(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070783
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】鉄用防錆剤及び鉄構造物の防錆方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20230515BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20230515BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230515BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230515BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20230515BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230515BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230515BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/10
C09D7/61
C23C26/00 A
C23F11/00 A
B05D7/00 L
B05D7/14 N
B05D7/24 303C
B05D7/24 303H
B05D7/24 303B
B05D7/24 303G
B05D7/24 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183091
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】515339479
【氏名又は名称】株式会社エイコー桐生
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(74)【代理人】
【識別番号】100076576
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 公博
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 孝司
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
4K044
4K062
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AB01
4D075AC57
4D075BB16X
4D075BB56X
4D075BB60Z
4D075CA13
4D075CA33
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC05
4D075EA05
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC01
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4D075EC22
4D075EC24
4D075EC53
4D075EC54
4J038DL031
4J038HA026
4J038HA066
4J038HA556
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA14
4J038NA24
4J038PA01
4J038PA06
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC02
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA18
4K044BA21
4K044BB01
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4K044BC02
4K044CA53
4K062AA01
4K062BA01
4K062BA02
4K062BA03
4K062BA14
4K062BC16
(57)【要約】
【課題】 従来の鉄用防錆剤と同等の防錆力を有し、従来の鉄用防錆剤より鉄素材への密着力(付着力)が優れ、ローラーによる塗布も可能な鉄用防錆剤及び当該防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法を提供する。
【解決手段】 本発明の鉄用防錆剤は(A)球形粒子状亜鉛と(B)アルミニウム粉末と(C)カーボンナノチューブと(D)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物と(E)ベントナイトを含有してなることを特徴とし、また、本発明の鉄構造物の防錆方法は、前記鉄用防錆剤を、鉄構造物に塗布し自然乾燥させることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)球形粒子状亜鉛と
(B)アルミニウム粉末
(C)カーボンナノチューブ
(D)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物
及び(E)ベントナイトを含有してなる鉄用防錆剤。
【請求項2】
(A)球形粒子状亜鉛の平均粒子径が15μm以下、(B)アルミニウム粉末の粒子径が150メッシュ以下、(C)カーボンナノチューブの粒子径が50nm以下である請求項1に記載の鉄用防錆剤。
【請求項3】
前記(A)、(B)、(C)成分の比率が質量比で前記(A)成分100に対し前記(B)成分が0.125~20、(C)成分が0.0125~4であり、[(A)+(B)+(C)合計]:前記(D)成分の質量比率は、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100を基準にして[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる割合で[(A)+(B)+(C)合計]70~80に対し(D)成分の質量比20~30であり、前記(E)成分の質量比は、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100に対して0.5~1である請求項1又は2のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤。
【請求項4】
前記(D)成分が、
化学式R1
xSi(OR2)4-x (1)
ここでxは1又は2、R1がメチル基ないしフェニル基であり、R2がメチル基ないしエチル基で示されるシラン化合物ないしこれらのシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤。
【請求項5】
前記請求項1~4項のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤を、鉄構造物に塗布し自然乾燥させることを特徴とする鉄構造物の防錆方法。
【請求項6】
前記鉄用防錆剤の鉄構造物への塗布方法がスプレー法、ハケ塗り法、どぶ漬け法、又はローラー塗装法のいずれかの塗装方法である請求項5に記載の鉄構造物の防錆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄用防錆剤及び前記鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より鉄用防錆剤として、粒子状の亜鉛と粒子状のアルミニウムを混入した塗料などが使用されているが、近年、用いる亜鉛粒子状物とアルミニウム粒子状物に変えて、鱗箔状の亜鉛と鱗箔状のアルミニウムを用いバインダー成分としてシリコーン樹脂を用いることにより、鱗箔状の亜鉛と鱗箔状のアルミニウムが年輪状に交互に積層されることにより、粒子状の亜鉛と粒子状のアルミニウムを用いた防錆塗料に比べて優れた防錆効果が発揮されることが提案されている(下記特許文献1、下記特許文献2)。
【0003】
しかしながら、鱗箔状の亜鉛と鱗箔状のアルミニウムを用いた上記防錆剤は、密着力(JISK5600-5-7)が約2.5MPaと比較的優れているが、近年、より密着力(付着力)の優れた防錆剤が要求されてきている。
【0004】
また、鱗箔状の亜鉛と鱗箔状のアルミニウムを用いた防錆剤は、エアースプレー、エアレススプレーなどのスプレー塗布、ハケ塗り、どぶ漬けで防錆層を形成することが可能であるが、比較的簡便な割には効率良く塗布できるローラーによる塗布ができないという問題点がある。すなわち無理にローラー塗布をするとモロモロな状態になり全く使用に耐えない塗膜となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5207439号公報
【特許文献2】特許第5159833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を解決し、上記鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムを用いた防錆剤と同等に防錆機能を有し、且つ、鉄素材への密着力(付着力)がより遙かに優れており、エアースプレー、エアレススプレーなどのスプレー塗装、ハケ塗り、どぶ漬けのみならずローラーによる塗布も可能な鉄用の防錆剤を提供し、また、前記鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の鉄用防錆剤は(A)球形粒子状亜鉛、(B)アルミニウム粉末、(C)カーボンナノチューブ、(D)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、及び及び(E)ベントナイトを含有してなることを特徴とする。
【0008】
(2)前記(1)項に記載の鉄用防錆剤においては、(A)球形粒子状亜鉛の平均粒子径が15μm以下、(B)アルミニウム粉末の粒子径が150メッシュ以下、(C)カーボンナノチューブの粒子径が50nm以下であることが好ましい。
【0009】
なお、上記(A)の平均粒子径は、ブレーン空気透過・粉末度測定器で測定したものであり、上記(B)の粒子径は、JISZ8801-1により、(C)の粒子径は、レーザー回析粒子分布測定器で測定した粒子径である。
【0010】
(3)前記(1)~(2)項のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤においては、前記(A)、(B)、(C)成分の比率が質量比で前記(A)成分100に対し前記(B)成分が0.125~20、(C)成分が0.0125~4であり、[(A)+(B)+(C)合計]:前記(D)成分の質量比率は、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100を基準にして[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる割合で[(A)+(B)+(C)合計]70~80に対し(D)成分の質量比20~30であり、前記(E)成分の質量比が、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100に対して0.5~1であることが好ましい。
【0011】
(4)前記(1)~(3)項のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤においては、前記(D)成分が、
化学式R1
xSi(OR2)4-x (1)
ここでxは1又は2、R1がメチル基ないしフェニル基であり、R2がメチル基ないしエチル基で示されるシラン化合物ないしこれらのシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物であることが好ましい。
【0012】
(5)また、本発明の鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法は、前記(1)~(4)項のいずれか1項に記載の鉄用防錆剤を、鉄構造物に塗布し自然乾燥させることを特徴とする鉄構造物の防錆方法である。
【0013】
(6)前記(5)項に記載の鉄構造物の防錆方法においては、前記鉄用防錆剤の鉄構造物への塗布方法はスプレー法、ハケ塗り法、どぶ漬け法、又はローラー塗り法のいずれかである。
【発明の効果】
【0014】
(1)前記本発明の鉄用防錆剤は、前述した鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムを用いた防錆剤と同等に十分な防錆機能を有し、且つ、前述した鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムを用いた防錆剤を用いた場合に比べて鉄素材への密着力(付着力)がより遙かに優れており、簡便なローラーによる塗布も可能な鉄用の防錆剤を提供できる。また、本発明の防錆剤は、通常の通り、製造した防錆剤を容器に入れて保存、運搬するが、その際、亜鉛やアルミニウムが沈殿し、場合によっては容器の底に硬くなって付着することを防止でき、また、塗装する場合も塗料ダレを防止でき、添加した上述の粒子が均一に分散された塗膜が形成できる。
【0015】
(2)前記課題を解決するための手段の項の(2)項に記載の鉄用防錆剤において、前記(1)項に記載の鉄用防錆剤においては、(A)球形粒子状亜鉛の平均粒子径が15μm以下、(B)アルミニウム粉末の粒子径が150メッシュ以下、(C)カーボンナノチューブの粒子径が50nm以下を用いることにより緻密な防錆膜が形成でき鉄素材への密着力(付着力)が十分発揮され、塗膜強度も向上し好ましい。
【0016】
(3)前記課題を解決するための手段の項の(3)に記載の鉄用防錆剤において、前記(A)、(B)、(C)成分の比率が質量比で前記(A)成分100に対し前記(B)成分が0.125~20、(C)成分が0.0125~4であり、[(A)+(B)+(C)合計]:前記(D)成分の質量比率は、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100を基準にして[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる割合で[(A)+(B)+(C)合計]70~80に対し(D)成分の質量比20~30であり、前記(E)成分の質量比が、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100に対して0.5~1であるである好ましい態様とすることにより、上記(1)項で説明した効果のほか、防錆機能を十分保ち、鉄素材への密着力(付着力)、耐熱性を十分発揮でき、且つ、酸やアルカリ性雰囲気に対する耐食性も保持でき好ましい。
【0017】
(4)前記課題を解決するための手段の項の(4)項に記載の鉄用防錆剤において、(D)成分が、
化学式R1
xSi(OR2)4-x (1)
ここでxは1又は2、R1がメチル基ないしフェニル基であり、R2がメチル基ないしエチル基で示されるシラン化合物ないしこれらのシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物である好ましい態様とすることにより、汎用的なシラン化合物で、コスト面、硬化性、塗膜特性に優れ好ましい。
【0018】
(5)前記課題を解決するための手段の項の(5)項に記載の本発明の鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法においては、本発明の鉄用防錆剤を鉄素材に塗布してそのまま常温で放置することにより乾燥して防錆塗膜が形成でき、エネルギーコストがかからず、加熱炉に入らない大きな鉄鋼構造物などにおいても加熱乾燥が必要なく、前記した鉄用防錆剤の利点を発揮できる防錆方法を発揮でき好ましい。
【0019】
(6)前記課題を解決するための手段の項の(6)項に記載の本発明の鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法においては、防錆剤の塗布方法がスプレー法、ハケ塗り法、どぶ漬け法、又はローラー塗り法のいずれでもよく、比較的簡便な割には効率良く塗布できるローラーによる塗布も可能であり、ローラによる塗布でも付着力が十分で、防錆性も十分発揮できる防錆膜が形成でき好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の鉄用防錆剤は(A)球形粒子状亜鉛と(B)アルミニウム粉末と(C)カーボンナノチューブ、(D)オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物、及び(E)ベントナイトを含有してなることを特徴とする。
【0021】
本発明の鉄用防錆剤は、鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムを用いた防錆剤と比べて、鉄素材への密着性をより一段と向上させるため上記(A)成分は球状粒子状の亜鉛粉末を用い(B)成分も粒状や鱗箔状(薄箔)などの粉末を含んでもよい粉末状のアルミニウムと、(C)成分のカーボンナノチューブを用いることが必要であるが、前述した鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムの組み合わせを用いなくてもこれらの防錆剤と同等に十分な防錆機能を発揮させローラによる塗布も可能にするために、球状粒子状の亜鉛粉末とアルミニウム粉末とカーボンナノチューブ、前述の硬化性シリコーン化合物及び少量のベントナイトを使用することが必要である。多量のアルミニウムの代わりに少量のカーボンナノチューブを使用することにより鉄、亜鉛、アルミニウムの電位差間の導電性を増し、鉄鋼造物がより錆びにくく塗膜の強度や耐熱性や酸性雰囲気やアルカリ性雰囲気などでの耐食性も向上する。
【0022】
ベントナイトが添加されているので、前述したように、亜鉛やアルミニウムが沈殿したり、塗料ダレを防止でき、添加した上述の粒子が均一に分散された塗膜が形成できる。
ベントナイトには、いわゆる有機ベントナイト(モンモリロナイトの層表面を4級アンモニウムイオンと反応させた有機変性粘土)も含む意味である。
【0023】
(A)球形粒子状亜鉛粒子は平均粒子径で15μm以下の粉末であればよく、(B)アルミニウム粉末は150メッシュ以下(C)カーボンナノチューブは50nm以下であることが好ましく、あまりに粒子径の大きなものを用いると、造膜性に支障をきたすほか、防錆性や鉄素材への密着性(付着力)が低下する傾向となるので上述の範囲が好ましい。
【0024】
より好ましくは、(A)は1~5μm、(B)は200メッシュ以下で下限は防錆性の観点からは特に制限はないが、あまりに細かくなると粉塵爆発などの危険防止手当が必要になるので、400メッシュ程度であろう。
【0025】
(C)カーボンナノチューブは通常、製造市販されたものをそのまま用いればよいのでその下限は特に制限はないが、製造市販されているものは一般的に0.4~50nmとされているのでこれを用いればよい。
【0026】
用いる(D)成分は、オルガノキシシリル基を含有する硬化性シリコーン化合物である。ここで硬化性とは空気中の水分で硬化するタイプである。かかるシリコーン化合物は信越化学工業株式会社などで製造販売されているので容易に入手できる。
【0027】
好ましい上記シリコーン化合物としては
化学式R1
xSi(OR2)4-x
(1)
ここでxは1又は2、R1がメチル基ないしフェニル基であり、R2がメチル基ないしエチル基で示されるシラン化合物ないしこれらのシラン化合物の部分(共)加水分解縮合物であることが好ましい。
【0028】
これらの、シリコーン化合物は、汎用的なシラン化合物で、コスト面、硬化性、塗膜特性に優れ好ましい。特に有機溶媒を含有せず、常温硬化が可能な無溶剤常温硬化型シリコーン系コーティング剤として使用でき好ましい。
【0029】
特に限定するものではないが、これらのシリコーン化合物の少数の具体例を挙げると、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、前記トリオルガノキシシラン又はトリオルガノキシシランとジオルガノキシシランとの混合シランの部分(共)加水分解縮合物などが挙げられる。
【0030】
本発明の鉄用防錆剤においては、前記(A)、(B)、(C)成分の比率が質量比で前記(A)成分100に対し前記(B)成分が0.125~20、(C)成分が0.0125~4であり、[(A)+(B)+(C)合計]:前記(D)成分の質量比率は、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100を基準にして[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる割合で[(A)+(B)+(C)合計]70~80に対し(D)成分の質量比20~30であり、前記(E)成分の質量比が、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100に対して0.5~1であることが好ましい。
【0031】
この範囲の配合割合とすることにより、防錆機能を十分保ち、鉄素材への密着力(付着力)を十分発揮でき、且つ、耐熱性や酸やアルカリ性雰囲気に対する耐食性も保持でき好ましい。更に、亜鉛やアルミニウムが沈殿することを防止でき、また、塗装する場合も塗料ダレを防止でき、添加した上述の粒子が均一に分散された塗膜が形成でき好ましい。
【0032】
ここで、質量比で前記(A)成分100に対し、(B)成分が0.125~20という意味は、(A)成分の質量の基準を100とした場合に(B)成分の質量割合が0.125~20という意味であり、基準として(A)成分を1とすれば、(B)成分の割合は0.125~20の100分の1、即ち0.00125~0.2という意味である。より具体的に例を挙げて説明すると、(A)成分100gを使用する場合には、(B)成分は0.125g~20g使用するということであり、もし、(A)成分50gを使用する場合には、(B)成分の割合は0.125~20の2分の1即ち0.0625g~10gの割合で使用するという意味である。(C)成分に関しても質量割合は同様の意味である。
【0033】
[(A)+(B)+(C)合計]:(D)の質量比率に関しては、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]を100として100を基準にした場合に[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる割合で[(A)+(B)+(C)合計]70~80に対し(D)成分の質量比20~30という意味は、[(A)+(B)+(C)合計]が70の場合に(D)成分の質量比は30であり[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100、[(A)+(B)+(C)合計]が80の場合に(D)成分の質量比は20であり、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100である様な場合を意味する。例えば、[(A)+(B)+(C)合計]が75の場合に(D)成分の質量比は25であり、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]を100としての比率である。更に、例をとって説明すれば、[(A)+(B)+(C)合計]が76質量部の場合に(D)成分の使用量は24質量部であり[(A)+(B)+(C)+(D)合計]質量は100質量部となる。単位を質量部でなくグラムで示した例を挙げるとすれば、[(A)+(B)+(C)合計]が40gの場合に(D)成分の使用量は10gであり[(A)+(B)+(C)+(D)合計]質量は50gとなる。これを上記質量割合の比率で表すと[(A)+(B)+(C)合計]が40、(D)成分の使用量は10の比率になるから、これを比率を変えずに2倍すると[(A)+(B)+(C)合計]が80、(D)成分の使用量は20の比率になり[(A)+(B)+(C)+(D)合計]が100となる。
【0034】
なお、(E)成分の使用比率は、質量比が、[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100に対して0.5~1であることが好ましい。この意味は、例えば質量比を質量部で表現すれば[(A)+(B)+(C)+(D)合計]100質量部に対して(E)成分の使用比率は、0.5~1質量部の割合であることを意味している。
【0035】
鉄素材への本発明の鉄用防錆剤の塗布方法は、特に限定するものではないが、エアースプレー、エアレススプレーなどのスプレー塗装法、ハケ塗り法、どぶ漬け法のみならずローラーによる塗布も可能である。特に好ましいのはスプレー法である。
【0036】
ここで本発明の防錆剤の塗布の対象となる鉄素材としては、特に限定するものではないが、鉄単独のみならず、通常、機械構造用鋼、建設用鋼材、高張力鋼、電磁鋼鈑、鋳鉄、ステンレス鋼、劣化した溶融亜鉛鍍金鋼板や通電性が確保出来る表面処理鋼板、その他、目的に応じて鉄に添加される炭素、シリコン、マンガン、リン、又は、硫黄などが補助的な役割で入ったもののほか、赤さびなどが生じる可能性のある鉄素材やなどが挙げられる。
【0037】
本発明の防錆剤の粘度は特に限定するものではないがJIS K 5400 1990で、通常550~750mPa・s程度である。
【0038】
本発明の防錆剤の鉄素材への塗布量は塗布対象物により異なるので一概に規定しがたいが、標準的には、300~600g/m2程度である。
【0039】
本発明の防錆剤の鉄素材への塗布後の乾燥は、常温で放置することによる自然乾燥でよい。空気中の水分で硬化する。用いる硬化性シリコーン化合物の種類により異なるが、好適なものをデータで示せばJIS K 5600-1-1で半硬化乾燥(指先で軽くこすってすり跡がつかない状態)が2~3時間(23℃50%RH)、完全硬化5~7日程度である。
【0040】
本発明の防錆剤の塗布対象物件は、特に限定するものではないが、少数の例をあげるとすれば、例えば、橋梁、歩道橋、各種プラント設備(機器、配管、鉄架鋼など)、CUI(保温材下腐食)対策下地塗料、送電塔、電波塔、海浜建造物、鋼製水門や起伏ゲートなどの河川管理施設、ガスタンク、風力発電のプロペラ塔、石油備蓄基地などの鉄素材が用いられている部位など錆が発生しやすい厳しい環境においての構築物や主要な部分が鉄鋼材である構造物や物品に好適に適用できる。
【実施例0041】
本発明の理解を容易にするために、以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
平均粒子径が4μmの(A)球形粒子状亜鉛69.99質量部、(B)300メッシュアルミニウム粉末2.52質量部、(C)粒子径が0.5~50nmのものが混在するカーボンナノチューブ1.5質量部
(D)成分
(D1)“KR-400”信越化学工業株式会社製のオルガノアルコキシシランの部分縮合物(有機アルミニウム化合物硬化触媒入り)16質量部
(D2)“X40-9225”信越化学工業株式会社製のオルガノアルコキシシランの部分縮合物7質量部
(D3)“KBM-22” 信越化学工業株式会社製のジメチルジメトキシシラン1.5質量部
更に、(E)成分として有機ベントナイト(モンモリロナイトの層表面を4級アンモニウムイオンと反応させた有機変性粘土)を0.69質量部
を用意し、
各原料を減圧装置付きタンクに投入後、空気中の湿気を避けるためゲージ圧で0.08~0.04MPaの減圧環境下常温で50時間撹拌し、防錆剤とした。防錆剤の粘度は「JIS K 5400:1990 粘度 4.5.3回転粘度計法」に準ずる方法で、東機産業株式会社製デジタル回転粘度計VB-10M形 ローターNo. M3、回転数60rpm(60秒) 試験温度23±2℃で667mPaであった。
【0043】
(比較実施例1)
鱗箔状でその平面部の最大対角長又は最大直径が大きさ30~60μm、厚さ1~5μmの(A)鱗箔状亜鉛粉末69.99質量部、(B)鱗箔状150メッシュアルミニウム2.52質量部、
(D)成分
(D1)“KR-400”信越化学工業株式会社製のオルガノアルコキシシランの部分縮合物(有機アルミニウム化合物硬化触媒入り)16質量部
(D2)“X40-9225”信越化学工業株式会社製のオルガノアルコキシシランの部分縮合物7質量部
(D3)“KBM-22” 信越化学工業株式会社製のジメチルジメトキシシラン1.5質量部
更に、(E)成分としての有機ベントナイト(モンモリロナイトの層表面を4級アンモニウムイオンと反応させた有機変性粘土)0.69質量部
を用意し、
各原料を減圧装置付きタンクに投入後、空気中の湿気を避けるためゲージ圧で0.08~0.04MPaの減圧環境下常温で50時間撹拌し、防錆剤とした。防錆剤の粘度は「JIS K 5400:1990 粘度 4.5.3回転粘度計法」に準ずる方法で、東機産業株式会社製デジタル回転粘度計VB-10M形 ローターNo. M3、回転数60rpm(60秒) 試験温度23±2℃で678mPaであった。
【0044】
実施例1と比較実施例1で得られたこれらの防錆剤を最も一般的なSS400鋼板(厚さ3mm、縦150mm、横75mm)の表面をブラスト処理し、表面をきれいにしたテストピースを2枚用意し、それぞれにスプレー法で乾燥膜厚80μm(340g/m2)になるように塗布した後、25℃/相対湿度65%雰囲気下で5日間放置して防錆剤の硬化被膜とした試験片を作成した。(テストピースAが実施例1、テストピースBが比較実施例1)。更に、比較のため溶融亜鉛メッキHDZ55鋼板(日本テストパネル株式会社製、HDZ55は550g/m2の亜鉛が付着したグレード)(テストピースC)を1枚用意し、テストピースA、B、Cとも腐食促進試験(キャス試験JIS H 8502)を13日間行い赤さびの発生具合を試験した。
【0045】
防錆塗膜の付着強さ(密着力)の試験は、JIS K 5600-5-7(引っ張り試験)をテストピースA,Bの2枚を測定した。
【0046】
本発明の防錆剤を塗布したテストピースAと比較実施例のテストピースBは、2枚とも赤さびの発生は認められなかった。一方、テストピースCは、表面のほぼ50%に赤さびの発生が認められた。
【0047】
防錆塗膜の付着強さは、実施例1は9.77Mpa、比較実施例1は2.5Mpa、であり、上術した鱗箔状亜鉛と鱗箔状アルミニウムを用いた比較実施例1よりもはるかにすぐれた密着力(付着力)を示した。実施例1の防錆剤をローラー塗装法で同様のテストピースに同様に塗布し、同様に塗膜を形成させた場合も、若干表面の平滑さは劣るが、ほぼ同様の防錆機能を発揮できた。一方、比較実施例1の防錆剤をローラー塗装法で同様のテストピースに同様に塗布し、同様に塗膜を形成させようとしたが塗膜がモロモロの状態になり、防錆塗膜としては不合格であった。
本発明の鉄用防錆剤は、各種、鉄製品の錆の発生を防ぐのに有用であり、本発明の鉄用防錆剤を用いた鉄構造物の防錆方法は、例えば、橋梁、歩道橋、各種プラント設備(機器、配管、鉄架鋼など)、CUI(保温材下腐食)対策下地塗料、送電塔、電波塔、海浜建造物、鋼製水門や起伏ゲートなどの河川管理施設、ガスタンク、風力発電のプロペラ塔、石油備蓄基地などの鉄素材が用いられている部位など錆が発生しやすい厳しい環境においての構築物や主要な部分が鉄鋼材である構造物や物品の防錆に好適に適用できる。