(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070784
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム照射装置及び荷電粒子ビーム治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183092
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】金井 芳治
(72)【発明者】
【氏名】原 洋介
(72)【発明者】
【氏名】松崎 有華
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG12
4C082AG41
4C082AG42
4C082AR02
4C082AR05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】荷電粒子ビーム照射装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム照射装置10は、加速器20からの荷電粒子ビームを1つのアイソセンターOに輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系30と、複数のビーム経路のうちの第1ビーム経路上に配置され、通過する荷電粒子ビームの進行をブロックする遮蔽体110とを備え、ビーム輸送系は、荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石33と、複数のビーム経路を通る又は複数のビーム経路のうちの1つのビーム経路を通る荷電粒子ビームをアイソセンターに収束させる収束電磁石40とを備え、第1ビーム経路は、振分電磁石が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが振分電磁石を通過し、アイソセンターに照射されるビーム経路であり、第1ビーム経路上を荷電粒子ビームが通過するときに、遮蔽体は、荷電粒子ビームが通過できるように第1ビーム経路から退避する、荷電粒子ビーム照射装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム照射装置であって、
加速器(20)から射出された荷電粒子ビームを1つのアイソセンター(O)に輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系(30)と、
前記複数のビーム経路のうちの第1ビーム経路上に配置され、前記第1ビーム経路を通過する荷電粒子ビームの進行をブロックする遮蔽体(110)と
を備え、
前記ビーム輸送系(30)は、
荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石(33)と、
前記振分電磁石よりも下流側に設置され、前記複数のビーム経路を通る又は前記複数のビーム経路のうちの1つのビーム経路を通る荷電粒子ビームを前記アイソセンターに収束させる収束電磁石(40)と
を備え、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが前記振分電磁石を通過し、前記アイソセンターに照射されるビーム経路であり、
前記第1ビーム経路に荷電粒子ビームを通過させるときには、前記遮蔽体(110)は、当該荷電粒子ビームが通過できるように前記第1ビーム経路から退避する、前記荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記遮蔽体は、前記振分電磁石よりも下流側であり、且つ前記収束電磁石の上流側に配置され、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石の偏向起点Qと前記アイソセンターとを通る線上にある、請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項3】
荷電粒子ビーム照射装置であって、
加速器(20)から射出された荷電粒子ビームを1つのアイソセンター(O)に向けて輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系(30)と、
照射ノズル(50)が移動するガイドレール(55)に沿って移動し、前記ガイドレールに沿った方向において前記照射ノズル(50)を挟むように配置された第1及び第2の遮蔽体(110a、110b)と
を備え、
前記ビーム輸送系は、
荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石(33)と、
前記振分電磁石よりも下流側に設置され、前記複数のビーム経路を通る荷電粒子ビームを前記アイソセンターに収束させる収束電磁石(40)と
を備え、
前記第1及び第2の遮蔽体は、前記照射ノズルに着脱自在に付着し、前記照射ノズルの移動に従い移動するが、前記ガイドレールの第1ビーム経路上の位置に来ると固定されるように構成されており、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが前記振分電磁石及び前記収束電磁石を通過し、前記アイソセンターに照射されるビーム経路である、前記荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項4】
前記振分電磁石は、偏向起点Qにて1度以上の偏向角φで荷電粒子ビームを偏向させ、
前記収束電磁石は、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されたコイル対を備え、
前記コイル対は、電流を入力すると、荷電粒子ビームの進行方向(X軸)に直交する方向(Z軸)に磁場が向いた有効磁場領域を生成するよう構成されており、ここで、X軸及びZ軸に直交する軸をY軸とし、
XY面において、
前記偏向起点QにてX軸に対する偏向角φで偏向し、前記有効磁場領域に入射した荷電粒子ビームは、前記有効磁場領域により偏向され、X軸に対する照射角θで前記アイソセンターに照射され、
前記有効磁場領域の荷電粒子ビームの出射側の境界上の任意の点P2は、前記アイソセンターから等距離r
1の位置にあり、
前記有効磁場領域の荷電粒子ビームの入射側の境界上の点P1と前記点P2は、半径r
2及び中心角(θ+φ)の円弧上にあり、
前記偏向起点Qと前記点P1との間の距離Rは、前記偏向起点Qと前記アイソセンターとの間の距離をLとすると、関係式(4):
【数1】
を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項5】
荷電粒子ビームを生成する加速器と、
前記加速器で生成された荷電粒子ビームを前記アイソセンターに照射する、請求項1~4のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム照射装置と
を含む荷電粒子ビーム治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射装置及び荷電粒子ビーム治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高エネルギーに加速された荷電粒子ビーム(「粒子線」ともいう。)を癌などの悪性腫瘍に照射し、悪性腫瘍を治療する粒子線治療が行われている。荷電粒子ビームを物体に照射すると、物体内の荷電粒子ビームの経路に沿って物体にエネルギー(線量)が付与される。物体内部の限られた領域(標的)に集中して線量を付与する場合、荷電粒子ビームが標的に重なるように、荷電粒子ビームを様々な方向から照射することで線量の集中性を高めることが行われる。
【0003】
特許文献1は、広い角度範囲から入射する荷電粒子ビームを偏向し、アイソセンターに収束させる収束電磁石を備えた荷電粒子ビーム照射装置を開示する。
特許文献2は、治療室内のビーム経路で、独立した複数のビーム経路を選択することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6364141号
【特許文献2】特開2002-113118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同一の治療室(特許文献1であれば、偏向起点Q以降の下流でビームが進行するエリア)内に、荷電粒子ビームを照射する複数のビーム経路が存在する荷電粒子ビーム照射装置においては、所定のビーム経路を通じて荷電粒子ビームの照射を行っているときに、万が一、意図しないビーム経路を通り荷電粒子ビームが進行し、患者に意図せず照射されてしまうおそれがある。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明は、そのような意図しない照射を防止する荷電粒子ビーム照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には以下の態様〔1〕~〔5〕が含まれる。
〔1〕
荷電粒子ビーム照射装置であって、
加速器(20)から射出された荷電粒子ビームを1つのアイソセンター(O)に輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系(30)と、
前記複数のビーム経路のうちの第1ビーム経路上に配置され、前記第1ビーム経路を通過する荷電粒子ビームの進行をブロックする遮蔽体(110)と
を備え、
前記ビーム輸送系(30)は、
荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石(33)と、
前記振分電磁石よりも下流側に設置され、前記複数のビーム経路を通る又は前記複数のビーム経路のうちの1つのビーム経路を通る荷電粒子ビームを前記アイソセンターに収束させる収束電磁石(40)と
を備え、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが前記振分電磁石を通過し、前記アイソセンターに照射されるビーム経路であり、
前記第1ビーム経路に荷電粒子ビームを通過させるときには、前記遮蔽体(110)は、当該荷電粒子ビームが通過できるように前記第1ビーム経路から退避する、前記荷電粒子ビーム照射装置。
〔2〕
前記遮蔽体は、前記振分電磁石よりも下流側であり、且つ前記収束電磁石の上流側に配置され、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石の偏向起点Qと前記アイソセンターとを通る線上にある、〔1〕に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
〔3〕
荷電粒子ビーム照射装置であって、
加速器(20)から射出された荷電粒子ビームを1つのアイソセンター(O)に向けて輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系(30)と、
照射ノズル(50)が移動するガイドレール(55)に沿って移動し、前記ガイドレールに沿った方向において前記照射ノズル(50)を挟むように配置された第1及び第2の遮蔽体(110a、110b)と
を備え、
前記ビーム輸送系は、
荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石(33)と、
前記振分電磁石よりも下流側に設置され、前記複数のビーム経路を通る荷電粒子ビームを前記アイソセンターに収束させる収束電磁石(40)と
を備え、
前記第1及び第2の遮蔽体は、前記照射ノズルに着脱自在に付着し、前記照射ノズルの移動に従い移動するが、前記ガイドレールの第1ビーム経路上の位置に来ると固定されるように構成されており、
前記第1ビーム経路は、前記振分電磁石が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが前記振分電磁石及び前記収束電磁石を通過し、前記アイソセンターに照射されるビーム経路である、前記荷電粒子ビーム照射装置。
〔4〕
前記振分電磁石は、偏向起点Qにて1度以上の偏向角φで荷電粒子ビームを偏向させ、
前記収束電磁石は、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されたコイル対を備え、
前記コイル対は、電流を入力すると、荷電粒子ビームの進行方向(X軸)に直交する方向(Z軸)に磁場が向いた有効磁場領域を生成するよう構成されており、ここで、X軸及びZ軸に直交する軸をY軸とし、
XY面において、
前記偏向起点QにてX軸に対する偏向角φで偏向し、前記有効磁場領域に入射した荷電粒子ビームは、前記有効磁場領域により偏向され、X軸に対する照射角θで前記アイソセンターに照射され、
前記有効磁場領域の荷電粒子ビームの出射側の境界上の任意の点P2は、前記アイソセンターから等距離r
1の位置にあり、
前記有効磁場領域の荷電粒子ビームの入射側の境界上の点P1と前記点P2は、半径r
2及び中心角(θ+φ)の円弧上にあり、
前記偏向起点Qと前記点P1との間の距離Rは、前記偏向起点Qと前記アイソセンターとの間の距離をLとすると、関係式(4):
【数1】
を満たす、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
〔5〕
荷電粒子ビームを生成する加速器と、
前記加速器で生成された荷電粒子ビームを前記アイソセンターに照射する、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム照射装置と
を含む荷電粒子ビーム治療システム。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【
図2A】第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【
図2C】第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【
図2D】第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【
図3】第2実施形態に係る収束電磁石の概略構成図である。
【
図4】第2実施形態に係る有効磁場領域の形成を説明するための図である。
【
図5】第2実施形態に係る遮蔽機構の概略構成図である。
【
図6】第2実施形態に係る遮蔽体の動きを説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の照射制御のフローチャートである。
【
図8】第3実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明に係る荷電粒子ビーム照射装置10の概略構成図である。
図1の(a)は本発明の第1実施形態に係る図であり、偏向起点Q以降の下流でビームが進行するエリア内に、一つのアイソセンターOへ荷電粒子ビームを照射する独立した複数のビーム経路が存在する荷電粒子ビーム照射装置である。また、
図1の(b)は本発明の第2実施形態に係る図であり、偏向起点Q以降の下流でビームが進行するエリア内に、一つのアイソセンターOへ荷電粒子ビームを照射する連続的な複数のビーム経路が存在する荷電粒子ビーム照射装置である。
【0010】
本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置10は、加速器20から射出された荷電粒子ビームをアイソセンターOに向けて輸送する複数のビーム経路を有するビーム輸送系30と、ビーム輸送系30の複数のビーム経路のうちの第1ビーム経路上に配置され、第1ビーム経路を通過する荷電粒子ビームの進行をブロックする(遮蔽する)遮蔽機構100の遮蔽体110とを備える。第1ビーム経路上に荷電粒子ビームを通過させたいときには、遮蔽体110は、荷電粒子ビームが通過できるように第1ビーム経路上から移動(退避)する。第1ビーム経路は、振分電磁石33が励磁されていないときに、荷電粒子ビームが振分電磁石33(又は振分電磁石33及び収束電磁石40)を通過し、アイソセンターOに照射されるビーム経路である。すなわち、第1ビーム経路は、振分電磁石33の偏向起点QとアイソセンターOとを通る線上にある。
【0011】
荷電粒子ビーム照射装置10は、収束電磁石40、照射ノズル50、及び制御装置60をさらに備える。また、本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム治療システムは、加速器20及び荷電粒子ビーム照射装置10を含む。
【0012】
加速器20は、荷電粒子ビームを生成する装置であり、例えばシンクロトロン、サイクロトロン、又は線形加速器である。加速器20で生成された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系30を通じてアイソセンターOに収束される。
【0013】
ビーム輸送系30には、荷電粒子ビームを偏向させる振分電磁石33と、振分電磁石33よりも下流側に設置され、複数のビーム経路のいずれかを通じて荷電粒子ビームをアイソセンターOに収束させる収束電磁石40とが含まれる。また、ビーム輸送系30には、1つ又は複数の荷電粒子ビーム調整手段31、真空ダクト32、扇型真空ダクト34、及び照射ノズル50がさらに含まれていてもよい。ビーム経路はすべて、真空ダクト32内、振分電磁石33内、及び収束電磁石40内の真空域を通り治療室大気中にあるアイソセンターOに至るものである。
【0014】
制御装置60は、照射制御部62、遮蔽体駆動制御部64、及び遮蔽体位置検出部66などから構成される。制御装置60は、照射コンピューター(不図示)の送信する照射情報に従い、照射に関わる装置の制御を行う。遮蔽体駆動制御部64及び遮蔽体位置検出部66は、遮蔽体110を所定の配置位置に移動させ、制御装置60は、遮蔽体110の配置位置を監視し、荷電粒子ビームの出射をコントロールする。
【0015】
本発明に関する第1実施形態について説明する。
図2Aは治療室を2室持つ粒子線治療施設の概略図である。それぞれの治療室は、振分電磁石33(図中33A、33B)を起点とし、治療室内の1つのアイソセンターO(図中O-A、O-B)に収束する複数の独立したビーム経路を有している。なお、
図1及び
図2A~Cにおいて、符号の後ろの括弧内数字について、(0A)はゼロアンペアを意味し、(0)は0度方向からの荷電粒子ビームの照射の際に利用される電磁石等の要素に付され、(90)は90度方向からの荷電粒子ビームの照射の際に利用される電磁石等の要素に付され、(45)は45度方向からの荷電粒子ビームの照射の際に利用される電磁石等の要素に付されたものである。
【0016】
加速器20から出射し、輸送されてきた荷電粒子ビームは、偏向起点Q(図中Q-A、Q-B)で振分電磁石33(図中33A、33B)により2つの経路に振り分けられ、収束電磁石40により意図した照射角度から照射される。すなわち、偏向起点Q(図中Q-A、Q-B)でのビーム進行軸に対して0度、45度、及び90度方向からの照射経路に振り分けられる。例えば、治療室Bで照射角度が45度に選択された場合、振分電磁石33B及び収束電磁石40B(45)をはじめとした電磁石に、予め励磁電流値等の設定変更を行う。全ての設定が切り替わったところで荷電粒子ビームの照射が開始される。このとき、
図2A中に示すビーム輸送系30の太矢印線のビーム経路が、設定経路220(意図した照射経路)である。なお、この場合、治療室Aは選択されていないため、照射経路には含まれない。
【0017】
図2Bを用いて、遮蔽体110を用いない場合に、振分電磁石33が意図せず機能しないときに生じる問題について説明する。例えば、45度あるいは90度からの照射角度が選択されたにも関わらず、すなわち振分電磁石33Bに励磁電流を0A(ゼロアンペア)以外の値で指示したにも関わらず、意図せずに振分電磁石33Bの励磁電流が0Aとなってしまった場合、振分電磁石33Bに入射する荷電粒子ビームは、振分電磁石33Bで偏向されず0度方向の照射経路を進行することになる。このとき、
図2B中に示すビーム輸送系30の太矢印線で示す第1ビーム経路210を荷電粒子ビームが進行し、アイソセンターO-Bへの意図しない照射がなされてしまう。
【0018】
設定経路220が第1ビーム経路210と異なる場合に、荷電粒子ビームがアイソセンターOへ向けて射出される条件は、第1ビーム経路210に遮蔽体110が配置されていることである。一方、設定経路220が第1ビーム経路210と同じ経路となる場合にはビーム経路を開放すること、すなわち遮蔽体110が第1ビーム経路210から退避することが条件となる。遮蔽体110の位置は制御装置60が監視する。例えば、
図2Cに示す例では、治療室Bにおいて45度からの照射角度が選択されたにもかかわらず振分電磁石33Bの励磁電流が0A(ゼロアンペア)と意図せずになってしまった場合であっても、第1ビーム経路210を進行する荷電粒子ビームを遮蔽体110Bが遮断して、アイソセンターO-Bに到達することを防止する。なお、治療室Aは選択されていないため、遮蔽体110Aの位置は治療室Bの照射条件に含まれても、含まれなくてもよい。
【0019】
なお、照射角度が0度に選択された場合、設定経路220(意図した照射経路)は第1ビーム経路210と同じ経路となる。この場合、
図2Dに示すように、遮蔽体110Bは
設定経路220(第1ビーム経路210)から退避することで、アイソセンターO-Bへの照射が可能となる。
【0020】
本発明に関する第2実施形態について説明する。荷電粒子ビーム照射装置10のビーム輸送系30は、振分電磁石33を起点とし、治療室内の1つのアイソセンターOに収束する複数の連続的なビーム経路を有している。振分電磁石33と収束電磁石40の少なくとも2つの偏向電磁石電源の励磁電流値を様々に組み合わせることによって所望の照射角度を選択できる。
図3は、第2実施形態における振分電磁石33と収束電磁石40の概要図である。
【0021】
ビーム輸送系30は、振分電磁石33及び収束電磁石40により生じる複数のビーム経路を含む。複数のビーム経路は、後述するように、振分電磁石33による荷電粒子ビームの偏向角φ及び収束電磁石40による荷電粒子ビームの照射角θに応じて異なる。
【0022】
複数のビーム経路のうちの第1ビーム経路210は、振分電磁石33が意図せず励磁しない場合に、荷電粒子ビームがアイソセンターOに向けて自然に進行することとなるビーム経路である。より具体的には、第1ビーム経路210は、振分電磁石33が励磁されていない(機能していない)ときに、荷電粒子ビームが振分電磁石33及び収束電磁石40を通過し、アイソセンターOに照射されるビーム経路である。
図4において、第1ビーム経路210とは、φ≠0度かつθ≠0度と設定されたにも関わらず、振分電磁石33が励磁されず、φ=0度かつθ=0度で荷電粒子ビームが進行した場合のビーム経路である。また、φ=0度かつθ=0度の設定経路220は、φ≠0度かつθ≠0度の場合の第1経路210と同じビーム経路となる。
【0023】
加速器20から荷電粒子ビームが、設定経路220を通りアイソセンターOへ向けて射出される条件は、第1ビーム経路210に遮蔽体が配置されることである。φ≠0度かつθ≠0度の照射が選択される場合では、常に第1ビーム経路210に遮蔽体110がビームを遮るように配置されている。一方、φ=0度かつθ=0度の照射が選択される場合では、設定経路220は第1ビーム経路210と同じ経路となるため、荷電粒子ビームが進行できるよう、設定経路220(第1ビーム経路210)から遮蔽体110が退避する。このとき、遮蔽体110の位置は、制御装置60により監視される。なお、遮蔽体110が所定の位置から外れると遮蔽体110のステータスは不定状態となり、即座にビームは遮断される。
【0024】
加速器20、荷電粒子ビーム調整手段31、及び振分電磁石33は、真空ダクト32で接続され、振分電磁石33及び収束電磁石40は
図1に示される扇型真空ダクト34で接続されている。XY面における扇型真空ダクト34の形状を扇型状とすることで、1度以上、5度以上、又は10度以上の偏向角φで偏向された荷電粒子ビームであっても前記真空ダクト内を通過でき、矩形状のものと比べて小型化でき、設置スペースを低減できる。
【0025】
荷電粒子ビームは、上流側の加速器20で生成され、減衰を避ける(又は低減する)ために真空ダクト32、34内を進み、荷電粒子ビーム調整手段31による調整を受けながら、振分電磁石33及び収束電磁石40に導かれる。
【0026】
荷電粒子ビーム調整手段31は、荷電粒子ビームのビーム形状及び/又は線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石などを、仕様に応じて適宜用いる。
【0027】
ビーム輸送系30の複数のビーム経路は、振分電磁石33による偏向角φ及び収束電磁石40による照射角θに応じて異なる。荷電粒子ビームが受ける光学的要素も偏向角φ及び照射角θに応じて変わり、アイソセンターOでの荷電粒子ビームのビーム形状が偏向角φ及び照射角θに応じて変動することがある。この変動に対して、例えば、収束電磁石40よりも上流側に設けられた荷電粒子ビーム調整手段31を偏向角φ及び照射角θごとに調整し、アイソセンターOにおける荷電粒子ビームのビーム形状が適切になるように調整するようにしてもよい。
【0028】
振分電磁石33は、荷電粒子ビームを偏向角φで連続的に偏向し、収束電磁石40へ荷電粒子ビームを出射するよう構成されている。また、収束電磁石40は、アイソセンターOに向かう荷電粒子ビームの照射角θを連続的に変えるよう構成されている。ここで、本出願人による先行特許(特許6364141号、特許6387476号、及び特許6734610号)の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。振分電磁石33及び収束電磁石40の一例について以下に説明する。
【0029】
照射ノズル50は、荷電粒子ビームを用いた治療が行われる治療室内に位置し、XY面において収束電磁石40が生成する有効磁場領域の出射側の形状(境界形状)に沿ったガイドレール55(
図8)に沿って、連続的に移動する。該有効磁場領域の出射側からアイソセンターOに向かう荷電粒子ビームは照射ノズル50内を通過し、照射ノズル50により荷電粒子ビームの進行方向、形状、及びエネルギーなどが微調整される。
【0030】
照射ノズル50は、走査電磁石(不図示)、ビームモニタ51、及びエネルギー変調手段(不図示)を備える。走査電磁石は、流れる電流量や電流の向きを調整することで、照射ノズル50から出射する荷電粒子ビームの進行方向を微調整し、比較的狭い範囲内で荷電粒子ビームをスキャン(走査)可能にする。ビームモニタ51は、荷電粒子ビームを監視し、線量モニタやビームの位置及び平坦度を計測する。エネルギー変調手段は、荷電粒子ビームのエネルギーを調整して荷電粒子ビームの患者内に到達する深さを調整する。エネルギー変調手段は、例えば、レンジモジュレータ、散乱体、リッジフィルタ、患者コリメータ、患者ボーラス、アプリケータ、又はこれらの組み合わせである。
【0031】
図3(a)は、収束電磁石40の概略構成図である。偏向角φ及び収束角θごとに異なる複数のビーム経路も描かれている。ここで、荷電粒子ビームの進行方向をX軸、収束電磁石40が生成する磁場の方向をZ軸、X軸及びZ軸に直交する方向をY軸とする。収束電磁石40は、XY面において、X軸に対する偏向角φの広い範囲から入射する荷電粒子ビームを、アイソセンターOに収束させるよう構成されている。なお、
図4においては、照射ノズル50は省略し、説明を簡単にするために、アイソセンターOをXYZ空間の原点とし、上流側(加速器側)をX軸の正の方向としている。
【0032】
偏向角φの範囲は、-90度超~+90度未満の範囲にあり、プラス(+Y軸方向)の偏向角範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角範囲は異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス側の最大偏向角(φ=φMAX)を10度、15度、20度、25度、30度、35度、40度、45度、50度、60度、70度、80度、及び85度のうちのいずれかとし、マイナス側の最大偏向角(φ=-φMAX)を-10度、-15度、-20度、-25度、-30度、-35度、-40度、-45度、-50度、-60度、-70度、-80度、及び-85度のうちのいずれかとしてもよい。
【0033】
収束電磁石40は、1組以上のコイル対を備え、該コイル対は、荷電粒子ビームの進行方向と荷電粒子ビームの偏向角φの広がり方向に直交する方向(図中Z軸方向)を向いた一様な磁場を生成し(有効磁場領域41a、41b)、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されている。収束電磁石40の1組のコイル対が生成する有効磁場領域は、
図3(a)に示すようにXY平面において三日月様の形状を有し、その詳細については後述する。なお、荷電粒子ビームが通過する、対向するコイル対間の隙間は(Z軸方向の距離)、XY面における荷電粒子ビームが広がる範囲に比べて十分に小さいため、ここでは荷電粒子ビームのZ軸方向の広がりについては考慮しない。
【0034】
図3(b)は、収束電磁石40のA-A線断面図である。収束電磁石40は、好ましくは少なくとも二組のコイル対44a、44bを備える。コイル44a、44bの内部にはそれぞれ磁極45a、45bが組み込まれ、磁極45a、45bにはヨーク46が接続されている。収束電磁石40には電源装置(後述する電磁石制御部122)が接続されており、電源装置からコイル対44a、44bに電流(励磁電流)が供給されることで、収束電磁石40が励磁し、有効磁場領域41a、41b(総称して有効磁場領域41ともいう。)が形成される。
【0035】
なお、有効磁場領域41aの範囲と有効磁場領域41bの範囲は、異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス(+Y軸方向)の偏向角φの範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角φの範囲が非対称であれば、それに応じて有効磁場領域41a、41bも非対称に形成することで、使用されない有効磁場領域を削減できる。
【0036】
振分電磁石33により偏向され、収束電磁石40に入射する荷電粒子ビームの偏向角φの範囲は、プラスの最大偏向角(φ=φmax)からマイナスの最大偏向角(φ=-φmax)の範囲であり、プラスの最大偏向角φmaxは、10度以上90度未満の角度であり、マイナスの最大偏向角-φmaxは、-90度超-10度以下の角度である。偏向角φ及び後述する照射角θは、XY面において、X軸に対する荷電粒子ビームの経路の角度である。
【0037】
プラスの偏向角範囲(φ=0超~φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第1のコイル対44aの有効磁場領域41aにより偏向され、照射ノズル50を通りアイソセンターOに照射される。マイナスの偏向角範囲(φ=0未満~-φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第2のコイル対44bの有効磁場領域41bにより偏向され、照射ノズル50を通りアイソセンターOに照射される。有効磁場領域41aと有効磁場領域41bの磁場の向きは互いに反対の方向である。なお、振分電磁石33から偏向角φ=0で収束電磁石40に入射する荷電粒子ビームは、有効磁場領域41a、41bのいずれか又は両領域41a、41bの間を通過し、照射ノズル50を通じてアイソセンターOに収束する。
【0038】
収束電磁石40に入射する荷電粒子ビームの偏向角φは、振分電磁石33により制御される。振分電磁石33は、加速器(不図示)から供給される荷電粒子ビームの進行方向(図中X軸)に直交する方向(図中Z軸)を向いた磁場を生成し、通過する荷電粒子ビームを偏向する電磁石と、該磁場の強度及び向きを制御する制御部とを備える(いずれも不図示)。振分電磁石33は、磁場の強度及び向き(Z軸方向)を制御することで、XY面において荷電粒子ビームを偏向し、偏向起点Qにて偏向角φで偏向した荷電粒子ビームを収束電磁石40に出射する。ここで、偏向起点QとアイソセンターOはX軸上にある。
【0039】
図4を参照して、収束電磁石40の有効磁場領域41aを形成するための計算式について説明する。なお、本実施形態では、Z軸方向への荷電粒子ビームの偏向は考慮しないので、XY面における有効磁場領域の形成について説明する。収束電磁石40の有効磁場領域41aについて説明するが、有効磁場領域41bについても同じであるため、説明は省略する。
【0040】
まず、収束電磁石40の荷電粒子ビームの出射側43の有効磁場領域41aの境界は、アイソセンターOから等距離r1の位置にある範囲となるように決める。次に、収束電磁石40の荷電粒子ビームの入射側42の有効磁場領域41aの境界は、後述する関係式(1)~(5)に基づき、アイソセンターOから所定の距離Lの位置にある仮想上の偏向起点Qにて偏向角φで偏向し、入射する荷電粒子ビームが、アイソセンターOに収束するように決められる。ここで、仮想上の偏向起点Qは、振分電磁石33の中心で荷電粒子ビームが偏向角φのキックを極短距離の間に受けると仮定した点である。
【0041】
偏向角φで輸送されてきた荷電粒子ビームは、入射側42の有効磁場領域41aの境界上の任意の点P1から入り、有効磁場領域41a内で曲率半径r2の円運動を行い(このときの中心角は(φ+θ)となる。)、出射側43の有効磁場領域41aの境界上の点P2から出て、アイソセンターOに向けて照射される。つまり、点P1と点P2とは半径r2及び中心角(φ+θ)の円弧上にある。
【0042】
XY面においてアイソセンターOを原点とするXY座標系を想定する。出射側43の点P2とアイソセンターOとを結ぶ直線とX軸とがなす角度を照射角θとすると、入射側42の点P1の座標(x,y)、偏向角φ、及び点Qと点P1との間の距離Rは、以下の関係式(1)~(4)から求まる。
【数2】
【0043】
ここで、有効磁場領域41aには一様な磁束密度Bの磁場が生じており、荷電粒子ビームの運動量をp(およそ加速器に依存する)、電荷をqとすると、磁場中で偏向される荷電粒子ビームの曲率半径r
2は、式(5)で表される。
【数3】
【0044】
上記関係式(1)~(5)に基づき、収束電磁石40のコイル対44a及び磁極45aの形状及び配置を調整し、コイル対44aに流す電流を調整することで、有効磁場領域41aの境界の形状を調整できる。すなわち、出射側43の有効磁場領域41aの境界上の任意の点P2とアイソセンターOとの間の距離が等距離r1となるように境界を定め、有効磁場領域41aの磁束密度Bを調整して式(5)からr2を決め、入射側42の有効磁場領域41aの境界上の点P1と偏向起点Qとの間の距離Rが式(4)の関係を有するように、入射側42の有効磁場領域41aの境界を定める。式(3)のφの極大値が、最大偏向角φmaxとなる。なお、限定されるものではないが、偏向起点Qを通過する荷電粒子ビームが収束電磁石40による偏向を受けなくともアイソセンターOに収束するように、偏向起点Q、収束電磁石40、及びアイソセンターOの配置を調整しておくと、装置構成をよりシンプルにできるため好ましい。
【0045】
上記のようにして求まる収束電磁石40の有効磁場領域41a、41bの境界は、荷電粒子ビームをアイソセンターOに収束させるための理想的な形状である。なお実際には、この理想的な形状からのずれや磁場分布の不均一性があったとしても、収束電磁石40の励磁量(磁束密度B)を偏向角φごとに予め微調整し、その情報を電源装置(例えば照射制御部121)に記憶させておき、偏向角φと収束電磁石40の電流量とが連動するようにそれらを制御することで、荷電粒子ビームをアイソセンターOに合わせて偏向させることができる。また、事前に磁場分布の不均一性を予測できる場合には、収束電磁石40のコイル対44a、44b及び磁極45a、45bの形状及び配置を補正することで、荷電粒子ビームの軌道を微調整することも可能である。
【0046】
制御装置60は、演算処理部や記憶部を備えたコンピュータであり、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される機能部として、照射制御部62、遮蔽体駆動制御部64、及び遮蔽体位置検出部66を備える。照射制御部62は、加速器20、ビーム輸送系30の各要素(荷電粒子ビーム調整手段31、振分電磁石33、収束電磁石40、及び照射ノズル50)を制御する。遮蔽体駆動制御部64は、遮蔽機構100の遮蔽体110の移動を制御し、遮蔽体位置検出部66は、遮蔽体110の位置を判定する。照射制御部62、遮蔽体駆動制御部64、及び遮蔽体位置検出部66は、同じコンピュータとして構成されていてもよいし、それぞれ別のコンピュータとして構成されていてもよい。
【0047】
図5は、遮蔽機構100の概略構成図である。遮蔽機構100は、荷電粒子ビームの進行をブロックする遮蔽体110と、遮蔽体110に接続されたシャフト112と、シャフト112が通る開口が設けられた固定端113と、一方が固定部材113に接続され他方が可動端115に接続された付勢部材114と、可動端115に接続されたシャフト116を駆動する駆動機構117とを備える。
【0048】
遮蔽機構100の遮蔽体110はビーム輸送系30の真空域内に配置される。例えば、遮蔽体110は扇型真空ダクト34内に配置される。
【0049】
遮蔽体110は、治療するために必要な最大エネルギーをもつ荷電粒子ビームをブロックできる材質で構成され、YZ面に対する荷電粒子ビームの広がりを十分に遮ることができる形状である。例えば、荷電粒子ビームのエネルギーは、患者の体深く(約30cmの水等価厚に相当する。)にある腫瘍まで侵入できる十分なエネルギーを有する。陽子線ならば230MeV、炭素線なら430MeV/u程度である。
【0050】
遮蔽体110の材質は、荷電粒子ビームが照射されても、遮蔽体110が配置されている真空域(例えば扇型真空ダクト34)内の真空度を悪化させることを低減でき、かつ荷電粒子ビームと遮蔽体110の核反応により生じる中性子線、γ線、及び二次荷電粒子などによって患者の被ばく影響を低減できる材質が望ましい。収束電磁石40を超伝導電磁石にする場合は、収束電磁石40の真空容器は数K(ケルビン)程度の極低温に保たれることから、遮蔽体110の材質表面からのガス放出速度が極めて低く、輻射率が低い材質(例えば材質中に酸素を含まない材質)が望ましい。遮蔽体110の材質の例は、電子密度の高い(水等価厚の大きい)無酸素銅やSUSなどである。
【0051】
遮蔽体110の形状は、荷電粒子ビームのビームサイズ、ビーム経路上の軌道誤差、及びビームエネルギーなどを考慮し、ビームサイズより大きくすることが望ましい。一方で、第1ビーム経路で荷電粒子ビームを照射する場合を除き、遮蔽体110は、第1ビーム経路に常時配置されることになるから、別のビーム経路を通る荷電粒子ビームの妨げるにならない程度の大きさにする。
【0052】
付勢部材114は、遮蔽体110に外力を加えていない状態では遮蔽体110が第1ビーム経路210上に配置されるようにシャフト112を付勢するものであり、例えばベローズや磁気シールである(
図6(a))。駆動機構117は、例えばエアコンプレッサ及び圧縮シリンダなどを備える。駆動機構117は、遮蔽体駆動制御部64の制御信号を受けて、シャフト116を駆動し(引っ張り)、可動端115を動かして付勢部材114を引き伸ばし、シャフト112を移動させることで、遮蔽体110を移動させる。遮蔽体駆動制御部64は、駆動機構117による印加応力を除くことで、遮蔽体110は付勢部材114により動かされ、第1ビーム経路210上の挿入位置に戻る。
【0053】
遮蔽体位置検出部66は、遮蔽体駆動制御部64の駆動信号を受けて、且つ/又は、遮蔽体110に取り付けられたセンサからの信号を受けて、遮蔽体110が第1ビーム経路210上に位置するか否かを判定する。センサは接触・非接触式いずれでもよい。挿入退避位置の監視機構の一例として、遮蔽体110の挿入退避位置はリミットスイッチ(不図示)などで検知する。前記スイッチは、付勢部材114の伸縮をガイドするレール(不図示)上などに備えられており、可動端115が停止する位置(第1ビーム経路210上の挿入位置(IN)、第1ビーム経路210からの退避位置(OUT))に配置される。可動端115には位置検出バー(不図示)を備え、位置検出バーがINスイッチ、或いはOUTスイッチと接触することにより、遮蔽体110の位置を検出する。どちらのスイッチとも接触していない場合は、不定状態となる。
【0054】
図6を用いて、遮蔽体110の動きを説明する。
図6(a)は、ビーム輸送系30の複数のビーム経路のうち、φ≠0度かつθ≠0度の設定経路220を通りアイソセンターOに照射される荷電粒子ビームを描く。このとき振分電磁石33及び収束電磁石40(有効磁場領域41a)は励磁されており、遮蔽体110は、駆動機構117による応力印加を受けず、第1ビーム経路210上に挿入される。
【0055】
図6(c)は、ビーム輸送系30の複数のビーム経路のうち、φ=0度かつθ=0度の設定経路220を通りアイソセンターOに照射される荷電粒子ビームを描く。このとき振分電磁石33及び収束電磁石40(有効磁場領域41a)は0Aであり、設定経路220は、振分電磁石33(より詳細には偏向起点Q)及び収束電磁石40を通り、アイソセンターOに照射されるビーム経路である。この場合、荷電粒子ビームが設定経路220(第1ビーム経路210)を通過できるように、遮蔽体110は、駆動機構117による応力印加を受け、設定経路220(第1ビーム経路210)上から退避する。
【0056】
第1ビーム経路210以外のビーム経路を通じて荷電粒子ビームをアイソセンターOに照射する場合、すなわち、φ≠0度かつθ≠0の設定経路220を通り荷電粒子ビームが照射される場合、遮蔽体110が第1ビーム経路210上に挿入されていることを遮蔽体位置検出部66により判定し、照射制御部62は、遮蔽体位置検出部66による判定結果を受けて、第1ビーム経路210以外のビーム経路を通じた荷電粒子ビームの照射を行う。他方、第1ビーム経路210を通じて荷電粒子ビームをアイソセンターOに照射する場合、すなわち、φ=0度かつθ=0の設定経路220を通り荷電粒子ビームが照射される場合、遮蔽体110が設定経路220(第1ビーム経路)から退避した位置に移動したことを遮蔽体位置検出部66により判定し、照射制御部62は、遮蔽体位置検出部66による判定結果を受けて、設定経路220(第1ビーム経路)を通じた荷電粒子ビームの照射を行う。
【0057】
このように、制御装置60の誤動作、制御不安定状態の発生などにより振分電磁石33が励磁されず、偏向起点Qにて荷電粒子ビームが意図した方向に偏向されない場合(偏向角φ=0度)であっても、遮蔽体110により荷電粒子ビームが第1ビーム経路210を通じてアイソセンターOに照射されることが防止される(
図6(b))。
【0058】
なお、振分電磁石33が意図せず励磁しない場合(偏向角φ=0度)に限らず、振分電磁石33による偏向が意図した角度(照射角度)に届かない場合(偏向角φ<照射角度)に、そのビーム経路を通る荷電粒子ビームをブロックするように遮蔽体110の挿入位置を調整するようにしてもよい。また、遮蔽機構100が複数の遮蔽体110を備えるようにし、振分電磁石33及び収束電磁石40の一方又は両方が意図しない動作を行う確率が経験的に高いビーム経路を調べ、これらのビーム経路それぞれに遮蔽体110を配置する構成であってもよい。
【0059】
図7は、荷電粒子ビームの照射制御のフローチャートである。照射制御部62は、荷電粒子ビームのエネルギー、荷電粒子ビームの設定経路220を指定する電磁石電源の励磁電流値、照射パターン、偏向角φ及び照射角度θなどの照射情報を別のコンピュータ(不図示)から受信する(ステップS1)。
【0060】
照射制御部62は、荷電粒子ビームが指定された設定経路220を通りアイソセンターOに照射されるように、振分電磁石33及び収束電磁石40を含む電磁石群のそれぞれの電源(不図示)に励磁電流の設定値を送信する(ステップS2)。照射制御部62は、荷電粒子ビームが照射ノズル50を通りアイソセンターOに照射されるように、照射ノズル50を移動させる(ステップS3)。
【0061】
照射制御部62は、指定された設定経路220がφ=0度かつθ=0度で進行するビーム経路、すなわち、第1ビーム経路210であるか判定する(ステップS4)。
【0062】
指定された設定経路220が第1ビーム経路210である場合(ステップS4でYes)、すなわち振分電磁石33の励磁電流を0Aと設定した場合、照射制御部62は、遮蔽体駆動制御部64に、遮蔽体110が設定経路220(第1ビーム経路210)から退避させる指令を送り、これを受けて遮蔽体駆動制御部64は、遮蔽体110を設定経路220(第1ビーム経路210)から退避させる(ステップS5)。なお、遮蔽体110がすでに設定経路220(第1ビーム経路210)から退避した位置にある場合は、遮蔽体110の移動はない。遮蔽体位置検出部66は遮蔽体110が退避した位置にあることを検出し、その情報を照射制御部62に送る。
【0063】
指定された設定経路220が第1ビーム経路210ではない場合(ステップS4でNo)、照射制御部62は、遮蔽体駆動制御部64に、遮蔽体110が第1ビーム経路210上に挿入する指令を送り、これを受けて遮蔽体駆動制御部64は、遮蔽体110を第1ビーム経路210上に挿入する(ステップS6)。なお、遮蔽体110がすでに第1ビーム経路210上に挿入されている場合は、遮蔽体110の移動はない。遮蔽体位置検出部66は遮蔽体110が第1ビーム経路210上に位置することを検出し、その情報を照射制御部62に送る。
【0064】
照射制御部62は、遮蔽体位置検出部66からの情報に基づき、遮蔽体110が指定した位置にあると判定し、同様に、照射に関わる全ての装置が設定完了と判定すると、照射制御部62は加速器制御部63に荷電粒子ビーム出射要求を送信し、前記信号がトリガーとなり加速器制御部63の荷電粒子ビーム出射許可信号が立ち、荷電粒子ビームが出射され、アイソセンターOに荷電粒子ビームの照射が行われる(ステップS7)。
【0065】
照射中は、遮蔽体位置検出部66が照射体110の配置位置を一定の時間間隔で照射制御部62に送信し、照射制御部62が前記位置を監視している(ステップS8)。遮蔽体110の配置位置に変化がなければ、そのまま照射は続行される(ステップS8でYes)。照射情報に基づき照射される線量が満了すれば(ステップ9)、照射完了となる。例えば、設定経路220が第1ビーム経路210のとき(φ=0度かつθ=0度)は、退避位置から動いた場合や、或いは、設定経路220が第1ビーム経路210でないとき(φ≠0度かつθ≠0度)は挿入位置から動いた場合、遮蔽体110は不定状態となる(ステップS8でNo)。不定状態が検出されるとインターロック制御(不図示)に通知され、加速器制御部63により直ちに荷電粒子ビームが遮断される(ステップS10)。
【0066】
本実施形態の荷電粒子ビーム照射装置10は、荷電粒子ビームが第1ビーム経路210を通る場合以外は、遮蔽体110が第1ビーム経路上に常時位置しているため、第1ビーム経路を通じたアイソセンターOへの意図しない荷電粒子ビームの照射を防ぐことができる。ここで、第1ビーム経路210は、振分電磁石33が励磁しないときに、荷電粒子ビームが振分電磁石33及び/又は収束電磁石40を通過し、アイソセンターOに照射されるビーム経路である。好ましくは、第1ビーム経路210は、振分電磁石33が励磁しないときに、荷電粒子ビームが振分電磁石33及び/又は収束電磁石40を通過し、アイソセンターOに照射されるビーム経路である。また、遮蔽体110はビーム輸送系30の真空域内に設置でき、装置の大型化を低減できる。遮蔽体110が材質中に酸素を含まない材質(例えば無酸素銅)でできている場合は、遮蔽体110と荷電粒子ビームとの核反応により生じる二次粒子(二次荷電粒子、中性子、γ線、及び/又は光子)の生成による患者への被曝の影響や、遮蔽体110からのガスの発生による真空度の悪化を低減できる。
【0067】
本発明の別の実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置10では、複数の遮蔽体110(第1の遮蔽体110a、第2の遮蔽体110b)を備え、それらがビーム輸送系30の真空域中にあるのではなく、照射ノズル50が移動するガイドレール55に沿って移動可能に備え付けられたものである。ガイドレール55は、参照により組み込む特許6387476号に記載のように収束電磁石40の有効磁場領域41a、41bの出射側の形状に沿って設けられている。
【0068】
図8は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置10の第3実施例の概要図である。照射ノズル50が移動するガイドレール55に2つの遮蔽体110a、110bが備え付けられ、ガイドレール55に沿った方向において照射ノズル50を挟むように配置される。紙面に向かって上側を遮蔽体110aとし、下側を遮蔽体110bとする。
【0069】
遮蔽体110a、110bはガイドレール55に沿って移動可能である。本実施形態では、遮蔽体110a、110bは、照射ノズル50に着脱自在に付着する手段(例えば磁石、電磁石、又は着脱自在な係合手段など)を備え、照射ノズル50の移動に従い遮蔽体110a、110bも移動する。しかし、遮蔽体110a又は遮蔽体110bがガイドレール55の第1ビーム経路210上の位置にくると、その位置においてラッチ固定され、その位置に留まるよう構成されている。なお、遮蔽体110a、110bがモーター等の駆動装置を備え、遮蔽体駆動制御部64の制御により、ガイドレール55に沿って自走するように構成してもよい。
【0070】
荷電粒子ビームがφ=0度かつθ=0度の設定経路220(第1ビーム経路210)を通ってアイソセンターOに照射される場合(
図8(a))、遮蔽体110a、110bは照射ノズル50の近傍に配置される。
【0071】
荷電粒子ビームが有効磁場領域41aを通る設定経路220を通ってアイソセンターOに照射される場合(
図8(b))、遮蔽体110bは第1ビーム経路210上に配置されラッチ固定され、遮蔽体110aは照射ノズル50とともに移動する。有効磁場領域41aを通るビーム経路で荷電粒子ビームを照射する場合は、遮蔽体110bは第1ビーム経路210上に固定されたままである。
【0072】
他方、荷電粒子ビームが有効磁場領域41bを通る設定経路220を通ってアイソセンターOに照射される場合(
図8(c))、遮蔽体110aは第1ビーム経路210上に配置されラッチ固定され、遮蔽体110bは照射ノズル50とともに移動する。有効磁場領域41bを通るビーム経路で荷電粒子ビームを照射する場合は、遮蔽体110aが第1ビーム経路210上に固定されたままである。
【0073】
このように、上記実施形態と同様に、本実施形態においても、φ=0度かつθ=0度以外の設定経路220(第1ビーム経路210以外のビーム経路)で荷電粒子ビームをアイソセンターOに照射するときに、振分電磁石33が意図せず励磁しないことがあっても、第1ビーム経路210上に遮蔽体110a又は遮蔽体110bが常に配置されているので、意図しない荷電粒子ビームの照射が防止される。
【0074】
上記で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更される。説明に用いた特定の用語及び実施形態に限定されることは意図しておらず、当業者であれば、他の同等の構成要素を使用することができ、上記実施形態は、本発明の趣旨又は範囲から逸脱しない限り、他の変形及び変更も可能である。また、本発明の一つの実施形態に関連して説明した特徴を、たとえ明確に前述していなくても、他の実施形態と組み合わせて用いることも可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 荷電粒子ビーム照射装置
20 加速器
30 ビーム輸送系
31 荷電粒子ビーム調整手段
32 真空ダクト
33 振分電磁石
34 扇型真空ダクト
40 収束電磁石
50 照射ノズル
55 ガイドレール
100 遮蔽機構
110(110A、110B) 遮蔽体
110a、110b 第1及び第2の遮蔽体