(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070540
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230512BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230512BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230512BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20230512BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230512BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230512BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230512BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230512BHJP
【FI】
C12Q1/02
A61K45/00
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/06
A61P43/00 105
A61Q19/00
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182782
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニヨンサバ フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ペン グ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS33
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA44
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB21
(57)【要約】
【課題】皮膚バリア機能改善剤をスクリーニングする新たな手段を提供すること。
【解決手段】皮膚細胞のオートファジー活性を指標として被験物質を評価する工程を含む、皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚細胞のオートファジー活性を指標として被験物質を評価する工程を含む、皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
オートファジー活性化剤を有効成分とする、皮膚バリア機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法に関する。より詳細には、皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法、並びに皮膚バリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚バリアは、角層バリア及びタイトジャンクションバリアで構成されている。
この皮膚バリアは、皮膚への異物侵入や水分の蒸散防止などを担っており、皮膚バリア機能障害は、アトピー性皮膚炎や乾癬、老人性乾皮症等といった様々な皮膚疾患の他、乾燥肌、荒れ肌に関連すると考えられている。そのため、皮膚バリア機能改善剤の開発が望まれている。
一方、オートファジーは、細胞内で生成された不要タンパク質を細胞がリサイクルするシステムであり、細胞の通常の新陳代謝の他、感染症や神経障害との関連が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mizushima N, Levine B. Autophagy in Human Diseases. N Engl J Med. 2020;383(16):1564-1576. doi: 10.1056/NEJMra2022774.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、皮膚細胞のオートファジー活性の変化と、皮膚バリア機能との間に相関関係があるということはこれまで知られていない。
本発明の課題は、皮膚バリア機能改善剤をスクリーニングする新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、皮膚細胞のオートファジー活性の変化と、皮膚バリア機能との間に相関関係があることを見出した。そして、この知見に基づいて、皮膚細胞のオートファジー活性を指標とすることで皮膚バリア機能改善剤をスクリーニングできることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<2>を提供するものである。
<1> 皮膚細胞のオートファジー活性を指標として被験物質を評価する工程を含む、皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法。
<2> オートファジー活性化剤を有効成分とする、皮膚バリア機能改善剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクリーニング方法によれば、皮膚バリア機能改善剤を簡便にスクリーニングできる。
本発明の皮膚バリア機能改善剤は、皮膚バリア機能の改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】hBD-3のオートファジー活性化効果を示す図。
【
図2-1】hBD-3のCLDN-1発現促進効果を示す図。
【
図2-2】hBD-3のZO-1発現促進効果を示す図。
【
図3-1】mBD-14を適用した場合のマウスの耳の厚さを示す図。
【
図3-2】mBD-14を適用した場合のTEWLを示す図。
【
図4-1】AhRアンタゴニストを投与した場合のLC3発現量を示す図。
【
図4-2】AhRアンタゴニストを投与した場合のp62発現量を示す図。
【
図5-1】AhR経路活性化とアトピー性皮膚炎改善効果との関連を示す図(マウスの耳の厚さ)。
【
図5-2】AhR経路活性化とアトピー性皮膚炎改善効果との関連を示す図(TEWL)。
【
図6-1】アトピー性皮膚炎患者由来皮膚サンプルにおけるLC3発現量を示す図。
【
図6-2】アトピー性皮膚炎患者由来皮膚サンプルにおけるp62発現量を示す図。
【
図7-1】DNCB誘発性ADモデルマウス由来皮膚サンプルにおけるLC3、p62発現量を示す図。
【
図7-2】MC903誘発性ADモデルマウス由来皮膚サンプルにおけるLC3、p62発現量を示す図。
【
図7-3】ダニ誘発性ADモデルマウス由来皮膚サンプルにおけるLC3、p62発現量を示す図。
【
図8】オートファジー欠損細胞における皮膚バリア機能の低下を示す図。
【
図9】オートファジー欠損細胞におけるCLDN-1、ZO-1発現量の低下を示す図。
【
図10】オートファジー欠損した場合にアトピー性皮膚炎が悪化しやすくなることを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔スクリーニング方法〕
本発明の皮膚バリア機能改善剤のスクリーニング方法は、皮膚細胞のオートファジー活性を指標として被験物質を評価する工程を含むことを特徴とする。
被験物質は、天然に存在する物質であっても化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよい。また、組成物や混合物であってもよい。
【0010】
上記皮膚細胞としては、表皮角化細胞、線維芽細胞、及びメラノサイトから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
後記実施例に記載のとおり、本発明者らの検討によって、オートファジー欠損表皮角化細胞では皮膚バリア機能の低下がみられることが判明した。さらにアトピー性皮膚炎患者やアトピー性皮膚炎マウスの皮膚に、オートファジー関連マーカーであるLC3発現量の低下及びp62発現量の増大がみられることと、オートファジー欠損した場合にアトピー性皮膚炎が悪化しやすくなることが判明した。
したがって、皮膚細胞のオートファジー活性の変化と、皮膚バリア機能との間に相関関係があることがわかった。また、被験物質非存在下又は対象物質存在下と被験物質存在下とで皮膚細胞のオートファジー活性を測定し、被験物質存在下の皮膚細胞のオートファジー活性が、被験物質非存在下又は対象物質存在下の皮膚細胞のオートファジー活性より高いと認められる場合に、皮膚バリア機能改善効果を示す可能性が高いことがわかる。
【0011】
本明細書において「皮膚バリア機能改善」とは、皮膚バリア機能を改善させることをいい、具体的には、皮膚バリア機能関連タンパク質の発現を増強させることや経表皮水分蒸散量を減少させることをいう。
また、本明細書において「アトピー性皮膚炎予防及び/又は治療」とは、アトピー性皮膚炎を予防及び/又は治療することをいい、具体的には、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみを抑制することをいう。アトピー性皮膚炎予防及び/又は治療は、好ましくは皮膚バリア機能改善によるアトピー性皮膚炎予防及び/又は治療である。
【0012】
オートファジー活性の評価としては、例えば、オートファゴソームが形成されるときのオートファジー活性の評価、オートファゴソームがリソソームと融合するときのオートファジー活性の評価(より具体的にはこれら活性の免疫蛍光や電子顕微鏡観察法を用いた評価)が挙げられる。また、オートファジー活性の測定は、オートファジー関連タンパク質群の遺伝子発現量の測定でもタンパク質発現量の測定でもよい。
また、オートファジー活性を測定する具体的な手法としては、例えば、顕微鏡で細胞を観察する手法、蛍光標識したオートファジー関連マーカーを発現させた後に蛍光顕微鏡で観察又は機器(例えば、フローサイトメータ、蛍光プレートリーダ等)で測定する手法、オートファジー関連マーカーをウエスタンブロティング法等で測定する手法が挙げられる。より具体的には、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、免疫学的測定法(例えば、免疫組織化学、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降等)等の手法でオートファジー活性を検出できる。
オートファジー関連マーカーとしては、LC3(具体的にはLC3-I、LC3-II)、p-p62、p62、Beclin1、Atg5、mTOR、p-mTOR、GABARAP、GABARAPL1、GABARAPL2/Gate-16等が挙げられる。
【0013】
そして、本発明のスクリーニング方法によれば、皮膚バリア機能改善剤を簡便にスクリーニングできる。スクリーニングされた皮膚バリア機能改善剤は、アトピー性皮膚炎や乾癬、老人性乾皮症等といった様々な皮膚疾患の他、乾燥肌、荒れ肌を改善するのに有用である。
【0014】
〔皮膚バリア機能改善剤〕
本発明の皮膚バリア機能改善剤は、オートファジー活性化剤を有効成分とする。オートファジー活性化剤は、公知のオートファジー活性化剤であっても本発明のスクリーニング方法で皮膚細胞オートファジー活性化が認められたものであってもよい。本明細書において「オートファジー活性化剤」とは、皮膚細胞のオートファジーを活性化させる剤を意味する。
本発明の皮膚バリア機能改善剤は、皮膚バリア機能改善に有効な医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは食品として、又は医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは食品に配合する素材として使用可能である。
なお、食品は、皮膚バリア機能改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した保健機能食品(例えば機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品等)とすることが可能である。
【0015】
本発明の皮膚バリア機能改善剤の適用手段は、経口、注射、皮膚外用等のいずれでもよいが、皮膚外用又は注射が好ましく、皮膚外用がより好ましい。なお、このような皮膚を適用部位とする形態としては、例えば、皮膚外用剤、入浴剤、注射用製剤が挙げられる。なお、「皮膚」は、顔や身体、手足の皮膚、及び頭皮を包含する概念である。
【0016】
本発明の皮膚バリア機能改善剤を経口投与する場合、その剤形としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、ドライシロップ剤等の固形製剤;半固形製剤;懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤等が挙げられる。医薬品、医薬部外品、食品のいずれの場合においても、これらの剤形にしてよい。また、経口投与用組成物とする場合には、上記の有効成分に加えて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等の添加剤を含有せしめることができる。
また、上記食品の具体的な形態としては、錠剤等の上記剤形の保健機能食品やサプリメントの他、ウエハース、ビスケット、ガム等の各種食品が挙げられる。
【0017】
本発明の皮膚バリア機能改善剤を経皮用(皮膚外用剤)とする場合、その剤形としては、軟膏剤、クリーム剤、乳液、ゲル剤、ペースト剤、ローション、スプレー剤、貼付剤等が挙げられる。また、皮膚外用剤は、例えば、化粧水、美容液、パック、乳液、クリーム、サンスクリーン、サンオイル等の形態にしてもよい。
皮膚を適用部位とする形態とする場合には、上記の有効成分に加えて、通常の外用剤や入浴剤において基材や添加剤として用いられる各種成分を含有せしめることができる。
【0018】
そして、本発明の皮膚バリア機能改善剤は、皮膚バリア機能の改善に有用である。本発明の皮膚バリア機能改善剤は、アトピー性皮膚炎や乾癬、老人性乾皮症等といった様々な皮膚疾患の他、乾燥肌、荒れ肌を改善するのに有用である。
【実施例0019】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
〔試験例1〕
12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、ケラチノサイトを5×10
4個播種した後、3-4日間培養(37℃、95%Air、5%CO
2)した。次に、ヒトβ-ディフェンシン-3(hBD-3)10μg/mLで9時間処理した。オートファジーマーカーLC3-I、LC3-IIをイムノブロットで検出し、LC3-II/LC3-I比を算出した。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。
結果を
図1に示す(n=3,****:p<0.0001)。
図1に示すとおり、ヒトβ-ディフェンシン-3がオートファジーを活性化させることが確認できた。
【0021】
〔試験例2〕
12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、ケラチノサイトを5×10
4個播種した後、3-4日間培養(37℃、95%Air、5%CO
2)した。次に、E&P(E64d and PepstatinA)10μg/mL、クロロキン(CQ)10μM、バフィロマイシンA1(BAF)10μg/mL、ワートマニン(WORT)10μM、又はDMSO0.1%(コントロール群及びhBD-3群)で2時間前処理した。その後、コントロール群以外については、ヒトβ-ディフェンシン-3(hBD-3)10μg/mLで9時間処理した。なお、E&P、CQ、BAF及びWORTはオートファジー阻害剤である。
マウス由来抗クローディン-1(CLDN-1)抗体又はマウス由来抗ZO-1抗体を一次抗体として、ヤギ由来抗マウスAlexa Fluor コンジュゲートIgG抗体を二次抗体としてそれぞれ使用して染色した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて免疫蛍光顕微鏡写真を取得し、タイトジャンクションタンパク質であるCLDN-1及びZO-1について発現量を定量化した。
CLDN-1発現量を
図2-1(n=3,****:p<0.0001,##:p<0.01,####:p<0.0001)に、ZO-1発現量を
図2-2(n=3,*:p<0.05,#:p<0.05)に、それぞれ示す。
図2-1及び
図2-2に示すとおり、ヒトβ-ディフェンシン-3がCLDN-1、ZO-1の発現を促進することが確認できた。
【0022】
〔試験例3〕
(オートファジー欠損マウスの作製)
K14-Creトランスジェニックマウス(K14プロモーターの制御下でCreリコンビナーゼを発現するマウス(ジャクソンラボラトリー製))とAtg7-floxedマウス(K14
+/+Atg7
f/f)とを交配させて、オートファジー欠損マウス(K14
CRE/+Atg7
f/f)を作製した。K14
CRE/+Atg7
f/fにおけるオートファジーのケラチノサイト特異的欠失を確認した。
(DNCB処理)
K14
+/+Atg7
f/fマウス、K14
CRE/+Atg7
f/fマウスについて、2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)連用開始5日前に背中を剃毛し、DNCB連用開始4日前に耳と背中を1%DNCBで1回処理した(0.1mL/cm
2)。その処理の4日後から19日間の間、1週間あたりに3回の頻度で0.2%DNCB処理(0.1mL/cm
2)した。
また、K14
+/+Atg7
f/f + mBD-14群、K14
CRE/+Atg7
f/f + mBD-14群のマウスには、0.2%DNCB処理開始から15日目から19日目までの間、2日おきにmBD-14(hBD-3のマウスオーソログ)処理した(0.1mL/cm
2)。
一方、K14
+/+Atg7
f/f + vehicle群、K14
CRE/+Atg7
f/f + vehicle群のマウスには、0.2%DNCB処理開始から15日目から19日目までの間、2日おきに同じ量の食塩水で処理した(0.1mL/cm
2)。
その後、0.2%DNCB処理開始から19日目に、マウスの耳の厚さと経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定した。
マウスの耳の厚さを
図3-1(n=8,***:p<0.001,####:p<0.0001)に、TEWLを
図3-2(n=12,*:p<0.05,####:p<0.0001)に、それぞれ示す。
図3-1及び
図3-2に示す結果から、mBD-14(hBD-3のマウスオーソログ)は、オートファジーを活性化させることによってアトピー性皮膚炎を改善させるものと考えられる。
【0023】
〔試験例4〕
C57BL/6マウス(5~6週齢)3匹を、AhRアンタゴニスト経口投与群と溶媒経口投与群の2群に分けた。
AhRアンタゴニスト経口投与群のマウスには、CH-223191(2-メチル-2H-ピラゾール-3-カルボン酸(2-メチル-4-o-トリルアゾ-フェニル)-アミド)を、溶媒経口投与群のマウスには、同じ量のコーン油を、それぞれDNCB連用開始15日前からDNCB連用17日経過後まで給餌した。
各群のマウスについて、DNCB連用開始5日前に背中を剃毛し、DNCB連用開始4日前に耳と背中を1%DNCBで1回処理した(0.1mL/cm
2)。その処理の4日後から17日間の間、1週間あたりに3回の頻度で0.2%DNCB処理(0.1mL/cm
2)した。
また、各群のマウスについて、0.2%DNCB処理開始から15日目及び17日目に、mBD-14(hBD-3のマウスオーソログ)処理した(0.1mL/cm
2)。
その後、0.2%DNCB処理開始から18日目にマウスを安楽死させ、病変部位の表皮を採取した。
ウサギ由来抗LC3抗体又はウサギ由来抗p62抗体を一次抗体として、ヤギ由来抗ラビットAlexa Fluor コンジュゲートIgG抗体を二次抗体としてそれぞれ使用して染色した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて免疫蛍光顕微鏡写真を取得し、オートファジー関連マーカーであるLC3及びp62について発現量を定量化した。なお、LC3はオートファジー活性化に従って発現量が増大し、p62はオートファジー活性化に従って発現量が低下する。
LC3発現量を
図4-1(n=3,****:p<0.0001)に、p62発現量を
図4-2(n=3,*:p<0.05)に、それぞれ示す。
図4-1及び
図4-2に示すとおり、AhRアンタゴニストを投与した場合に、LC3発現量の低下及びp62発現量の増大が確認できた。
【0024】
〔試験例5〕
C57BL/6マウス(5~6週齢)4匹を、AhRアンタゴニスト非投与溶媒適用群(AD mice+vehicle群)、AhRアンタゴニスト非投与mBD-14適用群(AD mice+mBD-14群)、AhRアンタゴニスト+溶媒適用群(AD mice+CH+vehicle群)、及びAhRアンタゴニスト+mBD-14適用群(AD mice+CH+mBD-14群)の4群に分けた。
AD mice+CH+vehicle群、AD mice+CH+mBD-14群のマウスには、CH-223191(2-メチル-2H-ピラゾール-3-カルボン酸(2-メチル-4-o-トリルアゾ-フェニル)-アミド)を、AD mice+vehicle群、AD mice+mBD-14群のマウスには、同じ量のコーン油を、それぞれDNCB連用開始15日前からDNCB連用17日経過後まで給餌した。
各群のマウスについて、DNCB連用開始5日前に背中を剃毛し、DNCB連用開始4日前に耳と背中を1%DNCBで1回処理した(0.1mL/cm
2)。その処理の4日後から17日間の間、1週間あたりに3回の頻度で0.2%DNCB処理(0.1mL/cm
2)した。
また、AD mice+mBD-14群、AD mice+CH+mBD-14群のマウスについて、0.2%DNCB処理開始から15日目及び17日目に、mBD-14(hBD-3のマウスオーソログ)処理した(0.1mL/cm
2)。
一方、AD mice+vehicle群、AD mice+CH+vehicle群のマウスについては、0.2%DNCB処理開始から15日目及び17日目に、同じ量の食塩水で処理した(0.1mL/cm
2)。
その後、0.2%DNCB処理開始から19日目に、マウスの耳の厚さと経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定した。
マウスの耳の厚さを
図5-1(n=4,**:p<0.01,####:p<0.0001)に、TEWLを
図5-2(n=4,*:p<0.05,##:p<0.01)に、それぞれ示す。
【0025】
〔試験例6〕
健常者皮膚を健康なドナー5名から、病変皮膚をアトピー性皮膚炎患者5名から、それぞれ提供してもらった。各皮膚サンプルを液体窒素で急速凍結し、免疫蛍光分析のために-80℃で保存した。
ラビット由来抗LC3抗体又はラビット由来抗p62抗体を一次抗体として、ゴート由来抗ラビットAlexa Fluor コンジュゲートIgG抗体を二次抗体としてそれぞれ使用して染色した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて免疫蛍光顕微鏡写真を取得し、オートファジー関連マーカーであるLC3及びp62について発現量を定量化した。なお、LC3はオートファジー活性化に従って発現量が増大し、p62はオートファジー活性化に従って発現量が低下する。
LC3発現量を
図6-1(n=5,***:p<0.001)に、p62発現量を
図6-2(n=5,*:p<0.05)に、それぞれ示す。
図6-1及び
図6-2に示すとおり、アトピー性皮膚炎患者の病変皮膚サンプルには、LC3発現量の低下及びp62発現量の増大が確認できた。
【0026】
〔試験例7〕
C57BL/6マウス(5~6週齢)3-5匹を、健常マウス群(Normal mice)とアトピー性皮膚炎マウス群(AD mice)の2群に分けた。
アトピー性皮膚炎マウス群のマウスについては、DNCB連用開始5日前に背中を剃毛し、DNCB連用開始4日前に耳と背中を1%DNCBで1回処理した(0.1mL/cm
2)。その処理の4日後から19日間の間、1週間あたりに3回の頻度(合計9回)で0.2%DNCB処理(0.1mL/cm
2)することで、DNCB誘発性ADモデルマウスとした。
アトピー性皮膚炎マウス群に0.2%DNCB処理を開始してから20日目に、各群のマウスを安楽死させ、病変部位の表皮を採取した。
ラビット由来抗LC3抗体又はラビット由来抗p62抗体を一次抗体として、ヤギ由来抗ラビットAlexa Fluor コンジュゲートIgG抗体を二次抗体としてそれぞれ使用して染色した。共焦点レーザー顕微鏡を用いて免疫蛍光顕微鏡写真を取得し、オートファジー関連マーカーであるLC3及びp62について発現量を定量化した。
LC3発現量、p62発現量を
図7-1(n=3-5,*:p<0.05,**:p<0.01)に示す。
また、DNCB誘発性ADモデルマウスを、MC903誘発性ADモデルマウス、ダニ誘発性ADモデルマウスに変更する以外は、上記と同様にしてLC3及びp62について発現量を定量化した。
MC903誘発性ADモデルマウスを用いた結果を
図7-2に、ダニ誘発性ADモデルマウスを用いた結果を
図7-3に、それぞれ示す。
図7-1~
図7-3に示すとおり、アトピー性皮膚炎マウスの皮膚サンプルには、LC3発現量の低下及びp62発現量の増大が確認できた。
【0027】
〔試験例8〕
アデノウイルス発現ベクターキット(タカラバイオ製)を使用して、“Sou et al.,Mol Biol Cell. 2008;19(11):4762-75.)”の記載に準じアデノウイルスのAtg3変異体、Atg3C264S変異体を調製した。
次に、12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、ケラチノサイトを5×10
4個播種した後、3-4日間培養(37℃、95%Air、5%CO
2)した。ケラチノサイトにAtg3変異体又はAtg3C264S変異体を48時間トランスフェクトした。また、Atg3C264S変異体でトランスフェクトしたケラチノサイトについて、オートファジー欠損を確認した。
全RNAを抽出し、RNAを逆転写してcDNAを作製し、定量リアルタイムPCRを用いてクローディン-1(CLDN-1)、TJP-1、フィラグリン(FLG)及びロリクリン(LOR)の遺伝子発現量を検出した。
結果を
図8に示す(Atg3:野生型表皮角化細胞、Atg3C264S:オートファジー欠損表皮角化細胞、n=3,**:p<0.01)。
図8に示すとおり、オートファジー欠損表皮角化細胞では皮膚バリア機能の低下が確認できた。
【0028】
〔試験例9〕
アデノウイルス発現ベクターキット(タカラバイオ製)を使用して、“Sou et al.,Mol Biol Cell. 2008;19(11):4762-75.)”の記載に準じアデノウイルスのAtg3変異体、Atg3C264S変異体を調製した。
次に、12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、ケラチノサイトを5×10
4個播種した後、3-4日間培養(37℃、95%Air、5%CO
2)した。ケラチノサイトにAtg3変異体又はAtg3C264S変異体を48時間トランスフェクトした。また、Atg3C264S変異体でトランスフェクトしたケラチノサイトについて、オートファジー欠損を確認した。
マウス由来抗クローディン-1(CLDN-1)抗体、マウス由来抗ZO-1抗体を一次抗体として、ヤギ由来抗マウスHRP コンジュゲートIgG抗体を二次抗体としてそれぞれ使用してウエスタンブロッティング法で、CLDN-1発現量、ZO-1発現量の評価を行った。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。
結果を
図9に示す(Atg3:野生型表皮角化細胞、Atg3C264S:オートファジー欠損表皮角化細胞、n=3,*:p<0.05,**:p<0.01)。
【0029】
〔試験例10〕
K14
+/+Atg7
f/fマウス、K14
CRE/+Atg7
f/fマウスを試験例3と同様にして作製した。
K14
+/+Atg7
f/fマウス、K14
CRE/+Atg7
f/fマウスそれぞれについて、DNCB処理群(K14
+/+Atg7
f/f AD mice、K14
CRE/+Atg7
f/f AD mice)、DNCB非処理群(K14
+/+Atg7
f/f mice、K14
CRE/+Atg7
f/f mice)に分けた。
DNCB処理群について、2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)連用開始5日前に背中を剃毛し、DNCB連用開始4日前に耳と背中を1%DNCBで1回処理した(0.1mL/cm
2)。その処理の4日後から17日間の間、1週間あたりに3回の頻度(合計9回)で0.2%DNCB処理(0.1mL/cm
2)した。
DNCB処理群に0.2%DNCB処理を開始してから18日目に、各群のマウスについて、ADスコア、マウスの耳の厚さ、及び経表皮水分蒸散量(TEWL)を測定した。
結果を
図10に示す(n=8-12,**:p<0.01,****:p<0.0001)。
図10に示す結果から、オートファジー欠損した場合にアトピー性皮膚炎が悪化しやすくなることが確認できた。