(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070504
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】測位システム及び測位方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/26 20060101AFI20230512BHJP
G01S 1/80 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01S5/26
G01S1/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182723
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】394025094
【氏名又は名称】三菱電機特機システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】堤 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】土定 祐介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智志
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB20
5J083AC32
5J083AD03
5J083AE03
5J083AF18
5J083AG09
5J083BA01
5J083CA04
5J083CA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水中の対象物の位置を所望する時期に簡便に測定する。
【解決手段】水中の少なくとも3か所の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置と、水中で前記音響信号を受信する音響受波装置(演算装置110及び受信部120)とを備え、前記音響送波装置の各々は、第1の原子時計と、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信部40を備え、前記音響受波装置は、前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部120と、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記受信部が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記発信部の各々の既知の位置とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の少なくとも3か所の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置と、
水中で前記音響信号を受信する音響受波装置とを備え、
前記音響送波装置の各々は、
第1の原子時計と、
前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信部を備え、
前記音響受波装置は、
前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、
前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部と、
前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記受信部が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記発信部の各々の既知の位置とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算部とを備える
ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
水中の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置と、
水中で前記音響信号を受信する音響受波装置とを備え、
前記音響送波装置は、
第1の原子時計と、
前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信部を備え、
前記音響受波装置は、
前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、
前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部であって、お互いの位置関係が既知の3つ以上の受信部と、
前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記3つ以上の受信部の各々が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記受信部の各々の位置関係とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算部とを備える
ことを特徴とする測位システム。
【請求項3】
前記音響送波装置は、水中の音速に影響を与える物理量を検出する検出部を備え、
前記発信部は、前記検出部により検出された物理量を含む前記音響信号を発信し、
前記音響受波装置の計算部は、前記受信部によって受信された前記音響信号に含まれる前記物理量を用いて、前記音響受波装置の位置を計算する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の測位システム。
【請求項4】
前記音響受波装置は、潜水士に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の測位システム。
【請求項5】
前記音響受波装置は、水中作業機及び/又は水中に据え付ける構造物に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の測位システム。
【請求項6】
前記音響送波装置は、水中に固定された固定物に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の測位システム。
【請求項7】
第1の原子時計を備え、水中の少なくとも3か所の既知の位置に配置されて音響信号を発信する各音響送波装置の発信部が、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信ステップと、
前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計を備えた音響受波装置が、水中において、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信ステップと、
前記音響受波装置が、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記発信部の各々の既知の位置とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算ステップと
を備えることを特徴とする測位方法。
【請求項8】
第1の原子時計を備え、水中の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置の発信部が、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信ステップと、
前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部であって、お互いの位置関係が既知の3つ以上の受信部とを備えた音響受波装置が、水中において、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信ステップと、
前記音響受波装置が、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記3つ以上の受信部の各々が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記受信部の各々の位置関係とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算するステップと
を備えることを特徴とする測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の対象物の測位を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾工事における水中作業時の基準点が陸上や既設構造物上にある場合は、水中スタッフなどを用いて潜水士と陸上測量員が連携してその基準点の位置から水中作業での新点を求める方法が知られている。ただし、水中スタッフを陸上から測量員が視準するが、水深が深くなると、潜水士が水中スタッフを垂直に保持するのは潮流などの影響で困難な場合があり測量値に大きな誤差が発生する恐れがある。また、作業エリアが沖合数キロにある場合は、新点を光波もしくはGNSSなどで求める陸上基準点からの絶対座標によるものと、海上からの音響測位装置などの相対座標を合わせて算出する方法が知られている。ただし、音響測位装置は測量船などに艤装して相対測位を行うが、正確に同期の取れた船の動揺や位置の補正には高価な検出器が必要で、それぞれの機器を取り付けるために剛性の取れた金具を製作し、測量船などに設置するので、測量船に使用する船舶が小さいとこれらの金具および装置類は他の作業に支障をきたしたり、船舶の動揺の周期が短くなり、より高精度の姿勢補正装置が必要となったりする。
【0003】
例えば特許文献1に記載された水中測位システムにおいては、水中に存在する物体(測位対象物)に設けられ、音響信号を発するピンガと、ピンガからの音響信号を受信可能な、少なくとも3個のハイドロフォンとを備え、異なるハイドロフォンにより受信した音響信号の到達時間差を算出することにより、測位対象物の位置を特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水中の所定の位置を所望する際に簡便に測定可能な仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、水中の少なくとも3か所の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置と、水中で前記音響信号を受信する音響受波装置とを備え、前記音響送波装置の各々は、第1の原子時計と、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信部を備え、前記音響受波装置は、前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部と、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記受信部が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記発信部の各々の既知の位置とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算部とを備えることを特徴とする測位システムを提供する。
【0007】
また、本発明は、水中の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置と、水中で前記音響信号を受信する音響受波装置とを備え、前記音響送波装置は、第1の原子時計と、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信する発信部を備え、前記音響受波装置は、前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部であって、お互いの位置関係が既知の3つ以上の受信部と、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記3つ以上の受信部の各々が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記受信部の各々の位置関係とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算する計算部とを備えることを特徴とする測位システムを提供する。
【0008】
前記音響送波装置は、水中の音速に影響を与える物理量を検出する検出部を備え、前記発信部は、前記検出部により検出された物理量を含む前記音響信号を発信し、前記音響受波装置の計算部は、前記受信部によって受信された前記音響信号に含まれる前記物理量を用いて、前記音響受波装置の位置を計算する。
【0009】
前記音響受波装置は、潜水士に取り付けられている。
【0010】
前記音響受波装置は、水中作業機及び/又は水中に据え付ける構造物に取り付けられている。
【0011】
前記音響送波装置は、水中に固定された固定物に取り付けられている。
【0012】
また、本発明は、第1の原子時計を備え、水中の少なくとも3か所の既知の位置に配置されて音響信号を発信する各音響送波装置の発信部が、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信するステップと、前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計を備えた音響受波装置が、水中において、前記発信部から発信された音響信号を受信するステップと、前記音響受波装置が、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記発信部の各々の既知の位置とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算するステップとを備えることを特徴とする測位方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、第1の原子時計を備え、水中の既知の位置に配置されて音響信号を発信する音響送波装置の発信部が、前記第1の原子時計によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻に前記音響信号を発信するステップと、前記音響送波装置の第1の原子時計と同期した第2の原子時計と、前記発信部から発信された音響信号を受信する受信部であって、お互いの位置関係が既知の3つ以上の受信部とを備えた音響受波装置が、水中において、前記発信部から発信された音響信号を受信するステップと、前記音響受波装置が、前記第2の原子時計によって計測される時刻に基づき、前記所定の基準時刻から、前記3つ以上の受信部の各々が前記発信部から発信された音響信号を受信した時刻までの時間を計算し、当該時間と、前記受信部の各々の位置関係とを用いて、前記音響受波装置の位置を計算するステップとを備えることを特徴とする測位方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水中の所定の位置を所望するタイミングで簡便に測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るシステム全体の構成の一例を示す機器配置図。
【
図2】第1実施形態に係る音響送波装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態に係る音響受波装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
【
図4】第1実施形態における対象物測定方法の一例を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態における測定結果の一例を示す表。
【
図6】第1実施形態における対象物測定方法の一例を示すフローチャート。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るシステム全体の構成の一例を示す機器配置図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る測位システム全体の構成の一例を示す機器配置図である。
図1において、破線Sは水面を意味している。測位システムは、例えば既設ケーソン等の固定物10に設けられた演算装置20、GNSS(Global Navigation Satellite System)30及び水中に設置された発信部40と、水中の対象物100に設けられた演算装置110及び受信部120とを備える。固定物10において、GNSS30、演算装置20及び発信部40は通信可能に接続されている。また、対象物100において、演算装置110及び受信部120は通信可能に接続されている。なお、
図1において水面を直線的に表現したため、各固定物10が一列に並んでいるが、現実には固定物10が一列に並んでいなくともよい。
【0017】
GNSS30、演算装置20及び発信部40は、対で少なくとも3か所以上に設置されている。これらGNSS30、演算装置20及び発信部40の各対は、3か所以上の異なる絶対座標値を有する位置に設置されれば良く、設置位置として同一の固定物10の異なる位置に設置しても、異なる固定物10に設置してもよい。各固定物10の高さ方向の寸法は、GNSS30による絶対座標値の取得、及び原子時計の同調のため、その上部が常時、水面上に露出する程度であり、その水面上の露出部分にGNSS30及び演算装置20が設けられている。演算装置20は、コンピュータ装置であり各種演算を行う。GNSS30は、地球上空を周回する複数の衛星から発信される衛星信号を受信して測位を行う。尚、該測位の方法としてはスタティック測位、RTK-GNSS、ネットワーク型RTK-GNSSなどが用いられる。発信部40は、各固定物10の常時水面以下となる位置に設けられている。発信部40の絶対座標位置は、固定物10上に設置したGNSS30の位置とGNSS30の位置から発信部40を設置した位置までが既知であるためオフセット処理によって測位可能である。発信部40は、所定の音響信号を水中に発信する。固定物10に設けられた発信部40は、水中の少なくとも3か所の異なる既知の位置に配置されて音響信号を発信する、本発明の音響送波装置として機能する。
【0018】
対象物100は、水中において測位の対象となる物体であり、例えば水中バックホウやAUV(Autonomous Underwater Vehicle)や水中ドローン、ROV(Remotely Operated Vehicle)、水中内への吊り荷等の、水中で何らかの作業を行う水中作業機やその作業に伴う材料、又は水中で作業をしている潜水士である。また、対象物100は、例えば吊荷等の、水中に据え付ける構造物であってもよい。対象物100に設けられた演算装置110及び受信部120は、水中において発信部40からの音響信号を受信する、本発明の音響受波装置として機能する。
【0019】
図2は、演算装置20のハードウェア構成を示す図である。演算装置20は、物理的には、プロセッサ2001、メモリ2002、ストレージ2003、通信装置2004、原子時計(第1の原子時計)2005及びこれらを接続するバスなどを含むコンピュータ装置として構成されている。これらの各装置は図示せぬバッテリから供給される電力によって動作する。なお、電力に関しては陸電が可能であれば陸電を用い、不可であれば、小型風力発電や太陽光発電による蓄電や発電機等を用いる。演算装置20における各機能は、プロセッサ2001、メモリ2002などのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサ2001が演算を行い、通信装置2004による通信を制御したり、他の装置から送信されてきたデータを取得したり、メモリ2002及びストレージ2003におけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0020】
プロセッサ2001は、例えば、オペレーティングシステムを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ2001は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)によって構成されてもよい。
【0021】
メモリ2002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。メモリ2002は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ(主記憶装置)などと呼ばれてもよい。メモリ2002は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールなどを保存することができる。
【0022】
ストレージ2003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。ストレージ2003は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0023】
通信装置2004は、コンピュータ間の通信を行うためのハードウェア(送受信デバイス)であり、GNSS30及び発信部40(発信部)と通信を行う。
【0024】
図3は、対象物100における演算装置110及び受信部120からなる音響受波装置のハードウェア構成を示す図である。演算装置110は、プロセッサ1101、メモリ1102及び通信装置1103及び原子時計1104から構成される。プロセッサ1101、メモリ1102、通信装置1103及び原子時計1104(第2の原子時計)は、演算装置20のプロセッサ2001、メモリ2002、通信装置2004及び原子時計2005(第1の原子時計)とハードウェアとしては共通である。原子時計1104(第2の原子時計)と、原子時計2005(第1の原子時計)とは、日々時刻同期がされており、これにより、互いに同期した時刻を計測するようになっている。通信装置1103は、受信部120(受信部)と通信を行う。これらの各装置は図示せぬバッテリ(太陽光発電等)から供給される電力によって動作する。
【0025】
固定物10に設置される演算装置20内の原子時計2005と、音響受波装置の演算装置110内の原子時計1104は、少なくとも一日一回は同期を行う必要がある。なお、同期の時期としてはGNSS衛星間での同期に併せて実施するのが望ましい。同期を行わなかったときには、原子時計2005が有する時刻と原子時計1104が有する時刻が異なるため、発信部40の位置と発信部40からの音波に基づく測位による測位結果と本来の座標値間にはずれが生ずる。以下に記載する実施形態及び変形例において用いる音響受波装置においても、少なくとも一日一回は気中において同期を行う必要があり、同期ができないケースには本発明は用いない。
【0026】
次に、第1実施形態の動作について説明する。
図4は、発信部40の設置位置の座標測位に関する処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、後述する対象物100(音響受波装置)の測位に先立って行われる。
図4において、各固定物10に設けられた演算装置20は、発信部40の設置位置とGNSS30の設置位置との相対位置関係を把握し、GNSS30に測位処理を行わせて、発信部40の設置位置とGNSS30の設置位置間をオフセット処理し、発信部40の設置位置を測定する(ステップS11)。測定された位置を示す位置情報は、各発信部40の装置IDとともに、例えば通信装置2004によって演算装置20に送信され記録される。
【0027】
次に、上記演算装置20から音響受波装置の演算装置110に対し、各発信部の位置情報及び装置IDが送信され、演算装置110によって記憶される(ステップS12)。これにより、音響受波装置は、
図5に例示するように、少なくとも3つ以上の発信部40,40・・・の位置情報を各発信部40,40・・・の装置IDをとともに記憶することになる。なお、発信部の装置IDは、音響送波装置の装置IDでもある。
【0028】
次に、
図6は、対象物100(音響受波装置)の測位に関する処理の一例を示すフローチャートである。
図6において、各固定物10に設けられた各演算装置20は原子時計2005によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻が到来すると、発信部40に対し、例えばパルス状の音響信号を発信するよう指示する。これにより、少なくとも3つ以上の発信部40,40・・・から水中に対して同時に音響信号が発信される。このとき、各音響信号の発信元である発信部40を識別可能となるように、各発信部40,40・・・は例えば音響信号の周波数を音響送波装置ごとに異ならせる。
【0029】
対象物100に設けられた音響受波装置の受信部120は、水中において、各発信部40,40・・・から発信された音響信号を受信する(ステップS102)。そして、音響受波装置の演算装置110は、原子時計1104によって計測される時刻に基づき、上述した所定の基準時刻から、受信部120が各発信部40,40・・・から発信された音響信号を受信した時刻までの電波伝播時間(時間差)を計算する。そして、音響受波装置の演算装置110は、計算した上記時間差と、発信部40の各々の既知の位置(
図5)とを用いて、音響受波装置の位置を計算する(ステップS103)。
【0030】
各発信部40,40・・・と音響受波装置との間の距離はそれぞれ異なっているため、各発信部40,40・・・から音響信号が発信された発信時刻(つまり上述した所定の基準時刻)と、音響受波装置が各音響信号を受信した受信時刻との差(時間差)は、それぞれ異なる。このため、演算装置110は、3つ以上の各発信部40,40・・・の絶対座標位置と、各発信部40,40・・・に対応する上記時間差と、水中での音波速度との関係から、各音響受波装置の位置(絶対位置)を算出することができる。
【0031】
上述した第1実施形態によれば、発信部40の各絶対座標位置を予め測位しておくと、それ以降はその位置は既知であるので、所望するタイミングにおいて簡便な処理で音響受波装置(対象物)の位置を算出することが可能となる。また、事前にAUV(Autonomous Underwater Vehicle)や水中ドローンに水中内の航行経路の座標を指示しておけば、各発信部40,40・・・との相対位置から自機の座標位置が把握できるため指示された航行経路座標と照合して自動航行をおこなうことができる。また、音響送波装置を例えば大きな港湾に常時設置し、継続的に使用するようにしておけば、その港湾において海上(水中)工事の都度基準測量を行う必要がなくなり、施工者が変わる連続した工事においても、同一の精度で対象物の位置を算出することができる。
【0032】
また、水中作業で使用する材料等の吊り荷に音響受波装置を設置しておくことによって、潜水士によらずとも吊り荷に設置した音響受波装置からの水中内の座標値を確認することで、陸上部にいる操作員によって所定の位置に当該吊り荷を誘導することが出来る。この場合、例えば音響受波装置の通信装置1103が水中において音響を用いた通信を行う第1の水中音響通信装置を内蔵する一方、操作員が所持する端末は、水中において音響を用いた通信を行う第2の水中音響通信装置と接続されている。第1の水中音響通信装置は、音響受波装置の座標値を意味する音響信号を水中に発信し、第2の音響通信装置は、発信された音響信号を受信する。操作員が所持する端末はこの音響信号に基づいて座標値を求め、例えば表示装置に表示するなどの出力を行う。これにより、吊り荷に設置した音響受波装置からの水中内の座標値を確認することが可能となる。
【0033】
また、吊り荷に音響受波装置を設置しておき、その吊り荷を吊り降ろすときの音響受波装置の位置の軌跡を取ることができれば、潮流解析に用いることが出来るので、配船計画が立てやすくなる。この場合も、上記と同様に、音響受波装置の通信装置1103が内蔵する第1の水中音響通信装置と、潮流解析を行う装置に接続された第2の水中音響通信装置とが座標値の送受信を行うようにしてもよい。或いは、吊り荷を吊り降ろす工程を終えた後に、吊り荷に設置された音響受波装置を水面上に引き上げ、その音響受波装置が記憶している位置の履歴を読み出して潮流解析を行うようにしてもよい。
【0034】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について説明する。前述した第1実施形態では、少なくとも3つ以上の固定物の水中に設けられた発信部40,40・・・と水中の対象物に設けられた音響受波装置とがそれぞれの原子時計で時刻同期して送受信した音響信号の時間差を用いて、対象物の測位を行っていた。これに対し、以下に説明する第2実施形態では、固定物に設けられた一つの音響送波装置の発信部40と、対象物の異なる位置に設けられた音響受波装置の少なくとも3つ以上の受信部120,120,・・・とがそれぞれの原子時計で時刻同期して送受信した音響信号の時間差を用いて、対象物の測位を行う。
【0035】
図7は、本発明の第2実施形態に係る測位システム全体の構成の一例を示すブロック図である。第1実施形態と同様に、ケーソン等の固定物10には、演算装置20、GNSS(Global Navigation Satellite System)30、及び発信部40が設けられており、対象物100には演算装置110及び受信部120が設けられている。ただし、発信部40は1箇所であり、また、対象物100において受信部120は少なくともX軸、Y軸、Z軸でそれぞれ異なる位置に3つ以上設けられている。さらに、これら受信部120は対象物100において例えばXm間隔で配置されるなど、互いの位置関係(つまりお互いの相対位置)が既知である。この点以外の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0036】
次に、第2実施形態の動作について、
図4及び6を参照しながら説明する。
図4において、第1実施形態と同様に、発信部40の測位に関する処理が行われる。この処理により、音響受波装置は、発信部40の位置情報をその発信部40の装置IDとともに記憶する。なお、第2実施形態では音響送波装置が1つであるため、必ずしも発信部40の装置IDは必須ではない。
【0037】
次に、
図6において、固定物10に設けられた演算装置20は原子時計2005によって計測される時刻に基づき、所定の基準時刻が到来すると、発信部40に対し、例えばパルス状の音響信号を発信するよう指示する(ステップS101)。対象物100に設けられた音響受波装置の各受信部120,120・・・は、水中において、発信部40から発信された音響信号をそれぞれ受信する(ステップS102)。そして、音響受波装置の演算装置110は、原子時計1104によって計測される時刻に基づき、上述した所定の基準時刻から、各受信部120,120・・・が発信部40から発信された音響信号を受信した時刻での時間(時間差)を計算する。そして、音響受波装置の演算装置110は、計算した上記時間差と、発信部40の既知の位置と、各受信部120,120・・・の位置関係とを用いて、音響受波装置の位置を計算する(ステップS103)。
【0038】
発信部40と音響受波装置の各受信部120との間の距離はそれぞれ異なっているため、発信部40から音響信号が発信された発信時刻(つまり上述した所定の基準時刻)と、音響受波装置の各受信部120,120・・・が該音響信号を受信した受信時刻との差(時間差)は、それぞれ異なる。このため、演算装置110は、3つ以上の受信部120,120・・・の位置関係(相対位置)と、発信部40の位置(絶対位置)と、上記時間差と、水中での音波速度との関係から、音響受波装置の位置(絶対位置)を算出することができる。
【0039】
上述した第2実施形態によれば、発信部40の絶対座標位置を予め測位しておくと、それ以降はその位置は既知であるので、所望するタイミングにおいて簡便な処理で音響受波装置(対象物)の位置を算出することが可能となる。また、発信部40を例えば大きな港湾に常時設置し、継続的に使用するようにしておけば、その港湾において海上(水中)工事の都度基準測量を行う必要がなくなり、施工者が変わる連続した工事においても、同一の精度で対象物の位置を算出することができる。
【0040】
[変形例]
上述した実施形態を以下のように変形してもよい。また、以下の2つ以上の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0041】
[変形例1]
発信部40は、水中の音速に影響を与える物理量(例えば潮流、潮位、水温、塩分濃度等)を音響信号に含めて送信し、音響受波装置はその物理量に応じて定まる水中の音速を用いて測位を行うようにしてもよい。この場合、発信部40は、水中の音速に影響を与える物理量を検出するセンサ(検出部)を備え、センサ(検出部)により検出された物理量を含む音響信号を発信する。一方、音響受波装置の演算装置110は、受信部120によって受信された音響信号に含まれる物理量に応じて定まる水中の音速を用いて、音響受波装置の位置を計算する。これによって、より正確な測位が可能となる。
【符号の説明】
【0042】
10:固定物、20:演算装置、30:GNSS、40:発信部、100:対象物、110:演算装置、120:受信部。