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特開2023-70652流体カートリッジおよび吐出ヘッドチップの機械的応力を除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070652
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】流体カートリッジおよび吐出ヘッドチップの機械的応力を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20230512BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20230512BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230512BHJP
   B81C 3/00 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
B41J2/175 169
B81B1/00
B41J2/175 113
B41J2/175 119
B41J2/01 307
B81C3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175181
(22)【出願日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】17/454,130
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000201113
【氏名又は名称】船井電機・ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【弁理士】
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【弁理士】
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 昌己
(72)【発明者】
【氏名】ワーナー・リチャード エル.
(72)【発明者】
【氏名】ウィーバー・ショーン ティー.
【テーマコード(参考)】
2C056
3C081
【Fターム(参考)】
2C056HA07
2C056KC01
2C056KC21
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA03
3C081BA22
3C081BA23
3C081BA29
3C081BA55
3C081CA05
3C081CA18
3C081CA32
3C081CA35
3C081CA36
3C081DA03
3C081DA10
3C081DA11
3C081EA34
(57)【要約】
【課題】様々な流体を吐出するために使用されるカートリッジ本体の寸法安定性を改善した流体供給カートリッジを提供する。
【解決手段】流体カートリッジは、プラスチック流体本体およびその中に流体供給開口を有する底壁を有する。金属インサートは、底壁に貼着される。金属インサートは、底壁内の流体供給開口に対応する流体供給スロット、吐出ヘッドチップを貼着するための流体供給スロットに隣接するダイボンド面、およびダイボンド面に隣接する複数のエアベントを有する。吐出ヘッドチップは、金属インサートのダイボンド面に貼着される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体供給開口を有する底壁を有するプラスチック流体本体と、
前記底壁に貼着され、前記底壁内の前記流体供給開口に対応する流体供給スロット、吐出ヘッドチップを貼着するための前記流体供給スロットに隣接するダイボンド面、および前記ダイボンド面に隣接する複数のエアベントを有する金属インサートと、
前記金属インサートの前記ダイボンド面に貼着された吐出ヘッドチップと、
を有する流体カートリッジ。
【請求項2】
前記金属インサートが、スタンピング、機械加工、または成形された金属インサートである請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項3】
前記金属インサートが、アルミニウムまたはステンレス鋼を含む請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項4】
前記金属インサートが、陽極酸化アルミニウムを含む請求項3に記載の流体カートリッジ。
【請求項5】
前記金属インサートが、さらに、前記ダイボンド面にスタンピングされたチップポケットを含み、その中に前記吐出ヘッドチップを貼着した請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項6】
前記チップポケットが、さらに、前記流体供給スロットに外接するレーストラックを含む請求項5に記載の流体カートリッジ。
【請求項7】
前記金属インサートが、さらに、前記チップポケットと前記エアベントの間にダイボンド接着剤のためのデッキ領域を含み、前記ダイボンド接着剤が、前記金属インサートおよび腐食性流体からフレキシブル回路の裏側を電気的および化学的に隔離するのに効果的である請求項5に記載の流体カートリッジ。
【請求項8】
前記金属インサートが、約1.5~約4mmの範囲の厚さを有する請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項9】
前記底壁から直角に延伸する少なくとも2つのガイドピンをさらに含む請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項10】
前記金属インサートが、さらに、前記少なくとも2つのガイドピンに対応する開口部を含み、前記プラスチック流体本体の前記底壁に前記金属インサートを配置する請求項9に記載の流体カートリッジ。
【請求項11】
前記吐出ヘッドチップに電気接続されたフレキシブル回路をさらに含む請求項1に記載の流体カートリッジ。
【請求項12】
吐出ヘッドチップの機械的応力を除去する方法であって、
流体供給開口を有する底壁を有するプラスチック流体本体を含む流体カートリッジを提供することと、
前記底壁内の前記流体供給開口に対応する流体供給スロット、吐出ヘッドチップを貼着するための前記流体供給スロットに隣接するダイボンド面、および前記ダイボンド面に隣接する複数のエアベントを有する金属インサートを前記底壁に貼着することと、
前記金属インサートの前記ダイボンド面に吐出ヘッドチップを貼着することと、
前記吐出ヘッドチップにフレキシブル回路を電気接続することと、
を含む方法。
【請求項13】
前記金属インサートが、スタンピングされた金属インサートである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属インサートが、アルミニウムまたはステンレス鋼を含み、さらに、前記金属インサートを不活性コーティングで塗布して、前記吐出ヘッドチップによって吐出された流体から固体の凝集を防ぐことを含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記金属インサートが、前記流体供給スロットに外接するレーストラックを有するスタンピングされたチップポケットを前記ダイボンド面に含み、さらに、前記チップポケット内にダイボンド接着剤を塗布して、前記チップポケット内の前記金属インサートに前記吐出ヘッドチップを貼着することを含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記金属インサートが、前記チップポケットと前記エアベントの間にデッキ領域を含み、さらに、前記デッキ領域にダイボンド接着剤を塗布して、前記金属インサートおよび腐食性流体から前記フレキシブル回路の裏側を電気的および化学的に隔離することを含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
約1.5~約4mmの範囲の厚さを有するアルミニウムまたはステンレス鋼から前記金属インサートをスタンピングすることをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2つのガイドピンを成形し、前記プラスチック流体本体の前記底壁から直角に延伸することをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも2つのガイドピンに対応する開口部を前記金属インサート内に提供することと、前記少なくとも2つのガイドピンおよび開口部を使用して、前記プラスチック流体本体の前記底壁に前記金属インサートを配置することと、をさらに含む請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体吐出デバイスに用いる流体供給カートリッジに関するものであり、特に、様々な流体を吐出するために使用されるカートリッジ本体の寸法安定性を改善した流体供給カートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の流体カートリッジ本体は、一般的に、ダイボンド接着剤を用いて吐出ヘッドチップに直接貼り付けた1つまたはそれ以上のプラスチック材料で構成される。しかしながら、インクおよび他の商工業アプリケーション用の流体吐出カートリッジに溶剤系の流体を使用すると、プラスチック材料を膨張させる可能性がある。カートリッジ本体のプラスチック材料が膨張することによって、吐出ヘッドチップのシリコンにかかる機械的応力が増え、チップにひびが入る。また、プラスチックカートリッジ本体と吐出ヘッドチップの間の熱膨張係数(coefficient of thermal expansion, CTE)のミスマッチによって、ダイボンド接着剤を熱硬化している間にカートリッジ本体が膨張する。カートリッジ本体の樹脂材料は、ダイボンド硬化工程の間、約3~5%膨張することがある。樹脂の膨張によって、吐出ヘッドチップ全体が4週間にわたってY方向に-5μm~>40μmの範囲で湾曲する可能性がある。深掘り反応性イオンエッチング(deep reactive ion etching, DRIE)またはシリコンウェハから吐出ヘッドチップをダイシングすることによって発生した吐出ヘッドチップの不良や欠陥は、さらなる応力集中領域を提供するため、プラスチックカートリッジ本体に取り付ける時に吐出ヘッドチップにひびが入る可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、吐出ヘッドチップの熱または機械膨張係数に類似する熱または機械膨張係数を有する寸法安定面に吐出ヘッドチップを貼り付ける必要がある。また、プラスチック材料を膨張させる流体と使用する際に、化学的に安定した吐出ヘッドチップ接合面が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上を考慮して、本発明は、プラスチック流体本体およびその中に流体供給開口を有する底壁を有する流体カートリッジ提供する。金属インサートは、底壁に貼着(adhesively attach)される。金属インサートは、底壁内の流体供給開口に対応する流体供給スロット、吐出ヘッドチップを貼着するための流体供給スロットに隣接するダイボンド面、およびダイボンド面に隣接する複数のエアベント(air vent)を有する。吐出ヘッドチップは、金属インサートのダイボンド面に貼着される。
【0005】
別の実施形態において、吐出ヘッドチップの機械的応力を除去する方法を提供する。この方法は、プラスチック流体本体およびその中に流体供給開口を有する底壁を有する流体カートリッジを提供することを含む。底壁に金属インサートを貼着し、金属インサートは、底壁内の流体供給開口に対応する流体供給スロット、吐出ヘッドチップを貼着するための流体供給スロットに隣接するダイボンド面、およびダイボンド面に隣接する複数のエアベントを有する。金属インサートのダイボンド面に吐出ヘッドチップを貼着する。吐出ヘッドチップにフレキシブル回路を電気接続する。
【0006】
いくつかの実施形態において、金属インサートは、機械加工、成形、またはスタンピングされた金属インサートである。
【0007】
いくつかの実施形態において、金属インサートは、アルミニウムまたはステンレス鋼で作られる。別の実施形態において、金属インサートは、陽極酸化アルミニウム(anodized aluminum)で作られる。
【0008】
いくつかの実施形態において、金属インサートは、ダイボンド面にスタンピングされたチップポケットを有し、その中に吐出ヘッドチップを貼着する。別の実施形態において、チップポケットは、流体供給スロットに外接(circumscribe)するレーストラックを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、金属インサートは、チップポケットとエアベントの間にダイボンド接着剤のためのデッキ(deck)領域を含み、前記ダイボンド接着剤が、金属インサートおよび腐食性流体からフレキシブル回路の裏側を電気的および化学的に隔離するのに効果的である。
【0010】
いくつかの実施形態において、金属インサートは、約1.5~約4mmの範囲の厚さを有する。
【0011】
いくつかの実施形態において、流体カートリッジは、底壁から直角に延伸する少なくとも2つのガイドピンを含む。別の実施形態において、金属インサートは、少なくとも2つのガイドピンに対応する開口部(aperture)を有し、プラスチック流体本体の底壁に金属インサートを配置する。
【0012】
いくつかの実施形態において、フレキシブル回路は、吐出ヘッドチップに電気接続される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態の予期されない利点は、吐出ヘッドチップとプラスチック流体本体(カートリッジ本体ともいう)の底壁の間に金属インサートを使用した場合、ダイボンド接着剤を硬化した後も吐出ヘッドチップの平坦性を維持できることである。金属インサートを使用しなかった場合、吐出ヘッドチップは、ダイボンド接着剤の硬化中に湾曲し、吐出ヘッドから吐出された液滴を正確に配置することができない。本発明の実施形態の別の利点は、プラスチックカートリッジ本体の樹脂の膨張による吐出ヘッドチップの割れを引き起こすことなく、幅広い種類の流体を流体カートリッジおよび吐出ヘッドに使用できることである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付図面は、本発明の原理がさらに理解されるために含まれており、本明細書に組み込まれ、且つその一部を構成するものである。図面は、本発明の実施形態を例示しており、説明とともに、本発明の原理を説明する役割を果たしている。
図1】本発明に係る流体カートリッジの斜視底面図である。
図2図1の流体カートリッジの底壁の細部を示す流体カートリッジの一部の平面底面図である。
図3図1の流体カートリッジおよびそれに用いる金属インサートの部分的斜視図である。
図4】本発明の1つの実施形態に係る図1の流体カートリッジに用いる金属インサートの上側の平面図である。
図5図1の流体カートリッジに用いる吐出ヘッドチップの縮尺ではない平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照すると、図1は、本発明の1つの実施形態に係る流体カートリッジ10の拡大された底面図である。流体カートリッジ10は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン等の高分子熱可塑性樹脂で作られたプラスチックカートリッジ本体(プラスチック流体本体ともいう)12を含む。図2~3に示すように、カートリッジ本体12の底壁14は、流体供給開口16を含み、カートリッジ本体12からフレキシブル回路20に電気的に貼り付けられた吐出ヘッドチップ18に流体を提供する。流体フィルタ22は、フィルタタワー構造のカートリッジ本体12内に提供され、吐出ヘッドチップ18に流入する流体をフィルタリングする。
【0016】
本発明の1つの実施形態に基づき、第1接着剤26を用いてカートリッジ本体12の底壁14に金属インサート24を貼り付ける。第2接着剤28を用いて金属インサート24にフレキシブル回路20を接合し、同時に、フレキシブル回路20のリードビーム(lead beam)から金属インサートを隔離する。金属インサート24は、全体の厚さが約1.5~約4mmの範囲であり、一般的に、約1.75~約2.5mmの範囲である。金属インサート24の長さLは、約18~約25mmの範囲であってもよく、金属インサート24の幅Wは、約12~約14mmの範囲であってもよい。特に適切な金属インサート24は、アルミニウムおよびステンレス鋼から選択される金属から形成された機械加工、成形、またはスタンピングされた金属インサートである。アルミニウムは、陽極酸化アルミニウムであってもよく、または、金属インサートは、不活性コーティングを含み、吐出ヘッドチップ18によって吐出された流体から固体の凝集を防ぐことができる。
【0017】
カートリッジ本体12の底壁14は、また、少なくとも2つのガイドピン30Aおよび30Bを含み、金属インサート24を案内してカートリッジ本体12の底壁14の上に配置する。図4に示すように、金属インサート24は、カートリッジ本体12の底壁14上のガイドピンの位置に対応する開口部32Aおよび32Bを含み、図1および図3に示すように、カートリッジ本体12の底壁14に金属インサート24を配置しやすくすることができる。
【0018】
カートリッジ本体12の底壁14の別の特徴は、カートリッジ本体12の底壁14に金属インサート24を貼り付けるための略平面を提供する平坦化パッド34A~34Cである。平坦化パッド34A~34Cは、金属インサート24を貼着する平坦面を提供するためにカートリッジ本体12の底壁14に成形された、または機械加工された隆起パッドであってもよい。
【0019】
カートリッジ本体12の底壁14に金属インサート24を貼り付けるために使用される第1接着剤26は、カートリッジ本体12を作るために使用された樹脂と互換性のある熱硬化型エポキシ接着剤であってもよい。金属インサート24と底壁14の間の接着を強化するため、金属インサート24の下側36を水、イソプロピルアルコール、またはシランで清浄し、処理してもよい。また、下側36に空気または酸化アルミニウムの高圧スチームを噴き当てて、接着を強化してもよい。同様に、カートリッジ本体の底壁14をシランコーティング等の接着強化コーティングでコーティングしてもよい。
【0020】
金属インサート24がカートリッジ本体の底壁14に貼着されると、ダイボンド接着剤を使用して、金属インサート24に吐出ヘッドチップ18を貼着することができる。従来の吐出ヘッドチップ18は、図5に示すように、流路44および光画像形成された流体チャンバ46を有するフォトレジスト材料で作られた流れ特徴層42を含むシリコン半導体基板40を含む。半導体基板40を介して流体供給ビア48をエッチングして、流れ特徴層42内に画像化し、流路44および流体チャンバ46に流体を提供する。各流体チャンバ46は、抵抗器ヒーターまたは圧電素子から選択される流体吐出デバイス50を含み、流れ特徴層42に貼り付けられたノズルプレート54内の関連したノズル孔を介して流体チャンバ46から流体を吐出する。吐出ヘッドチップ18内の流体供給ビア48は、吐出ヘッドチップ18の流体吐出デバイス50に流体を提供するために、金属インサート24内の流体供給スロット56と精密に並んでいなければならないため、金属インサート24内にチップポケット58を提供し(図3)、チップポケット58内の金属インサート24に吐出ヘッドチップ18を貼着する。チップポケット58は、ダイボンド接着剤に多少の密閉領域を提供する金属インサート24内の凹部である。金属インサート24内の流体供給スロット56は、約14.8mm~約15.6mmの範囲の長さ、および約1.5~約2.0mmの範囲の幅を有する。
【0021】
フレキシブル回路20は、吐出ヘッドチップ18上の流体イジェクタ50と流体イジェクタ50の制御起動装置を接続するために使用され、吐出ヘッドチップ18を取り囲み、予備形成感圧接着剤(pre-form pressure sensitive adhesive)としても知られている第2接着剤28を使用して金属インサート24に固定される。フレキシブル回路20は、そこから延伸して吐出ヘッドチップ18の半導体基板40上の接合パッド(図示せず)と電気接続する複数のビームを含む。チップポケット58に吐出ヘッドチップ18を配置した後、吐出ヘッドチップ18にフレキシブル回路20を貼り付け、吐出ヘッドチップ18の側面に沿って、ビーム上に、紫外線(UV)感光性接着剤を封止剤および保護剤として塗布し、金属インサート24による短絡および吐出ヘッドチップ18により吐出された流体から腐食を防ぐ。UV接着剤に光源を照射して、UV接着剤を硬化する。しかしながら、ビームの周辺および後方に流れるUV接着剤の一部は、照射されたUV光源に露出されないため、硬化しない。
【0022】
流体カートリッジ10が完全に組み立てられると、流体カートリッジ10をオーブンに入れ、ダイボンド接着剤を上昇させた温度で硬化して、金属インサート24に吐出ヘッドチップ18を永久に貼り付ける。硬化プロセスの間、接着剤は、接着剤の中にガス気泡を形成するガスを生成する可能性がある。硬化プロセスが完了した後、ガスの一部は、残留ガス気泡として接着剤の中に封入されたままになる可能性がある。このようなガス気泡は、接着剤の中に残った隙間により、吐出ヘッドチップ18と金属インサート24の間の接着強度に影響を与える可能性がある。また、他のガス気泡は、上昇した硬化温度で膨張し、および/または隣接するガス気泡と結合し、接着剤の中に通路や流路を形成する可能性がある。このような現象は、「ダイボンドチャネリング(die bond channeling)」として知られており、金属インサート24内の流体供給スロット56から周囲環境に延伸する流路になり、流体カートリッジアセンブリから周囲環境に流体を漏洩させる可能性がある。あるいは、マルチ流体カートリッジアセンブリの場合、接着剤の中に形成された流路によって、カートリッジ本体12内の異なる流体間で二次汚染(cross-contamination)が発生する可能性がある。
【0023】
続いて、ダイボンド接着剤を硬化するために使用される加熱プロセスによって、硬化されなかったUVまたは熱硬化型エポキシ接着剤を硬化および/または揮発する。熱硬化プロセスの間、UVおよび/または熱硬化型エポキシ接着剤もガスを発生させる可能性がある。吐出ヘッドチップ18の各側のビーム上に置かれるUVおよび/または熱硬化型エポキシ接着剤は、前もって硬化されており、フレキシブル回路20は、金属インサート24に貼り付けられて、吐出ヘッドチップ18を取り囲んでいるため、熱硬化プロセスの間に発生したガスが膨張して(増加した温度により)、ダイボンド接着剤およびUV接着剤を介して金属インサート24内の流体供給スロット56に向かって流れ込み、流体供給カートリッジから周囲環境に流体を漏洩させる流路を生成する可能性がある。
【0024】
したがって、金属インサート24は、チップポケット58に隣接する少なくとも1つのエアベント(air vent)、好ましくは、複数のエアベントによって構成され、硬化プロセス中にダイボンド接着剤および/またはUV接着剤から空気が逃げるようにする。再度図4を参照すると、金属インサート24は、チップポケット58に隣接する複数の溝60および62を含み、チップポケット58から周囲環境に空気流連通(air flow communication)を提供する。溝60は、1つまたはそれ以上の縦溝(縦軸64に沿ってチップポケット58の縦方向に対して実質的に平行に延伸する)を定義し、溝62は、チップポケット58と縦溝60の間に延伸する1つまたはそれ以上の横溝を定義する。縦溝60は、周囲環境に隣接して配置された辺縁部66および68に延伸する。金属インサート24の辺縁部66および68において周囲環境と流体流通している縦溝60および72、横溝62の組み合わせは、金属インサート24に複数のエアベントを提供する。溝60、62、および72を介してチップポケット58から辺縁部66および68に流れる空気流の例を矢印80および82で示す。
【0025】
溝は、参照文字W1、S、およびL1によって示される大きさに対応する寸法を有する。寸法W1は、好ましくは、0.15~0.75mmの間であり、より好ましくは、0.2~0.3mmの間である。寸法Sは、好ましくは、0.75~2.5mmの間であり、より好ましくは、1~2mmの間である。寸法L1は、好ましくは、1.0~4.0mmの間であり、より好ましくは、1.5~2.5mmの間である。さらに、溝60および62は、深さ(好ましくは、図4の図に対して実質的に垂直)を有し、好ましくは、0.1~0.5mmの間であり、より好ましくは、0.25~0.35mmの間である。隆起したレーストラック70は、約0.04~約0.1mmの範囲の高さおよび約0.15~約0.5mmの範囲の幅を有し、流体供給スロット56に外接して、チップポケット58に塗布されたダイボンド接着剤が流体供給スロット56に流れ込むのを防ぐ。幅W1を有する内部縦溝72は、チップポケット58と隆起した構造74の間に提供され、チップポケット58に相対する隆起した接着面が、フレキシブル回路20のリードビームの裏側をコーティングし、フレキシブル回路20と金属インサート24の間の短絡を防ぐ、ダイボンドおよび/またはUV接着剤によって提供される。
【0026】
ダイボンド接着剤および/またはUV接着剤の熱硬化プロセスの間、発生したガスは、横溝62から縦溝60および72に向かって流れ、流体供給スロット56に向かって内側に流れるのではなく、金属インサートの辺縁部66および68において周囲環境の外に流れ出す。したがって、溝60、62、および72を含む金属インサート24を使用することによって、接着剤の中に空気流路が生じるのを防ぐ。
【0027】
プラスチックカートリッジ本体12ではなく金属インサート24に接合された吐出ヘッドチップ18を有する場合の利点は、金属インサート24が吐出ヘッドチップ18に対して機械的に安定した面を提供することによって、プラスチックカートリッジ本体12の膨張や歪みを吐出ヘッドチップ18から隔離できることである。したがって、上述したように、金属インサートを有する流体カートリッッジ10を用いて、カートリッジ本体12の樹脂を膨張させる可能性のある有機流体を含む幅広い種類の流体を吐出することができる。いくつかの実施形態において、金属インサート24を使用する時、金属インサート24は、ヒートシンクを提供して、流体吐出の間に吐出ヘッドチップ18を冷却してもよい。
【0028】
上述した実施形態は、具体的に、金属インサートに関するものであるが、他の寸法安定性材料、例えば、セラミックおよび炭素繊維強化ポリマー(carbon fiber reinforced polymer)等をインサートとして使用してもよい。このような代替の材料も上述したベントを用いて形成され、熱硬化サイクルの間に空気流路が接合接着剤の中に形成されるのを防ぐことができる。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、その内容が明確に他の意味であることを示していない限り、複数の指示対象物を含むことを注記しなければならない。ここで使用する場合、用語「含む(include)」およびその文法上の変形は、リスト内で項目を記述することが、リストされた項目に置換または追加され得る他の同様の項目を除外するなど、限定することを意図したものではない。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、他に示さない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される量、パーセンテージ、または割合、および他の数値を表わす全ての数字は、全ての場合において用語「約(about)」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、特にそうではないことが示されない限り、前述の明細書および添付の実施形態の一覧に記載される数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者により得ることが求められる所望の特性に応じて変動し得る。最低限でも、また特許請求される実施形態の範囲への均等物の原則の適用を限定する試行としてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、および通常の概算方法を適用することによって、解釈されるべきである。
【0031】
特定の実施形態を記述してきたが、現在予期しないか、または予期することができない代替、修飾形、変形、改良物、および実質的な相当物が、本出願者または他の当業者に思い浮かぶ可能性がある。したがって、出願した、および補正を行うことが可能な添付の特許請求の範囲にそのような代替、修飾形、変形、改良物、および実質的な相当物の全部を包含させることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5