好ましく、より好ましくは150,000以上、更に好ましくは170,000以上であり、600,000以下であることが好ましく、より好ましくは550,000以下、更に好ましくは500,000以下である。
【0041】
成分(A)としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物等が挙げられる。
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物としては、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)が挙げられる。
スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物としてはスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体(SEEPS)が挙げられる。
これらの中でも、高い流動性が得られ、融着性が良好になる傾向があることからスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物が好ましい。
【0042】
成分(A)の市販品としては、例えば、台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL(登録商標)-6151」、「TAIPOL(登録商標)-6159」、クレイトンポリマージャパン株式会社製「G1651」、「G1633」、クラレ社製「セプトン(登録商標)4099」が挙げられる。
【0043】
上記の成分(A)は、1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
[成分(B)]
本発明で用いる成分(B)は、未変性ポリプロピレンである。
【0045】
本発明において、「ポリプロピレン」とはプロピレン単位の含有率が50質量%以上であるものを意味し、単一樹脂成分からなるものも複数樹脂成分からなるものも包含する。
成分(B)の未変性ポリプロピレンのプロピレン単位の含有率は、好ましくは85~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%、更に好ましくは94~100質量%である。成分(A)のプロピレン単位の含有率が前記下限値以上であることにより、耐熱性および剛性が良好となる傾向にある。なお、成分(A)中のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0046】
成分(B)は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレン単位に加え、エチレン単位、プロピレン以外のα-オレフィン単位、エチレンおよびα-オレフィン以外の単量体単位等を好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは6質量%以下含有するプロピレン系共重合体であってもよい。
【0047】
プロピレン以外のα-オレフィン単位としては、炭素数4~20のα-オレフィンを挙げることができる。炭素数4~20のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられ、好ましくは、炭素数4~10のα-オレフィンであり、より好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。
プロピレン系共重合体には、これらのα-オレフィン単位およびエチレン単位の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0048】
成分(B)の未変性ポリプロピレンの具体例としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・エチレン・1-オクテン共重合体、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体等を例示することができる。好ましくは、プロピレン・エチレン共重合体である。
【0049】
これらの中でも、成分(B)としては、成分(A)との相溶性の観点から、エチレン単位、ブテン単位、ヘキセン単位、オクテン単位の中から選ばれる一種以上の単量体単位を6質量%以下含有するプロピレン系共重合体が好適である。
【0050】
成分(B)のメルトフローレート(MFR)は、限定されないが、接合部材と被接合部材の融着性及び成形体の外観の観点から、通常1g/10分以上であり、成形体の外観の観点からは、好ましくは10g/10分以上であり、より好ましくは20g/10分以上であり、更に好ましくは25g/10分以上である。
また、成分(B)のメルトフローレートは、通常100g/10分以下であり、引張り強度の観点から、好ましくは80g/10分以下であり、より好ましくは60g/10分以下である。
成分(B)のメルトフローレートは、JIS K7210(1999年)に従って、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件で測定される。
【0051】
成分(B)が異なるMFRを有する未変性ポリプロピレンのブレンド物よりなる場合、成分(B)のMFRは、以下の式(I)によって計算することができる。
log(MFRブレンド)=w1log(MFR1)+w2log(MFR2)+…+wilog(MFRi)+…+wnlog(MFRn) …(I)
式(I)中、wiは構成成分iの重量分画、MFRiは構成成分iのMFR、nはブレンド中の構成成分の総数である。w1+w2+…+wi+…wn=1である。
【0052】
成分(B)の融解ピーク温度は、少なくとも100℃以上157℃未満にピークが観察されることが好ましい。
成分(B)の融解ピークが少なくとも上記数値範囲に存在することで、耐熱性や成分(A)との相溶性の観点で好ましい。
なお、成分(B)の融解ピーク温度は、JIS K7121に従い、以下の方法により測定することができる。
即ち、示差走査熱量計(エスエスアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて、以下の工程(1)~(3)を順に実施してポリプロピレンの融解挙動を測定する。
各工程において横軸に時間、縦軸に融解熱量をプロットして融解曲線を取得し、工程(3)において観測されるピークのピークトップを融解ピーク温度とする。
工程(1):試料5mgを室温から100℃/分の速度で40℃から200℃まで昇温し、昇温終了後、3分間保持する。
工程(2):200℃から10℃/分の速度で40℃まで降温し、降温終了後、3分間保持する。
工程(3):40℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温する。
【0053】
成分(B)の未変性ポリプロピレンの製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法を挙げることができる。該多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0054】
成分(B)は市販の該当品を用いることも可能である。成分(B)としては下記に挙げる製造者から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品としては、例えば、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のVistamaxx(登録商標)、ExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)がある。
【0055】
上記の成分(B)は、1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
<成分(C)>
本発明で用いる成分(C)は、ポリプロピレンを酸及び/又はその誘導体により変性した変性ポリプロピレンであり、熱融着時の被接合部材との融着耐久性向上剤として機能する。
【0057】
成分(C)の原料として用いるポリプロピレンとしては、成分(B)の未変性ポリプロピレンが使用できる。これらの中でも、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体が比較的に安価で容易に入手することができるため好ましく、熱融着時の被接合部材との接着表面での分子の絡み合い効果により高い接着性を得る観点から、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0058】
成分(C)の原料として用いるポリプロピレンの密度(JIS K6922-1,2:1997に準拠)は、特に限定されないが、0.85g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm3以上であり、一方、0.96g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm3以下である。
【0059】
また、成分(C)の原料として用いるポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210:1999に準拠、230℃、荷重21.2N)は、特に限定されないが、成形性の点から、0.01~200g/10分が好ましく、より好ましくは0.1~80/10分である。
【0060】
上記の物性を満たすプロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等のプロピレン系共重合体は、各種グレードのものが国内外のメーカーから数多く市販されており、成分(C)の原料として用いるポリプロピレンとして、各種グレードの市販品を用いることができる。
【0061】
変性に用いる酸としては、不飽和カルボン酸が好適であり、不飽和カルボン酸としては特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハイミック酸、シトラコン酸が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸の無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
【0062】
不飽和カルボン酸の誘導体としては、具体的には、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムが挙げられる。
【0063】
これらのうちでは、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体、マレイン酸及び/又はその誘導体、中でも(メタ)アクリル酸及び/又はその無水物、マレイン酸及び/又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体、特に(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、とりわけ好ましくは(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジルである。
【0064】
これらの酸及び/又はその誘導体は1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
ポリプロピレンの変性に用いる酸及び/又はその誘導体の使用量は、成分(C)の原料として用いるポリプロピレン100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、一方、通常、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。酸及び/又はその誘導体の使用量が上記下限値以上であれば、得られる熱可塑性エラストマー組成物の接着性が良好となる傾向にあり、一方、上記上限値以下であれば、未反応物及び副生物の発生の抑制により、得られる熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形品において、フィッシュアイ、ブツ等による製品外観の悪化を防止できるとともに、接着性の低下を抑制できる傾向にある。
【0066】
上述した酸及び/又はその誘導体による変性は、グラフト変性が好適であり、従来公知の種々の方法で行うことができる。変性方法としては、溶融させたポリプロピレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶融変性法、溶媒に溶解させたポリプロピレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶液変性法、固体のポリプロピレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる固相重合法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0067】
成分(C)の酸及び/又はその誘導体による変性率は、特に限定されないが、成分(C)の変性ポリプロピレンの総量に対して、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは0.7質量%以上であり、一方、10質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。原料として使用するポリプロピレンによっても変動するが、酸及び/又はその誘導体による変性率が上記下限値以上であれば、接合部材と被接合部材の融着部での融着耐久性が良好となる傾向がある。また、該変性率が上記上限値以下であれば、熱安定性の低下を抑制することができ、また、他の成分との相溶性の低下も抑制することができる傾向にある。
【0068】
ここで変性率(グラフト率)とは、赤外分光測定装置で測定した際の、酸及び/又はその誘導体成分の含有率を意味する。例えば、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。なお、酸及び/又はその誘導体による変性は、100%が反応に供されずに、ポリプロピレンと反応していない酸及び/又はその誘導体も変性ポリプロピレン中に残留している場合があるが、本発明における変性率(グラフト率)は、上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
【0069】
また、成分(C)の変性ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、0.01~3000g/10分が好ましく、より好ましくは0.1~2500g/10分であり、更に好ましくは1~100g/10分である。ここで、変性ポリプロピレンのMFRは、JIS K7210(1999)に準拠し、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件下で測定した値を意味する。
【0070】
なお、成分(C)の変性ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠、230℃、荷重21.2N)の測定において、230℃では流動性が高すぎて測定が困難な場合は、180℃(荷重21.2N)で測定してもよい。例えば、マレイン酸変性ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠、180℃、荷重21.2N)は、0.01~3000g/10分が好ましく、より好ましくは0.1~2500g/10分である。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)の変性ポリプロピレンは、1種のみを用いてもよく、変性前のポリプロピレンの組成や物性、変性に用いた酸及び/又はその誘導体の種類や変性率などの異なるものの2種以上を用いてもよい。
【0072】
成分(C)の市販品としては、例えば、ビックケミー(BYK)社製「SCONA TPPP 2110 FA」、三菱ケミカル株式会社製モディック(登録商標)シリーズで該当のものが適宜使用できる。
【0073】
<成分(D)>
成分(D)の滑剤としては、シリコーン系滑剤を好適に用いることができ、例えば、シリコーンオイル、シリコーンマスターバッチ、液体シロキサンワックスが挙げられる。より好ましくは、シリコーンオイルである。
【0074】
[成分(E)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(E)として軟化剤を含有していてもよい。
【0075】
成分(E)の軟化剤としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、特に炭化水素系ゴム用軟化剤が好適である。炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。
【0076】
成分(E)の軟化剤の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20cSt以上、より好ましくは50cSt以上であり、また、好ましくは800cSt以下、より好ましくは600cSt以下である。また、軟化剤の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
【0077】
成分(E)の軟化剤は市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
【0078】
成分(E)の軟化剤は1種のみを用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0079】
[成分(f)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(f)の架橋剤の存在下で動的熱処理を行うことにより得られる架橋熱可塑性エラストマー組成物であってもよい。成分(f)の架橋剤の存在下で動的熱処理を行って、成分(A)の少なくとも一部を架橋することで、ゴム弾性を良好なものとすることができる。架橋熱可塑性エラストマー組成物は、架橋剤反応生成物を含んでいてよい。
【0080】
架橋剤としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、その他の架橋助剤等を用いることができる。これらの架橋剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
架橋剤として用いることのできる有機過酸化物としては、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)-3-ヘキシン等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
これらの有機過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
架橋剤として用いることのできるフェノール樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド、臭化アルキルフェノールノールホルムアルデヒド等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
フェノール樹脂以外の架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;塩化第一錫・無水物、塩化第一錫・二水和物、塩化第二鉄等のフェノール樹脂用架橋助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
架橋熱可塑性エラストマー組成物は、成分(f)の架橋剤として有機過酸化物を用い、有機過酸化物の存在下で成分(A)、(B)、(C)、(D)を溶融混練することにより動的熱処理を行うことで得られるものが好適である。
【0085】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造には、成分(A)~(E)、(f)以外に本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を原料として用いることができる。
【0086】
その他の成分としては、例えば、成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等の樹脂、酸化防止剤、充填材、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
【0087】
成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(だだし、成分(B)及び成分(C)に該当するものを除く。)を挙げることができる。また成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外のエラストマーとしては、例えば、ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンを挙げることができる。
【0088】
酸化防止剤(以下、「成分(G)」と称す場合がある。)としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、成分(A)の合計100質量部に対して、通常0.01~3.0質量部、好ましくは0.15~0.6質量部の範囲で用いられる。上記範囲であると良好な熱安定性が得られる。
【0089】
[含有割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)100質量部に対し、成分(B)を40~120質量部含有することが成形性と柔軟性を両立する観点から好ましい。成分(B)の含有量の下限は、成形性の観点から、50質量部以上であることがより好ましく、60質量部以上であることが更に好ましい。一方、成分(B)の含有量の上限は、十分な柔軟性のある硬度を得る観点から、110質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましい。
【0090】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)100質量部に対し、成分(C)を1~50質量部含有することが、プロピレン系樹脂を海相として含む熱可塑性エラストマー組成物への融着性の向上効果を十分に得る観点から好ましい。成分(C)の含有量の下限は、圧縮永久歪みを向上する観点から、3質量部以上であることがより好ましく、6質量部以上であることが更に好ましい。一方、成分(C)の含有量の上限は、流動性を確保する観点から、42質量部以下であることがより好ましく、33質量部以下であることが更に好ましい。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)100質量部に対し、成分(D)を通常0.5~50質量部、好ましくは1~25質量部の範囲で用いる。特に、成分(D)の滑剤を成分(A)100質量部に対して20質量部以下の少量添加とすることにより、融着性の低下を抑えながら、十分な摺動性を得ることができる。
【0092】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(E)を含む場合、成分(A)100質量部に対し、成分(E)の含有量の下限は、成形性の観点から、通常80質量部以上であり、85質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましい。一方、成分(E)の含有量の上限は、柔軟性の観点から、通常140質量部以下であり、138質量部以下であることが好ましく、136質量部以下であることがより好ましい。
【0093】
本発明の好適態様の熱可塑性エラストマー組成物が成分(A)~(D)および成分(E)以外の他の成分を含有する場合、成分(A)~(D)および成分(E)を含有することによる効果を十分に得る上で、他の成分の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部(ただし成分(E)を含有する場合は成分(A)及び成分(B)と成分(E)の合計100質量部)に対して1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましい。また、他の成分の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部(ただし成分(E)を含有する場合は成分(A)及び成分(B)と成分(E)の合計100質量部)に対して20質量部以下であることが好ましく、19質量部以下であることがより好ましく、18質量部以下であることが更に好ましい。
【0094】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)及び成分(B)、成分(C)、成分(D)等の熱可塑性エラストマー組成物の材料組成物を押出機に供給し、該押出機内で溶融混練することによって得られる。
【0095】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が架橋熱可塑性エラストマー樹脂組成物である場合には、成分(A)、(B)、(C)、(D)を含有する組成物を成分(f)の存在下で溶融混練することによる動的熱処理によって得ることができる。また、架橋熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)を所定量含有する組成物を成分(f)の存在下で溶融混練することによる動的熱処理によっても得られる。
動的熱処理を成分(f)の存在下で行うことで、成分(A)の少なくとも一部を架橋することで、摺動性をより良好なものとすることができる。
【0096】
動的熱処理に供する材料組成物に、成分(f)として架橋剤を用いる場合の架橋剤の配合量の下限は、架橋を十分に進行させる観点から、成分(A)100質量部に対して好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.10質量部以上であり、更に好ましくは0.20質量部以上である。一方、成分(f)の架橋剤の配合量の上限は、プロピレン鎖への攻撃を制御する観点から、成分(A)100質量部に対して好ましくは5.0質量部以下であり、より好ましくは4.5質量部以下であり、更に好ましくは4.0質量部以下である。
【0097】
本発明において「動的熱処理」とは有機過酸化物の存在下で溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための溶融混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。この二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
【0098】
動的熱処理を行う際の温度は、通常80~300℃、好ましくは100~250℃である。また、動的熱処理を行う時間は通常0.1~30分である。
【0099】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を二軸押出機により動的熱処理を行うことにより製造する場合においては、二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))の間に下記式(i)の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(ii)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NW/R3<22.6 (i)
3.0<NW/R3<20.0 (ii)
【0100】
二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))との間の前記関係が上記下限値より大きいことが熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が上記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
【0101】
ただし、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、後述の通り、融着耐久性の観点から、成分(f)による動的熱処理によらない、非架橋熱可塑性エラストマー組成物であることが好ましい。
【0102】
[熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が5g/10分以上であることが成形性の観点から好ましく、より好ましくは10g/10分以上であり、更に好ましくは15g/10分以上である。また、成形性の観点から、メルトフローレート(MFR)は、150g/10分以下であることが好ましく、145g/10分以下であることがより好ましく、140g/10分以下であることが更に好ましい。
【0103】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、軽量化の観点から、ISO1183のA法(水中置換法)に準拠して測定される密度が1.11g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは1.00g/cm3以下であり、更に好ましくは、0.97g/cm3以下である。密度の下限は、ポリプロピレンの密度から、一般に0.90g/cm3以上である。
【0104】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接合部材としての用途の観点から、ISO 7619に準拠して、試験片に針を押し付けてから15秒後測定値である硬度デュロAが、35~98であることが好ましく、40~95の範囲であることがより好ましい。
【0105】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接合部材としての用途の観点から、ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時引張応力の測定法に準拠して23℃で測定した切断時引張応力の値の下限が7MPa以上であることが好ましく、8MPa以上であることがより好ましく、9MPa以上であることが更に好ましい。特に優れた融着耐久性の観点から、切断時引張応力の値の下限が15MPa以上であることが好ましい。切断時引張応力の値の上限は、26MPa以下であることが好ましく、25MPa以下であることがより好ましく、24MPa以下であることが更に好ましい。
【0106】
通常切断時引張応力は熱可塑性エラストマー組成物の架橋状態と関連し、熱可塑性エラストマー組成物の架橋状態によって制御することが好ましい。非架橋熱可塑性エラストマー組成物の切断時引張応力は大きくなる傾向にあり、架橋熱可塑性エラストマー組成物では小さくなる傾向にある。架橋熱可塑性エラストマー組成物において、切断時引張応力が小さくなる傾向にあるのは、架橋熱可塑性エラストマー組成物中に存在する架橋部分は伸びず、非架橋部分への応力がより集中するため、分子鎖間の滑りが促進され、ボイドの形成によって破壊に至りやすくなるためである。言い換えると、架橋熱可塑性エラストマー組成物では、ゴムと樹脂部の界面が非架橋系熱可塑性エラストマーに比較して弱くなることにより、切断時応力が小さくなる傾向にある。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、架橋成分を有さない非架橋熱可塑性エラストマー組成物、架橋成分を有する架橋熱可塑性エラストマー組成物のいずれであってもよいが、架橋成分を有さない非架橋熱可塑性エラストマー組成物であるほうが融着耐久性が良好になりやすい傾向があり、好ましい。
【0107】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接合部材としての用途の観点から、ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時伸びの測定法に準拠した手順で測定した切断時伸びの値の下限が400%以上であることが好ましく、500%以上であることがより好ましく、600%以上であることが更に好ましい。切断時伸びの値の上限は、1300%以下であることが好ましく、1200%以下であることがより好ましく、1100%以下であることが更に好ましい。
【0108】
〔成形体・用途〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常、熱可塑性エラストマー組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形の各種成形方法により、成形体とすることができ、これらの中でも射出成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形等の二次加工を行った成形体とすることもできる。
【0109】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野に適用することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。
【0110】
〔接合部材〕
本発明の接合部材は、上述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなるものであり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練し、混練物を射出成形することにより製造される。
【0111】
特に本発明の接合部材は、自動車用グラスランチャンネル等の自動車用複合成形体に用いられる接合部材として好適である。
図1は、複合成形体3としての自動車用グラスランチャンネルの一例を示す斜視図である。この複合成形体3は、別途熱可塑性エラストマー組成物の押出成形により製造された線状部を構成する被接合部材1A,1Bを、本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる接合部材2であるコーナー部で融着一体化させたものである。
【0112】
このような複合成形体3は、例えば、予め製作された被接合部材1A,1Bの接合端側を射出成形用金型に挿入し、この金型内に本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してコーナー部の接合部材2を成形すると共に、被接合部材1A,1Bの端面と融着一体化することにより製造することができる。
【実施例0113】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0114】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0115】
[成分(A):スチレン系エラストマー]
<A-1>
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含有率:32質量%、数平均分子量:200,000)/台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL-6151」
【0116】
[成分(B):未変性ポリプロピレン]
<B-1>
プロピレン・エチレン共重合体(MFR(JIS K7210):30g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:155℃、プロピレン単位含有率:98質量%、エチレン単位含有率:2質量%)/日本ポリプロ株式会社製「ノバテック(登録商標)PP MG03BD」
<B-2>
プロピレン・エチレン共重合体(MFR(JIS K7210):8g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:75℃、プロピレン単位含有率:91質量%、エチレン単位含有率:9質量%)/ExxonMobil社製「Vistamaxx(登録商標)3980FL」
【0117】
[成分(C):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリプロピレン]
<C-1>
アクリル酸変性ホモポリプロピレン(MFR(JIS K7210):3.6g/10分(230℃、荷重21.2N)、変性率:2.0質量%)/ビックケミー(BYK)社製「SCONA TPPP 2110 FA」
<C-2>
以下のようにして製造した変性ポリプロピレンC-2:MFR(JIS K7210):47g/10分(180℃、荷重21.2N)、変性率:0.8質量%
市販のホモポリプロピレン(ポリプロピレン単独重合体)(密度:0.90g/cm3、MFR(JIS K7210):0.6g/10分(230℃、荷重21.2N))5kgに対し、無水マレイン酸100g及び有機過酸化物(日本油脂社製「パーブチルO」)130gを加えて混合し、予め230℃に設定した二軸押出機に投入し、溶融混合してストランドカットによりペレット状の変性ポリプロピレンC-2を得た。
<C-3>
以下のようにして製造した変性ポリプロピレンC-3:MFR(JIS K7210):14g/10分(180℃、荷重21.2N)、変性率:1.2質量%
市販のホモポリプロピレン(ポリプロピレン単独重合体)(密度:0.90g/cm3、MFR(JIS K7210):0.6g/10分(230℃、荷重21.2N))5kgに対し、無水マレイン酸200g及び有機過酸化物(日本油脂社製「パーブチルI」)40gを加えて混合し、予め230℃に設定した二軸押出機に投入し、溶融混合してストランドカットによりペレット状の変性ポリプロピレンC-3を得た。
【0118】
[成分(D):滑剤]
<D-1>
シリコーンオイル/信越化学工業社製「KF96-1000CS」
【0119】
[成分(E):炭化水素系ゴム用軟化剤]
<E-1>
パラフィン系ゴム用軟化剤(40℃の動粘度:95.5cSt、引火点:272℃)/出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」
【0120】
[成分(G):酸化防止剤]
<G-1>
フェノール系酸化防止剤/BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」
【0121】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
【0122】
なお、以下の(1)~(5)、(7)の測定には、各熱可塑性エラストマー組成物を用い、インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を使用した。
【0123】
(1)硬度デュロA
ISO 7619に準拠して、試験片に針を押し付けてから15秒後の値を測定した。
【0124】
(2)密度
ISO1183のA法(水中置換法)に準拠した方法で測定した。
【0125】
(3)切断時引張応力
ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時引張応力の測定法に準拠した手順で、23℃で行った。
【0126】
(4)切断時伸び
ISO37 Type1A(試験速度500mm/min)の切断時伸びの測定法に準拠した手順で行った。
【0127】
(5)静摩擦係数と動摩擦係数
射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を縦63mm×横63mmの大きさに切り出し、そのテストピースを、ガラス板(縦110mm×横110mm×厚み3mm)の上にセットし、その上に荷重500gを載せて100mm/minの速度で30mm分移動させることで、静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
機器:新東科学社製「トライボギア Type:HEIDON-38」
測定モード:一定荷重測定
測定時温度:23℃
測定圧子:ASTM平面圧子
また、動摩擦係数については、下記基準で評価した。
○:動摩擦係数 1.00未満
△:動摩擦係数 1.00以上1.10未満
×:動摩擦係数 1.10以上
【0128】
(6)プロピレン系樹脂を海相として含む熱可塑性エラストマー組成物との融着耐久性(折り曲げ試験)
プロピレン系樹脂を海相として含む熱可塑性エラストマー組成物(三菱ケミカル株式会社製「TREXPRENE(登録商標)3855N」、動的架橋熱可塑性エラストマー)の厚さ1mmの射出成形シートを10cm×5cmの大きさに切り出し、110ton射出成形機の金型内に装填した。各熱可塑性エラストマー組成物をシリンダー温度230℃、金型温度50℃設定で前記金型内に射出し、インサート成形法により、複合成形体を得た。該複合成形体をJIS K7195 ヒートサグ形ダンベル(幅25mm×長さ150mm)で打ち抜き、融着界面を中心として、左右に180度折り曲げを1セットとし、1秒間に1回のペースで折り曲げ試験を行った。その際、合計3つの試験片に対して、融着界面に亀裂の入った時の折り曲げのセット回数を記録し、その平均値を求めた。平均値が大きい方が融着耐久性に優れる。
なお、本評価において、折り曲げ回数の上限は100回とした。表中100と記載のものは、100回折り曲げしても亀裂の入らなかったことを示すものである。
本評価は、射出成形シートを用いた融着耐久性の評価であるが、この評価結果から、
図1に示したような複合成形体にした際の融着耐久性の良否を再現良く評価できる。
【0129】
(7)圧縮永久歪
ISO 815に準拠して、70℃、22時間、25%圧縮の条件で測定した。
【0130】
[実施例/比較例]
<実施例1>
(A-1)100質量部、(B-1)69質量部、(B-2)14質量部、(C-1)13.9質量部、(D-1)5.6質量部、(E-1)94質量部、(G-1)0.28質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドして混合物を得た。この混合物を、同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30α」、L/D=46、シリンダーブロック数:13)の供給部へ合計15kg/hの速度で投入し、110~220℃の範囲で昇温させ溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、JIS K7210(1999)の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nでメルフローレート(MFR)を測定すると共に、前述の(1)~(7)の評価を行った。評価結果を表-1に示す。
【0131】
<実施例2~5、比較例1>
表-1に記載の配合割合とした以外は実施例1と同様にして実施し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表-1に示す。
【0132】
表-1中、(G-1):酸化防止剤については記載を省略した。
【0133】
【0134】
<評価結果>
表-1に示す通り、実施例1~5の熱可塑性エラストマー組成物は、融着耐久性と摺動性に優れる。
【0135】
比較例1は、成分(C)を用いていない例であるが、融着耐久性の評価が劣っている。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野で用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用コーナー材である自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。