IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日鉄住金防蝕株式会社の特許一覧

特開2023-70985コンクリート構造物中の塩化物イオン定量法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070985
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】コンクリート構造物中の塩化物イオン定量法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183526
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000227261
【氏名又は名称】日鉄防食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】今井 篤実
(72)【発明者】
【氏名】我那覇 康彦
(72)【発明者】
【氏名】弓川 徹
(57)【要約】
【課題】短時間で精度良く、低コストでコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度を定量する方法の提供。
【解決手段】コンクリート構造物Aにドリルによって孔を形成し、コンクリート粒子を採取する採取工程と、前記コンクリート構造物Aとは別のコンクリート構造物Bを構成するコンクリートについて蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これらの対応関係を示す検量線Bを用意した後、前記採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕し、蛍光X線分析に供して求めた塩化物イオン濃度から、前記検量線Bを用いて、電位差滴定法によって求めたものに相当する塩化物イオン濃度を求め、それを前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度として求める計測工程と、を備えるコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物Aにドリルによって孔を形成し、コンクリート粒子を採取する採取工程と、
前記コンクリート構造物Aとは別のコンクリート構造物Bを構成するコンクリートについて蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これらの対応関係を示す検量線Bを用意した後、前記採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕し、蛍光X線分析に供して求めた塩化物イオン濃度から、前記検量線Bを用いて、電位差滴定法によって求めたものに相当する塩化物イオン濃度を求め、それを前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度として求める計測工程と、
を備えるコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
【請求項2】
前記採取工程において、前記コンクリート構造物Aに集塵機構が付属した電動ハンマードリルによって、直径が10~16mmの前記孔を4~6個、形成し、
前記計測工程において、前記コンクリート粒子を直径150μm以下に粉砕して前記蛍光X線分析に供する、
請求項1に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
【請求項3】
前記計測工程において、前記コンクリート構造物Aを構成するコンクリートの特定部分について蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これを用いて前記検量線Bを修正した検量線Aを用意し、前記検量線Bの代わりに前記検量線Aを用いて前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度を求める、請求項1または2に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物中の塩化物イオンを定量する方法として、コンクリート構造物からコアを採取した後、深度毎に切り分けて化学分析を行う方法が広く利用されて来た。
【0003】
また、これとは別の方法として特許文献1には、コンクリート構造物からコアを採取した後、コンクリートコアの断面を蛍光X線分析装置で測定する方法が記載されている。具体的には、コンクリート構造物からコンクリートコアを採取するコア採取工程と、採取した前記コンクリートコアを切断する切断工程と、切断した前記コンクリートコアの断面を蛍光X線分析装置で測定することによりコンクリート構造物内部の塩化物イオン濃度を測定する測定工程と、を含むコンクリート構造物の表面および内部の塩化物イオン量測定方法が特許文献1に記載されている。そして、このような測定方法によれば、現場においても行うことが可能な簡単な操作による迅速で誤差が少ないコンクリート中の塩化物イオンの量を測定する方法を提供することができると記載されている。
【0004】
また、さらに別の方法として、特許文献2には、硬化コンクリートからドリルによって採取した粉末をそのまま均一に混合して試料とし、その一定量を計り取り、80℃以上の加熱蒸留水を一定量添加して一定時間塩素イオンを溶出させ、上澄み水を採取してJIS A 1154に示された電量滴定法と同等の精度を有する電量滴定式等のポータブル塩分計を用いて測定することを特徴とする硬化コンクリート中の塩素イオン濃度迅速測定方法が記載されている。そして、このような測定方法によれば、硬化コンクリート中の塩化物イオン含有量を試料採取箇所に至近の場所で、かつ迅速に、しかも塩分量詳細測定方法と相関性のよい精度で塩化物イオン含有量を測定でき、必要経費を大幅に削減することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-161267号公報
【特許文献2】特開2011-158437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような特許文献1に記載の方法では、コンクリート構造物からコアを採取するために長時間が必要となり、また、高コストとなってしまう。また、コアの断面を蛍光X線分析装置で測定するため、測定結果がコンクリート構造物の塩化物イオン濃度の代表値を示していない可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、硬化コンクリートからドリルによって採取した粉末に80℃以上の加熱蒸留水を添加して塩素物イオンを溶出させ、上澄み水を採取してポータブル塩分計を用いて測定するため、長時間が必要となってしまう。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、短時間で精度良く、低コストでコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度を定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)~(3)である。
(1)コンクリート構造物Aにドリルによって孔を形成し、コンクリート粒子を採取する採取工程と、
前記コンクリート構造物Aとは別のコンクリート構造物Bを構成するコンクリートについて蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これらの対応関係を示す検量線Bを用意した後、前記採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕し、蛍光X線分析に供して求めた塩化物イオン濃度から、前記検量線Bを用いて、電位差滴定法によって求めたものに相当する塩化物イオン濃度を求め、それを前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度として求める計測工程と、
を備えるコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
(2)前記採取工程において、前記コンクリート構造物Aに集塵機構が付属した電動ハンマードリルによって、直径が10~16mmの前記孔を4~6個、形成し、
前記計測工程において、前記コンクリート粒子を直径150μm以下に粉砕して前記蛍光X線分析に供する、
上記(1)に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
(3)前記計測工程において、前記コンクリート構造物Aを構成するコンクリートの特定部分について蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これを用いて前記検量線Bを修正した検量線Aを用意し、前記検量線Bの代わりに前記検量線Aを用いて前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度を求める、上記(1)または(2)に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン定量法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間で精度良く、低コストでコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度を定量する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明ではコンクリート構造物中の塩化物イオンを定量する。コンクリート構造物における複数個所の塩化物イオン濃度を測定すれば、そのコンクリート構造物における塩化物イオン濃度の分布を求めることもできる。
【0012】
本発明においてコンクリート構造物とは、主にコンクリートを用いて作られた構造物を意味する。具体的には橋梁の橋桁、防波堤、桟橋、ビル、護岸、防波堤、道路橋、鉄道橋、建築構造物、煙突、トンネル、水路構造物等が挙げられる。
【0013】
<採取工程>
本発明における採取工程について説明する。
以下、塩化物イオン濃度の測定対象であるコンクリート構造物を「コンクリート構造物A」とする。
本発明における採取工程は、コンクリート構造物Aにドリルによって孔を形成し、コンクリート粒子を採取する工程である。
【0014】
ドリルで形成する孔の大きさ(孔の断面直径)は特に限定されない。例えば5~30mmであってよく、10~16mmあることが好ましい。
コンクリート構造物Aにおける測定対象となる箇所ごとに、複数(例えば3~6個、好ましくは4~6個)の孔を形成し、複数の孔からコンクリート粒子を採取することが好ましい。より精度よく塩化物イオン濃度を測定するためである。
【0015】
採取工程では、コンクリート構造物Aの表面から特定の深さまでドリルを穿つことで、コンクリート構造物Aを粒状に粉砕する。
ここで粒の大きさは特に限定されない。数μm~数mmの大きさのものが想定される。
ここで細かいコンクリート粒子が発生する可能性があるため、ドリルで穿つ際にそれらが飛散してしまわないように、ドリル自体をダストカバー等で覆ったり、専用の部材(ダストケース等)を用いたりすることが好ましい。また、集塵機能を備えるドリル(集塵ハンマードリル等)を用いることが好ましい。
【0016】
コンクリート構造物Aをドリルで穿つ際に、その深度ごとに粒状に粉砕されたコンクリート粒子を採取し、各々塩化物イオン濃度を測定すれば、コンクリート構造物Aの表面から深さ方向における塩化物イオン濃度の分布を求めることができる。例えば表面からの深さが20~40mmおよび100~120mmをドリルで穿つことで形成された粒子を集め、各々について塩化物イオン濃度を測定することで、深さ方向の塩化物イオン濃度の分布を求めることができる。
このような結果は、そのコンクリート構造物Aの寿命や補修の要否などの判断に利用することができる。
【0017】
ドリルビットの断面直径は特に限定されない。例えば5~30mmであってよく、10~16mmあることが好ましい。
【0018】
ドリルとしては3D超硬ドリル(SDSプラスシャンク)というものを用いることができる。
また、ドリルとして集じんハンマードリル(例えばマキタ HR2651)を用いることができる。このドリルの回転数は0~1200/min、打撃数は0~4600/min、電源は100V、電流は8.4A、消費電力は800W、質量4.2kgである。
【0019】
コンクリート構造物Aをドリルで穿ちながら粒状のコンクリート粒子が排出されるが、所望の場所および深さの孔を形成した後、孔からドリルを引き抜き、孔の中に残っている粒子を取り出し、これを採取することが好ましい。
例えば、圧縮空気を排出することができる機器(ダスター等)を用いて、孔の中に残っている粒子を取り出し、これを採取することができる。
【0020】
<計測工程>
本発明における計測工程について説明する。
本発明における計測工程は、前記コンクリート構造物Aとは別のコンクリート構造物Bを構成するコンクリートについて蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これらの対応関係を示す検量線Bを用意した後、前記採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕し、蛍光X線分析に供して求めた塩化物イオン濃度から、前記検量線Bを用いて、電位差滴定法によって求めたものに相当する塩化物イオン濃度を求め、それを前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度として求める計測工程である。
【0021】
計測工程では、上記の採取工程によって得られたコンクリート粒子を粉砕し、より細かい粒子、すなわち微粒子とする。コンクリート粒子を粉砕する方法は特に限定されず、例えば手動乳鉢、自動乳鉢、振動ディスク、モーターグラインダー、電動粉砕機を用いる方法が挙げられる。
また、粉砕後の微粒子の直径は特に限定されないが、従来公知の蛍光X線分析に供するサンプルとして適切な大きさであることが必要となる。概ね数μmから数百μm(好ましくは150μm以下)の直径の微粒子になるまでコンクリート粒子を粉砕することが好ましい。
【0022】
このようにしてコンクリート粒子を粉砕して得られた微粒子をサンプルとして、従来公知の蛍光X線分析(鉱物用)に供し、コンクリート構造物Aにおける塩化物イオン濃度を求める。
【0023】
ここで塩化物イオン濃度の測定精度を高めるために、予め蛍光X線分析によって測定される塩化物イオン濃度と、電位差滴定法によって測定される塩化物イオン濃度との対応関係を示す検量線Bを用意しておき、この検量線Bを用いて塩化物イオン濃度を求める。
【0024】
検量線Bは、コンクリート構造物Aとは別のコンクリート構造物Bを構成するコンクリートの同一個所から得たサンプルについて、蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を求めることで得ることができる。
ここでコンクリート構造物Bは複数のコンクリート構造物であってもよい。すなわち、複数の別々のコンクリート構造物において、それを構成するコンクリートの特定部分について蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これらの対応関係を求め、それらを用いて検量線Bを求めてもよい。
【0025】
採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕して蛍光X線分析に供し、上記の検量線Bを用いて、蛍光X線分析によって求めた塩化物イオン濃度から電位差滴定法によって求めたものに相当する塩化物イオン濃度を求めることができる。蛍光X線分析によって求めた塩化物イオン濃度よりも電位差滴定法で求めた塩化物イオン濃度の方が正確である可能性が高いので、採取工程によって得られた前記コンクリート粒子を粉砕して蛍光X線分析に供して得た塩化物イオン濃度の値を、検量線Bを用いることで、より正確であると考えられる電位差滴定法によって得られるはずの塩化物イオン濃度の値へ修正し、これをコンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度とみなすことができる。
【0026】
また、計測工程において、コンクリート構造物Aを構成するコンクリートの特定部分にについて蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を測定し、これを用いて前記検量線Bを修正した検量線Aを用意し、前記検量線Bの代わりに前記検量線Aを用いて前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度を求めることが好ましい。
例えば、コンクリート構造物Aからコンクリート粒子を採取するが、この採取箇所と同じ箇所から別のサンプルを回収し、そのサンプルについて電位差滴定法によっても塩化物イオン濃度を求め、この値を用いて前記検量線Bを修正した検量線Aを用意することができる。この検量線Aを用いれば検量線Bと比較して、コンクリート構造物Aにおいて、より実際の電位差滴定法によって得られる塩化物イオン濃度に近い値が求められる。したがって、前記検量線Bの代わりに前記検量線Aを用いて前記コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度を求めることが好ましい。
検量線Bはコンクリート構造物Aに基づいて作成されたものではないため、コンクリート構造物Aの特定箇所について、蛍光X線分析および電位差滴定法の各々によって塩化物イオン濃度を求め、これを用いて検量線Bを修正し、得られた検量線Aを用いることで、コンクリート構造物Aの内部の塩化物イオン濃度を、より正確に求めることが好ましい。
検量線Aおよび検量線Bは通常、一次関数である。
【0027】
このような計測工程によって、コンクリート構造物の内部の塩化物イオン濃度を求めることができる。
【0028】
本発明によれば、短時間で精度良く、低コストでコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度を定量することができる。
【実施例0029】
<実施例1>
断面直径が16mmのドリルを用いてコンクリート構造物に200mmの深さの孔を4つ形成した。ここでダストパックを用い、ドリルで孔を形成する際に排出されるダスト(コンクリート構造物が粉状または粒状に粉砕されたもの等)を全て回収した。また、圧縮空気を排出することができるダスターを用いて、形成された孔内に残されたダストを回収し、さらにドリルの外面および機器内のダストも残らず回収した。このようにしてドリルで孔を形成することで発生したダストを、原則、全て回収した後、ダストパックおよびダスターを清掃することで、コンクリート構造物における別の箇所を測定できる準備を整えた。
このようにコンクリート構造物に4つの孔を形成し、次に別の孔を形成するための準備を整えるまでの作業時間を測定したところ、17分であった。
【0030】
<比較例1>
実施例1と同じコンクリート構造物における同箇所から、断面直径が50mm、高さが200mmの円筒形のコアを採取し、そのために費やした作業時間を測定したところ、70分であった。
【0031】
このような結果より、本発明に該当する実施例1の方法の場合、従来利用されている比較例1の方法と比べ、格段に作業時間が短くなることが分かった。
具体的には実施例1の場合、比較例1と比べると、作業時間が4分の1以下となった。
【0032】
また、実施例1(採取工程)によって得られたコンクリート粒子を粉砕した後、蛍光X線分析に供して塩化物イオン濃度を求めた。
さらに、比較例1によって得られたコアを微粉砕し、従来公知の電位差滴定法によって塩化物イオン濃度を求めた。
その結果、比較例1のコアを分析して求めた塩化物イオン濃度と比較した、実施例1の本発明によって求めた塩化物イオン濃度は、誤差平均-14%、誤差の標準偏差が4%となった。すなわち、本発明は、従来の方法と同等の精度でコンクリート中の塩化物イオン量が分析できることを確認できた。