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特開2023-70559フライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ及びその最適内外径比の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070559
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】フライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ及びその最適内外径比の決定方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/30 20060101AFI20230512BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20230512BHJP
   F16F 15/305 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
F16F15/30 Z
B29C70/06
F16F15/305 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182821
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】521344607
【氏名又は名称】ネクスファイ・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA39
4F205AD16
4F205AG19
4F205AH04
4F205HA19
4F205HA22
4F205HA33
4F205HA37
4F205HB01
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】限界蓄積エネルギーを最大とさせるフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ及びその最適内外径比の決定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】外半径をb、内半径をa、丈をhとする、フライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ1において、外半径bの円を底面とし、丈をhとする仮想中実円盤の体積πbhを「体格」と定義するとき、回転時における、最大の体格限界蓄積エネルギー密度を達成し得る最適内外径比はλOPT=a/b、もしくは、該λOPT近傍の内外径比を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外半径をb、内半径をa、丈をhとする、フライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
外半径bの円を底面とし、丈をhとする仮想中実円盤の体積πbhを「体格」と定義するとき、回転時における、最大の体格限界蓄積エネルギー密度を達成し得る最適内外径比はλOPT=a/b、もしくは、該λOPT近傍の内外径比を備えていること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項2】
請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
前記直交異方性中空円盤ロータの直交異方性には、少なくとも、円周方向の縦弾性定数と引張降伏強度が半径方向の縦弾性定数と引張降伏強度より高くなる異方性が含まれること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項3】
請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
密度をρ、円周方向縦弾性率をEθ、半径方向縦弾性率をE、円周方向ポアソン比をνθ、円周方向引張降伏強度をσyθ、半径方向引張降伏強度をσyrとするとき、前記最適内外径比λOPTはEθ、E、νθ、σyθ、σyr、ρを用いて解析的に決定されること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項4】
請求項2記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
円周方向に巻層した高強度繊維の空隙をマトリクス剤で含侵させた複合材料で構成されること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項5】
請求項4記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
前記高強度繊維は、炭素繊維もしくはホウ素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、各種金属繊維から選ばれた1つの繊維、または、これらを2以上組み合わせた複合繊維であること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項6】
請求項4記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
前記マトリクス剤はエポキシ樹脂を含む各種樹脂、あるいは、AlやMgを含む軽量低温溶融金属であること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項7】
請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、
前記最適内外径比λOPT近傍の内外径比は、少なくともλOPT-0.1~λOPT+0.1の範囲であり、望ましくはλOPT-0.05~λOPT+0.05の範囲であること
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ。
【請求項8】
請求項3記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおける最適内外径比λOPTの決定方法であって、
少なくとも体格限界エネルギー密度U/(πbh)を内外径比λの関数として表す工程を含むこと
を特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータの最適内外径比の決定方法。
【請求項9】
請求項8記載の最適内外径比の決定方法において、
1)前記直交異方性中空円盤ロータの半径r地点の回転応力σθ、σ(下付き符号θは円周方向、rは半径方向を意味する)を、λをパラメータとするrの関数として表式する工程と、
2)該関数σθ、σの最大点σθM、σrMをλの関数曲線σθM-λ、σrM-λとして求める工程と、
3)該関数曲線σθM-λ、σrM-λを変換して限界周速bωとλの関数曲線bω-λを求める工程(ただしωは前記直交異方性中空円盤ロータの限界角速度)と、
4)つづいて該関数曲線bω-λを体格限界エネルギー密度U/(πbh)とλの関数曲線U/(πbh)-λに変換する工程(ただしUは前記直交異方性中空円盤ロータの限界蓄積エネルギー)と、
5)該関数曲線U/(πbh)-λから体格限界エネルギー密度の最大値を与える内外径比の最適値λOPTを検出する工程と、
を備えることを特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータの最適内外径比の決定方法。
【請求項10】
請求項8記載の最適内外径比の決定方法において、
1)前記直交異方性中空円盤ロータの半径r地点の回転応力σθ、σ(下付き符号θは円周方向、rは半径方向を意味する)を、λをパラメータとするrの関数として表式する工程と、
2)該関数σθ、σの最大点σθM、σrMをσrM/σθMとλの関数曲線σrM/σθM-λとして求める工程と、
3)こうして求めた該関数曲線σrM/σθM-λからσrM/σθM=σyr/σyθを満足するλ値、即ちλOPTを検出する工程と、
を備えることを特徴とするフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータの最適内外径比の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイール蓄電装置のフライホイールの主要素である中空円盤(円筒を含む)ロータの蓄積エネルギーを向上させる技術に関する。特に、円周方向の縦弾性定数と引張降伏強度が半径方向のそれらより高い直交異方性を備えたフライホイール中空円盤ロータの蓄積エネルギーを向上させる技術に関するものである。これに該当する典型的なロータとしては高強度繊維を円周方向に巻いて繊維の間隙をエポキシ樹脂などで含浸固化させた「繊維強化プラスチック」ロータがあげられるが、これに限定するものではない。以下「直交異方性中空円盤(または円筒)ロータ」を単に「ロータ」、「フライホイール」を「FW」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
FW蓄電装置は、電気エネルギーと回転運動エネルギーを相互に変換する手段を介して、外部電力をFWロータに回転運動エネルギーとして蓄積したり、逆に、FWロータの回転運動エネルギーを外部に電力として給電したりする機能を備えた蓄電装置である。
【0003】
周知の電気化学蓄電装置(所謂二次電池)と比較すると、低温環境でも高温環境でも安定して機能する。充放電を繰り返しても、充電状態で放置しても、特性や寿命の劣化がほとんど起こらない、正確な充電量を簡単に検知できる、入出力密度を自在に設計できる、内部抵抗が小さい、などの優れた特長を有している。
【0004】
近年、旧来のバルク金属製FWロータに替えて、高強度繊維(炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維など)を円周方向に沿って巻いて(マトリクス剤としての)プラスチックを含侵させた「複合プラスチック(Fiber Rainforced Plastics)」FRP-FWロータの開発が盛んである。
【0005】
その訳は、円周方向に強化したFRPが「低密度」でかつ「円周方向に高強度」、というFWロータにとって好適な特性を備えているからである。FRP-FWロータと用いて構成したFW蓄電装置は、旧来の金属製FWロータFW蓄電装置と比べると、蓄積エネルギーを少なくとも数倍のレベルで増大させられるだろうと期待されている。
【0006】
このようなFRP-FWロータは、構造上、強い直交異方性を有している。即ち、円周方向に沿って縦弾性定数(ヤング率)や引張降伏強度が非常に大きく、これに垂直な半径方向や回転軸方向ではかなり小さいという特徴を持っている。
【0007】
FRP-FWロータの典型例として、例えば、下記特許文献1の図1図5に記載されているようなFWの高強度炭素繊維強化プラスチック(CFRP)-FWロータがある。
【0008】
このFWの基本構成を述べると、当該FWは、回転エネルギーを貯蔵する中空円盤CFRP-FWロータと、前記CFRP-FWロータの回転エネルギーを授受し発電機/モータに伝達する回転シャフトと、前記CFRPロータと前記回転シャフトを接続するスポーク型ハブと、からなっている。
【0009】
CFRP-FWロータの高強度炭素繊維は円周方向に沿って巻回積層され、回転時、円周方向に生じる強い引張応力に十分対抗できるように引張降伏強度の強化を図っている。このような構成にするのは、破壊の原因となる回転引張応力が半径方向より円周方向に向かって非常に強く(典型的には1桁以上)発生するからである。
【0010】
更に同特許文献には質量エネルギー密度(単位Wh/kg)を最大化させるようにFWロータを最適化すること、そのために、内直径を2a(aは内半径)、外直径を2b(bは内半径)とするとき、内外径比a/bは0.65~0.75の範囲に収めるべきこと(特許文献1の図3では最適値0.7)が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-55134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に代表される従来のFRP(CFRP)-FWロータ(外半径b)においては、達成可能な最大の限界蓄積エネルギーを実現できていない、という問題があった。これはロータの構造の最適化(具体的には内外径比λ(=a/b)の最適化)が考慮されてなかったこと、あるいは、不適切になされてたこと、が原因である。
【0013】
ここで言う「限界蓄積エネルギー」とは、ロータの蓄電性能を評価(比較)するときの基本量であって、回転速度を上げているロータが破壊する寸前に蓄えることができた最大の回転運動エネルギーのことを指す。詳細は後述するが、FRPロータの限界蓄積エネルギーは形状(具体的には内外径比λ)に強く依存する。
【0014】
本発明は、上記の点を鑑み、限界蓄積エネルギーを最大とさせるフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータ及びその最適内外径比の決定方法を提供することを目的とする。なお、本発明はフライホイール蓄電装置のフライホイールの主要素であるFWロータに関するもので、他の主要素であるハブや回転シャフトの形態や構造に拘わらず適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、外半径をb、内半径をa、丈をhとする、フライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、外半径bの円を底面とし、丈をhとする仮想中実円盤の体積πbhを「体格」と定義するとき、回転時における、最大の体格限界蓄積エネルギー密度を達成し得る最適内外径比はλOPT=a/b、もしくは、該λOPT近傍の内外径比を備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、前記直交異方性中空円盤ロータの直交異方性には、少なくとも、円周方向の縦弾性定数と引張降伏強度が半径方向の縦弾性定数と引張降伏強度より高くなる異方性が含まれることを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、密度をρ、円周方向縦弾性率をEθ、半径方向縦弾性率をE、円周方向ポアソン比をνθ、円周方向引張降伏強度をσyθ、半径方向引張降伏強度をσyrとするとき、前記最適内外径比λOPTはEθ、E、νθ、σyθ、σyr、ρを用いて解析的に決定されることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項2記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、円周方向に巻層した高強度繊維の空隙をマトリクス剤で含侵させた複合材料で構成されることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項4記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、前記高強度繊維は、炭素繊維もしくはホウ素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、各種金属繊維から選ばれた1つの繊維、または、これらを2以上組み合わせた複合繊維であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項4記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、前記マトリクス剤はエポキシ樹脂を含む各種樹脂、あるいは、AlやMgを含む軽量低温溶融金属であることを特徴とする。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項1記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおいて、前記最適内外径比λOPT近傍の内外径比は、少なくともλOPT-0.1~λOPT+0.1の範囲であり、望ましくはλOPT-0.05~λOPT+0.05の範囲であることを特徴とする。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項3記載のフライホイール蓄電装置用フライホイールの直交異方性中空円盤ロータにおける最適内外径比λOPTの決定方法であって、少なくとも体格限界エネルギー密度U/(πbh)を内外径比λの関数として表す工程を含むこと
を特徴とする。
【0023】
請求項9に係る発明は、請求項8記載の最適内外径比λOPTの決定方法において、
1)前記直交異方性中空円盤ロータの半径r地点の回転応力σθ、σ(下付き符号θは円周方向、rは半径方向を意味する)を、λをパラメータとするrの関数として表式する工程と、
2)該関数σθ、σの最大点σθM、σrMをλの関数曲線σθM-λ、σrM-λとして求める工程と、
3)該関数曲線σθM-λ、σrM-λを変換して限界周速bωとλの関数曲線bω-λを求める工程(ただしωは前記直交異方性中空円盤ロータの限界角速度)と、
4)つづいて該関数曲線bω-λを体格限界エネルギー密度U/(πbh)とλの関数曲線U/(πbh)-λに変換する工程(ただしUは前記直交異方性中空円盤ロータの限界蓄積エネルギー)と、
5)該関数曲線U/(πbh)-λから体格限界エネルギー密度の最大値を与える内外径比の最適値λOPTを検出する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項10に係る発明は、請求項8記載の最適内外径比λOPTの決定方法において、
1)前記直交異方性中空円盤ロータの半径r地点の回転応力σθ、σ(下付き符号θは円周方向、rは半径方向を意味する)を、λをパラメータとするrの関数として表式する工程と、
2)該関数σθ、σの最大点σθM、σrMをσrM/σθMとλの関数曲線σrM/σθM-λとして求める工程と、
3)こうして求めた該関数曲線σrM/σθM-λからσrM/σθM=σyr/σyθを満足するλ値、即ちλOPTを検出する工程と、
を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】FWロータの基本構造と構造パラメータの定義を示す図。
図2】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの回転応力σと半径rの関係を示す図。
図3】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの回転応力最大値σと内外径比λの関係を示す図。
図4】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの周速bωと内外径比λの関係を示す図。
図5】本発明の第1実施形態を説明するための実際のFWロータの周速bωとλの関係を示す図。
図6】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの正規化限界エネルギー(体格エネルギー密度)U/(πbh)とλの関係を示す図。
図7】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの半径方向-対-円周方向最大応力比σrM/σθMとλの関係を示す図。
図8】本発明の第1実施形態を説明するためのFWロータの質量限界エネルギー密度Dとλの関係を示す図。
図9】本発明の第2実施形態を説明するためのFWロータのU/(πbh)とλの関係およびσrM/σθMとλの関係を示す図。
図10】本発明の第3実施形態を説明するためのFWロータのU/(πbh)とλの関係およびσrM/σθMとλの関係を示す図。
図11】本発明の第4実施形態を説明するためのFWロータのU/(πbh)とλの関係およびσrM/σθMとλの関係を示す図。
図12】本発明の第5実施形態を説明するためのFWロータのU/(πbh)とλの関係およびσrM/σθMとλの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、前記従来技術の問題を解決するために、検討と考察を鋭意重ねたところ、遂に限界蓄積エネルギーを最大化させたFRP-FWロータ構造を解析的に導くに至った。以下に本発明の詳細を説明する。
【0027】
(r, θ, z)円筒座標系のz軸の周りに角速度ωで回転する外半径b、内半径a、丈hの直交異方性FWロータ1(図1)を考える。このようなFWロータ1の半径r点における半径方向の平衡方程式(つり合いの式)は、
【0028】
【数1】
【0029】
であることが知られている。ここで、単位系はSI単位系、変数σθ、σは円周方向、半径方向にそれぞれ生じる回転応力、ρはFWロータ1の材料の密度である。
この微分方程式を2つの境界条件、
r=aのときσr(a)=0
r=bのときσr(b)=0
を考慮して解析的に解くと、一般解、
【0030】
【数2】
【0031】
【数3】
ただし、式中のλとηは
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
が導かれる。Eθ、EはFWロータ1の、それぞれ、円周方向と半径方向のヤング率(縦弾性係数)、νθはロータ1のθ方向のポアソン比である。σ、σθは内外径比λをパラメータとした相対半径変数r/bの関数であることが分る。
【0035】
図1の形状をしたFWロータ1の蓄積エネルギーU(=回転運動エネルギー)は
【0036】
【数6】
で表され、これを変形して内外径比λを使って表記すると
【0037】
【数7】
【0038】
になる。ここで各変数や定数は前式と共通である。(bω)は周速bωの2乗で増加する関数、(1-λ)は、λ(0<λ<1)が0から1に向かうとλ=1近傍で急速に1から0(ゼロ)に減少する関数である。
【0039】
つづいて、具体的な弾性定数を与えて、直交異方性FRP-FWロータ1のσとσθの関数形をグラフ上で確認した後、本発明に係る限界蓄積エネルギーUを最大化させるFWロータ1の構造を実現する方法を説明する。
【0040】
[第1実施形態]
炭素繊維T1000G(東レ株式会社)は、極めて強い引張降伏強度を持った炭素繊維として業界や学界では広く知られている材料である。表1の第1列にはT1000Gで円周方向に強化したCFRP-FWロータ1の弾性定数(ヤング率Eθ、E、ポアソン比νθ)と引張降伏強度(σyθ、σyr)、密度ρを掲げている。
【0041】
【表1】
【0042】
使用しているマトリクス剤はエポキシ樹脂470-36S(Ashland Inc.)である。これら数値の根拠となる文献として、「M.A. Conteh, E.C. Nsofor, J. Appl. Res. Tech., 14 (2016),pp.184-190」(参考文献1)を挙げる。
【0043】
図2は式(2)、式(3)を用いて計算した応力σθとσの半径プロファイルを示している。ただしグラフの縦軸は応力σθとσをρ(bω)で正規化(除)している。各曲線のパラメータは内外径比λ=a/bである。グラフを仔細に眺めると、
【0044】
1)σθ曲線にもσ曲線にも最大値σθM、σrM(↓印)があること、
2)これら2値の関係は必ずσθM > σrMであること、
3)λが大きくなると、σθMは増大しσrMは減少すること、
4)さらに興味深いことに、或るλでσθMの位置がピークからFW内端にスイッチすること、
が分る。
【0045】
上記1)~4)を考慮しながら、λの刻み(増分δλ)をもっと小さくして得られる沢山のσθ曲線、σ曲線の一つひとつからσθM、σrMを都度抽出してプロットすれば、図3のようなσθM、σrMとλの関係を示す曲線(δλ=0.01)が得られる。
【0046】
FWロータ1が降伏する条件はσθM=σyθまたはσrM=σyrであるから、図3のデータと式(2)、式(3)を使って各λに対応した限界周速bωを決定すると、図4のような、円周方向で降伏が起きるときの限界周速bωθyとλとの曲線(実線)、ならびに、半径方向で降伏が起きるときの限界周速bωryとλとの曲線(破線)が得られる。
【0047】
FWロータ1が回転角速度ω(あるいは外径周速bω)を次第に速め、FWロータ1内部の円周方向応力最大値σθMと半径方向応力の最大値σrMが高まり、遂にどちらか一方がそれぞれの引張降伏強度であるσyθ、σyrを超えたとき、FWロータ1は降伏(破壊)する。この最大応力破壊モデルに従って、図4を再考すると、FWロータの実際のbωとλの関係は図5であることが理解される。
【0048】
図5の各点(λ,bω)を式(4)に代入すれは、FWロータ1の限界エネルギーUと内外径比λの関係が求まる。こうして得たのが図6である。図6の縦軸はUをπbhで正規化した(除した)限界エネルギーである。πbhは半径bの円を底面とする高さhの仮想の円柱の体積、即ちFWロータ1の体格に相当するので、縦軸U/(πbh)はFWロータ1の「体格限界エネルギー密度」と呼べる量である。
【0049】
なお、中空部分があるFWロータ1の真の体積はπ(b-a)hであるから、所謂体積限界エネルギー密度U/(π(b-a)h)と体格限界エネルギー密度U/(πbh)とは異なる量である。両者を混同してはならない。
【0050】
図6を見れば明らかなように、本発明第1実施形態に係るCFRP-FWロータ1の限界エネルギー最大値UyOPTは内外径比λOPT=0.8(最適値)のとき得られ、その値はUyOPT/(πbh)=200kWh/mである。限界周速は、図5の周速の最大値より、bωyOPT=1719m/sとなる。
【0051】
例えば、FWロータ1の体格が外径b=0.15m、丈h=1mの円筒の場合には、同体格において最大の限界エネルギーUyOPT=14.1kWhが実現できる。そのFWロータ1の内外径比はλOPT=0.8、よって内径はa=0.12mである。
【0052】
上記のような経過を辿って最適内外径比λOPTを得る方法(第1方法と称する)のほかに、より簡便にλOPTを求める方法(これを第2方法と称する)があるので説明する。
【0053】
図4を参照すると、λOPTは曲線bωθyと曲線bωryが交差(一致)する点であることが分る。このλ点では円周方向の降伏と半径方向の降伏が同時に起こるから、
【0054】
【数8】
かつ
【0055】
【数9】
である。このとき、式(5)/式(6)を実行することで
【0056】
【数10】
なる関係があるのが分る。
【0057】
図3の段階で、σrMとσθMを個別にプロットする替りに、σrM/σθMをプロットすると、図7のようになる。ここで式(7)の関係があるから、図7にσyr/σyθ(=一定)の水平線を引くと、σrM/σθM-λ曲線と交点を生じる。この交点のλ値がλOPTである。
【0058】
つぎに本発明第1実施形態の効果を説明する。特許文献1にはλ=0.7がCFRP-FWロータの最適内外径比であること(特許文献1の図3参照)が記されている。しかしながら、本発明で得た図6を参照すると、λ=0.7のときの従来のFWロータの限界蓄積エネルギー(ここでは正規化限界蓄積エネルギー)は最大ではなく、U/(πbh)=128kWh/mであって、本発明の前記200kWh/mと比べるとずっと低い。
【0059】
本発明のFWロータ1(λOPT=0.8)が特許文献1による従来のFWロータより明らかに優れている。即ち、本発明第1実施形態のFWロータ1は特許文献1に代表される従来のFWロータの問題であった「達成可能な最大の限界蓄積エネルギーを実現できていない」という問題を解決していると言うことができる。
【0060】
なお、FWロータ1の体格を決める外半径bと丈hが与えられれば、πbh倍したものが実際の限界蓄積エネルギーであるから、正規化限界蓄積エネルギー(=体格限界蓄積エネルギー密度)ではなく限界蓄積エネルギー(Wh)で考察してもこの結論が変わらないことを付言しておきたい。
【0061】
なぜこのような結果になるのか明らかにするために、特許文献1における従来のFWロータの構造の最適化手法を検証すると、特許文献1においては質量限界エネルギー密度(Wh/kg)を最大化させるという観念と試行錯誤的手法に基づいている。
【0062】
図1で定義した中空円盤FWロータの質量限界エネルギー密度D(Wh/kg)は、
【0063】
【数11】
のように表される。
【0064】
第1実施例のFWロータ1のDをλの関数としてプロットした結果が図8である。ここでは図5の縦軸bωをDに変換している。Dは、図8を見れば明らかなように、内外径比の有効区間0<λ<1において一貫して単調増加し続ける関数である。b-aがゼロに近いほどDが高くなる。
【0065】
つまり、特許文献1が述べているλ=0.7には、(また、区間0.65<λ<0.75にも)Dの最大値は存在しない。これは特許文献1が主張しているλ値やλ区間には実は合理的な意味がない、と言うことである。
【0066】
本願発明者が鋭意研究したところによると、このようなDの単調増加性はなにも第1実施形態のFRP材料に限定されたものではなく、(後述の各実施の形態のFRP材料を含む)他のFRP材料でも広く認められることから、特許文献1の質量限界エネルギー密度を最大化させる構造最適化設計法は、現実に製作されるFRP-FWロータにおいては、ほとんど成立しないと言うべきである。
【0067】
さて、製品としてのフライホイール蓄電装置(図示省略する)では製造原価を低減することが重要であることは言うまでもないが、そのユニットであるFWの設計においても、安価なFWを実現するために、現有部品(すでに製品化されている蓄電装置FWのハブや回転シャフト)を用いてFWを構成したいというデマンドが常に起こる。このデマンド(たとえば現有のハブを使用する)に応えようとすると、FWロータの内外径比を上述最適値λOPTに精密に合わせることがしばしば困難になる。
【0068】
このデマンドに応えるための妥協点について述べる。内外径比最適λOPTと妥協の結果の外径比設計値λDSNの偏差の絶対値をΔλ(=|λOPT-λDSN|)と定義して、前図6を参照すると、Δλが大きくなると体格限界エネルギー密度は下降して行くが、Δλ=0.05のときは約20%減に留まり、Δλ=0.1のときは約40%減に収まる。
【0069】
しかし、Δλが0.1を大きく上回るようになると体格限界エネルギー密度の減少度はひどくなってもはや許容できない。したがって現実的な偏差の妥協点は、Δλ=0.1、望ましくは、Δλ=0.05と言うことができる。この見解は以下第2実施形態以降の実施形態でも同様である。
【0070】
[第2実施形態]
従来より、CFRP-FWロータ1の内径aを小さくする動機のもと、円周方向に強く強化するだけでなく、半径方向にも若干の強化を施したFWロータが試作されている。これを示す文献として、「H. Hiroshima et al,Composite Structures, Vol. 131, (2015) pp. 304-311」(参考文献2)を挙げる。
【0071】
表1の第2列には、このFWロータの材料の弾性定数(Eθ、E、νθ)と引張降伏強度(σyθ、σyr)、密度ρを掲げている。炭素繊維はT1000G、マトリクス剤はEpoxy樹脂である。
【0072】
第2実施形態は、このFWロータの材料において限界蓄積エネルギーを最大にするよう成したCFRP-FWロータ1(図1)の場合である。
【0073】
最適なFWロータ1の構造を導く方法(第1方法ならびに第2方法)は第1実施形態とまったく同じであるから、同じ説明は省略し、最後の結果のみ示す。これは第3以降の実施形態でも同様である。
【0074】
図9には、第1方法で求めた体格エネルギー密度U/(πbh)-λ曲線と、第2方法で求めたσrM/σθM-λ曲線を示している。どちらの方法からも最適値λOPT=0.53が得られる。このとき、最大の正規化限界蓄積エネルギーはU/(πbh)-λ曲線から195kWh/mになる。この値は第1実施形態とほぼ同じである。
【0075】
第1実施形態と第2実施形態の結果から既に明らかなように、内外径比の最適値λOPTはFWロータ材料の物性値(Eθ、E、νθ、σyθ、σyr、ρ)によって決まり、変化するものであって、特許文献1が主張しているような区間0.65<λ<0.75に局在するものではない。
【0076】
[第3実施形態]
本発明はCFRPに限定されるものではなく、すべてのFRPに適用可能である。本発明の第3実施形態は、ボロン繊維B(4)(製造者不明)とエポキシ樹脂5505(SICOMIN社)からなるBFRP-FWロータ1の構造の最適化の例である。表1の第3列にこの円周方向強化BFRP材料の材料物性を示した。この材料物性を示す文献として、「三木光範, 材料 30 (1981)pp.943-948」(参考文献3)を挙げる。
【0077】
図10は、本発明の第1方法で求めた体格エネルギー密度U/(πbh)-λ曲線と、第2方法で求めたσrM/σθM-λ曲線である。どちらの方法からも最適値λOPT=0.66が得られた。このとき、最大の体格エネルギー密度(正規化限界蓄積エネルギー)はU/(πbh)-λ曲線から85.7kWh/mになる。
【0078】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態は、ガラス繊維Scotchply(3M社)とエポキシ樹脂1002(3M社)からなるGFRP-FWロータ1の構造の最適化の例である。表1第4列にこの円周方向強化GFRP材料の材料物性(前記参考文献3による)を示した。
【0079】
図11は、本発明の第1方法で求めたGFRP-FWロータ1の体格エネルギー密度U/(πbh)-λ曲線と、第2方法で求めたσrM/σθM-λ曲線である。どちらの方法でも最適値λOPT=0.74が得らる。このとき、最大の体格エネルギー密度(正規化限界蓄積エネルギー)はU/(πbh)-λ曲線から56.6kWh/mになる。
【0080】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態はアラミド繊維Kevlar 49(DuPont社)とエポキシ樹脂からなるAFRP-FWロータ1の構造の最適化の例である。表1第5列にこの円周方向強化AFRP材料の物性(前記参考文献3による)を示した。
【0081】
図12は、前記第1方法で求めた体格エネルギー密度U/(πbh)-λ曲線と、前記第2方法で求めたσrM/σθM-λ曲線である。どちらの方法でも最適値λOPT=0.86が得られる。このとき、最大の体格エネルギー密度(正規化限界蓄積エネルギー)はU/(πbh)-λ曲線から46.3kWh/mになる。
【0082】
[その他の実施形態]
本発明に係るFW直交異方性中空円盤ロータ1は、前記各実施の形態の材料に限られるものではなく、様々な直交異方性材料を用いたロータに適用することができる。たとえば、高強度繊維材にはアルミナ繊維、炭化珪素繊維、各種金属繊維を用いることができる。
【0083】
また、前記実施形態の各種繊維やこれら繊維の中から2以上を組み合わせた複合繊維を用いてもよい。
【0084】
マトリクス剤にはエポキシ樹脂以外のその他樹脂のほか、AlやMgのような軽量低温溶融金属を用いることもできる。
【符号の説明】
【0085】
1…フライホイール直交異方性中空円盤ロータ(FWロータ)
b…FWロータの外半径
a…FWロータの内半径
h…FWロータの丈
r…半径(変数)
θ…方位角(変数)
z…中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12