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特開2023-70498放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法及び管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070498
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法及び管理システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 40/20 20180101AFI20230512BHJP
   G01T 1/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G16H40/20
G01T1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182713
(22)【出願日】2021-11-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】518149844
【氏名又は名称】株式会社RYUKYU ISG
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 陸太
(72)【発明者】
【氏名】夜久 英樹
【テーマコード(参考)】
2G188
5L099
【Fターム(参考)】
2G188BB17
2G188EE25
2G188JJ05
5L099AA02
(57)【要約】
【課題】防護エプロン等の防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況を正しく確認する方法を提供する。
【解決手段】防護エプロンを着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法において、前記防護エプロンによって遮断される電磁波により相互に通信するペアセンサの一方22を、前記放射線業務において用いられる放射線源21に取り付け、他方31を、前記放射線業務従事者30の、前記防護エプロンに覆われた位置に取り付けるステップ1及び4と、前記ペアセンサ22、31の間で通信が確立した場合に防護エプロンが正しく着用されていないと推定するステップ8を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況の管理システムであって、
前記防護衣によって遮断される電磁波により相互に通信する一対のセンサであって、一方が前記放射線業務において用いられる放射線源に取り付けられ、他方が前記放射線業務従事者の前記防護衣に覆われた位置に取り付けられるペアセンサと、
前記ペアセンサから該ペアセンサ間の通信状態に関する情報を取得する通信情報取得部と、
前記ペアセンサの間で通信が確立している場合に、前記防護衣が正しく着用されていないと推定する着用状態推定部と、
前記着用状態推定による推定結果を、前記放射線業務従事者を特定する情報と対応づけて保存する被ばく状況保存部と
を備えることを特徴とする放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム。
【請求項2】
前記通信情報取得部が、予め決められた時間間隔で情報を取得して前記記憶部に保存する
ことを特徴とする、請求項1に記載の放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム。
【請求項3】
さらに、
前記放射線業務従事者の、前記防護衣から露出した位置に取り付けられ、前記放射線源までの距離を測定する距離センサ
を備え、
前記通信情報取得部が、さらに、前記距離センサにより測定された距離の情報を取得して前記記憶部に保存する
ことを特徴とする、請求項2に記載の放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム。
【請求項4】
前記記憶部に、さらに、前記放射線源から放射線を照射したときの、前記放射線源が配置されている空間内の空間線量分布のデータが保存されており、
さらに、
前記距離センサにより測定された距離の情報と、前記空間線量分布のデータに基づいて、前記放射線業務従事者が前記防護衣を正しく着用していなかったときに過大に測定された被ばく線量を推定する被ばく線量推定部と
を備えることを特徴とする、請求項3に記載の放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム。
【請求項5】
さらに、
解析項目の入力を受け付ける解析項目受付部と、
前記解析項目受付部により受け付けられた解析項目により、前記記憶部に保存されている、前記通信情報取得部により取得され前記記憶部に保存されたデータを統計的に処理する解析処理部と、
前記解析処理部による解析結果を画面表示する表示処理部と
を備えることを特徴とする、請求項3又は4に記載の放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム。
【請求項6】
防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法であって、
前記防護衣によって遮断される電磁波により相互に通信するペアセンサの一方を、前記放射線業務において用いられる放射線源に取り付け、他方を、前記放射線業務従事者の、前記防護衣に覆われた位置に取り付けるステップと、
前記ペアセンサの間で通信が確立した場合に、前記防護衣が正しく着用されていないと推定するステップと
を含む、放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線業務従事者の被ばく状況を確認する方法及び被ばく状況を管理するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
労働安全衛生法では、放射線被ばくを伴う業務に従事する放射線業務従事者の健康を護るために、放射線業務事業者が守らなければならない事項が定められている。具体的には、外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3ヶ月につき1.3mSv(ミリシーベルト)を超えるおそれのある区域などを放射線管理区域として定め、それを標識によって明示することや、放射線業務従事者の被ばく線量が5年間につき100mSvを超えず、かつ、1年間につき50mSvを超えないように管理することなどが定められている。そのために、放射線業務事業者は放射線業務従事者に放射線測定器を着用させて被ばく線量を測定及び管理している。
【0003】
病院等の医療機関では、がん等の疾病を治療するなどの目的でX線発生装置等の放射線源から発せられる放射線を患者に照射しつつ手術等の放射線医療行為が行われる。放射線医療行為を行う医師や看護師は、患者の近傍で作業することが多いため被ばく線量が多くなりやすい。そこで、医師や看護師等の安全を護るべく、放射線医療行為を行う医師や看護師等が手術室に立ち入る際に、放射線を遮断する鉛の板が挿入された防護エプロン等を手術着の上に着用させるというガイドラインが示されている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】公益社団法人日本医学放射線学会,"医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン",[online],2020年4月発行,[2021年10月11日検索],インターネット<URL:https://www.j-circ.or.jp/old/topics/gl_radiation_safety_medicalstaff.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令の規定に基づき、並びに同法を実施するために電離放射線障害防止法規則が定められている。電離放射線障害防止法規則には、胸部又は腹部に放射線測定器を取り付けて被ばく線量を測定することが定められている。ただし、同規則に基づく通達では、医療現場で医師等が防護エプロンを着用する際のように、体幹部のうち、防護エプロンで覆われた部分と防護エプロンから露出した部分で被ばく量が異なる(不均等被ばくする)場合がある。こうした場合には、放射線測定器が2個以上使用し、一つ目の放射線測定器を防護エプロンに覆われていない部分(襟元や手首など)に装着し、二つ目の放射線測定器を手術着の所定位置に装着したうえで、二つ目の放射線測定器を覆うように防護エプロンを着用することとされている。従って、不均等被ばくでは医師等が防護エプロンを着用していれば、二つ目の放射線測定器では放射線は測定されないか、測定されたとしても僅かである。
【0006】
しかし、医師等が手術を行っているうちに二つ目の放射線測定器の取り付け位置がずれて防護エプロンの外に露出し、そのままの状態で手術が続けられる場合がある。すると、当該医師等の実際の被ばく量は基準値に達していないにもかかわらず、放射線測定器により測定された被ばく線量が上記の基準値(1年につき50mSvなど)を超えてしまい、当該医師等がその後の放射線業務を行うことができなくなってしまう。
【0007】
従来、こうした場合には、当該医師等は、事業者に対して、手術室において放射線医療行為を行っている間に二つ目の放射線測定器が防護エプロンの外に露出したことで実際の被ばく線量を超える線量が測定されてしまったことを説明し、当該医師等の被ばく線量の訂正を求めていた。しかし、当該医師等の防護エプロンの着用状態は当該医師等自身、あるいは当該医師等とともに手術を行っていた者の記憶に頼らざるを得ず、事業者が当該医師等の説明の真偽を正しく判断することは難しいという問題があった。
【0008】
ここでは、医師等が防護エプロンを着用する場合を例に挙げて従来技術の課題を説明したが、医師等以外の放射線業務従事者が防護エプロン以外の防護衣を着用する場合にも上記同様の問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況を正しく確認する方法を提供することである。また、防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況を管理することができるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明の一態様は、防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法であって、
前記防護衣によって遮断される電磁波により相互に通信するペアセンサの一方を、前記放射線業務において用いられる放射線源に取り付け、他方を、前記放射線業務従事者の、前記防護衣に覆われた位置に取り付けるステップと、
前記ペアセンサの間の通信が確立した場合に、前記防護衣が正しく着用されていないと推定するステップと
を含む。
【0011】
前記防護衣には、多くの場合、鉛の板を挿入したものが用いられる。その場合、上記ペアセンサとして、例えば、赤外線センサを用いることができる。あるいは、超音波やミリ波などによる通信を行うものを用いることもできる。
【0012】
本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法では、放射線業務従事者が防護エプロン等の防護衣を着用して放射線業務を行う前に、該放射線業務において用いられる放射線源にペアセンサの一方を取り付け、放射線業務従事者が着用している防護衣に覆われた位置にペアセンサの他方を取り付けておく。例えば、医師等が手術室において放射線医療行為を行う場合には、当該医師等が手術室に入る前に上記他方のペアセンサを取り付ける。本発明に係る方法では、放射線業務従事者が正しく防護衣を着用した状態で放射線業務に従事していれば、ペアセンサ間の通信が防護衣で遮断されるため、ペアセンサ間の通信が確立することはない。一方、放射線業務従事者が正しく防護衣を着用しておらず放射線業務従事者に取り付けた上記他方のペアセンサが防護衣から露出しているとペアセンサ間の通信が確立する。本発明に係る方法では、このように、ペアセンサ間の通信が確立しているか否かを判定することにより、放射線業務従事者が正しく防護衣を着用しているか否かを確認することができる。
【0013】
なお、防護衣が正しく着用されていない場合には、防護衣自体は着用されているものの、その下に着用している手術着等の衣服に乱れが生じている場合を含む。通常、放射線業務従事者は、防護衣に覆われた位置に被ばく線量を測定するための放射線測定器を取り付けている。防護衣が着用されていても、衣服に乱れが生じて放射線測定器が防護衣から露出していると、放射線測定器により測定される被ばく線量が過大になってしまう。従って、本発明では、防護衣の下に着用している衣服に乱れが生じている可能性を含めて、防護衣が正しく着用されていないと推定する。
【0014】
また、上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況の管理システムであって、
前記防護衣によって遮断される電磁波により相互に通信する一対のセンサであって、一方が前記放射線業務において用いられる放射線源に取り付けられ、他方が前記放射線業務従事者の前記防護衣に覆われた位置に取り付けられるペアセンサと、
前記ペアセンサから該ペアセンサ間の通信状態に関する情報を取得する通信情報取得部と、
前記ペアセンサの間で通信が確立している場合に、前記防護衣が正しく着用されていないと推定する着用状態推定部と、
前記着用状態推定による推定結果を、前記放射線業務従事者を特定する情報と対応づけて保存する被ばく状況保存部と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法を用いることにより、防護エプロン等の防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況を正しく確認することができる。また、本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の管理システムを用いることにより、防護エプロン等の防護衣を着用して放射線業務を行う放射線業務従事者の被ばく状況を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の管理システムの一実施形態の全体構成図。
図2】本実施形態の管理システムにおけるBLEゲートウェイの取り付け状態図。
図3】本実施形態の管理システムにおける第1BLE ToFセンサの取り付け状態図。
図4】本実施形態の管理システムにおける第2BLE ToFセンサの取り付け状態図。
図5】本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法の一実施形態のフローチャート。
図6】本実施形態の管理システムにおける空間線量分布の表示例。
図7】本実施形態の管理システムにおける解析処理結果の例。
図8】本実施形態の管理システムにおける解析処理結果の別の例。
図9】本実施形態の管理システムにおける解析処理結果のさらに別の例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る放射線業務従事者の被ばく状況の確認方法及び管理システムの実施形態について、以下、図面を参照して説明する。本実施形態における放射線業務従事者の被ばく状況の管理システム(以下、単に「管理システム」とも呼ぶ。)は、主として医療機関における、医師、看護師、技師等(以下、まとめて「医師等」とも呼ぶ。)の放射線業務従事者の被ばく状況を管理するために用いられる。
【0018】
図1は、本実施形態の管理システムの全体構成図である。本実施形態の管理システムは、管理装置10と、1乃至複数の手術室20や検査室(以下、まとめて「手術室等」とも呼ぶ。)のそれぞれに配置されている放射線発生装置21、該放射線発生装置21に取り付けられたBLE(Bluetooth Low Energy)ゲートウェイ22、該BLEゲートウェイ22で受信したデータを管理装置10に送信するためのWi-Fiルータ23、手術室20等において放射線の照射を伴う業務(手術、検査等。以下、これを「放射線医療行為」ともいう。)を行う医師30等に装着される第1BLE ToF(Time-of-Flight)センサ31及び第2BLE ToFセンサ32を含む。図1には1つの手術室20のみを図示しているが、複数の手術室20のそれぞれに同様の構成が設けられている。また、図1には一人の医師30のみを図示しているが、他の医師30等にも同様に第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32が装着される。なお、上記BLEゲートウェイ22は本発明におけるペアセンサの一方に相当し、第2BLE ToFセンサ32は本発明におけるペアセンサの他方に相当する。
【0019】
図2に示すように、BLEゲートウェイ22は、放射線発生装置21の上部の、該放射線発生装置21を用いた手術等を行う医師30等を臨む位置に取り付けられる。また、図3に示すように、第1BLE ToFセンサ31は医師30等が装着する防護メガネに取り付けられ、図4に示すように、第2BLE ToFセンサ32は、医師30等が着用する防護エプロンの内側に、放射線測定器と一体的に取り付けられる。第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32はいずれも、赤外線通信によってBLEゲートウェイ22との距離を測定する。BLEゲートウェイ22は、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32でそれぞれ測定された距離の情報を受信し、Wi-Fiルータ23を通じて管理装置10に送信する。なお、放射線測定器と第2BLE ToFセンサ32を一体的に取り付けることは好ましい態様であって、放射線測定器と第2BLE ToF32は防護エプロンの内側の異なる位置に取り付けてもよい。
【0020】
管理装置10の実体は、例えば一般的なパーソナルコンピュータであり、マウスやキーボードなどの入力部14と、液晶ディスプレイなどの表示部15が接続されている。管理装置10は、記憶部11を備えている。記憶部11には、医師等データベース111、放射線発生装置データベース112、及び放射線医療行為データベース113が含まれている。
【0021】
医師等データベース111には、医師30等の個人を特定する情報(識別番号、氏名等)と、各医師30等が装着する放射線測定器を特定する情報(識別番号等)、及び各医師が装着する第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサを特定する情報(識別番号等)が、放射線測定器により測定された被ばく線量、並びに第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサの測定データとともに保存されている。
【0022】
放射線発生装置データベース112には、複数の手術室20等のそれぞれに配置されている放射線発生装置21を特定する情報(例えば、装置の種類及び型番(モダリティ)、識別番号等)と、該放射線発生装置21に取り付けられているBLEゲートウェイを特定する情報(識別番号等)が保存されている。また、各手術室20等において放射線発生装置21を使用したときの、該手術室20等の内部の空間線量分布(被ばく線量の三次元空間データ)も保存されている。
【0023】
放射線医療行為データベース113には、複数の手術室20等において行われた手術等の放射線医療行為の履歴の情報が保存されている。この情報には、例えば、手術等の日時、手術室20等、患者を特定する情報、手術等の種類、担当した医師30等を特定する情報、当該放射線医療行為において放射線発生装置21の種類、当該放射線発生装置21から放射された放射線の種類及び出力量の情報が含まれる。
【0024】
管理装置10は、さらに、機能ブロックとして、測定データ取得部131、着用状態推定部132、被ばく状況保存部133、被ばく線量推定部134、解析項目受付部135、解析処理部136、及び表示処理部137を備えている。これらの機能ブロックは、管理装置10を構成するパーソナルコンピュータ等に予めインストールされている被ばく状況管理ソフトウェアをプロセッサで実行することにより具現化される。
【0025】
次に、本実施形態の管理システムを用いて放射線業務従事者の被ばく状況を確認する方法について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0026】
本実施形態では、放射線業務従事者の被ばく状況を確認するに際して、予め、複数の手術室20等に配置されている放射線発生装置21のそれぞれの所定の位置(図2参照)に、BLEゲートウェイ22を取り付けておく(ステップ1)。そして、放射線発生装置21とBLEゲートウェイ22の識別番号を対応付けた情報を放射線発生装置データベース112に保存しておく(ステップ2)。
【0027】
また、放射線医療行為に従事する医師30等のそれぞれに、第1BLE ToFセンサ31と第2BLE ToFセンサ32を配布しておく。そして、医師30等と、当該医師30等に配布した第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の情報を医師等データベース111に保存しておく(ステップ3)。
【0028】
医師30等は、手術室20等において放射線医療行為を行う際には、例えば手術着を着用し、さらにそのうえに防護エプロンを着用する。また、防護メガネを着用する。このとき、医師30等は防護メガネとともに第1BLE ToFセンサ31を装着し、防護エプロンの中に、放射線測定器とともに第2BLE ToFセンサ32を取り付ける(図3及び図4参照。ステップ4)。
【0029】
手術室20等は、放射線の漏出を防止するために、所定厚さのコンクリート等の壁で外部と隔てられている。そのため、手術室20等の外に医師30等がいる間は、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32とBLEゲートウェイ22の間の通信は、この壁で遮断されている。
【0030】
医師30等が手術室20に立ち入ると、第1BLE ToFセンサ31は赤外線通信によってBLEゲートウェイ22までの距離を連続的に測定し、BLEゲートウェイ22に送信する。一方、第2BLE ToFセンサ32は防護エプロンの中に装着されており、該第2BLE ToFセンサ32から発せられる赤外線は防護エプロンによって遮断されるため、第2BLE ToFセンサ32による距離の測定は行われない。
【0031】
医師30等が放射線医療行為を行っている間に、該医師30等が着用している手術着に乱れが生じるなどして第2BLE ToFセンサ32が防護エプロンから露出すると、第2BLE ToFセンサ32から発せられる赤外線がBLEゲートウェイ22に到達して、該BLEゲートウェイ22までの距離が測定される。
【0032】
BLEゲートウェイ22は、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32による測定データを受信し、所定の間隔で管理装置10に送信する(ステップ5)。第1BLE ToFセンサ31のみから距離の情報が受信されている間は、BLEゲートウェイ22は、第1BLE ToFセンサ31からBLEゲートウェイ22までの距離の情報を、第2BLE ToFセンサ32との間の通信が不成立であることを示す信号とともに、所定の時間間隔で(例えば60秒毎に)管理装置10に送信する。第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の両方から距離の情報を受信すると、BLEゲートウェイ22は、それぞれのセンサから受信した距離の情報を管理装置10に送信する。
【0033】
また、医師30等により放射線医療行為が行われている間、放射線発生装置21の出力情報も管理装置10に送信される。放射線発生装置21の出力量の情報は、該放射線発生装置21を特定する情報及び放射線の種類とともに、該放射線発生装置21の動作を制御する制御部(図示略)から管理装置10へと送られる。あるいは、BLEゲートウェイ22から管理装置10に送信してもよい。
【0034】
管理装置10では、BLEゲートウェイ22や放射線発生装置21の制御部からデータを受信すると、管理装置10が保持するタイマーに基づく受信日時、及びBLEゲートウェイ22、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の識別情報と対応付けて、順次、記憶部11の医師等データベース111に保存する。また、放射線発生装置21の出力情報は、受信日時、該放射線発生装置21を特定する情報、該放射線発生装置21から発せられた放射線の種類、及びその時系列の出力量等の情報とともに、放射線医療行為データベース113に保存する。
【0035】
測定データ取得部131は、記憶部11に新たなデータが保存される毎に、該記憶部11から、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の測定データ(距離の情報)を取得する(ステップ6)。続いて、着用状態推定部132は、第2BLE ToFセンサ32からBLEゲートウェイ22までの距離の測定データの有無を判定する(ステップ7)。そして、この判定結果に基づいて、医師30等の防護エプロンの着用状態を推定する(ステップ8)。具体的には、第2BLE ToFセンサ32からBLEゲートウェイ22までの距離の測定データが存在しない場合は、当該第2BLE ToFセンサ32を装着している医師30等が正しく防護エプロンを着用していると推定する。一方、第2BLE ToFセンサ32からBLEゲートウェイ22までの距離の測定データが存在する場合は、当該第2BLE ToFセンサ32を装着している医師30等が正しく防護エプロンを着用していないと推定する。上述のとおり、正しく防護エプロンを着用していない状態には、防護エプロン自体は着用されているものの、第2BLE ToFセンサ32(及びそれと一体的に取り付けられている放射線測定器)が防護エプロンから露出した状態を含む。
【0036】
被ばく状況保存部133は、着用状態推定部132による上記の判定がなされる毎に、医師等データベース111内に、当該医師30等の第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の測定データ及び防護エプロンの着用状態の推定結果を、当該測定データの受信日時とともに保存する(ステップ9)。医師等データベース111内には、こうして、医師30等のそれぞれについて、当該医師30等に配布された第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32の測定データ及び判定結果の時系列のデータが蓄積される。
【0037】
一般に、医師30等に配布される放射線測定器は、1ヶ月毎に新しいものに交換され、それまでの1ヶ月間の被ばく線量の積算値が算出される。医師30等が、その間に行われていた放射線医療行為の全てにおいて防護エプロンを正しく着用していれば、被ばく線量が過大になることはない。しかし、放射線医療行為の間に、防護エプロンの着用状態に乱れが生じ、被量計が防護エプロンから露出していると、放射線医療行為の間、放射線発生装置21から発せられる放射線が全て、防護エプロンで遮られることなく放射線測定器に入射し、その結果、被ばく線量が過大になってしまう。被ばく線量が予め決められた基準値を超えると、当該医師30等がその後の放射線業務を行うことができなくなってしまう。
【0038】
こうした場合には、従来、当該医師30等は、事業者に対して、手術室20等において放射線医療行為を行っている間に放射線測定器が防護エプロンの外に露出したために実際の被ばく線量を超える線量が測定されてしまったことを説明し、当該医師30等の被ばく線量の訂正を求めていた。しかし、当該医師30等が防護エプロンを着用していたか否かは当該医師30等自身、あるいは当該医師30等とともに手術を行っていた、別の医師30等の記憶に頼らざるを得ず、事業者が当該医師30等の説明の真偽を正しく判断することは難しいという問題があった。
【0039】
これに対し、本実施形態では、放射線測定器と一体で第2BLE ToFセンサ32を防護エプロンの中に着用した状態で医師30等が放射線医療行為を行い、該第2BLE ToFセンサ32とBLEゲートウェイ22の間で通信が成立したか否かの情報を医師等データベース111に保存する。そのため、放射線測定器により測定された被ばく量が過大であった場合に、医師等データベース111に保存されたデータを参照し、第2BLE ToFセンサ32とBLEゲートウェイ22の間で通信が成立していたたか否かを確認することによって、第2BLE ToFセンサ32と一体的に装着されていた放射線測定器が防護エプロンの外に露出していたことを把握することができる。
【0040】
また、医師30等が着用していた防護エプロンから放射線測定器が露出していたことが確認された場合に、放射線測定器により過大に測定された被ばく線量の推定処理を指示すると、被ばく線量推定部134は、第1BLE ToFセンサ31によって測定された、該第1BLE ToFセンサ31からBLEゲートウェイ22までの距離の時系列データに基づいて、当該医師30等の位置データを推定し、放射線発生装置データベース112に保存されている、当該医師30等が放射線医療行為を行った手術室20内の空間線量分布データに基づいて、防護エプロンから放射線測定器が露出していた時間帯(即ち、第2BLE ToFセンサ32による距離の測定データが保存されている時間帯)の被ばく線量を推定する。
【0041】
また、表示処理部137は、図6に示すように、手術室20内の医師30等の位置の時間変化を空間線量分布とともに表示部15の画面に表示する。これにより、事業者は、表示部15の画面に表示されている内容に誤りがないかを医師30等に確認させる。被ばく線量推定部134により推定された被ばく線量を、放射線測定器により測定された被ばく線量から差し引く処理を行うことにより、当該医師30等の実際の被ばく線量を適切に修正することができる。
【0042】
本実施形態では、さらに、保存された測定データ等に基づく様々な解析処理を行うことができる。以下、その例を説明する。
【0043】
使用者(例えば、病院等の事業者における管理担当者や医師30等)が、被ばく状況の解析の開始を指示すると、解析項目受付部135は、表示部15の画面に、解析項目候補を表示する。解析項目候補は、解析結果として表示されるグラフの軸として使用する項目である。具体的には、医師等データベース111、放射線発生装置データベース112、及び放射線医療行為データベース113に保存されたデータの項目であり、日時、医師30等の識別情報、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32のセンサ番号、放射線発生装置の識別情報、放射線の出力量、患者の識別情報、手術等の内容、などが含まれる。これらの項目の中から使用者が、解析対象範囲、及びグラフの軸として使用する項目を指定する所定の入力操作を行うと、解析処理部136は当該項目に対応付けられたデータを記憶部11の各データベースから読み出してグラフ生成用データを作成する。そして、表示処理部137が、グラフ生成用データに基づいて、表示部15の画面にグラフを表示する。
【0044】
図7は、解析対象データの絞り込みを行わず全てのデータを対象として、第1BLE ToFセンサ31のセンサ番号と日時を二軸として、第1BLE ToFセンサ31により測定されたBLEゲートウェイ22までの距離の測定データを散布図としてグラフ化したものである。図7では、日時の軸を「日」単位としている。このように「日」単位での表示が選択された場合には、使用者によるデータ処理方法の選択に基づいて、例えば、各日に取得された複数の第1BLE ToFセンサ31の距離データの平均値が散布図にプロットされる。複数のデータを集約するためのデータ処理方法を使用者が変更すると(例えば図8に示すように最大値と最小値をバーで表示する方法に変更すると)、それに応じてグラフの表示が適宜に変更される。
【0045】
図7のように三次元グラフを表示する場合、表示処理部137は使用者によるマウス等の入力部14による操作に基づいて、画面上でグラフを回転させる。また、使用者によるマウス等の入力部14によりグラフ内の一部の領域を囲む操作を行うと、当該操作によって囲まれたグラフを拡大表示するとともに、該領域内の各点について、放射線発生装置21の種類(モダリティ)、装置番号、日時、センサ番号の情報がリストとして表示される。さらに、使用者が散布図として表示されたいずれかの点を選択する操作を行うと、その点に関する詳細情報(手術室20、放射線発生装置21の種類等)がポップアップ表示される。使用者は、散布図に表示された点を視認し、特異な点が存在する場合に、その点あるいはその点を含む領域を選択して詳細を確認することができる。
【0046】
図8は、1つの第1BLE ToFセンサ31を指定し、日時を軸として、第1BLE ToFセンサ31により測定されたBLEゲートウェイ22までの距離の測定データをグラフ化したものである。図8でも日時の軸が「日」単位である。ここでは、使用者がデータ処理方法の選択に基づいて、各日に取得された第1BLE ToFセンサ31の距離データの最大値と最小値をバーで表示したグラフが表示されている。このグラフにおいても使用者がある日の距離データのバーを選択する操作を行うと、図9に示すように、当該日の測定データの詳細を示すグラフが表示される。使用者は、例えば、図8に示すグラフにおいて、最大値と最小値の差が他の日よりも大きい場合に、当該日を指定し、詳細なデータを確認することで、その理由(例えば、当該日に広い手術室20における手術と、小さな検査室における検査を行った)を確認することができる。
【0047】
また、図9のグラフにおいて、距離の測定データが連続して存在している時間範囲(即ち、1つの手術等が行われていた時間帯)を選択すると、解析処理部136は、記憶部11から、当該手術に関連する詳細なデータ(モダリティ、放射線の種類及び出力量、患者の識別情報、患者の被ばく量等)の情報を読み出してポップアップ表示する。使用者はこれを確認することにより、手術内容の詳細を確認することができる。
【0048】
上記の実施形態は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施形態では、管理装置10の記憶部11に、医師等データベース111、放射線発生装置データベース112、及び放射線医療行為データベース113を含む構成としたが、これらのうちの一部又は全部を、管理装置10との間で通信可能な別の装置に設けてもよい。
【0049】
上記実施形態では、医師30等に第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32を装着させたが、センサの種類は適宜に変更可能である。また、医師30等が手術中に防護エプロンを正しく着用していたかのみを確認すればよい場合は、手術室20等における医師30等の位置を確認する必要はない。従って、その場合には、第2BLE ToFセンサ32のみを用いてもよい。また、第2BLE ToFセンサ32として距離センサではなく、単にBLEゲートウェイ22との間で通信の成否を確認するだけの機能を有するものを用いてもよい。さらに、第2BLE ToFセンサ32とBLEゲートウェイ22の間で通信が確立したときに、医師30等に防護エプロンの着用状態の確認を促すための警告音や振動を発するように構成してもよい。
【0050】
上記実施形態では、第1BLE ToFセンサ31及び第2BLE ToFセンサ32として、赤外線によりBLEゲートウェイ22との間で赤外線通信を行うものを用い、BLEゲートウェイ22として、Wi-Fiルータ23を通じて管理装置10にデータを送信するものを用いたが、通信の形態は適宜に変更することができる。ただし、第2BLE ToFセンサ32には、少なくとも、防護エプロンによって遮断される形態で通信を行うものを用いる。
【0051】
上記実施形態における解析処理の例も一例に過ぎず、管理装置10又は該管理装置10と通信可能に設けられた別の装置のデータベースに収録されたデータを用いた様々な解析処理を行うことができる。
【0052】
上記実施形態では、医療機関等における放射線業務従事者の被ばく状況の確認や管理を行うための構成を説明したが、放射線業務を行う医療機関以外の事業者等が放射線業務従事者の被ばく状況の確認や管理を行う際にも、センサやゲートウェイの取り付け位置を適宜に変更した上で上記実施形態と同様のシステムや方法を用いることができる。また、上記実施形態では防護エプロンを着用する場合を説明したが、防護用のズボン等、防護エプロン以外の防護衣を着用する場合にも上記実施形態と同様のシステムや方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
10…管理装置
11…記憶部
111…医師等データベース
112…放射線発生装置データベース
113…放射線医療行為データベース
131…測定データ取得部
132…着用状態推定部
133…被ばく状況保存部
134…被ばく線量推定部
135…解析項目受付部
136…解析処理部
137…表示処理部
14…入力部
15…表示部
21…放射線発生装置
22…BLEゲートウェイ
23…Wi-Fiルータ
31…第1BLE ToFセンサ
32…第2BLE ToFセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9