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特開2023-71037VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071037
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/04 20060101AFI20230515BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230515BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B01J37/04 102
B01J37/08 ZAB
B01J23/889 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183610
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 井崗
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA22C
4G169BA29C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC03B
4G169BC29A
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC35A
4G169BC39A
4G169BC40A
4G169BC41A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC74A
4G169CA01
4G169CA07
4G169CA11
4G169CA15
4G169CA17
4G169CA19
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA03Y
4G169EA06
4G169EB01
4G169EB19
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC04Y
4G169EC05Y
4G169EC25
4G169EC26
4G169FA01
4G169FB30
4G169FC03
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供する。
【解決手段】本発明は、VOC除去触媒の製造方法であって、金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合してゲル状前駆体を得る工程1と、前記ゲル状前駆体と、Mnを含む酸化剤とを混合して得られた生成物を焼成して、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を得る工程2とを備え、前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去触媒の製造方法であって、
金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合してゲル状前駆体を得る工程1と、
前記ゲル状前駆体と、Mnを含む酸化剤とを混合して得られた生成物を焼成して、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を得る工程2とを備え、
前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、製造方法。
【請求項2】
前記金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化剤は澱粉である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
VOC除去触媒であって、
Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を含有し、前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記複合酸化物は、主相がアモルファスである、VOC除去触媒。
【請求項6】
前記金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のVOC除去触媒。
【請求項7】
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、請求項5又は6に記載のVOC除去触媒。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC除去触媒又は請求項5~7のいずれか1項に記載のVOC除去触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。このため、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。
【0003】
VOCを除去する技術としては、触媒酸化による方法が知られている。この方法では、比較的低温でVOC除去が行われる点で最も有望であると考えられている。触媒酸化による方法では、主に遷移金属酸化物が使用されることから、貴金属触媒と比較してコスト面でも有利であり、この観点から遷移金属酸化物の触媒性能を向上させる研究が広く行われている。例えば、特許文献1には、酸化マンガン(IV)を含む材料により、VOCを効率的に除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-147131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のVOC除去触媒は、低温環境化においてはVOCの除去性能が未だ十分ではなく、また、製造にも時間を要するという問題点もあり、実用化を考えると総合的には依然として課題を有するものであった。このような観点から、容易に製造でき、低温であっても効率よくVOCを除去することができる触媒の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のMn系複合酸化物を必須成分とすることにより、あるいは、特定の工程を経て製造されたMn系複合酸化物を必須成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
VOC除去触媒の製造方法であって、
金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合してゲル状前駆体を得る工程1と、
前記ゲル状前駆体と、Mnを含む酸化剤とを混合して得られた生成物を焼成して、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を得る工程2とを備え、
前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、製造方法。
項2
前記金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
項3
前記ゲル化剤は澱粉である、項1又は2に記載の製造方法。
項4
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5
VOC除去触媒であって、
Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を含有し、前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記複合酸化物は、主相がアモルファスである、VOC除去触媒。
項6
前記金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項5に記載のVOC除去触媒。
項7
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有する、項5又は6に記載のVOC除去触媒。
項8
項1~4のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC除去触媒又は請求項5~7のいずれか1項に記載のVOC除去触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。また、本発明のVOC除去触媒の製造方法は、前述の本発明のVOC除去触媒を簡便な方法製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】VOC除去触媒の評価試験方法のフローを示す概略図である。
図2】実施例及び比較例で得たVOC除去触媒のSEM画像を示す。
図3】実施例及び比較例で得たVOC除去触媒のXRDスペクトルを示す。
図4】実施例及び比較例で得たVOC除去触媒によるVOC除去試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.VOC除去触媒の製造方法
本発明の製造方法は、下記工程1及び工程2を備える。
工程1:金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合してゲル状前駆体を得る工程。
工程2:前記ゲル状前駆体と、Mnを含む酸化剤とを混合して得られた生成物を焼成して、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を得る工程。
【0013】
ここで、前記金属元素Mは、遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
上記の工程1及び工程2を備える製造方法により、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を得ることができ、当該該複合酸化物はVOC除去触媒に適用することができる。斯かるVOC除去触媒は、工程1及び工程2を備える製造方法で得られるので、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるものである。
【0015】
(工程1)
工程1は、金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合してゲル状前駆体を得るための工程である。
【0016】
金属元素Mは、前述のとおり、遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であるが、より具体的には、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru、W等の遷移金属元素;La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Ho、Yb等の希土類金属元素;Pt、Rh、Pd、Ag、Au等の貴金属元素を挙げることができる。
【0017】
中でも、より優れたVOC除去効率をもたらすVOC除去触媒が得られやすいという点で、金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Coであることがさらに好ましい。従って、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物は、Mn及びCoを含む複合酸化物であることが好ましく、Mn及びCoの複合酸化物であることが特に好ましい。
【0018】
金属元素Mを含む原料は、金属元素Mを含む限り特に限定されず、例えば、金属元素M単体又は金属元素Mの化合物もしくはこれらの混合物が、溶媒に溶解又は分散した溶液を挙げることができる
【0019】
金属元素Mの化合物の種類は特に限定されず、例えば、金属元素Mの無機化合物、塩化物、有機化合物を挙げることができる。金属元素Mの無機化合物としては、例えば、金属元素Mの酸化物、金属元素Mのオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)、金属元素Mの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、クロリド錯体、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、金属元素Mの無機化合物は、硝酸塩であることが好ましい。金属元素Mの有機化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0020】
金属元素Mを含む原料の溶媒としては、水を挙げることができ、その他、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒であってもよく、水とアルコールとの混合溶媒を採用することもできる。
【0021】
金属元素Mを含む原料は、金属元素Mの無機化合物の水溶液であることが好ましく、金属元素Mの硝酸塩水溶液であることがより好ましく、硝酸コバルト水溶液であることが特に好ましい。
【0022】
金属元素Mを含む原料において、金属元素Mの濃度は特に限定されず、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.05M以上であり、さらに好ましくは0.1M以上であり、また、好ましくは100M以下、より好ましくは50M以下、さらに好ましくは10M以下、特に好ましくは5M以下である。
【0023】
ゲル化剤は、金属元素Mを含む原料をゲル化する役割を果たすものである。斯かるゲル化剤は、ゲル化作用をもたらすことができる限り、その種類は特に限定されず、例えば、公知のゲル化剤を広く使用することができる。
【0024】
ゲル化剤としては澱粉を挙げることができ、その他、澱粉以外の各種の多糖類、具体的には、寒天、セルロース等が例示される。また、ゲル化剤は、クエン酸等の有機酸であってもよい。
【0025】
金属元素Mを含む原料に対するゲル化効果が高いという点で、工程1で好ましく使用できるゲル化剤は、澱粉である。特に、ゲル化剤として澱粉を使用した場合、後記工程2において、分散剤及び還元剤としての機能も発揮することができるので、最終的に得られる複合酸化物は空孔が多くなって結晶化度が低下し、これにより、構造欠陥が多くなって触媒活性が向上しやすくなる。
【0026】
澱粉の種類は特に限定されず、例えば、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、マングビーン澱粉等が挙げられる。
【0027】
ゲル化剤の使用量は、金属元素Mを含む原料がゲル化する限りは特に限定されない。例えば、金属元素Mを含む原料中のゲル化剤の濃度が1~100g/L、好ましくは5~50g/L、より好ましくは10~30g/Lとなるように、ゲル化剤を使用することができる。
【0028】
工程1において、金属元素Mを含む原料とゲル化剤との混合の方法は特に限定されず、例えば、公知の混合機を使用して混合を行うことができる。混合する際の温度も特に限定されず、例えば、15~120℃、好ましくは20~110℃、より好ましくは40~100℃である。
【0029】
工程1において、金属元素Mを含む原料と、ゲル化剤とを混合することで、ゲル化が進行し、ゲル状前駆体が生成する。
【0030】
(工程2)
工程2では、工程1で得られたゲル状前駆体と、Mnを含む酸化剤とを混合する。
【0031】
Mnを含む酸化剤(以下、単に「酸化剤」と表記する)は、例えば、Mnを含み、かつ、酸化作用を有する化合物を広く使用することができ、具体的には、過マンガン酸塩を挙げることができる。中でも、Mnを含む酸化剤は、過マンガン酸カリウム(KMnO、KMnO等)であることが好ましく、KMnOがより好ましい。
【0032】
工程2で使用する酸化剤は、溶液状態とすることができ、例えば、酸化剤の水溶液である。酸化剤の濃度は、例えば、0.01M以上、より好ましくは0.05M以上であり、さらに好ましくは0.1M以上であり、また、好ましくは100M以下、より好ましくは50M以下、さらに好ましくは10M以下、特に好ましくは5M以下である。
【0033】
工程2において、ゲル状前駆体と、酸化剤とが混合されることで、ゲル状前駆体が酸化剤によってエッチングされる。従って、工程2において、ゲル状前駆体と、酸化剤とが混合されることで得られる生成物は、マンガンの酸化物と金属元素Mの酸化物とを含む。
【0034】
工程2において、酸化剤の使用量は特に限定されず、例えば、工程1で使用する原料に含まれる金属元素1モルあたりのマンガンのモル数が0.01~100モルであることが好ましく、0.05~50モルであることがより好ましく、0.1~10モルであることがさらに好ましく、0.5~5モルであることが特に好ましい。
【0035】
ゲル状前駆体と、酸化剤との混合により生じた生成物は、適宜の方法で回収することができ、例えば、遠心分離、ろ過等の公知の固液分離によって、生成物を固形物として回収することができる。回収された固形物は適宜の方法で洗浄処理を行うこともできる。
【0036】
工程2で生成した生成物は、焼成処理に供する。これにより、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物(Mn系複合酸化物)が得られる。
【0037】
焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、200℃以上とすることができる。また、得られる複合酸化物の結晶化度が低くなりやすいという点で、焼成処理の温度は、600℃以下とすることが好ましい。好ましい焼成温度は250~480℃、より好ましい焼成温度は290~450℃、さらに好ましい焼成温度は300~400℃である。
【0038】
焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0039】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0040】
焼成処理により、不純物等が除去されて高い純度のMn及び金属元素Mを含む複合酸化物が形成される。
【0041】
以上の工程1及び工程2を備える製造方法で得られる複合酸化物を直接VOC除去触媒として用いることができ、必要に応じて、複合酸化物に他の添加剤を混合してVOC除去触媒とすることもできる。VOC除去触媒は、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物のみであってもよい。
【0042】
特に、工程1でゲル化剤として澱粉を使用した場合は、前述のように、得られる複合酸化物は空孔が多くなって結晶化度が低下し、これにより、構造欠陥が多くなって触媒活性が向上しやすくなる。この結果、工程1でゲル化剤として澱粉を使用して得られるVOC除去触媒は、より低温であってもVOCの除去効率に優れるものである。この観点から、工程1及び工程2を備える製造方法で得られる複合酸化物は、アモルファスが主相であることが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法は、工程1及び工程2を備えるものであり、特にゲル化剤を使用してゲル化させたゲル状前駆体をエッチングすることに特徴を有するものであり、毒性の低い原料だけでVOC除去効率に優れる触媒を容易に製造することができる。必ずしも限定的な解釈を望むものではないが、本発明の製造方法はゲル状前駆体のエッチング処理を備えていることにより、得られる複合酸化物は、マンガンと金属元素M(例えば、コバルト)が均一に分散したものと考えられる。特に、エッチング対象がゲル状であることで、金属元素Mがより分散しやすくなり、マンガンと金属元素M(例えば、コバルト)が均一に分散しやすい。この結果、複合酸化物は高い比表面積を有し、かつ、低い結晶化度を有するので、いわゆる構造欠陥が多くなり、多くの酸素空孔と活性種が提供されるので、VOC除去触媒は低温であっても効率よくVOCを除去することができるものと推察される。
【0044】
本発明の製造方法で生成するMn及び金属元素Mを含む複合酸化物は、例えば、Mn元素を1~35モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。またMn及び金属元素Mを含む複合酸化物は、金属元素Mを5~40モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。当該複合酸化物は、金属元素Mを6モル%以上含有することがより好ましく、7モル%以上含有することがさらに好ましく、8モル%以上含有することが特に好ましく、また、30モル%以下含有することがより好ましく、20モル%以下含有することがさらに好ましい。本発明の製造方法で生成するMn及び金属元素Mを含む複合酸化物は、さらに酸化物由来の酸素及び酸化剤由来のカリウム等を含み得る。
【0045】
2.VOC除去触媒
本発明のVOC除去触媒は、Mn及び金属元素Mを含む複合酸化物を含有し、前記金属元素Mが遷移金属、希土類元素及び貴金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記複合酸化物は、主相がアモルファスである。斯かるVOC除去触媒は、例えば、前述の工程1及び工程2を備える本発明の製造方法で製造することができる。
【0046】
金属元素Mは、より具体的には、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru、W等の遷移金属元素;La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Ho、Yb等の希土類金属元素;Pt、Rh、Pd、Ag、Au等の貴金属元素を挙げることができる。中でも、より優れたVOC除去効率をもたらすVOC除去触媒が得られやすいという点で、金属元素Mは、Co、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Ir、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Coであることがさらに好ましい。
【0047】
前記複合酸化物は、主相がアモルファスであり、具体的には、前記複合酸化物に含まれる結晶相が10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。前記複合酸化物の主相がアモルファスであることで、VOC除去触媒は、低温であってもVOCの除去効率が高まりやすい。複合酸化物の主相がアモルファスであることは、XRDスペクトルから判断することができる。
【0048】
前記複合酸化物のBET比表面積は、80m/g以上であることが好ましく、90m/g以上であることがより好ましく、95m/g以上であることがさらに好ましく、100m/g以上であることが特に好ましい。
【0049】
本発明のVOC除去触媒は、前記複合酸化物のみで形成することができ、あるいは、本発明の効果が阻害されない程度である限りは、前記複合酸化物以外の成分を含むこともできる。
【0050】
前記複合酸化物は、Mn元素を1~35モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。前記複合酸化物は、Mn元素を5モル%以上含有することがより好ましく、10モル%以上含有することがさらに好ましく、15モル%以上含有することが特に好ましく、また、30モル%以下含有することがより好ましく、25モル%以下含有することが特に好ましい。また、複合酸化物は、金属元素Mを5~40モル%含有することが好ましい。この場合、VOC除去触媒はVOCの除去効率が高まりやすい。当該複合酸化物は、金属元素Mを6モル%以上含有することがより好ましく、7モル%以上含有することがさらに好ましく、8モル%以上含有することが特に好ましく、また、30モル%以下含有することがより好ましく、20モル%以下含有することがさらに好ましい。
【0051】
前記複合酸化物は、Mn元素及び金属元素M以外に酸素を含む。酸素は、前記複合酸化物中、例えば、50モル%以上、70モル%以下含まれる。前記複合酸化物は、Mn元素、金属元素M及び酸素以外に、例えば、合成時に使用する酸化剤由来の金属元素(例えば、カリウム等の金属元素)を含み得る。
【0052】
前記複合酸化物は、Mnの酸化物と、金属元素Mの酸化物の混合物であっても良いし、Mn及び金属元素Mが固溶体を形成した複合酸化物であってもよいし、Mnの酸化物の一部のMnが金属元素で置き換えられた複合酸化物であっても良い。
【0053】
本発明のVOC除去触媒に含まれる前記複合酸化物は、例えば、粉末状である。前記複合酸化物の形状は特に限定されず、例えば、粒子状、多角形状、鱗片状、繊維状、棒状等の種々の形状を形成することができ、中でもナノ粒子状であることが好ましい。
【0054】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前述のVOC除去触媒、又は、前記工程1及び前記工程2を備える製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを燃焼する工程を備える。
【0055】
例えば、VOC除去触媒を反応器内に収容し、該反応器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、反応器内には窒素と酸素の混合ガスを流入させ、VOCを燃焼させる。
【0056】
VOCの除去にあたり、使用する反応器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の反応器を広く使用することができる。反応器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れる。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
5mmolのCo(NO・6HOを50mLの脱イオン水に溶解して調製した硝酸水溶液をビーカーに加え、そこで2gの馬鈴薯澱粉を加えて室温で10分間撹拌した後、70℃の水浴中で90分間撹拌し、赤色のゲル状前駆体(ゼラチン状物質)を得た。その後、ビーカーを室温(25℃)まで冷却してから、さらに10mmolのKMnO水溶液(40mL)を注ぎ、黒色沈殿物が生成するまで室温で撹拌した。得られた黒色沈殿物は、エタノール-水混合溶媒によって数回洗浄し、その後、遠心分離によって黒色沈殿物を回収し、60℃で12時間乾燥させた。次いで、黒色沈殿物を、空気中350℃で3時間にわたって焼成処理し、複合酸化物を得た。この複合酸化物を「MnCoαOβ」と表記し、VOC除去触媒とした。
【0059】
(比較例1)
5mmolのCo(NO・6HOを50mLの脱イオン水に溶解して調製した硝酸水溶液をビーカーに加え、そこで2gの馬鈴薯澱粉を加えて室温で10分間撹拌した後、70℃の水浴中で90分間撹拌し、赤色のゲル状前駆体(ゼラチン状物質)を得た。ゲル状前駆体、60℃で12時間乾燥し、次いで、空気中350℃で3時間にわたって焼成処理し、コバルトの酸化物を得た。このコバルトの酸化物を「CoOx」と表記し、VOC除去触媒とした。
【0060】
(比較例2)
ビーカー内で、2gの馬鈴薯澱粉を脱イオン水50mLに分散させ、室温で10分間撹拌した後、そのビーカーを70℃の水浴中で90分間撹拌し、ゲル状前駆体(ゼラチン状物質)を得た。その後、ビーカーを室温(25℃)まで冷却してから、さらに10mmolのKMnO水溶液(40mL)を注ぎ、黒色沈殿物が生成するまで室温で撹拌した。得られた黒色沈殿物は、エタノール-水混合溶媒によって数回洗浄し、その後、遠心分離によって黒色沈殿物を回収し、60℃で12時間乾燥させた。次いで、黒色沈殿物を、空気中350℃で3時間にわたって焼成処理し、酸化物を得た。この酸化物を「MnOx」と表記し、VOC除去触媒とした。
【0061】
<評価方法>
(VOC除去試験)
図1に示す概略フローにより、各実施例で得たVOC除去触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、管状反応器内にVOC除去触媒(図中のCatalyst)を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。図1に示すように、反応器は、酸素ボンベ及び窒素ボンベと連結しており、反応器内に酸素及び窒素を流入できるようにしている。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去触媒の充填量を50mgとし、反応器内のトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、反応器内へのキャリアー用窒素ガス流量を35cm/min、トルエン導入用窒素ガス流量を5cm/min、酸素ガス流量を10cm/minとした。反応器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。なお、130~200℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをし、200~250℃の範囲では5℃毎に3回サンプリングをし、260~300℃の範囲では10℃毎に3回サンプリングをした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、反応器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0062】
図2は、実施例1及び比較例1~2で得た触媒のSEM画像を示している。実施例1の触媒では不規則ナノ粒子状であるのに対し、比較例1(CoOx)は不規則なフレークとブロックで構成され、比較例2(MnOx)は表面が滑らかなバルク状で構成されていた。
【0063】
表1には、EDS分析によって、実施例1及び比較例1~2で得た触媒の各元素分析を行った結果を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
図3は、実施例1及び比較例1~2で得た触媒のXRDスペクトルを示している。XRDスペクトルにおいて、比較例1(CoOx)は、Co相の鋭い回折ピークを示すことが認められ、比較例2(MnOx)は、MnO及びKMn相を含む多相混合物であることがわかった。一方、実施例1のMnCoαOβは、Co相の弱い回折ピークを示し、マンガン種に関連する回折ピークは認められなかった。この結果は、実施例1のMnCoαOβは、多くのアモルファス相が形成していることを示唆しており、結晶化度が10質量%以下となり、構造欠陥が多く形成されたものであった。
【0066】
図4は、実施例1及び比較例1~2で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示している。具体的に図4は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。また、図4のグラフ中には、各触媒のトルエンの50%分解温度(T50%)、90%分解温度(T90%)、100%分解温度(T100%)の値を挿入している。
【0067】
表2は、図4の結果のまとめであり、実施例1及び比較例1~2で得られた触媒によるVOC除去試験の結果である。図4及び表2の結果から、各実施例で得られたVOC除去触媒は、比較例よりも優れたVOC除去性能を有していることがわかる。従って、各実施例で得られたVOC除去触媒は、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として好適に使用できることがわかった。特に、触媒の製造に使用する過マンガン酸カリウムの使用量に依存することがわかった。
【0068】
【表2】
図1
図2
図3
図4