(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070549
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】コーティング剤の仮保護剤及び仮保護剤の塗布方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20230512BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230512BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230512BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230512BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230512BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/65
C09D5/02
B05D5/00 A
B05D7/14 L
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182798
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】397016828
【氏名又は名称】KeePer技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】谷 好通
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC52
4D075AE03
4D075BB01Z
4D075BB60Z
4D075BB65Z
4D075BB79Z
4D075BB95Z
4D075CA14
4D075CA36
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB04
4D075DC11
4D075EA05
4D075EA06
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC35
4D075EC54
4J038DL031
4J038JC32
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA07
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】自動車の塗装面1に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層2を形成するまでの間、コーティング剤の保護を行なう仮保護層3を形成し、自動車の使用(走行)を可能にすることができる仮保護剤を提供すること。
【解決手段】コーティング剤の仮保護剤は、M単位シロキサン及びQ単位シロキサンを主成分とするレジン(MQレジン)と、シリコーンオイルと、を含むシリコーン成分を含有する。MQレジンは、非反応性レジンであるため、連続して一体化された塗膜を形成するものではなく、点在してコーティング層2の表面に結合し、仮保護層3を形成する。MQレジンが点在して結合した仮保護層3は、ドット状にコーティング層を覆い、コーティング層へのゴミの付着を防ぐことができ、自動車の塗装面1に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層2を形成するまでの間、仮保護を行なう。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、該コーティング剤の保護を行なう仮保護層を形成する仮保護剤であって、
M単位シロキサン及びQ単位シロキサンを主成分とするレジン(MQレジン)と、シリコーンオイルと、を含むシリコーン成分を含有することを特徴とする仮保護剤。
【請求項2】
前記シリコーン成分が界面活性剤で乳化されてエマルジョンを形成し、水を溶媒とするエマルジョン塗料であることを特徴とする請求項1に記載の仮保護剤。
【請求項3】
前記コーティング剤が塗布された前記自動車の前記塗装面に、請求項1に記載の仮保護剤を塗布し、該仮保護剤が塗布された該塗装面に、上水を散布することを特徴とする仮保護剤の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、コーティング剤の保護を行なう仮保護層を形成する仮保護剤及び仮保護剤の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車の塗装面に塗布され、コーティング層を形成するコーティング剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されたコーティング剤は、コーティング層としての機能を十分に発揮させるには、コーティング剤を十分に成膜させる必要がある。成膜が不十分である場合、コーティング層となるコーティング膜は、膜の強度が不十分であり、自動車が使用(走行)された際には、排ガスからのゴミや路面に漂うゴミなどが付着し、汚れた仕上がりになってしまうおそれがある。このため、コーティング剤の塗布は、自動車の塗装面に塗布されてから十分に成膜させるまでの間、養生(風雨を避けて静置し、コーティング剤を成膜させること。)させることが必要とされる。しかし、養生させている間は、コーティング剤を塗布した自動車を静置する場所を要し、また、自動車を使用することができず、作業効率が劣るおそれがあるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、自動車の塗装面にコーティング剤を塗布して、コーティング層を成膜させるまでの間の自動車の使用を可能とする、仮保護層を形成する仮保護剤及びその塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコーティング剤の仮保護剤は、自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、該コーティング剤の保護を行なう仮保護層を形成する仮保護剤であって、
M単位シロキサン及びQ単位シロキサンを主成分とするレジン(MQレジン)と、シリコーンオイルと、を含むシリコーン成分を含有することを特徴とする。
【0007】
本発明のコーティング剤の仮保護剤によれば、シリコーンオイルを含有しているため、MQレジンが、シリコーンオイルで希釈され、コーティング層の表面に均一に分散させられる。コーティング層の表面に塗布された仮保護剤のMQレジンは、非反応性レジンであるため、連続して一体化された塗膜を形成するものではなく、点在してコーティング層の表面に結合し、仮保護層を形成する。MQレジンが点在して結合した仮保護層は、ドット状にコーティング層を覆い、コーティング層へのゴミの付着を防ぐことができる。このため、本発明のコーティング剤の仮保護剤は、自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、仮保護を行なう仮保護層を形成し、自動車の使用(走行)を可能にすることができる。
【0008】
ここで、上記コーティング剤の仮保護剤において、前記シリコーン成分が界面活性剤で乳化されてエマルジョンを形成し、水を溶媒とするエマルジョン塗料であるものとすることができる。
【0009】
これによれば、仮保護剤は、水を溶媒とするエマルジョン塗料であるため、取り扱いが容易なものとすることができる。
【0010】
本発明に係る仮保護剤の塗布方法は、前記コーティング剤が塗布された前記自動車の前記塗装面に、上記の仮保護剤を塗布し、該仮保護剤が塗布された該塗装面に、上水を散布することを特徴とする。
【0011】
本発明の仮保護剤の塗布方法によれば、仮保護剤に含まれる不可避成分を洗い流して、除去することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング剤の仮保護剤によれば、自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、コーティング剤の保護を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の仮保護剤から形成された仮保護層によって保護される自動車のコーティング層の表層の部分拡大図付きのモデル断面図である。
【
図2】シリコーンレジンの結合構造単位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。実施形態のコーティング剤の仮保護剤は、
図1に示すように、自動車の塗装面1に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層2を形成するまでの間の仮保護を行なう仮保護層3を形成する仮保護剤である。もちろん、本発明は、自動車への用途に限定されるものではなく、オートバイ、鉄道車両又は航空機などに対しても適用することが可能なものである。なお、本明細書において、仮保護剤の配合量や質量比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む塗料状態で表すものとする。
【0015】
仮保護剤は、M単位シロキサン及びQ単位シロキサンを主成分とするシリコーンレジン(MQレジン)と、シリコーンオイルと、を含むシリコーン成分を含有する。
【0016】
シロキサンを含有するシリコーンレジンは、シロキサン結合((-Si-O-)
n)を骨格とし、結合構造単位であるシロキサンのシラノール基同士が脱水縮合反応を起こすことにより形成されるものである。
図2に示すように、シリコーンレジンを形成する結合構造単位のシロキサンとして、M単位シロキサン(1官能)、D単位シロキサン(2官能)、T単位シロキサン(3官能)及びQ単位シロキサン(4官能)がある。
【0017】
M単位シロキサンとは、結合構造単位が式(R3SiO1/2)で示されるシロキサンであり、1官能のシロキサンである。結合構造単位の式中のRは、有機置換基であり、メチル基及び/又はフェニル基である(本明細書において、すべての結合構造単位の式中のRについて同じ。)。M単位シロキサンを多く有するシリコーンレジンを含有する仮保護剤から形成された仮保護層3は、シリコーンレジンの結合構造単位となるシロキサンが1官能であるため反応性に乏しく、連続したコーティング被膜を形成し難いものとなる。なお、シリコーンレジンがM単位シロキサンのみである場合には、シリコーンレジンは、ゴム状となり汚れが付着し易いものとなるため、Q単位シロキサンとの混合シロキサンが好ましい。
【0018】
Q単位シロキサンとは、結合構造単位が式(SiO
4/2)で示されるシロキサンであり、4官能のシロキサンである。M単位シロキサン及びQ単位シロキサンを主成分とするシリコーンレジンを含有する仮保護剤から形成された仮保護層3は、4官能のシロキサンを有しているものの、そのほとんどが1官能のシロキサンと結合するため、シロキサン結合のチェーンが増大することなく、連続したコーティング被膜を形成し難いものとなる。このため、仮保護剤から形成された仮保護層3は、
図1の拡大図に示すように、仮保護するコーティング層2の表面に点在する(ドット状にコーティング層2を覆う)ことになる。仮保護層3がコーティング層2の表面に点在することによって、コーティング層2を形成するコーティング剤は、表面の大半が外気に触れることになるため、コーティング剤の成膜が妨げられることはない。また、仮保護層3がコーティング層2の表面に点在することによって、コーティング層2へのゴミの付着を防ぐことができる。
【0019】
M単位シロキサンとQ単位シロキサンのモル比率は、M単位シロキサン:Q単位シロキサン=67:33~95:5であることが好ましい。仮保護剤から形成された仮保護層3が連続した被膜を形成することなくコーティング層2の表面に点在させることができ、仮保護層3が汚れの付着し難い硬さを有するものとすることができるためである。M単位シロキサンの比率が上記より少ないと、仮保護剤のシロキサンがシロキサン結合のチェーンを形成する反応性シロキサンとなり、形成された仮保護層3が連続した被膜となるおそれがある。一方、M単位シロキサンの比率が上記より多いと、仮保護剤から形成された仮保護層3がゴム状となり、仮保護層3に汚れが付着し易くなるおそれがある。より好ましくは、M単位シロキサン:Q単位シロキサン=70:30~90:10であり、さらに好ましくは、M単位シロキサン:Q単位シロキサン=72:28~85:15である。
【0020】
また、M単位シロキサンとQ単位シロキサンの比率は、R/Si比によって表わすこともできる。R/Si比では、ケイ素原子1個あたり3個の有機基を持つM単位シロキサンは、R/Si比が3.0となる。ケイ素原子1個あたり0個の有機基を持つQ単位シロキサンは、R/Si比が0となる。これによると、仮保護剤から形成された仮保護層3が連続した被膜を形成することなくコーティング層2の表面に点在させることができ、仮保護層3が汚れの付着し難い硬さを有するものとすることができるR/Si比は、2.01~2.85である。R/Si比は、より好ましくは2.1~2.7であり、さらに好ましくは2.16~2.55である。
【0021】
シリコーンオイルは、シリコーンレジンを分散させるオイルであり、シリコーンレジンを均一に分散させることにより、仮保護剤を分散させてコーティング層2の表面にシリコーンレジンを点在させて仮保護層3を形成させることができる。なお、シリコーンオイルは、コーティング層2にダメージを与える可能性があるため、添加量を抑えるのが好ましい。シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイル又はストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの混合品を使用することができる。
【0022】
ストレートシリコーンオイルとして、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルハイドロジェンシリコーンオイルを使用することができ、取扱性に優れるジメチルシリコーンオイルを好んで使用することができる。
【0023】
変性シリコーンオイルとして、アミノ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルを使用することができる。変性シリコーンオイルを混合することにより、変性基としての官能基がコーティング層2に密着するため、仮保護剤から製膜する仮保護層3の耐久性を高めることができる。
【0024】
シリコーンオイルが、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの混合品である場合の、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの質量比率は、ストレートシリコーンオイル:変性シリコーンオイル=5:5~9:1であることが好ましい。好適に、官能基をコーティング層2に密着させ、仮保護層3の耐久性を高めることができるためである。変性シリコーンオイルの質量比率が上記比率より少ないと、コーティング層2に密着させる効果が少なく、仮保護層3の耐久性を高めることができないおそれがある。一方、変性シリコーンオイルの質量比率が上記比率より多いと、コーティング層2に密着させる効果が頭打ちとなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの質量比率は、ストレートシリコーンオイル:変性シリコーンオイル=6:4~8:2である。
【0025】
シリコーンオイルは、動粘度が10,000mm2/s(cSt)以下であるものを好んで使用することができる。シリコーンレジンを均一に分散させることができるためである。より好ましくは、シリコーンオイルの動粘度は、1,000mm2/s以下であり、さらに好ましくは、500mm2/s以下である。なお、シリコーンオイルの動粘度の下限値は、汎用品として、0.65mm2/sである。
【0026】
MQレジンとシリコーンオイルの混合比率は、質量比で、MQレジン:シリコーンオイル=50:50~99:1であることが好ましい。シリコーンオイルの比率が上記より少ないと、ほぼMQレジンのみとなり、MQレジンを均一に分散させることができないおそれがある。一方、シリコーンオイルの比率が上記より多いと、シリコーンオイルによって、コーティング層2にダメージを与えるおそれがある。より好ましくは、MQレジンとシリコーンオイルの混合比率は、MQレジン:シリコーンオイル=70:30~95:5であり、さらに好ましくは、MQレジン:シリコーンオイル=85:15~95:5である。
【0027】
MQレジンとシリコーンオイルとを含むシリコーン成分は、溶媒としての水に対して乳化させて、エマルジョン(emulsion)とすることが好ましい。取り扱いを容易なものにすることができるためである。乳化には、界面活性剤を用いる。
【0028】
界面活性剤は、汎用のアニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤を使用することができる。アニオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、などを使用することができる。ノニオン界面活性剤として、シリコーン直鎖型ポリエーテル変性シリコーン、シリコーン直鎖型アルキル共変性ポリエーテル変性シリコーン、シリコーン分岐型ポリエーテル変性シリコーン、シリコーン分岐型アルキル共変性ポリエーテル変性シリコーン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、などを使用することができる。ノニオン界面活性剤のHLBは、8~18が好ましい。好適にシリコーン成分を乳化させることができるためである。より好ましくは、HLBは13~15である。
【0029】
界面活性剤は、MQレジンとシリコーンオイルのシリコーン成分合計配合量に対して、1~10質量%添加するのが好ましい。好適に乳化させることができるためである。添加量が1質量%未満だと乳化の安定性が劣りMQレジンと水とが分離するおそれがある。一方、10質量%を超えると界面活性剤が過剰な量となり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、界面活性剤は、シリコーン成分合計配合量に対して、2~8質量%添加するのが好ましく、さらに好ましくは、4~7質量%である。
【0030】
コーティング剤の仮保護剤には、その他添加剤として、消泡剤、分散剤、防腐剤、希釈剤、などを必要に応じて添加することができる。なお、界面活性剤を含め、その他添加剤は、コーティング剤の不可避成分であるため、過剰に加えると、コーティング層2(仮保護層3)の光沢度や撥水性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0031】
コーティング剤の仮保護剤は、MQレジンとシリコーンオイルとが混合されたシリコーン成分を塗料用シンナで希釈したワニス塗料、シリコーン成分を界面活性剤で水に乳化させたエマルジョンを上水で希釈したエマルジョン塗料、として使用することができる。ワニス塗料とエマルジョン塗料は、それぞれ、不揮発分が0.1~2質量%となるように、塗料用シンナ又は上水で希釈する。なお、塗料用シンナとしては、ミネラルスピリット(石油系炭化水素)、酢酸エステル、アルコール類などを使用することができる。上水は、軟水を使用するのが好ましい。軟水は、コーティング層2に悪影響を与えるおそれのある金属イオンの含有量が少ないためである。
【0032】
仮保護剤がワニス塗料である場合には、MQレジンにシリコーンオイルと必要によりその他添加剤を混合・撹拌を行なうことによって製造することができる。撹拌には、汎用の防爆型撹拌機を用いる。
【0033】
仮保護剤がエマルジョン塗料である場合には、水に、MQレジン、シリコーンオイル、界面活性剤及び必要によりその他添加剤を混合し、高回転で一気に撹拌を行なうことによって乳化させて製造することができる。撹拌には、汎用の防爆型撹拌機を用いる。
【0034】
仮保護剤は、コーティング剤が塗布された乗用車に塗布される。所要量は、乗用車の全長(m)×全幅(m)×全高(m)の疑似体積(m3)を求め、疑似体積1m3当り10gの塗布量を基準とする。なお、5ナンバーのセダンタイプの疑似体積が10m3であり、所要量は、100gとなる。塗布は、汎用のエアースプレによって仮保護剤を霧状にして吹き付ける。仮保護剤の吹付後、すぐにウエスで拭き押さえる。
【0035】
実施形態の仮保護剤によって仮保護されるコーティング層2を形成するコーティング剤の種類としては、アクリルなどの合成樹脂を主原料とするポリマーコーティング剤、アクリルなどの合成樹脂に変性シリコーンを加えたガラス系コーティング剤、シリコーンレジンやポリシラザンなどの無機系結合材を主結合材とするガラスコーティング剤、シリコーンレジンやポリシラザンなどの無機系結合材に金属アルコキシドを加えたセラミックコーティング剤などがある。実施形態の仮保護剤は、これら何れのコーティング剤から形成されたコーティング層2であっても、コーティング層2を成膜させるまでの間の仮保護を行なうことができるが、成膜することによって膜強度(塗膜強度)が増大するガラスコーティング剤又はセラミックコーティング剤の仮保護に適している。特に適しているコーティング剤は、D単位シロキサン及びT単位シロキサンを主成分とする反応性レジンからなるガラスコーティング剤又はセラミックコーティング剤である。シロキサン結合のチェーンが増大することによって、コーティング層の強度が増大するものの、シロキサン結合の反応に時間を要するため、仮保護されるのが望ましいためである。
【0036】
コーティング剤が塗布されてから仮保護剤が塗布されるまでの時間(セッティングタイム)は、5分以上が好ましい。好適に仮保護をすることができるためである。セッティングタイムが5分未満である場合には、仮保護剤がコーティング剤からなるコーティング層2に結合するおそれがある。より好ましくは、セッティングタイムは、8分以上であり、さらに好ましくは、10分以上である。
【0037】
コーティング剤が塗布され、仮保護剤が塗布されたとき、コーティング剤は、成膜の途中であり、コーティング膜としての機能を十分に発揮することができない状態である。コーティング剤(コーティング層2)の表面に塗布された仮保護剤からなる仮保護層3は、MQレジンが、非反応性のレジンであるため、連続して一体化された塗膜を形成するものではなく、点在してコーティング剤の表面に結合した仮保護層3を形成する。MQレジンが点在して結合した仮保護層3は、コーティング層へのゴミの付着を防ぐ。このため、コーティング剤の仮保護剤は、自動車の塗装面に塗布されたコーティング剤が成膜してコーティング層を形成するまでの間、仮保護を行なう仮保護層を形成し、自動車の使用(走行)を可能にすることができる。
【0038】
仮保護剤が塗布された直後の自動車に、上水を散布することができる。仮保護剤が塗布された直後の仮保護層3に上水を散布することによって、仮保護剤に含まれる界面活性剤などの不可避成分を洗い流すことができるためである。
【0039】
MQレジンが点在して結合した仮保護層3は、一定の期間の経過後に、コーティング層3から剥がれて消滅する。仮保護層3がドット状であるため、仮保護層3は、膜状に剥がれずドット単位で剥がれ、剥がれの際が視認されないため、剥がれる際に、自動車の美観を損なうことがない。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。仮保護剤によって保護されるコーティング層2を形成するコーティング剤は、表1に記載の3種類のKeePer技研株式会社製のコーティング剤、コーティング剤X:ポリマーコーティング剤(ダイヤモンドキーパー、ポリマー層、ポリマーコーティング剤)、コーティング剤Y:ガラスコーティング剤(ダイヤモンドキーパー、ガラス層、ガラスコーティング剤)、コーティング剤Z:ガラスコーティング剤(EXキーパー、ガラス層、ガラスコーティング剤)、を用いて比較した(ダイヤモンドキーパー、EXキーパーは、登録商標)。これらは、撥水性のコーティング剤である。コーティング剤Yは、D単位シロキサン及びT単位シロキサンを主成分とする反応性レジンからなるガラスコーティング剤である。
【0041】
【0042】
(対照試験及び比較試験)
対照試験は、自動車に、上記のコーティング剤を塗布して、それぞれ十分な時間をかけて養生させた後のコーティング層2の性能を評価するものである。具体的には、コーティング剤を塗布してから、6時間養生させた後の自動車を実走(高速道路を含めて愛知県内を2時間走行)させて、実走後の対照とした。
【0043】
比較試験は、自動車に、上記のコーティング剤を塗布して、十分でない養生時間(10分間)養生させた後、自動車を実走させ、実走後の光沢度試験、実走後の撥水性試験を行い、対照と比較して、その評価を行った。各試験の評価方法は、以下の通りである。
【0044】
<光沢度試験>
光沢度試験は、試験体(自動車)の光沢について、対照(6時間養生)との相違を目視で判断した。そして、光沢が対照より優れるものを◎、光沢が対照同等であるものを○、光沢が対照より僅かに劣るものを△、光沢が対照より明らかに劣るものを×、として評価した。
【0045】
<撥水性試験>
撥水性試験は、霧吹きを用いて試験体に上水を散布し、撥水性について、対照との相違を目視で判断した。そして、撥水性が対照より優れるものを◎、撥水性が対照同等であるものを○、撥水性が対照より僅かに劣るものを△、撥水性が対照より明らかに劣るものを×、として評価した。
【0046】
対照試験及び比較試験の結果を表2に記載する。
【0047】
【0048】
十分な時間(6時間)養生させた対照1~3と比較して、十分でない養生時間(10分間)の比較試験は、実走後では、排ガス由来のゴミなどが付着して光沢度及び撥水性が明らかに劣るものであった。養生が不十分な比較試験は、コーティング層2の強度が不十分であり、ゴミなどが付着し易い状態であったことが推測される。本願発明の仮保護剤を使用しない場合には、コーティング剤から形成されるコーティング層2は、機能を十分に発揮させるために、十分な養生時間を必要とされることが確認できる。
【0049】
(試験例)
実施例のコーティング剤の仮保護剤には、表3に記載する、M単位シロキサン:Q単位シロキサンの比率を変更したシリコーンレジンと、表4に記載する、ストレートシリコーンオイルの種類と必要により変性シリコーンオイルと組み合わせたシリコーンオイルと、表5に記載する、必要により添加した界面活性剤と、希釈剤(ミネラルスピリット又は上水)と、を組み合わせた、表6及び表7に記載の仮保護剤を使用した。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
これら仮保護剤について、保護するコーティング剤の種類、養生時間(セッティングタイム)を変更した実施例について、実走後の光沢度及び撥水性を測定し、対照と比較した。なお、仮保護剤の塗布量は、自動車の疑似体積1m3当り10gに相当する、(コーティング剤が塗布された)自動車の塗装面1の1m2当り10gとした。試験結果を表8に記載する。
【0056】
【0057】
(実施例1~25)
実施例1~25は、仮保護剤の配合を変更したものである。保護すべきコーティング剤は、コーティング剤Y:ガラスコーティング剤(ダイヤモンドキーパー ガラス層)であり、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布し(霧状に吹き付け、すぐに、ウエスで拭き押さえる)、仮保護剤塗布直後に、散水し、界面活性剤などの不可避成分を洗い流した。直後に、実走試験を行い、光沢度と撥水性を確認した。
【0058】
実施例1~5は、仮保護剤が水を溶媒とするエマルジョン塗料であり、表6及び表2の記載のように、シリコーンレジンのM単位シロキサン:Q単位シロキサンのモル比を変更して比較したものである。M単位シロキサン:Q単位シロキサン=95:5~67:33の範囲では、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布することによって、好適にコーティング層2を保護することができた。なお、M単位シロキサンのモル比が大きいシリコーンレジンAを使用した仮保護剤1(実施例1)は、仮保護性能に問題はないものの、指触確認で若干のべたつきが感じられた。
【0059】
実施例6~10は、仮保護剤が水を溶媒とするエマルジョン塗料であり、表6及び表3の記載のように、シリコーンオイルの組成を変更して比較したものである。ストレートシリコーンオイルの種類、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルの組み合わせによっても、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布することによって、好適にコーティング層2を保護することができた。なお、表中には記載していないが、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイル(特にアミノ変性シリコーンオイル)の組み合わせが、仮保護剤の耐久性に優れるものであった。
【0060】
実施例11~15は、仮保護剤が有機溶媒(ミネラルスピリット)を溶媒とするワニス塗料であり、表6及び表2の記載のように、シリコーンレジンのM単位シロキサン:Q単位シロキサンのモル比を変更して比較したものである。ワニス塗料であっても、M単位シロキサン:Q単位シロキサン=95:5~67:33の範囲では、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布することによって、好適にコーティング層2を保護することができた。なお、M単位シロキサンのモル比が大きいシリコーンレジンAを使用した仮保護剤11(実施例11)は、前述の仮保護剤1(実施例1)と比較して、べたつき感は感じられなかった。有機溶媒が起因していると推測する。
【0061】
実施例16~20は、仮保護剤が水を溶媒とするエマルジョン塗料であり、表7の記載のように、シリコーンレジンとシリコーンオイルの添加量を増減させて不揮発分を調整して比較したものである。不揮発分が1.14~0.23mass%では、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布することによって、好適にコーティング層2を保護することができたが、不揮発分(有効成分)の少ない0.12mass%では、光沢度と撥水性が劣り、保護効果が劣るものであった。
【0062】
実施例21~25は、仮保護剤が水を溶媒とするエマルジョン塗料であり、表7の記載のように、一定量のシリコーンレジンに対してシリコーンオイルの添加量を増減させてMQレジンとシリコーンオイルの比率を調整して比較したものである。MQレジン:シリコーンオイル=75:25~97:3の範囲では、コーティング剤Yを塗布してから10分後に仮保護剤を塗布することによって、好適にコーティング層2を保護することができたが、MQレジン:シリコーンオイル=50:50の仮保護剤21(実施例21)では、光沢が劣るものとなった。シリコーンオイルの添加量が過剰であるため、光沢に悪影響を及ぼしたものと推測する。
【0063】
(実施例26~30)
実施例26~30は、水を溶媒とするエマルジョン塗料の仮保護剤1を使用し、コーティング剤Yを塗布してから仮保護剤を塗布するまでの養生時間(セッティングタイム)を変更して比較したものである。セッティングタイムが5分以下だと、光沢度と撥水性が劣り、仮保護剤がコーティング層2に悪影響を及ぼしていると考えられる。
【0064】
(実施例31~40)
実施例31~40は、仮保護する対象のコーティング剤の種類を変更して比較したものである。実施例31~35は、コーティング剤X:ポリマーコーティング剤(ダイヤモンドキーパー ポリマー層)について仮保護を行なったものである。実施例36~40は、コーティング剤Z:ガラスコーティング剤(EXキーパー ガラス層)について仮保護を行なったものである。組成分類が異なるコーティング剤であっても、実施形態の仮保護剤は、好適に仮保護することが可能であることが確認できた。
【0065】
(実施例41~45)
実施例41~45は、仮保護剤塗布直後に、散水せず、界面活性剤などの不可避成分を洗い流さずに比較したものである。界面活性剤などの不可避成分が残っているため、光沢度及び撥水性がやや劣るものとなった。
【0066】
(その他の技術的思想)
以上のように構成された実施形態のコーティング剤の仮保護剤から把握されるその他の技術的思想について、以下に記載する。
【0067】
上記コーティング剤の仮保護剤において、前記シリコーンオイルがストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルとの混合品であるものとすることができる。
【0068】
これによれば、変性シリコーンオイルの官能基がコーティング層に密着するため、仮保護剤から形成された仮保護層3の耐久性を高めることができる。
【0069】
上記コーティング剤の仮保護剤において、前記コーティング剤が撥水性コーティング剤であるものとすることができる。
【0070】
これによれば、撥水性コーティング剤が成膜してなる撥水性を有するコーティング層の表面に塗布された仮保護剤は、水を溶媒とするシリコーン成分が、弾かれた状態でコーティング層の表面に付着し、点在してコーティング膜の表面に結合した仮保護層3を形成する。仮保護剤から形成された仮保護層3は、コーティング膜を成膜させるまでの間の仮保護を行なった後、速やかに、コーティング層から剥がれて消滅する。このため、塗布された自動車は、コーティング層の性能を早期に発揮することができる。
【0071】
上記仮保護剤の塗布方法は、前記コーティング剤が塗布された前記自動車の前記塗装面に、上記の仮保護剤がドット状に塗布されることを特徴とする。
【0072】
本発明の仮保護剤の塗布方法によれば、コーティング剤の成膜が妨げられることはない。また、コーティング層2へのゴミの付着を防ぐことができる。