(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007070
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】電波伝搬シミュレーションシステム及び電波伝搬モデルの作成方法
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20230111BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20230111BHJP
H04W 24/04 20090101ALI20230111BHJP
G09B 29/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
H04W16/18
G06F30/20
H04W24/04
G09B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110080
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 正己
(72)【発明者】
【氏名】藤原 亮介
(72)【発明者】
【氏名】武井 健
【テーマコード(参考)】
2C032
5B146
5K067
【Fターム(参考)】
2C032HB05
2C032HC23
5B146DJ04
5B146DJ11
5B146EA02
5B146EA18
5K067AA21
5K067DD41
5K067LL08
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】サイバー空間における電波伝搬モデルを用いて無線環境を高精度にシミュレーションする。
【解決手段】電波伝搬シミュレーションシステムであって、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、前記演算装置の演算処理によって電波伝搬モデルを作成するモデル作成部を有し、前記モデル作成部は、構造物の一面を模擬する複数の面を作成し、前記作成される面の各々の属性として、当該面の向きを表す単位法線ベクトルを定義し、前記作成された面によって構成される電波伝搬モデルを作成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波伝搬シミュレーションシステムであって、
所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、
前記演算装置の演算処理によって電波伝搬モデルを作成するモデル作成部を有し、
前記モデル作成部は、
構造物の一面を模擬する複数の面を作成し、
前記作成される面の各々の属性として、当該面の向きを表す単位法線ベクトルを定義し、
前記作成された面によって構成される電波伝搬モデルを作成することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の属性として、各面の面積を、所定の面積より小さくなるように定めることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、シミュレーションで用いられる電波の波長をλとして、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の属性として、各面の面積を、一辺がλ/4の正方形の面積より小さくなるように定めることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の属性として、各面の位置を定めることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の属性として、各面の反射率を定めることを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項6】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、シミュレーションを行う空間で測定された点群データから、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面を作成することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項7】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
前記モデル作成部は、シミュレーションを行う空間の形状データから、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面を作成することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の電波伝搬シミュレーションシステムであって、
実際の電磁界測定結果を用いて、前記作成された電波伝搬モデルを更新するモデル適正化部を有し、
前記モデル適正化部は、
前記作成された電波伝搬モデルを用いて電磁界特性を計算し、
実際の電磁界測定結果と前記電磁界特性の計算結果の差が小さくなるように、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の各々の属性を変更して、前記電波伝搬モデルを更新することを特徴とする電波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項9】
電波伝搬シミュレーションシステムが実行する電波伝搬モデルの作成方法であって、
電波伝搬シミュレーションシステムは、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、
前記電波伝搬モデルの作成方法は、
前記演算装置が、構造物の一面を分割した複数の面を作成し、
前記演算装置が、前記作成される面の各々の属性として、当該面の向きを表す単位法線ベクトルを定義し、
前記演算装置が、前記作成された面によって構成される電波伝搬モデルを作成することを特徴とする電波伝搬モデルの作成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電波伝搬モデルの作成方法であって、
前記演算装置が、前記作成された電波伝搬モデルを用いて電磁界特性を計算し、
前記演算装置が、実際の電磁界測定結果と前記電磁界特性の計算結果の差が小さくなるように、前記電波伝搬モデルを構成する複数の面の各々の属性を変更して、前記電波伝搬モデルを更新することを特徴とする電波伝搬モデルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬シミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Local 5GやBeyond5Gなど公衆通信の技術を用いた自営通信が普及し始めている。これらの通信方式は、従来使われてきた無線LANなどの無線通信方式より通信品質を保証でき、高いセキュリティを実現できる利点がある。その利点を活かした使用方法の1例として、工場などの生産現場における機器の制御信号や、センサが取得したデータの無線伝送がある。このような使用形態では、ミッションクリティカルなシステムが導入され、運用の高度化が必要となる。
【0003】
高周波帯を使う5GやBeyond5Gでは、安定動作のためのシステム構築工数が大きくなり、無線環境変化による通信遮断の復旧時間が長くなる。このため、高周波帯でも電波環境のサイバー空間上における適切な再現が必要となる。
【0004】
本技術分野の背景技術として、以下の先行技術がある。特許文献1(特開2005-72654号公報)には、移動体を使用して作成した三次元モデルを用いて電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置であって、移動体を使用して取得した各対象物を複数の点で表す三次元点群データにおける各点の結線データを移動体の進行方向を基に作成することで複数のポリゴンを作成し、作成した複数のポリゴンから三次元モデルを作成する三次元モデル作成部と、三次元モデル作成部20により作成される三次元モデルに基づいて受信点に到達する電波の伝搬路を幾何学的に算定することで電界強度を算定する電波伝搬シミュレーション部とを備えることを特徴とする電波伝搬シミュレーション装置が記載されている(要約参照)。
【0005】
また、特許文献2(特開2015-80061号公報)には、対象エリアの解析用数値モデルを作成し、当該解析用数値モデルを用いて前記対象エリアの電波伝搬特性を予測する無線ネットワーク置局設計装置であって、前記対象エリアを複数の方向から撮影した画像データと、当該画像データの撮影条件とから、前記対象エリアの構造物の特徴を抽出する画像処理装置と、前記構造物の特徴に基づいて、前記解析用数値モデルのデータを作成する解析用数値モデル作成装置と、前記解析用数値モデルのデータと、前記対象エリアに設置された無線機の電波放射条件と設置条件とを示す無線機条件から、電磁界解析を行って、前記対象エリアの電波伝搬特性を示す前記無線機の受信電力を計算する受信電力解析装置とを備えた無線ネットワーク置局設計装置が記載されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-72654号公報
【特許文献2】特開2015-80061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイバー空間において電波伝搬モデルを用いて無線環境をシミュレーションする際に、従来のレイトレーシング用三次元モデルは、面を構成するメッシュのパラメータに自由度がなく実測値の再現性が低かった。また、現実の物理寸法に合わせるモデル作成するため、点群から面の作成時間が大きかった。
【0008】
本発明は、サイバー空間における電波伝搬モデルを用いて無線環境を高精度にシミュレーションすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、電波伝搬シミュレーションシステムであって、所定の演算処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶デバイスとを有する計算機によって構成され、前記演算装置の演算処理によって電波伝搬モデルを作成するモデル作成部を有し、前記モデル作成部は、構造物の一面を模擬する複数の面を作成し、前記作成される面の各々の属性として、当該面の向きを表す単位法線ベクトルを定義し、前記作成された面によって構成される電波伝搬モデルを作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、電波伝搬シミュレーション精度を向上できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例の電波伝搬シミュレーションシステムの物理的な構成を示す図である。
【
図2】本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムの論理的な構成を示す図である。
【
図3】本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムによる処理の全体を示す図である。
【
図4】本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムによる処理のフローチャートである。
【
図7】従来の電波伝搬モデルによる電波伝搬シミュレーションを示す図である。
【
図8】本実施例の電波伝搬モデルによる電波伝搬シミュレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施例の電波伝搬シミュレーションシステムの物理的な構成を示す図である。
【0013】
本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムは、プロセッサ(CPU)1、メモリ2、チップセット3、グラフィック用GPU4、計算用GPU5、光ディスクドライブ(OPT Drive)6、補助記憶装置(HDD、SSD)7、入出力インタフェース(USB)8及び通信インターフェース(LAN)9を有する計算機によって構成される。
【0014】
プロセッサ1は、メモリ2に格納されたプログラムを実行する演算装置である。プロセッサ1が、各種プログラムを実行することによって、電波伝搬シミュレーションシステムの各機能部(例えば、モデル作成部11、モデル適正化部12、シミュレーション部13など)が実現される。なお、プロセッサ1がプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、ASIC、FPGA等のハードウェア)で実行してもよい。
【0015】
メモリ2は、不揮発性の記憶素子であるROM及び揮発性の記憶素子であるRAMを含む。ROMは、不変のプログラム(例えば、BIOS)などを格納する。RAMは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような高速かつ揮発性の記憶素子であり、プロセッサ1が実行するプログラム及びプログラムの実行時に使用されるデータを一時的に格納する。
【0016】
チップセット3は、プロセッサ1、メモリ2等の計算機の構成を接続するバスを構成する回路である。グラフィック用GPU4及び計算用GPU5は、三次元グラフィックスなどの画像描写や、特定の計算処理に適したプロセッサである。光ディスクドライブ6は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray Disc)等の光ディスクのデータを入出力するための装置である(Blu-rayは登録商標)。
【0017】
補助記憶装置7は、例えば、磁気記憶装置(HDD)、フラッシュメモリ(SSD)等の大容量かつ不揮発性の記憶装置である。また、補助記憶装置7は、プロセッサ1がプログラムの実行時に使用するデータ(例えば、外部情報21、測定情報22、モデル情報23など)、及びプロセッサ1が実行するプログラムを格納する。すなわち、プログラムは、補助記憶装置7から読み出されて、メモリ2にロードされて、プロセッサ1によって実行されることによって、電波伝搬シミュレーションシステムの各機能を実現する。
【0018】
入出力インターフェース8は、キーボードやマウスなどの入力装置及びディスプレイ装置やプリンタなどの出力装置が接続され、オペレータからの入力を受け、プログラムの実行結果をオペレータが視認可能な形式で出力するインターフェースである。なお、電波伝搬シミュレーションシステムにネットワークを介して接続されたユーザ端末が入力装置及び出力装置を提供してもよい。この場合、電波伝搬シミュレーションシステムがウェブサーバの機能を有し、ユーザ端末が電波伝搬シミュレーションシステムに所定のプロトコル(例えばhttp)でアクセスしてもよい。
【0019】
通信インターフェース9は、所定のプロトコルに従って、他の装置との通信を制御するネットワークインターフェース装置である。
【0020】
プロセッサ1や各種GPU4、5が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介して電波伝搬シミュレーションシステムに提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の補助記憶装置7に格納される。このため、電波伝搬シミュレーションシステムは、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェース(例えば、光ディスクドライブ6)を有するとよい。
【0021】
電波伝搬シミュレーションシステムは、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作してもよい。例えば、モデル作成部11、モデル適正化部12及びシミュレーション部13は、各々別個の物理的又は論理的計算機上で動作するものでも、複数が組み合わされて一つの物理的又は論理的計算機上で動作するものでもよい。
【0022】
図2は、本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムの論理的な構成を示す図であり、
図3は、本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムによる処理の全体を示す図である。
【0023】
本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムは、モデル作成部11、モデル適正化部12及びシミュレーション部13を有する。また、電波伝搬シミュレーションシステムは、外部情報21、測定情報22及びモデル情報23を、補助記憶装置7に格納する。
【0024】
モデル作成部11は、外部情報21を構成する三次元データからメッシュによって表される電波伝搬モデルを作成して、モデル情報23として格納する(100)。電波伝搬モデルは、三次元モデルであって、構造物の面は所定の大きさに区切られた面であるメッシュによって構成される。メッシュの形状は、
図5に示す四角形でも、
図6に示す三角形でもよい。モデル適正化部12は、実際の電磁界測定結果である測定情報22を用いて、モデル作成部11が作成した電波伝搬モデルを更新する(200)。シミュレーション部13は、更新された電波伝搬モデルを用いて空間の電波伝搬を解析するシミュレータである(300)。
【0025】
外部情報21は、電波伝搬シミュレーションを行う空間の形状を表す三次元データ、及びシミュレーションや電磁界測定を行う周波数(波長)のデータを含む。三次元データは、LiDARなどのレーザセンサが三次元スキャンして得られた点群データや、ステレオカメラが撮影し、距離情報を含む距離画像や、CADデータから作成された三次元モデルデータである。面データは、点群データから作成された三次元モデルデータでもよい。測定情報22は、電波伝搬シミュレーションを行う空間で実際の電磁界測定結果である。モデル情報23は、モデル作成部11が作成し、モデル適正化部12が更新した電波伝搬モデルである。
【0026】
図4は、本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムによる処理のフローチャートである。
【0027】
まず、モデル作成部11は、外部情報21から点群データを取得する(101)。そして、モデル作成部11は、取得した点群データから不必要な点群(例えば、位置が大きくずれたノイズ)を除去し(102)、取得した点群データから密度を減少させる(103)。LiDARなどのレーザセンサが取得する点群データは一般的に高密度であることから、計算機資源の有効利用の観点から、電波伝搬シミュレーションに必要十分な数に点群データを削減する。メッシュは、電波伝搬シミュレーションを行う電波の4分の1波長の大きさ程度が望ましい。このため、一つのメッシュの面積を1辺が4分の1波長の正方形の面積にするとよく、4分の1波長の正方形の面積と同程度の所定の範囲(例えば±10%)でメッシュの大きさを定めてもよい。メッシュの面は3点で定まることから、1辺が4分の1波長の正方形の範囲に3点が含まれるように、点を間引くとよい。このとき、残される3点は、メッシュ内でなるべく離れた点を選択するとよい。また、一つのメッシュに一つの点が含まれるように、点を間引いてもよい。この場合、点の位置によってメッシュの位置を定め、隣接するメッシュとの関係によってメッシュの方向を定めるとよい。また、一つのメッシュに四つ以上の点が含まれるように、点を間引いてもよい。
【0028】
その後、モデル作成部11は、密度が減少した点群データを用いて、メッシュを作成する(104)。なお、既存の三次元モデルデータを用いて、当該三次元モデルの面を分割してメッシュを作成してもよい。モデル作成部11は、作成されたメッシュの数が所定数X以上であるかを判定する(105)。その結果、作成されたメッシュの数が所定数X以上であれば、モデル作成部11は、メッシュの数がX以下になるようにメッシュを纏める(106)。例えば、1回のシミュレーションで処理できるメッシュの数は、計算終了時間との関係で制限される。このため、複数のメッシュを纏めて新たなメッシュを作成する。
【0029】
その後、モデル作成部11は、作成されたメッシュに属性を付与する(108)。メッシュの属性は、法線によって定められる面の方向(法線方向を示す単位ベクトル)、メッシュの面積、及びメッシュの位置を含む。メッシュの位置は、直交するXYZの3方向(前後、左右、上下)において定められる、なお、メッシュの位置が動くことによってメッシュが重なったり、メッシュ間で隙間が生じるが、重なりの許容度や許容される隙間の最大値を定めて、メッシュの位置の変化を制限してもよい。なお、メッシュの属性はメッシュの材質を含んでもよい。メッシュの材質を定めると、メッシュの電波の反射率が定まる。材質によって、電波の反射率が異なり、電波伝搬シミュレーションの結果が変わる。メッシュの材質は、初期値が設定されるとよく、ユーザが指定したりCADデータから取得したデータで、初期値を更新してもよい。これらの属性は、方向、面積、位置、材質を割り当てた多次元の法線ベクトルに纏めて記録してもよい。
【0030】
その後、モデル適正化部12は、電磁界測定を行う測定点の位置の入力を受け付け、実測データとメッシュとを比較する判定点を決定する(201)。その後、モデル適正化部12は、電磁界特性の実測値の入力を受け付け(202)、作成された電波伝搬モデルを用いて電磁界特性を計算する(203)。例えば、
図8に示すように、定められた1又は複数の送信点から電波を発射したときに、1又は複数の受信点における電界強度を計算する。そして、モデル適正化部12は、入力された実測値と計算値の差が所定の誤差より大きいかを判定する(204)。実測値と計算値の差が所定の誤差より大きければ、各メッシュの属性(方向、面積、位置、材質)を変更し(205)、ステップ203に戻り、電磁界特性を再度計算する。例えば、各メッシュの方向、面積、及び位置の変更によって反射波の進行方向が変化し、材質の変更によって反射波の強度が変化する。
【0031】
一方、実測値と計算値の差が所定の誤差以下であれば、電波伝搬モデルが完成する。ステップ203から205の最適化処理は、重回帰分析などの多変量解析によって誤差が最小となる各メッシュの属性を算出してもよい。
【0032】
その後、完成した電波伝搬モデルを使って電波伝搬シミュレーションを行う。本実施例の電波伝搬モデルを用いた電波伝搬シミュレーションは、メッシュの間の隙間による反射や回折を考慮しないでシミュレーションを行う。
【0033】
図5、
図6は、本実施例の電波伝搬シミュレーションシステムが作成する電波伝搬モデルを示す図であり、
図7は、従来の電波伝搬モデルによる電波伝搬シミュレーションを示す図であり、
図8は、本実施例の電波伝搬モデルによる電波伝搬シミュレーションを示す図である。
【0034】
電波伝搬モデルを形成するメッシュは、
図5に示す四角形でも、
図6に示す三角形でもよい。各メッシュは、位置、面の向き(法線方向)、及び面積によって定められる。各メッシュに材質(すなわち反射率)が定義されてもよい。
【0035】
また、
図5、
図6に示すように、隣接するメッシュで辺が共有されていなくても、すなわち、隣接するメッシュ間に隙間があってもよい。従来の電波伝搬モデルは、
図7に示すように、メッシュに区切られていない又は隣接するメッシュ間に隙間が無い連続した面によって形成される。これに対し、本実施例の電波伝搬モデルは、
図8に示すように、メッシュに区切られた不連続の面によって形成される。このため、従来の電波伝搬モデルでは、一つ送信点から発射された電波が異なる場所で反射すると到達点が異なるが、本実施例の電波伝搬モデルでは、一つ送信点から発射された電波が異なるメッシュで反射しても同じ受信点に到達するので、マルチパスの影響を考慮した電波伝搬シミュレーションが可能となり、実測値の再現精度を向上でき、シミュレーション精度を向上できる。
【0036】
また、最適化処理によって電波伝搬モデルの精度を向上するので、初期のモデルが低精度でもよく、人手によって高精度のモデルを作り込まなくてもよい。
【0037】
また、レーザセンサで測定した点群データを用いて電波伝搬モデルを作成するので、電波伝搬モデルを短時間で作成でき、ネットワークの設計時だけでなく、運用中の通信不良発生時にも、短時間で適切な電波伝搬シミュレーションを行える。
【0038】
以上、本発明の実施例について、屋外での電波伝搬シミュレーションを例として説明したが、屋外や坑道などの様々な場所に適用可能である。
【0039】
また、本発明の実施例について、電波伝搬シミュレーションを例として説明したが音や光の伝搬シミュレーションにも適用できる。
【0040】
以上に説明したように、本発明の実施例によるとサイバー空間における電波伝搬モデルを用いた電波伝搬シミュレーション精度を向上できる。このため、高周波帯を使う5GやBeyond5Gでは、安定動作のためのシステム構築工数を低減でき、無線環境変化による通信遮断の復旧時間を短縮できる。
【0041】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0042】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0043】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0044】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0045】
1 プロセッサ
2 メモリ
3 チップセット
4 グラフィック用GPU
5 計算用GPU
6 光ディスクドライブ
7 補助記憶装置
8 入出力インターフェース
9 通信インターフェース
11 モデル作成部
12 モデル適正化部
13 シミュレーション部
21 外部情報
22 測定情報
23 モデル情報