(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070902
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】エアフィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20230515BHJP
D06M 13/503 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D39/16 E
D06M13/503
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183355
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久実
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4D019
4L033
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA06
4D019BA13
4D019BA18
4D019BB03
4D019BC09
4D019BC13
4D019BC20
4D019BD01
4D019CB06
4L033AA02
4L033AA05
4L033AA07
4L033AA08
4L033AA09
4L033AA10
4L033AB07
4L033BA93
4L033CA02
4L033CA18
4L033CA28
4L033DA00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制するエアフィルタを提供する。
【解決手段】オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタである。不織布の繊維表面に、ペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した平均粒子径2~90nmの金属酸化物粒子(B)と自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と増粘剤(D)とを含む多機能塗膜が形成される。多機能塗膜中に、フッ素系官能基成分(A)が1.5~15質量%の割合で、増粘剤(D)が0.3質量%~3.0質量%の割合で含まれ、成分(A)と粒子(B)とは、合計して多機能塗膜中、15~70質量%の割合で含まれ、質量比(A/B)が0.02~0.5の範囲にあり、エアフィルタの通気度が1~30ml/cm
2/秒である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、
前記不織布の繊維表面に多機能塗膜が形成され、
前記多機能塗膜は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)と増粘剤(D)とを含み、
前記多機能塗膜を100質量%とするとき、前記フッ素系官能基成分(A)が1.5質量%~15質量%の割合で前記多機能塗膜に含まれ、かつ前記増粘剤(D)が0.3質量%~3.0質量%の割合で含まれ、
前記フッ素系官能基成分(A)と前記金属酸化物粒子(B)とは、合計して前記多機能塗膜を100質量%とするとき、15質量%~70質量%の割合で含まれ、
前記金属酸化物粒子(B)に対する前記フッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.02~0.5の範囲にあり、
前記エアフィルタの通気度が1ml/cm
2/秒~30ml/cm
2/秒であることを特徴とするエアフィルタ。
【化1】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、炭素骨格は、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種の金属の酸化物粒子である請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記増粘剤(D)が、層状無機化合物又は増粘多糖類である請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項5】
前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項6】
前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である請求項1又は5記載のエアフィルタ。
【請求項7】
フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液と、自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物と、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒と、増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液とを混合して多機能塗膜形成用液組成物を調製する工程と、
前記多機能塗膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、
前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程と
を含むエアフィルタの製造方法。
【請求項8】
前記フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液が、金属酸化物粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合して、調製される請求項7記載のエアフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタ及びその製造方法に関する。更に詳しくは、弱親水性と撥油性を有する多機能塗膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタ及びその製造方法に関するものである。本明細書で、弱親水性とは、水平に置いたエアフィルタに0.1mLの水を上方から滴下した後、60秒以上水を保持し、1時間後に水がエアフィルタに浸透する性状をいう。
【背景技術】
【0002】
金属製品を切削油を用いて加工する切削機や旋削機等の工作機械からは機械の高速稼働により切削油が飛散して、オイルミストが発生し、同時に粉塵も発生する。これらのオイルミスト及び粉塵は作業環境を悪化させ、その作業効率を低下させる。このため、従来より、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタとして、空気中に浮遊する粉塵だけでなく、オイルミストによる目詰まりを抑制できるエアフィルタ濾材が提案されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0006]、段落[0021]、段落[0045]、段落[0053]~段落[0060])。
【0003】
このエアフィルタ濾材は、第1のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜と、第2のPTFE多孔質膜を含み、気流が、エアフィルタ濾材の第1主面から第1のPTFE多孔質膜、第2のPTFE多孔質膜の順にエアフィルタ濾材の第2主面へと、通過するようになっている。第1のPTFE多孔質膜の厚さは4~40μmの範囲にあり、第1のPTFE多孔質膜の比表面積は0.5m2/g以下にあり、第2のPTFE多孔質膜の比表面積は、第1のPTFE多孔質膜のそれより大きい1.5~10m2/g以下の範囲にある。
【0004】
第1及び第2のPTFE多孔質膜は、それぞれPTFE微粉末と液状潤滑剤を加えた混合物をシート状成形体に成形する。第1のPTFE多孔質膜は、シート状成形体をPTFEの融点(327℃)以上の温度と50倍以上の倍率で、長手(MD)方向に加熱しつつ延伸し、次いで横(TD)方向に130~400℃の温度で、延伸前の長さに対して5~8倍になるように、加熱しつつ延伸することにより、製造される。第2のPTFE多孔質膜は、PTFEのシート状成形体をPTFEの融点未満の温度(270~290℃)で、かつ15~40倍の倍率でMD方向に加熱しつつ延伸し、次いでTD方向に更に120~130℃の温度で、延伸前の長さに対して15~40倍になるように、とMD方向延伸時と同じ倍率で加熱しつつ延伸することにより、製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたエアフィルタ濾材では、第1のPTFE多孔質膜を、第2のPTFE多孔質膜と比較して、延伸温度を高くし、延伸倍率を大きくして、製造することにより、第1のPTFE多孔質膜の比表面積を0.5m2/g以下と小さくし、これにより、大きい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集する。一方、第2のPTFE多孔質膜の比表面積を1.5~10m2/gと大きくし、これにより、小さい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集している。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるエアフィルタ濾材では、第1及び第2のPTFE多孔質膜により、粒径の異なる粉塵とオイルミストを捕集するとしても、PTFE多孔質膜は、静電気が発生し易く、かつ発生した静電気の除去が困難であるため、フィルタ形状に加工することが容易でなかった。また撥油性よりも撥水性が高いため、大気中に含まれる水分がPTFE多孔質膜を塞ぐことがあり、そこに粉塵が付着し易かった。そのため、エアフィルタ濾材を使用し続けると、オイルミストがエアフィルタ濾材の内部に残留し続け、エアフィルタ濾材が目詰まりし易く、その結果、エアフィルタを通過する風量が低下し易く、新しいエアフィルタと頻繁に交換しなければならない課題があった。
【0008】
本発明の目的は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制するエアフィルタを提供することにある。本発明の別の目的は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制するエアフィルタを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、前記不織布の繊維表面に多機能塗膜が形成され、前記多機能塗膜は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むフッ素系官能基成分(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と自己反応型のカルボキシル基及び/又はアセチル基含有物(以下、単に「カルボキシル基含有物等」という。)(C)と増粘剤(D)とを含み、前記多機能塗膜を100質量%とするとき、前記フッ素系官能基成分(A)が1.5質量%~15質量%の割合で前記多機能塗膜に含まれ、かつ前記増粘剤(D)が0.3質量%~3.0質量%の割合で含まれ、前記フッ素系官能基成分(A)と前記金属酸化物粒子(B)とは、合計して前記多機能塗膜を100質量%とするとき、15質量%~70質量%の割合で含まれ、前記金属酸化物粒子(B)に対する前記フッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.02~0.5の範囲にあり、前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であることを特徴とするエアフィルタである。
【0010】
【0011】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、炭素骨格は、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
【0012】
このYについて更に述べると、Yは、金属酸化物粒子(B)と結合する部位である。具体例としては、後述する式(3)又は式(4)において、Yとして、Z部分が加水分解した構造が挙げられる。また、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドとを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。更に、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドと、エポキシ基やビニル基、エーテル基を含有したシラン等とを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。因みに、上記カルボキシル基含有物等(C)は、上記フッ素系官能基成分(A)が結合した金属酸化物粒子(B)を、不織布の基材に密着させるためのバインダ成分として用いられる。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種の金属の酸化物粒子であるエアフィルタである。
【0014】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体であるエアフィルタである。
【0015】
本発明の第4の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記増粘剤(D)が、層状無機化合物又は増粘多糖類であるエアフィルタである。
【0016】
本発明の第5の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成されるエアフィルタである。
【0017】
本発明の第6の観点は、第1又は第5の観点のうちいずれかの観点に基づく発明であって、前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維であるエアフィルタである。
【0018】
本発明の第7の観点は、
図3に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液と、自己反応型のカルボキシル基含有物等と、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒と、増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液とを混合して多機能塗膜形成用液組成物(以下、単に液組成物ということもある。)を調製する工程と、前記多機能塗膜形成用液組成物に不織布をディッピングする工程と、前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程とを含むエアフィルタの製造方法である。
【0019】
本発明の第8の観点は、第7の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液が、金属酸化物粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合して、調製されるエアフィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の観点のエアフィルタは、エアフィルタに含まれる不織布の繊維表面に多機能塗膜が形成され、多機能塗膜が、前述した一般式(1)又は式(2)で示されるフッ素系官能基成分(A)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と増粘剤(D)とを含み、多機能塗膜を100質量%とするとき、前記フッ素系官能基成分(A)が1.5質量%~15質量%の割合で前記多機能塗膜に含まれ、かつ増粘剤(D)が0.3質量%~3.0質量%の割合で多機能塗膜に含まれ、フッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とは、合計して多機能塗膜を100質量%とするとき、15質量%~70質量%の割合で含まれ、金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.02~0.5の範囲にあり、エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒である。このため、エアフィルタ内にオイルミストと粉塵を含む空気がエアフィルタの一面から流入すると、オイルミストと粉塵が不織布で捕集され、空気だけが不織布の気孔を通過しエアフィルタの他面から流出して、空気が清浄になり、目詰まりが抑制される。
【0021】
このとき、多機能塗膜の撥油性能のため、またエアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であるため、オイルミストが不織布の繊維表面の多機能塗膜に吸着せずに弾かれて付着するに止まる。エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、オイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。
【0022】
一方、粉塵は、エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒であるため、不織布の繊維表面の多機能塗膜に直接付着するか、或いは多機能塗膜に付着したオイルミストに付着する。このため、エアフィルタを長期間使用して粉塵等で目詰まりしたときに、エアノッカー等でエアフィルタに衝撃を与えると、オイルミストと一緒に付着した粉塵を容易に落とすことができ、エアフィルタを再生することができる。
【0023】
本発明の第2の観点のエアフィルタでは、多機能塗膜に含まれる金属酸化物粒子(B)が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種の金属の酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、エアフィルタの使用環境に適した金属酸化物を選択することができる。
【0024】
本発明の第3の観点のエアフィルタでは、自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体であるため、上記共重合体が金属酸化物粒子のバインダとして作用するとともに、多機能塗膜が不織布の繊維表面に形成されたときに、膜を不織布表面に堅牢に結着させることができる。
【0025】
本発明の第4の観点のエアフィルタでは、多機能塗膜に含まれる増粘剤(D)が、層状無機化合物又は増粘多糖類であるため、多機能塗膜の膜厚を大きくしてエアフィルタの通気度を減少させ、これによりオイルミストがエアフィルタを通過することを阻止する。また多機能塗膜に弱親水性を付与することができる。
【0026】
本発明の第5の観点のエアフィルタでは、不織布が単一層により構成される場合には、簡単な構成のエアフィルタになり、不織布が複数層の積層体により構成される場合には、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて各層を構成することができる。
【0027】
本発明の第6の観点のエアフィルタでは、不織布を構成する繊維の材質を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属から、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて、選択することができる。
【0028】
本発明の第7の観点の方法では、
図3に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液と、自己反応型のカルボキシル基含有物等と、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒と、増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液とを混合して多機能塗膜形成用液組成物を調製し、この多機能塗膜形成用液組成物に不織布をディッピングして不織布を脱液し乾燥することにより、エアフィルタが製造されるため、不織布の繊維表面に多機能塗膜を均一に形成することができる。またフッ素含有金属酸化物粒子がカルボキシル基含有物等中に存在し、増粘剤が多機能塗膜に含まれることにより、弱親水性と撥油性を有しながら不織布の通気度を低くすることが容易になる。更に特許文献1のPTFE多孔質膜とは異なり、多機能塗膜が弱親水性であるため、第一に多機能塗膜には静電気が発生しにくく、簡便にエアフィルタを製造することができ、第二にオイルミストに含まれる水蒸気を吸収することにより、多機能塗膜により油を弾く効果を発現させ、エアフィルタの目詰まり防止効果をより高めることができる。
【0029】
本発明の第8の観点のエアフィルタの製造方法では、金属酸化物粒子の水分散液にフッ素系化合物を添加混合するため、フッ素含有金属酸化物粒子が均一に分散した分散液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本実施形態の単一層の不織布の側面図である。
【
図3】本実施形態のエアフィルタを製造するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0032】
〔エアフィルタ〕
図1に示すように、本実施形態のエアフィルタ10は、不織布20とこの不織布の繊維表面に形成された弱親水性と撥油性を有する多機能塗膜21とを備える。このエアフィルタ10の主たる構成要素である不織布20は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面20aと、この一面20aに対向し前記空気が流出する他面20bを有し、単一層からなる。
図2に示すように、上層の不織布30と下層の不織布40の二層の積層体により構成されるエアフィルタ50でもよい。この場合、上層の不織布30の上面がオイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面30aとなり、下層の不織布40の下面がこの一面30aに対向する他面40bとなる。なお、積層体は二層に限らず、三層、四層等の複数層から構成することもできる。
【0033】
図1中央の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には多機能塗膜21が形成される。不織布の目付は、100g/m
2~400g/m
2の範囲にあることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。多機能塗膜21は、金属酸化物粒子(B)とバインダ成分としての自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と増粘剤(D)とを含む。この金属酸化物粒子(B)には、前述した一般式(1)又は式(2)で示されるフッ素系官能基成分(A)が結合する。多機能塗膜を100質量%とするとき、フッ素系官能基成分(A)が1.5質量%~15質量%の割合で多機能塗膜21に含まれ、かつ増粘剤(D)が0.3質量%~3.0質量%の割合で含まれる。またフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とは、合計して多機能塗膜を100質量%とするとき、15質量%~70質量%の割合で含まれる。また金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.02~0.5の範囲にある。
【0034】
図1上部の更なる拡大図に示すように、多機能塗膜21は、粒子表面がフッ素系官能基成分に覆われた多数の金属酸化物粒子21aがカルボキシル基含有物等からなるバインダ成分21bで結着して構成される。多機能塗膜21は金属酸化物粒子21aと増粘剤(D)を含むため、見かけ上、厚膜となり、繊維と繊維の間の気孔20dを狭くすることができる。また膜厚は、金属酸化物粒子の粒子径と膜成分中の増粘剤の含有割合を変えることにより制御することができる。更に増粘剤(D)を含むことにより、多機能塗膜に弱親水性を付与し、第一に静電気が発生しにくい多機能塗膜にすることができ、第二にオイルミストに含まれる水蒸気を吸収して、多機能塗膜により油を弾く効果を発現させ、エアフィルタの目詰まり防止効果をより高めることができる。
【0035】
不織布の目付が100g/m2未満であると、繊維間の気孔が大き過ぎることから、粉塵を捕集する能力が不足し易い。400g/m2を超えると、通気度が1ml/cm2/秒未満となり、粉塵が直ぐに繊維間の気孔に詰まり易くなるか、或いは通気度が低過ぎるため、エアフィルタに送り込む空気の抵抗によりエアフィルタで圧力損失が生じ易く、送風エネルギーの効率が悪化し易い。不織布の目付は、200g/m2~350g/m2の範囲にあることが更に好ましい。
【0036】
繊維表面に多機能塗膜21が形成されたエアフィルタ10の状態で、不織布20は1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度が1ml/cm2/秒未満では、通気性に劣り、オイルミストと粉塵を含む空気が通過しにくくなる。30ml/cm2/秒を超えると、不織布の気孔20dの大きさが流入する空気中のオイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23の各粒径よりも遙かに大きくなり、油粒子22及び粉塵の粒子23が空気とともに不織布の気孔を通してエアフィルタ10から通過し、オイルミストと粉塵を捕集することができない。通気度は1.5ml/cm2/秒~40ml/cm2/秒であることが好ましい。通気度はJIS-L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【0037】
多機能塗膜21を100質量%とするとき、フッ素系官能基成分(A)の多機能塗膜に含まれる割合が1.5質量%未満では、撥油性の効果に乏しく、オイルミストを弾く性能が不十分になる。即ち、オイルミストがエアフィルタに到達したときに、オイルミストが繊維表面上に濡れ広がり、気孔20dを塞ぎ易くなる。フッ素系官能基成分(A)の多機能塗膜に含まれる割合が15質量%を超えると、多機能塗膜の不織布への密着性が悪くなる。多機能塗膜21中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合は、1.2質量%~12質量%であることが好ましい。
【0038】
多機能塗膜21に含まれる増粘剤(D)は、多機能塗膜を100質量%とするとき、0.3質量%~3.0質量%の割合で含まれる。0.3質量%未満では、撥水性の膜となり、弱親水性を示さない。 3.0質量%を超えると、多機能塗膜の撥油性が悪くなる。多機能膜21に含まれる増粘剤(D)が、0.5質量%~2.8質量% であることが好ましい。
【0039】
このようなエアフィルタ10の作用について説明する。
図1に示すように、オイルミストと粉塵を含む空気が、エアフィルタ10を構成する不織布20の一面20aに到来する。ここでエアフィルタ10は所定の通気度を有するため、また多機能塗膜21が撥油性を示すため、オイルミストの油粒子22は気孔20dの孔径より粒径が大きい場合は勿論のこと、気孔20dの孔径より粒径が僅かに小さくても、エアフィルタ10を通過できず、不織布20の繊維20cと繊維20cの間に、多機能塗膜21によって弾かれながら、多機能塗膜21に付着して止まる。同時に粉塵の粒子23も多機能塗膜21に付着して止まる。多機能塗膜21中にフッ素含有金属酸化物粒子21aを含むため、膜が凹凸になり、油粒子22の膜への付着の程度は低い一方、粉塵の粒子23は付着し易くなる。これにより、オイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23が不織布に捕集され、オイルミストと粉塵を含んだ空気が、
図1の拡大図に示す繊維20cと繊維20cの間に形成された気孔20dを通過して他面20bに至り、オイルミストと粉塵のない空気となって、不織布20を通過する。
【0040】
エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、膜への付着の程度が低いオイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。粉塵は不織布の繊維表面の多機能塗膜に直接付着するか、或いは多機能塗膜に付着したオイルミストに付着する。不織布20に溜まったオイルミストと粉塵は、定期的にエアノッカー等でエアフィルタ10に衝撃を与えることにより、エアフィルタ10から除去することができる。また、増粘剤を含むことにより、多機能塗膜に弱親水性を付与し、第一に静電気が発生しにくい多機能塗膜にすることができ、第二にオイルミストに含まれる水蒸気を吸収して、多機能塗膜により油を弾く効果を発現させ、エアフィルタの目詰まり防止効果をより高めることができる。
【0041】
〔エアフィルタの製造方法〕
エアフィルタは次の方法により、概略製造される。
図3に示すように、金属酸化物粒子の水分散液51にフッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物52を混合してフッ素含有金属酸化物粒子の水分散液54を調製する。分散液のpHが中性の場合には、フッ素系化合物52を混合した後、触媒53を添加混合してフッ素含有金属酸化物粒子の水分散液54を調製することができる。この水分散液54に、バインダ成分としてのカルボキシル基含有物等55を混合して混合液56を調製した後、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒57を混合して、混合液56を希釈し、更に増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液58を混合することにより、多機能塗膜形成用液組成物60を調製する。この液組成物60に不織布20をディッピングする。続いて不織布20を脱液し、乾燥することによりエアフィルタ10を製造する。
【0042】
以下、エアフィルタの製造方法を詳述する。
〔不織布の準備〕
先ず、1.1ml/cm2/秒~40ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。具体的には、後述する多機能塗膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタになった状態で、1ml/cm2/秒~30ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。多機能塗膜が厚膜に形成される場合には、通気度の大きい不織布が選定され、多機能塗膜が薄膜に形成される場合には、通気度の小さい不織布が選定される。また多機能塗膜を厚膜にする作用のある増粘剤の含有割合に応じて準備する不織布の通気度が選定される。
【0043】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルター、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(商品名:336又は商品名:356(いずれも安積濾紙社製))、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(商品名:G2260-1S(東レ社製)又は商品名:191001(東洋紡績社製))、ポリプロピレン繊維からなる不織布(商品名:M03150(三井化学社製))又は金属繊維からなる不織布(日エテクノ社製)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm~10μmの太さが好適である。不織布の厚さは、エアフィルタが単一層である場合には、0.2mm~0.8mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.2mm~5mmになる厚さが好ましい。
【0044】
〔多機能塗膜形成用液組成物の製造方法〕
〔金属酸化物粒子の水分散液の調製〕
先ず、先ず、水性溶媒中に、金属酸化物粒子を分散させて金属酸化物粒子の水分散液を調製する。金属酸化物粒子は、2nm~90nm、好ましくは2nm~85nmの平均粒子径を有する。平均粒子径が2nm未満では、金属酸化物粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。90nmを超えると、液組成物を成膜したときに、金属酸化物粒子が多機能塗膜から脱落しやすくなる。金属酸化物粒子としては、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、TiO2、ZnO、ZrO2の粒子等が例示される。市販品として、二酸化ケイ素の水分散液(商品名:ST-ZL(日産化学社製、SiO2濃度40%)、商品名:ST-C(日産化学社製、SiO2濃度20%)、商品名:ST-CM(日産化学社製、SiO2濃度30%))、二酸化ジルコニウムの水分散液(商品名:SZR-W(堺化学社製、ZrO2濃度30%))、二酸化チタンの水分散液(商品名:TKS-203(テイカ社製、TiO2濃度20%))、酸化亜鉛の水分散液(商品名:MZ-500(テイカ社製、ZnO濃度30%))等が例示される。
【0045】
水性溶媒としては、水又は水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒が例示される。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水、蒸留水などの純水を使用するのが望ましい。ここで、溶媒として水性溶媒を用いて、有機溶媒を用いないのは、取扱い上の安全性のためである。なお、本明細書において、金属酸化物粒子の平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した粒子形状のうち、200点の粒子サイズを画像解析により測定したものの平均値をいう。
【0046】
〔フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液の調製〕
次に、調製された金属酸化物粒子の水分散液中に、上述した式(1)又は式(2)で表されるフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を添加して、金属酸化物粒子とフッ素系官能基成分とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。ここで、更に反応を促進するために、触媒を添加してもよい。これにより、フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液が調製される。
【0047】
触媒を用いる場合には、触媒として、有機酸、無機酸、アルカリ又はチタン化合物が挙げられ、有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアが例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。
【0048】
フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0053】
【0054】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0055】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0056】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0057】
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0058】
【0059】
【0060】
上述したように、本実施の形態の多機能塗膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥油性を付与することができる。
【0061】
〔自己反応型のカルボキシル基含有物等〕
バインダ成分としての自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はエチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合体である。市販品として、エチレン-酢酸ビニル系のものとしては、セポルジョンVA406N、セポルジョンVA407N(いずれも住友精化社製)、スミカフレックスS-201HQ、S-355HQ、S-401HQ、S-465HQ、S-951HQ、S3950(いずれも住化ケムテックス社製)、アクアテックスEC-1800、EC-1200(いずれもジャパンコーティングレジン社製が挙げられる。またエチレン-アクリル酸共重合体としては、ザイクセンA、ザイクセンL、ザイクセンN(いずれも住友精化社製)などが、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸系のものとしてはスミカフレックスS-900HL(住化ケムテックス社製)などが挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体であるスミカフレックスS-830や、エチレン-酢酸ビニル-バーサチック酸ビニル共重合であるスミカフレックスS-950HQ(いずれも住化ケムテックス社製)も挙げられる。更に、アクリル系のものとしてはTOCRYL BCX-1160R-2(トーヨーケム社製)が挙げられる。
【0062】
フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液に、上記自己反応型のカルボキシル基含有物等を混合して、混合液を調製した後で、この混合液に、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒を混合して、混合液を希釈する。ここで、混合溶媒は、アルコールの含有割合が40質量%以下の水である。炭素数1~4のアルコールの含有割合を40質量%以下とするのは取扱い上の安全性と液組成物の保存安定性のためである。また水と炭素数1~4のアルコールとを混合した混合溶媒にすることにより、乾燥速度が向上し、成膜性が改善される。炭素数1~4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールが挙げられる。
【0063】
上記混合液を希釈した後で、増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液を添加混合する。増粘剤としては水に不溶の層状無機化合物の他に、水溶性の増粘多糖類を用いることができる。増粘剤水溶液は増粘多糖類を水に溶解させることにより、また増粘剤水分散液は層状無機化合物を水に分散させることにより、それぞれ調製される。水溶性の増粘多糖類としては、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、デキストリン、カラギーナン、グァーガム、ペクチン等が例示される。水に不溶の層状無機化合物としては、ベントナイト(商品名:モイストナイトS(クニミネ工業社製))、スメクトナイト(商品名:スメクトンSA(クニミネ工業社製))、ヘクトライト(商品名:ラポナイトRDS(ロックウッド社製))等が例示される。これらの層状無機化合物は粒子状であって、好ましくは0.1μm~10μmの平均粒子径を有する。平均粒子径が0.1μm未満又は10μmを超えると、水分散液になりにくい。キサンタンガムとしては、キサンタンG(三晶株式会社製)が例示される。増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液は、上記増粘剤を水に混合し撹拌することにより調製する。増粘剤の好ましい含有割合は、多機能塗膜形成用液組成物を100質量%とするとき、0.08質量%~0.45質量%である。
【0064】
〔多機能塗膜形成用液組成物〕
本実施の形態の多機能塗膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素系官能基成分(A)が結合した金属酸化物粒子(B)と、バインダ成分としての自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)と、混合溶媒と、増粘剤水溶液又は増粘剤水分散液とを含む。このフッ素系官能基成分(A)は、上記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有する。上記液組成物は、溶媒を除く全成分量を100質量%とするとき、フッ素系官能基成分(A)が1.5質量%~15質量%含まれる。フッ素系官能基成分が1.5質量%未満では形成した膜に撥油性を付与できず、15質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素系官能基成分(A)の含有割合は2質量%~13質量%である。またフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)とを合計した含有割合は、溶媒を除く全成分量を100質量%とするとき、15質量%~70質量%、好ましくは20質量%~65質量%である。更に金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.02~0.5、好ましくは0.05~0.4の範囲にある。
【0065】
成分(A)と粒子(B)とを合計して、15質量%未満では、多機能塗膜の撥油性能が低下する。また合計して70質量%を超えると、カルボキシル基含有物等(C)の含有量が相対的に低くなり、液組成物を基材に成膜したときに、多機能塗膜が不織布の繊維表面に堅牢に結着しなくなる。また質量比(A/B)が0.02未満では、多機能塗膜が撥油性に劣り、0.5を超えると、多機能塗膜の不織布の繊維表面への密着性が低下する。
【0066】
〔不織布の繊維表面への多機能塗膜の形成方法〕
本実施形態の不織布の繊維表面に多機能塗膜を形成するには、多機能塗膜形成用液組成物に不織布をディッピングして希釈液から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた不織布を振り払って余分な液を除去するか、或いは引き上げた不織布をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した不織布は、大気中、25℃~140℃の温度で0.5時間~24時間乾燥する。これにより、
図1中央の拡大図に示すように、不織布20を構成している繊維20cの表面に多機能塗膜21が形成される。脱液量が少ない場合には、多機能塗膜は厚膜に不織布の繊維表面に形成され、脱液量が多い場合には、多機能塗膜は薄膜に不織布の繊維表面に形成される。
【実施例0067】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液を調製する合成例1~6及び比較合成例1~3を説明し、次いでこれらの合成例及び比較合成例を用いた多機能塗膜形成用液組成物の調製とエアフィルタの製造に関する実施例1~7及び比較例1~4を説明する。
【0068】
〔フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液を調製するための合成例1~6、比較合成例1~3〕
<合成例1>
平均粒子径が70nmの二酸化ケイ素の水分散液(商品名:ST-ZL(日産化学社製、SiO2濃度40%))が50g入ったビーカーに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を2.00g添加し混合し、40℃で2時間混合し、二酸化ケイ素粒子がフッ素系化合物に結合した二酸化ケイ素(シリカ)粒子の水分散液(フッ素含有シリカ粒子の水分散液)を得た。金属酸化物粒子(B)である二酸化ケイ素に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)は0.09であった。
以下の表1に合成例1のフッ素含有金属酸化物粒子の水分散液の調製条件を示す。
【0069】
【0070】
<合成例2~6及び比較合成例1~3>
合成例2~6及び比較合成例1~3では、金属酸化物粒子の種類を合成例1と異なる種類に変更し、フッ素系化合物を合成例1と異なる種類に変更した。合成例4~6及び比較合成例1ではフッ素系化合物を混合した後、触媒として硝酸を使用した。触媒の使用量は、表1に示す値にした。金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の質量比(A/B)を合成例1とは異なるように変更した。それ以外は合成例1と同様にして、上記表1に示すように、合成例2~6及び比較合成例1~3の各フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液を調製した。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)~式(21)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0071】
〔多機能塗膜形成用液組成物の調製とエアフィルタの製造のための実施例1~7、比較例1~4〕
<実施例1>
合成例1で得られたフッ素含有金属酸化物粒子の水分散液13.0gに、バインダ成分であるアセチル基を有するエチレン-酢酸ビニル系のカルボキシル基含有物等(商品名:スミカフレックス S-355HQ(住友化学社製))10.00gを混合して混合液を調製した。この混合液に、混合溶媒(水19.9gと工業用アルコール(商品名:ソルミックスAP-7(日本アルコール販売社製))3.8gとを混合した溶媒)23.7gと、増粘剤(商品名:モイストナイトS(クニミネ工業社製))0.55gを含む水分散液を混合し、多機能塗膜形成用液組成物を調製した。この液組成物には、液組成物を100質量%とするとき、増粘剤は0.28質量%の割合で含まれていた。エアフィルタの基材として、PET繊維からなるからなる、通気度が15ml/m2/sの不織布G2260-1S(東レ社製)を用いた。上記多機能塗膜形成用液組成物にこの不織布をディッピングし、余分な液を振り払い、室温で24時間乾燥させ、通気度が6.0ml/cm2/秒のエアフィルタを作製した。この内容を以下の表2~表4に示す。
【0072】
表2には、多機能塗膜形成用液組成物を調製するための『フッ素含有金属酸化物粒子』の種類と秤量、『自己反応型のカルボキシル基含有物等(C)』の種類と秤量、『混合溶媒』の詳細及び『増粘剤』の種類、秤量及び液組成物中の含有割合を示す。
表3には、『溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)』の含有割合、『溶媒を除くカルボキシル基含有物等(C)』の含有割合及び『溶媒を除くフッ素系官能基成分(A)と金属酸化物粒子(B)との合計』の含有割合を示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
<実施例2~7及び比較例1~4>
表2に示すように、実施例2~7及び比較例1~4では、表1に示す合成例1~6又は比較合成例1~3で得られたフッ素含有金属酸化物粒子の水分散液をそれぞれ用いて、それぞれの秤量を決定した。実施例2~7及び比較例1~4では、表2に示すように、バインダ成分である自己反応型のカルボキシル基含有物等、混合溶媒及び増粘剤を用いて、それぞれの秤量を決定した。増粘剤の含有割合は、液組成物を100質量%とするときの液組成物に含まれる増粘剤の割合を示す。 このようにして、実施例2~7及び比較例1~4の各多機能塗膜形成用液組成物を調製した。
【0077】
表3に示す通気度の異なる不織布と、エアフィルタの基材の種類を選定して、実施例2~7及び比較例1~4の各多機能塗膜形成用液組成物に、不織布からなる基材を、実施例1と同様にして、ディッピングし、脱液・乾燥して表4に示す特性を有するエアフィルタを得た。
【0078】
<比較試験及び評価>
(1) 通気度
実施例1~7及び比較例1~4で得られた11種類のエアフィルタの通気度を前述したように、JIS-L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定した。
【0079】
(2) 撥油性
実施例1~7及び比較例1~4で得られた11種類のエアフィルタの撥油性を次の方法で測定し、評価した。金属製品を切削油を用いて加工する工作機械から飛散するオイルミストと粉塵に模して、n-ヘキサデカンと酸化鉄(III)(富士フイルム和光純薬社製)を質量比で80:20の割合で自転公転撹拌機(シンキー社製ARE-310)に投入して撹拌混合し、模擬液を得た。得られた模擬液1mlを、実施例1~7及び比較例1~4で得られた11種類の水平に置いたエアフィルタのそれぞれに上方から滴下した後、エアフィルタを鉛直に立てて、模擬液の転落性を確認した。模擬液がエアフィルタに捕集された後、エアフィルタを通過するものは、エアフィルタの撥油性が『不良』であるとし、模擬液がエアフィルタに捕集された後、エアフィルタを若干通過し、かつ模擬液がエアフィルタの表面から転落するが、その転落量が減少するものは、エアフィルタの撥油性が『やや良好』であるとし、模擬液がエアフィルタに捕集されるとともに、エアフィルタを通過せず、エアフィルタの表面から転落するものをエアフィルタの撥油性が『良好』であるとした。
【0080】
(3) 弱親水性
実施例1~7及び比較例1~4で得られた11種類の水平に置いたエアフィルタのそれぞれに0.1mLの水を上方から滴下した後、60秒以上水を保持し、1時間後に水がエアフィルタに浸透する場合を弱親水性が『良好』であるとし、60秒未満の保持時間でエアフィルタに浸透する場合を親水性であると判定し、1時間後も水を保持する場合を撥水性である判定し、それぞれ弱親水性が『不良』であるとした。
【0081】
(4) 膜強度
実施例1~7及び比較例1~4で得られた11種類のエアフィルタを構成する不織布繊維表面の多機能塗膜の強度を静動摩擦測定機(トリニティーラボ社製、TL201Tt)を使用してJIS K7136に準拠して測定した。測定条件は、接触子:ウレタンゴム、荷重;500gf、移動速度;50mm/秒、移動距離;30mmとした。水平に置いたエアフィルタのの表面において、接触子を10往復させた後、上記撥油性を測定するときに用いた模擬液を滴下し、上記(2)と同じ方法で、撥油性を評価した。撥油性が接触子移動後も変化しない場合を膜強度が『良好』であるとし、模擬液がエアフィルタにしみ込んで撥油性が変化する場合を膜強度が『不良』であるとした。
【0082】
表3から明らかなように、比較例1のエアフィルタは、平均粒子径が230nmである金属酸化物(二酸化ケイ素)粒子を含む比較合成例1から多機能塗膜形成用液組成物を調製し、この液組成物に不織布をディッピングし、脱液し乾燥して作られたため、金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるカルボキシル基含有物等で金属酸化物粒子が不織布の繊維表面に結着しにくく、かつ通気度が低くなり過ぎた。この結果、模擬液がエアフィルタから転落せず、撥油性が『不良』であった。更に、膜強度も『不良』あった。
【0083】
比較例2のエアフィルタでは、溶媒を除く液組成物中のフッ素系官能基成分(A)の含有割合が0.4質量%と少な過ぎ、フッ素含有金属酸化物粒子の水分散液(フッ素含有シリカ粒子の水分散液)における『(A)/(B)』が0.005であり、フッ素系官能基成分の含有量が少な過ぎた。また、溶媒を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が80質量%であり、膜中のバインダとしてのカルボキシル基含有物等の含有量が相対的に少な過ぎた。このため、模擬液はエアフィルタにしみこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。またバインダ成分の含有量が少ないため、膜強度は小さく、『不良』であった。
【0084】
比較例3のエアフィルタでは、金属酸化物粒子(B)に対するフッ素系官能基成分(A)の含有割合が4.7質量%と多過ぎたため、フッ素系官能基成分のみで重合してしまうため、不均一状態の塗工液になった。また、溶媒を除く液組成物中の『(A)+(B)』の含有割合が10質量%であり、膜中のフッ素系官能基成分の含有量が少な過ぎた。そのため、多機能塗膜液組成物が不織布に均一に塗工されず、多機能塗膜が不織布の繊維表面に均一に形成されなかった。このため、多機能塗膜が多孔質となって、通気度は36.0ml/cm2/秒と高くなり過ぎ、多機能塗膜に撥油性が発揮されず、模擬液がエアフィルタを通過したため、撥油性は『不良』であった。また形成された膜が不均一であったため、弱親水性は、『不良』であった。更にまた上記と同じ理由で膜強度は小さく、『不良』であった。
【0085】
比較例4のエアフィルタでは、増粘剤の添加量が9.1質量%と多過ぎため、弱親水性は、『良好』であったが、フッ素系官能基成分が16.6質量%と多過ぎたため、多機能塗膜の不織布への密着性が悪くなり、撥油性は『不良』であった。更にフッ素系官能基成分が多過ぎたため、比較例3と同じ理由で不均一な膜であったため、膜強度は弱く、『不良』であった。
【0086】
これらに対して、実施例1~7のエアフィルタでは、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、模擬液が捕集されるとともに、エアフィルタから転落し、その撥油性はすべて『良好』であり、また多機能塗膜が均一に形成されているため、その弱親水性はすべて『良好』であり、更にその膜強度はすべて『良好』であることを確認できた。