(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070756
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】ダイヤフラム部材及びそれを用いたダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
F16K7/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183037
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薬液に対する良好な耐薬品性を確保しつつ、薬液から生じる腐食性ガスの透過を効果的に抑制乃至は阻止すると共に、長期間の繰り返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止して、優れた耐久性を発揮するダイヤフラムバルブ用ダイヤフラム部材を提供する。
【解決手段】ダイヤフラムバルブに用いられるダイヤフラム30を、一方の側の面に薬液が接触せしめられる第一の層32と、第一の層における薬液が接触しない他方の側に配置された第二の層34との積層構造体、及び、バルブ本体の弁座に対する圧接又は離間作動を行なう駆動機構に連結される連結部材にて構成し、第一の層32を、連結部材を固定するための厚肉部とその周縁に位置する薄肉部にて構成し、第一の層32における薄肉部の厚さ:t1と第二の層34の厚さ:t2が下記式の関係を満たすよう、構成した。
1.30<=(t1+t2)^1/3/t2<=2.90
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムバルブにおけるバルブ本体の弁座に対して、圧接又は離間作動せしめられることにより、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラム部材にして、
一方の側の面に薬液が接触せしめられる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における前記薬液が接触しない他方の側に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層との積層構造体、及び、前記弁座に対する圧接又は離間作動を行なう駆動機構に連結される連結部材を備え、
前記第一の層は、前記連結部材を固定するための厚肉部と、かかる厚肉部の周縁に位置する薄肉部とから構成され、
前記第一の層における前記薄肉部の厚さ:t1と前記第二の層の厚さ:t2が、下記式(1)の関係を満たす、
ことを特徴とするダイヤフラム部材。
【数1】
【請求項2】
前記第二の層における前記第一の層とは反対側に、ゴム弾性体からなる第三の層が配置されている請求項1に記載のダイヤフラム部材。
【請求項3】
前記第一の層を与えるパーフルオロカーボン系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1又は請求項2に記載のダイヤフラム部材。
【請求項4】
前記第二の層の厚さ:t2が0.50~1.00mmである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のダイヤフラム部材。
【請求項5】
前記積層構造体を構成する各層が、それぞれ、所定の形状に成形されて、該積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のダイヤフラム部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のダイヤフラム部材を備えてなるダイヤフラムバルブ。
【請求項7】
前記薬液が、腐食性ガスを発生する液体である請求項6に記載のダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラム部材及びそれを用いたダイヤフラムバルブに係り、特に、塩水、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の腐食性液体の輸送配管ライン等に使用されるダイヤフラムバルブにおいて、有利に使用されるダイヤフラム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流路を流れる液体の流通の遮断又は許容を行なわしめるバルブの一種として、可撓性を有するダイヤフラム(隔膜)を、弁本体の弁座に対して圧接又は離間作動せしめて液体の流通を制御するダイヤフラムバルブが、広く知られている。そのようなダイヤフラムバルブの中でも、特に、塩水、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の腐食性液体の輸送配管ライン等に使用されるダイヤフラムバルブにおいては、ダイヤフラムに高い耐久性が要求されるため、従来より様々な態様のものが提案され、使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2020-153519号公報)においては、そこに開示のダイヤフラムバルブに装着される隔膜(ダイヤフラム)として、流路側に配置され、フッ素系樹脂を含む第1層と、かかる第1層の流路とは反対側に配置され、弾性樹脂を含む第2層とを有し、第1層における所定の部位の厚み:aと第2層の厚み:bとが、0.15≦a/b≦0.375を満たすものが、提案されている。また、特許文献2(特開2020-153393号公報)においては、ダイヤフラムバルブに用いられる隔膜ユニットの隔膜として、フッ素系樹脂を含む第1層が、弾性樹脂を含む第2層に接着されてなるものが、提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の各々に開示の隔膜について、本発明者が詳細に検討したところ、それら隔膜は或る程度の耐久性を発揮するものの、種々の問題を内在するものであることが判明した。具体的には、特許文献1又は特許文献2の開示の隔膜を備えたダイヤフラムバルブを、腐食性液体の輸送配管ラインにおいて使用した場合、特許文献1に開示の隔膜にあっては、長期間の使用によって隔膜から腐食性液体の漏出が認められるようになった際に、これが、腐食性液体による第1層の浸食に起因するのか、腐食性液体より発生する腐食性ガスによって第2層が劣化したことに起因するのか等、その原因を特定することが非常に困難であることが認められた。また、特許文献2に開示の隔膜を備えたダイヤフラムバルブにおいては、バルブの弁座に対する隔膜の圧接又は離間作動の繰返しによって、第1層と第2層との接着部が剥離し、その結果、長期止水性能を享受することが出来ない恐れがあることが、認められたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-153519号公報
【特許文献2】特開2020-153393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、薬液に対する良好な耐薬品性を確保しつつ、かかる薬液から生じる腐食性ガスの透過を効果的に抑制乃至は阻止して、そのような腐食性ガスに基づく腐食を回避すると共に、長期間の繰返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止し、以て、優れた耐久性を発揮する、ダイヤフラムバルブに用いられるダイヤフラム部材を提供することにある。また、本発明は、そのようなダイヤフラム部材を備えるダイヤフラムバルブを提供することも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、ダイヤフラムバルブにおけるバルブ本体の弁座に対して、圧接又は離間作動せしめられることにより、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラム部材にして、一方の側の面に薬液が接触せしめられる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層と、かかる第一の層における前記薬液が接触しない他方の側に配置された、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層との積層構造体、及び、前記弁座に対する圧接又は離間作動を行なう駆動機構に連結される連結部材を備え、前記第一の層は、前記連結部材を固定するための厚肉部と、かかる厚肉部の周縁に位置する薄肉部とから構成され、前記第一の層における前記薄肉部の厚さ:t1と前記第二の層の厚さ:t2が、下記式(1)の関係を満たす、ことを特徴とするダイヤフラム部材を、その要旨とするものである。
【数1】
【0008】
なお、このような本発明に従うダイヤフラム部材の好ましい態様の一つによれば、前記第二の層における前記第一の層とは反対側に、ゴム弾性体からなる第三の層が配置されている。
【0009】
また、本発明に従うダイヤフラム部材の好ましい態様の他の一つによれば、前記第一の層を与えるパーフルオロカーボン系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0010】
さらに、本発明に従うダイヤフラム部材は、望ましくは、前記第二の層の厚さ:t2が0.50~1.00mmである。
【0011】
更にまた、本発明に係るダイヤフラム部材の望ましい別の態様の一つによれば、前記積層構造体を構成する各層が、それぞれ、所定の形状に成形されて、該積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されている。
【0012】
そして、本発明にあっては、上述した各態様に係るダイヤフラム部材を備えてなるダイヤフラムバルブについても、その要旨とするものである。
【0013】
なお、そのようなダイヤフラムバルブによって流通又は遮断が行なわれる薬液としては、有利には、腐食性ガスを発生する液体がその対象とされ、更に、そのような腐食性ガスを発生する液体としては、好適に、電解工程において配管内を流通せしめられる塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等が、その対象とされるものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従うダイヤフラム部材にあっては、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層における薬液が接触しない側の面に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる第二の層が配置された、積層構造体にて構成されている。このような構成を採用していることにより、1)第一の層により良好な耐食性を発揮すると共に、2)第二の層によって、腐食性ガスの透過が効果的に遮断せしめられ得て、そのような腐食性ガスに起因する他の部材等(例えば、ゴム弾性体からなる第三の層や、ダイヤフラム部材周囲の金属部品等)の劣化が有利に阻止され得ることとなり、更には、3)第一の層における薄肉部の厚さ:t1と第二の層:t2とが所定の関係を満たすように構成されていることにより、長期間の繰返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止され得て、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【0015】
そして、そのようなダイヤフラム部材を備えたダイヤフラムバルブにあっては、バルブとしての耐久性も著しく向上せしめられ得たものとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のダイヤフラム部材を備えたダイヤフラムバルブの一実施形態を示す縦断面説明図である。
【
図2】
図1に示されるダイヤフラムバルブにおいて用いられているダイヤフラムを取り出して示す説明図であって、(a)は、ダイヤフラムバルブの閉状態におけるダイヤフラムの無変形の形態を示す断面説明図であり、(b)は、ダイヤフラムバルブの開状態における、ダイヤフラムが変形作用を受けた状態を示す断面説明図である。
【
図3】
図2(a)に示されるダイヤフラムの一部を部分的に拡大して示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0018】
先ず、
図1には、本発明に従うダイヤフラム部材を備えたダイヤフラムバルブの一例が、示されている。そこにおいて、ダイヤフラムバルブ10は、入口流路14と出口流路16とを備え、また、それら流路14、16の中間に位置し、且つ流路を湾曲させる仕切壁18を備えると共に、かかる仕切壁18の先端面(上面)が弁座20とされてなる弁本体12を有している。また、かかる弁本体12の仕切壁18の上方に形成された開口部を覆蓋するように、ボンネット22が取り付けられて、このボンネット22に支承されたスピンドル24が、ハンドル26の回転操作によって、上下方向(軸方向)に移動可能とされている。そして、スピンドル24の下端部に固定されたコンプレッサ28に対して、中心部が取り付けられて、上下方向に変形移動可能とされた、円形又は略矩形の平面形態を呈するダイヤフラム30が、その周縁部において、弁本体12の開口周縁部とボンネット22の下端部との間に狭持せしめられることによって、弁本体12の開口部が閉塞せしめられるようになっている一方、スピンドル24の上下動、ひいてはコンプレッサ28の上下動によって、ダイヤフラム30の中心部が、弁座20に圧接又は離隔せしめられることによって、流路14、16を流れる液体の流れを遮断し、又は通過(流通)させ得るようになっているのである。
【0019】
また、そのような構成のダイヤフラムバルブ10において、入口流路14と出口流路16との間を遮断又は連通させるダイヤフラム30は、
図2に示されている如き態様を呈するものである。具体的に、ダイヤフラム30は、1)一方の側の面(図においては、下面)に、流路(14、16)内を流通せしめられる薬液が接触させられることとなる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる第一の層32と、2)第一の層32の上記薬液が接触しない他方の側(図においては、上側)に配置され、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる、その厚さがt2である第二の層34と、3)第二の層34における第一の層32とは反対側に配置された、所定のゴム弾性体からなる第三の層36との積層構造体にて、構成されている。また、第一の層32にあっては、厚肉とされた中央部と、かかる中央部(厚肉部)の周縁を覆うように位置する、中央部(厚肉部)より厚さが薄い薄肉部(厚さ:t1)とから、構成されている。このような第一の層32の厚肉部に、コンプレッサ28に連結するための連結金具38の基部が埋設されていると共に、かかる連結金具38は、第二の層34の中央開口部を通じて、第三の層36の中心部を貫通してなる形態において、上方に突出せしめられている。
【0020】
なお、本実施形態においては、第一の層32、第二の層34及び第三の層36は、それぞれ、所定の形状に成形されてなる形態において積層され、その積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されており、スピンドル24により引き上げられていない状況下においては、
図2(a)に示される如き形態を呈するようになっている。即ち、
図2(a)に示されるダイヤフラム30は、その成形形態において組み付けられた状態を示すものであって、通常、そのような形態において、ダイヤフラムバルブ10に組み付けられて、かかるダイヤフラム30の中心部がコンプレッサ28にて押圧されることにより、弁座20に圧接せしめられ、以て、入口流路14と出口流路16との間の液体の流通が、効果的に遮断され得るようになっているのである。また、コンプレッサ28が、スピンドル24の軸方向への移動によって上方に移動せしめられると、ダイヤフラム30は、
図2(b)に示されるように、上方に引き上げられてなる、上方への湾曲(突出)形態において変形せしめられることとなる。そして、そのような形態においては、ダイヤフラム30は、
図1に示される如く、弁座20に圧接されることはなく、所定の間隔を隔てて、離隔せしめられることとなるところから、入口流路14と出口流路16との間に、所定の液体が流通され得るようになるのである。
【0021】
そして、上述したダイヤフラム30は、本発明に従い、薬液が接触させられることとなる第一の層32における、連結金具38を固定するための厚肉部の周縁に位置する薄肉部の厚さ:t1と、かかる第一の層32における薬液が接触しない他方の側に配置された第二の層34の厚さ:t2とが、下記式(1)の関係を満たすように構成されているのである。これにより、本発明に従うダイヤフラム30にあっては、1)第一の層32によって良好な耐食性を発揮すると共に、2)第二の層34により、腐食性ガスの透過が効果的に遮断せしめられ得て、そのような腐食性ガスに起因する他の部材(例えば、後述する第三の層36等)の劣化が有利に阻止され得ることとなり、更には、3)長期間の繰返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止され得て、以て、優れた耐久性を発揮することとなるのである。
【数2】
【0022】
ここで、上記式(1)において、第一の層32における薄肉部の厚さ:t1と第二の層34の厚さ:t2とを用いて算出される数値、換言すれば、下記式(2)より算出される数値αが、1.30未満である場合は、ダイヤフラム30が十分な耐食性(耐薬品性)を発揮せず、その結果、ダイヤフラム30及びそれを用いたダイヤフラムバルブ10が十分な耐久性を発揮し得ない恐れがある。その一方、上記した数値αが2.90を超えると、1)ダイヤフラムが十分な耐食性(耐薬品性)を発揮しない恐れや、2)ダイヤフラムの操作トルクが上昇し、長期間の繰返し作動によって破損する恐れ等があり、結果として、ダイヤフラム及びそれを用いたダイヤフラムバルブが十分な耐久性を発揮し得ない恐れがある。
【数3】
【0023】
なお、ダイヤフラム30においては、第一の層32の接液側の面となる下面の周縁部に沿って、環状の周縁突条40が形成されていると共に、第一の層32の中心部を通って直径方向に延びる線状突条42が一体的に設けられているが、上記した、第一の層32の薄肉部における厚さ:t1は、これら突条の厚さ(高さ)を含まないものである。周縁突条40は、ダイヤフラム30が弁本体12とボンネット22との間に挟持されたときに、弁本体12の開口周縁部との間のシール性を高めるためのものであり、また、線状突条42は、コンプレッサ28の下降作動によって、ダイヤフラム30が下方に変形移動せしめられて、弁本体12の弁座20に圧接せしめられたときに、弁座20との間の流体遮断性を向上せしめるためのものである。
【0024】
ところで、ダイヤフラム30における薬液に接触することとなる第一の層32について、その薄肉部の厚さ:t1は、第二の層34の厚さ:t2との間において、上記式(1)の関係を満たすように設定されることとなるが、一般には0.80~4.50mm程度の厚さとなるように、第一の層32は形成される。かかる第一の層32を構成する材料としては、薬液に対する耐食性を確保するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂の如き、従来より公知の各種のパーフルオロカーボン系樹脂の中から適宜に選択されることとなるが、本発明においては、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が有利に用いられることとなる。
【0025】
また、そのような第一の層32を裏打ちする第三の層36は、コンプレッサ28の動作を第一の層32に有効に伝達させるためのものであって、一般に、2~15mm程度の厚さにおいて形成される。その材質としては、特に制限されるものではなく、公知のゴム弾性を有する材質が適宜に採用されるのであり、例えば、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等のエチレン・プロピレン系ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を挙げることが出来るが、それらの中でも、エチレン・プロピレン系ゴム、特にEPDMが、好適に用いられることとなる。
【0026】
さらに、それら第一の層32と第三の層36との間に介在せしめられる第二の層34は、第一の層32の薄肉部を透過する腐食性ガスを遮断して、第三の層36の劣化等を回避するためのものであり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂にて構成されている。本発明においては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(ホモポリマー)が有利に用いられるところであるが、フッ化ビニリデンにヘキサフルオロプロピレンやテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化コモノマーを共重合させてなる、公知のフッ化ビニリデン系共重合体を用いることも可能である。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、1000MPa以下の引張弾性率を有しているものを用いることにより、第二の層34にマイクロクラックが惹起されるのを効果的に阻止して、その低ガス透過性を長く維持することが可能ならしめられる。なお、そのような引張弾性率の下限は、一般に650MPa程度である。また、かかる引張弾性率は、JIS-K-7161:2014に従って求められるものである。
【0027】
また、かかる第二の層34を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、好ましくは130~170℃、より好ましくは140~160℃の融点を有していることが望ましく、これによって、中間シート層34としての特徴を有利に発揮させることが可能となる。なお、このポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点が、130℃よりも低くなるとガスの透過率が高くなり、更に140℃よりも低くなると、流動性が高くなり、中間シート層34の形成に際して、製品寸法がばらつく等の問題を惹起し易くなり、また、かかる融点が160℃を超えるようになると、中間シート層34にマイクロクラックが発生し易くなり、更には170℃を超えると弾性率が高くなり、バルブの操作トルクが重くなる等の問題が、惹起されるようになる。
【0028】
なお、上述した物性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、市場において入手可能であり、例えば、株式会社クレハやソルベイジャパン株式会社等から市販されているものが、適宜に採用されるところである。そして、そのような市販のポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて、第二の層34が成形されることとなるのであるが、そのような第二の層34は、上述した第一の層における薄肉部の厚さ:t1との関係において、上記式(1)の関係を満たすようにその厚さ(t2)が設定されることとなる。本発明において、かかる第二の層の厚さ:t2は、有利には0.50~1.00mmに設定される。0.50mm未満の場合には、第一の層32の薄肉部を透過する腐食性ガスを十分に遮断することができない恐れがあり、その一方、1.00mmを超える厚さとしても、その厚さに応じて腐食性ガスの遮断性能は向上しないため、いたずらに製造コストを上昇させるだけとなり、得策ではない。また、例示のダイヤフラム30において、第二の層34は、第一の層32の中心部の厚肉部上には存在しないように、中心部に開口部が設けられてなる形態において、形成されている。そのような開口部を第二の層34に設けても、そこには、厚肉の第一の層32が存在し、また、その厚肉部位には、連結金具38の下部フランジ部が存在することによって、腐食性ガスの透過は充分に抑制乃至は阻止され得ることとなるからである。但し、腐食性ガスの濃度によっては、スピンドル等の金属部品を保護するために、第二の層34は、厚肉部の上部まで覆うような形状でもよい。
【0029】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0030】
例えば、ダイヤフラムバルブ10におけるダイヤフラム30を構成する第一の層32、第二の層34及び第三の層36は、別個に成形された後、積層されて、3層構造の積層体として用いられているのであるが、それら第一の層32と、第二の層34と、第三の層36とを相互に固着一体化してなる形態の積層構造において、用いることも可能である。
【0031】
また、第一の層32、第二の層34及び第三の層36のうちの少なくも何れか一層を、所定の製品形状に成形することなく、平坦なシート状形態のままにおいて、用いることも可能である。
【0032】
さらに、第三の層36は、ゴム弾性体のみにて構成される他、ゴム弾性体内に補強繊維を混在させたり、補強繊維層を介在させて、構成することも可能である。
【0033】
加えて、例示のダイヤフラムバルブ10におけるコンプレッサ28の駆動形式にあっても、例示の如きハンドル26の手動による回動操作に代えて、空気圧による空圧駆動方式やモータ等による電気駆動方式も採用可能であり、その駆動形式には、公知のものが適宜に採用されることとなる。
【実施例0034】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきところである。
【0035】
-ダイヤフラムの作製-
図2に示される如き3層構造の積層成形体からなり、下記表1に示される第一の層における薄肉部の厚さ:t1及び第二の層の厚さ:t2を有するダイヤフラムを、作製した(実施例1~8、比較例1~3)。かかる作製に際して、第一の層を形成する材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、第二の層を形成する材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF、引張弾性率:800MPa、融点:150℃)を、第三の層を形成する材料としてはEPDMを、それぞれ使用した。また、作製したダイヤフラムのサイズ(口径)は、実施例1、2、5~8、比較例1、3に係るダイヤフラムにあっては25mmとし、実施例3、4、比較例2に係るダイヤフラムにあっては150mmとした。さらに、実施例及び比較例の各々について、下記式(2)より数値αを算出し、この算出した数値αを、下記表1に併せて示す。
【数4】
【0036】
得られたダイヤフラムを試料として用いて、以下の試験を行なった。
【0037】
-耐薬品性試験-
ダイヤフラムの重量を測定した後、35%塩酸に、ダイヤフラムにおける第一の層が露出している側の面のみを接触させた状態で、50℃の環境の下で28日間、静置した。塩酸への接触前後のダイヤフラムの重量を測定し、下記式(3)より、塩酸への接触前後におけるダイヤフラムの重量変化率(%)を算出した。算出された数値を、下記表1の「耐薬品性試験[%]」欄に示す。なお、この数値は、大きければ大きいほど、ポリテトラフルオロエチレンからなる第一の層が塩酸によって侵食され、膨潤したことを意味するものである。
【数5】
【0038】
-シール性評価試験-
上記した耐薬品性試験に供された各ダイヤフラムを、実施例1、2、5~8、比較例1、3に係るダイヤフラムについては口径が50mmのダイヤフラムバルブに装着し、実施例3、4、比較例2に係るダイヤフラムについては口径が150mmのダイヤフラムバルブに装着した。ダイヤフラムが装着されたダイヤフラムバルブを、水中に浸漬せしめ、ダイヤフラムを開状態(流体の流通が可能な状態)とした上で入口流路側からエアーを導入し、ダイヤフラムからのエアー漏れの有無(気泡の有無)を目視で確認した。エアー漏れ(気泡)が認められなかった場合は○(合格)と、認められた場合は×(不合格)と、それぞれ評価した。各評価結果を、下記表1の「シール性評価試験」欄に示す。
【0039】
-開閉トルク試験-
実施例1、2、5~8、比較例1、3に係るダイヤフラムについては口径が50mmのダイヤフラムバルブに装着し、実施例3、4、比較例2に係るダイヤフラムについては口径が150mmのダイヤフラムバルブに装着し、各々、バルブ開閉試験を行なった。なお、かかるバルブ開閉試験は、開閉サイクル操作圧:0.4MPa、1分間の開作動、1分間の閉作動の条件下において、繰返し実施した。10000回の開閉操作後にバルブを分解して、ダイヤフラムにおける第二の層(ポリフッ化ビニリデンからなる層)の状態を目視で確認した。破損が認められない場合は○と、破損が認められた場合は×と、それぞれ評価した。各評価結果を、下記表1の「開閉トルク試験」欄に示す。
【0040】
【0041】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従うダイヤフラム部材にあっては、PTFEからなる第一の層によって良好な耐食性を発揮すると共に、PVDFからなる第二の層により、腐食性ガスの透過が効果的に遮断せしめられ得、更には、第一の層における薄肉部の厚さ:t1と第二の層:t2とが所定の関係を満たすように構成されていることによって、長期間の繰返し作動による破損の発生も効果的に抑制乃至は阻止され得て、以て、ダイヤフラム部材として優れた耐久性を発揮し、ひいてはかかる部材を備えたダイヤフラムバルブにおいても優れた耐久性を発揮することが、認められるのである。