(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070600
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】半導体装置、AD変換器およびAD変換方法
(51)【国際特許分類】
H03M 1/08 20060101AFI20230512BHJP
H03M 1/38 20060101ALI20230512BHJP
H03M 1/14 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
H03M1/08 A
H03M1/38
H03M1/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182896
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ファジャル メガ プラタマ
(72)【発明者】
【氏名】西野 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 健央
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA02
5J022AA14
5J022AB04
5J022BA05
5J022CA00
5J022CA07
5J022CA10
5J022CB02
5J022CB06
5J022CE08
5J022CF01
5J022CF07
(57)【要約】
【課題】処理時間を短縮することができる技術を提供することである。
【解決手段】半導体装置はアナログ入力信号をサンプリングする処理と逐次比較処理とを行って、AD変換処理を実行し、デジタル出力信号を出力する逐次比較型のAD変換器と、を備える。AD変換器は、上位DACと、冗長DACと、下位DACと、上位DAC、冗長DAC及び下位DACの出力電圧と比較基準電圧とを比較する比較器と、比較器の比較結果に基づいて、上位DAC、冗長DAC及び下位DACによる逐次比較を制御し、デジタル出力信号を生成する制御回路と、補正回路と、を備える。補正回路は、上位ビットのエラーを冗長ビットにより補正するエラーコレクション回路と、複数回に亘って供給される複数個の下位ビットの変換値の平均値を算出する平均化回路と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力信号が入力されるポートと、
前記ポートに入力されたアナログ入力信号をサンプリングする処理と逐次比較処理とを行って、AD変換処理を実行し、デジタル出力信号を出力する逐次比較型のAD変換器と、を備え、
前記AD変換器は、
前記デジタル出力信号の上位ビットに対応してDA変換を行う上位DACと、
前記上位DACのビットに付加される冗長ビットに対応してDA変換を行う冗長DACと、
前記デジタル出力信号の下位ビットに対応してDA変換を行う下位DACと、
前記上位DAC、前記冗長DAC及び前記下位DACの出力電圧と比較基準電圧とを比較する比較器と、
前記比較器の比較結果に基づいて、前記上位DAC、前記冗長DAC及び前記下位DACによる逐次比較を制御し、前記デジタル出力信号を生成する制御回路と、
前記デジタル出力信号を補正する補正回路と、を備え、
前記補正回路は、前記上位ビットのエラーを前記冗長ビットにより補正するエラーコレクション回路と、複数回に亘って供給される複数個の前記下位ビットの変換値の平均値を算出する平均化回路と、を備える半導体装置。
【請求項2】
請求項1の半導体装置において、
前記制御回路は、
所定のアナログ入力信号を前記上位DACによる逐次比較によりデジタル出力信号に変換して変換値を上位逐次比較レジスタに格納し、
前記所定のアナログ入力信号を前記冗長DACによる逐次比較によるデジタル出力信号に変換して変換値を冗長逐次比較レジスタに格納し、
前記冗長逐次比較レジスタから変換値を複数回に亘って前記エラーコレクション回路に供給し、
前記所定のアナログ入力信号を前記下位DACによる逐次比較によりデジタル出力信号に変換して変換値を下位逐次比較レジスタに格納し、
前記下位逐次比較レジスタから変換値を複数回に亘って前記平均化回路に供給するよう構成される半導体装置。
【請求項3】
請求項2の半導体装置において、
前記エラーコレクション回路は、前記冗長逐次比較レジスタから供給された複数の変換値の出現回数に基づいて前記上位逐次比較レジスタに格納されたデジタル出力信号の最下位ビットを補正するよう構成される半導体装置。
【請求項4】
請求項3の半導体装置において、
前記制御回路は、前記補正された最下位ビットに基づいて前記下位DACによる逐次比較によりデジタル出力信号に変換するよう構成される半導体装置。
【請求項5】
請求項1の半導体装置において、さらに、
中央処理装置と、
前記中央処理装置が実行するプログラムが格納されるメモリと、を備える半導体装置。
【請求項6】
アナログ入力信号をサンプリングする処理と逐次比較処理とを行って、AD変換処理を実行し、デジタル出力信号を出力する逐次比較型のAD変換器であって、
前記AD変換器は、
前記デジタル出力信号の上位ビットに対応してDA変換を行う上位DACと、
前記上位DACのビットに付加された冗長ビットに対応してDA変換を行う冗長DACと、
前記デジタル出力信号の下位ビットに対応してDA変換を行う下位DACと、
前記上位DAC、前記冗長DAC及び前記下位DACの出力電圧と比較基準電圧とを比較する比較器と、
前記比較器の比較結果に基づいて、前記上位DAC、前記冗長DAC及び前記下位DACによる逐次比較を制御し、前記デジタル出力信号を生成する制御回路と、
前記デジタル出力信号を補正する補正回路と、を備え、
前記補正回路は、前記上位ビットのエラーを前記冗長ビットにより補正するエラーコレクション回路と、複数回に亘って供給される複数個の前記下位ビットの変換値の平均値を算出する平均化回路と、を備えるAD変換器。
【請求項7】
デジタル出力信号の上位ビットに対応してDA変換を行う上位DACと、前記上位DACのビットに付加された冗長ビットに対応してDA変換を行う冗長DACと、前記デジタル出力信号の下位ビットに対応してDA変換を行う下位DACと、を備えるAD変換器のAD変換方法であって、
アナログ入力信号を前記上位DACによる逐次比較によりデジタル出力信号に変換する一次逐次比較ステップと、
前記アナログ入力信号を前記冗長DACによる逐次比較によるデジタル出力信号に変換する冗長逐次比較ステップと、
前記冗長逐次比較ステップを複数回行った結果に基づいて前記一次逐次比較ステップにおけるエラーを訂正するエラーコレクションステップと、
前記アナログ入力信号を前記下位DACによる逐次比較によりデジタル出力信号に変換する二次逐次比較ステップと、
前記二次逐次比較ステップを複数回行った結果を平均化する平均化ステップと、を含むAD変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は半導体装置に関し、例えば逐次比較型アナログデジタル変換器を備える半導体装置に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
マイクロコントローラ、SoC(System-on-a-chip)等には、内部の中央処理装置(CPU)により処理するため、外部から入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するAD(Analog/Digital)変換器を備えている。
【0003】
AD変換器として、逐次比較型のAD変換器が知られている。逐次比較型のAD変換器は、主に、デジタル/アナログ変換器(DAC)、比較器、逐次比較論理回路等を備えている。逐次比較型AD変換器は、入力されるアナログ信号をサンプリングし、サンプリング値に対して逐次比較処理を行うことにより、逐次比較結果のデジタル信号を出力する。
【0004】
従来から、逐次比較型AD変換器においてノイズの影響を低減するための方策が考えられている。例えば、特許文献1では、AD変換処理の期待値に基づいて基準電圧を生成し、当該基準電圧を逐次比較処理を行うコンパレータに供給する。期待値として、複数回のAD変換結果を平均した値が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チャネル選択アナログ入力の同じチャネルを複数回連続でAD変換し、その変換値の平均をデータレジスタに保持する。この結果の平均値を使用することで、ノイズ成分によってはAD変換精度が良くなることがある。しかし、サンプリングおよび逐次比較処理を複数回行うので、処理時間が増大する。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次の通りである。すなわち、半導体装置はアナログ入力信号をサンプリングする処理と逐次比較処理とを行って、AD変換処理を実行し、デジタル出力信号を出力する逐次比較型のAD変換器と、を備える。AD変換器は、上位DACと、冗長DACと、下位DACと、上位DAC、冗長DACおよび下位DACの出力電圧と比較基準電圧とを比較する比較器と、比較器の比較結果に基づいて、上位DAC、冗長DACおよび下位DACによる逐次比較を制御し、デジタル出力信号を生成する制御回路と、補正回路と、を備える。補正回路は、上位ビットのエラーを冗長ビットにより補正するエラーコレクション回路と、複数回に亘って供給される複数個の下位ビットの変換値の平均値を算出する平均化回路と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
上記半導体装置によれば、処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は実施形態におけるマイクロコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は比較例におけるAD変換器の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は
図2に示す平均化回路の構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は
図2に示すAD変換器の動作の概要を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は実施形態におけるAD変換器の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は
図5に示す補正回路の構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は
図6に示す平均化回路の構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は
図5に示すAD変換器の動作の概要を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は冗長DACを有さない比較例の場合の正しいAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。
【
図10】
図10は冗長DACを有さない比較例の場合の間違ったAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。
【
図11】
図11は冗長DACを有する本実施の形態の場合のAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。
【
図12】
図12は比較例と実施形形態の変換動作時間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態および変形例について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。
【0012】
図1は実施形態におけるマイクロコントローラの構成例を示すブロック図である。なお、マイクロコントローラは、半導体装置の一例であり、本実施形態におけるAD変換器を含む他の半導体装置であってもよい。
【0013】
図1に示すように、本実施形態におけるマイクロコントローラ1は、中央処理装置(CPU)2、ROM3、RAM4、AD変換装置(ADU)5、その他の周辺回路(PRP)6、バス7およびアナログポート8を備えている。
【0014】
CPU2、ROM3、RAM4および周辺回路6は、バス7を介して接続されている。AD変換装置5は、入力端子がアナログポート8に接続され、出力端子がバス7に接続されている。
【0015】
CPU2は、マイクロコントローラ1で必要な機能を実現する演算処理部である。ROM3は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、CPU2が実行する各種プログラムが格納される。RAM4は、SRAM等の揮発性メモリであり、CPU2が扱うデータが格納される。CPU2は、ROM3やRAM4にアクセスして各種プログラムを実行し、AD変換装置5のAD変換結果や周辺回路6の入出力信号に対し、演算処理を実行する。
【0016】
例えば、AD変換装置5は、逐次比較型のAD変換器(ADC)50、アナログマルチプレクサ(MUX)51、制御レジスタ(CR)52、データレジスタ(DR)53およびバスインタフェース(BUS I/F)を備える。
【0017】
AD変換器50は、アナログポート8からアナログマルチプレクサ51を介して入力されたアナログ入力信号(AVin)をAD変換し、AD変換結果であるデジタル出力信号をデータレジスタ53に出力する。アナログマルチプレクサ51は複数のアナログポートの内の一つのアナログポートを選択してアナログ信号をAD変換器50に入力する。データレジスタ53はAD変換結果を保持し、CPU2はバス7およびバスインタフェース54を介してデータレジスタ53の内容を読み出すことができる。制御レジスタ52はCPU20から書き込まれるAD変換装置5の制御情報を保持し、CPU2はバス7およびバスインタフェース54を介して制御レジスタ52への書き込みおよび制御レジスタ52の内容の読み出しができる。
【0018】
まず、本実施形態をより明確にするため比較例におけるAD変換器50の構成について
図2および
図3を用いて説明する。
図2は比較例におけるAD変換器の構成を模式的に示すブロック図である。
図3は
図2に示す平均化回路の構成例を示すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、AD変換器50は、制御回路(CNTR)501、ローカルDAC(Digital to Analog Converter)502、サンプルホールド回路(S/H)503、比較器504および平均化回路(AVRG)520を有する。AD変換器50は、(M+N)ビットのAD変換器として構成される。ここで、M、Nは、2以上の整数である。AD変換器50には、アナログ信号(AVin)が入力する。そして、AD変換器50は、アナログ信号(AVin)に対して逐次比較(バイナリサーチ)を行うことにより、アナログ信号(AVin)をAD変換し、デジタル出力信号(Dout)を出力する。
【0020】
制御回路501は、ローカルDAC502、サンプルホールド回路503および平均化回路520の動作を制御する。制御回路501は、アナログ信号(AVin)に対して逐次比較(バイナリサーチ)を行うためのデジタルコード値(D[1:M+N])を、ローカルDAC502へ出力する。後述するように、ローカルDAC502は、上位Nビットと下位Mビットとに分けてDA変換を行う。よって、制御回路501は、デジタルコード値(D[1:M+N])を、上位ビットD[M+1:N]と下位ビットD[1:M]とに分けて、ローカルDAC502に出力する。また、制御回路501は、逐次比較(バイナリサーチ)を行った結果確定したデジタルコード値(D[1:M+N])を逐次比較レジスタ(SAR)510に格納して平均化回路520へ出力する。
【0021】
ローカルDAC502は、制御回路501からのデジタルコード値(D[1:M+N])をアナログ信号にDA変換し、変換した信号を比較器504へ出力する。ローカルDAC502は、上位DACとしての容量型DAC(CDAC)および下位DACとしての抵抗型DAC(RDAC)を有する。容量型DACは、上位ビットD[M+1:N]をサーモメータコード制御によりアナログ信号に変換する。抵抗型DACは、下位ビットD[1:M]をDA変換する。ローカルDAC502は、第一参照電圧(Vrh)および第二参照電圧(Vrl)が供給される。ローカルDAC502の出力は、比較器504の反転入力端子と接続される。
【0022】
サンプルホールド回路503はサンプリング容量およびアナログスイッチで構成される。サンプルホールド回路503は、アナログマルチプレクサ51から入力したアナログ信号(AVin)をサンプリングし、AD変換の間ホールドする回路である。サンプルホールド回路503はサンプリングした信号を比較器504に出力する。比較器504は、ローカルDAC502およびサンプルホールド回路503の出力を比較し、比較結果を制御回路501に出力する。
【0023】
図3に示すように、平均化回路520は、累算回路(ACCM)521、除算回路(1/n)522およびレジスタ(RGST)523から構成される。累算回路521は加算器およびレジスタから構成される。制御回路501の逐次比較レジスタ510から変換値が複数回(n回)に渡って繰り返し入力される。ここでnは任意の整数であり、大きな数値を与える程、補正に長い時間を要する代わりに、ランダムノイズの影響を軽減することができる。累算回路521は入力されたn個の変換値を累算して合計値を求め、除算回路522に出力する。除算回路522は、入力された合計値をnで割ることによって、変換値の平均値が算出され、レジスタ523に保持される。レジスタ523は最終的な補正された変換値を保持する。
【0024】
次に、比較例におけるAD変換器のAD変換動作について
図2から
図4を用いて説明する。
図4は比較例におけるAD変換器の動作の概要を示すフローチャートである。
【0025】
(サンプリング:P1)
AD変換を行う場合、まず、AD変換器50は、アナログ入力信号(AVin)をサンプルホールド回路503においてサンプリングする。
【0026】
(一次逐次比較:P2)
続いて、サンプリングが終了すると、AD変換器50は、ローカルDAC502の上位DACによる逐次比較を行う。この逐次比較を一次逐次比較という。制御回路501は、上位DACの電圧がサンプルホールド回路503から出力されるアナログ信号の電圧と一致するように逐次比較制御信号を順次制御し、比較器504がN回比較を行う。
【0027】
(二次逐次比較:P3)
ローカルDAC502の上位DACによる逐次比較に続いて、下位DACによる逐次比較を行う。この逐次比較を二次逐次比較という。制御回路501は、逐次比較制御信号を順次制御し、比較器504がM回比較を行う。このように下位DACを使用してM回の比較を行うと、(N+M)ビットのAD変換結果が得られる。制御回路501は、AD変換結果を逐次比較レジスタ510に格納する。そして、制御回路501は、逐次比較レジスタ510の内容を平均化回路520の累算回路521に出力する。
【0028】
(所定回数:P4)
制御回路501は処理P1~P3を所定回数(n回)繰り返す。その結果、累算回路521はn回のAD変換値を累算する。
【0029】
(平均化:P5)
平均化回路520の除算回路522は累算回路521により累算されたAD変換値を累算回数(n)で除算して平均値を算出してレジスタ523に格納する。平均化回路520は補正された変換値をデータレジスタ53に出力する。
【0030】
比較例におけるAD変換器50は、所定のアナログ値に対応するAD変換による変換値を複数回に渡って平均化回路520に供給し、平均化回路520は、複数回に渡って供給された複数の変換値の平均値を算出して補正された変換値を算出する。
【0031】
比較例におけるAD変換器の問題点について以下説明する。上述したように、比較例におけるAD変換器のAD変換はサンプリング(処理P1)、一次逐次比較(処理P2、二次逐次比較(処理P3)および平均化処理(処理P4)で構成される。ここで、一次逐次比較の期間は上位ビットを決定する期間であり、二次逐次比較の期間は下位ビットを決定する期間である。平均化処理の期間は一次逐次比較および二次逐次比較の期間に比べて非常に短い時間である。
【0032】
ここで、サンプリングの期間をt1、一次逐次比較の期間をt2、二次逐次比較の期間をt3、n回平均のAD変換動作時間をtとすると、tは次の式(1)で表される。
t=n*(t1+t2+t3) ・・・(1)
【0033】
すなわち、比較例におけるAD変換器のAD変換では、平均化処理を行わないAD変換のn倍の処理時間がかかってしまう。
【0034】
平均化処理において、同じ入力信号(同じ電位)に対して、AD変換を行っているため、2回目以降のサンプリングは本来不要である。また、一般的に、逐次比較型AD変換器では、下位ビットを決定する二次逐次比較の精度によってAD変換器の精度(保証スペック)が決定される。
【0035】
よって、実施形態では、高精度化のための平均化処理は下位ビットを決定する二次逐次比較を繰り返す変換だけを行い、上位ビットを決定する一次逐次比較を省略する。以下、実施形態におけるAD変換器について具体的に説明する。
【0036】
実施形態におけるAD変換器の構成について
図5を用いて説明する。
図5は実施形態における逐次比較型のAD変換器の構成例を示す図である。
【0037】
実施形態における逐次比較型のAD変換器50は、制御回路(CNTR)501、ローカルDAC502、比較器504および補正回路(CRRC)530を備える。
【0038】
ローカルDAC502は、容量型DAC502aおよび抵抗型DAC502bから構成される。容量型DAC502aは比較例における上位DACに相当する上位DACおよび比較例にない冗長DACから構成される。抵抗型DAC502bは比較例における下位DACに相当する。
【0039】
容量型DAC502aは、アナログ入力信号のサンプリングと、サンプリングされた電荷を再配分するDACである。容量型DAC502aは、サンプリング回路を兼ねている。容量型DAC502aは、複数の容量素子CN,・・・,C0,CR、および複数のスイッチSN,・・・,S0,SRを備えている。
【0040】
複数の容量素子CN,・・・,C0,CRは、複数のスイッチSN,・・・,S0,SRと、ノードNPとの間に、並列に接続されている。ここで、ノードNPは比較器504のプリアンプ504aの一方の入力端子に接続されるノードである。スイッチSN,・・・,S1は、アナログ入力信号(AVin)の入力端子507a、第一参照電圧(Vrh)の供給端子507bおよび第二参照電圧(Vrl)の供給端子507cと、容量素子CN,・・・,C1との間に接続されている。スイッチS0は、アナログ入力信号(AVin)の入力端子507a、第一参照電圧(Vrh)の供給端子507bおよび抵抗型DAC502bの出力端子507dと、容量素子C0との間に接続されている。スイッチSRは、アナログ入力信号(AVin)の入力端子507a、第一参照電圧(Vrh)の供給端子507bおよび第二参照電圧(Vrl)の供給端子507cと、容量素子CRとの間に接続されている。
【0041】
スイッチSN,・・・,S0,SRの切り替えは、制御回路501の出力である複数の逐次比較制御信号で各々制御される。スイッチSN,・・・,S1,SRは、複数の逐次比較制御信号に応じて、第一参照電圧(Vrh)、第二参照電圧(Vrl)およびアナログ入力信号(AVin)と、容量素子CN,・・・,C1,CRとの接続を切り替える。スイッチS0は、逐次比較制御信号に応じて、アナログ入力信号(AVin)、第一参照電圧(Vrh)および抵抗型DAC502bの出力信号と、容量素子C0との接続を切り替える。
【0042】
抵抗型DAC502bは、MビットのDACであり、制御回路501の出力である複数の逐次比較制御信号をDA変換し、DA変換したアナログ信号を、スイッチS0を介して容量素子C0へ供給する。抵抗型DAC502b(および容量素子C0)は、デジタル出力信号の下位ビット(Mビット)に対応してDA変換を行う。容量素子(結合容量素子)C0およびスイッチ(結合スイッチ)S0は、抵抗型DAC502bに含まれてもよいし、含まれていなくてもよい。容量素子C0は、基準の容量素子であり、その容量値をCkとする。上位DACの最下位ビットの容量素子と同じ容量である。
【0043】
上位DACは、NビットのDACであり、容量素子CN,・・・,C1(上位容量素子群)、スイッチSN,・・・,S1(上位スイッチ群)を備えている。容量素子CN,・・・,C1は、基準の容量素子C0の2のべき乗の重みの容量を有している。つまり、最も低いビット位置の容量素子C1の容量値はCkであり、最も高いビット位置の容量素子CNの容量は、2N-1×Ckである。上位DACは、逐次比較制御信号に応じて、アナログ入力信号(AVin)をサンプリングし、デジタル出力信号の上位ビット(Nビット)に対応してDA変換を行う。
【0044】
冗長DACは、上位DACの最下位ビットに冗長性を持たせるための1ビットのDACであり、容量素子(冗長容量素子)CR、スイッチ(冗長スイッチ)SRを備えている。容量素子CRは、上位DACの最下位ビットに対応して、容量素子C1と同じ容量値を有している。すなわち、容量素子CRの容量値をCkに設定されている。
【0045】
比較器504はプリアンプ504aおよび2値化回路504bから構成される。比較器504は、容量型DAC502aおよび抵抗型DAC502bの出力電圧と基準電圧(Vcm)とを比較する。比較器504は、一方の入力端子に容量素子CN...C0、CRが接続され、他方の入力端子に基準電圧(Vcm)が接続され、出力端子が制御回路501に接続される。プリアンプ504aの一方の入力端子(ノードNP)と一方の出力端子との間にスイッチが接続され、他方の入力端子(基準電圧(Vcm))と他方の出力端子との間にスイッチが接続されている。例えば、プリアンプ504aのスイッチのON/OFF(オン/オフ)は制御回路501により制御される。サンプリング動作時、プリアンプ504aのスイッチがONするため、比較器504は比較を行わない。逐次比較動作時、スイッチがOFFとなるため、比較器504は、容量素子CN,・・・,C0、CRにより再配分された電荷と、基準電圧(Vcm)とを比較し、制御回路501へ比較結果を出力する。
【0046】
制御回路501は、比較器504の比較結果に基づいて、逐次比較制御信号により逐次比較を制御する。制御回路501は、上位DACによる逐次比較の結果により、デジタル出力信号であるNビットのAD変換結果を上位レジスタ(SARU)511に格納し、補正回路530に出力する。また、制御回路501は、冗長DACによる逐次比較の結果により、デジタル出力信号である1ビットのAD変換結果を冗長レジスタ(SARR)512に格納し、補正回路530に出力する。また、制御回路501は、下位DACによる逐次比較の結果により、デジタル出力信号であるMビットのAD変換結果を補正回路530に出力する。
【0047】
補正回路の構成について
図6を用いて説明する。
図6は
図5に示す補正回路の構成例を示すブロック図である。
【0048】
補正回路530は、エラーコレクション回路(ECL)531と平均化回路(AVRG)535と逐次比較レジスタ(SAR)539とを備える。
【0049】
エラーコレクション回路(ECL)531は出現回数判定回路(ACDC)532と補正回路(CRRT)533とレジスタ(RGST)534から構成される。出現回数判定回路532は制御回路501の冗長レジスタ512から変換値が複数回(m回)に渡って繰り返し入力される。ここで、mは3以上の奇数であり、大きな数値を与える程、補正に長い時間を要する代わりに、ランダムノイズの影響を軽減することができる。出現回数判定回路532は入力されたm個の変換値である「1」および「0」の出現回数を計数し、出現回数の多い方の値を出力する。補正回路533は制御回路501の上位レジスタ511から入力された変換値の最下位ビットを出現回数判定回路532から出力された値に補正する。
【0050】
平均化回路535は、比較例における平均化回路520と同様の構成であり、累算回路(ACCM)536、除算回路(1/n)537およびレジスタ(RGST)538から構成される。累算回路536は加算器およびレジスタから構成される。制御回路501の下位レジスタ(SARL)513から変換値が複数回(n回)に渡って繰り返し入力される。ここでnは任意の整数である。累算回路536は入力されたn個の変換値を累算して合計値を求め、除算回路537に出力する。除算回路537は、入力された合計値をnで割ることによって、変換値の平均値が算出され、レジスタ538に保持される。レジスタ538は変換値の最終的な補正値を保持する。
【0051】
nを2のべき乗に限定する場合は、除算回路537はビットシフト回路で構成され得る。この場合の平均化回路535の構成について
図7を用いて説明する。
図7は平均化回路の構成例を示すブロック図である。
【0052】
平均化回路535は、加算器(ADDR)536a、ビットシフト回路(SHFT)537aおよびレジスタ(RGST)538aから構成される。累算回路536は加算器536aおよびレジスタ538aにより構成される。レジスタ538aは内容をクリアする機能を有する。
【0053】
次に、本実施の形態におけるAD変換動作について
図5から
図8を用いて説明する。
図8は実施形態におけるAD変換器の動作の概要を示すフローチャートである。
【0054】
(サンプリング:P1)
AD変換を行う場合、まず、AD変換器50は、アナログ入力信号(AVin)をサンプリングする。サンプリング時、逐次比較制御信号の制御により、スイッチSN...S0は、すべてアナログ入力側を選択する。また、プリアンプ504aのスイッチはONのため、ノードNPは、プリアンプ504aの出力に接続される。この時、冗長DACの容量素子CRは、アナログ入力側を選択する。
【0055】
(一次逐次比較:P2)
続いて、サンプリングが終了すると、AD変換器50は、逐次比較動作を行う。サンプリングが終了すると、プリアンプ504aのスイッチがOFFとなり、ノードNPは、プリアンプ504aの出力から切り離される。そして、AD変換器50は逐次比較状態に遷移し、制御回路501が逐次比較制御信号を初期比較コードに制御し、スイッチSN...S0を初期比較コードに応じて切り替える。例えば、初期比較電圧を(VrefH-VrefL)/2から始める場合、スイッチSNがVrefH側、残りのスイッチSN-1...S0はVrefL側を選択する。この時、スイッチSRは参照電圧(VrefL)側を選択する。
【0056】
制御回路501は、ノードNPの電圧が基準電圧(Vcm)と一致するように逐次比較制御信号を順次制御し、比較器504がN回比較を行う。このように上位DACを使用してN回の比較を行うと、NビットのAD変換結果が得られる。このAD変換結果を上位レジスタ511に格納する。
【0057】
(冗長ビット逐次比較:P21、比較回数の判定:P22)
続いて、一次逐次比較が終了すると、比較器504の比較結果が(ノードNPの電圧<基準電圧(Vcm))を検知した場合は、制御回路501は逐次比較制御信号を切り替えて、スイッチSRの選択を第二参照電圧(Vrl)から第一参照電圧(Vrh)に遷移させる。また、比較器504の比較結果が(ノードNPの電圧>基準電圧(Vcm))を検知した場合は、制御回路501はスイッチSRの選択を第二参照電圧(Vrl)のままにし、冗長DACによる逐次比較をm回行う。
【0058】
(エラー訂正:P23)
m回冗長ビット逐次比較後に、該当ビットを出現回数で決定し、上位ビットレベルでの比較器のミス判定を補正する。詳細は後述する。
【0059】
(二次逐次比較:P3、比較回数の判定:P31)
冗長DACによるエラー訂正に続いて、容量素子C0に繋がる下位DAC502bによる逐次比較を行う。この逐次比較を二次逐次比較という。逐次比較制御信号により下位DAC502bの出力を(Vrh-Vrl)/2の値にする。制御回路501は、逐次比較制御信号を順次制御し、比較器504がM回比較を行う。このように下位DAC503を使用してM回の比較を行うと、MビットのAD変換結果が得られる。このAD変換結果を下位レジスタ513に格納する。そして、制御回路501は、下位レジスタ513の内容を平均化回路540の累算回路541に出力する。
【0060】
制御回路501は処理P3をn回繰り返す。その結果、累算回路521はn回のAD変換値を累算する。
【0061】
(平均化処理:P32)
平均化回路535の除算回路537は累算回路536により累算されたAD変換値を累算回数(n)で除算して平均値を算出してレジスタ538に格納する。平均化回路535は補正された変換値を逐次比較レジスタ539の下位ビットにマージする。
【0062】
次に、冗長DACがあると好ましい理由について説明する。比較例として、本実施の形態のような冗長DACを備えない構成を検討するその場合は次のような問題が生ずる。
【0063】
例えば、下位DACが3ビット(M=3)のAD変換におけるデジタルコードの遷移ケースを検討する。
図9は冗長DACを有さず、上位DACの最下位ビットのビット3が正しい比較例の場合のAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。
図10は冗長DACを有さず、上位DACの最下位ビットのビット3が間違った比較例の場合のAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。二次逐次比較(SC2)において四回平均処理が行われる場合で説明する。
【0064】
まず、一次逐次比較(SC1)の結果である、上位DACの最下位ビットが正しい場合について説明する。
図9に示すように、上位DACの最下位ビットであるビット3は「0」で正しいデータである。二次逐次比較(SC2)の1回目のビット2は「1」、ビット1は「1」、ビット0は「1」である。二次逐次比較(SC2)の2回目のビット2は「1」、ビット1は「1」、ビット0は「0」である。二次逐次比較(SC2)の3回目のビット2は「1」、ビット1は「0」、ビット0は「1」である。二次逐次比較(SC2)の4回目のビット2は「1」、ビット1は「1」、ビット0は「1」である。これを平均化して出力電位(Vout)を取得する。これにより、出力電位(Vout)はアナログ入力信号(AVin)と同等であり、理想の入力信号電位を取得することができる。
【0065】
次に、上位DACの最下位ビットが間違った場合について説明する。
図10に示すように、上位DACの最下位ビットであるビット3は「1」で間違ったデータである。二次逐次比較(SC2)の1回目のビット2は「0」、ビット1は「0」、ビット0は「0」である。二次逐次比較(SC2)の2回目のビット2は「0」、ビット1は「0」、ビット0は「1」である。二次逐次比較(SC2)の3回目のビット2は「0」、ビット1は「0」、ビット0は「0」である。二次逐次比較(SC2)の4回目のビット2は「0」、ビット1は「0」、ビット0は「0」である。これを平均化した入力信号電位(Vavr)を取得する。しかし、DACの最下位ビットが間違ったら、平均化しても、出力電位(Vout)はアナログ入力信号(AVin)に近づかず良くならない。
【0066】
図11は冗長DACを有する本実施の形態の場合のAD変換におけるデジタルコードの遷移を示す図である。
【0067】
一次逐次比較(SC1)における上位DACの最下位ビットに対し、冗長DACにより複数回判定を行い救済する。
図11に示すように、上位DACの最下位ビットであるビット3の1回目の判定は「1」、2回目の判定は「0」、3回目の判定は「1」、4回目の判定は「0」、5回目の判定は「0」である。「0」の判定は3回、「1」の判定は2回である。「0」または「1」の出現回数が多い方によりビット3のデータを確定する。本例では、「0」の出現回数が多いのでビット3のデータは「0」とする。このようにすることで上位DACの最下位ビットの間違いを低減する。
【0068】
その結果、二次逐次比較(SC2)は、
図9と同様に行われ、出力電位(Vout)はアナログ入力信号(AVin)と同等になり、理想の入力信号電位を取得することができる。したがって、冗長DACにより上位DACの最下位ビットを補正するのが好ましい。
【0069】
本実施形態の効果について
図4、8、12を用いて説明する。
図12は比較例と実施形形態の変換動作時間を説明する図である。
【0070】
比較例では、
図4に示すように、AD変換の高精度結果を得るために、サンプリング、一次逐次比較および二次逐次比較を所定回数(n回)行って平均化処理を行う。これに対し、本実施形態では、
図8に示すように、下位ビットを決定する二次逐次比較動作のみ繰り返し動作を行う。さらに、一次逐次比較の後に、m回冗長ビット逐次比較を実行し、該当ビットを出現回数で決定し、上位ビットレベルでのコンパレータのミス判定を補正する。本実施形態では、2回目以降のAD変換で、サンプリングの期間、一次逐次比較の期間、冗長ビット逐次比較の期間を省略することで、平均化処理のAD変換動作時間を大幅短縮することができる。ここで、下位ビット側(二次逐次比較)に対してのみ平均化処理を行っているため、サンプリング誤差、DACのシステマティックバラツキは残っているが、二次逐次比較側のコンパレータの誤判定や電源ラインの電圧変動による誤判定を極力抑えることができる。
【0071】
ここで、サンプリングの期間をt1、一次逐次比較の期間をt2、二次逐次比較の期間をt3、冗長ビット逐次比較の期間をt4、n回平均のAD変換動作時間をtとすると、tは次の式(2)で表される。
t=t1+t2+t4+n*t3 ・・・(2)
【0072】
例えば、
図12に示すように、連続してAD変換が可能なAD変換器を使って、AD変換を4回実施して、その平均をとる方式を例とする。
【0073】
比較例では、上記の式(1)より、AD変換動作時間(t)は、
t=4*(P1の期間(t1)+P2の期間(t2)+P3の期間(t3))
となる。
【0074】
実施形態では、上記の式(2)より、AD変換動作時間(t)は、
t=P1の期間(t1)+P2の期間(t2)+P4の期間(t4)
+4*(P3の期間(t3))
となる。
図12に示すように、実施形態は比較例よりも変換動作時間を短くすることができる。
【0075】
より具体的な他の例について説明する。例えば、n=16、t1=15(サイクル)、t2=10(サイクル)、t4=3(サイクル)、t3=7(サイクル)とすると、
比較例では、上記の式(1)より、t=560(サイクル)、
実施形態では、上記の式(2)より、t=140(サイクル)
となる。実施形態の変換動作時間は比較例の変換動作時間の1/4になる。
【0076】
以上、本開示者らによってなされた開示を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0077】
8 アナログポート
50 AD変換器
502a 上位DAC
502b 下位DAC
504 比較器
501 制御回路
530 補正回路
531 エラーコレクション回路
535 平均化回路