(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071057
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】クランクシャフト位相測定装置、クランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01M 15/02 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
G01M15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183640
(22)【出願日】2021-11-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】荒木 要
(72)【発明者】
【氏名】森本 勉
(72)【発明者】
【氏名】上村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】滝下 峰史
(72)【発明者】
【氏名】松田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】白藤 司
【テーマコード(参考)】
2G087
【Fターム(参考)】
2G087AA14
2G087BB40
2G087CC03
2G087CC40
2G087EE30
(57)【要約】
【課題】本発明は、スロー部の位相を精度良く測定できるクランクシャフト位相測定装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るクランクシャフト位相測定装置は、複数のスロー部を有するクランクシャフトの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、各スロー部の位相を測定する複数の測定部と、上記複数の測定部で測定した測定データを収集する収集部と、上記収集部で収集した測定データを解析する解析部とを備え、上記スロー部から上記収集部へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、上記収集部が、上記クランクシャフトと同期して回転しないように、上記クランクシャフトから離れて固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロー部を有するクランクシャフトの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、
各スロー部の位相を測定する複数の測定部と、
上記複数の測定部で測定した測定データを収集する収集部と、
上記収集部で収集した測定データを解析する解析部と
を備え、
上記スロー部から上記収集部へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、
上記収集部が、上記クランクシャフトと同期して回転しないように、上記クランクシャフトから離れて固定されているクランクシャフト位相測定装置。
【請求項2】
上記複数のスロー部が、中空のクランクケース内に収められており、
上記複数の測定部が、上記クランクケース内に配置されている請求項1に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項3】
上記収集部が、上記クランクケース外に配置されている請求項2に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項4】
上記収集部が、上記クランクケース内に配置されている請求項2に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項5】
上記複数の測定部が、上記クランクケースの内面に配置されており、
上記測定部と上記スロー部との間が電気的及び機械的に非連続である請求項3に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項6】
上記測定部が、上記スロー部の位相を特定する近接センサを含む請求項5に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項7】
上記測定部が、上記スロー部に配置され、
上記複数の測定部の測定データが、上記測定部から上記収集部へ無線通信により送信されるよう構成されており、
上記測定部と上記収集部との間が電気的及び機械的に非連続である請求項3又は請求項4に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項8】
上記クランクシャフトが、上記クランクケースから少なくともその一部が突出しており、
上記測定データの上記収集部への収集を中継する中継部をさらに備え、
上記複数の測定部が、上記スロー部に配置され、
上記中継部が、上記クランクシャフトの突出端に配置され、
上記測定データが、上記中継部から上記収集部へ無線通信により送信されるよう構成されており、
上記中継部と上記収集部との間が電気的及び機械的に非連続である請求項3に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項9】
上記測定部が、上記スロー部の配設位置における加速度を測定する加速度センサ及び角速度を測定するジャイロセンサを含む請求項7又は請求項8に記載のクランクシャフト位相測定装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のクランクシャフト位相測定装置を用いるクランクシャフト位相測定方法であって、
各スロー部の位相を測定する測定工程と、
上記測定工程で測定した測定データを収集する収集工程と、
上記収集工程で収集した測定データを解析する解析工程と
を備え、
上記解析工程で、各スロー部の測定データから、そのスロー部の位相を独立して決定するクランクシャフト位相測定方法。
【請求項11】
請求項10に記載のクランクシャフト位相測定方法が用いてクランクシャフトの位相を測定する位相測定工程と、
上記位相測定工程の測定結果に基づいて上記クランクシャフトを駆動するエンジンへの燃料噴射タイミングを制御する制御工程と
を備え、
上記制御工程のタイミング制御が、各スロー部の位相解析結果に基づいて、スロー部ごとに独立して行われる内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフト位相測定装置、クランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶等の内燃機関(エンジン)は、複数のピストンが吸気、圧縮、爆発、排気を繰り返して運動しており、圧縮及び爆発により発生した上下方向の力を、クランクシャフトの複数のスロー部へ伝えて回転運動に変換している。スロー部は、クランクシャフトの回転中心軸からオフセットして配置されており、ピストンへ燃料噴射する際のスロー部の回転角度(クランクシャフトの位相)により燃費が変動する。このため、燃料噴射タイミングは、例えば1度以下の誤差での制御が求められている。
【0003】
燃料噴射タイミングを制御するためには、クランクシャフトの位相を測定することが必要となる。このクランクシャフト位相測定方法としては、クランクシャフト外に同軸上に設置され、クランクシャフトと同期して回転するクランクシャフトタイミングローター(歯車)を利用したものが公知である(例えば特開2018-123735号公報参照)。
【0004】
この公知のクランクシャフト位相測定方法では、ローターの歯車中に目印となる信号歯を設け、この信号歯の位置を検出することでクランクシャフトの位相を知る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記クランクシャフト位相測定方法では、実際に測定しているものはローターの位相である。このため、このローターの位相を、これに直結しているクランクシャフトの位相とみなし、クランクシャフトの構造から各スロー部の位相を求めることとなる。
【0007】
しかし、現実にはクランクシャフトのねじり振動や加工誤差の影響によりローターの位相から求められる各スロー部の位相には誤差が生じる。このため、燃費向上のためには、さらに誤差の少ないクランクシャフト位相測定方法が求められている。
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、スロー部の位相を精度良く測定できるクランクシャフト位相測定装置、このクランクシャフト位相測定装置を用いたクランクシャフト位相測定方法、及びこのクランクシャフト位相測定方法を用いた内燃機関の制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るクランクシャフト位相測定装置は、複数のスロー部を有するクランクシャフトの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、各スロー部の位相を測定する複数の測定部と、上記複数の測定部で測定した測定データを収集する収集部と、上記収集部で収集した測定データを解析する解析部とを備え、上記スロー部から上記収集部へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、上記収集部が、上記クランクシャフトと同期して回転しないように、上記クランクシャフトから離れて固定されている。
【0010】
当該クランクシャフト位相測定装置は、回転するスロー部の位相を直接測定する測定部を備えるので、各スロー部単位の測定結果に基づいてスロー部の位相を求めることができる。このため、クランクシャフトのねじり振動や加工誤差の影響を加味してスロー部の位相が測定できるので、当該クランクシャフト位相測定装置は、スロー部の位相を精度良く測定できる。また、当該クランクシャフト位相測定装置は、スロー部から収集部へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、収集部がクランクシャフトと同期して回転しないようにクランクシャフトから離れて固定されている。このため、収集部で収集した測定データを容易に取り出して活用できるので、内燃機関の燃料噴射タイミング制御に好適に用いることができる。
【0011】
上記複数のスロー部が、中空のクランクケース内に収められており、上記複数の測定部が、上記クランクケース内に配置されているとよい。このように上記複数の測定部を上記クランクケース内に配置することで、スロー部と測定部との間に測定を干渉するものをなくすことができるので、スロー部の位相の測定精度を高められる。
【0012】
上記収集部が、上記クランクケース外に配置されているとよい。このように上記収集部を上記クランクケース外に配置することで、収集部で収集した測定データをさらに容易に活用できる。
【0013】
上記収集部が、上記クランクケース内に配置されているとよい。このように上記収集部を、上記クランクシャフトと同期して回転しない上記クランクケース内に配置することで、上記クランクケース内に配置されている上記複数の測定部からの測定データを収集し易くすることができる。
【0014】
上記複数の測定部が、上記クランクケースの内面に配置されており、上記測定部と上記スロー部との間が電気的及び機械的に非連続であるとよい。この構成においては、複数の測定部はクランクシャフトと同期して回転せず、スロー部の回転を非接触で検知する。従って、測定部と収集部との間を電気的な接触である信号線によって接続できるので、当該クランクシャフト位相測定装置を構成し易い。
【0015】
上記測定部が、上記スロー部の位相を特定する近接センサを含むとよい。上記測定部で近接センサを用いることで、スロー部の位相を非接触で容易に検知することができる。
【0016】
上記測定部が、上記スロー部に配置され、上記複数の測定部の測定データが、上記測定部から上記収集部へ無線通信により送信されるよう構成されており、上記測定部と上記収集部との間が電気的及び機械的に非連続であるとよい。この構成においては、複数の測定部はクランクシャフトと同期して回転しつつ、スロー部の回転を検知するので、スロー部の位相を連続的に測定可能である。また、測定データの送信に無線通信を用いるので、クランクシャフトと同期して回転する測定部と、同期して回転しない収集部との間に複雑な接続構成を必要としない。
【0017】
上記クランクシャフトが、上記クランクケースから少なくともその一部が突出しており、上記測定データの上記収集部への収集を中継する中継部をさらに備え、上記複数の測定部が、上記スロー部に配置され、上記中継部が、上記クランクシャフトの突出端に配置され、上記測定データが、上記中継部から上記収集部へ無線通信により送信されるよう構成されており、上記中継部と上記収集部との間が電気的及び機械的に非連続であるとよい。この構成においては、複数の測定部はクランクシャフトと同期して回転しつつ、スロー部の回転を検知するので、スロー部の位相を連続的に測定可能である。また、中継部はクランクシャフトと同期して回転するので、測定部と中継部との間を有線接続可能であり、複数の測定部の測定データを確実に中継できる。さらに、中継部はクランクケースから突出するクランクシャフトの突出端に配置されているので、クランクケース外に配置されている収集部との無線通信においてクランクケースが障害物となり難い。従って、上記収集部が、上記複数の測定部で測定した測定データを安定して収集することができる。
【0018】
上記測定部が、上記スロー部の配設位置における加速度を測定する加速度センサ及び角速度を測定するジャイロセンサを含むとよい。上記測定部で加速度センサ及びジャイロセンサを用いることで、スロー部の位相を全方位について容易に検知することができる。
【0019】
本発明の別の一実施形態に係るクランクシャフト位相測定方法は、本発明のクランクシャフト位相測定装置を用いるクランクシャフト位相測定方法であって、各スロー部の位相を測定する測定工程と、上記測定工程で測定した測定データを収集する収集工程と、上記収集工程で収集した測定データを解析する解析工程とを備え、上記解析工程で、各スロー部の測定データから、そのスロー部の位相を独立して決定する。
【0020】
当該クランクシャフト位相測定方法は、本発明のクランクシャフト位相測定装置を用い、各スロー部単位の測定結果に基づいてスロー部の位相を独立して求める。従って、当該クランクシャフト位相測定方法を用いることで、クランクシャフトのねじり振動や加工誤差の影響を加味したスロー部の位相が測定されるので、スロー部の位相を精度良く測定できる。
【0021】
本発明のさらに別の一実施形態に係る内燃機関の制御方法は、本発明のクランクシャフト位相測定方法を用いてクランクシャフトの位相を測定する位相測定工程と、上記位相測定工程の測定結果に基づいて上記クランクシャフトを駆動するエンジンへの燃料噴射タイミングを制御する制御工程とを備え、上記制御工程のタイミング制御が、各スロー部の位相解析結果に基づいて、スロー部ごとに独立して行われる。
【0022】
当該内燃機関の制御方法は、本発明のクランクシャフト位相測定方法を用いて測定されたクランクシャフトのねじり振動や加工誤差の影響を加味したスロー部の位相に基づいてスロー部ごとに独立して燃料噴射タイミングを制御する。従って、当該内燃機関の制御方法を用いることで、内燃機関の燃費を向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のクランクシャフト位相測定装置及びクランクシャフト位相測定方法は、スロー部の位相を精度良く測定できる。また、本発明の内燃機関の制御方法は、本発明のクランクシャフト位相測定方法を用いており、内燃機関の燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置の模式的構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るクランクシャフト位相測定方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、
図2の解析工程において1つのスロー部の位相解析方法例を説明する説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の制御方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、
図4の制御工程において燃料噴射タイミング例を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、
図1とは異なる実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置の模式的構成図である。
【
図7】
図7は、
図1及び
図6とは異なる実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置の模式的構成図である。
【
図8】
図8は、
図1、
図6及び
図7とは異なる実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置の模式的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置、クランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法について説明する。
【0026】
〔クランクシャフト位相測定装置〕
図1に示すクランクシャフト位相測定装置1は、クランクシャフトXの位相を測定する装置であり、測定部10と、収集部20と、解析部30とを備える。
【0027】
<クランクシャフト>
クランクシャフトXは、回転中心軸を構成するシャフトX1と、複数のスロー部X2とを有する。
【0028】
シャフトX1は、
図1に示すように、クランクケースYから少なくともその一部が突出している。つまり、クランクシャフトXは、クランクケースYから少なくともその一部が突出している。
【0029】
複数のスロー部X2は、回転中心軸からオフセットして配置されている。具体的には、スロー部X2は、回転中心軸に配置される一対のクランクアームと、この一対のクランクアーム間に接続され、回転中心軸と平行に配置されるクランクピンとを有し、上記クランクピンがオフセット位置にある。また、上記クランクピンには、コンロッドが取り付けられ(不図示)、ピストンにつながっている。
図1には、5つのスロー部X2を有する場合を例示しているが、スロー部X2の数は5つに限定されるものではない。
【0030】
また、複数のスロー部X2は、中空のクランクケースY内に収められている。つまり、スロー部X2は、クランクケースYの内面と間隔を空けて配置されている。
【0031】
<測定部>
複数の測定部10は、各スロー部X2の位相を測定する。測定部10は、各スロー部X2に一対一で設けられており、測定部10の数は、スロー部X2の数と一致する。
【0032】
複数の測定部10は、クランクケースY内に配置されている。このように複数の測定部10をクランクケースY内に配置することで、スロー部X2と測定部10との間に測定を干渉するものをなくすことができるので、スロー部X2の位相の測定精度を高められる。
【0033】
当該クランクシャフト位相測定装置1では、複数の測定部10は、クランクケースYの内面に配置されており、測定部10とスロー部X2との間が電気的及び機械的に非連続である。つまり、スロー部X2から収集部20へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在している。
【0034】
具体的には、測定部10は、スロー部X2と離間して配置されており、スロー部X2の回転を非接触で検知する。また、この構成においては、複数の測定部10はクランクシャフトXと同期して回転しない。従って、測定部10、収集部20及び解析部30をいずれも回転しない構成とすることができるので、当該クランクシャフト位相測定装置1を構成し易い。
【0035】
スロー部X2の回転を非接触で検知する手段として、例えば近接センサを用いることができる。つまり、測定部10は、スロー部X2の位相を特定する近接センサを含む。スロー部X2は、回転中心軸からオフセットして配置されているので、スロー部X2の位相によって測定部10とスロー部X2との距離が変化する。このため、
図1に示すように、測定部10が、近接センサでスロー部X2の1点(
図1の矢印の先端部分)を観測していると、近接点X2Aでスロー部X2との距離が最短となる。測定部10は、例えばこの近接点X2Aの通過タイミングを特定可能であり、近接点X2Aを起点にスロー部X2の位相を特定することができる。
【0036】
当該クランクシャフト位相測定装置1では、クランクケースYの内面に配置される測定部10と、クランクケースYの外に配置される収集部20(詳細は後述)との間は、それぞれ電気的な接触である信号線によって接続されている。この場合、クランクケースYが金属であっても、測定部10で測定した測定データを収集部20へ送ることができる。
【0037】
<収集部>
収集部20は、複数の測定部10で測定した測定データを収集する。収集部20は、クランクシャフトXと同期して回転しないように、クランクシャフトXから離れて固定されている。
【0038】
当該クランクシャフト位相測定装置1では、収集部20は、クランクケースY外に配置されている。このように収集部20をクランクケースY外に配置すると、収集部20にアクセスし易くなるため、収集部20で収集した測定データを容易に活用できる。
【0039】
<解析部>
解析部30は、収集部20で収集した測定データを解析する。解析部30での解析により、各スロー部X2の測定データから、そのスロー部X2の位相を決定する。
【0040】
解析部30は、収集部20と同様にクランクシャフトXと同期して回転しないように、クランクシャフトXから離れて固定されている。解析部30は、例えばCPU等の演算装置及び表示装置などで構成することができる。スロー部X2の位相の決定方法については、クランクシャフト位相測定方法の説明で後述する。
【0041】
解析されたスロー部X2の位相は、上記表示装置に表示してもよい。また、解析されたスロー部X2の位相は、例えばクランクシャフトXを駆動するエンジンへの燃料噴射タイミングを制御する制御部(不図示)へリアルタイムに伝送される。なお、「リアルタイムに伝送する」とは、所定の間隔をおいて伝送作業を行う場合を含み、上記所定の間隔は、0.2m秒以下、好ましくは0.1m秒以下とされる。
【0042】
<利点>
当該クランクシャフト位相測定装置1は、回転するスロー部X2の位相を直接測定する測定部10を備えるので、各スロー部X2単位の測定結果に基づいてスロー部X2の位相を求めることができる。このため、クランクシャフトXのねじり振動や加工誤差の影響を加味してスロー部X2の位相が測定できるので、当該クランクシャフト位相測定装置1は、スロー部X2の位相を精度良く測定できる。また、当該クランクシャフト位相測定装置1は、スロー部X2から収集部20へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、収集部20がクランクシャフトXと同期して回転しないようにクランクシャフトXから離れて固定されている。このため、収集部20で収集した測定データを容易に取り出して活用できるので、内燃機関の燃料噴射タイミング制御に好適に用いることができる。
【0043】
〔クランクシャフト位相測定方法〕
図2に示すクランクシャフト位相測定方法は、
図1に示すクランクシャフト位相測定装置1を用いる。当該クランクシャフト位相測定方法は、測定工程S11と、収集工程S12と、解析工程S13とを備える。
【0044】
<測定工程>
測定工程S11では、各スロー部X2の位相を測定する。この工程は、測定部10を用いて行われる。
【0045】
当該クランクシャフト位相測定装置1では、測定部10で近接センサを用いているので、スロー部X2の近接点X2Aが最も測定部10に近づいたタイミングが分かる。このタイミングを位相の起点(0°)とすると、
図3に丸印で示すように、位相0°の位置が断続的に抽出される。
【0046】
<収集工程>
収集工程S12では、測定工程S11で測定した測定データを収集する。この工程は、収集部20を用いて行われる。
【0047】
当該クランクシャフト位相測定装置1では、複数の測定部10と収集部20との間が、それぞれ電気的な接触である信号線によって接続されている。収集部20は、この信号線を介して複数の測定部10で測定した測定データを収集することができる。
【0048】
<解析工程>
解析工程S13では、収集工程S12で収集した測定データを解析する。この工程は、解析部30を用いて行われる。
【0049】
具体的には、以下の手順による。クランクシャフトXが等角速度運動をしていると仮定すると、解析部30は、測定データ(
図3の丸印)をもとに、
図3の実線のようにスロー部X2の位相を推定することができる。
【0050】
この解析工程S13では、各スロー部X2の測定データから、そのスロー部X2の位相を独立して決定する。各スロー部X2の位相を独立して決定することで、他のスロー部X2の測定結果に重畳しているクランクシャフトXのねじり振動や加工誤差からの影響を最小化できる。
【0051】
<利点>
当該クランクシャフト位相測定方法は、本発明のクランクシャフト位相測定装置1を用い、各スロー部X2単位の測定結果に基づいてスロー部X2の位相を独立して求める。従って、当該クランクシャフト位相測定方法を用いることで、クランクシャフトXのねじり振動や加工誤差の影響を加味したスロー部X2の位相が測定されるので、スロー部X2の位相を精度良く測定できる。
【0052】
〔内燃機関の制御方法〕
図4に示す内燃機関の制御方法は、位相測定工程S1と、制御工程S2とを備える。
【0053】
<位相測定工程>
位相測定工程S1では、クランクシャフトXの位相を測定する。この位相測定工程S1は、上述した本発明のクランクシャフト位相測定方法が用いられ、
図5に示すように、各スロー部X2の位相を独立して決定する。なお、
図5では、
図1に示すクランクシャフト位相測定装置1に合わせてスロー部X2が5つである場合を図示しているが、スロー部X2の数が5つに限定されるものではない。
【0054】
<制御工程>
制御工程S2では、位相測定工程S1の測定結果に基づいてクランクシャフトXを駆動するエンジンへの燃料噴射タイミングを制御する。
【0055】
この制御工程S2のタイミング制御が、各スロー部X2の位相解析結果に基づいて、スロー部X2ごとに独立して行われる。具体的には、
図5に示すように、燃料噴射の最適位相ψに、各スロー部X2の位相が一致するタイミングt1からt5で各スロー部X2に燃料噴射が行われる。
【0056】
<利点>
当該内燃機関の制御方法は、本発明のクランクシャフト位相測定方法を用いて測定されたクランクシャフトXのねじり振動や加工誤差の影響を加味したスロー部X2の位相に基づいてスロー部X2ごとに独立して燃料噴射タイミングを制御する。従って、当該内燃機関の制御方法を用いることで、内燃機関の燃費を向上することができる。
【0057】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置及びクランクシャフト位相測定方法について説明する。なお、第2実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置とクランクシャフト位相測定方法とを用いた内燃機関の制御方法は、第1実施形態の内燃機関の制御方法と同様であるので詳細説明を省略する。
【0058】
〔クランクシャフト位相測定装置〕
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2は、複数のスロー部X2を有するクランクシャフトXの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、各スロー部X2の位相を測定する複数の測定部12と、複数の測定部12で測定した測定データを収集する収集部20と、収集部20で収集した測定データを解析する解析部30とを備え、スロー部X2から収集部20へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、収集部20が、クランクシャフトXと同期して回転しないように、クランクシャフトXから離れて固定されている。
【0059】
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2は、測定部12以外の構成については、
図1に示すクランクシャフト位相測定装置1と同様であるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0060】
<測定部>
当該クランクシャフト位相測定装置2では、複数の測定部12は、クランクケースY内に配置されている。具体的には、測定部12は、スロー部X2に配置され、複数の測定部12の測定データが、測定部12から収集部20へ無線通信により送信されるよう構成されており、測定部12と収集部20との間が電気的及び機械的に非連続である。
【0061】
スロー部X2に配置され、スロー部X2の位相を測定する手段として、例えば加速度センサ及びジャイロセンサを組み合わせて用いることができる。つまり測定部12は、スロー部X2の配設位置における加速度を測定する加速度センサ及び角速度を測定するジャイロセンサを含む。加速度センサ及びジャイロセンサは、その出力を連立して解析することで、その傾きや位置を特定することが可能である。従って、測定部12で加速度センサ及びジャイロセンサを用いることで、スロー部X2の位相を全方位について容易に検知することができる。
【0062】
測定部12の配設位置としては、スロー部X2のクランクシャフトXの回転軸からの最遠点であることが好ましい。この最遠点が、加速度の変化が最大となるため、スロー部X2の位相の検出精度を高め易い。また、測定部12は、検出精度の観点から、スロー部X2のクランクピンに取り付けられているコンロッドの側面に配設されることが好ましい。あるいは、測定部12は、クランクピンのバックチャンファ部に配設されてもよい。
【0063】
上記無線通信としては、WiFi、BlueTooth等公知のワイヤレスインターフェイスを用いることができる。
【0064】
また、当該クランクシャフト位相測定装置2では、クランクケースYの内外で無線通信を行うので、無線通信可能なクランクケースYの材質を選択する必要がある。具体的には電位固定された金属等の使用は避ける必要がある。
【0065】
<利点>
当該クランクシャフト位相測定装置2においては、複数の測定部12はクランクシャフトXと同期して回転しつつ、スロー部X2の回転を検知するので、スロー部X2の位相を連続的に測定可能である。また、測定データの送信に無線通信を用いるので、クランクシャフトXと同期して回転する測定部12と、同期して回転しない収集部20との間に複雑な接続構成を必要としない。
【0066】
〔クランクシャフト位相測定方法〕
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2を用いるクランクシャフト位相測定方法は、
図2に示すように、各スロー部X2の位相を測定する測定工程S11と、測定工程S11で測定した測定データを収集する収集工程S12と、収集工程S12で収集した測定データを解析する解析工程S13とを備え、解析工程S13で、各スロー部X2の測定データから、そのスロー部X2の位相を独立して決定する。
【0067】
当該クランクシャフト位相測定方法では、
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2を用いるので、測定工程S11において、スロー部X2の位相をリアルタイムで連続的に得ることができる。従って、解析工程S13において、測定データをもとに、スロー部X2の位相を推定する必要がない。
【0068】
上述の点を除き、当該クランクシャフト位相測定方法は、第1実施形態に係るクランクシャフト位相測定方法と同様であるので、他の説明を省略する。
【0069】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置について説明する。なお、第3実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置を用いたクランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法は、第2実施形態のクランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法とそれぞれ同様であるので詳細説明を省略する。
【0070】
〔クランクシャフト位相測定装置〕
図7に示すクランクシャフト位相測定装置3は、複数のスロー部X2を有するクランクシャフトXの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、各スロー部X2の位相を測定する複数の測定部12と、複数の測定部12で測定した測定データを収集する収集部23と、収集部23で収集した測定データを解析する解析部30とを備え、スロー部X2から収集部23へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、収集部23が、クランクシャフトXと同期して回転しないように、クランクシャフトXから離れて固定されている。
【0071】
図7に示すクランクシャフト位相測定装置3は、収集部23以外の構成については、
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2と同様であるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0072】
<収集部>
当該クランクシャフト位相測定装置3では、収集部23は、クランクケースY内に配置されている。収集部23は、クランクケースY内の梁やリブ等に配置することもできるが、測定部10との無線通信の容易性からクランクケースYの内面に配置されることが好ましい。
【0073】
上述の点を除き、収集部23は、第2実施形態に係る収集部20と同様であるので、他の説明を省略する。
【0074】
なお、当該クランクシャフト位相測定装置3では、無線通信がクランクケースY内に限られるので、クランクケースYの材質は問われず、例えば金属を用いてもよい。
【0075】
<利点>
当該クランクシャフト位相測定装置3においては、収集部23をクランクシャフトXと同期して回転しないクランクケースY内に配置することで、クランクケースY内に配置されている複数の測定部12からの測定データを収集し易くすることができる。
【0076】
[第4実施形態]
以下、本発明の第4実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置について説明する。なお、第4実施形態に係るクランクシャフト位相測定装置を用いたクランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法は、第2実施形態のクランクシャフト位相測定方法及び内燃機関の制御方法とそれぞれ同様であるので詳細説明を省略する。
【0077】
図8に示すクランクシャフト位相測定装置4は、複数のスロー部X2を有するクランクシャフトXの位相を測定するクランクシャフト位相測定装置であって、各スロー部X2の位相を測定する複数の測定部14と、複数の測定部14で測定した測定データを収集する収集部20と、収集部20で収集した測定データを解析する解析部30とを備え、スロー部X2から収集部20へ至る測定径路の一部に、電気的及び機械的に非連続な部分が存在しており、収集部20が、クランクシャフトXと同期して回転しないように、クランクシャフトXから離れて固定されている。また、当該クランクシャフト位相測定装置4は、上記測定データの収集部20への収集を中継する中継部40をさらに備える。
【0078】
図8に示すクランクシャフト位相測定装置4の収集部20及び解析部30は、
図6に示すクランクシャフト位相測定装置2と同様であるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0079】
<測定部>
複数の測定部14は、スロー部X2に配置されている。複数の測定部14と中継部40との間は、無線通信とすることもできるが、電気的な接触である信号線によって接続されていることが好ましい。このように信号線で接続することで、安定して測定データを送信できる。また、複数の測定部14及び後述する中継部40はともにクランクシャフトXに同期して回転するので、容易に信号線で接続することができる。
【0080】
上述の点を除き、測定部14は、第2実施形態に係る測定部12と同様であるので、他の説明を省略する。
【0081】
<中継部>
中継部40は、シャフトX1の突出端に配置されている。つまり、中継部40は、クランクシャフトXに同期して回転する。
【0082】
中継部40は、複数の測定部14からの測定データを受信し、その測定データをそのまま収集部20へ送信する。上記測定データは、中継部40から収集部20へ無線通信により送信される。つまり、当該クランクシャフト位相測定装置4では、スロー部X2から収集部20へ至る測定径路のうち、中継部40と収集部20との間が電気的及び機械的に非連続である。
【0083】
中継部40と収集部20との間の無線通信としては、第2実施形態で説明した無線通信と同様のものを用いることができる。
【0084】
なお、当該クランクシャフト位相測定装置4では、無線通信がクランクケースY外に限られるので、クランクケースYの材質は問われず、例えば金属を用いてもよい。
【0085】
<利点>
当該クランクシャフト位相測定装置4においては、複数の測定部14はクランクシャフトXと同期して回転しつつ、スロー部X2の回転を検知するので、スロー部X2の位相を連続的に測定可能である。また、中継部40はクランクシャフトXと同期して回転するので、測定部14と中継部40との間を有線接続可能であり、複数の測定部14の測定データを確実に中継できる。さらに、中継部40はクランクケースYから突出するクランクシャフトXの突出端に配置されているので、クランクケースY外に配置されている収集部20との無線通信においてクランクケースYが障害物となり難い。従って、収集部20が、複数の測定部14で測定した測定データを安定して収集することができる。
【0086】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0087】
上記実施形態では、測定部が各スロー部に一対一で設けられており、測定部の数がスロー部の数と一致する場合を説明したが、両者は必ずしも同数でなくともよい。例えば1つのスロー部に対して複数の測定部が設けられていてもよい。例えばディーゼルエンジンでは、燃料噴射が複数段階に分かれている場合がある。1つのスロー部に対して複数の測定部が設けられていると、このような燃料噴射が複数段階に分かれているエンジンに対して、それぞれの段階に対応する測定部を設けることができる。従って、各段階に対して最適なタイミング情報を与えることが可能となる。
【0088】
上記第1実施形態では、測定部と収集部との間が、それぞれ電気的な接触である信号線によって接続されている場合を説明したが、例えばクランクケースの外面に中継部を設け、測定部で測定した測定データが、上記中継部から上記収集部へ無線通信により送信される構成とすることもできる。
【0089】
上記第1実施形態乃至第3実施形態では、クランクシャフトの少なくとも一部がクランクケースから突出している構成を説明したが、クランクシャフト全体がクランクケース内に収められていてもよい。
【0090】
上記実施形態では、クランクシャフト位相測定方法として、解析工程で各スロー部の測定データからそのスロー部の位相を独立して決定する方法を説明したが、この解析は、複数のスロー部の相関を考慮して行うこともできる。この場合、複数のスロー部の相関を考慮することで、クランクシャフト自体のねじれや、加工誤差を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のクランクシャフト位相測定装置及びクランクシャフト位相測定方法は、スロー部の位相を精度良く測定できる。また、本発明の内燃機関の制御方法は、本発明のクランクシャフト位相測定方法を用いており、内燃機関の燃費を向上することができる。
【符号の説明】
【0092】
1、2、3、4 クランクシャフト位相測定装置
10、12、14 測定部
20、23 収集部
30 解析部
40 中継部
X クランクシャフト
X1 シャフト
X2 スロー部
X2A 近接点
Y クランクケース