(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070753
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】ヨウ素徐放性殺菌具、および水系の殺菌方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/12 20060101AFI20230515BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230515BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230515BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20230515BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230515BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
A01N59/12
C02F1/50 540B
C02F1/50 531L
C02F1/50 550Z
A01P3/00
A01N25/00
A01N25/02
A61L2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183030
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】堀池 誠
【テーマコード(参考)】
4C058
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA01
4C058BB07
4C058DD07
4C058DD16
4C058JJ07
4C058JJ29
4H011AA01
4H011BB18
4H011DA13
4H011DB01
4H011DC05
4H011DD07
4H011DF02
(57)【要約】
【課題】ヨウ素を放出または徐放する殺菌具において、使用後に安全に廃棄することができ、取り扱いが容易なヨウ素徐放性殺菌具を提供する。
【解決手段】水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液12が、ガス透過性を有するフィルムまたは容器10で被覆されている、ヨウ素徐放性殺菌具1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液が、ガス透過性を有するフィルムまたは容器で被覆されていることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項2】
請求項1に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液の全ヨウ素量が、2質量%以上であることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の全面または一部が、ガス透過性を有さないフィルムまたは容器で被覆されていることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項4】
請求項3に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させて、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることが可能であることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項5】
請求項3または4に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器のガス透過性能が、酸素透過性能として3500cm3/m2・d・atm未満であることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の材質が、ポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデンおよびポリビニルアルコールのうちの少なくとも1つであることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器のガス透過性能が、酸素透過性能として3500cm3/m2・d・atm以上であることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の材質が、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリスチレンのうちの少なくとも1つであることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のヨウ素徐放性殺菌具であって、
殺菌対象の水系の水滞留時間および汚染状況のうちの少なくとも1つに基づいて、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることを特徴とするヨウ素徐放性殺菌具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のヨウ素徐放性殺菌具を水系に設置することを特徴とする水系の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素を放出または徐放するヨウ素徐放性殺菌具、およびそれを用いた水系の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は、極めて高い殺菌力を有し、人体への影響が比較的低いため、ルゴール液やポピドンヨードとして広く殺菌用途に用いられている。また、ヨウ素の高い吸着性能を利用して、ヨウ素を高分子化合物等に吸着させ、徐放させることによって対象を殺菌するような徐放性殺菌具としても使用されている。
【0003】
特許文献1には、ヨウ素を吸着した高分子化合物に水および/または有機溶媒を共存させ、ガス透過性の無孔フィルムで被覆したヨウ素ガス放出具が記載されている。
【0004】
特許文献1のようなヨウ素ガス放出具は、使用後にヨウ素が吸着した高分子化合物を廃棄する必要がある。これらを安全に廃棄するためには高分子化合物に吸着したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム等の還元剤で還元処理した上で廃棄することが望ましい。しかし、高分子化合物に吸着したヨウ素は即座に還元されずに廃棄に手間と時間を要することがあった。
【0005】
また、特許文献1には共存する水および/または有機溶媒によって放出されるヨウ素の量が変わることが記載されているが、ヨウ素ガス放出具の外部に供給される水系の状況の変化に対応が困難であることや、製造から使用までの間にもヨウ素が放出され続けるため、取り扱いに注意を要するという問題点があった。
【0006】
以上のことから、高分子化合物にヨウ素を吸着したヨウ素ガス放出具は使用から廃棄までの取り扱いに長けているとは言い難く、取り扱い性の容易さが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ヨウ素を放出または徐放する殺菌具において、使用後に安全に廃棄することができ、取り扱いが容易なヨウ素徐放性殺菌具、およびそれを用いた水系の殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液が、ガス透過性を有するフィルムまたは容器で被覆されている、ヨウ素徐放性殺菌具である。
【0010】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液の全ヨウ素量が、2質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の全面または一部が、ガス透過性を有さないフィルムまたは容器で被覆されていることが好ましい。
【0012】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させて、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることが可能であることが好ましい。
【0013】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器のガス透過性能が、酸素透過性能として3500cm3/m2・d・atm未満であることが好ましい。
【0014】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の材質が、ポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデンおよびポリビニルアルコールのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器のガス透過性能が、酸素透過性能として3500cm3/m2・d・atm以上であることが好ましい。
【0016】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の材質が、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリスチレンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
前記ヨウ素徐放性殺菌具は、水系の殺菌を行うための前記ヨウ素徐放性殺菌具であることが好ましい。
【0018】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、殺菌対象の水系の水滞留時間および汚染状況のうちの少なくとも1つに基づいて、前記ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることが好ましい。
【0019】
前記ヨウ素徐放性殺菌具において、前記水系が開放水系であることが好ましい。
【0020】
本発明は、前記ヨウ素徐放性殺菌具を水系に設置する、水系の殺菌方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、ヨウ素を放出または徐放する殺菌具において、使用後に安全に廃棄することができ、取り扱いが容易なヨウ素徐放性殺菌具、およびそれを用いた水系の殺菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具の他の例を示す概略構成図である。
【
図3】実施例2で用いたヨウ素徐放性殺菌具を示す写真である(左:露出面積1cm
2、中央:露出面積2cm
2、右:フィルムなし)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具の一例の概略を
図1、
図2に示し、その構成について説明する。本実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具は、ヨウ素を放出または徐放する殺菌具である。
【0025】
図1に示すヨウ素徐放性殺菌具1は、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液12が、ガス透過性を有するフィルムまたは容器10で被覆されている殺菌具である。
【0026】
図2に示すヨウ素徐放性殺菌具3は、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液12が、ガス透過性を有するフィルムまたは容器10で被覆されており、ガス透過性を有するフィルムまたは容器10の全面または一部が、ガス透過性を有さないフィルムまたは容器14で被覆されている殺菌具である。
【0027】
本発明者らが鋭意検討した結果、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液を、ガス透過性を有するフィルムまたは容器で被覆することによって、ヨウ素を容易に放出させつつ、廃棄に要する手間を格段に削減できることが明らかとなった。本実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具において、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液は、例えば、広く使用されているルゴール液やポピドンヨードに近い液体を用いることができ、そのまま下水等へ廃棄することも可能である。このような溶液をさらに安全に廃棄するには、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤で還元処理することによって、さらに無害なヨウ化物イオンとして廃棄することが可能であり、極めて容易に廃棄処理が可能である。
【0028】
水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液に含まれる「ヨウ素」は酸化力を有すればいずれの形態でもよく、分子状ヨウ素、多ヨウ化物、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、過ヨウ素酸、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素のうちのいずれか一つ、またはその組み合わせでもよい。また、これらヨウ素のいずれかの形態を得るための方法としては、固体ヨウ素を、ベンゼンや四塩化炭素等の無極性溶媒やアルコール類に溶解する、アルカリ剤と水とを用いて溶解する、またはヨウ化物と水とを用いて溶解する方法を用いてもよく、ヨウ化物およびヨウ化物イオンのうち少なくとも1つを含有する溶液に酸または酸化剤を加えることによって全ヨウ素を得てもよい。また、ポリビニルピロリドンにヨウ素を配位させたポピドンヨード、シクロデキストリンに包接させたヨウ素包接シクロデキストリン、有機ポリマーおよび界面活性剤等にヨウ素を担持させたヨードホール等を用いて、ポリビニルピロリドンやシクロデキストリン等の有機溶媒に配位されたヨウ素を得てもよい。本実施形態においては、排水の水質等の廃棄処理性等を考慮し、有機物を用いずに固体ヨウ素をヨウ化物塩と水とを用いて溶解したものが好ましい。なお、ヨウ化物とは、酸化数1のヨウ素化合物のことを指し、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化水素、ヨウ化銀等が挙げられる。また、これらのヨウ化物は当然、水に溶解することによって解離し、ヨウ化物イオンになる。ヨウ化物塩としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等の無機ヨウ化物塩等が挙げられるが、ヨウ化カリウムを用いることが好ましい。
【0029】
水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液としては、安定性が良好である等の観点から、全ヨウ素として2質量%以上含有する溶液であることが好ましく、5質量%以上含有する溶液であることがさらに好ましい。溶液の安定性が良好であることにより、ヨウ素徐放性殺菌具を長期的に使用可能となる。
【0030】
本明細書において、ヨウ素による酸化力をDPD法による全ヨウ素として表す。本明細書において、「全ヨウ素」とは「JIS K 0120:2013の33.残留塩素」に記載の硫酸N,N-ジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)を用いる吸光光度法によって求めた濃度を指す。例えば、0.2mol/Lリン酸二水素カリウム溶液2.5mLを比色管50mLにとり、これにDPD希釈粉末(硫酸N,N-ジエチル-p-フェニレンジアンモニウム1.0gを粉砕し、硫酸ナトリウム24gを混合したもの)0.5gを加え、ヨウ化カリウム0.5gを加えて試料を適量加え、水を標線まで加えて溶解して約3分間放置する。発色した桃色から桃紅色を波長510nm(または555nm)付近の吸光度を測定して定量する。本試験方法では酸化力を持ちうる全てのヨウ素の形態(例えば、I2、IO3
-、IO-、HI)をまとめて、「全塩素」として測定されるため、換算することによって「全ヨウ素」として表す。具体的には「塩素の分子量」と「ヨウ素の分子量」を元に換算する。すなわち、「全塩素」×(126.9/35.45)≒「全塩素」×3.58=「全ヨウ素」となる。
【0031】
本実施形態において、ガス透過性を有するフィルムまたは容器としては、溶液を実質的に透過させず、ヨウ素ガス等のガスの透過性を有するフィルム、または溶液を実質的に透過させず、ヨウ素ガス等のガスの透過性を有する容器であればよく、ヨウ素により著しく劣化されるものでなければよい。そのようなフィルムまたは容器の材質としては、例えば、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等が挙げられる。ポリエチレンは、高圧法または低圧法で合成され、高圧法で合成されたものを低密度ポリエチレン(LDPE)、低圧法で合成されたものを高密度ポリエチレン(HDPE)と呼ぶ。LDPE(低密度ポリエチレン)の密度は、0.910~0.925g/cm3、比重は、0.92程度である。HDPE(高密度ポリエチレン)の密度は、0.910~0.965g/cm3、比重は、0.94~0.97程度である。
【0032】
溶液を実質的に透過させない指標としては、例えば、水蒸気透過性能(JIS K 7129-Bに準拠して測定された値、40℃、90%RH条件下、厚さ25μm換算値)として600g/m2・d以下であればよく、100g/m2・d以下であることが好ましく、50g/m2・d以下であることが好ましい。ヨウ素ガス等のガスを透過させる指標としては、ガス透過性能として、例えば、酸素透過性(JIS K 7126-Bに準拠して測定された値、25℃、65%RH条件下、厚さ25μm換算値)が3500cm3/m2・d・atm以上であればよく、5000cm3/m2・d・atm以上であることが好ましく、7000cm3/m2・d・atm以上であることがより好ましい。ガス透過性を有するフィルムまたは容器として、このような水蒸気透過性能や酸素透過性を満たすように単一の材質を使用してもよいし、このような水蒸気透過性能や酸素透過性を満たすように複数の材質を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ヨウ素徐放性殺菌具の大きさは、特に限定されるものではないが、ヨウ素放出量等の観点から、容積として0.1m3以下であることが好ましく、0.05m3以下であることがさらに好ましい。一片の長さは特に限定されない。ヨウ素徐放性殺菌具の形は、特に限定されるものではなく、立方体や直方体等の角柱形、三角錐形等の角錐形等の多面体や、球体、円筒形、円錐形等のいずれでもよいが、自立性と殺菌具の加工性等の観点から立方体、直方体、円筒形のいずれかであることが好ましい。
【0034】
ガス透過性を有さないフィルムまたは容器としては、溶液およびヨウ素ガス等のガスを実質的に透過させないフィルム、または溶液およびヨウ素ガス等のガスを実質的に透過させない容器であればよい。そのようなフィルムまたは容器の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。溶液を実質的に透過させない指標としては、例えば、水蒸気透過性能(JIS K 7129-Bに準拠して測定された値、40℃、90%RH条件下、厚さ25μm換算値)として600g/m2・d以下であればよく、100g/m2・d以下であることが好ましく、50g/m2・d以下であることが好ましい。ヨウ素ガス等のガスを実質的に透過させない指標としては、ガス透過性能として、例えば、酸素透過性(JIS K 7126-Bに準拠して測定された値、25℃、65%RH条件下、厚さ25μm換算値)が3500cm3/m2・d・atm未満であればよく、3000cm3/m2・d・atm以下であることが好ましく、1000cm3/m2・d・atm以下であることがより好ましい。ガス透過性を有さないフィルムまたは容器として、このような水蒸気透過性能や酸素透過性を満たすように単一の材質を使用してもよいし、このような水蒸気透過性能や酸素透過性を満たすように複数の材質を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ガス透過性を有さないフィルムまたは容器は、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の全面または一部を被覆し、ガス透過性を有するフィルムまたは容器が露出する面積を調整することにより、ヨウ素徐放性殺菌具から放出されるヨウ素の量を自在に調整することが可能となる。ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させて、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることが可能である。殺菌具の製造のときに露出面積を決めてもよく、製造後かつ使用直前に露出面積を調整できるように、ガス透過性を有さないフィルムを剥離可能なように接着してもよいし、ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の一部を開閉可能にしてもよい。ヨウ素は特有の昇華性を有し、着色するため、取り扱い性等の観点からは使用直前まで露出面積を有していないことが好ましい。ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させることによって、ヨウ素徐放性殺菌具から放出されるヨウ素の量を自由自在に増減させることができる。
【0036】
ヨウ素徐放性殺菌具がガス透過性を有さないフィルムまたは容器を有さない場合は、ガス透過性を有するフィルムまたは容器のガス透過性を調整することによって、ヨウ素徐放性殺菌具から放出されるヨウ素の量を調整してもよい。
【0037】
ヨウ素徐放性殺菌具は水系に設置することによって水系に所定量のヨウ素を放出し続けるため、水系の汚染を抑制することができる。ヨウ素は極めて高い殺菌力を有しているため、ガス透過性を有するフィルムまたは容器から放出されるヨウ素の量で高い殺菌効果を得ることができる。
【0038】
水系の水滞留時間や汚染状況等に基づいて、ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させ、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることによって、あらゆる水滞留時間や汚染リスクの水に対しても効果的に殺菌効果を得ることができる。例えば、水滞留時間が短い水系ではガス透過性を有するフィルムまたは容器の被覆面積を増やし、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を少なくし、水滞留時間が長い水系ではガス透過性を有するフィルムまたは容器の被覆面積を減らし、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を多くすることによって殺菌効果を発揮しつつ、放出されたヨウ素による周辺機器への影響を抑制することができる。また、流入する水の汚染が著しい水系の場合、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の被覆面積を減らし、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増やすことによって水系の汚染を効果的に抑制することができる。
【0039】
水滞留時間による露出面積は、例えば、次の(式1)に従って決定すればよい。
0<露出面積(m2)<100/水滞留時間(min) (式1)
【0040】
露出面積が0であると殺菌効果が発揮されずに水系の汚染を抑制することができず、露出面積が(式1)以上であると水系の汚染の抑制は可能であるが周辺の設備や機器に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0041】
ヨウ素徐放性殺菌具を設置する水系は、密閉水系および開放水系のいずれに用いてもよいが、放出されたヨウ素による周囲の設備や機器への影響を考慮すると開放水系であることが好ましい。
【0042】
本明細書にて密閉水系とは、水系が実質的に完全に密閉されており、蒸発を伴わない水系のことを指し、例えば、密閉循環式冷却水系等が挙げられる。開放水系とは、蒸発による僅かな水の入れ替えや意図的な低流量の排水による水の入れ替え等の常に水の入れ替えが生じる水系のことを指し、例えば、施設の噴水等の修景用水域、プールや浴槽水等の循環水系、開放式冷却水系、水処理システムにおける配管、空調機器等のドレンパン上の水系等が挙げられる。
【0043】
本実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具は、空調機器等のドレンパン用の殺菌具として好適に用いることができる。空調機器等の結露により発生する水を受けるために設置されるドレンパンには空調機の結露により発生した水が溜まる。結露水には空気中等から混ざった細菌が存在し、ドレンパン上でスライムと呼ばれるバイオフィルムを形成する。結露水はドレンパンに設置された配管によって系外に排出されるように設計されているが著しいバイオフィルムの形成によって配管閉塞を引き起こすことがあり、配管閉塞の進行によりドレン水の排出ができずにドレンパンから水が漏れることがある。ドレンパンからの水漏れは外観が悪くなるだけでなく衛生的にも問題があり、ドレンパン上の水を殺菌可能な殺菌具が求められており、本実施形態に係るヨウ素徐放性殺菌具を好適に用いることができる。
【0044】
<ヨウ素徐放性殺菌具を用いた水系の殺菌方法>
ヨウ素徐放性殺菌具を開放水系等の水系に設置することによって、殺菌具から放出または徐放されるヨウ素により、水系を衛生的に保つことができる。
【0045】
また、空調機器等のドレンパンにヨウ素徐放性殺菌具を設置することによって、ドレンパン上の汚染を効果的に抑制することができる。
【実施例0046】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液の調製)
表1に示す配合組成(質量%)で、ヨウ素、ヨウ化カリウム、水を混合して、水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液を調製した。調製した溶液の全ヨウ素量(質量%)は表1に示す通りであった。全塩素濃度を、HACH社の多項目水質分析計DR/3900を用いて測定し、全ヨウ素濃度(全ヨウ素量)に換算した。
【0048】
具体的には水に、撹拌しながらヨウ化カリウムを溶解し、略均一な溶液となったところにヨウ素を入れ、約30分撹拌して略均一な溶液(1)~(7)を調製した。
【0049】
(水、ヨウ素およびヨウ化物を含有する溶液の保存安定性)
調製した溶液(1)~(7)を、それぞれガラス瓶に充填して25℃と50℃の条件で90日間保管した。保管開始のときと90日保管後の全ヨウ素量を測定し、全ヨウ素量保持率(%)を測定し、保存安定性を評価した。
【0050】
【0051】
25℃と50℃の条件で90日保管後に全ヨウ素量を測定したところ、全ヨウ素量保持率(%)は以下の通りとなった。
溶液(1):25℃→98% 50℃→78%
溶液(2):25℃→100% 50℃→82%
溶液(3):25℃→92% 50℃→90%
溶液(4):25℃→100% 50℃→100%
溶液(5):25℃→97% 50℃→95%
溶液(6):25℃→100% 50℃→100%
溶液(7):25℃→100% 50℃→99%
【0052】
いずれの溶液も極めて安定性の高い溶液であるが、全ヨウ素量が2質量%以上であると高温での安定性が高いことがわかる。さらに全ヨウ素量が5質量%以上であると高温での安定性がさらに高いことがわかる。
【0053】
<実施例2>
(水系における殺菌具)
実施例1で調製した溶液(5)を用い、水透過性を有さずガス透過性を有する容器(内容積:6mL、材質:低密度ポリエチレン、水蒸気透過性能(JIS K 7129-Bに準拠して測定された値、40℃、90%RH条件下、厚さ25μm換算値):20g/m
2・d、酸素透過性(JIS K 7126-Bに準拠して測定された値、25℃、65%RH条件下、厚さ25μm換算値):7900cm
3/m
2・d・atm)に6mL充填し、
図2に示すように、蓋を閉めて密封したうえで、容器外部に水透過性を有さずガス透過性を有さないフィルム(材質:ポリ塩化ビニル、水蒸気透過性能(同上):5g/m
2・d、酸素透過性(同上):200cm
3/m
2・d・atm)を被覆し、容器の露出面積を調整した。20mLガラスビーカーに13mLの純水を入れ、その中に、容器にフィルムを被覆した殺菌具を設置した。設置後に25℃で所定の期間(24時間)を経た後、ビーカーに入れた純水中の全ヨウ素量を測定し、殺菌具から放出されたヨウ素量を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2から明らかな通り、ガス透過性を有する容器の露出面積を増加させることによって、純水中の全ヨウ素量が増加した。ガス透過性を有さないフィルムまたは容器の被覆面積を増減させて、ガス透過性を有するフィルムまたは容器の露出面積を増減させることにより、ヨウ素徐放性殺菌具から放出されるヨウ素の量を自在に調整することができた。
【0056】
<実施例3>
(ヨウ素徐放性殺菌具による水系の殺菌効果)
実施例1で調製した溶液(5)を用い、水透過性を有さずガス透過性を有する容器(内容積:6mL、材質:低密度ポリエチレン、水蒸気透過性能(JIS K 7129-Bに準拠して測定された値、40℃、90%RH条件下、厚さ25μm換算値):20g/m
2・d、酸素透過性(JIS K 7126-Bに準拠して測定された値、25℃、65%RH条件下、厚さ25μm換算値):7900cm
3/m
2・d・atm)に6mL充填し、
図2に示すように、蓋を閉めて密封したうえで、容器外部に水透過性を有さずガス透過性を有さないフィルム(材質:ポリ塩化ビニル、水蒸気透過性能(同上):5g/m
2・d、酸素透過性(同上):200cm
3/m
2・d・atm)を被覆し、容器の露出面積を8cm
2に調整した。500mLガラスビーカーに100mLの脱塩素処理相模原井水(菌数:2×10
3)を入れ、35℃条件で1週間、水浴にて加温した。蒸発により減少した水量は、脱塩素処理相模原井水を用いて日々補充した。このときの水滞留時間は68hであった。1週間後のガラスビーカー内の脱塩素処理相模原井水の菌数を測定した。菌数は、シートチェックR2A(NIPRO製)を用いて測定した。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
ガラスビーカー内に容器の露出面積を8cm2に調整したヨウ素徐放性殺菌具を設置した場合、菌数は2(CFU/mL)に減少し、ガラスビーカー内にヨウ素徐放性殺菌具を設置しなかった場合、菌数は104(CFU/mL)以上に増殖していた。ガス透過性を有する容器の露出面積を、ガス透過性を有さないフィルムにより調整したヨウ素徐放性殺菌具により水系の殺菌が可能であった。
【0059】
このように、使用後に安全に廃棄することができ、取り扱いが容易な、ヨウ素を放出または徐放するヨウ素徐放性殺菌具が得られた。