(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070991
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】リニアモータ用のモータドライバ回路、それを用いた位置決め装置、ハードディスク装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/06 20160101AFI20230515BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20230515BHJP
G11B 21/08 20060101ALI20230515BHJP
G11B 21/10 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
H02P25/06
H02P29/00
G11B21/08 H
G11B21/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183533
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】杉江 尚
【テーマコード(参考)】
5H501
5H540
【Fターム(参考)】
5H501AA10
5H501DD06
5H501GG05
5H501HA01
5H501JJ03
5H501JJ16
5H501LL22
5H540AA08
5H540BA06
5H540EE02
5H540EE08
5H540FC02
(57)【要約】
【課題】低ビットのA/Dコンバータを採用可能なデジタル方式のドライバ回路を提供する。
【解決手段】エラー検出アンプ220は、モータの駆動電流を示す電流フィードバック信号V
FBとアナログ指令信号V
DACを受け、駆動電流I
DRVとその目標量I
REFの誤差を示す誤差信号V
ERRを生成する。A/Dコンバータ230は、エラー検出アンプ220が生成するアナログ誤差信号V
ERRをデジタル誤差信号D
ERRに変換する。デジタル補償器240は、A/Dコンバータ230が出力するデジタル誤差信号D
ERRにもとづいて、デジタル制御量D
CTRLを生成する。D/Aコンバータ250は、デジタル制御量D
CTRLをアナログ制御信号V
CTRLに変換する。出力段260は、アナログ制御信号V
CTRLに応じた駆動信号をモータに供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象のモータの駆動電流を示す電流フィードバック信号とアナログ指令信号を受け、前記駆動電流とその目標量の誤差を示す誤差信号を生成するエラー検出アンプと、
前記エラー検出アンプが生成するアナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換するA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータが出力する前記デジタル誤差信号にもとづいて、デジタル制御量を生成するデジタル補償器と、
前記デジタル制御量をアナログ制御信号に変換するD/Aコンバータと、
前記アナログ制御信号に応じた駆動信号を前記モータに供給する出力段と、
を備える、モータドライバ回路。
【請求項2】
前記モータの前記駆動電流の経路上に設けられるセンス抵抗と、
前記センス抵抗と接続され、前記センス抵抗の電圧降下である電流検出信号に対して線形に変化する前記電流フィードバック信号を生成する電流センスアンプと、
をさらに備える、請求項1に記載のモータドライバ回路。
【請求項3】
前記電流センスアンプは、
第1オペアンプと、
前記第1オペアンプの反転入力と前記センス抵抗の一端との間に接続された第1抵抗と、
前記第1オペアンプの前記反転入力と前記第1オペアンプの出力の間に接続された第2抵抗と、
前記第1オペアンプの非反転入力と前記センス抵抗の他端との間に接続された第3抵抗と、
一端に所定レベルを受け、他端が前記第1オペアンプの前記非反転入力と接続された第4抵抗と、
を含む、請求項2に記載のモータドライバ回路。
【請求項4】
前記エラー検出アンプは、
前記電流フィードバック信号を受ける第1入力ノードと、
前記アナログ指令信号を受ける第2入力ノードと、
出力ノードと、
反転入力、所定レベルを受ける非反転入力および出力を有する第2オペアンプと、
前記第2オペアンプの反転入力と前記第1入力ノードの間に接続された第5抵抗と、
前記第2オペアンプの前記反転入力と前記第2入力ノードの間に接続された第6抵抗と、
前記第2オペアンプの前記出力と前記第2オペアンプの前記反転入力の間に接続された第7抵抗と、
を含む、請求項1から3のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項5】
前記エラー検出アンプは、
前記第2オペアンプの前記出力と前記出力ノードの間に接続された第8抵抗と、
前記出力ノードと接続されたキャパシタと、
をさらに含む、請求項4に記載のモータドライバ回路。
【請求項6】
前記出力段は、
前記アナログ制御信号を非反転増幅する第1アンプと、
前記アナログ制御信号を反転増幅する第2アンプと、
を含む、請求項1から5のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項7】
前記モータはリニアモータである、請求項1から6のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項8】
前記リニアモータは、ボイスコイルモータである、請求項7に記載のモータドライバ回路。
【請求項9】
ひとつの半導体基板に一体集積化される、請求項1から8のいずれかに記載のモータドライバ回路。
【請求項10】
リニアモータと、
前記リニアモータを駆動する請求項1から9のいずれかに記載のモータドライバ回路と、
を備える、位置決め装置。
【請求項11】
請求項10に記載の位置決め装置を備える、ハードディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リニアモータのドライバ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな電子機器や産業機械に、対象物を位置決めするリニアモータ(リニアアクチュエータ)が使用される。ボイスコイルモータは、リニアモータのひとつであり、供給される駆動電流に応じて、可動子の位置を制御可能である。ボイスコイルモータの駆動回路は、ボイスコイルモータに流れる電流を、目標位置を規定する目標電流に近づくようにフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
定電流駆動されるモータ用のドライバ回路としては、アナログ方式のものと、デジタル方式のものがある。アナログ方式のドライバ回路では、エラーアンプの位相補償が必要となるため設計が難しい。
【0005】
一方、デジタル方式のドライバ回路は、モータに流れる電流を示す検出信号を、デジタル信号に変換するためのA/Dコンバータとして、高ビットのものが必要となる。
【0006】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、低ビットのA/Dコンバータを採用可能なデジタル方式のドライバ回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様のモータドライバ回路は、モータの駆動電流を示す電流フィードバック信号とアナログ指令信号を受け、駆動電流とその目標量の誤差を示す誤差信号を生成するエラー検出アンプと、エラー検出アンプが生成するアナログ誤差信号をデジタル誤差信号に変換するA/Dコンバータと、A/Dコンバータが出力するデジタル誤差信号にもとづいて、デジタル制御量を生成するデジタル補償器と、デジタル制御量をアナログ制御信号に変換するD/Aコンバータと、アナログ制御信号に応じた駆動信号をモータに供給する出力段と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある態様によれば、低ビットのA/Dコンバータを採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るモータドライバ回路を備える位置決め装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のモータドライバ回路の入出力特性を示す図である。
【
図3】
図3は、比較技術に係るモータドライバ回路のブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3のモータドライバ回路の動作を説明する図である。
【
図5】
図5は、モータドライバ回路の構成例を示す回路図である。
【
図6】
図6は、モータドライバ回路を備えるハードディスク装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0012】
一実施形態に係るモータドライバ回路は、モータの駆動電流を示す電流フィードバック信号VFBとアナログ指令信号VDACを受け、駆動電流とその目標量の誤差を示すアナログ誤差信号VERRを生成するエラー検出アンプと、エラー検出アンプが生成するアナログ誤差信号VERRをデジタル誤差信号DERRに変換するA/Dコンバータと、A/Dコンバータが出力するデジタル誤差信号DERRにもとづいて、デジタル制御量を生成するデジタル補償器と、デジタル制御量をアナログ制御信号に変換するD/Aコンバータと、アナログ制御信号に応じた駆動信号をモータに供給する出力段と、を備える。
【0013】
この構成によれば、モータの駆動電流を示す電流フィードバック信号VFBではなく、駆動電流IDRVとその目標量IREFの誤差に対して線形に変化するアナログ誤差信号VERRを、A/Dコンバータによって取り込むこととしている。フィードバックが安定化している状態では、電流誤差IREF-IDRVはゼロ付近に収束しているため、エラー検出アンプのゲインを高く設定できる。これにより、低ビット数のA/Dコンバータを採用することができる。
【0014】
なお、エラー検出アンプを、アナログ方式で使用されるエラーアンプと混同してはならない。本開示におけるエラー検出アンプは、が数倍程度、大きくても数十倍のゲインを有するアンプであって直流の帰還経路を含むのに対して、アナログ方式のエラーアンプのゲインは、理論的には無限大、現実的には数百~数千倍であり、直流の帰還経路を含まず、交流の位相補償の帰還経路のみを含んでおり、機能および構成が異なる。
【0015】
一実施形態において、モータドライバ回路は、モータの駆動電流の経路上に設けられるセンス抵抗と、センス抵抗と接続され、センス抵抗の電圧降下である電流検出信号に対して線形に変化する電流フィードバック信号を生成する電流センスアンプと、をさらに備えてもよい。
【0016】
一実施形態において、電流センスアンプは、第1オペアンプと、第1オペアンプの反転入力とセンス抵抗の一端との間に接続された第1抵抗と、第1オペアンプの反転入力と第1オペアンプの出力の間に接続された第2抵抗と、第1オペアンプの非反転入力とセンス抵抗の他端との間に接続された第3抵抗と、一端に所定レベルを受け、他端が第1オペアンプの非反転入力と接続された第4抵抗と、を含んでもよい。
【0017】
一実施形態において、エラー検出アンプは、電流フィードバック信号を受ける第1入力ノードと、アナログ指令信号を受ける第2入力ノードと、出力ノードと、反転入力、所定レベルを受ける非反転入力および出力を有する第2オペアンプと、第2オペアンプの反転入力と第1入力ノードの間に接続された第5抵抗と、第2オペアンプの反転入力と第2入力ノードの間に接続された第6抵抗と、第2オペアンプの出力と第2オペアンプの反転入力の間に接続された第7抵抗と、を含んでもよい。
【0018】
一実施形態において、エラー検出アンプは、第2オペアンプの出力と出力ノードの間に接続された第8抵抗と、出力ノードと接続されたキャパシタと、をさらに含んでもよい。第8抵抗とキャパシタによって、後段のA/Dコンバータのアンチエイリアスフィルタを構成できる。
【0019】
一実施形態において、出力段は、アナログ制御信号を非反転増幅する第1アンプと、アナログ制御信号を反転増幅する第2アンプと、を含んでもよい。
【0020】
一実施形態において、モータはリニアモータであってもよい。一実施形態において、リニアモータは、ボイスコイルモータであってもよい。
【0021】
一実施形態において、モータドライバ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0022】
一実施形態に係る位置決め装置は、リニアモータと、リニアモータを駆動する上述のいずれかのモータドライバ回路と、を備える。
【0023】
一実施形態に係るハードディスク装置は、上述の位置決め装置を備える。
【0024】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
本明細書において、「部材Aが、部材Bに接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
また本明細書に示される波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0028】
図1は、実施形態に係るモータドライバ回路200を備える位置決め装置100のブロック図である。位置決め装置100は、リニアモータ102、上位コントローラ104およびモータドライバ回路200を備える。
【0029】
上位コントローラ104は、位置決め装置100を統合的に制御する。上位コントローラ104はリニアモータ102の目標位置を示す位置制御データPOSを生成し、位置制御データPOSをモータドライバ回路200に送信する。上位コントローラ104はたとえば、マイクロコントローラ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成される。
【0030】
モータドライバ回路200は、位置制御データPOSを受け、位置制御データPOSに応じた量の駆動電流IDRVをリニアモータ102に供給する。リニアモータ102はたとえばボイスコイルモータであり、その可動子は、リニアモータ102に流れる駆動電流IDRVに応じた量だけ変位する。
【0031】
続いてモータドライバ回路200の構成を説明する。モータドライバ回路200は、電流指令生成部210、エラー検出アンプ220、A/Dコンバータ230、デジタル補償器240、D/Aコンバータ250、出力段260、電流センスアンプ270を備え、ひとつの半導体基板に集積化された機能IC(Integrated Circuit)である。
【0032】
電流指令生成部210は、リニアモータ102に供給する駆動電流IDRVの目標値を示すアナログ指令信号VDACを生成する。たとえば電流指令生成部210は、インタフェース回路212、ロジック回路214、D/Aコンバータ216を含む。インタフェース回路212は、上位コントローラ104と接続され、制御データを受信する。インタフェース回路212はたとえばI2C(Inter IC)インタフェースであってもよし、SPI(Serial Peripheral Interface)であってもよい。たとえばインタフェース回路212からの制御データは、リニアモータ102の可動子の目標位置を示すコードを含む。ロジック回路214は、受信したコードにもとづく制御コードを、D/Aコンバータ216に出力する。制御コードは、上位コントローラ104から受信したコードと同じであってもよいし、受信したコードを演算して得た別のコードであってもよい。D/Aコンバータ216は、ロジック回路214が生成する制御コードを、アナログ指令信号VDACに変換する。
【0033】
なお電流指令生成部210の構成はこれに限定されず、外部から直接、アナログ指令信号VDACを受ける構成であってもよい。
【0034】
電流センスアンプ270は、リニアモータ102に流れる駆動電流IDRVを示す電流フィードバック信号VFBを生成する。たとえば、電流フィードバック信号VFBは、以下の式で表される。k、VCMREFは任意の定数である。
VFB=k×IDRV+VCMREF
【0035】
エラー検出アンプ220は、電流フィードバック信号VFBとアナログ指令信号VDACを受け、駆動電流IDRVとその目標量IREFの誤差を示すアナログ誤差信号VERRを生成する。
VERR=(IREF-IDRV)×g
gは、有限のゲインである。
【0036】
A/Dコンバータ230は、エラー検出アンプ220が生成するアナログ誤差信号VERRをデジタル誤差信号DERRに変換する。
【0037】
デジタル補償器240は、A/Dコンバータ230が出力するデジタル誤差信号DERRにもとづいて、デジタル制御量DCTRLを生成する。デジタル補償器240は、PI(比例積分)補償器やPID(比例積分微分)補償器を含む。PI補償器は、デジタル誤差信号DERRに比例ゲインKPを乗算し、デジタル誤差信号DERRの積分値に積分ゲインKIを乗算し、それらを加算して、デジタル制御量DCTRLを生成する。
【0038】
PID補償器は、デジタル誤差信号DERRに比例ゲインKPを乗算し、デジタル誤差信号DERRの積分値に積分ゲインKIを乗算し、デジタル誤差信号DERRの微分値に微分ゲインKDを乗算し、それらを加算して、デジタル制御量DCTRLを生成する。PI補償器やPID補償器は、PI制御器やPID制御器とも称される。PI補償器とPID補償器は、制御対象の特性に応じて選択すればよい。
【0039】
D/Aコンバータ250は、デジタル制御量DCTRLをアナログ制御信号VCTRLに変換する。
【0040】
出力段260は、アナログ制御信号VCTRLに応じた駆動信号をリニアモータ102の両端に印加する。駆動信号は、電圧信号であってもよいし、電流信号であってもよい。
【0041】
以上が位置決め装置100の構成である。続いてその動作を説明する。
図2は、
図1のモータドライバ回路200の入出力特性を示す図である。デジタル補償器240によるフィードバック制御によって、フィードバック信号V
FBとアナログ指令信号V
DACの誤差が近づくようにフィードバックがかかる。したがって、フィードバックが安定した状態では、式(2)が成り立つ。
V
FB=k×I
DRV+V
CMREF=V
DAC …(2)
式(2)が成り立つ定常状態において、駆動電流I
DRVは、式(3)で表される目標レベルI
REFに安定化される。
I
REF=(V
DAC-V
CMREF)/k …(3)
【0042】
以上がモータドライバ回路200の動作である。モータドライバ回路200によれば、アナログ方式の場合に比べて、アナログの位相補償回路が不要であるため、設計が容易である。
【0043】
モータドライバ回路200のさらなる利点は、比較技術との対比によって明確となる。
図3は、比較技術に係るモータドライバ回路200Rのブロック図である。このモータドライバ回路200Rは、デジタル方式で構成される点で実施形態と同様であるが、A/Dコンバータ230Rの位置が異なっている。比較技術では、A/Dコンバータ230Rは、電流センスアンプ270が生成するフィードバック信号V
FBをデジタルフィードバック信号D
FBに変換する。そして誤差検出器として機能する減算器232によってデジタルフィードバック信号D
FBとデジタル指令値D
REFの誤差D
ERRが生成される。
【0044】
A/Dコンバータ230Rの入力であるフィードバック信号V
FBに着目する。フィードバックループが安定化している定常状態において、誤差D
ERRはゼロとなるから、D
REF=D
FBが成り立つ。つまり、デジタル指令値D
REFを変化させると、それと一致するデジタルフィードバック信号D
FBが発生するように、A/Dコンバータ230Rの入力であるフィードバック信号V
FBが変化する。
図4は、
図3のモータドライバ回路200Rの動作を説明する図である。比較技術では、デジタル指令値D
REFの変化に応じて、フィードバック信号V
FBが広範囲に変化する。そのため、A/Dコンバータ230Rとして、高ビットのものを選択する必要がある。
【0045】
この比較技術に対するモータドライバ回路200の利点を説明する。
図1のモータドライバ回路200において、A/Dコンバータ230の入力に着目する。A/Dコンバータ230の入力は、アナログ誤差信号V
ERRである。フィードバックループが安定化している定常状態では、駆動電流I
DRVの目標レベルI
REFにかかわらず、つまりアナログ指令信号V
DACの大きさにかかわらず、アナログ誤差信号V
ERRは実質的にゼロとなる。したがって、A/Dコンバータ230の入力電圧の変動範囲は、比較技術に比べて狭くなる。これにより、A/Dコンバータ230は、比較技術におけるA/Dコンバータ230Rよりも低ビットのものを採用することが可能となる。A/Dコンバータ230を低ビット化することにより、モータドライバ回路200のチップコストおよび消費電力を削減できる。
【0046】
それに加えて、モータドライバ回路200では、エラー検出アンプ220のゲインを大きくすることができる。なぜなら、ゲインにかかわらず、定常状態では、誤差検出信号VERR、つまりA/Dコンバータ230の入力はゼロに対応する電圧レベルをとるからである。エラー検出アンプ220のゲインを大きくすることは、A/Dコンバータ230のビット数(分解能)を高めることと同じ効果を生む。したがってモータドライバ回路200は、この理由によっても、A/Dコンバータ230のビット数を小さくできる。
【0047】
たとえば比較技術において、16ビットのA/Dコンバータ230Rが必要であったとすると、本実施形態では、A/Dコンバータ230のビット数は、12ビットまで減らすことができる。低ビットのA/Dコンバータ230としては、SAR(逐次比較)DACを用いることができるが、その他の形式を採用してもよい。
【0048】
図5は、モータドライバ回路200の構成例を示す回路図である。モータドライバ回路200の出力ピンAOUT,BOUTの間には、リニアモータ102および電流センス抵抗Rsが直列に接続される。電流センス抵抗R
Sには駆動電流I
DRVに比例する電圧降下が発生する。モータドライバ回路200の電流センスピンISNS,KSNSの間には、電流センス抵抗R
Sの電圧降下が、電流検出信号V
CSとしてフィードバックされる。
V
CS=R
S×I
DRV
【0049】
電流センスアンプ270は、電流検出信号VCSに対して線形に変化し、かつVCS=0(つまりIDRV=0)のときに所定レベルVCMREFとなるフィードバック信号VFBを生成する。
【0050】
電流センスアンプ270は、第1オペアンプOA1、第1抵抗R1、第2抵抗R2、第3抵抗R3、第4抵抗R4を含む。
【0051】
第1抵抗R1は、第1オペアンプOAの反転入力(-)とセンス抵抗Rsの一端(INSピン)との間に接続される。第2抵抗R2は、第1オペアンプOA1の反転入力(-)と第1オペアンプOA1の出力の間に接続される。第3抵抗R3は、第1オペアンプOA1の非反転入力(+)とセンス抵抗Rsの他端(KSNSピン)との間に接続される。第4抵抗R4は、その一端に所定レベルの電圧VCMREFを受け、他端が第1オペアンプOA1の非反転入力(+)と接続される。フィードバック信号VFBは、第1オペアンプOA1の出力電圧に応じている。
【0052】
R1=R3、R2=R4が成り立つとき、以下の式が成り立つ。
VFB=R2/R1×VCS+VCMREF
【0053】
エラー検出アンプ220は、第1入力ノードn1、第2入力ノードn2、出力ノードn3、第2オペアンプOA2、第5抵抗R5、第6抵抗R6、第7抵抗R7、第8抵抗R8、キャパシタC1を含む。第1入力ノードn1には、フィードバック信号VFBが入力され、第2入力ノードn2には、アナログ指令信号VDACが入力される。
【0054】
第2オペアンプOA2、第5抵抗R5、第6抵抗R6、第7抵抗R7は、加算回路を構成する。第2オペアンプOA2は、その非反転入力(+)に基準電圧VCMREFを受ける。第5抵抗R5は、第2オペアンプOA2の反転入力(-)と第1入力ノードn1の間に接続される。第6抵抗R6は、第2オペアンプOA2の反転入力(-)と第2入力ノードn2の間に接続される。電圧指令信号VEAOUTは第2オペアンプOA2の出力の電圧に応じもよい。第2オペアンプOA2の反転入力(-)とその出力の間には、第7抵抗R7が接続される。
【0055】
フィードバック電圧VFBに対する加算回路のゲインgは、R7/R5である。
【0056】
また第2オペアンプOA2の出力と、エラー検出アンプ220の出力ノードn3の間には、第8抵抗R8が接続される。出力ノードn3にはキャパシタC1が接続される。第8抵抗R8とキャパシタC1は、ローパスフィルタを構成している。このローパスフィルタは、後段のA/Dコンバータ230のアンチエイリアスフィルタとして機能する。
【0057】
出力段260は、第1アンプ262および第2アンプ264を含む。第1アンプ262は、アナログ制御信号VCTRLを非反転増幅する。第2アンプ264はアナログ制御信号VCTRLを反転増幅する。
【0058】
第1アンプ262は、第3オペアンプOA3、第7抵抗R7~第10抵抗R10を含む。第1アンプ262の構成は、電流センスアンプ270と同様である。R7=R9,R8=R10が成り立つとき、第1アンプ262の出力電圧VAOUTは、式(13)で表される。
VAOUT=R8/R7×(VCTRL-VCMREF)+HVPWR …(13)
【0059】
第2アンプ264は、第4オペアンプOA4、第11抵抗R11~第14抵抗R14を含む。第2アンプ264の構成は、電流センスアンプ270および第1アンプ262と同様である。R11=R13,R12=R14が成り立つとき、第2アンプ264の出力電圧VBOUTは、式(14)で表される。
VBOUT=-R12/R11×(VCTRL-VCMREF)+HVPWR …(14)
なお、R8/R7=R12/R11を満たす。
【0060】
以上がモータドライバ回路200の構成である。このモータドライバ回路200によれば、A/Dコンバータ230のビット数を下げることができる。
【0061】
(用途)
図6は、モータドライバ回路200を備えるハードディスク装置900を示す図である。ハードディスク装置900は、プラッタ902、スイングアーム904、ヘッド906、スピンドルモータ910、シークモータ912、モータドライバ回路920を備える。モータドライバ回路920は、スピンドルモータ910やシークモータ912を駆動する。
【0062】
シークモータ912はボイスコイルモータである。実施形態に係るモータドライバ回路200(あるいは200A)は、モータドライバ回路920に内蔵されており、シークモータ912を駆動する。
【0063】
シークモータ912は、スイングアーム904を介してヘッド906を位置決めする。ハードディスクの読みだしおよび書き込み期間、つまりヘッド906が特定の領域に位置するときに低ノイズが要求される。したがって、(i)ヘッド906がプラッタ902上の有効な領域に位置するようなシークモータ912の位置において第1状態φ1となり、(ii)ヘッド906がそれ以外の領域に位置するようなシークモータ912の位置において第2状態φ2となるように、xa,xbを規定しておくことにより、読み出し、書き込みのときのノイズを自動的に抑制することが可能となる。
【0064】
本開示において、駆動対象であるリニアモータの構成や形式は特に限定されない。たとえばスプリングリターン方式のボイスコイルモータや、その他のリニアアクチュエータの駆動にも本開示は適用可能である。あるいは駆動対象のモータは、スピンドルモータであってもよい。
【0065】
位置決め装置100の用途も、ハードディスク装置には限定されず、カメラのレンズの位置決め機構などにも適用できる。
【符号の説明】
【0066】
100 位置決め装置
102 リニアモータ
104 上位コントローラ
200 モータドライバ回路
210 電流指令生成部
212 インタフェース回路
214 ロジック回路
216 D/Aコンバータ
220 エラー検出アンプ
230 A/Dコンバータ
240 デジタル補償器
250 D/Aコンバータ
260 出力段
262 第1アンプ
264 第2アンプ
270 電流センスアンプ
R1 第1抵抗
R2 第2抵抗
R3 第3抵抗
R4 第4抵抗
R5 第5抵抗
R6 第6抵抗
R7 第7抵抗
R8 第8抵抗
C1 キャパシタ