(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007079
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】レンズユニット及び車載カメラ
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20230111BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20230111BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 A
G02B7/02 B
G03B15/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110094
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】菅原 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】立澤 直敬
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AA05
2H044AA15
2H044AA17
2H044AB10
2H044AD02
2H044AJ05
(57)【要約】
【課題】本件発明は、高温雰囲気に長期間曝された場合や、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝された場合であっても、鏡筒内気の漏洩と、外気の鏡筒内部への侵入を低減することができるレンズユニットの提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、光軸に沿って並べられた複数枚の光学素子と、前記複数枚の光学素子を保持する鏡筒とを備え、前記鏡筒は、少なくとも1枚の光学素子を配置するための縮径部を備え、前記少なくとも1枚の光学素子の物体側、または結像側のいずれか一方の非光学有効部は、前記縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、前記一方の非光学有効部とは異なる他方の非光学有効部への付勢力によって、前記少なくとも1枚の光学素子の前記光軸方向の位置を固定することを特徴とするレンズユニットを採用した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って並べられた複数枚の光学素子と、前記複数枚の光学素子を保持する鏡筒とを備え、
前記鏡筒は、少なくとも1枚の光学素子を配置するための縮径部を備え、
前記少なくとも1枚の光学素子の物体側、または結像側のいずれか一方の非光学有効部は、前記縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、
前記一方の非光学有効部とは異なる他方の非光学有効部への付勢力によって、前記少なくとも1枚の光学素子の前記光軸方向の位置を固定することを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記いずれか一方の非光学有効部の前記封止材を介挿する領域以外の領域は、前記縮径部と、前記光軸に沿って隣接する光学部材との少なくともいずれか一方に当接する請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記少なくとも1枚の光学素子は無機ガラスである請求項1又は請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記付勢力は、前記鏡筒へ螺着可能な押さえ環によるものである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記付勢力は、前記鏡筒の仮締めによるものである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記鏡筒と、前記少なくとも1枚の光学素子と、前記封止材とを用いて封止された空間に、窒素を封入した請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、及びイソブチレン系ブロック共重合体のうち一種以上を含有する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記イソブチレン系ブロック共重合体は、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、及びスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体のうち1種以上を含有する請求項7に記載のレンズユニット。
【請求項9】
前記封止材は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有したものである請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコール系樹脂は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であって、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体におけるビニルアルコール単位の成分含有量は、混合する前記封止材の材料の合計重量を100重量部としたとき、5重量部以上60重量部以下である請求項9に記載のレンズユニット。
【請求項11】
前記封止材は、ポリオレフィンを含有したものである請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項12】
前記封止材は、有機化前処理を行った無機層状化合物を含有したものである請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項13】
前記封止材の国際ゴム硬さIRHDは、55IRHD以上、95IRHD以下である請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とする車載カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レンズユニット及び車載カメラに関する。
【背景技術】
【0002】
車載カメラに搭載されるレンズユニットとして、鏡筒に複数枚の光学素子を保持したものが知られている。例えば、特許文献1には、ガラスレンズと少なくとも1つの樹脂レンズと赤外線カットフィルタ(以下、「IRカットフィルタ」と記載する。)とを、対物側からこの順序で鏡筒に保持したレンズユニットが開示されている。ガラスレンズは、鏡筒の対物側の開口部に設けられた第1レンズ支持面との間にOリングを挟んだ状態で固定され、鏡筒の対物側の開口部を封止している。IRカットフィルタは、鏡筒の対物側の開口部に設けられたフィルタ固定部に固定され、鏡筒の結像側の開口部を封止している。そして、両方の開口部の封止によって形成された鏡筒内部の封止空間に、樹脂レンズが固定されている。
【0003】
このようなレンズユニットが搭載された車載カメラの周囲温度は、次のようなことが想定できる。例えば、車体外部に設置されるバックビューモニター等は、周囲温度の最高到達温度が比較的低い。これに対し、フロントガラスの内面などに設置された車載カメラの場合は、周囲温度の最高到達温度が高い。特に後者の場合、長期間に亘って高温雰囲気に曝される。このような周囲温度で使用される車載カメラに用いられるレンズユニットに樹脂レンズを採用した場合、自動酸化による黄変が生じてしまうという問題がある。そこで、特許文献1に開示のレンズユニットでは、樹脂レンズ自体を酸素透過防止膜で被覆することによって、樹脂レンズの表面に酸素が到達することを防いで樹脂レンズの黄変を抑制する。また、特許文献1には、シール材を用いて封止空間に窒素ガスを充填したり、封止空間に脱酸素剤を配置したりすることも提案されている。
【0004】
一般に、レンズユニットの鏡筒には、線膨張係数の異なる光学素子と鏡筒との間の界面や隙間の防塵・防滴を目的として、加硫ゴムからなるOリング等のシール材が設けられる。このような用途のゴムは、耐熱性および耐寒性を有するエチレンプロピレンジエンゴム(EDPM)が広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にあるような、酸素透過防止膜として有効なものは、欠陥の少ない無機層である。この無機層と光学樹脂との線膨張係数の差は非常に大きい。そのため、例えば-40℃から125℃といった広範な温度域で、酸素透過防止膜の剥離やクラックを防止しなければならないという困難な課題がある。
【0007】
また、鏡筒内部の封止空間に窒素ガスを充填する場合において、封止に用いられるゴムは、圧縮応力に依るシールである以上、圧縮永久ひずみで特徴づけられるような、経時で発生する塑性変形によって、シール性能が低下することを考慮しなければならない。また、ガスバリア性に優れ、耐寒性を有し、さらにブリードまたはブルームによって鏡筒内部を汚損しないことが要求される。
【0008】
防塵防滴目的で広く採用されているEPDMは、極性の気体である水分子に対するバリア性は期待できるものの、無極性の気体である窒素分子および酸素分子に対するガスバリア性を考慮すると、適当な選択ではない。
【0009】
ガスバリア性と耐寒性に優れるゴムとして、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)が挙げられるが、耐熱老化性に劣り、圧縮永久ひずみが大きいという問題が有る。さらに、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体のうちアクリロニトリルの重合分率の高い高ニトリルゴムと、フッ素ゴムのうちフッ素含有率の高いものが挙げられるが、耐寒性が損なわれる。
【0010】
以上のことから理解できるように、本件発明は、高温雰囲気に長期間曝された場合や、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝された場合であっても、鏡筒内気の漏洩と、外気の鏡筒内部への侵入を低減することができるレンズユニットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上述の課題を解決するため、本件発明者等の鋭意研究の結果、以下に述べるレンズユニット及び封止材に想到した。
【0012】
本件発明に係るレンズユニットは、光軸に沿って並べられた複数枚の光学素子と、前記複数枚の光学素子を保持する鏡筒とを備え、前記鏡筒は、少なくとも1枚の光学素子を配置するための縮径部を備え、前記少なくとも1枚の光学素子の物体側、または結像側のいずれか一方の非光学有効部は、前記縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、前記一方の非光学有効部とは異なる他方の非光学有効部への付勢力によって、前記少なくとも1枚の光学素子の前記光軸方向の位置を固定することを特徴とするレンズユニットを採用した。
【0013】
本件発明に係る車載カメラは、本件発明に係るレンズユニットを備えることを特徴とする車載カメラを採用した。
【発明の効果】
【0014】
本件発明に係るレンズユニットは、光学素子の非光学有効部と鏡筒の縮径部との間に熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、付勢力によって光学素子の光軸方向の位置を固定している。これによって鏡筒内に構成される封止空間は、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩や、外気の鏡筒内部への侵入が低減されたものとなる。このことによって、当該封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本件発明に係るレンズユニットの断面模式図である。
【
図2】本件発明に係るレンズユニットの断面模式図である。
【
図3】本件発明に係るレンズユニットの断面模式図である。
【
図4】実施例及び比較例で試験的に用いたレンズユニットの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.レンズユニットの実施形態
本件発明に係るレンズユニットは、光軸に沿って並べられた複数枚の光学素子と、複数枚の光学素子を保持する鏡筒とを備え、鏡筒は、少なくとも1枚の光学素子を配置するための縮径部を備えている。そして、少なくとも1枚の光学素子の物体側、または結像側のいずれか一方の非光学有効部は、縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、かつ、一方の非光学有効部とは異なる他方の非光学有効部への付勢力によって、少なくとも1枚の光学素子の光軸方向の位置を固定する構造を有している。ここで、本件発明においては、光学素子には、ガラスレンズや樹脂レンズのほか、IRカットフィルタやバンドパスフィルタなどの光学フィルタ、及び、カバーガラスなども含まれる。
【0017】
〔レンズユニットの構造〕
本件発明に係る実施形態のレンズユニット1の断面模式図を
図1に示す。鏡筒10aは、光学素子を配置するための縮径部11aと縮径部13とを備えている。このとき、鏡筒10aの形状および構造は、物体側および結像側の開口部以外の開口部を有さず、本件発明に係る封止によって、高いガスバリア性を保つことができる限り、どのような形状、及び構造のものであっても構わない。特に、以下で説明するレンズユニットに制限されず、例えば光路折り曲げ光学系等、どのようなものであっても構わない。
【0018】
レンズユニット1は、物体側から順に、ガラスレンズ20、ガラスレンズ21、ガラスレンズ22、ガラスレンズ23、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25、IRカットフィルタ26を備えている。そして、ガラスレンズ20の結像側の非光学有効部と縮径部11aとの間の配置面12aに、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材50aを介挿し、かつ、ガラスレンズ20の物体側の非光学有効部へ、押さえ環40を用いて付勢力を加えることによって、ガラスレンズ20、ガラスレンズ21、ガラスレンズ22、ガラスレンズ23、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25の、複数枚の光学素子の光軸方向の位置を固定している。
【0019】
また、IRカットフィルタ26の物体側の非光学有効部と縮径部13との間の配置面14に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材51を介挿し、かつ、IRカットフィルタ26の結像側の非光学有効部へ、押さえ環41を用いて付勢力を加えることによって、IRカットフィルタ26の光軸方向の位置を固定している。このようにして、ガラスレンズ20と、IRカットフィルタ26と、鏡筒10aと、封止材50aと、封止材51とで封止された空間が形成される。
【0020】
そして、樹脂レンズは、当該封止された空間内に配置されていればよく、特に枚数や配置場所は限定されるものではない。
図1では、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25の2枚が樹脂レンズである場合を例に挙げて説明するが、本件発明はこれに限定されず、ガラスレンズ20以外の少なくとも1枚が樹脂レンズである。このように、当該封止された空間内に樹脂レンズが配置されていれば良いことから、封止に用いる光学素子は、縮径部との間に封止材を介挿している限りにおいては、ガラスレンズ20、IRカットフィルタ26に限定されない。
【0021】
上述のように、鏡筒10aの形状および構造は、物体側および結像側の開口部以外の開口部を有していない。すなわち、上述の封止された空間への外気の侵入の経路、もしくは、封止された空間からの気体の漏洩の経路は、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間である。したがって、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間において、ガスバリア性を発揮する本件発明に係る封止材を介挿すれば良い。つまり、封止に用いられる光学素子と鏡筒との界面、または封止に用いられる光学素子と鏡筒との隙間に封止材を介挿する場合、封止材は、封止に用いられる光学素子の物体側、または結像側のいずれの光学面に介挿しても良い。
【0022】
さらに、レンズユニット1は、間隔環30や固定絞り31などの調節機構を介挿して、光学素子の光軸方向の位置を固定してもよい。
【0023】
封止材50a及び封止材51の材料は、熱可塑性エラストマーを主成分としている。ここで、一般に、加硫ゴムに比較して、熱可塑性エラストマーは、圧縮永久ひずみが大きく、かつ、高温域では経時によって当初の圧縮応力を著しく損なう。例えば、JIS K6262による70℃、22時間の圧縮永久ひずみは、40%以上のものが多く、小さなものでも25%程度である。さらに、例えば、以下で述べるスチレン系エラストマーは、そのハードセグメントであるポリスチレンブロックのガラス転移温度が90~100℃であることから、100℃を超える温度環境に荷重印加で曝された場合、伸張流動が発生し、弾性体としての機能が明らかに損なわれる。
【0024】
本発明者は、熱可塑性エラストマーが、アルミ合金、樹脂、および有機ガラスの表面への密着性が高いことに着目した。すなわち、高温雰囲気下に長時間曝された場合や、例えば-40℃から125℃のような、広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝された場合、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材は、高温時に体積膨張し、かつ当初の圧縮応力を失った後、冷却に伴って体積収縮する。このような場合であっても、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材は、圧縮応力を維持する代わりに、体積収縮に伴う引張応力に抗して十分な界面の密着力と耐寒性を有する。そのため、「光学素子と封止材との界面」及び「封止材と配置面との界面」(以下、これらの2つの界面を「接面」という)の剥離が無く、封止材内部の開裂による気体の漏洩や流入を抑止でき、優れたガスバリア性が得られることを見出した。すなわち、熱可塑性エラストマーを主成分とすることによって、封止材は、-40℃から125℃といった広範な温度域でガスバリア性、耐寒性及び耐熱老化性に優れたものとなる。このように、本件発明に係るレンズユニットが、一度高温環境下に曝されると、接面の密着力は封止材の圧縮応力に依らなくなるため、封止材の圧縮永久ひずみに関わらず、高いガスバリア性を保つことができる。
【0025】
〔光学素子の光軸方向の位置決め構造〕
鏡筒の縮径部との間に封止材を介挿する光学素子の非光学有効部において、封止材を介挿する領域以外の領域は、縮径部と、光軸に沿って隣接する光学部材との少なくともいずれか一方に当接することによって、鏡筒の縮径部との間に封止材を介挿する光学素子の光軸方向の位置決めをすることが好ましい。熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材は、高温環境下では圧縮永久ひずみが大きく、また、ハードセグメントのガラス転移温度以上の温度下では明らかに伸長流動を生じる。そのため、封止材のみによって光学素子の光軸方向の位置決めをする構造の場合、封止材を介挿する光学素子の光軸方向の位置を維持することが困難だからである。
【0026】
〔付勢力を加える構造〕
レンズユニット1は、ガラスレンズ20の結像側の非光学有効部と縮径部11aとの間の配置面12aに、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材50aを介挿し、かつ、ガラスレンズ20の物体側の非光学有効部へ、押さえ環40を用いて付勢力を加えることによって、ガラスレンズ20の光軸方向の位置を固定している。そして、レンズユニット1は、押さえ環40の付勢力により、ガラスレンズ21~ガラスレンズ23、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25についても、その光軸方向の位置を固定している。
【0027】
また、IRカットフィルタ26の物体側の非光学有効部と縮径部13との間の配置面14に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材51を介挿し、かつ、IRカットフィルタ26の結像側の非光学有効部へ、押さえ環41を用いて付勢力を加えることによって、IRカットフィルタ26の光軸方向の位置を固定している。付勢力は、鏡筒へ螺着可能な押さえ環によるものであることが好ましい。なお、螺着の手段はセルフタップ等、複数の螺子によるものであってもよく、レンズユニット1~レンズユニット3、およびレンズユニット101のように、鏡筒と押え環の双方に直に螺子加工したものに限定されない。
【0028】
上述の付勢力は、鏡筒の仮締めによって与えるものであっても良い。特に、金属製の鏡筒を用いる場合には、より構造を簡素にでき、生産を簡易にすることができる。
【0029】
〔封止材の主成分〕
レンズユニット1の封止材50a及び封止材51は、熱可塑性エラストマーを主成分とすることが好ましい。そして、当該熱可塑性エラストマーの脆化温度は、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。さらに、当該熱可塑性エラストマーは、粘着物性に優れるスチレン系エラストマーであることが好ましい。封止材の主成分をスチレン系エラストマーとすることで、接面の密着性が高く、低温から高温まで温度変化が大きい使用環境下、例えば、封止材が、常温環境から100℃を超える高温環境におかれ塑性変形した後、-40℃の低温環境におかれる等の過酷な環境下であっても、接面の剥離が起こりにくい。
【0030】
スチレン系エラストマーは、ハードセグメントがスチレンであって、ソフトセグメントの違いによって、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。さらに、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、および、スチレン-エチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等の水添スチレン系エラストマーが挙げられる。スチレン系エラストマーは、耐熱老化性の点で水添スチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0031】
また、熱可塑性エラストマーは、イソブチレン系ブロック共重合体であることがさらに好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体は、ソフトセグメントがイソブチレンを主成分とする分子鎖から構成されており、ハードセグメントは、芳香族ビニル化合物、ポリアミド、および、ポリウレタンを用いたものが知られている。さらに、ハードセグメントの芳香族ビニル化合物にスチレンを用いたものには、ジブロック共重合体であるスチレン-イソブチレンブロック共重合体(SIB)、およびトリブロック共重合体であるスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)が挙げられる。
【0032】
イソブチレン系ブロック共重合体は、SIBおよびSIBSのうち1種以上を含有することが好ましい。この、SIBS、またはSIBとSIBSを用いた組成物は、移行性が少ないにもかかわらず、良好な柔軟性、粘着性、熱安定性、制振性能を備え、IIRと同等程度のガスバリア性を有するからである。なお、SIBSおよびSIBS/SIBは、株式会社カネカの商品名「シブスター(SIBSTAR)」として市場に提供されている。また、SIB、およびSIBSはハードセグメントがスチレンブロックであるため、スチレン系エラストマーにも含まれる。
【0033】
すなわち、熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、及びイソブチレン系ブロック共重合体のうち一種以上を含有することが好ましい。レンズユニットの使用環境に応じて適宜組み合わせを選択できるからである。なお、混合割合等に関しても特段の限定はない。
【0034】
〔封止材の添加剤〕
気体分子の高分子化合物への透過速度はArrheniusの式に従う温度依存性を示すため、温度上昇に伴うガス透過係数の増大は避けられない。そのため、封止材にスチレン系エラストマーのみを用いる場合、高温環境におけるガス透過係数が十分に小さいとはいえない。このため、スチレン系エラストマーとガスバリア性樹脂材料とのアロイ化、または、ナノフィラーとのコンポジット化が好ましい。この、アロイ化に用いるガスバリア性樹脂は、ポリビニルアルコール(PVOH)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)および、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体等のカスバリア性に優れたポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。すなわち、封止材は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有したものであることが好ましい。
【0035】
そして、ポリビニルアルコール系樹脂は、スチレン系エラストマーとの部分相溶が容易で、かつ溶融成形が容易なEVOHであることがさらに好ましい。EVOHは、EVOHにおけるビニルアルコール単位の含有量が高いほど、EVOHのガスバリア性が高くなるとともに高弾性になる。このことは、スチレン系エラストマーとのアロイ材においても同様であり、封止材の組成物におけるビニルアルコール単位の含有量が多くなると、封止材のガスバリア性は高くなる。一方で、封止材の組成物におけるビニルアルコール単位の含有量が多くなると、組成物の可撓性が低下するため、封止材として使用した場合、温度変化による接面での剥離や、封止材内部での亀裂の発生が起きやすい状況になる。したがって、封止材として十分な可撓性と、耐寒性を維持し、かつ、接面における密着性を保つためには、封止材の組成物におけるビニルアルコール単位の含有量を適切な範囲とする必要がある。
【0036】
このEVOHにおけるビニルアルコール単位の成分含有量は、混合する封止材の材料の合計重量を100重量部としたとき、5重量部以上60重量部以下であることが好ましい。EVOHのビニルアルコール単位の含有量が5重量部未満であると、ガスバリア性を強化する効果が十分でないため好ましくない。EVOHのビニルアルコール単位の含有量が60重量部を超えると、前述のとおり組成物の可撓性が低下する。そのため、冷熱衝撃試験等の繰り返しの温度変化環境下において、封止材としてガスバリア性が低下するため好ましくない。また、ビニルアルコール単位の成分は、組成物に溶解した酸素の捕捉に寄与するものの、一方で、自動酸化による組成物の架橋反応、およびゲル化等によって、組成物の当初の弾性率等の物性が著しく変化してしまうため好ましくない。上述の理由から、EVOHのビニルアルコール単位の含有量は、10重量部以上30重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
また、封止材として、有機化前処理を行った無機層状化合物を含有させることも好ましい。無機層状化合物は、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト)、バーミキュライト(バーミキュライト等)、雲母族、および、タルク等の粘度鉱物を挙げることができる。本件発明に係る有機化前処理を行った無機層状化合物は、モンモリロナイト粉末であることが好ましい。モンモリロナイトは、アルミニウムの含水珪酸塩を主成分とする粘土鉱物であり、白ないし灰色の粉末の塊である。この塊を粉末化したものが、モンモリロナイト粉末である。組成物に層状のモンモリロナイトが層間剥離された状態で分散される。封止材にモンモリロナイトを含有させることによって、レンズユニットが高温にさらされたときでも高いガスバリア性を有しつつ、接面の密着性を高く保つことができるからである。
【0038】
モンモリロナイト粉末の含有量は、封止材の組成物の合計重量を100重量部としたとき、5重量部以上30重量部以下の範囲であることが好ましい。接面の密着性を高く保ちつつ、ガスバリア性を強化できるからである。モンモリロナイト粉末の含有量が5重量部未満の場合には、封止材のガスバリア性が十分とはいえないため好ましくない。一方、モンモリロナイト粉末の含有量が30重量部を超えるようになると、可撓性及び接面の密着性の低下を起こすため好ましくない。
【0039】
また、熱可塑性エラストマーに、ガスバリア性を著しく損なわない範囲内で水添石油樹脂等の粘着付与剤を添加材として配合することで、接面の密着性を増すことができる。
【0040】
〔第二の封止材〕
封止材がPVOH系樹脂を含有する場合、PVOH系樹脂のドメインによる吸湿が発生し、防湿性を含めたガスバリア性の低下が懸念される場合がある。この場合、防湿のための「第二の封止材」をPVOH系樹脂含有の封止材の設置箇所よりも外気に近い箇所に介挿し防湿してもよい。この封止材にはOリング等の加硫ゴムを用いても良いが、スチレン系エラストマーとポリオレフィンのアロイ材を主成分とする封止材を用いることが好ましい。なお、この場合のポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチルペンテン、脂環式ポリオレフィンが挙げられるが、耐熱老化性、耐寒性、および水蒸気バリア性が良好なポリエチレンが好ましい。
【0041】
〔封止材の硬度〕
上述した封止材のM法(中硬さ用マイクロサイズ試験)による国際ゴム硬さ(IRHD)は、55IRHD以上95IRHD以下であることが好ましい。封止材の国際ゴム硬さが55IRHD未満であると、配置面と光学素子との間に介挿して光学素子を押圧した際、封止材の変形が大きくなって、光学素子の光学有効領域に干渉する恐れがあることから好ましくない。封止材の国際ゴム硬さが95IRHDを超えると、配置面と光学素子との間に介挿して光学素子を押圧した際、封止材の変形が少なく、光学素子や配置面の形状、うねり、及び粗さに十分にフィットせず、密着性が低下する恐れがあることから好ましくない。
【0042】
上述の理由から、封止材の国際ゴム硬さ(IRHD)の下限値は、60IRHDがより好ましい。また、封止材の国際ゴム硬さ(IRHD)の上限値は、80IRHDがより好ましく、75IRHDがさらに好ましい。
【0043】
〔封止材の製造方法〕
本件発明に係る封止材は、次のようにして調製・製造できる。一例として、SIBSと、エチレン含有量が27モル%のEVOHとを、質量比で8.5:1.5として混合(ドライブレンド)した後に、二軸スクリュー押し出し機によって所定の厚さの樹脂シートに成形することができる。その後、得られたシートを所定の形状にカッティングすることにより、光学素子の接着に用いるシート状封止材とする。但し、上述の混合割合や製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0044】
〔封止材の形状と寸法〕
封止材の形状は、ガスバリアを達成できるものであれば、円形、方形、または不定形のリング状であってもよい。さらに、封止材を介挿した状態で光学素子の全周の密着を達成するように封止材を敷設できる場合、その封止材の形状は、帯状であってもよい。そして、配置面12aに収まる寸法とすれば良い。
【0045】
封止材の形状がリング状である場合、リング形状の封止材の外径と内径との差の大きい方が、ガスバリア性に有利である。外径と内径との差の大きいリング形状の封止材は、封止材内部におけるガスの移動距離を長くすることができるためである。こうしたことから、縮径部11aの面積や光学素子の非光学有効部の面積を広く確保できる構造を用いて配置面12aの面積を広く確保し、外径と内径との差の大きいリング形状の封止材50aを介挿するほうが、より高いガスバリア性を得ることができるが、実用上は、レンズユニットや光学素子の寸法上許容される適切な範囲内で、封止材の外径と内径を決定すれば良い。
【0046】
封止材の厚さは、光学素子の曲率・レンズ厚さ等を考慮して、接面の密着性を高くすることのできる厚さとすれば良い。より具体的には、密着性を高くすることのできる厚さは、適正トルクで付勢力を加えたときに、接面の密着に十分な「封止材のつぶし代」を加えた厚さである。そして、付勢された光学素子が、鏡筒の縮径部、または、他の光学部材に当接して光軸方向の位置が固定されていればよい。
【0047】
そして、付勢力を加えたときの封止材の変形による寸法変化や、高温環境下における封止材の体積膨張が発生しても、配置面12aの形成する空間からの封止材50aのはみ出しが発生しない範囲で、封止材50aの寸法に対する配置面12aの大きさを決定することが好ましい。
【0048】
図2にレンズユニット2の断面模式図を示す。レンズユニット2の封止材50bは、レンズユニット1の封止材50aと比べて、リング形状の封止材50bの外径と内径との差が大きい。このように、縮径部11bの寸法が許容する範囲で、封止材50bの寸法と、封止材50bの寸法に適した配置面12bの寸法を決定することができる。また、ガラスレンズ20と、IRカットフィルタ26と、鏡筒10bと、封止材50bと、封止材51とで封止された封止空間に樹脂レンズが配置されれば良いことから、レンズユニット2においては、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25だけでなく、樹脂レンズ21b~樹脂レンズ23bも樹脂レンズである。
【0049】
〔鏡筒〕
鏡筒10aの材質は、非鉄金属としてアルミニウム合金、マグネシウム合金等が挙げられる。一方で、樹脂材料としては、ポリ(エステル)カーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、および液晶ポリマーのうちのいずれか1種、もしくは2種以上のアロイ材が好ましい。特に、ガスバリア性の観点から、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、および液晶ポリマーを主成分とするのが好ましい。これらをガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、およびその他の充填剤等とのコンパウンドしたものでもよく、さらには、マイカ、タルク、カオリン、モンモリロナイト等の無機層状化合物を有機化前処理したものを添加したものを使用してもよい。
【0050】
鏡筒の内部は、高いガスバリア性を保つ封止空間である。高いガスバリア性を保つことができる限り、鏡筒はどのような形状及び構造のものであっても構わない。この鏡筒を用いるレンズユニットは、例えば、一端側に対物側開口と、他端側に結像側開口とを有する。そして、上述の開口には、各種レンズや光学フィルタを取り付けることができる。また、これらの間に必要な中間レンズを配置することもできる。この中間レンズは、鏡筒の内部に固定されていても良いし、位置を移動可能なように構成されていても良い。位置が移動可能な中間レンズは、光学倍率を変更することや、フォーカスを調整することなどに用いることができる。
【0051】
そして、このように構成される封止空間は、不活性ガス環境下で組み立てを行うことによって、樹脂レンズの黄変の原因とはる酸素の非常に少ない不活性ガスで満たされた状態となる。なお、不活性ガスとして、高分子素材全般に対してガス透過係数が小さい窒素ガスを用いることが好ましい。
【0052】
また、上述したような封止空間が形成されれば良いことから、
図3の断面模式図に示すレンズユニット3のような構成も可能である。レンズユニット3は、配置面12cに、封止材50cを介挿し、ガラスレンズ20を介してとガラスレンズ21cとの物体側の非光学有効部へ、押さえ環40を用いて付勢力を加えることによって、ガラスレンズ20、ガラスレンズ21c、ガラスレンズ22c、樹脂レンズ23c、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25の、複数枚の光学素子の光軸方向の位置を固定している。このようにして、ガラスレンズ21cと、IRカットフィルタ26と、鏡筒10cと、封止材50cと、封止材51とで封止された空間が形成される。この場合、樹脂レンズは、当該封止された空間内に配置されていればよく、レンズユニット3においては、ガラスレンズ22cはガラスレンズであるが、樹脂レンズ23c、樹脂レンズ24、樹脂レンズ25は樹脂レンズである。
【0053】
以上のことから理解できるように、光学素子の非光学有効部と縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、非光学有効部への付勢力によって、複数枚の光学素子の光軸方向の位置を固定する本件発明に係るレンズユニットは、高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、鏡筒内気の漏洩と、外気の鏡筒内部への侵入を低減することができる。このことによって、当該レンズユニットに構成された封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0054】
〔光学素子〕
次に、上述したレンズユニット1~レンズユニット3に含まれる光学素子について説明する。当該光学素子に関しては、特段の限定はなく、用途に応じて適宜選択使用すれば足りる。例えば、上述の車載カメラや監視カメラに搭載されるレンズユニットは、設置環境や使用環境にもよるが、外気に曝された状態になる。そのため、最も物体側に配置される対物レンズは、対擦傷性を考慮して無機ガラスを採用することが好ましい。
【0055】
また、レンズユニット1及びレンズユニット2のガラスレンズ20や、レンズユニット3のガラスレンズ20とガラスレンズ21cのような、付勢力を加えて封止を行うために用いる光学素子は、物体側、または結像側の少なくともいずれかの面が有酸素下に曝されるため、酸素や窒素といった気体分子が光学素子の媒質内部を透過しない無機ガラスが好ましい。
【0056】
外気に直接曝される最も物体側のレンズに続く後続レンズは、概して、最も物体側のレンズで生じた各種収差を補正するために用いるものである。このような後続レンズは、一般的に凹レンズと凸レンズとの組みで構成される。これらのレンズの一方を高アッベ数の光学材料で構成した場合、他方は低アッベ数の光学材料を採用し、色収差補正を行うことが好ましい。特に、最も物体側のレンズで生じた収差が大きい場合には、後続レンズとして凹レンズと凸レンズとの組合せを複数配置することが好ましい。
【0057】
なお、樹脂の線膨張係数、屈折率温度依存性は、ガラスと比べて格段に大きくなる。従って、係る場合には後続レンズを構成する凹レンズと凸レンズとの双方に樹脂レンズを採用することにより、広範な温度領域での収差補正が可能となる。
【0058】
これらの樹脂レンズに用いる樹脂のガラス転移温度(補外ガラス転移開始温度)は、高温環境下における変形を抑えるために、レンズユニットの最高到達温度よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
【0059】
アッベ数が高い樹脂レンズ用の樹脂としては、非晶質ポリオレフィン(APO)等の脂環式の脂肪族ポリマーからなるものを挙げることができる。非晶質の脂肪族ポリマーは、ガラス転移温度が高くなるような分子構造をとると耐黄変性の低下をまねくが、本発明による封止空間内に用いられる光学素子である限り、上述のようにガラス転移温度が高い樹脂材料を選択することが好ましい。
【0060】
一方、アッベ数が低い樹脂レンズ用の樹脂としては、ポリ(エステル)カーボネート等の芳香族化合物を挙げることができる。
【0061】
IRカットフィルタ26は、一般的にレンズ群を通った光線から赤外線をカットするために設けられる。IRカットフィルタ26と鏡筒10aとの間に封止材51を介挿してガスバリア性を確保するためには、IRカットフィルタ26は無機ガラスからなるものを用いることが好ましい。
【0062】
なお、レンズユニット1~レンズユニット3の封止空間内に用いる限り、光学素子は熱可塑性樹脂に限定されることなく、ガラス転移温度が好適である範囲内で、架橋構造、エポキシ基等の耐熱老化性に劣る官能基を含むポリマー、および含硫黄のポリマー等のエネルギー硬化性光学樹脂をレンズ、レンズの表層、または、レンズ表層に形成する微細構造体に用いてもよい。
【0063】
2.車載カメラの実施形態
本件発明に係る車載カメラは、上述の本件発明に係るレンズユニットを備えている。当該レンズユニットは、光学素子の非光学有効部と縮径部との間に、熱可塑性エラストマーを主成分とする封止材を介挿し、非光学有効部への付勢力によって、複数枚の光学素子の光軸方向の位置を固定している。
【0064】
したがって、車載カメラが高温雰囲気に長期間曝されても、もしくは広範な温度領域での繰り返しの温度変化に曝されても、車載カメラに備えられたレンズユニットの鏡筒内気の漏洩と、外気の鏡筒内部への侵入を低減することができる。このことによって、車載カメラに備えられたレンズユニットに構成されている封止空間に満たされた不活性ガスが維持され、当該封止空間に配置された樹脂レンズの黄変を抑制することができる。
【0065】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明に係る発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0066】
試験用のレンズユニット101には、試験効率を高めるため、両端が開口する鏡筒に代えて、
図4の断面模式図に示すような対物側のみが開口し結像側が閉塞する模擬鏡筒102を用いた。実施例1では、模擬鏡筒102として、A5056アルミニウム合金からなる丸棒を
図4に示す形状に切削加工した後、全体をアルマイト処理したものを用意した。本明細書では、これを鏡筒Aと呼ぶこととする。
【0067】
押さえ環105は、A5056アルミニウム合金からなる丸棒を
図4に示す形状に切削加工したものを用いた。ガラスレンズ103は、光学面103aが凸面であって光学面103bが平面である無機ガラスからなる片面凸レンズである。
【0068】
リング状かつシート状の封止材104は、次のように作製した。まず、封止材の材料の合計100重量部に対して、SIBS(SIBSTAR(登録商標)062T、株式会社カネカ)90重量部、及び、エチレン含有量27モル%のEVOH(EVAL(登録商標) L171B、株式会社クラレ)を10重量部となるように計量し、混合(ドライブレンド)した。この場合、ビニルアルコール単位としては、8.1重量部である。そして、混合(ドライブレンド)した材料を、押出成形して樹脂ペレットにした。
【0069】
そして、この樹脂ペレットを射出成形機に投入して、厚さ1mmのシート状の成形品を得た。その後、この厚さ1mmのシートを125℃に加熱した炉内で圧縮成形して、厚さ0.1mmの樹脂フィルムを得た。そして、得られた樹脂フィルムを、付勢力を加えたときの寸法変化や、高温環境下における体積膨張による変化を考慮して、配置面102gからのはみ出しが発生しない寸法でリング状に切り出した。以上により、リング状かつシート状の封止材104を得た。
【0070】
試験片107は、非晶質ポリオレフィン(ZEONEX(登録商標) E48R、株式会社日本ゼオン)からなる成形体を、直径9mm、厚さ2mmに加工したものである。
【0071】
次に、レンズユニット101の組み立ては、内部を酸素濃度が100ppm以下になるよう窒素置換したグローブボックス内で行った。まず、模擬鏡筒102の筒状部102bの底面102eに試験片107を設置した。続いて、模擬鏡筒102の配置面102gにリング状かつシート状の封止材104を載せた後にガラスレンズ103を取り付け、付勢部材である押さえ環105を締め付けトルク2N・mで螺着した。これによって、封止材104をガラスレンズ103と配置面102gとの間に挟んだ状態で、ガラスレンズ103を模擬鏡筒102の当接面102cに押圧した。以上により、模擬鏡筒102の封止空間106に窒素が封入された状態で、ガラスレンズ103が模擬鏡筒102に固定された状態となった。このようにして、実施例1のレンズユニットを作製した。
実施例2の封止材104の材料は、封止材の材料の合計100重量部に対して、SIBS(SIBSTAR(登録商標)062T、株式会社カネカ)85重量部、及び、エチレン含有量27モル%のEVOH(EVAL(登録商標) L171B、株式会社クラレ)を15重量部となるように計量し、混合(ドライブレンド)した。この場合、ビニルアルコール単位としては、12.1重量部である。封止材104の材料以外は、実施例1と同じにして、実施例2のレンズユニットを作製した。